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見えちまった。 《見えちまった1・2・3》

「どうしたんだよ?」

やってきた加奈子の顔色がいまいち、よくない。

「ん・・・」

生返事をしたあと、煙草をバックの中からひっぱりだす。

「あん?」

話せよと催促すると、

「あんたこそ・・なんか、変だよ・・」

って、いいかえしやがる。

俺も煙草をひっぱりだしてくる。

「まあな・・・」

俺のほうは現実問題じゃない。

まあ、簡単に言えば、幽霊みたいなものだ。

もちろん、俺にひっついてるわけじゃない。

二次的にかぶってるといっていいかな。

俺の呑み仲間だ。

そいつのうしろにくっついてるやつが、

俺と周波数があっちまうんだろう。

やけに体がだるくて、

そいつと呑むのもそうそうにひきあげてきたわけだが、

まだ、すっきりしない。

こんな時はTVで映画でも見るか・・・

ってなもんで、チャンネルをかえたところに

加奈子から連絡がはいった。

で、先の科白さ。

あんたも変といわれたって、こんな話をしたくもない。

適当に言葉をにごしておけば、

加奈子のほうがしゃべりだすに決まってる。

「それがね・・里美なんだけどさ・・」

里美・・ね。

可愛いタイプのほそっこい子だったかな。

「それがさ・・元々そういうところもってたんだけど・・」

そういうところってのが、どういうところかは、

これから加奈子が喋りだすだろう。

「とうとう、見えるようになっちゃたんだって・・」

は・・。

それだけで、ピンとくる俺も俺だと思うが

いちおう念のためにきいてみる。

「それって、俗にいう幽霊?」

「うん・・」

「で、怖いって?」

「ううん。怖い感じの幽霊じゃないらしいんだけどね」

「なら、まあ、いいか・・」

「でも、みえるようになってきたってことにね。それがショックらしいよ」

「で?なにが見えるわけさ・・」

「子供なんだって・・」

「ふ~~~ん」

俺はとりたてて、何も思わない。

しいていえば、見えることを自分でみとめちまわないことだ。

「まあ、見える自分をみとめちまうと、ほかのものまでみえてくるからな・・」

「うん。だと思うから、見なかったことにしよう。気のせい。気のせい。って、自分にいいきかせなよって、

それだけ、忠告してきたんだ」

正解だな。と、思う。

「それで、妙にくたびれていたわけか・・」

うん・・て、加奈子がうなづいた。

この世のものじゃない奴に遭遇するとエネルギーをすいとられちまうのかな。

そのエネルギーをすいとられちまった奴とあえば、あった奴もエネルギーをすいとられちまうんだろう。

「で、あんたのほうは?」

自分のいいたいことをいいおわって、俺のほうに話をふってきた。

「俺?・・」

まあ、いいかとおもって、俺も話し始めた。

「俺は浩次にあってたんだよ。あいつもなんかあるんだろう・・

妙におもたくなって、だるいから、かえってきたんだ・・」

俺の言葉に加奈子はしばらく返事をしなかった。

しばらく二人で映画の画面をみつめていた。

二本目の煙草に火をつけたとき、

加奈子も煙草をくわえた。

白い煙をふきだして・・、ぽつりとつぶやいた。

「浩次と里美は昔・・できてたんだよ。知ってた?」

「いや・・・初耳」

うん、うなづいた言葉を煙のなかにまきこむかのように

煙草をすうと、白い煙と一緒にはきだした。

「3年前・・子供・・流しちゃったんだ」

加奈子は堕ろすという言い方をさけた。

だから、なにか、いろいろと複雑な事情があったんだろうと俺は思った。

「いきてたらね・・里美がみた子供の幽霊とおなじくらい・・」

俺は唇の端に煙草をくわえなおした。

「じゃあ・・俺が浩次からかんじた重たいものもそれか・・」

「かもしれない」

ふうっとついたため息が白い煙に変わる。

「うらんでるのかな?」

「怖くなかったんだろう?」

「子供だもんね・・うらむっていうより・・寂しいのかもしれないね」

そうだな。って俺は思う。

加奈子が流したって言葉をえらんだ裏に、

浩次と里美の悲しい悔いがみえる。

命をつんだ懺悔を二人とも抱きかかえてる。

そんなこと、子供にはわかるわけないんだろう。

「さびしいんだろうな」

加奈子のいった言葉をくりかえして、俺は煙草の火をけした。

「でも、きっと、ソノ気持ちをわかってくれる人がいてくれたから、今はもう・・大丈夫だよ」

そうなんだろうって俺は思った。

なぜなら、加奈子の顔が急にあかるくなったきがするし、

なにより俺の重たいだるさがきえた。

「わかってほしいだけだったんだろうな」

「うん」

「生きてる人間同士でもうまくいかなかったんだから・・

死んだ子供のことまで、誰もわかっちゃくれない・・よな」

ささいな行き違いだったのか、重大な食い違いだったのか、知らないけど

それでも、浩次と里美に同じように思いをかけてほしがった子供だけが

ふたりの真実だったのかもしれないって俺は思った。

「よう・・。ところで、里美は今浩次のこと、どうおもってるわけさ・・」

加奈子が今度は小さくためいきをついた。

「たぶん・・やりなおしたいとおもってるんじゃないかな?」

ーでも、やり直す自信がないみたい・・。ー

小さく口の中で加奈子がつぶやく。

「俺さ・・やりなおせるんじゃないかって思う」

加奈子が俺をみつめかえした。

なんでそういえるの?って加奈子の瞳が俺に尋ねていた。

「それを知ってるのが子供じゃないか?

二人の縁がつながってるから、二人のところにあらわれるんじゃないか?」

んふって加奈子が笑ってうなづいた。

「なるほどね・・そうかもしれない」

「子供はかすが・・・っていうんじゃないかよ」

今度は加奈子が噴出した。

「そりゃあ、「けっ」のかすがでしょう?

いうなら、かすがいでしょう」

俺は天井をにらみつけた。

薄学を繕う言葉がみつからない。

「で、あんたは、子供が二人の縁をむすびなおしてくれって、私たちにしらせにきたんだっていいたいわけだ?」

「いや。そうじゃない。二人の縁がむすびなおせないから、寂しいんじゃないかって」

今度は加奈子がくわえ煙草で天井をみつめていた。

しばらくすると、加奈子が大きく息をはいた。

「わかりました。いっちょう、やってみますか」

「ああ・・。良い幽霊退治にしてやろうぜ」

「だね」

思いが叶えばその子供も天国にいけるかもしれない。

「ん。だめもとだし・・」

俺は加奈子が急に女神様にみえてきた。

縁結びの神様にさ。

だから、ちょっと、加奈子に頼んでみた。

「で、俺にも可愛い女の子、誰か紹介してくんねえかな?」

「むりだろうね」って、加奈子はすげなく俺の頼みをことわりやがる。

「なんでさ?」

「だいいたいね、こ~~んな可愛い加奈子さまより、可愛い子がいるわけないじゃん」

しょってやがると思いながらこ~~んな可愛い加奈子さまの顔をおがみなおした俺だった。

『れ?こいつ・・こんなにかわいかったっけ?』

俺の心臓が妙にどきりとしている。

ひょっとして、子供の幽霊は縁結びの神様なのか?

