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ボーマン・ボーマン・6-時には乙女のようにー

「ひさしぶり!!」

って、なんだか、よく、きやがる。

ボーマンは調剤の手をやすめて、声の主をまじまじと見つめた。

『なんだよ・・いい女じゃないか・・?久しぶりって、俺、こんなべっぴん・・

誰だか・・・思い出せない・・・・』

ボーマンたるものが、こんな初歩的な記憶ミッシングなぞ、ありえるわけが無い。

女、いや、べっぴんの顔をみつめたのは、ボーマンの記憶の中の「特徴」と相似形のものがないか・・だったが。

「あ?・・おまえ~~~~~~!!」

大学で一緒だった。がりがりで、ひっつめ髪で・・めがねかけてて、色気もなければ、笑顔も無い。そいつだ!!

べっぴんと一言で表現するが、べっぴんにもいろいろある。

文字通り容姿端麗ってのは、わかりやすいが、顔だけ見りゃそうでもないのに、な~~んか、ぐっと来るものがあって、美人に見える。

いわゆる、雰囲気美人ってのもあるわけだ。

ところが、こいつ、外見はまあ、十人並だったが、もっている雰囲気が悪すぎた。

自分でも「どうせ、私はブスです」って、いじけてたんだろう。

たとえ、どんなブスであろうとも、一生懸命かわいくなろうとしていると、

なんというか、いじらしくて、可愛く見えてくる。

ところが、こいつは、どうせブスですよのレッテルを大看板にすりかえて、

ひらきなおっているように見えた。

男ってのは、馬鹿だから、「貴方の事が気になるの。ふりむいてほしいから、少しでもきれいに成りたい」ってのを、女心だ。これは、俺への秋波だと、受け止めたがるものなのだが、

こいつは、「はん?あんたなんかのためにきれいになりたくもない。だいいち、あんたなんか、男として、魅力ない」ってな風に、気にも、とめられないどころか、鼻も引っ掛ける気になってもらえない。と、思わせるような開き直りに見えた。

そうなりゃあ、まず、雰囲気がブス。

ブスであっても、雰囲気で美人にみえるってことの逆現象が生じることに成る。

そこそこの顔立ちをしてるようだけど、・・・ブスに見える。

タブン、自分の態度に気がつかず、ブスだと想われてるなら、もうどうでもいいやと開き直ってしまう悪循環にはまったんだろう。


だが、目も前にいる、こいつは、まじまじとみつめなおし、すかしなおし、しげしげ見つめ・・・を、くりかえさなきゃ、あのブスの大学生だった女がでてこないほど、変貌、豹変?変身?をとげて、

そりゃ~もう、きれいで、自分でも「美人」であるということを、良い意味で自信をいや、自覚というべきか。を、もっている。

自覚を持った女は、常に前向きで、自分に磨きをかける。

「いや~~~。驚いたぜ、ジェニファーだったよな」

「これだもんね。相変わらず、やさしいというか、名前も覚えてないじゃ、女性に失礼になるものね。紳士だよね。でも、残念ながら私はジェニファーじゃなくてよ」

「あん?」

目の前の美人はタイトなワンピースをきて、すらりとした足をおしげなくさらしていたが、スタイルだって、昔のこいつじゃない。

「誰だっけ?」

ボーマンのポリシーをずばりといいあてられてしまったら、もう、素直に名前を聞いたほうが早い。

と、ボーマンはそう想った。


「すまねえ。誰だっけ?」

「キャサリン・ヘイワード・・・キャッシーだよなって、、陰口たたかれてたでしょう?

キャッシングでどうぞと見せたって、見る気にもなれない。そういういみだったかしら?」

「あ、ああ」

確かに思い出した。

キャッシング・キャッシーだ。

だが、その影のあだ名を知っていたってことのほうがボーマンを驚かせていた。

そして、ボーマンの胸にふと、よぎる思い。

「で、おまえは、そうやって、中傷していた人間の鼻をへしおってやろうって

変身したってことかい?

で、まず、てはじめに俺の鼻をつぶそうって算段かな?」

美女はいとも簡単にボーマンの出鼻をくじく微笑でうけながすと

「あら?私は貴男のことをそんな風におもってなんかいなくてよ。

むしろ、アンチ・ボーマン派だったというべきかしら」

アンチ・ボーマン?

なんだよ、それ?

ボーマンの疑問符が美女には見えたらしい。

「私貴男が好きだったってことね。

だから、あなた好みだから、ふりむかれる。

って、ことに我慢できなかったの。

全然とるところもないのに、気にしてもらえるってことのほうが

本当らしくて、

言い出せば嫌いだって思われたって、それが真実なら

そのほうがいいってことよね」

キャッシーのいう事は判らないでもないが、ボーマンの胸はさらに痛む。

『つまり、なんだ。俺のせいで、こいつは、ブスのキャッシーになってたって事かよ?』

青春ピチピチの一個の女性をブスにしたてあげた元凶が俺?

とは、いうものの、目の前のキャッシーはもうブスのキャッシーじゃないわけで、

それは、つまり、とりもなおさず、

アンチ・ボーマンでなくなったというわけであり、

「はん?あんたなんかのためにきれいになりたくもない。だいいち、あんたなんか、男として、魅力ない」って、キャッシーじゃなくなったってことであり、

誰かの為に綺麗になったキャッシーってことになる。


『ほう、ほう、ほう・・・なるほど』

と、なると簡単にアンチ・ボーマンであったことをさらしたこと、

ひいては、ここに現れた目的はなにになる?


だいたい、キャッシーがなんで、今頃、こんなところに顔をだすか?


女ってのは、充たされない時ほど、昔の恋を懐かしみやがる。

そんな生き物だ。


つまりだなあ、キャッシーは

ー綺麗にならなきゃ、愛されない今の恋に不満をもってるー

綺麗じゃなくても想われたいと願った純粋な恋心を懐かしいと感じている。


こういうことじゃないのか?


