画像1 画像2 画像3 画像4

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ノンちゃんの犬

今日は正直、まいった。

私はご存知の通りペットショップの従業員。

いつもの通り、子供連れのお客さんの対応にいささか、辟易しながら

犬たちの面倒をみていた。

ぼんやりした様子の子供をつれたおかあさんが入ってきた時

私はすぐに、その子が知的障害者だとわかった。

「あのう・・・」

他の従業員はそそくさと奥にはいっていく。

おまけに私がそのおかあさんとばっちり目があってしまった。

覚悟を決めて、応対する。

「あのう・・。このこ、知的障害なんですよ」

説明されなくても、見ただけでわかる。

だから、なんだというわけじゃないけど、

正直、嫌な予感をもった。

「友達もいなくて、猫を飼ってるんですが、猫はすぐ側からはなれるので、

この子が猫をつかまえようとして・・・」

見れば、その子の腕や顔に猫からのかき傷がおびただしい。

だから、なおさら、予感が的中しそうに思える。

「それで、犬ならばと思って。犬はなついてくる動物ですから・・」

私の胸の中でーこの人たちに売るのは、いやだーという思いが

はっきりしてきた。

私の中の煩悶が収集つかなくなっている。

売りたくない。

でも、犬を売るのが商売。

私個人の思いで、売る売らないをきめるわけにはいかないだろう。

迷いながら、まず、犬を飼える環境なのか、どうかを確認することにした。

「あのう・・・。犬をかうことは、ご家族の方みんなが了承してくださっているのですか?」

これが、一番大きな環境だと私は考えている。

私の言葉におかあさんの表情がかすかにゆがんだ。

「私とこのこでかうんですから・・」

ああ、思ったとおり。おそらく、母子家庭。

父親がいない状態なんだろう。

「私が仕事に行ってる間、このこが寂しい思いをしないように・・」

私は独身で子供もいないし、ましてや知的障害の子供がいるわけもないけど、

それでも、ふと、気にかかる。

「おかあさんが働きに行ってる間、誰もお子さんの様子を見てくださる人はいらっしゃらないのですか・・」

私の尋ねたことの意味合いをお母さんは、少し理解していた。

「ああ、おばあさんがきてくれています・・」

おかあさんはすこし言葉につまった。

「そうですね・・」

そのおばあさんも犬を飼うことに賛同してくれているのかどうか。

おかあさんは、それも大事な条件だと気がついた。

「おばあさんを説得します」

言葉というのは正直だ。おかあさんのその言葉から

おばあさんが犬を飼うことをこころよくおもっていないのがよみとれる。

私に飼うことを了承してもらえないとおもったのだろう。

おかあさんはそれでも、犬を飼いたいという自分の理由を話し始めた。

「このこ・・余命1年・・って・・いわれてるんです。

だから、すこしでも寂しい思いをさせたく・・」

涙に消された言葉の続きはその決心をあらわしていた。

「おばあさんの了承をえてきます」

おかあさんは、店をでていき、私はすぐにオーナーに電話を入れた。

手短に事情を説明すると、オーナーの回答は明快だった。

「売りたくないと思う相手には、売らなくてもかまわないよ」

意外な返答だったけど、

私の思いが通じた回答にほっと安堵したのも事実だった。

ここに来る前服飾関係の売り子をしていたことがある。

そこを辞めた理由がペットショップのオーナーの考えとまるっきり反対だったせい。

ー売ればいいんだ。似合わないなと思っても、そこは、上手にリップサービスでー

私はこの考え方に怒りを覚えた。

だから、辞めたんだけど、今度は逆に「似合う」客を選んでいいといわれてしまって、

私は迷った。

事情が事情だから。

あの親子に犬をうることは、むしろ、「良いこと」にみえるだろう。

だけど、この何年間。犬の世話をし、ときには、病気の発見が遅れ

死なせてしまったこともある。

お水商売を蔑視するわけじゃないけど、誰もいないマンションに一人ぼっちで

留守番させていたり・・。

貴方の寂しさをぬぐわせる道具じゃないんですよ。

そんなことを口にだすわけにいかず、帰ってきたらよくほめてあげてくださいね。

そうお願いして犬をわたしたけど、寂しく部屋にまるまっている犬の姿が目にうかんで、

しかたがなかった。

そんなこんながいっぱいあって、私の中で

犬の環境ってことが大きなポイントになってきていたんだとおもう。

断ろうか、断るまいか、考えていた私だったけど、

ここで、断ったって、どうせ、他の店に行くだろう。

その時には、私が思うことも伝わらないまま

おかあさんがきちんと意識しないまま、犬を飼うことになる。

どういう結果になるとしても、まず私のおもうままを伝えてみよう。

そう考え付いた。

考え付いて、腹をくくって、話そうと何度か自分にいいきかせていると

おかあさんが帰ってきた。

おかあさん。犬は玩具じゃないんですよ。

私は言い出しそうになる言葉を呑み込むのに必死だった。

そのこの余生のために犬をかう。

そうじゃないんですよ。

犬を飼いたい。犬が好き。

犬を飼ったら、いつのまにか、とても楽しい暮らしになった。

それが順番なんですよ。

そんなことを口に出しちゃいけないのは重々承知。

わらにもすがる思いのおかあさんに

一従業員の犬への思い。

どう伝えていけばいいだろうか。

「おかあさん。思ったとおりのことを口にしますから、

きついことをいってしまうかもしれませんがきいてください」

私の一言目。

おかあさんは、私の話を黙って聞いていた。

無理に引っ張られたりしたら犬もそのせいで、噛吠症になってしまったり、

人間不信になったり、犬にもちゃんと「精神」があるってこと。

お子さんが、犬に無茶をすることがあったら、

心を鬼にして、お子さんを叱る。

犬も家族だと考えてくだされば判ると思います。

弟や妹にひどいことしたら、上の子をしかりますよね?

それと同じ。

家族を迎え入れるんだ。

そんな気持ちで犬を飼って欲しいんです。


おかあさんは私の言葉に深くうなづいたようにみえた。

犬を飼うことでその子にもっと貴重な思いをしらせることができる。

大事にする。そのことを知らないまま逝かせてしまいたくない。

おかあさんはそうおもったのかもしれない。

「だいじにします。犬の様子も1週間に一度見せにきます」

おかあさんはそう約束した。

そして、とても小さなマルチーズを連れて帰った。

オーナーに結果を報告すると、

オーナーがぽつりとつぶやいた。

「その犬が延命の役にたってくれたらいいね」

          (おわり)

関連記事

コメント

非公開コメント
 INDEX    RSS    管理

猫・追加中

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最近の記事

作品集(アルバム仕立て)

カテゴリー

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
日記
5794位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
2141位
アクセスランキングを見る>>

ブログ村

訪問者様

ページランキング

ブログパーツ

IP検索

全記事表示リンク

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。