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僕はRyoukoと暮らしている。

戦争が終って2年。

日本はどん底だった。

肩を寄せ合う温もりが欲しい。

二人が同じ部屋に住まい、お互いを求め合う日々が続いた。

4畳半一間の小さな部屋に肩を寄せ合い、当り前のようにRyoukoを求めRyoukoを抱いた。

その瞬間が二人に生きている証を与えてくれた。

僕らの戦後はこうやって始まったんだ。

小さな町工場に働いていた僕はいつも脅えていた。

仕事は相手側の都合次第。

仕事のないときは部屋でふらりと寝そべるしかなかった。

Ryoukoも似たような者だった。

僕たちは世間ではまだ幼い少年と少女でしかなかった。

かき集めた金を前に僕たちはいつも溜息を付いた。

小さな部屋を借りる金を払うと後はいくばくかの小銭・・・。

暮らしはいつも貧窮を極め、僕はやるせなくRyoukoの肩を抱いた。

抱いた手はいつしかRyoukoを貪り、僕らは一つになる時を共有しあった。

Ryoukoを毟り取る僅かな時間に浸りこむ事が僕らの明日への活路だった。

―だけど・・・―

Ryoukoが孕んだ。

―あのねー

悲しい瞳が僕を捉えた。

―ううんー

僕は首を振るしかなかった。

二人で生きてゆくことさえかつかつなのに・・・。

Ryoukoは働けなくなる。

あきらめろよ。

僕がRyoukoの言い出せない決心を口にするしかない。

―どうやって?―

Ryoukoの瞳がさまよう。

堕胎にかける金さえない。

僕は拳を握り締め、出来るだけ静かに承諾を告げた。

―身体・・・売って来いよー

そう。これ以上孕む事なんかないRyoukoが稼ぐ方法はそれしかなかった。

―う・・ん・・ー

僕はRyoukoを売る。

彼女を・・・Ryoukoを売っぱらう・・。

でも、僕らに残された方法は・・・、

それしかなかった。

その夜。Ryoukoは駅前にたった。

僕らが生き抜く為の金を求め、生命を潰え、

僕は女衒になりはて、Ryoukoは毒婦に堕ちる。

―Ryouko・・行け・・よ―

Ryoukoがやっと声をかけたのは酷く優しそうな中年の紳士だった。

身なりも金回りのよさを示している。

僕は頷くしかない。

―それで・・いい・・―

そして、僕は夜の街闇に消えてゆくRyoukoを見送った。

僕は・・、其の夜、初めて独りの夜を迎えた。

小さな部屋はRyoukoが居ないだけで、随分広く、そして、随分物悲しかった。

帰ってきたRyoukoに女を抱くにしちゃあ、多すぎる金を渡された。

―どう言う事だよ?―

Ryoukoは男についていった。

けれど、男は見たとおり・・そのままの紳士だった。

「亡くなった娘と同じような年頃の君が・・・何故?」

紳士に問われるままにRyoukoは全てをあからさまに語ったという。

紳士はやがて、Ryoukoに金を掴ませた。

「産めないか?産んでやれないか?」

ありったけの金を渡すと紳士は悲しげに呟いた。

「僕の娘は生命を育む事も知らぬままに逝ったんだよ」

君はどれだけ幸せであるか?

死んでしまう事を考えれば・・・Ryoukoの幸いを実らせてやれないか?

