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新之助~~~~!!  *新之助シリーズ第1話

新之助~~~~!!/其の一
まあ、世の中には堅苦しくて
まじめで融通のきかない人間がいて、
そいつの事を
岩部金吉などとか、と、たとえるのであるが、
これから、少し
話しをしてゆく野原新之助という
男も
そのたとえに類する人物なのである。

いや、それにしては、
その男の名前・・・。
どこかの豪快な幼稚園児と同じではないか?と、
その話が
ただのかちんこちんの岩や金のはなしではないだろうと
何となく憶測されていられるであろうが、
まさにその通りである。

ああ。
ただし、ひとつだけ。
ご留意願いたい。
この野原新之助は
シンちゃんと呼称される
某幼稚園児とは何の因果関係はなく、
親戚、血筋なんて、めっそうもなく、
もちろん、
遠い先祖であるわけもなく、
単に
同じ名前であっただけで・・。
もちろん、そんな名前にした、作者に
何のたくらみもないことは
明白な事であり、
他にも出てくる聞いたことのあるような名前である
草薙剛之進も又、単なる作者のボキャブラリーの
貧困さの表れでしかないのも同様である。

その新之助が
いつものごとく
学問所から帰ってくると
きっちりと同じ時刻に
同じ歩幅で
剣術指南の師匠宅にでむいてゆくのである。

新之助が稽古にいく時間になると、
田畑を耕作する百姓は
もう、こんな時間かと
腰を伸ばし、
寺の鐘が今日は
少し早く鳴った。あるいは遅く鳴ったと
呟くのであるから、
いかにきっちりと毎日同じ行動を
していたか、わかるのである。
が、
その日、
新之助に晴天の霹靂としかいえない災いが
ふりかかってくるとは、
おもいもしない。
新之助が
百姓のかがむ田んぼの脇の小道を
通り過ぎたときのことである。

後ろから蹄の音を掻き消すような
どうま声。
「どけ、どけ、どけ、どかぬかああ! 早馬じゃああああ!」
あわてて田んぼの横の道祖神の脇に
身を寄せた新之助である。
飛んで行くかのように眼の前を馬が走り去り
やれやれとほっと胸を撫で下ろした新之助の
額から冷や汗がにじみでてくる。

道祖神の脇に退いたとき
腰に、がつんと嫌な衝撃を感じた
新之助である。

その衝撃がなにゆえであるか、
新之助はたしかめたのである。

ゆえに血の気が引き
顔色はきっと
真っ青になっているだろう。
なにせ、自分では見えないので
新之助はそうであろうとおもうだけであるが、
そんなことより、

たい変な事になったのである。

新之助の額からは
冷たい汗が流れてくる。
「どうしよう・・」
思い浮かんだのは道場仲間の
草薙剛之進である。
とんでもない遊び人であるが世間の事に詳しい男である。
剛之進に相談してみよう。
新之助は
大変なことに嘆いている場合ではないと、
道場に走り出したのである。

新之助~~~~!!/其の二
大体において、幼馴染のつきあいというものは
性格が正反対だから、長続きするようである。
新之助にとって、
剛之進は自分にないものばかりもっていて、
一目おいているのである。
が、
かといって、極楽トンボのような
剛之進になりかわりたいかというと、
やおら、首を横に振る新之助であるが、
やはり、
いざとなったら頼りになる存在である。

頼りになるといえば、
新之助の妹である早苗嬢にも、
せんだって、相談を受けた剛之進である。

実は早苗嬢には、
恋仲の男がいるのであるが、
兄である新之助に色恋沙汰の
気配一つない事に
こまりはてていたのである。

父母に
実は好いた男がいると
うちあけようにも、この兄が
女性に興味一つ持つ様子がなくても、
一向に気にならない父母である。

むしろ、早苗が思い切って打ち明けようものなら
なんという、はしたない娘に育て上げたのだろうと
叱責されるだけのようにも思えるのである。

ならば、
兄の新之助が
世にいう「春」をむかえれば・・・。
わがこともうまく
かなうのではなかろうか?

