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箱舟   (第1部)(第2部)(第3部)

一見みたそのときは、完璧なヒューマノイドタイプで、私たちは

まず、人間のそれも、行き倒れであると

あわてて、救急車を呼び、彼女あるいは、彼を、病院に搬送した。

身元を確認できる物はなく、いっさい、彼女(彼)を証明するものがなく、

名前すらわからなかった。

私たちが身元引受人として、病院での治療費いっさいを支払うとして、

病院側では、彼女(彼)の回復を待って、

彼女(彼)の個人情報を得るつもりだったらしく、

その時点で私たちは病院での手続きを終えラボに帰還した。

ラボの中では私たちがしていることといえば、たとえば、

「異種生物のDNA段階での交雑により、生物のもつお互いの長所を受け継いだ新種の発生」

ようは、混血による品種改良をDNA段階で進める研究をしてみたり、

「異なる環境下において、生物の対応力がどのようにDNAを変化させてきたか、それがDNAのどの部分に記憶されているかの調査研究」

これも、遺伝子工学の部類に入る物だと思うが、地球の環境変化に適応できるDNAを人間に適応することが

できれば、もっと未来の人類存続が保証できるのではないかという

いわば、ノアの箱舟計画ともいえる人類救済の見地からの研究である。

病院から戻ってきて、30分もたたなかったと思う。

病院側が私たちの研究を知っているとうこともあったとおもう。

上に彼女(彼)の身元を引き受けている。

病院から連絡が入った。

「彼女(彼)は地球外生命体であると思える」

病院からの連絡から、1時間もしないうちに、

ラボの中に彼女(彼)を移送し終えた。

昏睡状態に陥ったままの彼女(彼)を、

クリーンルームの奥、生命維持装置が並ぶ

厳重な個室のベッドに横たえ、

彼女(彼)に、点滴を開始した。

病院側が一見、人間の体そのものでしかない、彼女(彼)を見て

地球外生命体と判断したのは、

彼女の血圧を測ったことが最初だったという。

血圧は、無い。

脈も無い。

看護師は慌てて、彼女の生死を確かめた。

心臓も動いていない。

瞳孔は開いたまま。

植物人間?

いや、それならば、生命維持装置もつけず、

生きていられるわけが無い。

彼女は仮死状態にありながら、

もっと、言えば、死んだ状態にありながら、生きている。

醜悪な映画の主人公、ドラキュラのごとく

墓場の土の中に眠るゾンビのごとく、

目覚めるときをまちながら、

仮死状態でいるのかもしれない。

とにかく、レントゲンを撮ろうとレントゲン室に運んで、

撮影した時だったという。

レントゲンの照射により、

彼女の体全体が青白く発光しだした。

レントゲン室内に入ったレントゲン技師は

発光が室内全体にまで青白い光を投げかけている様を

ただ、見続けていた。

ひょっとすると、彼女は放射能を撥ね返しているかもしれない。

被爆しているのかもしれない。

そんなことも考えつきもせず、ただ、呆然と彼女の発光を見つめ続けた。

いつまでたっても、レントゲン室からでてこない技師を

不思議に思いながら、看護士は

彼女を集中治療室に運び入れるための

ストレッチャーをレントゲン室に入れてよいものか、

はたまた、まだ、レントゲンを撮るのか?

尋ね合わせるために技師に声をかけた。

返ってきたのは、技師のかすれた声だった。

「せ・・先生・・よんできて・・早く」

異変を感じた看護士は何らかの応急処置が必要なのだと判断し

まず、自分の目で「患者」の状態を掴んでおこうと思ったに違いない。

だが、結局、レントゲン室に入った看護士は、あわてて、

医師を呼びに行くことに成った。

看護士の報告に医師3名が駆けつけ、看護士とレントゲン技師

都合、5人の目撃者の前で

青白い発光が終息をむかえはじめた。

彼女の体の中に光が吸収され、あたりは元の部屋の明色にもどるまで、

ほんの30秒もあっただろうか?

まず、動き始めたのが看護士だった。

彼女に恐る恐る、近寄ると、彼女の呼吸を確かめた。

次に脈・・。

心臓が動いている。

「先生、呼吸も脈もあります。心臓もうごいています」

看護士の声に呪縛をとかれ、医師達が、彼女の傍に駆け寄った。

「どういうことだろう?」

彼女を、どうするか?

彼女を、どうすればよいのか?

まのあたりにした、青白い光が何であったのか?

彼女の正体はなんであるのか?

いっさい、討論などで、結論の出る物事ではない。

「レントゲンの照射によって・・発光が始まったということは、

たとえば、原子力エネルギーで・・・」

技師の言葉に、看護師はやっと、「被爆」を疑いはじめた。

「先生?彼女をどうするかより、我々の被爆の有無を確かめないと・・」

核融合ににた反応が彼女の体の中でおこり、

彼女は核エネルギーで生命を維持しているとするなら、

まちがいなく、医者や看護師で、解明できる「生き物」ではない。

正体不明の「生き物」を、どうするかより、

今、考えなければならないのは、

「我々」ではないか?

この結論により、

私たちはガイガーカウンターを携え、病院に戻る事になった。


幸い、彼らの案じた「被爆」はいっさいなく、

レントゲン室も彼ら5人も、「彼女」にも、いっさいの数値の変動を見せず、

自然界における、放射能指数が目の前のデジタル数値に現れているだけだった。

こんないきさつで、

彼女をラボに移送しおえると、相変わらず、昏睡を続ける彼女に

点滴を与え、心電図や脳波測定の処置を行った。

心電図は正常な波形を刻み、なんら、一般成人と変わらぬものであったが、

脳波は、複雑な紋様を描き続けていた。

私は脳のパルスをコンピューターで解析してみたが、

なんらかの、「言語」に思える

数字変換がいくつも続き、これが、言語にかわるとしても、

翻訳の材料がなにひとつ見つからなかった。

単純な小動物の脳波をしらべると、

欲求部分と思われる波形が生じることがある。

食欲、排泄欲と思われる、脳波の波や、物音などへの恐れは心電図でも把握できるが

脳波にも、波がおきて、何らかの感情、あるいは伝達信号がおきていると考えられる。

これをもっと細分化すれば、もっと、はっきり感情をもつ

ペットなどは、

飼い主への感情が脳波に表れ、

この脳波を言語に置き換えることが可能になっている。

単純な喜怒哀楽だけでなく、

「ご主人様が心配です」など、かなり複雑な感情までもっていて、

言語に置き換えることに成功している。

これと同じように

「彼女」の脳波を解析にかけてみた。

おそらく、地球の言語に置き換えられないため、

コンピューターは数字という表現になってしまったのだろうと思う。

この推定が正しければ

「彼女」の脳波はなにかを語りかけている。

彼女はあいかわらず、昏睡を続け、

女性である彼女の世話は同じ女性である私の担当になっていた。

点滴だけで、もう丸二日。

その間に排尿などの処置にあたること、6回。

当然、彼女の尿道に管をさしこみ、膀胱を押しながら

尿を排出させることになるのだが、こんなことからも、

彼女の姿かたちに、なんら、地球人とのいっさいの違いは見当たらない。

完璧な地球人でしかない。と、結論せざるをえず

私は唯一の彼女の地球外生命体である証拠である、

脳波解析の数字の羅列をにらみつけることになる。

地球人であるのなら、

脳波解析は言語に翻訳され、さらに地球にあるすべての言語とスクリプトされて

日本語に変えて、表示される。

それが一切ない。

私はこの二日、ラボの中の彼女の部屋を監視できる監査室に泊まりこみ

彼女を見つめ続けていた。

彼女の部屋は滅菌処理が施され

そこに入るためには、いくつもの滅菌処置をおえ、

3重のロック扉を照合させるパスワードと固体認識と指紋照合によるキーの解除

というこれまた、3重の一致をえないと、入れないし、でられないという面倒な仕掛けになっている。

滅菌処理室へはいるためにパスワードと固体認識と指紋キーではいって、

滅菌処理をおえて、彼女の部屋の前の小さな空間に設置された場所で

またも同じ操作をくりかえすわけで、

今の時代にそぐわない手順の踏み方に正直辟易している。

だが、この旧態依然の認識方法のおかげで、

コンピューターハッカーなどによる進入を防ぐことが出来るので、

面倒ながら今のところ、この方法が最善のものになっている。

二日の間、彼女に何の異変もなかった。

だが、三日めの朝、彼女が発光しだした。

青白い炎、陽炎が、薄く彼女の体が取り巻いていた。

私はまだ、ラボに他の人員が着てない時間の彼女の変化を

他の研究員に連絡をいれ、

至急、ラボへの帰還を要請し、

彼女の監視カメラがきちんと画像をとりこんでいるのを確認すると

彼女の部屋に入っていった。
こんな時ほど、厳重なロックシステムが面倒になる。

認識と照合をくぐりぬけ、彼女の傍らに立ってみたものの、

私は、何をなすべきか・・・。

なんの材料も与えられていないままの私は

ただ、彼女の発光をみつめ、その動向を見守るしかなかった。

この発光が以前、病院であったように終息していくものだと思いながら

私は、彼女の変化を読み取ろうとしていた。

さらに彼女の側に近寄り、ベッドの上の彼女を注視していると

彼女の唇がかすかに動いた・・。

音声にならないなにかを私に伝えようとしている。

私は光る彼女の顔をもっと見つめようと彼女の顔を覗き込んだ。

その時だった。

閃光が瞬く。

私の記憶に残っている彼女の変化はそこまでになった。

なにがあったのか、理解できないまま、私の意識は途切れ

私はあろうことか、気を失っていた。

その間、一体なにがあり、

一体、どれだけの時間、気を失っていたのか?

私が意識を取り戻したのは

呼び出しをかけたスタッフの到着による。

異変を呈した室内の状態と

意識を失ってベッドの側に崩れ落ちた私は見つめたスタッフは

まず、私の安否を確かめると

私を揺り動かした。

「大丈夫か?」

かけられた言葉に覚醒した私が見たものはスタッフの困惑の表情だった。

「あ・・・」

私は自分の記憶をさらえ直す。

「彼女がまた・・発光・・」

私の言葉が止まった。

私の目の端のベッドの中に彼女の姿がなかった。

「あの?」

私の失神の間に彼女をどこか別の場所に移動させたのかと考えなおした。

だが、彼女のためのセッティングルームから

彼女を移動させることがまず妙である。

「あ・・彼女は?」

連絡を渡したスタッフの中で彼が一番にこのラボの近くに住んでいる。

その彼が一番に駆けつけたのは間違いがない。

他のスタッフはまだ到着していないと思うが、仮に到着していたとしても、

クリーンルームの中で私が倒れているのをみつけて、

それを後にして、彼女の移動を他のスタッフが行うだろうか?