紳士の言葉は今の僕にはあまりにも痛すぎた。

―それで?―

僕は出来うる限りの平静を装った。

だけど、言葉に包んでもむき出してくる棘はRyoukoを黙り込ませる。

黙り込んだRyoukoに僕の痛みをぶつける事は何もかもを正当化させる。

Ryoukoの情は僕の立つ位置を優位にさせる。

愚かしく弱く、情けなく不甲斐無い男をRyoukoは必死で護ろうとする。

―やらせもしないで、金だけ、受取ったっていうのかよ・・・―

握った金にRyoukoは一縷の望みをいだいていたのかもしれない。

だけど、僕は自分の卑小さから、はいあがろうとした。

少なくとも、表向きだけは。

僕の神経はRyoukoを堕とすことを決めた女衒であることを卑しむ。

卑しんだ僕は一層、卑屈で卑しい男である事に固執した。

こんな、情けなく不甲斐無く命一つも護ってやれない僕である僕を赦すRyoukoこそが

僕の、「僕だけのRyouko」にできることだろう。

僕はRyoukoに「僕のRyouko」であることをみせつけられたかった。

―僕は・・こじきじゃないんだ。僕らはこじきじゃないんだー

魂を売っぱらったって、僕らはこじきになんかなりゃしないんだ。

Ryoukoのうなづきをみくらべる。

金は喉から手が出るほどの厚さがあった。

「抱かれて来いよ。じゃ、なきゃ、この金はつかえない・・・」

僕は悲壮な声をしていたかもしれない。

Ryoukoの身体は金に摩り替えられる。

そして、其の金で僕は生命を葬り去る。

かまやしない。

汚い僕らは汚いやり口で汚い落とし前をつける。

堕胎という汚いやり口に何を綺麗事がいる。

汚い愚か者が愚か者らしく欲望のままに動いちまったこの失態を償う。

この恥辱に塗れた愚かさは、似合いの愚かな方法で決着をつける。

僕はRyoukoを堕楽させ、快淫に耽った。

僕のRyoukoは僕によって辱めを受け、身を堕とした。

後始末は似合いの手段だろう。

Ryoukoは汚い欲望に塗れた報酬で汚い結末を締めくくる。

―それだけー

そして、Ryoukoをいっとう最初に欲望を拭わせる女に仕立て上げた男がもがく。

Ryoukoの稼いだ金をみつめて。

―それで、僕らは僕らをあがなう。・・・ただ、それだけ―

「行けよ。金はいるんだ。いる以上、貰う以上。きっちり落とし前はつけて来いよ」

小さく頷くしかないRyoukoを再び部屋の外に押し出した。

きっと、この時間。あの紳士は駅に降り立つ。

―僕は悪魔だー

悪魔は平気で生命をくびる。

僕は精一杯悪魔らしくあるしかなかった。

「早く行けよ。行って、必ずアイツにだかれてくるんだ・・・」

小さな契約書の見返りは―俺の女を淫婦にします―そうかいてある。

僅かな銭で僕らの綱渡りは保障され僕はRyoukoと共に魔を踊る。

僕らは冷酷無比な肉の塊である事でしか、生きてる事を確かめられない哀しい残骸だった。

戦争がなければ僕らはこんなに困窮しなかったろう。

でも、戦争がなかったら、僕はRyoukoにであうことさえなかったろう。

戦争が残した悲しいのさり。

戦争の落とし前は僕らの上にもやっぱり平等にふりかかってきていた。

Ryoukoがでていって、僕は部屋の中でねころがっていたっけ。

風の臭いが変わり外はしとつく雨にかわっていた。

Ryoukoはあの後・・、濡れて帰ってくるんだろうか・・・。

みすぼらしく身体を投げ売って、Ryoukoはすすけた連れ合い宿を出る。

Ryoukoは冷たい雨に身体を打たせるだろう。

みすぼらしい生き様に、似合いの雨。

きっと、Ryoukoはずぶぬれになるまで雨の中に立ち尽くして、

そして、僕の元に返って来る一歩を踏み出す。

Ryoukoが連れ合いを出てくるまでまだ、時間はとっぷりある。

僕は出来るだけRyoukoが男に抱かれる刻を考えないで置くだけだった。

僕の手で切なく抗う肉の弾みを僕はいつも意地悪くRyoukoに与えつくした。

Ryoukoの声はいつも沈んでゆく。

切ないよ。恋しいよ。って、Ryoukoの声はいつも僕を追い求め僕たちの奥深くに沈んで行った。

Ryoukoはその時、僕の全てだった。

部屋を出る前に古びたかさを一つ掴んだ。

こんなものでも雨はしのげる。

―雨の日にどこに出かけるって言うの?―

Ryoukoはわらったっけ。

仕事を干された雨の日はどうしようもない。

動く事は飢えを増させるだけ。

二人でじっと部屋の中に寝転んだ。

寝転んだ二人はやはり寂しい空気に晒されることを怖れた。

僕はRyoukoの薄赤い極部に自分の物を滑り込ませる。