なにせい、大事な嫡男である
新之助のやることなすこと、
すべてにおうような父母である。

まあ、やることなすことといっても、
学問所と道場への往復しかしらないのではないかという、
新之助である。
むしろ、
やらないこと、なさない事に鷹揚であるというべきかもしれないが。
兄が何をなしても、父母は諸手を揚げてうなづくであろうと思う早苗なのである。

(少しは美しい花に目を向けてくださってもよろしいのですのにね)
早苗の新之助への愚痴を聞かされた
剛之進は
早苗殿はさてはわしに気が有るなと誤解できる男なのである。
恋仲の男のことを言わなかった早苗も悪いが、
兄が恋の一つもしてくれれば私も
貴方に目をむけてもらっても、父母に許してもらいやすいのに。
と、受止められる剛之進の深読みを悪いというのは忍びない。
愛嬌とも、いい勘だけは持っているともいってやりたくなる。

「まあ、私にまかせておいてください」
と、気分良く早苗嬢に見栄を切った剛之進である。

そんなことがあったばかりの剛之進の所に
新之助が
血相をかえて、やってきたのである。

新之助~~~~!!/其の三
事情を説明するまでもなく、
新之助の顔色で何かあったと判るのが
幼馴染のいい所である。

道場の板の間の真ん中で
まずは正座をして心を沈め、其ののち
床の間の掛け軸に
礼をするのが稽古前の本来のならわしではある。
「女子のくどき方」
等を夢想しながら座っていたことを邪魔されたと
新之助をなじっている場合ではなさそうだと、
剛之進は
新之助を見つめる。
「どうした」
困惑している所に心配気に声をかけられると、
本来伝えることが上手く出てこなくなるのは、
常日頃に突発事象に遭遇する事のない
男の悲しさである。
「早馬がきてな・・」
何も律儀に大変な事がおきたそもはじめのきっかけから、
はなさなくてもよさそうなものであるが、
そんな男のいう事を半分も聞かないうちに
それなりに理解しようとする
剛之進も友情に厚い男である。
「ふむ・・・」
馬が怖かったか・・・。
「乗る馬はいいが、走る馬はこわいものよ」
と、相槌を打つ剛之進である。
「道祖神があろう?」
新之助の話ぶりも要領が悪い。
「あったかのお?」
村の娘のほくろの位置なら、おぼえているが・・。
道祖神のお?
ああ・・・。太六の田んぼの横だな。
「うん。あるの」
「そこで、早馬をやりすごした」
「そうか・・・」
早馬ごときにはんべそをかきやがって。
意外と肝っ玉の小さい男だったのだなと
なにかしらぬが、優越感がわいてくるものだから、
剛之進はやけに優しくならざるをえない。
「其のときだった・・道祖神にこれが、あたってしまってな」
おや?馬が怖いではなかったのかと
剛之進は新之助が差し出した物を
みつめた。

差し出されたものは
新之助がいつも腰にさしている刀である。
「父上が備前長船がよかろうと、わざわざ、あつらえてくれたのだ」
ぐいと差し出された刀の切っ先がわずかに鞘から
飛び出している。
「おい、危ないじゃないか・・」
いやいや、そういう事を言ってるんじゃない。
「どうしよう・・・」
鞘の先がポロリとおちているのである。
「備前長船でなかったのだろうのう」
刀の真偽の詮議をしようというのでもないのである。
刀は武士の魂。
鞘であるといえど、武士の魂を容れる鞘を壊してしまうという事は
武士の魂をかろきに扱かったという事になるのである。
「こんなことが父上の知る所になったら・・・」
なるほど。
やっと、剛之進は新之助の血相のわけを理解したのである。

「わかった。いい案がある」
刀の鞘はなんとかなるとふんだ剛之進の頭の中に
わいてきたのは、
早苗の相談事である。

一隅の機会を余すことなく活用する事を
おもいつく人間は
参謀などにむいているのであろう。
この場合の剛之進の参謀ぶりは、
早苗嬢への下心の帰巣するのであるから、
実際の軍略に役に立つ人材であるかどうかはいささか怪しい気がする。

