画像1 画像2 画像3 画像4

ホールド・ミー・タイト

―どっちにしろ、レオンと一緒じゃないんだ―
よく判らない生物の採取と
その生物の生息する環境調査を依頼された、クロードは
メンバーの中に肝心のレオン博士がいない事が判ると
大きなため息をついた。
おまけにおっちょこちょいのアシュトンと、非常に無口なデイアス。
それがメンバー全員だった。
「えー?ありー?」
残念そうなため息をついているのはクロードばかりじゃない。
プリシスと久しぶりにパーテイを組める
と、思ったアシュトンの不満げな声の側で
声こそ上げないけど、ジトーンと突っ立てるデイアスの顔にも、
面白くないと書いてある。
「まあ、いいさ。みんなかたわれなしでいくんだもの」
クロードは自分にも二人にも声をかけた。
確かにそうかもしれない。
まかり間違って一組でもカップルが紛れ込んだら
生物を採取しに行ったのか
カップルにあてられに行ったのか判らず、
いちゃつく二人を見るとは、
遭えない恋人を思って切なくなるだけ。
まさにホールド・ミー・タイトの気分を切望させられるわけである。
「そうだな」
しばらく遭えなくなるレナの事を考えてたのか
デイアスの顔が少し寂しげに見えたけど、
デイアスはクロードの言葉に納得したように頷いた。
「ええー?ありい?あー。だったら僕行くのやめようかなあ・・」
とんでもないわがままを言い出すほどプリシス
と仲良くなっちゃったアシュトンがレオンに睨み付けられていた。
(それが許されるならアシュトンでなくクロードに残って欲しいよ。)
と、言ってるレオンの瞳に突き当たるとアシュトンも黙った。
「な、この際みんなが恋人と会えなくなる。
こんな気持ちが、みんな一緒だって事は、
うん。それだけ連帯感も高まるし、
みんな早く帰りたいって仕事も速く片付くし・・
かんがえてみりゃいいパーテイーじゃない?」
クロードの言葉に
「そうかもしれないけどさあ・・」
往生際悪くアシュトンがぶつぶつ言ってると、
とうとう上仕官の堪忍袋の緒が切れた。
「子供じゃあるまいし・・・いい加減にしないかね?」
声に抑揚がないのは精一杯腹立ちを押さえてるせいだ。
「あ、いきます」
慌てて返事をした3人の声がそろった。
「ふむ。いい返事だな。だが、決断はもっとすばやくな。
そんな調子じゃ今頃はモンスターの腹の中に納まって
・・・モンスターは食後の歯磨き中だな」
「あははは」
面白く言う上仕官についアシュトンが、
声をたてて笑った途端に怒声が響いた。
「それぐらい遅いと言ってるのが判らんのかー!」
これ以上ここにいたら次から次とお説教を喰らいそうで、
「判りました。スグに出発の準備にとりかかります!」
と、クロードは敬礼挙手をすると
軽くレオンに目配せをして、くるりと振り向いて研究室を出て行った。
「右におなじ」
すかさず、デイアスが間髪いれずに言うと
ほぼ同時に二人でドアに向かっていた。
出遅れたアシュトンが慌てて
「右・・あやや、あ、えと、後ろに同じ」
叫ぶように言うと脱兎のごとく二人の後を追いかけていった。
「やれやれ・・・。だいじょうぶなんだろうなあ?」
レオンがドアのほうをじっと見てるのを、
自分と同じ気持ちなのだろうと勝手に推測して上仕官は呟くと
自分の職務が済んだとばかりに大きな伸びをして、
外に歩みだしていった。

それぞれが、恋人にしばらくの別離を告げにゆき、
別れを惜しんで抱きあってしまって
出発の準備どころではない気もするのだが。
ほら、案の定、レオンがクロードの後を追ってきた。
「クロード」
レオンに気が付いたクロードはひどく嬉しい顔のまま振り向いた。
「ああ・・レオン」
「僕もいくって言ったのに・・駄目だってきかないんだ」
上仕官への恨み言を呟きながら、
レオンはクロードの腕にまとわりついた。
「仕方ないよ。それに皆恋人をおいてゆくんだ。
僕達だけ行くわけには行かないよ」
「ん」
不服そうにレオンは頷くとクロードの耳元に伸び上がるようにした。
「早く帰ってきてよね」
「当たり前だろ?レオン」
「ん」
まだ目の前にクロードがいるというのに
逢えなくなる寂しさにレオンの瞳から大きなしずくが落ちた。
「馬鹿」
「だって・・」
こんなときの気分ってどんなものか、きっと想像はつくよね。
離れなきゃならない時ほどお互いをもっと密接な物として感じたくなる。
え?難しい言い方しなくてもいいって?
あは。つまり
「ねえ・・早くクロードの部屋に行こうよ」
って、甘えたレオンの切ない声。
つまり、こういうことなわけだよね?

レナの部屋をノックしてるのは
当然のことながらデイアスである。
ドアを開けたレナの頬を撫でるとデイアスは、
後ろ手でドアの鍵を落とした。
「どうしたの?」
いつものデイアスのものじゃない寂しげな空気が
レナに流れ込んできていた。
「しばらく・・あえなくなるから」
「あ?なに?」
「植物採取」
「研究材料ってこと?」
「そう」
デイアスの手がレナの頬を挟み込むので、
レナはゆっくりと瞳を閉じた。
「あえなくなるのが・・こんなに寂しいって思わなかった」
「デイアス?」
切ない気持ちをレナにぶつけるかのように、
デイアスがレナを求めだしてゆくのを
レナはひどく優しい気持ちでうけとめていた。
「私、あなただけのものよ」
レナがデイアスの寂しさを宥めるように囁くと、
自分で言ったとおりデイアスだけのものでしかないレナを
デイアスの愛撫によりはっきりとさらし始めていった。
『レナ』
レナの胸の中に顔をうずめているデイアスは、
まるで迷子のように心もとない顔をしていた。
レナはデイアスを包み込むように抱きしめると
「愛していてよ」
と、何度も繰り返した。