快楽が欲しいわけじゃない。

一人で居るのが辛い。

独りだって知らされたくなくって僕はRyoukoの場所に自分をもぐりこませたかった。

僕らはRyoukoでも僕でもない「僕ら」である事に安らいでゆく。

―なのに、Ryoukoは・・・孕んだー

孕ませたのは僕だ。

白い体液がRyoukoの中に注ぎ込まれ

その時僕はかすかな不安を覚えながら、Ryoukoを呼んだ。

Ryoukoはわかっていたのだろうか。

小さな涙を落して僕に応えた。

僕はーRyoukoが居ないと慄いた迷い児でしかなかった。

外に出るとまだ明るい。

日差しはくぐもり、どんよりとした空から小糠の様な雨が降り注いでいる。

そう。降り注いでいる。そう言うのがぴったりの雨。

僕は足を駅のほうに向けた。

―当分こうやって外をうろつくだけ?―

馬鹿のようだ。

今頃Ryoukoは男の物を飲み込んでいるだろう。

華奢な体はきっと手なれた男の愛撫に声を上げさせられる快さを覚えさせられているだろう。

Ryoukoの喘ぎを男が僕の代わりに聞くだろう。

その間僕は外をうろつき回って僕の空っぽを埋めるRyoukoの帰りを待ちわびる。

僕は足を止めた。

原っぱになってしまった空き地。

そこには僕が知っていた広い屋敷の面影さえない。

でも、こんな事はそこら中にあることなんだ。

むしろ、僕らに雨をしのげる部屋がある方が不思議なくらいなんだ。

広大なほどの空き地の中に庭石がポツリと浮き立って見える。

僕らは何をするにも一つの部屋でことたりさせるしかないけれど、

屋敷の住人だった人々は、各自に寝る部屋を持ち家族が集まる部屋を持ち、

ひょっとしたら、自分の趣味のための部屋まで持っていたのかもしれない。

何をするにも手が届きそうな狭い部屋で誰よりも僕はRyoukoを感じ取れる。

庭を覗く主は新芽の萌黄色を妻にはなしても、ふと振り向いた眼差しは独り言に成っていた事をしらせてくれるだけ。

穏やかであるけれど、激しさもいたわりもない生活の残像が庭の石にまでしみついているようだった。

―あれ?―

石が揺れたかと思う僅かな弾みが草を揺らした蛙のせいだとわかるまで、僕は随分庭石の側にちかづいていた。

案の定、庭石を覆いかける草を揺らしながら小さな雨蛙が這い登ってきていた。

雨を喜ぶのはこいつだけかもしれない。

いや、Ryoukoも・・。

雨の日はずっと、一緒に居れる。

それに中庭を囲む他の部屋の住人と分けた地面に植えた小松菜が雨の後は良く伸びた。

Ryoukoはそういった。

―いいこともあるよーって。

ぼんやりRyoukoを浮かべていた僕の目の中を雨蛙がとんだ。

彼は小さな躍動で緑の葉を揺らすと、庭石の上にちょんと降り立ってじっと雨を受けていた。

喉をひくひくと動かしながら黒い瞳は次の躍動の降り立つ場所を見極めるようだった。

彼が一足飛びに庭石の上を去る。

短すぎる邂逅にあっけなくさらばを告げる彼をみのがせず、僕は衝動的に彼を捉えようとしていた。

思ったより先に手が動き僕の手の中に冷たい雨蛙のぬめった感触があった。

―Ryouko・・・―

僕の伸ばした手を振り切る事を出来ずRyoukoは僕に捕らえられ、僕をうけいれた。

手の中の雨蛙はあの日のRyoukoのようだった。

僕の決断一つでRyoukoは僕の物になった。

そっと、抑えた手に隙間を作り僕は雨蛙をつまみだし、つぶらなほどの黒い瞳を見つめてみたいと思った。

手の中の冷たい感触はじっとちじこまっていた。

僕はそっと掌をあげかけた。

とたん。彼の冷たい感触が手の中をうごめいた。

空に成った手の中と蛙の脱出はほんのまたたきの差だった。

いつの間にか、僕は躍起になっていた。

手を抜け出た蛙は大きな躍動を見計らっている。

躍動を見計らう小さな青い生物の背にも雨はしのついていた。

僕はそっと彼の頭上に手を広げた。

彼の喉がひくひくとうごきそれが止まる。

躍動の合図だ。

彼の身体は伸びやかでどこへとびこもうというのだろうか。

だが、彼の躍動は空を切り僕の手が彼を押さえ込む。

僕は抑えた手をそのままに彼を掴もうとした。

僕の掌の上で彼の黒い瞳をのぞきこんでやろう。

そうするだけのはずだった。

小さな身体は自由を求め僕の抑えた指の中の足を其のままにひくりそくりと躍動を繰り返していた。

抑えた足を離せば其の瞬間、彼は思い切り飛び跳ねて草むらの中への活路を見出す。

―おまえまで―

僕は何をいおうとしたのだろうか?

逃げて行くのか?

僕はそう言いかけたのだろうか?