まずは、てはじめにそれが本当かどうかたしかめてみるのもいいかもしれない。

「俺、浩次と飲みなおしてくる」

そういいだした俺に加奈子も

「里美にもう一度あいにいってくる」

そう答えていた。

俺も加奈子もそういうとこ、ばっちし、あってるよなって、思った。

思ったとたん俺の口がかってにうごきだした。

「なあ、加奈子。俺とタッグくまねえか?」

加奈子はにやりとわらったようにみえた。

「やっと、加奈子さまの可愛さを認める気になった?」

「ああ」

素直に認めた俺に加奈子が笑いをかみころしながら

「まず、二人をくっつけなおしてからね」

って、答えた。

二人で部屋を出て、それぞれの友人の所にむかう。

加奈子が俺を浩次のアパートまでつれていってくれて、

俺は車をおりて、加奈子を見送った。

バイバイと手をふる加奈子を見送った時

加奈子のうしろで、小さな子供がいっしょににこやかに手をふるのがみえた。

見ちまった  《見えちまった2》

「だいたいね。あたしもうかつだったわ。だけど、もっと、言葉をえらんでほしかったわ」

いきなりの加奈子の電話にでたとたん、矢の様な文句が俺にふりそそいでくる。

「なんだよ。わかるようにいえよ・・」

かなり興奮気味の加奈子に俺は期待していない。

ただ、おぼろげに加奈子のいいたいことがなにかわかるかもしれないって、それだけだった。

「だからね、あたしと付き合いたいなら、ちゃんと、言葉を選んでくれればよかったのよ」

此処で加奈子にさからっちゃ、面倒だと思うがいささか、おっかぶせた言い方がシャクにさわる。

「俺がおまえにどういったってんだよ。それに、おまえのほうもまんざらじゃないから・・」

付き合いだしたのはお互い様で、加奈子に泣き付いてー付き合ってーもらったわけじゃない。と俺はいいたかった。

「そうじゃないのよ。あんたが、タッグくもうなんていうから・・・」

はっ?ソノ言い方のどこがわるいってんだよ。

加奈子も納得してたじゃないか・・。

OKだったじゃないのかよ?

「変なのがね、あらわれちゃってるんだよ」

加奈子の声が切り口上になってくる。

「幽霊退治のタッグだって、思い込んだ奴が・・助けてくれるって意味だと思ったんでしょうよ」

はあ?

「もう~~~~。やだあ・・・・・。あっち・・いって~~~~よ~~~」

加奈子の声がなきべそになってきてる。

俺の頭は加奈子の言葉を計算式にあてはめて、大急ぎであてはまる答えをはじき出しはじめた。

「なにか・・・?あらわれたってことかよ?お前、見えちまうようになっちまったのか?」

おそらくそうだろう。

何かが現れた。

そういうことだ。

だけど、見えないだけで、常日頃だって「なにか」はいつも自分の周りに居る。

それにおびえないですむのは、「見えない」からだけなんだ。

ま~~人間の防御本能ってのか・・

「やだ~~~~~~~」

加奈子の声が必死になってきてる。

パニックをおこしちまうのが一番よくない。

「加奈子・・おい!加奈子!!」

「うぇ・・・さわんないでよ・・」

俺の言葉なんか聴く余裕がなくなってる。

「待ってろ。今・・そっちにいくから・・」

加奈子のアパートまで車をふっとばした。

アパートのドアをひっぱるものの加奈子は鍵をしめたままだ。

ドアホーンをおしまくって、ドアをたたいて、加奈子を呼ぶ・・・。

これじゃあ・・まるで・・たちの悪いストーカーみたいだ。

俺の懸念どおり、隣のドアが開いておばちゃんが俺をにらみつける。

おばちゃんのひとにらみで立ち去らない俺に最後の手段をいきなり遂行しようというのか、

警察に電話をいれようとばかりにおばちゃんはドアの中にもどってしまった。

「おい。加奈子、あけてくれよお。このままじゃあ、俺は犯罪者扱いだ!!」

俺の声がやっと届いたのか、ドアの向こうに加奈子の気配がし始める。

なんだか、ズルズル床をすべる音がして、ドアのノブがゆっくり動いた。

「は・・は・・・はいってきて」

「はやく・・」

言いながら加奈子は完璧に動転してる。

ドアチェーンがはずれちゃいない。

「加奈子・・しっかりしろ。チェーンをはずさなきゃ・・」

俺の耳にがちゃがちゃとチェーンがこすれ、触れる音がする。

加奈子の手が振るえ何度もチェーンをはずそうとしながら外れないんだ。

「加奈子・・おちつけ・・気のせいだろ?気のせいだよ?そうだろ?そう、いいきかせるんだ」

ドアの向こうで念仏のような声が何度も繰り返される。

「気のせい・・きのせい・・きのせい・・・見えない・・見えない・・きのせい・・

きのせいよ・・・だけど・・あれはなに・・?いいえ・・みなかったことにして・・

きのせい。きのせい」

やっと、チェーンが外れると俺はドアの中に飛び込んでまず、床にへたり込んだままの加奈子をしっかり抱きしめた。

抱きしめながら、俺はあたりをみまわした。

あの日、車の横の子供の幽霊をみてから、俺は「なにか」をみちゃいない。

加奈子をこんなにおびえさせるものを俺も見ちまうのか?

俺はその答えを探るためにあたりをみまわした。

俺にすがりついたまま、加奈子は玄関の続き間にあるキッチンのほうを指差した。

そこに居る?

俺は目を凝らした。

・・・・・・。

俺は・・・・。

俺にも・・見えた。

キッチンの隅に女の生首だ・・。

その生首の横の床から手がはえている・・。

その手が・・・。

俺がきがついたと、俺もみえるときがついた女の生首が・・・

床からはえた、手をすりあわせはじめた。

一定の距離を保って、俺には近寄ってこようとしない。

加奈子が叫んだ「さわらないで!!」とはうってかわった生首の様子をながめながら

俺は加奈子に尋ねた。

「つかまろうとしてたのか?あいつ・・おまえに?」

ううん、ううんと加奈子は俺の胸の中で首を振った。

「て・・・のばしてきた・・の」

「ふ~~~ん」

加奈子になにか伝えたかっただけかもしれない。

加奈子がおびえるものだから・・・。

と、いったて、誰がどう見たって、不気味でしかない。

俺だって、この前の子供の幽霊のことがなけりゃ、腰ぬかして、ちびってたと思う。

俺は加奈子にほれてる。

突然、何を言い出すのかっておもうかもしれないが、まあ、聞いてくれ。

加奈子が縁結びの女神さまに思えてきたって、俺は思った事が在った。

そこなんだ。

俺は加奈子のもつなんていうんだろう、包容力?っていうんだろうか、

友人のことを何とかしてやりたいって思う心の優しさっていうのかな。

ここにぐっときちまったんだ。

だから、あっけなく加奈子に陥落してしまったわけだけど、

こういう加奈子だから。

俺がほれた加奈子だから、

生首だって、そこに惹かれてあらわれたんじゃないかな?