まず、私を覚醒させてから、事情を聞くだろう?

私の考えの通りだった。

「びっくりしたよ。君が倒れてるし・・彼女の姿がないし・・」

彼の言葉に私はもう一度辺りを見回した。

確かに、やはり、彼女がいない。

彼の言葉の通りだとするのなら、

彼女は私というパスワードを使わずにこの部屋から出ることが出来ない。

「いったい?なにがあったの?」

彼の言葉の裏に、彼女の突然の消滅が語られている。

「判らない・・・大きな閃光を見たことまでは覚えてるんだけど・・・」

そのフラッシュにより、意識をうしなったのだろうことだけは

私にも、考え付くことだ。

「大丈夫?」

彼はもう一度、私の状態を確認する。

「ええ・・大丈夫」

私のことよりも彼女の消滅はどういうことなんだろう?

「モニター映像をみにいきましょう」

きっと、モニターはあの閃光の後の彼女の消滅?を保存しているはずだ。

「たとえば、ワープとか?」

彼の推理の一つを解き明かす鍵もモニターの保存映像の中にあるだろう。

煩雑な認識を潜り抜け、私は彼と二人でクリーンルームをでると

モニター画面の前にたった。

保存された画像を巻き戻し、画像を捉えなおすと

丁度、彼女が発光しはじめたあたりを表示した。

そのあたりから、通常に録画を再生しはじめ、

彼と私は画面をにらみつけた。

結果だけを言おう。

発光する彼女の傍らに私がにじり寄ったその直後に

閃光がモニター画面を、真っ白にしていた。

光のフローオーバーにより、

なにもモニターにとりこむことが出来なかった。

閃光が1分ちかく続き、その後

突如画面が実像を映し出した。

だが、

倒れた私の傍らのベッドの中には

もう、彼女の姿はなかった。

それから、3~5分後に彼が現れ、私を揺り動かしていた。

と、いうことは、彼女が消滅してから、まだ15分そこそこということになる。

「わからないね」

彼はモニター画面をもういちど、巻き戻し、閃光する部屋を

スロー再生で見つめなおしていた。

「どう考える?」

私は彼女の消滅を受け入れるしかなかったが、

その消滅が、どういうことなのか、考えつけずにいた。

「ワープ・・か?それとも、本当に消滅したのか?そういうこと?」

彼もまた、彼女の不在を受け止め、不在の理由を考え直している。

「ワープなら・・いいんだけど・・。

消滅・・だって、そんな気がしてならないの」

私観でしかない。

「なぜ?」

何故消滅だと思うのか?と、私に問い直しながら

彼もまた、どこかで、消滅であることを類推していた。

「たぶん、あなたもおなじことを考えているとおもうけど・・」

ワープで彼女は飛んで

どこかで、彼女が生きている、と、思いたがったのは、私も同じだったから

いっそう、ワープの理由がなりたたないことも、考えつけた。

その考えは彼女の消滅の仮定論理に批准する。

「彼女は、どう考えても地球外生命体でしかないと思うの。

そして、彼女は・・」

彼は私の推理と、自分の推理が同じ物であることを照合させるためか、

黙って、私の話を聞き続けていた。
私が考えたこと。

それは、彼女の生命を維持するエネルギーだった。

地球外生命体である彼女が何らかの理由で地球にやってきた。

その理由を知ることができないまま彼女は消滅してしまったわけだが、

地球に、彼女の生命を維持するエネルギーがあったからこそ

彼女は地球で生きていけた。

ところが、彼女の生命を維持するためのエネルギーが少なすぎた。

そして、突然?

たぶん、突然だろう。

彼女は命をなくしかけていた。

単純に言えば、エネルギー不足による、「飢餓」状態に陥っていた。

そして、昏睡の果て、ラボに収容されたわけだけど

私は彼女の発光がレントゲンの照射により始まったことを思う。

おそらく。

おそらく・・でしかない。

彼女は「放射能」をエネルギーとして、捕食していたのだと思う。

地球上にも、自然放射能がある。

彼女はそれを吸収しながら、生きながらえていたのではないのだろうか?

一種、原子力発電所のようなエネルギーサイクルによって、

放射能を生命エネルギーに変えていると考えるなら、

彼女の消滅も

原子力発電所の核融合が飽和して、爆発を起こす理屈が当てはまる。

原子炉である彼女の肉体が健常で正常な状態なら

適度なエネルギー循環がスムーズに行われる。

だが、彼女の肉体は瀕死に傾いていた。

原子炉が内部のエネルギーを抑圧し、正しい循環を促せなくなった環境で、

彼女は自分の身体を昏睡させ、最低限のエネルギー消費で生命を維持するしかできなかった。

そこにレントゲンの照射。

これが引き金になり彼女の中で

たとえて言えば、核融合がはじまったのではないのだろうか。

細胞内部での核分裂。

飽和しきったとき、彼女の自己破壊につながる。

どういうシステムになっているのかわからないが

放射能を捕食しながら生命を維持する彼女という地球外生命体は

その肉体の始末も、自分で行うということになるのだろうか?

まるで、日の光に塵ときえゆく中世期の伝説のヴァンパイヤのようだ。

いや、ひょっとすると、

中世の伝説のヴァンパイヤも別のタイプの地球外生命体だったのかもしれない。

そんな私の考えを彼は黙って聞いていた。

そして、

「そうかもしれない」

と、だけ、うなづいた。

私が考えたことを一通り彼に話し終えた時

ラボのほかの人員がラボに到着していた。
ラボに帰還した人員に彼女の消失を伝えると、

スタッフは私の見解を聞きながら再び再生された

彼女のモニター画像を見つめ続けた。

「ここ?」

彼女の唇がかすかに動いた画像をスロー再生で見ていた一人が

画像をフリーズさせた。

停止した画像が拡大され、彼女の唇がかすかに開いていた。

ゆっくり再生を繰り返しながら、

音声パルスを分析し始めたスタッフは私に尋ねなおした。

「脳波は地球外生命体のものであったとしても、

地球人に紛れ込んで暮らしていたのだろうから、

当然、言語は地球の物をしゃべると思うけど、どうだろう?」

一見して地球人にしか見えなかった彼女の外観を考えても

スタッフの推察どおりだと思う。

音声分析は周波数を読み取る優れものだから、

人間の耳に届かなかないほどの小さなパルスも分析する。

このパルスの波形は間違いなく言語に翻訳できる。

だが、あのわずかな呟きでは、彼女の消滅のなぞを解き明かすほどの

重要な手がかりにはならないだろうと思われた。

だが、

スタッフは別の方法を考えていた。

「この言葉を発した時の脳波と比べてみていけば

ひょっとして、脳波の解析ができないだろうか?」

ワンピースすぎるが、もはや、彼女の消滅のなぞに近寄れる物はそれしかない。

パルスの分析をおえたとインフォメーションを伝える機器の画面を覗き込んだ彼は

小さく、首をかしげた。

「なんて?」

私も画面を覗き込んでみた。

画面に刻まれた文字は思ったとおり短い物でしかなかったが、彼女が発した音声が

-箱舟-で、あることに

スタッフも私も、奇異を感じた。
私たちの研究自体、人類救済を目的としている。

異なる環境、あるいは急激な環境変化に適応出来るために、

あらゆる条件に適合できるDNAを急速に成長させる。

たとえば、低温。

たとえば水中生活。

その条件に見合う生物のDNAを人間に移植する。

仮に水中生活を余儀なくされたとしたら、

たとえば「いもり」など両性類のDNAを移植し

それを急速に成長させる。

これで、人間はイモリのように水中でも陸上でも生活できる。

こういう風にあらゆる「環境条件」のDNAをそろえ

人間への移植と成長促進が確立すれば

地球上にどんな環境変化がおきても人類は生き延びることが出来る。

この研究を私たちは箱舟計画と名づけていた。

だから、彼女の発した「箱舟」は偶然の一致と片付けるに片付けられない

「一抹の危惧と無念」を味あわせていた。

何故「危惧」と「無念」なのか・・・。

私は彼女もまた「箱舟計画」を成功させた地球外生命体ではないかと思ったからだ。

たとえば、彼女の星は、星自体が消滅する。

そんな危機に立たされているに違いない。

星からの脱出以外助かる道がなくなった彼女の同胞は

「箱舟計画」のモデル生物を地球にも求めに来た。

そして、実験体として、彼女が地球人のDNAを取得し、

急速に増幅させ地球人に成りすますことが出来た。

ところが、彼女たちの捕食エネルギーは自然界における放射能だったと考えた時

捕食にたる放射能エネルギーを摂取できなかった。

彼女という実験は不成功に終わったと考えてよいだろう。

そこで、一つの無念。

私の想定が間違っていなかったら

「箱舟計画」の成功理論を導き出すことが出来なかったという事。

そして、危惧。

おそらく外見も地球人そのままの彼女たちが

捕食エネルギー問題だけで、地球への進出を諦めることはないのではないだろうか?

エネルギー捕食の難点を克服できれば、

彼女たちは地球にやってくる。

そして、気がついた時には地球人類が消滅していて

彼女たちが地球を掌握している。

こんな事態にもなりかねない。

彼らとの共存を果たすためにも

地球の環境変化に適合できる「箱舟計画」を完成させなければ

地球人は環境変化の時に滅びる可能性がある。

これらは、あくまでも危惧でしかない。

だが、まちがいなく

彼女たちは地球人にまざりこんでくる。
私の不安や推理を、いくら突付きまわしてみても

それは、杞憂というものにすぎない。

とにかく、彼女の発声と脳波を照合し、

不可解な文字の羅列を私たちの言語に翻訳するしかない。

それによっては、

杞憂が杞憂に過ぎなくなるかもしれないし

やってくる異種生物を見分けていく方法を探さなきゃ成らないかもしれない。

まずは、脳波。

時間軸と照らし合わせて、彼女が「箱舟」と発声したあたりを

まずデータから取り出し、並べてみることにしたのだが・・・・。

私は開かれた「文字列」を、なんども、なんども、見つめなおした。

確かに数字の羅列だった「文字列」は

私たちの言語に翻訳されている。

誰もパソコンに「箱舟」と「脳波」を照らし合わせ、解析するよう「実行」なぞかけていない。

いったい、どういうわけで、

あれほど難解だった脳波の翻訳をおこなうことができるようになったのか?