同じ頃。アシュトンである。
「あら、そうなの」
って、プリシスはけろりとしてる。
「え?あの?あえなくなっちゃうんだよ?
あの?あ、あの。さみしくないの?」
「さみしいわよ」
その割には何でそんなに平気そうなんだろ?
「あの、しばらくあえないんだよ」
「そりゃあ・・そんな遠いとこにいくんだもの。
いくだけで時間かかっちゃうよ」
そ・・そんな事を言ってるんじゃない。
「あの?」
「うん。気をつけてね」
「はい?」
「だからあ、いってらっしゃい。それと、おみやげはいいわよ」
「へ?」
プリシスにあっという間に送り出されてしまったアシュトンなのである。

そして、今。三人は一塊になって草原の中をつきすすんでいる。
先頭を歩くアシュトンがふてくされたように草を蹴散らしてゆくのを
クロードとデイアスは、見守るようにしてついて歩いてる。
「どう、思う?」
デイアスがたずねているのは無論アシュトンのことである。
「ナンカ・・荒れてるよね」
「だろ?」
「きけよ?」
「ぇ?僕が?」
デイアスもアシュトンの荒れてるのがきにかかる。
でも、なぜかデイアスは自分で聞こうとしたがらない。
采配をクロードに預けようという魂胆の裏側は
アシュトンの荒れてるわけが、
きっとプリシスに関係ある事だと察しをつけているからだ。
人の恋路に関わる事ほどくだらないことはない。
けれど、目の前のアシュトンの様子を見て見ぬ振りも出来ない。
と、なると白羽の矢は当然クロードに当たる。
あたりまえだろう。クロードしかいないのだから。
「わかったよ」
クロードはしぶしぶ承諾をすると、
有言実行の見本さながらアシュトンの側に走っていった。
「アシュトン」
「あーん?なに?」
なんだか不機嫌なのはここに来るときとちっとも変わっていない。
「あの。どうしたんだよ?」
「べ、べつに」
「「べつに」って態度じゃないよ」
いやな事を聞くなよって顔をしてるアシュトンに
どう切り出せばいいのかクロードは考えあぐねていると、
立ち止まった二人にデイアスが追いついてきた。
「・・・」
何も言おうとしないデイアスだから
クロードはやっぱり自分で尋ねるしかない。
「あの。なんかあったの?
あ。あの・・ひょっとしてプリシスとけんか?」
クロードが遠慮がちに尋ねた言葉にアシュトンの表情が変わった。
(やっぱ・・そうなんだ)
「あの、よかったら相談に乗るよ。
あ、そんなたいそうなことじゃないなら
あの・・ぐちぐらい」
続けて言うクロードを見ていたアシュトンが
もうこらえ切れないという顔をした途端
「いってらっしゃいってさ」
と、吐き出すように呟いた。
「あの?どういうこと?」
クロードの言葉に
途端にアシュトンは堰を切ったように喋り出した。
「僕が出かけちまうのに・・プリシスったら、
はい。いってらっしゃいって
まるでいないほうがいいみたいに・・
追い立てるように・・・言うんだ」
「はあ・・」
そりゃあアシュトンが荒れるのも判らなくもない。
黙っていたデイアスがアシュトンの言葉を聴くと 
「まだってことか・・」
と、ポツリと呟いた。
なんだかいらいらしてるアシュトンが
デイアスの言葉に喰らいついてきた。
「何だよ?何がまだなんだよ?」
「あ」
デイアスはアシュトンが荒れてるのを
さもありなんと言う顔で一人得心顔になっていた。
「チャンといってよ・・デイアス」
クロードはアシュトンの矛先がデイアスに移っていった事を
少なからずほっとしていたのだけど
随分遠まわしに一人だけ納得してるデイアスの考えは
クロードにも判りにくい物だった。
「んん。」
軽く咳払いをするとデイアスは
「つまり・・お前らは、まだだなって思ったんだ」
「まだって?何が?」
クロードは問いかけた後にはっと気が付いた。
深い仲にまだ成ってないくらいの結びつきだから
プリシスも一人の友人を送り出すような態度だったんだなと。
が、アシュトンのほうはそれとスグ察知したのだろう。
「まだじゃないよ。だから、腹がたつんだ」
アシュトンの言う理由は納得できる事であるが
それゆえに二人は絶句した。
『ぇ?なのに・・・そんな態度なの?』
「たまらないな」
デイアスはアシュトンの気持ちをずばりと表現した。
途端アシュトンの肩ががくりと落ちた。
「だよね」
「ああ。」
これ以上アシュトンを落ち込ませて欲しくないのに
デイアスったら平気で合図地を打つ。
「プリシスの気持ちがよくわかんないよ」
「ん」
「なに考えてんだろ?」
アシュトンの愚痴を聞きながらデイアスもクロードも
恋人が寂しげに離れ離れになる事を悲しく思ってくれたことを
感謝するしかなかった。
そのときの寂しげな顔がちらつくと余計に愛しくなるのも、
癪なくらいの旅の餞別だなって考えると、
やっぱし、惚れた者の負けさって思う。
ため息をつくより先に早く帰りたいよって
恋しい気持ちの自分を認められるのも
あの切ない別離の時間を甘やかにすごせたせいであろう。
だから、そんなアシュトンを前に二人はじっとりと黙り込むしかない。
「ああーー」
アシュトンはまたそこら辺の草を蹴飛ばすと歩き始めていった。

遅れをとった二人は顔をみあわせていた。
「どう、思う?」
デイアスの言葉にクロードは
「どうって・・いわれても・・」
レオンが「あ、いってらっしゃい」なんて
つれない言葉を発するわけが無い。
つまり、クロードにもプリシスの心理は量りかねるのである。
「わ、わかんないよ」
「そうか」
「デイアスこそ、どう思うんだよ?」
「俺?」
「うん」
デイアスは少し考えていた。
「どこか、アシュトンがいないほうがいい。そういう態度だろ?」
「ん。そうなるよね」
「あいつ、なんか、やらかしたかな?」
「って?なにを?」
「そうだな・・たとえば・・」