って、おもうわけだ。

それがこの前の子供の幽霊もそうだとおもうわけだ。

なんとなく、俺は加奈子をいい奴っておもってる。

だから、漠然とした思いでしかないが、

生首にもそれがわかってるとしんじちまえた。

だから、俺は不気味でありながら、不思議と恐れをかんじなかった。

「おい!おまえ!!」

俺はそれだけ言うのが精一杯だった。

恐ろしく無いというのは、

こいつが加奈子や俺に危害をくわえそうにないということだけであって、

その外見たるや、惨憺たるもので、

不気味以外のなにものでもない。

生首はすり合わせている手をとめた。

どうやら、俺の言葉がきこえてるようだ。

「お・・・おお・・お、おまえ。俺のいう事がわかるか?」

生首だって耳がついてるんだ。きこえて当たり前かもしれない。

耳がついてる上に口だってある。

「おまえ・・・なんで、ここにきたんだ?」

こう言う場合、本人・・いや、本幽霊が一番、事情をわきまえてる。

「う・・・・あ・・・・・・」

生臭い臭いとともにもれてきたのは、うめき声にしかならない声だった。

と、いうことは・・。

「しゃべれないのか?」

なんともはや、やっかいな。

問題解決どころか、原因究明さえ定かじゃない。

どうするか?

思い当たることを並べてたずねてみるか?

「お・・おまえ・・殺されたのか?」

俺の質問に生首は急にうしろをふりかえり、左右をぐるりと見渡し始めた。

どうも、ほかに誰かいるとおもったようだ。

つまり、俺の質問が全然的外れで、

ほかの誰かにはなしかけたと想われたということじゃないか?

れ?待てよ・・・。

と、いうことは、もっと言えば、こいつ、死んだことを判ってない?

まずてはじめにそこを伝えなきゃいけないのだろうか?

「おい・・・お前はすでに死んでいる!!」

拳士郎みたいな科白をはいて、俺は幽霊に決定的な引導を渡してやった。

筈だった・・・。

生首の奴は俺の言葉にきょとんとしていた。

そして、なにか、考え込むような顔つきにかわった。

やがて、まじまじと、俺をみつめ・・加奈子をみつめた。

その瞳から、大粒の涙がおちてきた。

ー幽霊が泣く?-

やっぱり、なにか伝えたい事があるんだろう。

死んでさえ涙を流すなんて、よほど、悲しいことがあったんだろう。

「おまえ?自殺したのか?」

生首は俺の言葉にいっそう目をみひらいた。

やっと、自分が死んで幽霊になってしまったときがついたんだろう。

「失恋か?」

原因をずばりと聞かれれば、生首もいっそう、辛いだろうけど、

その表情で、失恋自殺だとわかるってなもんだ。

ところが、生首は顔を左右にぶんぶんとふりまわした。

ふりまわすと、自分の姿をながめようと必死に首をかしげていた。

まだ自分が幽霊になってることにきがつかないんだなと俺は生首にてまねきした。

玄関に細長い姿見がおいてある。

加奈子が出がけに自分の姿をチェックするためのものだろう。

生首の姿が鏡に映るかどうかわからないが

人の目にみえるくらいだから映るかもしれない。

加奈子は俺と生首の会話・・いや、一方的な俺のしゃべりだが、

それを聞いて、だいぶ、おちつきをとりもどしていた。

それでも、やっぱり、生首が傍らによってくるのは、気味が悪い。

俺にいっそうかじりついていたけど、

加奈子も幽霊が鏡に映るのか疑問に想っていたのだろう。

俺の胸にうずくまりながら、そっと、生首をみつめていた。

宙をうくようにしてよってきた生首に俺は鏡をゆびさしてみせた。

軽く顔全体がかたむいたところをみると、うなづいたってとこだろうな。

おずおずと、鏡を覗き込む生首の浮遊した姿はいっそう不気味だったが、

俺と加奈子は生首のうしろから、生首が鏡に映るかどうかを確かめ半分でのぞきこんでいた。

鏡には生首の姿が映っていた。

だが、俺も加奈子も大きな叫び声をあげた。

予想に反し、鏡は綺麗な女性の姿をうつしだしていたからだったが、

俺が驚いたのとは違う理由で加奈子は驚いていた。

「う・・・うそ・・・」

加奈子が目を疑うのもむりがないだろう。

おどろしい真っ青な顔。白い目も血走って、皮膚も腐った豆腐のようだ。

生きていたときが美人だったなんて誰だっておもいつけない。

くらべたら、白雪姫のように、「一番美しい」と、いわれたっておかしくない

綺麗な美人・・・ん?

「あ・・・あ・・・相田さ・・・ん?理恵ちゃん?」

え?

俺の目が点になってることだろう。

「加奈子?それって?」

「会社の同僚・・だ・・・けど?なんで?」

加奈子は生首と鏡の中の理恵ちゃんとやらをかわるがわるに何度もみなおしていた。

「あっ!!」

加奈子が何かに思い当たったんだろう。

それからが、大変だ。

やおら、加奈子は命令口調を再開しだす。

「剛司・・すぐ車だして!!」

ああ、言っとくけど、俺の名前は剛司だ。

俺に対してあんたじゃなくなったのは嬉しいが、命令口調での剛司は素直によろこべない。

「なに、ぐずぐずしてるのよ!!早く」

加奈子の叫び声に二つの変化があった。

一つは俺の抵抗だ。

「なんで、おまえが運転しないのさ?」

な~~んで、俺が命令されなきゃいけねえんだよ。

物、頼むのになんだよそれ?

もう一つは生首だ。

加奈子の呼びかけにもう一度手をすりあわせると、

その姿がきえた。

「とにかく、剛司・・はやくしてよ・・・あたしは、足がもつれちゃってるから

運転する自信がないの・・」

なるほど。

ひとつの変化はとりあえず収まった。

だが、もうひとつの変化。

「なんで?生首がきえたんだよ?」

俺の鈍さをなじるかのように、加奈子がいきりたつ。

「いいから、はやく、車用意して!!

あの生首は理恵ちゃんの生霊なのよ!!」

俺はぽかんと口をあけたに違いない。

「車の中で話すから。

理恵ちゃんのアパートにはやく・・・はやくしないと

理恵ちゃんが、死んじゃう!!」

あれは、幽霊でなくて、生霊だったのか。

生首に

「お前はすでに死んでいる!!」といったて、効き目があるわけがない。

まだ、死んじゃいない・・・。

いや、死にかけてる。

加奈子がそう想った理由は車の中できくとして、

その考えがあたっていたら・・・・・。

これは、えらいことだ!!