だが、そんな原因の追究をするより、さきに、私はその文字列を読まずにおれなかった。

その内容があまりにも、ショッキングであり、

すくなくとも、杞憂が杞憂でしかなくなり、

私の推理の半分は外れていた。

私はよみかけていた「脳波の翻訳」がまもなしにとだえ、

ことの重要性におののきながら彼女の脳波を取り始めた最初に戻った。

箱舟の発声以降でないと、翻訳が出来ていないのかもしれないと思いながら

最初の「脳波」の翻訳が立ち上がってくるのをまった。

そこに書かれていたこと。

それはまさしく、まぎれもない「箱舟計画」だった。

私は今、それを、みんなにどう伝えようか。

そして、私が読んだことを、他のスタッフがどううけとめるか・・・。

迷いながらみんなを呼び集めた。
私自身、翻訳された文章の意味をまだ、はっきりと理解していない状態だった。

むしろ、その意味合いを的確につかみとるためにも、みんなで協議するべきだと思った。

「どうした?」

「なにか、わかった?」

と、スタッフが私の周りをとりかこみ、

一様にパソコンモニター画面をのぞきこんだ。

「説明してくれる?」

スタッフのひとりが、画面をみつめながら、かけた言葉に私は多少の違和感を感じていた。

見ての通りの文字列をまず読もうとするか、

解析文字列の存在に解析成功への驚きか賞賛があってもおかしくないだろう。

だけど、変哲ないものを眺めるように・・・。

おまけに、読もうともせず、説明してくれという反応は奇妙すぎた。

だが、その奇妙な反応が無理ないとすぐに判る。

「なにが、わかったの?」

私の顔がこわばっていくのが、自分でもわかる。

私の表情が固まっていくのを覗き込んで、スタッフは

おそろおそる、不安気にたずねた。

「どうしたの?なにか、恐ろしいことがわかったってこと?

だったら、なおさら、解説してくれなきゃ

私にはわからないわ。ただの数字の羅列にしかみえないのよ。

あなたが解読できるようになった「鍵」をおしえてくれなきゃ・・・」

私の喉がこくりと生唾を飲み込んで、

恐ろしい事実を伝えまいとする。

スタッフには判ろう筈もないことだけど、

「数字の羅列」にしか見えないものを、私は間違いなく言語として読んでいて

それは、つまり、その書かれていたことそのままの状況を呈しているだけに過ぎなくて

私は自分が言語として直によめるという事実を説明する、その裏にある真実を

自分でも認めることができなかった。

であるのに、私は「裏の事実」を説明しなければならない状況に自らをおいこみ・・・。

追い込みながら、私の口から事実を説明する恐怖にもとらわれていた。

「どうしたの?顔色まっさおよ。

そんな恐ろしい事実がかかれてあるのなら、

しっかり説明してくれなきゃ・・。

それに、こんなことは、貴方一人だけの問題じゃないのよ。

地球人類の存亡に関る場合だって考えなきゃいけない状態で

貴方個人の恐怖心を克服できないようじゃ・・」

まくし立て始めたラボ人員としての心構えなんか、私だってよくわかっている。

「判ってる・・ちゃんと、説明する。説明するけど・・どう説明すればよいか、

すこし、組み立てる時間がほしい・・んだけど・・だめかな?」

大きなため息と不安そうな表情と私への心配と

いろんな感情が入り混じったスタッフの顔と声が、ひどく、私とかけはなれたものに感じられた。

しばしの猶予を取り付けると私はもう一度、解析された・・・

いや、正確には私だけが読めるようになった文字の列を読みかえした。

書かれていることをそのまま、伝えることが、

なぜ、私への恐怖になるか・・・。

とても、簡単に告げられそうもないのは、

私が、私の現実から逃避したがっているせいもあるし、

ひょっとして、私が白日夢をみているのかもしれないし、

もっと、いえば、私の思考回路がくるったせいかもしれない・・。

もう一度読み直す。

『私は貴女にむけて、メッセージを送っています』

この「私」は彼女に他ならず

貴女はこの私のことに相違ない。

『貴女が私のメッセージを読み取ることができるようになったとき

私は貴方たちの前から消滅してしまったように、思うでしょう』

今、確かに私は彼女のメッセージを読んでいる。

そして、彼女は消滅している・・・筈なのだが、

彼女のメッセージをたどると、消滅したように見えるだけで、

彼女はどこかに存在しているということになる。

やはり、テレポートなのかとはじめに読んだ時はそう思った。

『私たちは、私たちの星の消滅を察知して、

あらたな、居住場所をさがしはじめたのです。

いくつかの候補地があったのですが、

やはり、元々の星の住民と同じヒューマノイドタイプの地球人が最有力候補にあがり、

まず、私が実験をかねてやってきました。

私たちが移住しようとしている場所は地球ということになるのですが、

私たちは、寄生型生命体なので、移住といっても、

地球の人口が増えたり、私たちの一族が地球人と衝突するということはいっさいありません。

地球にやってきた私が最初に見かけた地球人に寄生し、

貴方たちの推測どおり、私は自然放射能をエネルギーとして捕食していたのですが、

宿主が突然の心臓発作で死亡してしまったのです。

あらたな宿主を見つけ、寄生しなおすために

大きなエネルギーが必要だったのですが、

宿主の体を生きている状態に保つだけが精一杯の私は

宿主の中に閉じ込められたまま、路上に倒れこんでしまったのです。

その宿主を見つけて、貴女たちが病院に運んでくれた。

宿主の健康状態や外見そして、性格。

これらは私たちにとっての環境そのものなのです。

そして、私はあの時、

貴女を宿主として選んだのです。

そのためには、まず、貴女との接触を作る。

とにかく、宿主の身体を操作し、通常の生命活動を維持することだけを考えました。

そこにレントゲンの照射が行われ

私のエネルギー捕食は蓄積され、

宿主の死んだ身体を蘇生させることができたのです。

ですが、いわば宿主は生命維持装置をつけた状態でしかなく、

植物人間のように昏睡するだけ・・。

これでは、私のほうが、いずれ

エネルギー不足によって死亡してしまいます。

私は貴女に寄生するチャンスを作ろうとおもっていたのですが、

ひょうたんからこまというのですか?

あなた方のかっこうの研究材料になってしまったようで、

私は貴女に近い場所に移送してもらえることになったのです。

この三日、貴女に寄生するためのチャンスをまちながら

私は貴女を待っていました。

これで、貴女が私のメッセージを読めるわけがお分かりなったことと思います。

そして、もう一つ。

「箱舟・・・」

これは、

「運ぶ・・ね」

私の生命体を貴女の中に「運ぶ・・ね」と、お伝えしただけに過ぎません』

彼女が私に寄生した。

この事実をラボのみんなに伝えたら

私はいったい、どうなるのだろうか?

実験材料として私はラボの中に隔離されて

この先、牢獄のようなクリーンルームにとじこめられて、

研究の結果がでるまで、私は私の人生をなくす。

研究の結果がでても、私はどうなるのだろう?

彼女がそうであったように、他の生体に寄生・・・のりかえられないように

私は他のだれとも接触できなくなる。

つまり・・・研究という名前の拘束ということになる。

でも、この事実をしゃべらないでおけば、

彼女のほかの仲間が地球におしよせてきて

地球人に寄生してしまう。

私はそこまで考えて

事実を告げるべきか、どうかを検討しなおしている。

検討材料として、まず、寄生という事実が本当なのかどうかということ。

実際、私も、彼女の脳波解析を読んだだけで、

寄生されたという自覚症状はいっさいない。

証明できない話は仮定以前の妄想や空想に過ぎなくなる。

寄生を証明するための実験を受けなければならないということになるのだろうか?

あるいは、スタッフが私のいうことをどこまで信じるのだろうか?

いや、それより以前に

今、この私が寄生されたことの自覚症状もなければ

これといった実害がないということは、

たとえて言えば、

例えば、腸内に大腸菌がいるからといって、

病気にならないのと同じように

実害のない共生あるいは寄生というものは

ただの自然現象でしかなく

このまま、放置しておいても何事もないのだろうか?

寄生した彼女が私になにか、語りかけてくるわけでもないし

私を操るわけでもなさそうに思える。

私に例えばホクロができた。

そんな変化でしかないということなのだったら、

私はわざわざ、事実を話して

隔離される人生、生体観察の材料にされるだけなら、

私はなにも、しゃべらない方が良いという事になる。

それは、あるいは、彼女も計算済みだったのじゃないのだろうか?

事実を話したら私がどうなるか・・・・。

私が何もしゃべらずにおくことを選んだ後に

彼女は私を支配しだそうと考えているのだろうか?

もし、そうなら、やはり、話さなければ成らない。

イエスかノーかという単純な選択ほど難しい物はないといってよいだろう。

彼女が寄生するということで、

私にいったいどんな変化がおきているのだろうか?

私にはいっさい、寄生されたという自覚症状がなく、

彼女が私に事実を告げなければ

私は寄生されたとは気がつかずにいたはず。

何故、彼女はわざわざ、メッセージを送りつけてきたのだろう・・・。

私の思考はまだ寄生の事実を認めていない。

なにか、とんでもない策略があって、

寄生したことにしているだけで、本当はもっと違う計画で地球人を掌握しようとしているんじゃないか?

私の口から小さな呟きがもれ、

スタッフがそれを聞きとがめた。

「判らない?って、それ、貴女が自分の範疇で考えるからでしょう?

判らないからこそ、みんなで協議していく必要があるわけじゃないの?

貴女・・・ちょっと、おかしいよ・・」

「え?」

振りかぶった私の目にスタッフの少し困惑した顔が映りこみ

それが、突然の驚きの表情に変わったとき

私はまたも、意識を失っていた。

ほんのわずかの間の失神だったのは、

覗き込んだスタッフの表情でわかった。

まだ、私に何がおきたのか、判断しかねた顔が理解を呈する。

理解したスタッフの一人が私にたずねる。

「貴女、そういう病歴あったっけ?