二人が密談し始めてる頃
当のプリシスはレナを訪ねていた。
「で?それ、どういうことになるわけ?」
「うーん」
プリシスが何を言いたいのか、
さっぱり要領をえないレナなのである。
「だから、もう一度言うよ。
アシュトンがでかけるってわかったらさあ。
なんか、ほっとしたんだよね・・それってさ・・つまり、」
「そんなの、へんだよ」
「でしょ?だから・・・」
「アシュトンに何か不満があるわけ?」
「あ。え?ああ。そういうことになるんだろうね」
「ナンカ、自分でもよくわかってないわけ?」
「だから・・相談しに来てるんじゃない」
「はあ?」
「うーーん。つまりい」
プリシスは言いにくいことをやっと切り出す気になっていた。
「なんなのよ?」
催促されるとなおさら言いにくいことではあるが
レナの一言で自分の思いをおぼろげに掴んだプリシスは
話してみる気になっていた。
「ねえ?遇うたんび・・あの・・ほら・・」
「なに?」
「ぇ?だから、あの、会うたびにさあ、することというか、
しちゃうというか、されちゃうというか・・レナ・・判る?」
戸惑いを見せながらレナはこくりと頷いて見せた。
「でさ。それって、なんか・・やだよね?」
「え?」
レナはビックリした顔でプリシスを見つめた。
嫌だと思いながらHする?
それは随分おかしいことではある。
「だったら、ちゃんと断ればいいんじゃない?」
「え。だって。あの・・」
「なによ?」
「だから。そう思ってるのに、負けちゃうというか。
アシュトンに抱きしまられちゃうと、
つい、嬉しくなっちゃって、それだけでいいんだけど
アシュトンが・・」
「無理矢理って訳?」
「あ。そうじゃなくて。あの?レナ判んない?」
「何よ。自分だけ判っている事でしょ?ちゃんと説明しなさいよ」
「だから・・あの・・アシュトンがほら」
プリシスがレナの耳に口を寄せると小さな声で
「一番感じる場所に手をのばしてくると・・」
「はい?」
レナはひどく赤面しながらプリシスのことばに合図地を打った。
「嫌だとか今日は断ろうとか、そんなのどっかにいっちゃって・・」
「あ。うん」
「でしょ?」
「え、あ。そうなるかな?
でも、それって、つまりプリシスは自分の意思でない。
流されてるって事?」
「そんな気がしてね。だから、なんか、どういうのかな。
アシュトンにいいように転がされてるというか、
自分がアシュトンの操り人形みたいな気分になったりして」
「で、アシュトンがどっかへいくとなったら
少なからず開放された気分になったと・・そういいたいわけだ?」
「うん。そういうことじゃないのかなって思うんだ。」
「でも。プリシスそれじゃ、
アシュトンが帰ってきたらまた同じ事の繰り返しだよ。」
「う・・」
「ちゃんと話さなきゃ」
「ぇ?そんな事言ったら、アシュトンもうしてくんなくなるよ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。いやなんじゃないの?」
「よくわかんない」
「えーー?」
「だって。気持ちいいんだもの。されたくなっちゃうよ。
でも・・・それって自分がしたいって事じゃ無い」
「ようは、夢中になれないんだ?」
「へ?レナは夢中になってるわけ?
こんな事ばっかししてていいのかな?とか思わないわけ?」
「え?」
レナの訝しげな返事にプリシスは悟った。
「え?あ!そうなんだ?」
「・・・・」
「あは。てれなくていいじゃない。うらやましい気もするよ。レナ」
「やだ。からかわないでよ」
「ううん。ちっとも、からかってなんかない」
「・・・・」
レナはプリシスの相談に何の答も返す事ができなかった。

次の日。早朝からレナは電話を手に取った。
「やあ」
「デイアス」
考えあぐねたレナはデイアスに相談することしか思いつかなかった。
レナの報告を聞くとデイアスは「わかった」と、一言言った。
「あ?なんだって?」
傍らで眠っていたクロードが電話に気が付いた。
デイアスが小指を一本立てて見せると
クロードにも電話の相手がレナであると判り、
もう一度シュラフの中で寝息を立て始めた。
電話が終わるとデイアスはアシュトンをそっと突付いた。
「ん?あ?なに?」
「いいか。よく。きけよ」
「え?なに?なんのこと」
「いいから」
「ん・・」
まだ、半分眠たい。
けど、アシュトンはシュラフの中から起き上がってデイアスを見た。
「プリシスに手を出すな」
「はい?」
「いいから・・そうしろ」
「はい?」
「いいな」
「はあ?」
なにいってんだよ。
手を出すもどうも、ここにはプリシスはいないじゃないか。
「それだけ!」
「はあ?」
言う事だけを一方的に言うと
もう一度デイアスはシュラフの中に潜り込んだ。
『はあ?』
なにかを解決できるからこそ、
こんな朝早くからデイアスが言ってきたんだよなと思うと
よく判んないけどそうするかとアシュトンは決めた。

昼過ぎて少しばかりアシュトンが変わったのに気が付いたクロードが
デイアスを捕まえてたずねた。
「なんか?いってあげたわけ?」
「ああ」
「なんて?」
「プリシスの奴。抱いてもらえるのが当たり前になって
自分の気持ちが見えなくなってるんだ」
「あ?・・電話。そのことだったの?」
「ああ」
その電話?は?いいタイミングじゃないかって思いながら、
クロードはデイアスを見た。
「ふーん。なら、簡単じゃない。
プリシスが自分の気持ちに気が付くくらい、
寂しくて仕方なくなるくらいゆっくり帰ればい・・・い」
と、言いながらクロードは気が付いたことに口を閉ざした。
デイアスも同じ思いだったらしく、小さくため息をついた。
「俺達はうまくいってんだ」
デイアスのいいたいことは判る。
「しかたない・・か・・・」
「ああ」
二人でチトーンってむこうにいるアシュトンを見た。
「ちょっと・・帰りが遅くなるだけさ」
「そうだ・・ね」
「ああ」
「だね」
そう。あいつのせいで・・・。
『とほほ』
切ないほどにホールドミータイト。
外れなく3人一緒にホールドミータイト。
帰ったら、きっと君に抱きしめられる。

ボーマン・ボーマン・6-時には乙女のようにー

「ひさしぶり!!」

って、なんだか、よく、きやがる。

ボーマンは調剤の手をやすめて、声の主をまじまじと見つめた。

『なんだよ・・いい女じゃないか・・?久しぶりって、俺、こんなべっぴん・・

誰だか・・・思い出せない・・・・』

ボーマンたるものが、こんな初歩的な記憶ミッシングなぞ、ありえるわけが無い。

女、いや、べっぴんの顔をみつめたのは、ボーマンの記憶の中の「特徴」と相似形のものがないか・・だったが。

「あ?・・おまえ~~~~~~!!」

大学で一緒だった。がりがりで、ひっつめ髪で・・めがねかけてて、色気もなければ、笑顔も無い。そいつだ!!