怪しい気がするが、短いときの中で
剛之進は
早苗の相談を解決する糸口をシッカリとつかんでしまうのである。
ただし、
剛之進の新之助への把握はかなり粗野なのである。
『ようは、新之助が女子に興味をもつようになればいいのだな』
確かにそうであるが、
余りにも大雑把なめどうの認識である。

が、
鞘が壊れたことを、上手く利用して
新之助を・・・・。

おい!
剛之進?
お前、何をたくらんでいるんだあああ?

新之助~~~~!!/其の四
「うむ。案ずることはない」
と、剛之進。
刀の鞘をどうすればいいかの
案だけではない。
早苗嬢からの相談の解決も
剛之進の描いた策で上手く行くだろうという
意味合いでもある。
「どうすれば・・・」
新之助の不安な声に
剛之進はあっさりと言い放った。
「かわりの鞘を求むれば良い」
「え?」
同じものがあるのだろうか?
新之助の不安をみぬくと、
剛之進は
「まず、よく似たものを買い求め、
其の間に、本物は治しにだそう」
「なるほど」
成る程とうなづいた新之助であるが、
「それでも、どこにいけば、てにはいるのであろうか?」
どこに行けばいいかもわからなければ、
その「どこ」にどうやっていけばいいかもわからない。
なにせ、学問所と道場と家との往復しかした事のない男である。
「な~に。心配するな。わしが地図をかいてやるわい」
ふん、ふん、とうなづきながら、
胸を撫で下ろす新之助を尻目に
早速剛之進は懐中の和紙をひきずりだし、
床の間の通い帳の脇の筆をとりにいくと、
さらさらと地図をかき、
新之助にわたした。
「いいか、ここ。この場所には店がいっぱいならんでおるが、
奥まで行かずに大門をくぐった最初の店にとびこめばいい」
時代物をお好きな方であれば
大門があって、店が一杯並んでいるという
場所がじつは、どこであるか、
察しがついていらっしゃるであろう。
が、
岩部である。
金吉である。
剛之進に教えられた場所が
吉原なる遊郭であると、わかるはずもない、
新之助である。
「ところで、銭をもっているのか?」
どこまでも気配りの深い男である。
「あ・・」
新之助に手持ちの銭などあるわけがない。
道場と学問所をよりみちひとつせず、
往復する新之助に、
金など必要がないのである。
「やはり・・ないか」
剛之進は仕方がないと
又、懐に手を突っ込んで
財布をひっぱりだしてくると、
「わしが用立てしておいてやる」
と、新之助に財布ごと渡してやるのである。
「あ、ああ・・。すまない。遠慮なく借用させてもらう。必ず返すからな」
「あたりまえだ」
と、うなづいてみせるが、
吉原に繰り出す予定がお釈迦になった
剛之進である。
そのかわりにといっては、なんであるが・・・。
早苗嬢の白い項を目にうかべ、
「お前の役にたつなら、活金になろう」
と、
粋なせりふを吐き出すのである。
剛之進のおまえというのは、
無論、新之助のことではない。

あわよくば・・・。早苗嬢と・・・。
不埒な考えについつい、袴の中で鎌首をもたげる
「おまえ」のことなのであるが・・・。

そんなこととは、知らず、
感涙というものが
こんなにも簡単に出来る事なのかと
剛之進をたじろがせている
新之助には
ただただ、
感謝の言葉しか出てこないのである。
「かたじけない。それでは・・・貴殿の厚意にこたうべく、
いっときもはやく、鞘をてにいれてくる」