あるわけないよね?あったらラボスタッフになれないもの。

だとしたら、後遺的なものだよね?」

私も自分のわずかな時間の失神を考えていた。

確かに後遺的なものでしかない。

スタッフの懸念することが私の脳裏に浮かぶ。

彼女の発光の照射による後遺症・・・。

スタッフが考えたことはそういうことだろう。

そして、私が考えたことといえば、

私の失神は

間違いなく「彼女の寄生」を告げようとした実行へのシャットダウン。

彼女は寄生主だけに事実を伝え

寄生にかかわることを寄生主が他に伝えようとしたときに

事実を隠蔽させる。

そして、それは、彼女の存在を私に主張し、誇示しているとも言える。

私は彼女の寄生について、あえてもう一度話そうとすることで

彼女の私の行動をシャットダウンするか、試してみることにした。

おそらく、立て続けの失神によって、スタッフは私の心電図・脳波・・もろもろの

チェックを行うだろう。

私はまず、私の失神が起きたら、生体チェックをおこなうようにと、スタッフに

念をいれておこうとおもった。

だが、私の口から出てきた言葉は私の意志とはかけはなれたものだった。

「ごめんなさい。徹夜続きで、まいってしまってるんだと思うの。

そして、彼女の脳波解析を照合した結果

彼女の「箱舟」は一種、テレポートだと思うの。

丁度、彼女が消えるまえに発した「箱舟」は彼女の母船とのコンタクトをとる呼びかけじゃないかと・・・」

とってつけたような説明をしゃべりだす私をスタッフは怪訝な顔でみつめていた。

「それが、どこで、照合できたというんだ?」

つじつまの合わない説明は彼女の仕業でしかない。

私は寄生の事実を認識するとともに、

どうすれば、彼女が寄生型生命体であることを伝えられるか

それを考えていた。

私の中にまるで、サトリの化け物がいる。

私の意思をよみとって、寄生の事実にふれようとすると

サトリの化け物は私を支配しだす。

「ですから、この部分・・・」

私は脳波の数字羅列をポイントする。

「この部分が「箱舟」の文字を発声した部分になります。

そして、この発声が何度か繰り返されている。

まるで、呪文か、呼びかけのように・・・」

箱舟の発声文字列と照合される文字列をマークしてみると、

確かに何回か繰り返される。

でも、それは、彼女が私によこしたメッセージのそのままでしかない。

箱舟は「運ぶ・・ね」だという彼女の解説部分でしかない。

私を差配しだした彼女の言い分に

スタッフはかすかにうなづいて見せている。

このままでは、私は彼女に寄生されたままになる。

どうすれば、サトリの裏をかいて、

寄生の事実を伝達することができるだろう。

「ですから、彼女は母船?おそらく、母船にテレポートした。

と、私は判断するのですが・・・」

彼女という生命体はもう二度と私たちの前にあらわれることがないだろう。

と、

彼女は今回の事件と地球外生命体の存在とのコンタクトを

締めくくろうとしていた。

このことで私の進退は窮まった。

何とか画策しようとする私の思考に彼女が入り込んできていた。

私の裏側で彼女の怨念にも似た思いがひびいてきていた。

何かしゃべろうとしても無駄でしょう?

私は彼女に寄生された事実さえ、誰にも告げることは出来ない。

助かる道はない。

ただ共存あるのみ?

この事実を受け入れさえすれば、彼女は私の表面上に現れることなく

私を差配することはない。

彼女がそう言った気がした。

         (終)


箱舟   (第2部)

(箱舟(第1部)を書き終えた私だったが、

物語の終わらせ方がしっくりこなかった。

だいいち、-私ーはこの先どうなってしまうんだろう?

彼女と共存するにしたって、どういう風に共存していくんだろう?

寄生植物を考えたって、寄生側が宿主を殺してしまうようなことを

しないのとおなじように、彼女が宿主に必要以上のコンタクトをとらないのはわかるけど、

どうなるんだろう?

もうひとつの案でもう一度かきなおそうか?

そうおもいながら私はカレンダーをちらりとみた。

某出版社、編集長からのじきじきのお声がかりで、

私は箱舟を書き始めた。

猶予は1週間。短編でよい。

新進作家の登竜門でもある機関紙に載せてもらえれば

私は作家になれる。

だけど・・・・。

こんなもんじゃだめだとおもう。

おもいながら、

この箱舟に妙な愛着がわいていた。

そうだ・・・。

編集長に一度よんでもらって、

意見をもらったほうが、私の妙な愛着がときはなてるかもしれない。

案外、こういう終わり方もおもしろいといってもらえるかもしれないし

そうじゃないかもしれない。

それを決めるのは、読み手だろうし、

今の私は、まだまだ、読み手視線になれそうもなく、

明日一番のバスに飛び乗るためにも、

箱舟をプリントアウトすることにした。

バスをおりて、5分あるく・・。

まだ、頭の中で箱舟の終わりかたがきになってしかたがない。

なんだか、まだ、続きがあるはずなのに、

終わらせてしまった。

そんな後悔に似た思いがわいてきて

あの結末にきまったわけでもないのに・・・

と、独り言で書き直しを命ぜられた自分を宥めると、

いつのまにか、出版社のビルの前・・・・。

さあ、だめおしもらうかあ・・・。

ちょっぴり、勇気をふりしぼって、編集室へのエレベータにのりこんだ。

エレベーターをおりて、右・・・。

しぶい顔の編集長を想像するのも、

書き直しへの覚悟への激励かな?

けっこう、自分で妙にきにいってるんだって、

改めて自覚できたのだけが、収穫。

ドアをノックしてそっと顔をつっこんで、あたりをみまわす。

なんだか、ざわついた様子・・・。

編集長・・・・は・・・デスクにすわって、覚悟以上の渋い顔。

前にも同じ顔をみたことがある。

締め切りにまにあわないぞって、怒鳴りあげたあと、

女流作家さんの原稿の到着を催促していた。

切り替えの早い人で、私をみつけると、いつもの穏やかな編集長にもどったけど・・。

今日も、また、私は遅刻常習犯の例の女流作家さんの悶着に遭遇してしまったのだろうか?

「あの・・・・ぅ」

デスクの前まできてから、私はまともな挨拶をかんがえつけない自分にうわずってしまう。

「ああ、いらっしゃい。もう、書き上げた?」

「いいえ・・そうじゃなくて・・・あ、そうなんですけど・・あの」

しどろもどろに成る私に編集長も察しがよい。

何度もこういう場面を体験している場慣れが編集長の察しを良くし、

はからずも、助け舟にすがる私になる。

「下書きかな?読ませてもらおうかな?」

「はい。お願いします」

伝えたいことも、説明したいこともうまく口に乗せられなかったのは

私の機転のきかなさのせいばかりじゃなかった。

左手のドア近く・・集まったスタッフ、なにか、無言で沈鬱。

編集長はそれをちらりと見つめる。

その瞳のなかに困惑した色がまじってみえ・・・。

あわてて、私に視線を移し変えた編集長だったけど、

こんな時に限って気が回るのが、私。

「あの?何か、とりこんでるようですので・・でなおしましょうか?」

編集長は一瞬、え?と声をあげかけた。

だけど、薄く開いた口の中に「え?」をのみこみなおすと、

「いや、別にいつものことだよ。企画がにつまらないんだよ。

どれ、読ませてもらおうかな?」

編集長じきじき。

こんな幸運が転がり込んでいるというのに

私はちょっと、ありがたみが薄い人間なのかもしれない。

「あの?いいんですか?本当に?」

私の直感でしかない。

何か、編集長は「常」を装ってる・・・。そんな気がして重ねた言葉に

編集長の瞳の奥がこわばった気がした。

わずかの時間だったろう。一瞬、編集長は考え込んだように見えた。

その考えの結果、本音を少しだけ漏らした。

「今ね・・穴が開きそうなんだ。穴埋めって訳じゃないんだけど・・・

ピンチヒッターが欲しいってとこでもあるんだ。

そんな時に君が原稿を持ってきてくれるってことは・・。

天恩将来って、とこかなっておもったりしているんだ。

だから、ぜひともよませてもらいたい」

ふ~~~~ん。そうなのか・・・。

きっと、また、例の女流作家だな?

とうとう、原稿が間に合わなかったってことかな?

編集長が原稿を読んでる間、スタッフの一人がいれてくれたコーヒーをすすりながら、

私は編集長の顔をじっとみてた・・・・。

編集長の顔をちらりちらり。

どちらかというと、じぃ~~~って、みてるにちかいわけだけど、

さすがに顔色伺われながらじゃ、よみにくいだろうって、

コーヒーをちょろちょろ、すすりながら、

カップをすかして上目遣い。

私が心配するほどのことはない。

編集長はかなり、没頭して読んでる。

こっちのことなんか、きになるようじゃ、編集長なんかになれはしないか。

没頭。まさにくいいるように読み続ける編集長。

単純頭は最初は「読ませる」ことができるんだって、よろこんでた。

だけど・・・。

次第に強張って来る顔。

あまつさえ、一筋の汗・・。

感動のあまり・・・。って、わけがない。

こわばるだけなら判らないでもない。

なに?あの一筋の汗?

そんなに穴埋めの期待をぶっ潰すほどの駄作だったってことか?

編集長の手から箱舟をとりもどしてしまいたい衝動をおさえながら、

私はコーヒーをすすることさえわすれ、

あえて、拷問を受け止めるために、編集長の顔色を見つめ続けた。

「あ・・」

衝撃から我に返ったときって、こんな風に呆然とするんだろうって、思う。

編集長は原稿から、目を離すと私にむきなおった。

でも、最初に出てきた言葉は、かすれた「あ」だけ・・・。

私もなんと、尋ねればいいか、判らない。

だめですか?

そんな念押しをするのも、妙なことだろう。

編集長の顔がすべてを語っている。

どういう風に惨い判定をつげようか、迷う編集長の心を

うまく掬いとる言葉がみつけられず、

私もだまりこんでしまう。

静寂っていうのとは、違う

重苦しい沈黙をやぶったのは、編集長だった。

「これ・・?あなたが・・自分でかんがえて、かいたんだよね?」

あたりまえじゃないですか。そう、いいかえすこともできたけど、

あまりにも、ぱくりっぽい?

あるいは、ベタ物設定・・・。

オリジナリティに欠ける。

そんなものしか、かけないってことは、作家になるのは無理だね。

編集長の言葉のニュアンスがよみとれて、私は

「はい」それだけしか答えられなかった。

「そうだよね。そうだよね」

同じ言葉で、編集長は自分の中の煩悶をねじふせてる。

もしも、いえ、知人の案を・・と、嘘をいったら、どうなっていたのだろうか?