べっぴんと一言で表現するが、べっぴんにもいろいろある。

文字通り容姿端麗ってのは、わかりやすいが、顔だけ見りゃそうでもないのに、な~~んか、ぐっと来るものがあって、美人に見える。

いわゆる、雰囲気美人ってのもあるわけだ。

ところが、こいつ、外見はまあ、十人並だったが、もっている雰囲気が悪すぎた。

自分でも「どうせ、私はブスです」って、いじけてたんだろう。

たとえ、どんなブスであろうとも、一生懸命かわいくなろうとしていると、

なんというか、いじらしくて、可愛く見えてくる。

ところが、こいつは、どうせブスですよのレッテルを大看板にすりかえて、

ひらきなおっているように見えた。

男ってのは、馬鹿だから、「貴方の事が気になるの。ふりむいてほしいから、少しでもきれいに成りたい」ってのを、女心だ。これは、俺への秋波だと、受け止めたがるものなのだが、

こいつは、「はん?あんたなんかのためにきれいになりたくもない。だいいち、あんたなんか、男として、魅力ない」ってな風に、気にも、とめられないどころか、鼻も引っ掛ける気になってもらえない。と、思わせるような開き直りに見えた。

そうなりゃあ、まず、雰囲気がブス。

ブスであっても、雰囲気で美人にみえるってことの逆現象が生じることに成る。

そこそこの顔立ちをしてるようだけど、・・・ブスに見える。

タブン、自分の態度に気がつかず、ブスだと想われてるなら、もうどうでもいいやと開き直ってしまう悪循環にはまったんだろう。


だが、目も前にいる、こいつは、まじまじとみつめなおし、すかしなおし、しげしげ見つめ・・・を、くりかえさなきゃ、あのブスの大学生だった女がでてこないほど、変貌、豹変?変身?をとげて、

そりゃ~もう、きれいで、自分でも「美人」であるということを、良い意味で自信をいや、自覚というべきか。を、もっている。

自覚を持った女は、常に前向きで、自分に磨きをかける。

「いや~~~。驚いたぜ、ジェニファーだったよな」

「これだもんね。相変わらず、やさしいというか、名前も覚えてないじゃ、女性に失礼になるものね。紳士だよね。でも、残念ながら私はジェニファーじゃなくてよ」

「あん?」

目の前の美人はタイトなワンピースをきて、すらりとした足をおしげなくさらしていたが、スタイルだって、昔のこいつじゃない。

「誰だっけ?」

ボーマンのポリシーをずばりといいあてられてしまったら、もう、素直に名前を聞いたほうが早い。

と、ボーマンはそう想った。


「すまねえ。誰だっけ?」

「キャサリン・ヘイワード・・・キャッシーだよなって、、陰口たたかれてたでしょう?

キャッシングでどうぞと見せたって、見る気にもなれない。そういういみだったかしら?」

「あ、ああ」

確かに思い出した。

キャッシング・キャッシーだ。

だが、その影のあだ名を知っていたってことのほうがボーマンを驚かせていた。

そして、ボーマンの胸にふと、よぎる思い。

「で、おまえは、そうやって、中傷していた人間の鼻をへしおってやろうって

変身したってことかい?

で、まず、てはじめに俺の鼻をつぶそうって算段かな?」

美女はいとも簡単にボーマンの出鼻をくじく微笑でうけながすと

「あら?私は貴男のことをそんな風におもってなんかいなくてよ。

むしろ、アンチ・ボーマン派だったというべきかしら」

アンチ・ボーマン?

なんだよ、それ?

ボーマンの疑問符が美女には見えたらしい。

「私貴男が好きだったってことね。

だから、あなた好みだから、ふりむかれる。

って、ことに我慢できなかったの。

全然とるところもないのに、気にしてもらえるってことのほうが

本当らしくて、

言い出せば嫌いだって思われたって、それが真実なら

そのほうがいいってことよね」

キャッシーのいう事は判らないでもないが、ボーマンの胸はさらに痛む。

『つまり、なんだ。俺のせいで、こいつは、ブスのキャッシーになってたって事かよ?』

青春ピチピチの一個の女性をブスにしたてあげた元凶が俺?

とは、いうものの、目の前のキャッシーはもうブスのキャッシーじゃないわけで、

それは、つまり、とりもなおさず、

アンチ・ボーマンでなくなったというわけであり、

「はん?あんたなんかのためにきれいになりたくもない。だいいち、あんたなんか、男として、魅力ない」って、キャッシーじゃなくなったってことであり、

誰かの為に綺麗になったキャッシーってことになる。


『ほう、ほう、ほう・・・なるほど』

と、なると簡単にアンチ・ボーマンであったことをさらしたこと、

ひいては、ここに現れた目的はなにになる?


だいたい、キャッシーがなんで、今頃、こんなところに顔をだすか?


女ってのは、充たされない時ほど、昔の恋を懐かしみやがる。

そんな生き物だ。


つまりだなあ、キャッシーは

ー綺麗にならなきゃ、愛されない今の恋に不満をもってるー

綺麗じゃなくても想われたいと願った純粋な恋心を懐かしいと感じている。


こういうことじゃないのか?