後も見ずに飛び出した新之助である。

せめて、
もう一度振り返って剛之進を見ていれば、
狐みたいな顔になって
ほくそえんでいる剛之進に疑念をいだけたことであろうに・・・。

だましうちであっても、
大人になれそうな
新之助をよろこんでやるべきなのか、
複雑な気分をだかえながら、
新之助の後を
おってみることにしようか・・・。

やれやれ・・・。

新之助~~~~!!/其の五
剛之進に渡された地図と
にらめっこをしながら、
新之助は剛之進のいう「ここの店」にやってきた。
剛乃進が「ここ」を指定したのは、ここがなじみの店で、
よく内情を知っているからというわけではない。
下手に吉原の奥まですすまれては
どうも、おかしい
と、新之助に危ぶまれてはいけないと思ったからである。
剛之進の采配が功を奏し、
客引きの男衆に声を掛けられることもなく、
何の疑問もいだく暇もなく
新之助は「ここの店」に滑り込んで行ったのである。
時間も早いせいもあり、店の外で客をひく男衆もまだ、まばらであったが、
店の中にはいっても、女郎は夜の稼ぎ時にむけて、
化粧・身支度に余念なく、
顔見世の店先に出ているものがいなかった。
これが、ますます、新之助に露ほどにも疑いをもたせる隙をなくさせたのである。

帳場に座っている女将が新之助を見つけ
腰を上げるのをみると、
新之助はーここは、女が、主人なのか?ー
と、思いながら、女将の傍に歩み寄っていった。
刀に関するものを扱う店であれば、
当然男が主人であると思っていたからである。
だが、あるいは、
主人があいにく留守で、奥が代わりに店番をしていたのかもしれない。
「いらっしゃいませ」
と、頭を下げる女将である所をみると、
女子であっても、充分に刀の目利きは出来るようである。
新之助はさであるならばと、安心して
用件を切り出したのである。
「鞘が欲しいのじゃが」

女将は新之助が入ってきたところから既に
新之助の値踏みをしているのである。
年は20くらい。
着物を見れば、いい所の若様。
顔つきからはまじめそうな人柄が見える。
この店では初顔であるが、
青年にとってもこんな場所は初めてと思えた。

だが・・・。
『鞘が欲しい・・・だって?』
凝った言い様である。
確かに御腰の宝刀を
収める物は
「鞘」ではある。
言い得て妙ではある。
あるが、
青年の顔をみると、
粋な物言いとは似合わぬ初心さがみえる。
が、しかし、
こういう世界を外見で判断できる事ではないのも、
熟知している女将である。
子供のような顔をしていながら、
実は手管も兼ね備えた「通」もいる。

はたして、この青年はどっちであるのか?
まあ、そんなことは相方がしるところであろう。
と、商売人らしく考えなおすと
女将は「通」は「通」らしく接待せねばと
たずね返した。

「で、鞘は、雄鞘?雌鞘?どちらがよろしゅうございます?」

新之助~~~~!!/其の六
実はこの店は
女郎を扱うだけでなく、
陰間・・・つまり、
男色も扱っているのである。
吉原の入り口一番最初に店をかまえるのは、
老舗?であった証拠である。
当然商いも長い。
長い商いの中、女遊びだけでは
興が乗らぬという酔狂な人間も出てくる。
そんな顧客のために、
女将は
「男」も商いの要として
そなえていたのである。
が、むろん、これは、常連のため。
通・・・。
と、いっていいか、わからぬが
通人のためのものであった。

だから、
こういう陰間を好む人間は
女将の判断によれば、
いわば、
遊びに精通しきった成れの果てである。

で、あるから、
男がいいか、
女がいいか。
そうたずねれば青年の「通人」の度合いが
判ると踏んだのである。

むろん、
こんなことは剛之進のあずかり知らぬ所で、
とんでもない事態に発展してゆくかもしれないなどと、
剛之進は思ってもいないのである。

とは、いうものの、それも新之助の
返事如何なのであるが・・・。

その新之助である。

『雌鞘?雄鞘?
鞘に雌雄があったのか?
ふううむ』
わずかな間に
新之助は思いをめぐらす。
『雌鞘・・。これは、最近赤鞘組などと称し
赤い鞘をさすものがいるときいたが、
雌鞘というのは、このことであろうの』
備前長船は漆黒の鞘である。
黒は雄鞘であろうと、かんがえるまでもない。
『わしは、男じゃ。何がかなしゅうて、雌鞘などささねばならぬ』