たいして、結果はかわらないだろう。

この編集長ともう、会うこともなくなる。

出版社にくることもない。

物にもならない状態は子供のままごと遊び。

私は・・もう、書くこともなくなるんだろう。

そんな決心を自分にいいきかせなから、

編集長の判決をうけとめようとしていた。

すこし、顔をあげて、目だけくるりとあたりをみわたす。

『さよなら・・』

もう、これで、みおさめ。この場所・・おしまい・・・。

悲壮な覚悟がついたのを見越したか、

編集長はおもむろに、口をひらいた。

「あのね・・」

編集長の口からでてきそうな言葉を私は選ぶ。

やっぱり、弾劾されたくない。

臆病者は精一杯の防御の言葉をくりだして見る。

「私、あの、自分でも巧くかけてないって思ってます。

急におわっちゃって、変です。

でも、そこまでしか・・書けない自分だってよく・・わかり・・」

不覚。

涙で声が上ずってるじゃないか・・。

編集長は私をじっと、みつめていたけど、その顔が急にくずれた。

「ああ?そんな風におもわせてしまったんだね」

すこし、笑いをかみ殺していたけど、

殺した笑いがそのまま消えていった。

「私は君にたのもうと思っているよ。

いや、君じゃなきゃ、かけないんだ」

慰めの言葉にしちゃ、大げさ。

とってつけたようなをとおりすぎて、

買いかぶりのおちゃらかしがすぎて、

私はむしろ、ほどけていった。

こんな風に持ち上げの嘘をいわれてまで

書くことに執着しなきゃならないなんてばかげてる。

作家になりたい。

それは、たった今妄執でしかなくなった。

その妄執の結び目がきれいにほどけた。

気分がさっぱりすると、

やっと、饒舌がもどってきた。

「いいんですよ。私、本当に。

こんな不出来な作品を世の中にだすなんて

だいそれたかんがえというか、

驕っていたって、きがつきました」

編集長は一瞬むっとしたように見えた。

当たり前かもしれない。

一極の編集長がこんな小娘をおだてあげる腰の低さで応対しているというのに・・。

「いや・・そうじゃないんだ。

いや・・。君の言うとおりでもあるよ。

ただ、君じゃないと書けない。

これは嘘じゃない」

またまた、ご冗談を。

いやいや、こんな不出来な作品は確かに私じゃないとかけないか・・・。

笑いがこみあげそうになるのを真顔に引き戻させたのは編集長だった。

あの困惑した顔が皮一枚うしろにうかびあがった。

「君じゃないとかけないんだよ・・」

編集長はデスクのA4封筒をとると私の前に突き出した。

「君は察しがよい。

私が問題を抱えているのをすぐにみすかしてしまう。

私も君にはなにも事情を説明せず、

執筆を依頼したいとかんがえていたんだけどね。

君の箱舟を読んで、君じゃないとかけないと判った。

判ったから話そうと思う」

も・・問題を?私が解決できるという意味合いだよね?

なんで、私じゃないと書けない?

なぞを包んだベールを引き剥がす前に

ベールがあることにやっと気がついた小娘は

編集長の謎解きをまつしかなくなってしまった。

「水島かな子知ってるよね?」

編集長の口からもれてきた名前は、例の売れっ子作家。

そう、あの原稿遅滞常習犯だ。

なるほど、とうとう、穴をあけてしまったんだ。

私は半分納得して、

あとの半分は憤慨していた。

ようは、穴埋めに使いたいってことじゃないか?

売れっ子作家の穴埋めになれるほどの技量があるかどうかを考えれば

憤慨する余地なぞあるわけがないのだが、

妙な自尊心だけが頭をもたげてきていた。

「原稿がまにあわないってことですか?」

嫌味口調になっていた。

間に合わないから、間に合う人間の原稿でも使うかと?

その穴埋め根性をカバーして「君じゃないと」とは

あっぱれなおだて作戦をつかいすぎて、ヤッパリ、姑息。

「いや、そうじゃないんだ。

いや、そうなんだけど・・」

今日はこの科白二度目。

なに?妙に奥歯に物がはさまってるじゃない。

「実はね・・・」

言いたくないことを聴いてもらうための常套文句。

だけど、そこを聴かなきゃ、話さなきゃ、見えてこないことがあるのも事実。

私はとりあえず、拝聴の態を示すために大きくうなづいて見せた。

大きく息をすって、編集長はため息に聞こえる息吹で

一気に「音」を吐き出した。

「水島かな子本人が小説をかいているわけじゃないんだよ。

ゴーストライターが居るんだ」

「つまり、穴をあけたのは、ゴースト・ライターさんだってことですね?」

それが、どうしたっていうんだろう?

売れっ子作家であろうが、ゴーストライターであろうが、

「穴埋め」に使われるということに変わりはないじゃないか。

ゴーストライターなんていうのは、その言葉が出来たように

そういう存在があるからこそ。

作家が編集しなおしてもらうということだって、

考えようによってはそこはゴーストが介在してるってことで、

その割合がどこまでの物かの違いでしかない、なんて認識がある私は

水島かな子の作品がゴーストライターの物だってことを意に介していなかった。

一種、歌手のように、作詞、作曲が歌手本人でなく

曲を売る才能や資質やチャンスをものにした歌手が歌う。

水島かな子も美貌や人をひきつける魅力という販売力をもっていた。

おそらく、ゴーストライター本人がいくらあがいても

その小説はうれることなく、お蔵入りになってしまったことだろう。

共同戦線をはったと考えれば、ゴーストライターにとっても

自分の作品が売れてうれしいかもしれない。

「驚きもしないところをみると、君もうすうすかんじていたのかもしれないね。

だけど、ゴーストライターなんていうのは、一過性の読み物だけにしておくべきだったと思うよ。

水島かな子の作品は、予想以上の売れ行きで

もう、いくつもシリーズが出ているのは周知のことだと思う。

ところが、そうなってしまうと、水島かな子も、もう、ゴーストライターなしではどうにもならなくなるし、ゴーストライターも一生、ゴーストライターのままってことになる」

予想以上の反響・・・。

ゴーストライターの才能と水島かな子のタッグは一生、続けるしかないってことになる。

すると、私は?

穴埋めでなく、私の名前で作品を発表するのでなく?

ゴーストライターのゴーストライターにつかわれるということになるのだろうか?

ふと沸いた疑問がいかにも「君じゃなきゃ、書けない」って言葉を明かしているきがしてきた。

水島かな子のエンターティメントぶりが売名行為のいやらしさにかんじられて、

私は水島かな子の作品をこけにして、ひとつも読んだことがない。

だけど、私の憶測が正しければ、私のものが、

水島かな子いや、ゴーストライターと同じようなムードをもつ文章ってことになるに違いない。

「一過性の作品で終わって、水島かな子も一発屋でおわるだろうという予想に反して

一介の女優が文壇にのしあがってきてしまったら、もう引っ込みがつかなくなってしまったんだ。

結局、何作もヒットをかさねていたんだけど・・・。

・・・・・・・・。

ゴーストライターのほうがね・・」

逃げ出したかあ。

自分の作品が自分のものにならない。

予想以上の反響が出れば出るほど、名声はすべて、水島かな子のもの。

嫌気がさす以前に私なら絶対、ゴーストーライターなんかになりたくない。

どうやって断ろうか。

まだ、編集長の口から執筆依頼ならぬゴースト依頼がでないうちから、

私はうまく切り抜ける方法を模索していた。

下種のかんぐりっていうのは、どこまでも際限が無い。

ゴーストライターは逃げ出すだけだろうか?

いやいや、きっと、表に出たいとか?

それを種にして慰謝料をもとめるとか?

どっちにしろ、損害賠償とともにこれ以上の執筆は続けないと宣言したに違いない。

勝手な類推にふけっていた私だったけど、

自分の推理の欠落点がみえていなかった。

ゴーストライターが別の場所で執筆をつづけることが可能かどうかということ。

一回の無名作家になって、どこかに原稿をもちこんだって

「水島かな子のコピーはいらない」

そういわれるのがおちだろう。

だとすると、執筆、このさい断筆だろうけど、

断筆するために莫大な示談金をもらって、

それで、納得するだろうか?

だいいち、それなりの報酬をもらってるはずだろう?

イーブンもしくは、印税全部をゴーストライターに渡したって

水島かな子はちっともかまわないはずだ。

金でかえない名声をえているんだから。

これは、むしろ、表沙汰にしてくれって・・ごね・・た・・?

困ったのは水島かな子。

でも?あれ?そうだったら・・・。

私にゴーストライターの話はこないよね?

表ざたにしたいとごねてる人間を放置して

他の人間にゴースト依頼はできないよね?

かんがえつめた挙句の欠落にきがついて、

私は編集長の沈黙をとくことにした。

「水島かな子のゴーストライターは

もう、執筆しないってことですか?」

編集長は即答だった。

「執筆しないんじゃなくて、執筆できないんだよ。

彼女はどんな形でも自分のかいたものが読まれることに満足していたんだ。

こんなことになるなら、もっと、はやく、彼女の文庫をつくるべきだった

ゴーストライターを解放しておけば・・・」

ちょ~~~~と、待てよ。

今確かにに「こんなこと」って、いったよね?

「あの?こんなことって?」

「ゴーストライターである溝口芳江は、亡くなってしまったんだ」

「え?」

なんていった?

死?死んだ?

つまり、表に出したくても出せないまま?

水島かな子も女優さながらに演技をつづけるしかなく

事態は改善されないまま?

結局、水島かな子の次のゴーストが必要なことにかわりはないってことか?

「つまり・・・。私が水島かな子のゴーストライターになれ。こういうことなんでしょう?」

切り口上すぎる。

自分の手をつねりあげたけど、もう、でてしまった言葉は

取り返しがつかない。

「そうじゃない・・。

いや、そうでもあるんだけど・・」

編集長?

それ、3回目の科白・・・。

半分あきれたため息をもらしながら

いつのまにか、私と編集長の形勢が入れ替わっていた。

「どういうことですか?