はじめからじんわりキャッシーの左手の薬指にリングの跡さえないのを確かめているボーマンである。


なんだか、ボーマンはセリーヌに似ていると想っている。

(イッツ・オンリー・ユアマインドシリーズ参照)

セリーヌは本当の自分を見せられないとクリスを諦めようとした。

綺麗じゃないままに自分でも愛されたいという思いと

受け止めてもらえるわけがないと逃げ出そうとする心と・・・。


キャッシーの科白がセリーヌの相似形にみえて、

ボーマンはいっそう、キャッシーの薬指にリングの跡さえないのが気になった。


「で?どこのどいつ様があんたをこんなにべっぴんにしちまったんだい?」


女を「綺麗」に、かえちまう方法なんてのは、たったひとつしかない。

どこのどなた様がキャッシーが女でしかないことをおしえてやったか?

その意味がふくまれてることをキャッシーも充分に承知しているのだろう。

「うふふ」

と、妙に鼻にかかった声がでるばかりで、肝心なことには答えようとしない。


だから、いっそう、ボーマンは思い当たってしまう。


ーなんだよ。誰かいえない相手ってことかよー

誰かいえない相手。

恋人ですと公言できない立場といったら、-愛人ーって奴しかなかろう?


ーそうだったな。セリーヌも同じようなことを考えてやがった。

ラ・マンでいい。そんな言葉を漏らしたきがするー


だが、そいつと一緒になれないから、そいつのラ・マンでいいと言ったセリーヌとはちょいと、違う匂いがする。

たとえ、愛人であっても、その恋に満足してるなら、妙なポリシーでブスを貫き通したキャッシーが俺を懐かしんで遭いにきたりはしない。だいいち、俺のことなんか、思い出しもしない。


と、いうことは・・・・?


「お前、そいつとうまくいってないな?」


ボーマンのひょんな言葉におもいのほかキャッシーは狼狽を見せた。


「ち、ちがうわよ。仕事でこっちにしばらく滞在するから、どうしてるかなあ?って・・」


「は~~ん。お相手はその仕事の上司ってわけか・・」


「え?」


違うという言葉をのみこんだまま、キャッシーの瞳に暗い影がさした。

すくなくとも、ボーマンにはそう見えた。


「おまえ、相変わらず嘘がつけない性格だな」


キャッシーの瞳がボーマンをまっすぐみつめなおした。

「私のこと、・・・」

名前さえおもいだせないほどの存在でしかないとボーマンにつきつけられていただけにキャッシーの性格を相変わらずといえるほど、見ていてくれたと知ると

キャッシーの瞳から大粒の涙がこぼれおちはじめた。


「おい、おい、おいいいいいい」

店先で妙齢の美女が大声を上げている図式なんか

だれがみたって、ボーマンのせいにしかみえないだろう。

「あら?」

って、見ろ。

ニーネにまで、きこえちまったじゃないか?

「ボーマン?」

店先にかけつけたニーネの顔が怒っていやしないかと、

ボーマンはニーネをうかがいながら、小声で美女の名前を告げた。

「キャサリンだよ。キャサリン・ヘイワード」

「え?キャシー?」

大学を卒業して以来、あった事が無いキャシーだったけど、ニーネはちゃんとおぼえていた。

なきじゃくるキャシーの傍に寄ると、ニーネに中においでと肩をだきしめた。

「あ・・ニーネ・・あ・・ごめんなさい・・あの・・」

「いいのよ。ここじゃなんだもの、中にはいろう。ゆっくり、きかせて・・」

ニーネの優しい言葉にさえ、すがりたくなる悲しい思いが胸にわきあがってくるのだろう。

キャシーはまだ、大粒の涙をこぼしながら、うなづいていた。


二人が店の奥にはいってしまうと、ボーマンはなんだか、

とんびにあぶらあげをさらわれたような気分になる。


なんだよ?

俺じゃなくても良かったのかよ?

そりゃあ、女同士のほうがしゃべりやすいってのはわかるけど・・。

ニーネが不倫の悩み事なんか、解決できるわけないだろう?

つ~か、ニーネのほうがショックをうけちまうんじゃないか?