玄関脇まで車をよこづけにして、加奈子をよびにいくと、

加奈子は携帯電話を手にもっていた。

「えっと・・相田さん?に?」

俺は自分をつくづく、いい男だと思う。

どっちかというと、理恵ちゃん!!ってほうが頭にのこってるけど、

気安げに理恵ちゃんなんてよんだ日にはまたあとで、加奈子になにをいわれるか。

加奈子への優しい配慮も忘れず、ちゃんとよたついた足元も庇って

助手席のドアをあけてやった。

「だめだ・・・でないよ・・」

加奈子は呼び出し音が留守録音にもどると、またコールをいれる。

「で、どこにいきゃいいんだよ?」

「えっと、まず、沖多賀にいって」

こっから、20分はかかるだろうか。

「コンビニがあるじゃない。ガススタの角のところの・・」

まずはそこをめざすとして、

俺は加奈子の勘があたってないことを密かにいのっていた。

理恵ちゃんとやらが無事であればいいなんていう殊勝な心がけじゃない。

この先加奈子と付き合っていく上での・・・。

もちろんそんなことは計画して無いし、予定はしていない。

だが、俺も男だ。

ちょっと可愛い女の子とちょっとだけ、いや、本当にちょっとだけ、

デートできるチャンスがころがってくるかもしれないじゃないか。

このチャンスをのがしたくはない・・。

あんたもそうだろ?

だけど、加奈子の勘つ~~のが、かなりのものだとするとだな、

俺はデートの約束をとりつけただけでも、

ーちょっと、剛司!!-

って、・・・・・・。

ばれちまうことを考えると、俺はこの先、ほかの女には縁がないってことになるわけだよな。

だから、いっそう俺は加奈子の勘なのか、考えたらわかることなのかをさぐってみたかった。

「なんで、相田さんが死ぬっておもうんだよ」

「理恵ちゃん、彼氏とうまくいってないみたいだった。彼氏といっても、不倫だからね。

あたしも何度もとめたんだけど・・。ぎゃくにさ。あたしに話したら、また反対されるとおもったんじゃないのかな」

なんだか、うまく話が繋がらないところは俺の想像力でおぎなっておいて、

「で、相田さんの様子がおかしかったとか?」

俺が聞きたいのはここだ、。

ここで、勘といわれりゃ、俺も考え直そう。

だが、おかしな様子をしていたんなら、かんがえつくことだろう。

だとしたら、俺は・・上手に浮気を・・・。

「剛司。馬鹿な事かんがえてる場合じゃないよ」

「え?」

「だから、勘じゃなくて・・理恵ちゃん・・なんか、妙に沈んでいた・・。

あたしがもっと、気をつけてたら・・・」

俺の驚きなんていったら、生首や幽霊をみたときどころじゃない。

加奈子は興奮状態のせいもあるんだろう、

感覚がするどくなりすぎてるんだろうけど、今、間違いなく俺の心を読んだ。

そのことに加奈子自身きがついていない。

俺はちょっと、まずいって思ってた。浮気ができないなんてことじゃない。

加奈子が一種、霊界よりになっちまってるんじゃないのかってことに。

それは、確かに加奈子の言う通り、理恵ちゃんが死にかけてるせいに違いない。

理恵ちゃんが加奈子をひっぱってるんじゃないか?

俺はぞっとする思いを加奈子にけどらせないように、

加奈子にといかけて、加奈子がしゃべったり、かんがえたりすることで、

加奈子の意識を拡散させないようにつとめだした。

「でもさ、なんで、生首と手だけの生霊なんだよ」

加奈子は手の中の携帯でまたコールをはじめていた。

「たとえばさ・・・。首をつりかけてるとか・・」

「だったら、首だけ、くるんじゃないのかよ?」

加奈子は手の中のコール音に耳をすましている。

でも、頭の中でなんで、首と手だったんだろうと考えている。

嫌な想像が俺の頭の中にまでつたわってくる。

たとえば、風呂の中でリストカット?

湯船の湯の上という現実世界に残ったのが顔と手?

死が水のなかにとけこみ、

湯の中の体に浸透圧で死を含ませていく。

だから、

なんとか、命をつないでる手と顔が・・加奈子に助けを求めに来た?

と、加奈子が考えた?

だから、死にかけてる?

「剛司・・そこのコンビニのほうにまがって・・

そこから、次の信号を左に入ってすぐ一本目の路地・・」

車はいつのまにか、沖多賀についていた。

加奈子の指示通り車をはしらせていけば、道沿いに

1ルームマンションがみえた。

駐車場の空き場所に車をつっこむと、加奈子がすぐさま、車をおりた。

まだ足元がふらついてるけど、そんなことにかまっていられない。

小走りで一階の端の玄関までかけよると、俺よろしく

ドアホーンを押し、ドアを叩き、理恵ちゃん・理恵ちゃんって、呼んでいた加奈子の顔が

ひきつってる。

「た・・剛司・・ガスの匂いがする・・」

俺は車の中からスパナを一丁ひっつかむと、マンションの横壁に向かってはしり、

玄関と反対側にでた。

窓があるはずだ。

こそ泥よけの小さなフェンスをこえて、窓の傍ににじりよったが・・。

カーテンがぶあつくひかれている。

加奈子が俺に遅れてフェンスをこえると窓を叩いて理恵ちゃんの名前をよぶ。

が、

「剛司・・テープで・・」

隙間をふさいで、いよいよ、ガス自殺か。

まかりまちがって、爆発でもしたら、てめえだけじゃすまねえってのに。

まったく、思い切って相談するとか、

段階をふみやがれ!!

俺の怒りがスパナにこめられて、ガラスががちゃんと音をたてて、

カーテンにひっかかりながら、床におちていった。

途端に窓から噴出してくる異臭。

俺も加奈子もそんなことにかまっちゃいられない。

手探りで鍵をあけて、部屋の中にはいっていった。

「電気・・つけるなよ」

スイッチがスパークするかもしれない。

とにかく、窓をあけて、換気。

それから、問題の理恵ちゃん。

ベッドの中でぐっすり眠り込んでる。

どうせ、睡眠薬かなんか、のんだんだろう。

薄暗い部屋の中に目がなれてきて、

俺は理恵ちゃんが生首と手の生霊で現れたわけを理解した。

布団の中から、でているのは、顔と手だった。

ガスに触れて、最初に死を予感した場所が死を食い止めるためにあらわれたんだ。

「おい。おい」

「理恵ちゃん!!」

薬がきいてるんだろう、理恵ちゃんはまともなへんじさえよこさない。

ガスは遮断装置がはたらいて、あたりいったい、ガスくさくはしていたが、

おそらく、致死量にはいたってない。

だが、しっかり目張りした1ルームで、朝まで寝入っていれば

死ななくたって、死んだに等しい状態になっていただろう。

俺は救急車を呼ぶために携帯をもった。

だけど、此処がどこか、よくわかっていない。

加奈子に携帯を渡すと俺は部屋の中をみわたした。

うすぐらい中に生首が見えた気がしたからだ。

俺の目がそいつを見つけたとき、

俺は理恵ちゃんはもう大丈夫だと思った。

そこには、

鏡に映った白雪姫みたいな紅いほほの可愛い理恵ちゃんがいたから。

そして、顔だけの理恵ちゃんは

ゆっくりと手をあわせると、しっかりとおじぎをして、

そして、消えた。

「意識なんてわかるわけないでしょ。ぐっすり眠ってるのよ。

返事?返事?