馬鹿にするなとばかりに
女将をきつく、みすえると、
「きまっておろう。雄鞘じゃわい」

この新之助の真剣な顔を
女将は別の意志に
とりちがえるのである。
『よほど・・・。男がお好きとみえる』
真顔で男がいいといいきるのである。

着物も見れば見るほど上物。
裕福な家の嫡男であろう。
この客を逃してなるものかと
店一番の売れっ子陰間。菊哉を
この男にあてがおう。
菊哉は性技にたけて、客の心をつかんでいるだけでなく、
一見の容姿も麗しい男である。

「わかりました。それでは、お二階にご案内しましょう」
「二階?」
わざわざ、そんな所まで行かねばならぬかとおもうのであるが、
「上物の鞘でございます」
と、いわれれば、それゆえにこっちまで丁重に扱われるのかと
新之助はひとり合点をしてしまったのである。

新之助~~~~!!/其の七
女将に案内され二階の部屋に
あがった新之助である。
「それでは、すぐに、菊哉を参じさせます」
女将の言葉に
新之助は
ぎょっとした。
『鞘を持っているのは女将ではないのか?』
鞘の持ち主が
客とこの部屋で直接交渉ということなのだな?
と、なると・・・。
いくら、鞘がきにいっても、
持ち主が云といわねば、ゆずってもらえないということなのだな?
「その鞘の持ち主は?」
気難しい人間なのであろうか?
不安に、ついつい予備知識を仕入れたくなるのは
人の条理であろう。
女将はにこやかに、
「たいそうな、人気でございますよ」
と、菊哉をうりこんでおいた。

『ふううむ・・・』
引き手あまたの鞘でありながら
まだ、誰にもわたさずもっているのか・・。
いよいよ、こ難しい御仁らしい。
とは、いうものの、
いくら良い鞘であっても
新之助の刀に合わなければ
何の意味もない。
まずは、見せてもらうしかない。
みせてもらえば、
刀のそりや、長さに合う代物か
わかる。
わかったのちに、初めて刀あわせをしてみるしかない。
だが、
へたに逆らうと
菊哉なるものはへそを曲げてしまうかもしれない。
とにかく、とにかく、
鞘が欲しいのだという
思い一筋を伝えねばなるまい。

そして、その鞘が
新之助の刀にあっていてくれればいい・・・。

祈るような気持で新之助は
菊哉を待った。

おくの部屋に続くふすまをあければ、そこには、
極上の絹の夜具が敷き述べられている。
ふすまさえ開ければ、
いかに、朴念仁の新之助でも
「どうも、妙だ?」
と、かんがえついたことであろう。

ところが、生真面目な男である。
他所様の部屋を
あちこちと
探索するなどもっての他。
じっと正座のまま、
菊哉が現れるのを待つのである。

一方。
菊哉は女将にくどいほど念を推されている。
「いいかい・・・。のがすんじゃないよ。
この客を逃したら
お前の一生の恥になるよ」
ひどい脅かし方であるが、
そこまでいわれたら、
菊哉にも
「陰間」の意地がある。

「ふっ。まかしておくんなさいよ。
しあげをごろうじろ・・・・ですよおお」
たかをくくったせりふをはきながら、
女将がわざわざ念をおすにも、
わけがあろうと、思う、菊哉である。

「よく、わかんないんだよ。
初心なのか、通なのか・・・。
ひょっとすると、ものすごく
好みにうるさいのかもしれない・・・」

思ったままを云う女将であるが、
其の言葉も
菊哉を奮い立たせる。
『そんな、男に袖にされちゃあああ、
菊哉、一生の名折れ・・・。
こういうことですね?』
真剣に鞘を買いたい男と
真剣に鞘を売りたい男が
対峙することになった
部屋で、