はじめからじんわりキャッシーの左手の薬指にリングの跡さえないのを確かめているボーマンである。


なんだか、ボーマンはセリーヌに似ていると想っている。

(イッツ・オンリー・ユアマインドシリーズ参照)

セリーヌは本当の自分を見せられないとクリスを諦めようとした。

綺麗じゃないままに自分でも愛されたいという思いと

受け止めてもらえるわけがないと逃げ出そうとする心と・・・。


キャッシーの科白がセリーヌの相似形にみえて、

ボーマンはいっそう、キャッシーの薬指にリングの跡さえないのが気になった。


「で?どこのどいつ様があんたをこんなにべっぴんにしちまったんだい?」


女を「綺麗」に、かえちまう方法なんてのは、たったひとつしかない。

どこのどなた様がキャッシーが女でしかないことをおしえてやったか?

その意味がふくまれてることをキャッシーも充分に承知しているのだろう。

「うふふ」

と、妙に鼻にかかった声がでるばかりで、肝心なことには答えようとしない。


だから、いっそう、ボーマンは思い当たってしまう。


ーなんだよ。誰かいえない相手ってことかよー

誰かいえない相手。

恋人ですと公言できない立場といったら、-愛人ーって奴しかなかろう?


ーそうだったな。セリーヌも同じようなことを考えてやがった。

ラ・マンでいい。そんな言葉を漏らしたきがするー


だが、そいつと一緒になれないから、そいつのラ・マンでいいと言ったセリーヌとはちょいと、違う匂いがする。

たとえ、愛人であっても、その恋に満足してるなら、妙なポリシーでブスを貫き通したキャッシーが俺を懐かしんで遭いにきたりはしない。だいいち、俺のことなんか、思い出しもしない。


と、いうことは・・・・?


「お前、そいつとうまくいってないな?」


ボーマンのひょんな言葉におもいのほかキャッシーは狼狽を見せた。


「ち、ちがうわよ。仕事でこっちにしばらく滞在するから、どうしてるかなあ?って・・」


「は~~ん。お相手はその仕事の上司ってわけか・・」


「え?」


違うという言葉をのみこんだまま、キャッシーの瞳に暗い影がさした。

すくなくとも、ボーマンにはそう見えた。


「おまえ、相変わらず嘘がつけない性格だな」


キャッシーの瞳がボーマンをまっすぐみつめなおした。

「私のこと、・・・」

名前さえおもいだせないほどの存在でしかないとボーマンにつきつけられていただけにキャッシーの性格を相変わらずといえるほど、見ていてくれたと知ると

キャッシーの瞳から大粒の涙がこぼれおちはじめた。


「おい、おい、おいいいいいい」

店先で妙齢の美女が大声を上げている図式なんか

だれがみたって、ボーマンのせいにしかみえないだろう。

「あら?」

って、見ろ。

ニーネにまで、きこえちまったじゃないか?

「ボーマン?」

店先にかけつけたニーネの顔が怒っていやしないかと、

ボーマンはニーネをうかがいながら、小声で美女の名前を告げた。

「キャサリンだよ。キャサリン・ヘイワード」

「え?キャシー?」

大学を卒業して以来、あった事が無いキャシーだったけど、ニーネはちゃんとおぼえていた。

なきじゃくるキャシーの傍に寄ると、ニーネに中においでと肩をだきしめた。

「あ・・ニーネ・・あ・・ごめんなさい・・あの・・」

「いいのよ。ここじゃなんだもの、中にはいろう。ゆっくり、きかせて・・」

ニーネの優しい言葉にさえ、すがりたくなる悲しい思いが胸にわきあがってくるのだろう。

キャシーはまだ、大粒の涙をこぼしながら、うなづいていた。


二人が店の奥にはいってしまうと、ボーマンはなんだか、

とんびにあぶらあげをさらわれたような気分になる。


なんだよ?

俺じゃなくても良かったのかよ?

そりゃあ、女同士のほうがしゃべりやすいってのはわかるけど・・。

ニーネが不倫の悩み事なんか、解決できるわけないだろう?

つ~か、ニーネのほうがショックをうけちまうんじゃないか?