編集長、ずっと、そればっかりですよ。

そうだけど、そうじゃない。

そんな曖昧なものの言い方は、

私が断るに断れないからめ手をかけてるみたいで、

気分が悪いです」

切り口上が功をそうしたのか、編集長の迷った顔が瞬間に晴れた。

「確かに君の言うとおりだ。

僕は君がゴーストライターになってくれたら良いとプッシュする気はないんだ。

だれだって、誰かの影にかくされて、生き埋めみたいな状態は嫌なことだと思う。

だけどね・・・」

編集長はずっと懐に抱きこんでいたA4封筒を私の目の前につきだした。

「これね・・・。溝口芳江の原稿なんだ。

亡くなる一日まえに私のところに持ってきていたんだ。

その次の日、急に・・だよ。

ま、亡くなった人のことはおいといて、

その原稿を、まず君が読んで欲しいんだ。

読んだうえで、君がどうするか、決めてくれればよい。

ゴーストがいやだというのなら、君の名前でだす、これでも、いいんだ。

水島かな子のことは、いったん、ラインからはずして、考えてほしいんだ」

なんなんだ?この展開?

とにかく、読めば、判るってことなんだ?

私は原稿を封筒からひっぱりだしかけて、やめた。

ここで、おちついて、読めるだろうか?

読んで考えるより、

周りの期待や編集長の暗黙の強制におしながされてしまいそうにおもえて、

私はこの場をたちさることにした。

バスに乗ってる間、私の頭の中には疑問符ばかりが浮かぶ。

A4封筒は、手軽な軽さ。

短編なら、充分の量。

でも、短編なら、そのまま、掲載すればよいだろう?

もってきたというんだから、短編なら仕上がっているはず。

長編小説の連載1~2回分?

その続きを書けっていうことかな?

私が読んだら書く気になるってこと?

ーひょっとしたら、巧く、はめられたのかもしれないー

読んだら最後、書かざるをえない心境になる?

胸に抱いた封筒がやけに重たく感じられる。

私に、読むべきか、読まざるべきかを迷わせる重さは、

得たいのしれない魔物の封印を解く勇者の迷いに等しいかもしれない。

でも、勇者はどこかで、己の勝ちを予測している。

一方の私は・・・

「君じゃなきゃ、書けない」という呪文に操られている愚か者でしかないのかもしれない。

愚か者はバスをおりると、大きなため息をついた。

ふたつの封筒を見比べて、占い師のように透かして見る。

物理的には同じくらいの重さ。

いや、むしろ、軽さというべきだな。

色は?匂いは?ムードは?

判るはずもない「予測」に気をとられた私に、足取りは歩みを意識させず、

いつのまにか、自分の部屋に入り込んだ私は、

ベッドの上に二つの封筒を並べて、腕を組んだ。

ーどうせ、一度は作家は無理と諦めた私じゃないかー

とも、思う。

この先を書けずに死んだ溝口芳江の無念をはらしてやってから、

「これ以上は、やっぱ、無理」

それでもいいかもしれない、と

封筒に手を伸ばし、中の原稿をとりだしはじめた。

「え?」

一瞬、封筒をとりまちがえたと思った。

私が手に取ったのは薄い萌黄色の出版社の封筒。

ベッドには私の原稿が入った一般的な茶色い封筒。

この中身が摩り替わって入れられるわけがない。

入れ替わるチャンスがあったろうか?

私の原稿を茶封筒にもどしたあとに

編集長は私の目の前で萌黄色の封筒をだしてきて、

中身を取り出しさえしなかった。

マジックショーじゃあるまいしと私はもう一度とり間違ったかと思った

原稿をみつめなおした。

そこには、やはり「箱舟」というタイトルが刻み付けられている。

まさかね・・。

まさか、タイトルだけでなく中身も同じなんてことはないよね?

そう否定しながら、

編集長のいう「君じゃないと書けない」という言葉の意味合いが合致してくる気がする。

全然別の場所で全然違う人間が同じものを書く?

ありえない。

ありえないけど、人間だから似たようなことを書くということはありえる。

ちょっと、似た設定があったのかもしれない。

気を取り直して、私は表紙がわりである「箱舟」の文字が入った扉を開いた。

出だし・・・。

ー事細かに主人公である女性の日常が描写されている。

そして、研究室が休みだった今日、彼女は研究室の一員である彼との逢瀬を楽しんでいた。

やがて・・、街へ繰り出したカップルは・・

一人の女性がたたずむ歩道橋を渡る。

「なんだか、変よね?」

その言葉のまま振り返った主人公の目に「一人の女性」が崩れ落ちるかのように

倒れる姿が映る。

病院へ・・・。ー

・・・・・・・。

なに、これ?

まさか、この「一人の女性も蒼白い光を発する?って?

ー病院へ同行した主人公は・・やがて・・「一人の女性」の

正体に疑問を持ち始める。-

ちょ・・・とぉ・・?

まじ、同じ設定?

文体こそ違うものの、表現こそちがうものの

同じ設定でかかれているものかどうかを確かめるために私は先を急いだ。

・・・・・・・・・。

結論をいおう。

私はまさにゴーストライターそのものでしかないといってよい。

研究室に運ばれた彼女は・・・そこで、またも発光をみせ、

主人公に寄生した。

ここまで、見事に一致する以上、

溝口芳江のゴーストにあやつられて書いたとしかいえないじゃないか。

だけど・・・。

ふと、よぎった疑問。

編集長は・・・何故?

私自身が奇妙にも、酷く冷静にうけとめているのだから、

編集長とて、奇妙なほど、驚きもしないことを疑問に思うのはおかしいことかもしれない。

だけど、今思えば、あの冷や汗?

あの「君が考えたんだね?」って、念押し?

それ、どういうことになる?

亡くなった人間が持ってきた原稿と私の原稿が書き方こそ違え

同じ設定になっていたなんて、

通常なら・・吃驚なんてものじゃないよね?

心霊現象以上の恐怖じゃないのかな?

それが、大騒ぎせず、恐怖の色も見せず

汗一つだけのこわばりで、私が書いたかどうかだけを確かめる。

「そうだよね・・そうだよね・・」って?

そうだ、あの時に確かにそう言ったんだ。

それって、同じ設定だって事がわかった人が言うせりふなんだから・・・。

そうだよね。は、ほかのなにかを納得してる言葉って事になる。

つまり、それは、こういうこと?

ー溝口芳江にとり憑かれてるんだな。ー

ー溝口芳江が私に書かせたんだな。ー

誰かと相談なんかするわけがない。君が(溝口芳江にとりつかれて)書いたんだよな。

そうだよな。そうだよね。相談なんかするわけがない。

編集長の言葉の裏がそうだったとわかると私はやはり、譜に落ちない。

それでも、なぜ、こんな怪奇現象におびえない?

そう、編集長も、私も・・・。

何故?

二つの原稿を並べて私は「おそらく」と思う。

おそらく、この「箱舟」が真実の答え。

私も編集長も「寄生」されているんだ。

幽霊なんかじゃない。

そうだ、溝口芳江に寄生していたものが宿主を私に変えたんだ。

そして、編集長もそうだ。

何者かに寄生されている。だから、怪奇現象と驚きもせず

寄生の事実を理解している編集長は

「君じゃないと書けない」そういったんだ。

君というのは、私でなく「寄生物」への言葉?

すると、あの冷や汗は?

私が宿主に選ばれてしまったことへの驚愕?

寄生の事実を私がしることへの同情?

そして、とりもなおさず自分に架せられた運命。

宿主という運命への抵抗もむなしく、またも宿主がふえていく。

つまり、この地球の人間が次々と寄生されていく?

知らぬうちに、すでに自覚無く、寄生されている人間はいっぱいいるのかもしれない。

物語が、本当のことだという恐怖と同時にすでに寄生されているとさとった編集長は、

どうにもならない事実を受け止めることにしたんだ。

そう、きっと、箱舟の終わりにかいてある言葉、

ー黙っていさえすれば寄生物は浮上してこない。ー

これが救い?

これを救いにして、寄生物が浮上してこない日常をえらべばよい。

共存に見せかけた共同生活で私は箱舟を書き上げる。

それだけ?

それでいい?

そうするしかない?

真剣に考え詰めていた私だったけど

自分で自覚するより先に笑い声があふれだしてきていた。

あははは、あははと大笑いし続けたあとの私の独り言が

私の自覚を耳に届けてきた。

「ばっかみたい。たまたま、にたような設定だったから、トランス状態になっただけじゃない。

寄生物?そんなものあるわけないじゃない。

自己暗示の骨頂でしかないわ。

そうよ、気が狂う人間っていうのも、こういうトラップにはまりこんでしまった結果じゃない。

悪魔が命令するとか?あげくの果て、本当に悪魔の仕業そのものの行動をおこす。

なんのことはない。洗脳しているのは、他ならぬ自分じゃない」

危ない。危ない。

人間の精神なんてものは、本当にもろい。理解できないって事が一番の恐怖なんだろうね。

理解できないことを嫌でもこうでも理解しようとするから、悪魔のせいにして、

あげく、自分が作り出した悪魔の命令とやらにのみこまれて・・・・・

ばっかみたい・・・。

問題はそんなことじゃない。

認識するべきは、自分の中にある「認めたくない心」ってことじゃない?

悪魔のような恐ろしい思いを持ってる自分を「自分じゃない」って、否定するから、

悪魔という存在を作り出して、いつのまにか主従が逆転するんだ。

うん。

自分で考えたことを私は私に当てはめてみる。

つまり、私は作家になりたいんだ。

だけど、ゴーストライターじゃいやだ。

でも、目の前におきたことはゴーストライターになるしかないってことじゃないか。

それでも、書きたい。

これが認めたくない心。

それを認めさすために私は寄生物のせいにしたんだ。

あろうはずもない存在のせいにして、

寄生物によって書かされるという大義名分で

「それでも書きたい」を邪魔する「ゴーストライターはいやだ」をねじ伏せてるだけ。

でも、「寄生物のせいで書かされる」も、「ゴーストライター」も同義語じゃない?

そうよ。なにかのせいで書くんじゃなくて、この水上千絵の意志で書かなきゃ。

そうじゃなきゃ、本当に主従逆転。

そのうち、寄生物が、命令するから・・って、私も悪魔の所業ならぬ、寄生物の所業を侵す?

ばかばかしい。本当に、馬鹿馬鹿しい。

私は編集長の言葉を思い出してる。

『君の名前でもかまわないんだ』

確かにそう言った。

そのとおり。私は私として書く。水上千絵として書く。

迷いが吹っ切れると私は今までの経緯を付け足して箱舟をかこうと決めた。

唐突に付け足された第2部のはじまりをほんの少し書いて

私はそれを読み直した。

******箱舟(箱舟(第1部)を書き終えた私だったが、

物語の終わらせ方がしっくりこなかった。

だいいち、-私ーはこの先どうなってしまうんだろう?

彼女と共存するにしたって、どういう風に共存していくんだろう?