新之助はただただ、正座して
菊哉を待っていた・・・・。

新之助~~~~!!/其の八
廊下を歩く静かな気配は
やってくる人間の
身の軽さをあらわすように
静かである。

ふすまが開かれ
部屋にはいってきたのは、
新之助の予想したとおり
若い男だった。

なるほど、コレならば帳場を女子が預かれるわけだと、
新之助は納得しながら
男をみていた。

男・・・いや、少年とよんでいいか?
新之助とさして、かわらぬ年にもみえるが、
それは、
新之助のように、世間ずれしていない人間と、くらべるから
少年が新之助と変わらぬ年のように見えるだけで、
実際は新之助よりも、
3,4つ若い。

3,4っ若い男は新之助の前に
すわると、
「菊哉でございます」
と、たたみに手をついた。
「あ?ああ」
そうである。
初対面である。
新之助はあわてて、
頭を下げると
「私は野原新之助です」
と、礼をかえしたのである。

面食らったのは
菊哉である。
どこの男がこんな所で
自分の本名をなのるだろう?
『女将の言ううとおり・・・よくわからない』
偽名かもしれない。
遊び名なのかもしれない。
そ知らぬ顔で初心を装い
こちらをからかっているのかもしれない。
それ相当に遊びなれて、
こんな風にあいての出方をたのしんでみているのかもしれない。

だいたいにおいて、
新之助と名乗るのも妙であるが、
この菊哉をみて、
興を示さないのが、一番妙である。
大抵の客は
部屋に入ってきた菊哉をみて、
まず、あっけにとられる。
影のある憂い顔。
そのくせ、色香がある。
美形は美形でも、常ならぬものがある。
女では、たたよわぬ妖艶さ。
それが、菊哉の売りでもある。
女には求めきれぬものが
眼の前にいきづいている。
其の事実に客はしばし、息をとめ、
菊哉にみほれる。

ところが、眼の前の新之助とやらは、
無反応もいいところであり、
菊哉をそこらの、
木でも石でもみるかのようで、
変化が読み取れない。
変化が読み取れないばかりではない。

菊哉に惹かれた様子ひとつもみせないくせに、

「早速ですが、鞘をみせていただけますか?」

と、言い出したのである。

新之助にすれば、
名前を名乗ったものの
あとはなにをいえばいいか、わからない。
時候の挨拶もみょうであろう?
げんきですか?
も、馬鹿のようである。
仕方がないから
本題をぶつけただけにすぎないのである。

だが・・・。

『な・・・なんだと~~~!!』
確かに鞘を求めに来たというのは
通ないいかたではあろう。
だが、だが、
いきなり、みせろ?!

行為にもつれこんで、
客が
菊哉のそこを
目で堪能するのは
たわむれ事として、
なるにまかせるし、
客のすきかってである。

菊哉もそれが商売だ。
だが、
ほだされるような気配もみせない。
接吻のひとつもなく、おもわず菊哉をかきいだく、
せつなさもみせず、
骨董物を鑑定するかのように、
『見せろ~~~?だと~~~!!』
え?
みて、
なんだよ?
きにいらなかったら、
やめた!!
っていうのかよ?
え?
目で見てわかるほどの
「通」だってのかよおおおお!!

お里?がしれるような、
素性がしれるような、
菊哉の心の憤怒を
無理やりおさえこんだのは、
女将のさした釘である。

ふん。
こんなことで、おこっちゃあ、
こっちのまけだ。

ややさみしげで、それゆえいっそうぞっとするような
艶を流し目で新之助にくれてやると
「おみせしても、よいのですが、
こちらのいうこともきいていただけますか?」
と、菊哉は策をろうしてゆくのである。

新之助~~~~!!/其の九
『だいたい。この新之助という男は
本気なのだろうか?』
菊哉の中に疑念が生じるのも、
無理がない。

だが、女将にも言われた。
自分でもいった。
『其の客を物に出来なかったら、菊哉の名折れですね?』
女将の指名を預かり
それでも、指一本触れられずに、
客ににげられた?