いつにまにか、心配する相手がニーネにかわってしまていることにも、頓着なしで、

ボーマンはそっと、聞き耳をたてていた。


「コーヒーでいい?」

ニーネがキャシーにたずねている。

「うん・・う・・あり・・がと・・」

まだ、大声をあげて泣いてしまったあとにくる、「平常心」ではないようで、

キャシーの声が涙に上ずっている。


ま、キャシーもそのうち、俺と同じおもいになるだろう。

と、ボーマンは思っていた。


しばらく、沈黙が続く。

ニーネは自分からあれこれ、詮索するタイプじゃないから、

キャシーが喋りだすのを待っている。


コーヒーものみおえて、キャシーがすこし、おちついてきたのだろう。

とりとめない話がはじまりだした。


「子供は?」

「まだなのよ・・」

「あ・・」

話が途切れてしまう。

これが、ボーマンだったら、キャシーは?って、すぐにききかえすだろうし、

キャシーもそのことから、

「子供どころか結婚もまだ・・」

だって・・・と不倫の悩み事を離すきっかけになる。


ニーネのへたくそといおうか、

察しがつかないしあわせぶりに、ショックなことを聞かせたくないって思わせて

上手にショックな話を聞かないで済む防御術を身につけてるといおうか・・・。


「でも、ボーマンがいるから・・」

ば・・馬鹿が、そんなこといっちゃあ、キャシーがますます自分の不幸をはなせなくなるじゃないかよ。


そんなニーネだから、傷つけたくないって、キャシーに思わせるんだろう事はよいことなんだけど・・・。


聞き耳を立てればたてるほど、堂々巡りの煩悶がボーマンをひっつかんでしまう。


『仕方ねえな』

ボーマンは早仕舞いをきめこむと、調剤室を手早くかたづけて、

二人の間にわりこむことにした。

「俺にも、コーヒーをいれてくれるかな?」

キッチンのむこう、居間のソファーに腰掛けているニーネに声をかけるボーマンだが、そのニーネが座っている場所も問題半分。


コーヒーカップの位置からみても、最初は対面に座ったのだろう。

だけど、今、ニーネはキャシーの横に座っている。

キャシーが涙をみせるもんだから、ニーネは隣に座ってキャシーの手でもにぎってやったか、肩をだいてやったか、

確かにスキンシップってのは、心を癒す事が出来る。

だけど、横にすわるということは、キャシーにとっては

「自分で解決しなきゃ、ニーネに心配させるだけ」という感情を生じさせるだけだ。


一方で対面に座るという事は、まさしく対峙状態になる。

キャシーはできるだけ、客観的に自分のことを対面する相手に伝えなければいけないと考える。

ニーネのしていることはテーブルの上に「キャシーの悩み」をよけることであり、

対面に座るという事は

テーブルの上に「キャッシーの悩み」を検討物件としておくという事になる。


こういうちょっとした人間心理がわからないというより、

問題点ごとつつみこんでしまうニーネの優しさというべきかもしれない。


ボーマンは今までも独自な解決法でみんなの迷いに当たってきていたけど、

ヤッパリ、問題からの悲しみをいやすより、

時に悲しみより辛い場合だってあるだろうけど、

問題点はきっちし、修繕すべきだと考えている。


コーヒーを立てに行くニーネにボーマンはかすかに首をふった。

察しのよいニーネというべきか、

ボーマンの問題解決の手腕をしんじているというべきか、

ニーネはその意味を悟る。


「まあ、お店かたづけてないで、しめちゃったの?」

とってつけた言い訳をいってみせる。

もちろん、ボーマンもニーネの意図する事がわかっている。


「あ・・ん?すまねえな。ちょっと、かたづけちまってくれよ」

いいながら、ボーマンはキャシーの前に座り込んだ。


やがてコーヒーが目の前に置かれると

ニーネはキャシーにお店をかたづけてくるとつげ、

キャシーもどこか、ほっとした顔をみせていた。


ー見ろ。やっぱ俺じゃなきゃだめだって顔にかいてあらあー


ニーネが店に入っていくのを見届けると

ボーマンが口火をきった。


泣いちまったあとってのは、けっこう、冷静になるもんだし、

醜態を見せた以上、本人ももう、話しませんというわけにはいかない。

ボーマンがいきなり、尋ねても、キャシーはちゃんとこたえることができるだろう。


という、ボーマンの計算ができあがっている。


「で、なんだよ。その上司との仲をなんとかしたいってことかよ?

それとも、きっちり、清算したいってことかよ?」

男と女。

ある一線をこえたら、この先の道はふたつしかない。

別れるか、続けるか。

このどっちを選んでも、それ相当な覚悟が要る。


だけど、別れたら、今度は本当にまともな恋の道をあるけるかもしれない。


ボーマンの言葉にキャシーは少し戸惑った顔をした。

もちろん、ボーマンはその顔をみのがしはしない。


「なんだよ?」

だいたい、不倫をする男なんてものは、実生活では、女房にわがまま勝手をぶつけてるもんだから、恋人には必要以上に優しくできるもんだ。

いわば、女房がいるからこそ、極上の恋人を演じられるんだけど

ここを不倫相手の女は気がつかない。

理想的な優しさと、経験を経た性技とムード。

こんなものに、とりこになってるのが、実は虚像でしかないと気がついたか?

結局、女房の手のひらの中にいる男でしかないし、キャシーも然りってことに気がついたか?

それとも、やっぱり、虜の道をえらぶか・・・?


とことが、キャッシーの口から出た言葉はボーマンの予想を見事に裏切った。


「あの、不倫って、わけじゃないのよ」


不倫じゃなけりゃ、なんで、さっさと一緒になっちまわねんだよ?

まあ、ぎゃくでもいいや。

なんで、さっさと、別れちまわねんだよ?


「だけど・・やっぱり、不倫だわ」


な?なんだよ?それ?


「わけがわかんねえな。ちゃんときかせてくれよ」


うん、とうなづいた後キャッシーは大きく息を吸い込んで

吐く息をためいきにかえた。


「彼、奥さまがいたのはいたのよ。

でも、ず~~と、病気で病院にいたの。

私と知り合った時も、もう、5年以上入院されていて・・」


はあ~~ん、で、寂しい男に同情して、深みにおちちまったってとこか・・。


「私は一緒になりたいとか、そんなつもりでなくて、

彼を尊敬していて、こんな私でも支える事が出来ないかと思って・・」


で、一番、彼がささえてほしい部分を提供しちまった・・と。

まじ、転落の縮図じゃねえかよ。

ましてや、尊敬だと?尊敬するにたりる人間がひとりの女性をそんな風に

自分の寂しさを紛らわす道具にするかよ?


「それで、ずううと、もう、7年たつかなあ。

そんな状態で、彼とつきあってきていたわけだけど、

昨年、奥さまが亡くなったの・・」


はあ?

で?

それで、涙つ~ことは、相変わらず、影の女ってことに

嘆いてるってことかい?


「彼は喪が明けたら、私と一緒になろうって、プロポーズしてくれたのよ」


は?

前言撤回かな。

ちゃんと、責任とるというか、まあ、誠意ある人間ではあるらしいな。

で、あるのに、涙?

結婚したって、結局、寂しさ紛らわす道具の延長線でしかないって、

キャッシーが気がついたってことだろうか?

で、結局、道具みたいな自分になけてくる?

結婚してもいいんだろうか?

やめたほうがいい?

でも、気持ちの整理がつかない?


ぐちゃぐちゃとキャッシーの気持ちを推し量ってるボーマンでしかない。

肝心な事がみえない。

問題はキャッシーの気持ちってことだろう。

そこを話してくれなきゃ・・・

って、思ってるボーマンをキャッシーが覗き込んだ。


「ねえ、ツルゲーネフの初恋って本よんだことある?」


へ?