寄生植物を考えたって、寄生側が宿主を殺してしまうようなことを

しないのとおなじように、彼女が宿主に必要以上のコンタクトをとらないのはわかるけど、

どうなるんだろう?

もうひとつの案でもう一度かきなおそうか?

そうおもいながら私はカレンダーをちらりとみた。***********

そうだった。

第1部の終わり方がしっくりこないのを

どうにかしようと、ここからすでに他力本願の自分がいたんだよね。

こんなあまっちょろい考え方だから、現実と物語がごっちゃになってしまうんだ。

あくまでも、物語は物語。

その認識を崩さずに登場人物の気持ちを捉えていく。

え~~~と、どこが、しっくりきてなかったんっだっけ?

なになに?

主人公の「私」はこの先どうなってしまうんだろう??

そりゃあ、さっきまでの私と同じだよね。

「自分で生み出した妄想でしかないと気がつかず、主従逆転状態」

と、いうことだ。

これを打破していく設定を考えていけば

共存ののちどうなるだろうなんて考える必要もないってことだな。

待てよ?

この案もいいな。

あくまでも被害妄想でしかないと「私」に思い込ませる。

つまり、

寄生物は自分の存在を架空のものと思わせることに成功した・・。

そうすれば、たとえ、「私」がしゃべったとしても、妄想としてかたずけられてしまう。

・・・・・・・?

ちょっと・・?

待って・・・。

そうすると、溝口芳江も事実を喋ったとしても、どうせ、「物語」「絵空事」

そうなると、あの最後の言葉が気になるな。

「黙っていれば、寄生物は浮上しない」

物語・絵空事・虚偽・被害妄想・・

この隠れ蓑の中でだけは、本当のことを言えるってこと?

どうやら、私はまたも

被害妄想のトリックループにもぐりこんでしまったようだ。

だって、ほら、今、私の耳にも、はっきり聞こえたんだもの。

「われわれの存在を・・・・・・」

そうそう、私の精神は壊滅状態。

「外部のいかなるものにもらすことは」

空耳が聞こえる・・・

悪魔がささやく・・・・・

「しゃべってはいけない」

そうそう、これは、妄想・・・。

そう。妄想。

ーそう、いわなきゃ、寄生物の声をかきとめることすらできないー

精神はとんでいくの。

現実と空想に境目があって、サチュロスが愛しいわが子を食らう。

「黙っていれば、われわれは浮上しない」

ー聞こえたよね?-

                     -終ー


箱舟   (第3部)



その日を境に私の生活は、急変した。

箱舟をかきあげた私はそれを世にだすことをあきらめた。

なぜか、急激に、出版への意欲がうすれていったのだ。

それは、おそらく私の中にはいった寄生物の操作に他ならないと思えた。

彼らが人類に寄生するエネルギー体であること、

そして、彼らがまず、実験的に人類にはいりこんで、

仲間を誘導していくこと。

このモデル実験に選ばれた人間はかなりいる。

編集長もそうだろう。

そして、ゴーストライターだった彼女もそうだった。

ゴーストライターだった彼女は

この寄生体の存在を公開しようと試みた。

その結果に訪れたのは死ではなかったのだろうか?

彼女はどこまで、寄生体を認識していたか、さだかではない。

だが、私が寄生体に寄生される未来を予知したように

彼女もまた、予知したに違いない。

そして、彼女の箱舟を書いた。

彼女の中でおきたことはまた私のなかでおきたことだろう。

私は公開するとことを断念した。

それは、ひとつに、彼らが自分の存在を

いや、彼らの目的を公開することにつながるからだ。

彼らは地球人類の意識と精神に寄生しようとしている。

これを公開すれば、

地球人類はすべて、寄生体をあらかじめ

拒否できる。

いわば、吸血鬼に対抗する手段を持つという事だ。

だから、「存在を公開することを赦さない」

いや、

「本当の目的を公開することを赦さない」のだ。

私の中にはいりこんだ寄生体は、

私の意識を操作している。

「公開させたくない」

と、いう念を私の意識の中に送りつけている。

だけど、それならば、何故、公開される危険性のある、私やゴーストライターに

寄生しなければならなかったのだろう。

地球への移星?

エネルギー体、いわば、エレメントである宇宙人は、

より、高等な思念をもつせいぶつであろう?

それが、なぜ、下等とも思える地球人に寄生するのだろう・・。

私はその答えに小さく声をあげた。

だからだ・・・。

そう思ったからだ。

だから、彼らは私の意識の中にある「欲」を操作しているのだ。

出版欲、名声欲・・。

何でも良い。

それらの「私の意識・観念」は、彼らにとって

自分の環境に他ならない。

その中で暮らす(寄生)彼らにとって

私の意識・観念はまるで、大気のよごれのように

すみにくいんだ。

私が出版して彼らの本当の目的を公開しようという思いは

彼らにとって、自分たちの存在を否定され吐き出される行為にちがいない。

けれど・・。

彼らは逆に自分たちの存在を認めさせる必要がある。

それは、禅問答ににているけれど、

「在る」とするものにしか、存在し得ない存在なんだ。

ゴーストライターはなにかのきっかけで、

彼らの存在を認識した。

そして、彼らが、ゴーストライターに寄生するために、

なにかの引き金が必要だった。

それは、なに?

簡単な答えかもしれない。

ゴーストライターの執筆欲をはしごにして、

寄生したんだ。

だから、人間業とおもえないような

次から次へのヒット。

量産に新機軸・・・。

彼女の執筆欲を成功に導き

彼らは多くの人間に「彼ら」の存在を刷り込もうとした。

確かに彼女は「彼ら」の存在を描いた。

彼女の脳下垂体が捕らえた事実として。

ところが、これは、彼らにとって、

公開されたくない事実だった。

彼女の死が彼らの操作によるものかどうかは

私にはわからない。

だが、彼女は自分の死を予感したか?

あるいは、彼女の魂が私という物書きに同調したか?

彼女は私に事実をつげにきたのではなかろうか?