それも、鞘を見せろ、見せないで?
いや、こうなったら、見せてやろうじゃないか。
だが・・・。
その挙句に袖にされましたなどという
滑稽は
たまったもんじゃない。

見せる以上は
何が何でも
既成事実をこしらえて、
我が物にしてやる。

陰間が腹をくくったのである。

そんな恐ろしい決心が
菊哉の腹でにつまっているなぞ、
新之助に判ろうはずもない。
「貴殿の頼みごととは、なんであろうか?」
やけにおぼこく不安げに神妙な口ぶりが
妙にかわいい。
少々の難題をふっかけても、
見せてもらうためなら
何でもやりますよと、
必死であるようにも見える。

『さては・・・』
菊哉なりにかんがえた。
こやつは、
目で見てからでないと
その気にならぬのかもしれぬ。
ある意味、哀れであり、
滑稽であり・・・。

ひょっとすると、
このていたらくで
あちこちの
陰間にけんつくをくらって・・・。
ひょっとして・・・・。
まだ・・・。
行為に及んだ事がない?

ならば初心に見えるのも、判らないでもない。

だが、
どちらにせよ、
菊哉が逃すわけには行かない。

「それでは、お着物をぬいでいただけますか?」

菊哉が既製事実なるものを作ろうにも、
着物は邪魔である。
見るだけみて、
嫌だなぞといわれても、
素っ裸にしておけば、簡単に外に
逃げるわけにも行くまい。

初心なのか、
通なのか、
依然として、よく判らない男の
本意を確かめたくもある。

素っ裸にしてみれば、
その気がおありか、どうか、
判るというものである。

「は?裸になれというのか?」
今度は新之助が面食らった。
「見るだけ見て、気に入らないといわれたくありませんから」
つまり、逃げ出させないという事であり、
其の鞘は間違いなく上物で、、、
ちらりと、
横に置いた刀を見る新之助である。
この若者の目から見て、
この刀に間違いなく沿う鞘だということなのだろう。
「そこまでのものなら、やはりしっかり、みてみたい・・・」
男の云うとおり、万が一、気に入らないことがあったら、
そこまで自信がある鞘であっても、
刀にあわなければ・・。
諦めるしかないのである。

真剣な顔で裸になれという
菊哉に
誠心誠意を示さねばなるまい。
菊哉はだいの男に無茶をいい、
武士の刀に寄せる思いを
量っているのだ。

菊哉の鞘に寄せる思いも
また、一途なのである。

まったく、うたがう術も持たなければ、
疑うかんがえ方を構築する材料が
新之助にはないのである。

変わりに
菊哉の信頼を得なければと
可哀想なほどに必死に
考え詰める新之助である。
「わかった。だが、それでも、もし、見て良い品であっても、
刀をじかにあわせてみなければ、
判らない事である。
うまく、そりがあわぬと、
長さが合わぬとなったときには
潔くあきらめてくれ」
どちらが、売りつける立場か
本末転倒になってきているほどに、
菊哉の鞘への思いを受止める新之助なのである。

『へ?』
鞘に対して、今度は伝家の宝刀かい?
うまい言い方だねえ。
なんて、感心している場合ではない。
『まるで、その気があるような事をいいやがって・・・』
ふんどし一つになった新之助を見て
菊哉は情けなくなってくる。
「それも、おとりください」
いってはみても、
中からさらけ出てくるものは
まったく
その気がないとふざけた・・・。
いや、
ふにゃけまくった、
伝家の宝刀なのである。

『くそおおお。やはり、みせるしかないのかああああ

新之助~~~~!!/おしまい。

「それでは、とくと、ごらんあそばせ」
云うが早く
菊哉はすくりと、立ち上がった。
立ち上がると同時に新之助の前で
くるりと背を向けた。
背を向けた菊哉があっというまに
帯をとくと、
羽織った着物を
さあああとたくりぬぐ。
着物の下は
初手から下穿きなぞ身につけていない。