読んだことはないけど、内容は知ってる。

そんなことをいいだした、キャッシーは何をいいたいんだろう?と、

ボーマンはストーリーをなぞりながら、

キャッシーのなぞかけを考えていた。


で、その話ってのが、どいうことだというとだな。

「それさ、どっかのぼくちんが、年上の幼馴染かなんかを好きになったけど、

そのねえちゃんが、自分の親父とできてたって・・

え?

まさか・・

おまえ?」


上司の女房が5年前から、ねたきりで、そのあと、キャッシーが7年ほどつきあっている?

つまり、その上司の子供が、それなりの年齢になっていて?

「親父とのことを知らずにおまえにのぼせあがった・・・?

いや・・それなら・・」

キャッシーがぴ~ぴ~泣くことじゃないよな?


「ボーマン・・・その逆・・」

キャッシーが一番口にだしたくなかったことらしい。

どうにも、はっきり、いわないが、

やっと、ボーマンにも判った。


「つまり、おまえは、上司の息子とできちまったってことか?」


野卑ないいかたにキャッシーの目がつりあがってきた。


「ちょっと、そんな言い方ないでしょ。彼とはそんな・・こと・・してないわよ」


いつものボーマンなら、そんなことって、どんなことだ?

って、すかさずいいかえすところだが、

ボーマンは胸の中でなるほどと思っていた。


上司のことは、不倫だのど~のこ~のいわれても

顔色ひとつ、言葉つきひとつ、かわらなかった。

だが、息子のことを野卑にいわれたとたん、キャッシーは変わった。

つまり、どっちにまじになってるかといえば、

まちがいなく、息子に対してだ。


「なるほどな・・」


さばさばと上司と別れてしまおうにも、

次のお相手が上司の息子じゃ、こりゃあどうにもならない。

上司と結婚したら、息子の心は悲惨なもんだろうし、

キャッシーも自分の心に嘘はつけない。


「もう、なにもかも、あきらめて、いっそ、彼の知らないところにいこうかとか・・」


この場合の彼は上司のことをいうのか、息子のことを言うのか

二人のことをいうのか?

そんなことよりも、ボーマンは尋ねてみたい事があった。


「で、そのぼっちゃんはおまえのことをどうおもってるんだよ?」


キャッシーの顔がうつむいた。

うつむいた影からぽたり、ぽたりと涙がおちてきていた。

「まじめな人なの。結婚を前提につきあってくださいって・・」


ボーマンにはため息しかでてこない。


「おまえさ・・キャッシング・キャシーはどうしたんだよ?

中身のない恋はしたくないってのがおまえだったんじゃないのかよ?」

いっそう、キャッシーの涙がこみあげてくるんだろう。

両手で、顔を覆うそのうでにまで、涙がつたいおちていた。


「私・・自分がかわいそうだって思ってたんだと思う。

誰にも本気になってもらえないって、そうおもいこんで、

彼が私にやさしくしてくれて、それで、ちょっと、ほめてくれたり

もっと、自信もって、もっと、綺麗にみせるように工夫していいんだよ。

とか、そんな言葉に癒されて、私もきれいになってこれたとおもう。

だから、彼に救われたって・・そんなきがして・・・」

彼を愛しているとおもいはじめたんだろうな。

だけど、それは、自分が愛されていないという寂しさを

彼にみつけただけにすぎない。

病気の奥さんがいて、寂しい彼の中に

寂しい自分をみつけて、その自分をなんとかしてやりたかったんだ。


「結局、同情っていうか、同病相哀れむだったってことか・・」


「うん・・そうなる」


「ふ~~ん。だけどな、俺一言言いたい事がある」


ボーマンの言葉にキャッシーが顔をあげ、涙でぐちゃぐちゃになったまま、

まっすぐボーマンをみつめた。


「あのな。おまえにそれが本物の恋じゃないと気がつかせてくれたのは、

ぼっちゃんだろ?」


「あ・・うん・・そうかもしれない」


「だったらな。お前が選ぶ相手はぼっちゃんのほうしかないわけだ」


キャッシーはボーマンの言葉に何度も首をふるしかなかった。


「できないよ・・そんなこと・・」


キャッシーの気持ちが判らないボーマンじゃない。

こいつもまだまだ、純なとこもってるじゃないかとおもいながら

ふっとボーマンはうすくわらった。

「だな。親父のおふるをおしつけるわけにゃいかないしな」


悲しそうに唇をかんだキャッシーだったけど、

ボーマンの言葉をみとめるしかなかった。

「そのとおりよ」


「ふ~~ん」


ボーマンはその言葉をきくと、急にばからしくなってきた。

だから、そのままキャッシーにつたえることにきめた。


「まあ、おまえの今の気持ちじゃ、どうあがいても、

誰かの愛人をやってるしかないさ。

おまえの思い方ってな。ほどこしてやるって

おえらいきもちしかねえよ」


「え?」


キャッシーにはボーマンがいう言葉の意味がわからない。

「ボーマン?それ、どういうこと?私そんな気持ちこれっぽっちもないわ」


思ったとおりキャッシーはわかっていない。

「おまえが、どっちをえらぶかより、どっちもすてるかよりも、

おまえ自身が履いて捨てるほどいるおえらい聖女とちっともかわらない。

おまえはその聖女きどりをやめることを先にしなきゃならない」


「ボーマン?私のどこが聖女だっていうわけ?

どこが、ほどこしなわけ?