いつにまにか、心配する相手がニーネにかわってしまていることにも、頓着なしで、

ボーマンはそっと、聞き耳をたてていた。


「コーヒーでいい?」

ニーネがキャシーにたずねている。

「うん・・う・・あり・・がと・・」

まだ、大声をあげて泣いてしまったあとにくる、「平常心」ではないようで、

キャシーの声が涙に上ずっている。


ま、キャシーもそのうち、俺と同じおもいになるだろう。

と、ボーマンは思っていた。


しばらく、沈黙が続く。

ニーネは自分からあれこれ、詮索するタイプじゃないから、

キャシーが喋りだすのを待っている。


コーヒーものみおえて、キャシーがすこし、おちついてきたのだろう。

とりとめない話がはじまりだした。


「子供は?」

「まだなのよ・・」

「あ・・」

話が途切れてしまう。

これが、ボーマンだったら、キャシーは?って、すぐにききかえすだろうし、

キャシーもそのことから、

「子供どころか結婚もまだ・・」

だって・・・と不倫の悩み事を離すきっかけになる。


ニーネのへたくそといおうか、

察しがつかないしあわせぶりに、ショックなことを聞かせたくないって思わせて

上手にショックな話を聞かないで済む防御術を身につけてるといおうか・・・。


「でも、ボーマンがいるから・・」

ば・・馬鹿が、そんなこといっちゃあ、キャシーがますます自分の不幸をはなせなくなるじゃないかよ。


そんなニーネだから、傷つけたくないって、キャシーに思わせるんだろう事はよいことなんだけど・・・。


聞き耳を立てればたてるほど、堂々巡りの煩悶がボーマンをひっつかんでしまう。


『仕方ねえな』

ボーマンは早仕舞いをきめこむと、調剤室を手早くかたづけて、

二人の間にわりこむことにした。

「俺にも、コーヒーをいれてくれるかな?」

キッチンのむこう、居間のソファーに腰掛けているニーネに声をかけるボーマンだが、そのニーネが座っている場所も問題半分。


コーヒーカップの位置からみても、最初は対面に座ったのだろう。

だけど、今、ニーネはキャシーの横に座っている。

キャシーが涙をみせるもんだから、ニーネは隣に座ってキャシーの手でもにぎってやったか、肩をだいてやったか、

確かにスキンシップってのは、心を癒す事が出来る。

だけど、横にすわるということは、キャシーにとっては

「自分で解決しなきゃ、ニーネに心配させるだけ」という感情を生じさせるだけだ。


一方で対面に座るという事は、まさしく対峙状態になる。

キャシーはできるだけ、客観的に自分のことを対面する相手に伝えなければいけないと考える。

ニーネのしていることはテーブルの上に「キャシーの悩み」をよけることであり、

対面に座るという事は

テーブルの上に「キャッシーの悩み」を検討物件としておくという事になる。


こういうちょっとした人間心理がわからないというより、

問題点ごとつつみこんでしまうニーネの優しさというべきかもしれない。


ボーマンは今までも独自な解決法でみんなの迷いに当たってきていたけど、

ヤッパリ、問題からの悲しみをいやすより、

時に悲しみより辛い場合だってあるだろうけど、

問題点はきっちし、修繕すべきだと考えている。


コーヒーを立てに行くニーネにボーマンはかすかに首をふった。

察しのよいニーネというべきか、

ボーマンの問題解決の手腕をしんじているというべきか、

ニーネはその意味を悟る。


「まあ、お店かたづけてないで、しめちゃったの?」

とってつけた言い訳をいってみせる。

もちろん、ボーマンもニーネの意図する事がわかっている。


「あ・・ん?すまねえな。ちょっと、かたづけちまってくれよ」

いいながら、ボーマンはキャシーの前に座り込んだ。


やがてコーヒーが目の前に置かれると

ニーネはキャシーにお店をかたづけてくるとつげ、

キャシーもどこか、ほっとした顔をみせていた。


ー見ろ。やっぱ俺じゃなきゃだめだって顔にかいてあらあー


ニーネが店に入っていくのを見届けると

ボーマンが口火をきった。


泣いちまったあとってのは、けっこう、冷静になるもんだし、

醜態を見せた以上、本人ももう、話しませんというわけにはいかない。

ボーマンがいきなり、尋ねても、キャシーはちゃんとこたえることができるだろう。


という、ボーマンの計算ができあがっている。


「で、なんだよ。その上司との仲をなんとかしたいってことかよ?

それとも、きっちり、清算したいってことかよ?」

男と女。

ある一線をこえたら、この先の道はふたつしかない。

別れるか、続けるか。

このどっちを選んでも、それ相当な覚悟が要る。


だけど、別れたら、今度は本当にまともな恋の道をあるけるかもしれない。


ボーマンの言葉にキャシーは少し戸惑った顔をした。

もちろん、ボーマンはその顔をみのがしはしない。


「なんだよ?」

だいたい、不倫をする男なんてものは、実生活では、女房にわがまま勝手をぶつけてるもんだから、恋人には必要以上に優しくできるもんだ。

いわば、女房がいるからこそ、極上の恋人を演じられるんだけど

ここを不倫相手の女は気がつかない。

理想的な優しさと、経験を経た性技とムード。

こんなものに、とりこになってるのが、実は虚像でしかないと気がついたか?

結局、女房の手のひらの中にいる男でしかないし、キャシーも然りってことに気がついたか?

それとも、やっぱり、虜の道をえらぶか・・・?


とことが、キャッシーの口から出た言葉はボーマンの予想を見事に裏切った。


「あの、不倫って、わけじゃないのよ」


不倫じゃなけりゃ、なんで、さっさと一緒になっちまわねんだよ?

まあ、ぎゃくでもいいや。

なんで、さっさと、別れちまわねんだよ?


「だけど・・やっぱり、不倫だわ」


な?なんだよ?それ?


「わけがわかんねえな。ちゃんときかせてくれよ」


うん、とうなづいた後キャッシーは大きく息を吸い込んで

吐く息をためいきにかえた。


「彼、奥さまがいたのはいたのよ。

でも、ず~~と、病気で病院にいたの。

私と知り合った時も、もう、5年以上入院されていて・・」


はあ~~ん、で、寂しい男に同情して、深みにおちちまったってとこか・・。


「私は一緒になりたいとか、そんなつもりでなくて、

彼を尊敬していて、こんな私でも支える事が出来ないかと思って・・」


で、一番、彼がささえてほしい部分を提供しちまった・・と。

まじ、転落の縮図じゃねえかよ。

ましてや、尊敬だと?尊敬するにたりる人間がひとりの女性をそんな風に

自分の寂しさを紛らわす道具にするかよ?


「それで、ずううと、もう、7年たつかなあ。

そんな状態で、彼とつきあってきていたわけだけど、

昨年、奥さまが亡くなったの・・」


はあ?

で?

それで、涙つ~ことは、相変わらず、影の女ってことに

嘆いてるってことかい?


「彼は喪が明けたら、私と一緒になろうって、プロポーズしてくれたのよ」


は?

前言撤回かな。

ちゃんと、責任とるというか、まあ、誠意ある人間ではあるらしいな。

で、あるのに、涙?

結婚したって、結局、寂しさ紛らわす道具の延長線でしかないって、

キャッシーが気がついたってことだろうか?

で、結局、道具みたいな自分になけてくる?

結婚してもいいんだろうか?

やめたほうがいい?

でも、気持ちの整理がつかない?


ぐちゃぐちゃとキャッシーの気持ちを推し量ってるボーマンでしかない。

肝心な事がみえない。

問題はキャッシーの気持ちってことだろう。

そこを話してくれなきゃ・・・

って、思ってるボーマンをキャッシーが覗き込んだ。


「ねえ、ツルゲーネフの初恋って本よんだことある?」


へ?

読んだことはないけど、内容は知ってる。

そんなことをいいだした、キャッシーは何をいいたいんだろう?と、

ボーマンはストーリーをなぞりながら、

キャッシーのなぞかけを考えていた。


で、その話ってのが、どいうことだというとだな。

「それさ、どっかのぼくちんが、年上の幼馴染かなんかを好きになったけど、

そのねえちゃんが、自分の親父とできてたって・・

え?

まさか・・

おまえ?」


上司の女房が5年前から、ねたきりで、そのあと、キャッシーが7年ほどつきあっている?

つまり、その上司の子供が、それなりの年齢になっていて?

「親父とのことを知らずにおまえにのぼせあがった・・・?