新之助の眼の前に
流麗な男の身体の
線がなまめかしく、
うかぶ。

「・・・」
な?なんだ?
こいつも、新之助の誠意にこたうべく、
裸になったのか?
そうかもしれぬ。
が、だが、
「鞘は?」
どこにもっているのだという?
着物の中は男の裸身があっただけである。
「あ、え、鞘は?」
菊哉は待ち焦がれる新之助の
声を小気味よくきいた。
そして。
「ご覧じろ~~~~」
足を軽く広げると
畳に手を着いた。

新之助の眼の前には
菊哉の尻がある。
その尻をぐいと、新之助の眼の前におしだしてくる。

『は?はい?え?あ?あああ?なんじゃあああああああ?』

さっぱり、わけがわからぬ。
どうなっているんだ?
新之助が呆けていると、
菊哉は自信たっぷりに
ゆくりとふりむいた。
さてもさても・・・。
おまえさまのおのぞみどおり。
さぞかし、
腰の宝刀は立派にそそりたって・・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・な~~~~~~~~~い!!

なんでえええええええ?

あわれ。菊哉。
菊哉こそ、あわれ。
だが、自尊心をいいほどつぶされても、
くじけておらぬが、
百戦錬磨の陰間。売れっ子菊哉の面目躍如である。
これからが、腕の見せ所。

菊哉はやおら、
新之助のグニャグニャの
宝刀を手の中におさめると・・・・。

こしこし・・しこしこ・・・。

/あの・・・こんなことかいちゃっていいんでしょうか?/
(すみません。作者。つい、素にもどりました)

新之助はといえば、
「はい?え?あ?あれ?あの?あ・・・あ・・あ・・」
なんて、初めての快感に素直に反応してしまい
いつのまにやら、
シッカリ、菊哉の思い通り。
たくらみどおり。

新之助の宝刀をシッカリ手中、
いや、
鞘中におさめた菊哉は
新之助の口から
賛辞をきかねばきがすまない。

自分のまた倉の中に
すべりこんだ男が
自分に
なにをしでかしてくれているのか、
サッパリ、訳のわからぬ新之助である。

ど、どうなってるのじゃ?
こ、これは、なんじゃ?
どういうことじゃ?
なにか、おかしいぞ。
おかしいが・・・・。
「はああ・・・」
なにか、非常に気持が良い。

新之助のたまらぬ声が洩れると
菊哉は
ここぞと、ばかりに腰をゆらめかしながら、
新之助に尋ねたのである。

「新之助さま・・・菊哉はいかがでございましょう?」
「き・・・き・・・菊哉・・」
「はい・・・」
どんな甘言がささやかれるのであろう。
この言葉を聴くのが
陰間の無上の喜びであり、
誇りなのである。
「き・・・き・・・菊哉・・・。
気持がよい。たまらぬ・・・。良い・・・」
うわごとのような夢うつつ。
「ふふ」
売れっ子影間。菊哉の手管におちぬものなどおりはせぬ。
「新之助さま」
満足げに甘えてみせる菊哉である。
「気持がよい。
気持がよい・・・。
じゃが・・・・はよう・・・・
はよう・・・・」
もう辛抱なりませぬかと、
菊哉はいっそう柳のように
ゆらりと腰をゆらめかせてゆく。
「ああ・・・・」
新之助の感極まった声。
「はよう・・・・」
ゆっくりじらせながら、男色地獄に
おとしこむ菊哉である。
「はよう?なに?」
耳元でじらせた事は何かと問いかけ
新之助の口から
菊哉にひれ伏す言葉をきいてみたい。
「ああ・・・はよう・・・・」
「はい?」
「はよう。鞘をみせてくれ~~~~~~~~~」

・・
・・
・・・・
・・・・・・

      ////おしまい/////

追記。

しいて書くならば、
菊哉の言葉である。

「この期に及んで、まだ言うかあああああああ!!あほう!!」

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