私なんか、不倫でぼろぼろになったただのあばずれじゃない。

それも、かくさずに・・」


ボーマンのまなざしはきつい。

キャッシーはその瞳で、自分が理解していることと

ボーマンがいおうとしていることが違うことだけはきずいた。

だから、口をとざし、ボーマンの言葉をきくことにした。

「まず、お前は自分をろくでもないあばずれだとはみとめてないよ。

口先だけ、そういってる」


ボーマンの言葉はやはり、キャッシーに疑問しか、もたらさない。

だけど、なにかが、違う。

その言葉の表面だけの意味じゃないなにかがある。

キャッシーはそう思っていた。


「おまえが、本当にろくでもないあばずれだったらな、そんなお前を本気で思ってくれる人間をなくしたら、おまえのこの先の人生どうなるとおもう?」


ボーマンの言いたい事がすこし、見えてきた気がする。

「ボーマンのいうとおり、誰かの愛人とか、そんな生き方でおわってしまうとおもう・・」


「だろ?

だったら、お前のすることは必死でそいつについていくことじゃないか?

そいつが知ったら傷つくとか、嫌われるとか、そんなことじゃねえだろ?

お前の人生の生き死にがかかってるんじゃねえのか?

きっかけなんか、なんだっていいんだ。

あとになってな、こいつと一緒になってよかったって、相手におもわせりゃそれでいいんじゃないか?

お前にとって、本当に大事でお前が一生懸命てにいれなきゃいけないことをな、

おまえは、その大事なものをすてようか、どうしようか、

こんなぼろを相手にあげちゃいけないなとか、

だったら、おまえがぼろじゃなくて、高貴なものだったら、

相手にほどこすわけかよ?

ぼろだから、ほどこせないだけでさ?

あげく、おまえがえらそうにすてようか、どうしようか?

おまえのほうがひろってもらうんだよ。

ひろってもらう立場の奴がすてようか、ほどこししようか?

笑わせるなよ」


ボーマンの口からでてくる言葉はそりゃあ、ひどい言い方だと思う。

だけど、キャッシーに相手の本当の価値ってものをかんがえなおさせる一言・・いや・・多弁になったのはまちがいなかった。


「私・・彼を掴んでも良いってこと・・?

でも、なにもかも、黙って・・彼をだましてしまうことになる。

せめて、こんなぼろな女でも、そんなことだけはしたくない・・」

わずか、希望を見出したかと思ったキャッシーだったけど、

相手がセイントであればあるほど、

自分がせめて、そこの部分だけは同じものでありたいとおもったんだろう。

ーけっこう・けっこうー

キャッシーの気持ちもやっぱり、まじなものでしかない。


「あん?

だれが、黙ってろって、いったよ?」


「え?は・・はなせ・・っていうこと?話してしまえって?

そんなこと、できるわけないじゃない」


「な~~んでさ?」


「なんでって、考えなくってもわかることじゃない」


きっと、ボーマンは又、かすかに笑ってるにちがいない。

「わかんねえよ。

わかるように説明してくれねえか?」

「説明って・・?」

そんな事がわからないボーマンのわけがない。

「そうさ、説明してくれよ。

なんで、はなせないのか、俺にはわからないんだよ」

判らない・・・?

ボーマンが判らないのは何故だろう?

なにか、別の考え方があるからだろうか?


「つまり、私が考えてることはどこか、違うってことかしら?」


ボーマンはふふんと鼻をすすると、

すっかり、冷えてしまったコーヒーに口をつけた。

「そうかもしれないな。

だから、おまえの考えをはなしてくれないと

俺の考えもならべてみせることができないってとこだろう」


さすが、頭の回転が速いキャッシーだと思いながら

ボーマンはキャッシーの説明を待った。


「そうね。じゃ、はなしてみる。

まず、彼が私と父親の関係をしったら・・・

彼は父親をにくむ・・。

そして、私と一緒になっても、父親とのことを思い知らされる。

私に対しても・・悲しい思いや怒りをもつ・・

結局、親子も夫婦も破綻していく」


「それだけ?」


ボーマンの返事はそれ。

それだけって?それが一番のネックじゃない?

わざわざ、不幸になるために話す必要はないし、

ましてや、苦しむだけじゃない・・。

苦しめるためだけに話すなんて、身勝手もいいところだわ。


「あのさ、俺がおもうことだけどさ。

そんなこと、黙っていておまえ、本当に幸せになれるか?

さっきいったように、そのすがたってさ、

聖女のふりのおまえじゃんか?

ぼろであばずれの自分をうけとめてくれて

それでも、愛してくれてるってわけじゃねえだろ?

聖女のお前をあいしてるってことにならねえか?

それで、おまえ、ほんとうに、あいされてるっていえるか?

ひろってもらえっていっただろう?

ごみのようなおまえをみせなきゃひろってもらえやしないんだよ。

お前がすくわれないんだよ。

一生、聖女のふりで欺いてる罪悪感と

本当の自分ごとうけとめてもらえない寂しさに泣くことになるんだよ。

そんな生活が本当の愛か?本当の夫婦か?」


ボーマンのいうことはよくわかる。

けど、問題はそんなことじゃない。

彼がどんなに傷つくか・・・。


「まあ、大体おまえの考えてることは察しがつくよ。

だけどな、俺がお前の親父だったらって、かんがえるんだ。

ぼろな娘でもな、それごと、うけとめられねえような男に

おまえをわたしたくねえ。

そして、自分の父親とどうこう?

そんなことで、へこたれるような男にもお前をわたしたくねえ。

それで、親父を恨んだり

お前を憎んだりするような思いしかもてねえ男にも渡したくねえ」


「ボーマン?」


「判るか?お前がぼろだろうが、なんだろうが、

本当にお前が必要で、お前が大事だったらな

父親からでもうばいさるくらいな気持ちがなけりゃ

一緒になっても偽者の感情しかそだたねえんだよ」


「それ?

私に本物をつかみとれってこと?」


「まあ、そういうことさ。

そんなことできずつくよりも、お前と一緒になれることになれたって

喜ぶ奴じゃなきゃ・・。

考えてもみろや。

お前が父親の愛人になってなかったら、お前ら出会うことさえなかったんじゃないか?