そんなことどうでもいいから、早く、救急車よこしてよ!!」

加奈子のどなり声をききながら、

生首がしゃべれなかったわけも俺の腑におちた。

あとは、綺麗に胃洗浄してもらって、

体が回復したら、加奈子がちゃんと相談にのるだろう。

一件落着だなと俺は煙草を吸いに外にでた。

遠くから救急車の音がきこえる。

加奈子は理恵ちゃんの手を握り締めてる。

そして、俺は、やっぱ、加奈子にほれてる。


見たくねえ・・よ。《見えちまった3》

理恵ちゃんの件でますます俺は加奈子にぞっこんになっちまったわけだけど、

肝心の浩次と里美がまだ、修復できていない。

加奈子もあんな性分だから、俺とのことも進展する気になれないってえか、

妙に気がそぞろってとこだろう。

俺は神様に祈るみてえに、浩次と里美がまるく納まることを願ってみた。

そこに電話だ。

だいたい、俺が加奈子のことを見直すきっかけになったのが、

電話がはじまりなわけだけど、

だいたい、いつもいつも、「怒りまくった加奈子」か「なにか気がかりがある加奈子」しか、電話口に現れない。

だから、俺はついつい、*加奈子*の名前をみながら、かまえてしまう。

また、なにかあったのか?

この俺の読みはまさに先見の明だったといえる。

「剛司・・ちょっと、きてくれないかな?」

な~~んか、声がやけに神妙。

俺はさっき仕事から帰ってきたところで、一風呂あびて、

加奈子を誘おうか、それとも、浩次のところにいってみるかって、まよってた。

だから、丁度良い決定がくだされたわけだけど、

加奈子の声の調子から、加奈子の神妙さのわけまではよみとれない。

「なんだよ?また、なんか、でたのか?」

俺はちょっとふざけて加奈子にたずねてみた。

「うん・・」

まさか、あっさり、肯定の言葉が返ってくるとは思わなかった。

だけど、加奈子は妙に落ち着き払っている。

悪いものでも怖いものでもないということだと思うが

落ち着き払って物がいえるという状況が俺には想像できない。

「まあ、大丈夫そうだな。俺、さっき、仕事からかえってきたとこ。

一風呂あびてからでいいか?」

神妙加奈子はさらに落ち着いた静かな声だった。

「うん。わかった。でも、できるだけ、早くきてね」

「おう」

と、答えて、電話をきって、シャワーをあびるためにバスルームにむかったものの、

俺のハートがむずむずしてる。

ーできるだけ、早く来てねー

その言葉はなんて、かわいいんだろ。

これが、普通の状態で普通にいわれたら、俺はもう、めろめろになってしまうだろう。

なんか、現れたって状況下においてさえ、俺のハートがむずむずしてる・・ん?ん?んんん?

湯気がこもりだしたバスルームの隅っこに、この前のちびっ子がゆらめいてる。

湯気の湿度が丁度いいのか、蜃気楼の如く湯気に姿をうつしだせるのか?

ちび幽霊は、俺にぺこりと頭をさげた。

は・・。

俺が加奈子との仲を進展させたいって思う裏側の歯止め状況を一番きにかけてる奴が

現れるのはしかたがないと思いつつ、

加奈子のほうに現れたのは、こいつかな?と思ったとき、

ちびの姿が消えた。

「行くか・・」

ゆっくり浴びてる場合じゃないしな。

加奈子もああいってたし・・。

ー早く来てねー

うん、うん、とうなづく俺は多分かなり、しまらない顔をしてることだろう。

見たくねえ・・よ。2

加奈子のアパートにいくのはいいが、この時間だったらほかの住人の車が帰ってきて

とめるところなぞありゃしないだろう。

仕方が無いから、俺は近くのスーパーマーケットに車を止めて

ぼつぼつと歩いていった。

この前は緊急事態発生だったから、あいてるところに無理やり突っ込んだが

俺はそういう配慮のできない人間じゃない。

加奈子の声がおちつきはらっていたから、俺もこういう配慮ができる。

女ってのは、男の気分をどうにでも操れる生物だと思う。

まあ、手綱をひくとか、馬にたとえられちまうのが男なんだから、

それは、昔からそういうもんなんだろう。

どうでもいいことを考えながら歩いていけば5分もしないうちに

加奈子のアパートにたどりつく。

とりあえずホーンをおしてみる。

俺が来るってわかっていても無用心だから、鍵はしめてあるだろう。

それでも、一応、ドアノブをひっぱってみると

加奈子がドアの近寄る気配がして、

「剛司?」

って、尋ねる。

俺のほかに尋ねてくる男でもいるのかよって、いいかえしてやろうと思った。

「俺だよ」

ほれた弱みのいい恰好し。

憎まれ口をたたくのはやめにして、加奈子がドアをあけてくれるのを待った。

ゆっくりドアがひらいて、俺は加奈子の顔色を見る。

落ち着いてはいるが、なんだか、落ち着いているというよりは元気がない。

なんだろう?とおもいつつ、俺は玄関に入り込んで、気がついた。

男物の靴。

俺の心臓が今度はばくばく鳴り始める。

まともにつきあってないうちから別れ話かよ?

現れたってのは、そういう意味かよ?

新しい男の出現???

俺の視線にきがついた加奈子はその靴の持ち主を俺におしえてくれた。

「浩次だよ。里美と一緒にきてるの・・」

へっ?

俺はもう一度、玄関の靴をみなおした。

そういわれれば、もうひとつ、女物の靴が並んでる。

加奈子の趣味じゃないな。清楚な感じのローヒールのサンダル。

なるほどと俺は加奈子にうなづいて見せた。

「で、でたって?また、子供の幽霊か?」

里美と浩次、二人ならんでるなら、そいつしかいないだろう。

「ううん」

加奈子が首を振った。

「剛司にもみえるかな?」

玄関と続き間のキッチンは、ダイニングルームもかろうじてかねていて、

ダイニングルームは狭い玄関の壁ひとつ後ろがわにつづいている。

そこに浩次と里美がいるということだ。

だから、キッチンまではいっていかないと俺は加奈子のいう「見えるかな?」をたしかめることができない。

見たくねえ・・よ。3

俺が靴をぬぎ、キッチンにはいって、見えるか、見えないかを確かめる前に

加奈子に聞いておきたい事があった。

「で?あいつら・・なんだっていうんだ」

二人揃って、遊びに来た?って・・。

そんなわけは無いだろう。

俺は浩次に子供の幽霊のことも話した。

加奈子もきっと、里美にはなしているだろう。

「ん。やり直したいっていうのかな・・。

でも、やり直す自信がない。そのあたりの理由をね・・」

加奈子が口ごもる。

その話をきくまえにまた「なにか」が現れたってことかな?