僕はRyoukoを失った。

僕は僕らを失った。

僕らはいつもその刹那が僕らでしかない事を僕がRyoukoに教えた。

僕らに未来はなく安息はない。

僕らは赤黒い血の塊を埋める。

僕らはその悲しみに蓋をして醜悪な獣になるためだけに僕のものをRyoukoの中でうごめかす。

哀しい藍色の空気だけが僕らの息を赦す。

きっと、僕はこうやってRyoukoを傷つけてゆく。

Ryoukoは僕のにごりを受け止めては、何度泣くだろう。

僕の心は果てしない飢えにさいなまれ、埋め尽くせないことにRyoukoは声を押して泣く。

僕は非力で生命さえ次げない。

Ryoukoを活かす事もできず、僕はRyoukoを・・・・

この蛙のように捕まえているだけ。

僕は左手で足元を探って小さな石を拾い上げると、彼の足を小石で押した。

痛みを伴う拘束から彼はまだ逃げようとしていた。

僕は思いきり小石に力を込めた。

潰された足を引きずりながら彼はじたじたと石の上を這いずり回り躍動一つにまろびこけた。

僕はどんな顔をしていただろう?

どうせ、もう、逃がさない。僕は彼の動きを完全に掌握していた。

でも、彼の心は飛んでゆこうとする。

僕の手は彼の足を打ち続けた。

動かぬ身体でも彼は躍動する事を当然のように求める。

―諦めろ。わすれろ―

だが、彼の心は自由に焦がれる。

僕の手は彼を粉砕してゆく。小石がさらけ出す血と皮と肉。

僅かな肉塊から骨がはみ出し、つぶれ、肉は骨ごと庭石のざらついた表面にへばりついた。

残った足に同じ作業を繰り返すと生きている彼の小さな手をつまみ出し引っ張り伸ばすと

僕は其の手にも遠慮なく小石の兆着を与えた。

手足をつぶしきると、つややかな青さが、まるまっちい塊が蛙だった事だけを知らせる。

僕はそれをみて、にたりとわらったんじゃないだろうか?

―楽にしてあげる―

己の肉で石に貼り付けられた蛙の頭の上に小石を当てると僕は思い切り力を込めた。

ぽふ

と、鈍い音がして彼の体が弾け赤い鮮やかな内臓が腹からはみだしてきた。

僕はあの時もこうやった。

Ryoukoの場所に僕を宛がうと僕は赦さなかった。

思い切り力を込めて僕はRyoukoを貫いた。

Ryoukoの苦痛が僕を煽り、Ryoukoの肉の悲鳴は僕への屈服と服従に聞こえた。

僕は一体どれぐらい彼をうちつづけていただろう。

庭石の上には、茶けたひき肉がある。

石の上で蛙はひき肉とさえいえない塊になり死を供えた。

僕はまだそれでも肉を打ちつけそれが蛙であったことさえ思い出せなくなっていた。

僕は何をうちすえていたのだろうか?

己の手でくびり殺す事さえ出来る女への愛しさか?

Ryoukoにかせた惨殺への痛みか?

僕らの子供は愛されもせず逃れようともせず、闇に葬り去られてゆく。

「自由」に飛び込んでゆける彼を僕は憎んだか?

僕はあたりが薄暗くなるまで彼をつぶし続けた。

もう、それは彼でなくなり滴る雨が彼の肉を散らばしていた。

庭石の上は哀しい葬列の舞台だ。

僕とRyoukoの是からも続く哀しい暮らしの中でそれでも、生じてくる希望と甘い夢を摘んで、

此処は僕とRyoukoの葬列。

「にげてゆく」僕はそれを粉々に砕いてゆく。

いつの日かまで、僕はRyoukoの中に僕を与え続ける。

いつの日かまで。

僕はその時まで泣きはしない。

僕は雨に打たれているRyoukoを見つけた。

―ばかやろう―

さしかけた傘の中に入れてやる。

―風邪引くだろ―

Ryoukoは僕の言葉に泣いた。

生命一つ産み落としてやれない自分を庇ってくれる僕にRyoukoは泣く。

僕は・・・。

僕に出来る事はRyoukoを拭ってやれることだけ。

僕は部屋に帰ったら一番最初にRyoukoの恥部を丹念に嘗め尽くしてやるだろう。

綺麗に 男 を拭いきって・・拭いきって、

僕はもう一度確かにRyoukoを求めるだろう。

僕はRyoukoの中に吐き出す事を堪えきれない自分を感じている。

僕だけがRyoukoを孕ませ、Ryoukoを痛みつくす。

僕の精神は白い濁りでRyoukoに印を付けたがる独占にかられていた。

                            ・・Fin・・

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