考えようによっちゃ、親父さまさまだろうが?

お前だって、まさか運命の人が・・・

あ~~ん、そいついくつだよ?」


「23・・・」


「つ~ことは、お前が最初にそいつにであってたら14歳ってことだろう?

おまえ、そんなジュニアスクールの坊主に恋をするか?

しねえだろ?

だったら、その時点でまじツルゲーネフの初恋みたいに

二人はお釈迦になってたんじゃねえか?

それをお前らが出会って一緒になれるときまで、父親がひきとめてくれてた。

それくらいに考えて、感謝するよ。

それが、本気ってことだよ」


「ボーマン?」


「だからな。うじうじ親父を恨んだり、お前をせめたりするような男だったら、

お前のほうから、ふっちまえ。

おまえな。

本物をつかんでいけよ。

本物をつかみたかったら、自分のぼろいところもなにもかも

みせるしかねえんだよ」


「だけど・・もしも・・」


そうだろうなあ。本物じゃなかったら結局傷をつけてしまうだけって

そこを心配するキャッシーの気持ちもわからないでもない。


「あのなあ・・。どんなことでも、絶対、そいつには必要なことなんだよ。

傷をつけてしまうんじゃなくてな。

偽者の思いしかもてなかった自分をみつめなおすしかねえんだよ。

だから、どっちにころんでも、そいつには必要な試練っていっていいかなあ。

そして、お前だってそこのところ、腹をくくって

自分をぶつけていくわけだろ?

そこを受け止められない人間なら、そいつを選ぶな」


「・・・・・」


「そしてな、おまえを、信じろよ。

お前が心ひかれた人間がそんなぼろかよ?

信じた上で、それでも、もしも、ぼろだったらな・・

お前の心がまちがってたってことだ。

そいつにひかれたおまえがまちがってたってことだ。

いいか?

相手のせいじゃない。

お前はお前のありのままでぶつかれ。

ありのままごとひろってくれるひとか、みきわめろ。


ごみだってな・・拾ってくれる相手を選ぶ権利はあるんだ」


相変わらずひどい言い方だけど

ボーマンの真髄がキャッシーに届いている。

自分へのひけめで自分をぼろ扱いして

逃げ腰になっていたけど、

ひけめじゃなくて、卑屈にならずに

ありのまま。

それで、だめだったら、それでいいじゃないか。


「なにもかも、おまえじゃないか・・

ここはいらない、あそこはいる。

そうじゃないだろ?

なにもかも、うけとめてほしいだろう?」


キャッシーはボーマンの最後の科白に

とうとう、大声でなきだしていた。

そうだ。ボーマンのいうとおり。

こんな私でも、こんなぼろでも

ありのままであいされたい。

それが私の本心。

いつのまにか、弱虫になっていた。

ー愛されたい。愛されたい。彼にこそ本気で愛されたいー

自分の本心に何度もうなづきながら

大きな声をあげて、キャッシーは泣いた。

本当の心をみせてくれたボーマンに感謝しながら・・・。


ボーマンはキャッシーの泣き声をききながら、まだ、考えている。


ーとは、いうものの、ぼうずのほうは、なんとかなるとして、

問題は親父のきもちだよな。

10年近く一緒に居て、結婚まで考えてる。

まあ、キャッシーの心変わりだけなら、自分の年齢もあるだろうから、

あきらめもつこうってなもんだろうけど・・

相手が自分の息子。

う~~~~~~ん。

俺だったら、わりきれねえよな。

どう、考えたら納得できる?ー


ひとえにボーマンの問題解決の手腕ってのは、

「自分だったら、どうだろう」

って、考えるところにあるんだろう。


ー判らねえー


こんな時に頼りになるのは、あいつしかいない。

考え方がでっかいつ~のか、

ある意味、野放図というのか、

とんでもないことを、さらりといってのけるのが、

ステラだ・・・。


だいたい、俺とわかれてから、

俺を待つのに、ソープなんてとんでもないとこに

身をしずめちまうことができる。

心いき、一つで生き通せる女なんだから、

そりゃあ、普通の人間とは違う見方をできる・・・・。


蜘蛛の糸でも、たぐるきもちで

ステラのでっかい胸をかりよう。

ついでといっちゃあ、なんだが、

ここ、しばらく、ご無沙汰してたし・・・


なんだか、違う目的のほうが完璧に遂行しそうだけど、

このさい、そんなことは・・・

どうでも・・いい・・こともないな。

余禄だな。


はてさて、相談事が余禄か、

ランデブーが余禄か

さっぱり、わからないけど、

このさい、ステラに妙案が浮かぶことを祈るしかない。


そして、ボーマンはキャッシーに告げる。


「なあ、捨てる神ありゃ、拾う神あり、って、いうだろう。

とにかく、おまえは、-ひろわれやすい体勢ーに、徹していくしかない。

そこだけ、かんがえてな。

きちんと話してこいや」


ボーマンにかえしたキャッシーの科白もすこぶる、的をえていた。


「私・・ある意味・・ぼろで・・たすかったんだよね?