いや・・それなら・・」

キャッシーがぴ~ぴ~泣くことじゃないよな?


「ボーマン・・・その逆・・」

キャッシーが一番口にだしたくなかったことらしい。

どうにも、はっきり、いわないが、

やっと、ボーマンにも判った。


「つまり、おまえは、上司の息子とできちまったってことか?」


野卑ないいかたにキャッシーの目がつりあがってきた。


「ちょっと、そんな言い方ないでしょ。彼とはそんな・・こと・・してないわよ」


いつものボーマンなら、そんなことって、どんなことだ?

って、すかさずいいかえすところだが、

ボーマンは胸の中でなるほどと思っていた。


上司のことは、不倫だのど~のこ~のいわれても

顔色ひとつ、言葉つきひとつ、かわらなかった。

だが、息子のことを野卑にいわれたとたん、キャッシーは変わった。

つまり、どっちにまじになってるかといえば、

まちがいなく、息子に対してだ。


「なるほどな・・」


さばさばと上司と別れてしまおうにも、

次のお相手が上司の息子じゃ、こりゃあどうにもならない。

上司と結婚したら、息子の心は悲惨なもんだろうし、

キャッシーも自分の心に嘘はつけない。


「もう、なにもかも、あきらめて、いっそ、彼の知らないところにいこうかとか・・」


この場合の彼は上司のことをいうのか、息子のことを言うのか

二人のことをいうのか?

そんなことよりも、ボーマンは尋ねてみたい事があった。


「で、そのぼっちゃんはおまえのことをどうおもってるんだよ?」


キャッシーの顔がうつむいた。

うつむいた影からぽたり、ぽたりと涙がおちてきていた。

「まじめな人なの。結婚を前提につきあってくださいって・・」


ボーマンにはため息しかでてこない。


「おまえさ・・キャッシング・キャシーはどうしたんだよ?

中身のない恋はしたくないってのがおまえだったんじゃないのかよ?」

いっそう、キャッシーの涙がこみあげてくるんだろう。

両手で、顔を覆うそのうでにまで、涙がつたいおちていた。


「私・・自分がかわいそうだって思ってたんだと思う。

誰にも本気になってもらえないって、そうおもいこんで、

彼が私にやさしくしてくれて、それで、ちょっと、ほめてくれたり

もっと、自信もって、もっと、綺麗にみせるように工夫していいんだよ。

とか、そんな言葉に癒されて、私もきれいになってこれたとおもう。

だから、彼に救われたって・・そんなきがして・・・」

彼を愛しているとおもいはじめたんだろうな。

だけど、それは、自分が愛されていないという寂しさを

彼にみつけただけにすぎない。

病気の奥さんがいて、寂しい彼の中に

寂しい自分をみつけて、その自分をなんとかしてやりたかったんだ。


「結局、同情っていうか、同病相哀れむだったってことか・・」


「うん・・そうなる」


「ふ~~ん。だけどな、俺一言言いたい事がある」


ボーマンの言葉にキャッシーが顔をあげ、涙でぐちゃぐちゃになったまま、

まっすぐボーマンをみつめた。


「あのな。おまえにそれが本物の恋じゃないと気がつかせてくれたのは、

ぼっちゃんだろ?」


「あ・・うん・・そうかもしれない」


「だったらな。お前が選ぶ相手はぼっちゃんのほうしかないわけだ」


キャッシーはボーマンの言葉に何度も首をふるしかなかった。


「できないよ・・そんなこと・・」


キャッシーの気持ちが判らないボーマンじゃない。

こいつもまだまだ、純なとこもってるじゃないかとおもいながら

ふっとボーマンはうすくわらった。

「だな。親父のおふるをおしつけるわけにゃいかないしな」


悲しそうに唇をかんだキャッシーだったけど、

ボーマンの言葉をみとめるしかなかった。

「そのとおりよ」


「ふ~~ん」


ボーマンはその言葉をきくと、急にばからしくなってきた。

だから、そのままキャッシーにつたえることにきめた。


「まあ、おまえの今の気持ちじゃ、どうあがいても、

誰かの愛人をやってるしかないさ。

おまえの思い方ってな。ほどこしてやるって

おえらいきもちしかねえよ」


「え?」


キャッシーにはボーマンがいう言葉の意味がわからない。

「ボーマン?それ、どういうこと?私そんな気持ちこれっぽっちもないわ」


思ったとおりキャッシーはわかっていない。

「おまえが、どっちをえらぶかより、どっちもすてるかよりも、

おまえ自身が履いて捨てるほどいるおえらい聖女とちっともかわらない。

おまえはその聖女きどりをやめることを先にしなきゃならない」


「ボーマン?私のどこが聖女だっていうわけ?

どこが、ほどこしなわけ?

私なんか、不倫でぼろぼろになったただのあばずれじゃない。

それも、かくさずに・・」


ボーマンのまなざしはきつい。

キャッシーはその瞳で、自分が理解していることと

ボーマンがいおうとしていることが違うことだけはきずいた。

だから、口をとざし、ボーマンの言葉をきくことにした。

「まず、お前は自分をろくでもないあばずれだとはみとめてないよ。

口先だけ、そういってる」


ボーマンの言葉はやはり、キャッシーに疑問しか、もたらさない。

だけど、なにかが、違う。

その言葉の表面だけの意味じゃないなにかがある。

キャッシーはそう思っていた。


「おまえが、本当にろくでもないあばずれだったらな、そんなお前を本気で思ってくれる人間をなくしたら、おまえのこの先の人生どうなるとおもう?」


ボーマンの言いたい事がすこし、見えてきた気がする。

「ボーマンのいうとおり、誰かの愛人とか、そんな生き方でおわってしまうとおもう・・」


「だろ?

だったら、お前のすることは必死でそいつについていくことじゃないか?

そいつが知ったら傷つくとか、嫌われるとか、そんなことじゃねえだろ?

お前の人生の生き死にがかかってるんじゃねえのか?

きっかけなんか、なんだっていいんだ。

あとになってな、こいつと一緒になってよかったって、相手におもわせりゃそれでいいんじゃないか?