「あたしだけじゃ、ちょっと、難しいなって思ったんだ。

里美が・・」

また口ごもる。

「なんだよ?」

加奈子は俺のジャケットをひっぱりはじめた。

「とにかく、みて・・」

みえなけりゃ加奈子が説明するだろう。

まあいいやと俺はキッチンにはいりこんだ。

浩次が俺にきがついて、

「わりいな・・」って、いう。

俺は浩次のそばにならんでいる里美をみた。

いや、俺がキッチンに入ったときから、俺はすでに「何か」を見ていた。

その「何か」と里美がやけににていたから、俺はそいつと里美をまじまじとみくらべていた。

と、いうのが正解だろう。

「わかったでしょ?」

俺の視線がどう動くかをみつめていた加奈子には、俺が見えてるのがわかったんだろう。

「ああ・・」

だけど、なんで、こんなにそいつが里美ににているんだろう?

前世?

俺と加奈子は前世までみえるようになっちまったのか?

「そこらへんに問題があるようなきがしてね・・。

ちょっと、つっこんだことをきいてみたいとおもったんだ」

浩次も里美も前世に差配されてるってことなんだろうか?

「加奈子から・・いろいろ、聞いたよ。

だから・・。俺たちが何がネックになって別れたか。

この先、それが不安で俺も里美も・・」

浩次の言葉まで途切れてしまう。

だが、浩次のわずかな言葉で

浩次と里美は「そいつ」からの影響で二人の仲がおかしくなったんじゃないかと思えた。

別れちまうほどの影響力があるということを自覚できるようなアクシデントがあったということにもなる。

「まず・・話をきこうか・・」

俺は小さなテーブルの向こう側にすわりこみ、

加奈子は俺のためにコーヒーをたてにいった。

見たくねえ・・よ。4

「俺が里美と別れたのは、里美を死なせたくなかったからなんだ」

突如でてきた物騒な言葉に、里美のほうは、すこし涙ぐんで、うつむく。

「浩次のいうとおりなの」

浩次は里美の手をにぎりしめた。

それは、俺が話すって、里美の口から辛いことを話させまいとする浩次の合図だった。

「俺たちはであってまもなしに、一緒にくらしはじめたんだ。

だけど、里美が・・」

言ってかまわないかと里美に尋ねる浩次の瞳に里美はうなづく。

これをみてる限り、こいつら、本当に愛し合ってる。

そう思えた。

思えたからいっそう、なんで別れたのか、なんで、子供を流すはめになったのか

気になった。

「最初は里美の落ち込みすぎでしかないと思っていたんだ。

だけど、まるで、発作みたいに・・死にたいって・・暴れだすんだ。

何をしでかすか、判らない状態だったんだ。

でも、それも発作みたいなもんだといったとおり、時折・・だったんだけど」

俺は黙ってうなづく。

「子供ができて・・。出来たかなって?思ったあたりから、

死にたい・・子供なんか生みたくない・・って」

里美が抱えるトラウマか?

前世の差配か?

「里美がなんでそんな風になるのか、里美には、心当たりがないんだ。

平常心の時にいろいろ、話をしてみたんだけど、里美には理由がない。

だけど、ひとつだけ、はっきり判ったことがあった」

浩次の顔が悲しくゆがんだ。

「俺といるから・・。俺と居る時だけ、里美は発作をおこすんだ。

そして、里美は子供を・・処置してしまたんだ・・。

それも発作的・・。

あとで、大声挙げて泣いて、なんてことしてしまたんだろうって・・。

だのに、病院からかえってきたら、やっぱり死にたいって・・。

ベランダから・・身をのりだしかけて・・」

必死で浩次はとめたんだな。

そして、決心したんだ。

別れようって・・。

「俺と別れてから・・里美は誰ともつきあっちゃいない。

だから、ほかの男ともそういう発作がでるのか、俺だけなのか、判らないけど

家に帰ってから、里美は・・発作がでなくなったそうだ・・」

親の傍ってのは子供が一番安心できる場所なんだろう。

そこから離れたというホームシックからくるものだろうか?

だけど・・。

俺は加奈子をじっとみた。

女ってのは・・子供ができたら、もっと強くなれるだろう。

だが、ただでさえ、強い加奈子とはかなげな里美をくらべてみる杓子定規じゃわりきれるわけがない。

「里美は浩次のこと、大好きなんだよね」

コーヒーをもってきた加奈子が里美に声をかけると、

里美の瞳からぽろぽろと大粒の涙がおちてきた。

「こいつも・・逆に俺をくるしめると思ったんだろう。

俺は里美が生きてるならそれでいいって・・。

それだけでいいって・・。

俺の気持ちなんか、どうとでもなるけど、

里美が死んじまったら・・・・」

俺は浩次のなくのをはじめて、みた。

自分といるせいで、恋人が死にたがる・・。

この事実はなによりも浩次をうちのめしたんだ。

見たくねえ・・よ。5

だからか・・。

だから自信がないって・・・ことか。

加奈子がぽつりと里美のことをそういってたっけ。

「で、今・・ふたりでいて・・どうなの?」

加奈子もテーブルの傍にすわりこんだ。

「ううん・・」

って、里美が首をふった。

「前みたいに一緒に暮らしてるわけじゃないし、

中学生みたいに門限8時で、家にかえってるから・・」

浩次が里美につけくわえた。

「ふたりっきりで、部屋にいる・・ってことは避けてるんだ。

映画みにいったり・・・喫茶店でお茶のんだり・・」

つまり、友達みたいな関係でいると、発作がでてこない?

つ~~ことは逆にいえば、深い関係には、なってないってことであり、

それじゃ、この先結婚なんてことも考えられず

お友達のままでいるってことか?

