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煙草の煙にのせて


病院の当直をおえると、北原さんが、横にならんだ。
彼女も同じ当直番だったが、
病棟が違う。

職員玄関で、タイムコーダをおしたあと、すぐに、
北原さんがやってきた。

並んで駐車場まで歩くことになった。

病院の隣にある駐車場まで歩く時、患者のうめき声が聞こえてきた。

入院病棟は駐車場に面して建っているから、時折、患者の大きな声が
漏れ聞こえてくる。

「今日、搬送された男の人だよ」
北原さんはその声の主を教えてくれた。

「やっぱり・・・。産婦人科とかの看護師になったほうがよかったかもしれない」
私がつい、愚痴をもらしてしまうのは、北原さんの妙に姉御肌な性格を知っているからだと想う。

北原さんは駐車場までくると、車にのらずに、煙草に火をつけはじめた。
それが、合図で、私も、煙草をひっぱりだす。

「院長がだいぶ、おかんむりみたい」
「ああ?これ?」
病院職員が健康を害する可能性のある煙草を吸う。
昨今の嫌煙権もあり院内はいたるところ、禁煙になった。

休憩時間も拘束され、タイムカードをうつまでは、
喫煙できない。
そのせいで、駐車場にはいれば、すぐに煙草に手がのびる。
「まあ、実際をいえば、通勤中の事故は労災がきくわけだし、
病院の風聞ってことを考えると、通勤時間も勤務時間帯とかんがえられるわけよね」

病院職員が煙草を吸うのが、病院の風聞にかかわってくるのなら、
休日だって外で煙草を吸う事ができないってことになるだろう。

「まあ、そこまでは拘束できないけどね。でも、煙草のせいだと思える病気で死亡でもした日には、病院側の恥になってしまうかもしれないね」

「つまり・・院長に大義名分ができるってことだね」

北原さんの煙草をみつめる。
ロングピース。
それ、かなり重たくて、私はくらくらして、すえなかった。


煙草をみつめてる私に北原さんがきがつくと、
私に煙草をおしだした。
「吸う?」
ロングピースの香りは好き。味もいい。
だけど、とっぷり吸ったあとのくらくら、は、ちょっと・・。
迷っている私に北原さんは
「きついけど、ながもちするしねえ」
と、笑った。

「そっち?」
「そうよ。軽いのは、紙まいて吸ってるみたいにすぐなくなっちゃうし、それに比べてロンピは持ち時間もながいし、濃いから、次の一本までの間がつなげるのよね」
そうだなって、うなづきながら、私は北原さんに
「ちょうだい」と、頼んでいた。

久しぶりのロングピース。
口の中に含むと濃い味にこくがある。
北原さんのいうように、確かに持つ。

煙草の密度も濃いんだろう。
吸ったものの、ほとんど火口が変わらない。
「1mmのなんか、吸ったら一口で、1cmくらい火がこっちによってくるよ」
危なくてしかたがない。と、つけたすと北原さんはもう一本ひをつけた。

「話し出すとほしくなっちゃうよね」
と、いうところをみると、なにか、話したいことがあるのかもしれない。

とぎれとぎれにさっきの男の人だろうか、うめき声がきこえる。

私の煙草も半分になったころ、
きた!!
くらくらする・・・。

「きついわ。だめだよ・・こりゃ」
「いいよ。捨てりゃ」
北原さんはつけたばかりのロンピーをふかしながら、笑っていた。
「あんたの吸い方だったら、きついと想うよ」
「私の吸い方?」
「そう。あんた、思い切りすいこんで、肺でとめてるもの」
そうなのか・・。
私はもう一度、ロングピースを吸いなおした。
ふ~~と息を吐く時まで私は自分の吸い方を自分で観察していた。

北原さんの言うとおり、思い切りすって、肺の奥までいれると、
いったん、呼吸をとめる。
そして、しばらくのちに煙をはきだす・・・。

うわ・・。
目がくらみそう・・。

よせばいいのに、くらくら状態でもう一度すったせいだ。

「大丈夫?顔色わるくなってきてるよ」
「う・・うん・・ちょと待てば、治るよ・・」
いったものの、眩暈がする。
これをやりすごせば、すっきりするはずだけど、
患者のうめき声がやけに耳について、
二重合唱みたいに気分がわるくなる。

しばらくして、私のくらくらが沈み気持ちの悪さがひけていった。


「あ~~。やっぱ、ロングピースはだめだ。これだけ酷くなったのもはじめてだけど、場所も悪いのかもね」
私の言葉に北原さんは、煙草をもみけすと、すぐさま、新しい煙草に火をつけていた。
なにか、話したい事があったのに、私が気分を悪くしたから、
話せなくてイラついてるのかもしれない。

「場所って?」
北原さんは灰にもなってない煙草の先の灰をおとす。

「だって、うめき声がきこえて、こっちの気分も悲惨になってきて、いっそう、気分がわるくなったんだもん」
怪我で入院した男の声がまだ、きこえてくる。

「やっぱりね」
北原さんの科白に私はすくなからずむっとしていた。
判っていることをわざわざ、尋ねたということになる。

北原さんは煙草を大きく吸うと、ふううと煙を吐いた。

「あのね。あなたに話したい事があったの」
私の気分が回復したのをみてとった北原さんはやっと本題をつっこめるとおもったのだろう。
だけど、私はまだ、気分がおちていた。

「やだな。さっきより、うめき声が大きくなってる。場所かえない?」

私の提案に北原さんはううんと首をふった。


「でも、込み入った話みたいな?そうじゃないの?」
北原さんは少し困った顔をした。
なにか、いい迷う顔になって、
それから、もう一度煙草を吸った。

煙を吐くと一緒に北原さんの口から言葉も吐かれた。

「場所をかえても、おなじことよ」

私は戸惑った。北原さんのいう意味がよく飲み込めなかったことよりも

北原さんの言葉に含まれている語調が不気味だったからだ。

「あの?それって?・・・」
北原さんをみつめる私を慰める優しい瞳がかえってきていた。

「私も同じだから・・。貴女の事がよくわかるの」

どういう事?どういう事なの?

「貴女はまだ、気がついていないから、本当のことをいいたくなかったんだけど・・」

本当のこと?気がついてないって?なにを?

「驚かないで欲しいし、怖がらなくてもいいことだし、

私もそうだから・・・」

北原さんの言葉のほうが私をこわがらせていた。
驚くような怖いことに私が気がついていないってことになる。

唯一の慰めというか、安心というか、励ましは
ー私も同じーということだけだった。

「なに?なんなのよ?」
私は思いきってたずねるしかない。
尋ねて、怖がる必要が無いことも、驚く必要が無いことを確信しなきゃいけない。

北原さんはまた煙草を吸った。

さっきと同じように煙と一緒に言葉をはきだすつもりなんだ。

案の定だった。

「貴女がね、さっきから聞こえてるという男の人の声だけどね。
その男の人はもう、1時間以上前に亡くなっているの」

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