ぼろだからこそ、ひろってもらえる・・」


「そう。ぼろ、さま、さま・・だ」


「そうかんがえたら、恵まれてる・・んだよね・・」


そう、恵まれてる。

だけど、それは、チャンスがころがりこんできてるって段階でしかない。


「その、おめぐみをな・・しっかり、つかまえちまえ。

がんばれ・・」


「うん」


キャッシーのどこか、晴れやかな顔だが、

それでも、キャッシーはだめだった時の別離もきちんと覚悟している。


ーち、女ってのは、いざとなったら、潔いや・・ー

キャッシーは十中八九、だめになるって覚悟つけてる。

あるのは、本心でぶつかっていこうっていう

誠意っていうのかな、こういうのも・・

ま、その誠意ひとつだけ・・。


ー絶対・・悪いようにはならねえー

ボーマンもまた、自分をしんじるしかなかった。

キャッシーが帰るとまもなしにボーマンは

ちょいとでてくるって、ニーネに告げた。


「研究所?」


どこかにでかけるといえば、研究所だと思ってるニーネだから、

好都合ではあるが、なんだか、そのまっすぐな信頼がボーマンには、

辛くもある。


ーステラも、もう、いい加減、ふんぎりつけなきゃいけねえかな・・ー


ハロルドについで、キャッシーのことがかさなってくると

さすがに、一人の女性の人生を狂わせちまったことがのしかかってくる。


ーいつまでも、このままじゃいけねえのは、わかっているんだけど・・-

少しばかり考えてはみるが、ステラにあえなくなっちまうのも、寂しくはある。


ふんぎりがつかないのは、R・グレーマンのせい。

あいつが死んでさえいなけりゃ・・。

ボーマンは失くしちまったはずの悲しみにつつまれかけてる自分にきがついた。


そんなセンチになってる場合じゃない。

とにかくは、キャッシーのことをどうしてやるかだ・・。


車にのりこむと、ステラに連絡を入れる。

「いま、どこ?」


「お店・・に行く途中よ」


「うん・・じゃあ、そっちで・・」


ボーマンはほっと胸をなでおろす。

どんなことがあっても、ステラとは、客とソープ嬢の関係をくずしちゃいけない。

ステラとプライベートで、あったり、ステラの部屋にあがりこんだりしない。

それをしちゃ、ステラは俺の愛人になっちまう。

なんのために別れたのか、続けられない関係に終止符を打った意味がなくなる。


それは、ステラも充分承知している。

さっきの電話だって本当はステラの嘘かもしれない。

休日で、部屋にいるのに、俺の為、店にむかうのかもしれない。


そして、店にはいれば、毎度の顔。

ご予約を頂戴しております。

って、ステラがレシーブを取ってくれたに決まってる。


ステラの個室にはいりこむと、ボーマンはそこで、

ステラをまつことにした。


煙草をふかしおえると、ステラの気配がする。


「あら・・はやかったのね」

って、部屋のなかのボーマンに声をかけたステラだったけど、

ひさしぶりに見るステラはまた一段と色っぽくなってやがる。


「どうしたの?又、心配事?」


そうそう、そっちがさきのはずだけど、

ボーマンの手はステラにのびていた。


「ああ・・心配事。

ちょっと、きいてもらおうとおもってきたんだけど・・

おまえのほうが心配になっちまった・・」


「私のほうが?ん?」

小首をかしげるステラがいちだんと女女してみえる。


「だれだよ・・おまえをこんなにいろっぽくしちまったやつは・・」

くすりと笑うとステラが言う。


「まったく、ご無沙汰しておいて、そんないいかたはないわよ。

それに、な~~に?

わたしには、やきもちでしか、その気にならない?」


「ばかいうなよ」


とっくにその気になってる場所にステラの手がのびてくる。


「おりこうにしてたのかなあ?

どっかの僕ちゃんとこにあそびにいったり・・

どっかのおじょうちゃんのとこにいったりしてたんじゃないの?」

もちろん、ボーマン君にいっているんだけどね。


「いってねえよ・・」


「あら・・奥さん一本?

めずらし~~~」


「だから、ニーネのことをだしてくるなって・・」


「いいじゃない。私がきにしてないんだから・・。

ねえ・・」

って、しっかりその気になってるのは、ステラもおなじらしくて、

それから、二人は密室の遊戯に没頭していく。


これから先はドアのむこうのプライベートタイム。


しばし、ご猶予を・・・。


ん?

なにか、話し声がきこえはじめた・・。

どうやら、本題にはいっていくようなので、

ドアの中の様子をおつたえいたします。


「そりゃあ・・また、ややこしいことになってしまってるのね」

って、いうステラの科白だから、ボーマンはおおかたの経緯を喋り終えたところのようだ。


「で、キャッシーのほうは、なんとかなると思うんだ。

そのぼうずもなんとかなるだろう・・・たぶん・・。

だが、もんだいは親父のほうだ・・」


「お父さん?」


「そうさ・・結婚しようって考えてる女をさ・・

それも10年近く、しゃぶりつづけてきた女をさ・・

息子とつきあわせたいか?

息子にとられたいか?」


「う~~ん」


ステラもかんがえこんでしまった。


「俺さ・・実際、自分に子供もいねえしさ。

どういうんだ・・親父が子供に対してどうおもうかってのがさ・・

さっぱり、見当がつかねえんだよ・・」


「え?」

どうやら、ステラはボーマンの言葉でなにか、閃いたようだ。


「なんか?かんがえついたか?」

ステラとは、長い・・いや、深いつきあいだ。

ボーマンはステラの声の調子だけで、判ると見える。


「うん・・あのね・・

ボーマンがいった言葉通りだよ・・。

とうの父親の気持ちがわかって

父親を納得させられるのは、その「子供」しかいないんじゃない?」


つまり、ぼうずが親父を説得するしかない?

「そりゃ・・そうだろうけど・・

まじ、反対されたら、キャッシーのほうが、もつ・・か」


「あら、それで、引き下がる男だったら、キャッシーのめがね違いってことでしょう?

父親だったら、間違いなく反対するよ。

自分の女だったとか、そういう理由じゃなくて

何もすきこのんで、年上の、愛人やるような女と結婚?

結婚しなくてもいいっておもうんじゃないの?

で、そんな反対もなにもかも、のりこえる位のきもちじゃなけりゃ、

おとうさんも納得できないんじゃない?

彼女を、あきらめきれないってのもあるだろうね。

これは、戦いよ。

相手に負けたって、思わせたら勝ち。


ねえ、ボーマン。

いつかいってたじゃない。

自由の女神だって、おくびょうものには手をさしのべない。って・・。


とことん、戦わないで、あとずさりしてしまうような臆病者に

キャッシーを幸せにできるもんかって・・そういうことでしょ?