「なによりも、同じことの繰り返しになるんじゃないかって」

里美がいうとおり、そりゃあ、不安だろう。

「だけど、この前、加奈子がきてくれて、子供の幽霊の話をしてくれて・・

のりこえていかなきゃって、

ひょっとすると、本当に結ばれる運命なんだって、

結ばれる相手なんだって、

信じなおせたというか・・」

浩次がうなづいた。

「俺も同じだったよ、お前がきて、話してくれたとき

なにか方法があるんじゃないかって・・。

じっと待ってるだけじゃなくて、

諦めようって言い聞かせるのももうやめようって・・」

だから、相談しにきたってわけか。

だけど・・・。

な~~んで、加奈子のところにきたわけさ。

な~~んで、俺も一緒にっていってくれなかったんだよ。

結果的に此処にきてるから、まあ、いいけど・・。

俺もすねた態度みせたくもないし・・。

それに、な~~~んかわからんが、

なんでもかんでも、加奈子によりついていく。

その筆頭者が俺だけど・・・。

見たくねえ・・よ。6

俺の疑問というか「すねお」を加奈子はまたもよみとったんだろう。

「あのね・・あたしが、里美に言ったんだよ。

相談にのったげるから、おいでってね」

わざとえらそうな口調でいうのは、加奈子の優しさだ。

頼りがいのある加奈子さんだから気にせず気楽にはなしなよ。

って、わざとえらそうにいって、みせる。

「だってねえ。あたしも約束したしぃ~~~~」

里美が首をかしげた。

「約束って?」

うふふと笑うと加奈子は以下の科白だ。

「里美と浩次がハッピーになったら、剛司とつきあってあげるって!!」

おいおい、その言い方は俺が泣きついたみたいじゃないかよ。

だけど、俺は判ってる。

「だからね。剛司のためにも、まあ・・私の為にも・・

貴方たちは幸せになる義務があるわけよ」

自分たちだけの問題じゃないのよ。

私たちの幸せもかかってるの。

だから、頑張ってほしいの。

こういう風な自分勝手な科白にきこえるかもしれない。

だけど、加奈子がいいたいのは、

貴方たちが幸せになれば、自分たちばかりでなく、まわりをも幸せにできる。

それぐらい幸せってすごい力を持ってるのよ。

みんな、貴方たちが幸せになるのを祈ってる。

って、ことなんだ。

「うん」

里美も浩次もうなづいた。

俺もうなづいた。

だから、俺が後から呼ばれたってことに納得したからだが・・・。

だが、問題は里美の発作だ。

どうやら、この原因は里美にくっついてる前世のせいに違いない。

里美に発作の原因が見当たらないってことからして、

「そいつ」のせいに違いない。

だが・・・。

どうやって、この前世のもつ・・多分・・・トラウマを解決するかだ。

どうするか・・・。

思い切ってこの事実を里美にはなしたほうがいいのか?

子供の幽霊のことをすんなり、うけいれるくらいだから、

そのあたりもうけいれるだろうか?

だが、この前世のせいで、子供までながしちまったってなりゃ、

う~~~~~む

自分で自分を憎んじまうってことになってしまわないか?

前世からの差配?

今まで二人の霊をみてきたわけだけど、

それは、生きてる人間を変えていきゃよかったわけだ。

だけど、今度はまあ、いわば、死んだ人間をかえなきゃどうにもならんのじゃないのか?

話し合えるんだろうか?

だが、それは里美にはなしかけるってことになってしまうわけで・・。

そうすると・・やっぱり、「そいつ」のことを里美に浩次につげなきゃならないか・・。

俺は里美が、浩次が前世の仕業をどううけとめるか、

いや、憎まないように、どううけとめさすかをまず考えなきゃいけないと思った。

見たくねえ・・よ。8

俺はまず、里美に尋ねてみた。

「加奈子から、きいたんだけどさ・・。

今、おまえ、あれ・・見えてる?」

里美はのびあがって、俺の見ているちびっこを見つめた。

丁度、前世がいた高さくらいに里美がのびあがると、

「うん」とうなづいた。

妙なことがおきた。

里美の動きとおなじに前世もいっしょにうごきはじめた。

里美が俺にむきなおると、前世もむきなおる。

差配や乗っ取りでなく、同調している。

そんな感じがして、俺は別のことをたずねてみた。

「里美は今、自分の傍にいるものがみえるか?」

里美は自分のまわりをみまわす。

前世も一緒になって、見回す。

「ううん・・」

里美には前世はみえないのだ。

まあ、そうだろう。

見えるってことは、自分の外界にいるんだ。

里美の内界にいるものをみることができない。

内界にいるからこそ、差配できるってことでもある。

里美と前世のパイプがつながると、前世の感情が里美にながれこんで

発作がおきる。

発作をおこしていない状況の時は、里美と前世のパイプはつながっていない。

だから、里美がきがついていない幽霊を前世がみつけたり、それぞれが、自由な行動を起こしている。

ところが、今、発作をおこしていない状況で、前世と里美のパイプがつながってると考えられる状況だ。

里美がみれば、前世が追従していく。

これって、逆に里美が前世に感情を送ってるってことにならないか?

だとするなら、里美にはなしかけることで、前世に話すことが出来る?

この機を逃しちゃまずいぞ。

俺は矢継ぎ早に里美に畳み掛けた。

「里美は幽霊がみえるから、俺のいう事が判るとおもうんだけどな。

前世ってのがあるんだよな。

どうも、そいつがおまえにのっかってるんだ。

前世ってのはな、そうだなあ・・・。

まあ、言えば一卵性双生児みたいなもんだ」

里美が俺の話をじっと聞いている。

きこえてるのか、どうか知らないが前世も俺を見てる。

「よくきくだろ?

双子の一方が病気になると、片一方もなんだか、体がだるいとかさ。

違うところに居ても同じものを食いたいと思う、ソノ時間まで一緒ってのがさ」

うんうんと里美がうなづく。

前世も・・・これまた、うなづきだした。

「どういうのかな・・。

片一方が本当に困ることがあると、もう片一方が肩代わりするってこともあるんだよな」

俺は遠まわしに前世のもってるトラウマを里美が肩代わりしたということをつたえようとしていた。

もちろん、里美に対してでなく、前世に対してだ。

だが、里美の顔つきが変わった。

「あのこを死なせちゃったのは・・そういうこと?

私がもっと、しっかりしていれば、あのこを・・」

里美はキッチンの隅のちび幽霊の座っているだろうほうをむいた。

やっぱり、前世も里美とおなじ、悲しい顔をして、むこうをみた。

「あたしが・・あたしが・・・もっとしっかりしていたら・・・」

里美が茫然自失の様相をうかべはじめた。

ま・・・まずい・・。

前世のほうが主導権をにぎってしまう。

里美の感情が認めたくない事実を拒否しようとして、心がどこかににげだそうとしてる。

前世の感情に差配されてしまう。

「もう・・・やだ・・死にたい・・」

ぼんやりと里美の口から漏れてきた言葉に、浩次は里美をだきしめていた。

「ばか・・いうな。里美・・しっかりしろ・・里美・・里美?」

「あ、あ・・あんたなんか、大嫌いよ。あんたの子供なんか生みたくなかった。

うちにかえりたい・・うちにかえりたい・・」

「里美?」

浩次はまたも、自分が里美を追い詰めるのは、自分だとおもうだろう。

だが、前世に差配されてしまったとしか、思えない状況を打ち破ったのは加奈子だった。

見たくねえ・・よ。終

「ちよっとまちなさいよ。あんた、誰?生みたくなかった?そういったよね?

里美は・・もうしわけないいいかただけど、生んじゃいない。

あんた、生んだって、きこえるよ?

だとしたら、あんたが嫌ってる男って誰よ?

浩次じゃないよね。

あんた、自分を里美だとおもってるんじゃないの?」

里美も前世も「え?」って顔をしてた。

前世の感情が里美に流れ込むのがとまったとも見えた。

お互いがお互いを「誰だろう?」とかんがえているとも、

自分を自分だと認識しなおそうとしているようにもみえた。

里美の顔つきも少し和らいでる。

自分をとりもどしはじめているんだ。

「あんたは、里美じゃないんだよ!!」

加奈子の一喝がとどろいたとき、

里美が小さく・・つぶやいた。

「お・・おねえちゃん?」

え?