そして、まったく同じ物語を思い浮かばせた。

そして、私は彼女が知った事実そのまま、

未知なる寄生体に寄生されている今なのだ。

だが、私の本能が彼女が感じ取った事実のように

「寄生体」をしっかり認識している。

だから、寄生体は存在をあきらかにした。

だが、編集長やゴーストライターは

寄生され、操られていたと考えていいと思う。

今、私は共存・・・いや、寄生をゆるしながら、

操られない生き方を模索している。

まず、そのためにはっきりと、

自分を認識していくこと、

そして、彼らの目的をきちんと把握しておくことだ。

彼らは寄生するだけじゃない。

自分たちの都合の良い環境を作ろうとしている。

例えば、私が人をとことん嫌っていたとする。

この嫌いという想念が彼らの環境になり、

非常にすみにくいんだ。

彼らはこれをなんとかしなきゃいけない。

そして、最後には寄生主が本体である私にとってかわる。

彼らに操られない生き方を私は探し始めた。
まず、私がおこした行動は

箱舟第1部を機関紙に発表するという

当初の予定行動を実現することだった。

穴埋めのゴーストライターのゴーストライターだって

かまわない。

まず、寄生生物の概念を多くの人間にしってもらうことが先だと思った。

ところが・・・。

ありえないことだった。

編集長は私の顔をみるなり、

「これは、使えない」

にべのない返事だった。

この時点ではっきりわかった。

ゴーストライターから渡された「箱舟」を私に読ませる事が目的でしかなかったのだ。

この時点でゴーストライターと私が書いたものが一致するという、ありえない事実をしることになる。

私はこの物語が本当のことを言っていると知る。

つまり、寄生型宇宙人がいると存在を認めてしまったのだ。

これにより、波長がシンクロし私の中に寄生型宇宙人が入り込んだ。

それだけが、目的だったのだ。

編集長の中にはいりこんだ、別の寄生宇宙人は

ゴーストライターに寄生していた仲間の新しい寄生場所を探していた。

そして、私がシンクロしてしまった。

彼らはどんな形でも良いから、とにかく、自分たちの存在を肯定させる手段が欲しいはずだ。

だから、私の執筆欲を煽りたて、彼らの存在を「意識内に存在」させたかった。

私はそこにまだ、きがつかないまま、第2部をかいた。

この時点では、まだ寄生宇宙人の本当の目的に私は気がついていなかった。

寄生宇宙人はただ、自分の存在を黙っていればあとはなにも関与しないといった。

私は、この時点で、それは、いわば、

腸内のバクテリアがまた、寄生物であるのとおなじで、

共存できるものなのだという考えしかもっていなかった。

そして、私は第2部をかきおえたのち、

寄生型宇宙人について、考え始めていた。

黙っていればよいといいながら、実際彼?あるいは、彼女は

私が第2部まで書くことを容認している。

黙っていれば良いというのは、実は逆心理ではないだろうかと思ったのだ。

その疑いから、私は彼らの本当の目的を掴んだ。

そして、私は箱舟第1部の出版をこばまれたことにより、

ネットに公表してみることにした。

ここまでは、すんなり、彼(彼女)は私の行動を黙認した。

つまり、彼らの存在を多くの人にみせしめる行動でしかなかったのだ。

私の中で彼らは最終的に宿主をくいつくす。

この部分さえ黙っていれば文句は無いんだと気がついた私は

この確証となるものを探し始めた。

そう、私は彼らの最終目的を公開し人類に警鐘を与えたいと思ったのだ。

そのためには、自分が彼らの存在をどう握りつぶすか。

自分主体の自分個人をどうすれば取り返せるかをかんがえなければいけなかった。

そのために、私はネットの世界を泳ぎ始めた。

なにかしら、彼らの最終目的を破綻させる手段がないものか、

どうすれば、彼らの存在を認識させ

かつ、その最終目的をどう伝えれば信じてもらえるか。

だが、そこにあったのは、驚愕の事実だった。

すでに多くの人間が罹患していたといってよい。

そこで、私はやっときがついた、

おそらく、私の伝える事は(たわごと)あるいは(捏造)にしか受け取られないというに。

私はいっそう、あせった。

そのまま、箱舟を書き続ければ

私は狂人としか、判断されない。

どうすれば、よいのか、どうすれば、論破できるのか

これができなければ、根拠の無いものを信じない人間が

目の前に見せられる偶然さえも、

エレメント体の力だと信じている洗脳状況を解くことはできないだろう。

微小ながらでも、寄生されていることに気がつけば

何かが変わる。

私は、自分の中の寄生エレメントの正体をさぐることにした。

だが、これは、多くの人間を巻き込んでいるイリュージョンマジックに

自分も罹患されることになるとは、

気がついていない私であった。

ここまで、意識世界を操っているとはしらず、

箱舟を書いてみたところで

警告どころか、ただの妄想小説としか思われないと気がついたのは、

随分あとのことだった。

私がイリュージョンマジックにかかりはじめたのは、

奇妙な予感が的中しはじめたことによる。

たとえば、ブログの訪問者を訪問しないうちから、

「あら、おいしそうなものをつくる人だ」

と、思う。

ブログを訪問すれば、初めて手料理をアップしました。

と、いう具合に小さな予感がたびかさなってあたるうちに

私はいつのまにか、その予感にはまりこんでいた。

それが、かさなってくると、

不思議な言葉がきこえだした。

たとえば、

「そのひとのところにいかないほうがよいよ」

いや、言葉ではなかった。

私は自分の思いだとおもっていた。

自分と対話しているのだと、思っていた。

それが、はっきり判ったのは

あるブログを訪問したあとだった。

「そこにいかないほうがよい」

と、思うのに私はそのブログにでかけた。

ブログを訪問したあと、私はいやに、くたびれてしまった。

ぐったりとソファにねそべり、ケットをかけて、仮眠を取ろうとしたときだった。

「だから、いくなといったでしょ」

その声はまぎれもなく、彼女の気配だった。

私はケットをはねのけ、ソファにすわりこみ、あたりをみまわした。

居るわけは無い。

彼女は私の中にいるのだ。

「干渉しないはずだったんじゃないの?」

私は自分の中の彼女にといかけた。

「この世の中にはいろんなものがいるのよ。

あなた、とんでもない世界の住人のところにはいってしまったの。

あなたのエネルギーをすいとってしまうような・・マイナスエネルギーをもつ存在」

「マイナスエネルギー?」

「そうね、たとえば悪霊とか・・」

私は声をたてて笑った。

ーおあいにく。

そんなものは、エネルギーをすうだけじゃなくって?-

私ははっきりと認識した彼女に対して、敵意をむきだしにしていた。

幽霊にしろ、悪霊にしろ、そいつらに、

こっちがひかかるのは、こっちに元があるからだ。

簡単に言えば、私の恐怖心だ。

私の意識や精神をすべて洗脳されてしまうというおそろしさだ。

彼女の目的が私をとりこむことであるのなら、

悪霊が一時期エネルギーをすうなんて

ある意味一過性のことだ。寄生にくらべたら、恐怖なんぞない。

「あなたは、なにもしらないのよ」

一言漏らすと彼女からのコンタクトが絶たれた。

彼女が私を護った?

そういうことになるのだろうか?

私の考えすぎで単に本当に共存するだけ?

だが、それは、彼女の罠でしかなかった。

私の深層心理はマイナスエネルギーの存在を恐怖として信じ始めていた。

これが、いっそう、自分から彼女からの答えをひきだそうとする心理になっていった。

私はひどく、気分が沈みはじめた。

それは、ほかでもない。

自分をのっとろうとする存在である彼女にふりまわされてしまったせいだ。

ひどく、気持ちが沈みながら、彼女の存在が気になる。

マイナスエネルギーを発生する存在なんてあるものだろうか?

もっと、いえば、悪霊なんて、いるものだろうか?

自分の心のせいでしかないと彼女の存在を知る前なら

私は一笑にふすことができた。

だが、得たいの知れないマイナスエネルギーがあるという事実に驚愕しつつ、

それを知ることができる彼女が、私の中にいて、

私自体は彼女の存在自体にエネルギーを吸いとられているという感覚はなかった。

彼女は私の味方でしかないのか?

私が感じた「いずれ、彼女にのっとられてしまう」という感覚は

マイナスエネルギーに感じた恐れと同じ質のもので、

おそれなどかなぐりすてて、彼女の存在をうけいれて、

ただ、本当に共生していけばそれでいいのだろうか?

私はこの時点で、彼女の存在をどう考えればよいのか、

わからなくなってしまった。

わからなくなった私は彼女に依存しはじめた。

どう考えればよいかわからないブロガーに遭遇すると

私は彼女に問うようになってきた。

このブロガーは宇宙人と交信するって、いってるけど、

その宇宙人って、あなたと同じ宇宙人?

彼女は笑いながら、なぞの言葉を残す。

「そのひとは、トライアングル・レスポンス」

私は馬鹿のように、その言葉を検索する。

彼女が与えてくるヒントをたぐっては、私はその言葉の意味合いを考えてみた。

だが、あるときから、彼女の言葉がこちらが質問しないうちから

私がおもうか、おもわないかのうちに、答えをだしはじめ、

私はまたも、それを検索し始めていた。

「エンシェント・エイジ」

私が検索したロゴは酒の名前だった。

その意味合いがわかったのは、もうすこし後のことになるが、

この頃から、彼女の様子がかわりだした。

「ポテンシャル」

「インフィニティ」

「ヒエログラフ」

と、単語の交信しかしてこなくなる一方で

私がこういう言葉を書き込み始めると彼女ははっきりと

「やめなさい」と、命令しはじめてきた。

私はこれに逆らい始めた。

なにかしら、違う寄生型宇宙人が混入しはじめている。

彼女と思っていた交信は実は彼女からのものでなく、

私の中に内在するものを調べている。

そんな風に感じ始めたのだ。

そうしていくうちに、私の中が奇妙に転換じはじめていた。

彼女の交信をキャッチできなくなってきたのだ。

そして、私はこのこともふくめ、箱舟にかいていく決心をした。

私は彼女の言葉にまどわされながら、

彼女の存在をうけいれなければならないのだと考えていたときには

おもいもつかなかったことだったけれど、

寄生型宇宙人は彼女だけじゃないということだった。

彼女のタイプは「不安や恐れ」というマイナス感情をはしごにしていくタイプ。

そして、どういうわけか、別のタイプの寄生型宇宙人が私の中に入ってきた時

私は彼女をうけいれて、共生していく必要がないと気がついたのだ。

むこうは、勝手にはいってくるものでしかない。

そこを心理的ゆさぶりをかけて、私を拘束しようとしたはずだった。

ところが、私は彼女からの拘束を解いた。

別のタイプの存在がはいってきたことにより、

私は自分の意志で介入してくる相手を選べるのだと気がついたのだ。

介入する相手を選べるという事は逆にいえば、

介入しないということも選べるはずじゃないかと思ったとき

私はいつのまにか、彼女に洗脳?洗意識されていた自分だと気がついた。

つまり、私は自分の意志で彼女をえらんだのでなく

彼女の意志に操られていたんだということ。

つまるところ、自分の弱さにつけこませたのだ。

私の中でまだ、疑問は残った。

なぜ、元の寄生生物は私の「欲や恐れ」をはしごにしたのだろう。

これが、なくなると、もうすこし、高度な精神性をもっているように思える寄生生物がはいってきた。

むしろ、「欲や恐れ」からよりつく、悪霊らしきものや前の寄生生物から私を護ってくれるように思えた。

彼女は私を導こうとしているのだろうか?

私は自分が自分の主人公でないことに怒りをかんじていた。

だから、疑問を感じる事が出来たのだと思う。

だが、それでも、私は新たなる寄生生物を受け入れていた。

ここにも、かすかな疑問を感じ始めたある日、「宇宙人とのコンタクト」という

ブログにたどり着いた。

そこに書かれていたのは確かにコンタクトであり、かつ、エレメント次元でのコンタクトだった。

ブログの作者は

最初にほかの宇宙人を捕食したり、飼育して家畜化していた昆虫型の宇宙人とコンタクトしていた。

また、遠い昔に、地球にやってきて、地球人と交わることで種の保存をはたしたという宇宙人ともコンタクトしていた。

これには、私も驚かされた。

つまり、宇宙人の子孫がいるということになる。

そして、次にコンタクトしたのが、昆虫型宇宙人が地球を襲撃しようとしているのを、くいとめようとしているという宇宙人だった。

ーなに?それ?-

私が思ったことを口にだすと、その一言になる。

このブログの話をしんじたら、最後にコンタクトした宇宙人のいうことをきかなければならないということになる。

おかしい。と、思ったのは、私自身が妙な寄生生物に侵入されているからだ。

意識をいくらでも、手玉に取る事が可能で、

エレメント次元でのコンタクトをとる。

そして、ろくでもない存在がいることを最初に証し

次にその存在をしりぞける存在が現れる。

私におきたことそのままじゃないか?

ーこれって?-

一人のエレメント型寄生生物が、役柄を演じわけることが可能なんじゃないだろうか?

そして、最後にあらわれた正義の味方のような宇宙人のいうことを聞く。

ーそれって?ー

いわば、オレオレ詐偽みたいに、上手にだまして、金をすいあげてしまうのと同じようなもの?

オレオレ詐偽なら、まだ、そのほうがいい。

このエレメント詐偽はこっちのエレメント即ち、精神?や魂?をすいあげてしまうんじゃないのだろうか?

そして、隙をみて、私になりかわる?

私はここまで書いて・・・・みた・・・。

どう?

うまくかけてるとおもわない?

よ・・く・・出来た・・作り話・・

そういう、ことにしておきましょう・・ね。

******

編集長・・。

お客様です。

ええ。

なんでも亡くなられた水上千絵さんの遺作を出版したいとのことで、ご家族がおみえになっています。

はい?

・・・・・・・・・。

ああ、作品タイトルは「箱舟(三部作)」だそうです。

はあ?

ああ、・・・・そうですか。判りました。

***********

水上千絵の家族が、ほかの出版社に「箱舟」をもちこまないためにも、

私は「箱舟」をあずかった。

「ほかに、ブログなどに発表されていませんよね?

発表されていた場合、版権の問題がしょうじますので、

あったら、削除なさってください。

元の原稿もこちらで、保管させてください。

ええ、ワードなどに書いてある物も完全消去願います。

著作権は刊行本によって、証明されます。

この著作権利に対し、売り上げの8%の印税をお渡しします。

ところで、お母様は「箱舟」をおよみになりましたか?」

うなづく母親をみながら、私は好都合だと思った。

しばらくのちに、私の仲間が母親に寄生していくだろう。

原稿を消去したあとに、箱舟が刊行されないことにきがついても、

母親は、寄生生物のいいなりになるしかない。

逆らえば、命がなくなる。

そう、私も同じ、命をなくしたくはない。


             ー終ー

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