ボーマン、キャッシーに幸せになってもらいたいんだったら、

もう、これ以上の助け舟は余計なことよ。

あとは、二人でこぎだしていくしかないんだもの・・」


ボーマンは大いに納得した。

ステラのいう通りだ。


俺はもう、見守るしかしちゃいけねえんだ。


「おまえ・・やっぱ、いい女だよな」


なんで、ステラへの評価にかわっちまうのかって?

そりゃあ、ステラ自身があとずさりせずに

こんな形ででも、ボーマンへの恋を貫き通してるからだ、

だから、ステラの口からそんな科白が出てくる。

だから、いい女なんだ。


「うふふ」

って、笑って、うろこがおちたボーマンの笑顔に安心したステラは

かわいいおねだりをしたもんさ。

「じゃ・・ご褒美。ちょうだい」


「いわれなくったって・・」

ボーマンの返事がどういうことか、覗き続けるほど、野暮はない。

と、いうことで、ふたたび、ドアの外。

その足でキャッシーの様子でもみにいってこよう。

「私・・・・」

決心したはずなのに、覚悟したはずなのに

彼を目の前にすると、心がゆらぐ。

失くしたくないに決まってる。

さけて通りたいに決まってる。

彼のショックを見たくない。

ましてや、それを与えるのは自分・・・。


「なに?」


キャッシーの呼び出しに心弾ませてやってきた彼にちがいない。


彼が・・同じ職場に配属されてこなかったら・・・。

出張講義、デモンストレーションのワークグループで、なかったら

もう少し、日を延ばすこともできたかもしれない。


「私・・これ以上・・貴方に黙っていちゃいけないって、思うの。

私は、貴方が思ってるような女じゃないし・・

これから、喋ることで貴方をきずつける・・

なのに、平気で喋ろう・・ってしてる・・そんな女よ」


途切れとぎれになる言葉は涙をこらえるせい。

キャッシーの告白は

むしろ、彼よりも、キャッシーをくるしめるだけに見えた。


「だったら、何も喋らなくていい。

僕は何を聞いても、君への気持ちはかわらないんだから。

ただ、君が僕のことをいやだというのなら・・」

彼はすこし、言葉にためらった。

「僕の気持ちはかわらないけど、

それを君におしつけることはしない」


ううん、小さく首を振るキャッシーになる。

「貴方のことをきらいだなんて、これっぽっちもおもってない。

私は貴方に好いてるもらえる資格がない・・」


ふうって、彼はちいさく息をはいた。

「僕は、できれば君にそんなことを口にださせたくないっておもってた。

でも、かえって、それが、君をおいつめてたんだ。

だから、君の口からじゃなくて、僕が言う」


ーどういうこと?なんのこと?-

キャッシーの戸惑いに出口がみつからない。


「僕の父親と君のことは、僕は、知っている。

知っていて、プロポーズした・・」

と、そこで、言葉をとめると彼はぺろりと舌をだした。

「おっと、まだ、正式に申し込んでなかったっけ・・・」


まるで、天気の話みたい、

くったくもなく、なにごともなさそうにしゃべる彼は

キャッシーの不安もまた、なにごとでもないという。

おどろいたのは、キャッシーのほうだ。


「知・・・知っていて・・それでも・・あの・・私に・・え?・・嘘?」


なんで嘘だと思うのとばかりに不思議にちょっと首をかたむけて、

彼は

「嘘じゃないよ。本当」

って、いう。


「ツルゲーネフの初恋ってしってる?」


それ、この前キャッシーがボーマンにいったそのままの科白。


「僕もそれと同じ。君に恋をしてた。

父と一緒にいる君を秘書だろうっておもっていた。

そうじゃないって、気がついたとき、僕はこのままじゃ、

ツルゲーネフの初恋そのままだって思ったんだ。

それじゃあ、馬鹿みたいだと思わない?

こうやって、初恋がだめになりましたって本をよんでさ、

同じことくりかえすんじゃ

学習能力ゼロ。

僕は待った。僕の年齢が君の相手になれるまで。

そして、君は父を放り捨てたりせずにいてくれた。

きっと、僕は君がさっさとほかの男に乗り換える女だったら、

とっくにあきらめていた。

そして、誰でもない僕だけが、父に君をあきらめるようにいえる。

父は、死んだ母の夫なんだ。

父の生き方をとめる権利は僕にだけある」


「だ・・だけど・・あなたは・・それで・・いいの

お父様のことは?

あなたとあの人が・・にくみあうような・・」


「君は・・男っていうものがわかっていない。

それに、いいかい?

僕が結婚して、この先の長い人生を一緒にあゆみたいのは、

君であって、

父とあゆむわけじゃない。

一生を託したい相手を父から奪い去るくらいの気持ちである僕なら

父も喜ぶ。

そして、君にたいしてもだ。

僕をえらんだ君に頭をさげる。

息子をよろしくって・・ね」


「あ・・あ・・・あ」


「ん?」


「じゃあ、私は?」


「ん?」


「とっくにひろわれてたってことなのよね」


「ん???」


「いいの、判らなくて・・」


「うん・・。僕はね・・君が父を好きになった時から

君は僕をさがしてたるんだっておもってた。

僕によく似た父を好きになってしまうのはあたりまえだろ?

だから・・遅くうまれてごめん。

あやまらなきゃいけないのは、僕のほうだ」


ーこの人しかいない。この人のいう通り。

わたしは、この人をさがしだせなかった・・

でも、見つけたー


「私もあやまらなきゃ・・

早くうまれて・・ごめんなさい」


「うん」


って、言いたいことだけ言っちゃうと無口になってしまうのがいつもの彼。

でも、今、彼が無口になってしまったのは言いたい事がなくなったせいじゃない。


何のせいだって?

この状況において、おしゃべりがとまっちゃうって・・・

え?

わかった?


ん。


じゃあ、この話の結末もちゃんとみえてるよね。


               GOOD BYE


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