それどういうことだよ。

だが、俺も頭の回転はいいほうだ。

すぐに新しい情報から古い情報を訂正する考えをはじき出す。

里美にそっくりだと思ったから、前世だと思い込んだだけで、

姉?

と、いうことなのか?

「私のせいだったのね・・」

静かな抑揚のない声が里美の口から漏れ始めた。

一瞬、俺は里美がこわれてしまったのかと思った。

だが、加奈子と浩次がすぐにそれを訂正してくれた。

「里美じゃない・・」

「ああ、里美じゃない・・」

「お姉さん?」

加奈子の問いかけに里美、いや、里美の身体にはいりこんだ、姉が応えた。

「里美を・・里美の子供を・・私が・・私のせいで・・」

どういうことなんだろう?

お姉さんとやらにいったいなにがあったというんだろう。

俺の疑問をたずねてみるまでもなかった。

「かけおち同然で、あの人といっしょになったのに、わたしにはもう帰る場所も無いのに・・」

お姉さんはやっと、自分の感情を冷静にしゃべることができたのだろう。

自分の思いを内にとじこめて、おしころして「あの人」と一緒に暮らししていたんだ。

思いが行き場をなくし、里美が肩代わりした。

肩代わりしなきゃ、お姉さんは本当に死んでいたかもしれない。

「あの人」がやったことは、どうせ、DV沙汰だろう。

それでも「あの人」を愛してるお姉さんは、自分の感情をおしころした。

子供ができた時も半分は生みたくないと思い、

半分は子供の存在に賭けたんじゃないだろうか?

押し殺した感情を解放したら、お姉さんが子供を流していた。

里美はお姉さんの感情を一手にひきうけ・・。

俺はじっと、ちび幽霊をみた。

ー辛い役目をおまえはひきうけたんだな?ー

それもこれも、里美のためだ。

加奈子をみてたら、判る。

加奈子は里美たちが幸せになるまで、自分の事なんかあとまわしだ。

そんな加奈子の友人の里美だってにたようなもんだろう。

そして、

ーちびすけ・・。おまえ、里美にお姉さんが死んだなんて、そんな目、みせたくなかったんだよな。おまえのことなら、まだ、諦められるだろうけどさ。お姉さんが死んだってなったら、里美がどんなに悲しむか・・。お前と里美でお姉さんをいかせようって、必死だったんだなー

そうか・・。

って、俺は思った。

だから、里美が家に帰ったら落ち着いたんだ。

お姉さんの「帰りたい」って、感情を叶えてやっていたからだ。

「なあ、お姉さん。いったん、家に帰ってきたらどうだ?

あんたのだんなもあんたに「感情」ぶつけすぎてるんだ。

あんたも自分を押し殺す。

結果、里美が全部それをひきうけてさ。

結局、あんたもまわりまわって、「感情」ぶつける亭主と一緒じゃないか?

素直に一番底の感情を出さないから、ごまかし、ごまかしでおかしくなる。

あんたの一番底の感情は「家に帰りたい」「結婚をみとめてほしい」ってことじゃないか?

認められないから、帰りたいって感情まで曲げちまう。

家に帰れば、亭主に自分のしたことを考え直すチャンスを与えられる。

だけど、あんたは帰らない。

帰らないから、亭主は「こいつは俺のところにしか居場所が無いんだ」ってあんたにいっそう甘えていく。なにしたって、こいつは出て行かないんだってね。

あんただって、おふくろさんに愚痴ってちっとは心が軽くなるだろう?

亭主も反省するだろうし・・。

そんな折り合いのチャンスをつくれる場所に帰りたいって当たり前の感情じゃないか。

だからなあ。

まず、自分の感情をすなおにだしていく。

この心機一転のために、一端、家にかえってくる。

そうすりゃあ、もう里美にかたがわりさせるなんてこともしなくてすむ。

あんただけの為じゃない。

里美のためにもそうしてくれよ」

な~~んか、加奈子のいってた科白の二番煎じだとおもいながらも、

俺はじっと、里美・・いや、お姉さんの返事をまっていた。

「うん・・わかった」

返事がそのまま号泣にかわった。

「里美・・里美・・ごめんね・・ごめんね・・」

これは奇妙な光景ではあった。

里美が里美にごめんねと謝っている。

里美がなにかいいたげにしている。

だけど、おねえさんがはいりこんでいるせいで、里美はなにもいえないんだ。

「あねえさん・・。もうすんだことは、いいんだ。里美がねがってるのはこれから先のあんたの幸せじゃないかな?あんたが幸せにならなきゃ、里美も幸せになれない。そう考えてさ、まず、体制をたてなおすために家にかえってくるんだ」

「あ・・あの人のことを・・あの人と別れろって、そうじゃなくて?

あの人のことを認めてくれる・・の・・ね」

「ああ。あんたが、そうやってまで、自分を押し殺してまで、里美が肩代わりしてまであんたたちを護ってきたんじゃないか。それを大事に育てなおすのはあたりまえだろ?親だって、そこ、判ってくれるって」

一番、それを願ってるのはちびすけ、おまえだよな。

もう一度、ちびすけを見た時もうちび幽霊はいなくなっていた。

それって、ちびすけの願いが叶ったってことか?

俺が里美と前世にそのことを告げようと振り返った時

前世・・あ、お姉さんの「感情エネルギー体」であるエレメントもきえていた。

浩次が里美をだきしめて、

俺と加奈子はお邪魔虫は退散とばかりにキッチンをでて、

外にでた。

「どうする?」

加奈子が俺に聞く。

「なにが?」

「これから・・」

「んなこと、きまってんじゃんか、加奈子は約束を遂行する」

「そうじゃなくて・・」

「なんだよ?」

「今・・これから・・」

里美と浩次。しばらく初めての二人きりを満喫させてあげたほうがいいだろう。

で、その間、俺たちがどうするか・・だ。

「俺ん家、来ない?二人きりを俺たちも満喫するってのは?」

俺の提案に加奈子が怒り出した。

「なに、いってんのよ。そんなこと、まだ、早いわよ」

なにいってんだよ?俺ん家で二人きりなんて今まで何度もあったことだ。

ただ、バックグラウンドが違っていた。

前までは、友達。

「はあ?加奈子?そんなことって、どんなことだよ」

「え?」

「なんだよ・・言ってみろよ、俺、よくわかんねええ~~~~」

もちろん、それが余分な一言だったのは間違いない。

なぜなら、

「ばか!!」

って、突然、加奈子に叩かれた。

「なんだよ。おまえ、いつも突然、いきなり、なんだよな。

え?だいたいさ、突然、俺のハートの中にはいってきちまいやがるし・・」

加奈子は俺のことをにらみつけてた。

にらみつけてた目元が可愛く笑ったようにみえた。

あとは、またも加奈子の突然・・・・。

ー今頃は里美と浩次もキスしてるかなー

俺の頭の中、ちらりと二人をかすめたけど、

やっぱ、俺は加奈子の突然に夢ん中・・・・・。

おしまいにしておこう。^。^v

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