お前にとって、本当に大事でお前が一生懸命てにいれなきゃいけないことをな、

おまえは、その大事なものをすてようか、どうしようか、

こんなぼろを相手にあげちゃいけないなとか、

だったら、おまえがぼろじゃなくて、高貴なものだったら、

相手にほどこすわけかよ?

ぼろだから、ほどこせないだけでさ?

あげく、おまえがえらそうにすてようか、どうしようか?

おまえのほうがひろってもらうんだよ。

ひろってもらう立場の奴がすてようか、ほどこししようか?

笑わせるなよ」


ボーマンの口からでてくる言葉はそりゃあ、ひどい言い方だと思う。

だけど、キャッシーに相手の本当の価値ってものをかんがえなおさせる一言・・いや・・多弁になったのはまちがいなかった。


「私・・彼を掴んでも良いってこと・・?

でも、なにもかも、黙って・・彼をだましてしまうことになる。

せめて、こんなぼろな女でも、そんなことだけはしたくない・・」

わずか、希望を見出したかと思ったキャッシーだったけど、

相手がセイントであればあるほど、

自分がせめて、そこの部分だけは同じものでありたいとおもったんだろう。

ーけっこう・けっこうー

キャッシーの気持ちもやっぱり、まじなものでしかない。


「あん?

だれが、黙ってろって、いったよ?」


「え?は・・はなせ・・っていうこと?話してしまえって?

そんなこと、できるわけないじゃない」


「な~~んでさ?」


「なんでって、考えなくってもわかることじゃない」


きっと、ボーマンは又、かすかに笑ってるにちがいない。

「わかんねえよ。

わかるように説明してくれねえか?」

「説明って・・?」

そんな事がわからないボーマンのわけがない。

「そうさ、説明してくれよ。

なんで、はなせないのか、俺にはわからないんだよ」

判らない・・・?

ボーマンが判らないのは何故だろう?

なにか、別の考え方があるからだろうか?


「つまり、私が考えてることはどこか、違うってことかしら?」


ボーマンはふふんと鼻をすすると、

すっかり、冷えてしまったコーヒーに口をつけた。

「そうかもしれないな。

だから、おまえの考えをはなしてくれないと

俺の考えもならべてみせることができないってとこだろう」


さすが、頭の回転が速いキャッシーだと思いながら

ボーマンはキャッシーの説明を待った。


「そうね。じゃ、はなしてみる。

まず、彼が私と父親の関係をしったら・・・

彼は父親をにくむ・・。

そして、私と一緒になっても、父親とのことを思い知らされる。

私に対しても・・悲しい思いや怒りをもつ・・

結局、親子も夫婦も破綻していく」


「それだけ?」


ボーマンの返事はそれ。

それだけって?それが一番のネックじゃない?

わざわざ、不幸になるために話す必要はないし、

ましてや、苦しむだけじゃない・・。

苦しめるためだけに話すなんて、身勝手もいいところだわ。


「あのさ、俺がおもうことだけどさ。

そんなこと、黙っていておまえ、本当に幸せになれるか?

さっきいったように、そのすがたってさ、

聖女のふりのおまえじゃんか?

ぼろであばずれの自分をうけとめてくれて

それでも、愛してくれてるってわけじゃねえだろ?

聖女のお前をあいしてるってことにならねえか?

それで、おまえ、ほんとうに、あいされてるっていえるか?

ひろってもらえっていっただろう?

ごみのようなおまえをみせなきゃひろってもらえやしないんだよ。

お前がすくわれないんだよ。

一生、聖女のふりで欺いてる罪悪感と

本当の自分ごとうけとめてもらえない寂しさに泣くことになるんだよ。

そんな生活が本当の愛か?本当の夫婦か?」


ボーマンのいうことはよくわかる。

けど、問題はそんなことじゃない。

彼がどんなに傷つくか・・・。


「まあ、大体おまえの考えてることは察しがつくよ。

だけどな、俺がお前の親父だったらって、かんがえるんだ。

ぼろな娘でもな、それごと、うけとめられねえような男に

おまえをわたしたくねえ。

そして、自分の父親とどうこう?

そんなことで、へこたれるような男にもお前をわたしたくねえ。

それで、親父を恨んだり

お前を憎んだりするような思いしかもてねえ男にも渡したくねえ」


「ボーマン?」


「判るか?お前がぼろだろうが、なんだろうが、

本当にお前が必要で、お前が大事だったらな

父親からでもうばいさるくらいな気持ちがなけりゃ

一緒になっても偽者の感情しかそだたねえんだよ」


「それ?

私に本物をつかみとれってこと?」


「まあ、そういうことさ。

そんなことできずつくよりも、お前と一緒になれることになれたって

喜ぶ奴じゃなきゃ・・。

考えてもみろや。

お前が父親の愛人になってなかったら、お前ら出会うことさえなかったんじゃないか?

考えようによっちゃ、親父さまさまだろうが?

お前だって、まさか運命の人が・・・

あ~~ん、そいついくつだよ?」


「23・・・」


「つ~ことは、お前が最初にそいつにであってたら14歳ってことだろう?

おまえ、そんなジュニアスクールの坊主に恋をするか?

しねえだろ?

だったら、その時点でまじツルゲーネフの初恋みたいに

二人はお釈迦になってたんじゃねえか?

それをお前らが出会って一緒になれるときまで、父親がひきとめてくれてた。

それくらいに考えて、感謝するよ。

それが、本気ってことだよ」


「ボーマン?」


「だからな。うじうじ親父を恨んだり、お前をせめたりするような男だったら、

お前のほうから、ふっちまえ。

おまえな。

本物をつかんでいけよ。

本物をつかみたかったら、自分のぼろいところもなにもかも

みせるしかねえんだよ」


「だけど・・もしも・・」


そうだろうなあ。本物じゃなかったら結局傷をつけてしまうだけって

そこを心配するキャッシーの気持ちもわからないでもない。


「あのなあ・・。どんなことでも、絶対、そいつには必要なことなんだよ。

傷をつけてしまうんじゃなくてな。

偽者の思いしかもてなかった自分をみつめなおすしかねえんだよ。

だから、どっちにころんでも、そいつには必要な試練っていっていいかなあ。

そして、お前だってそこのところ、腹をくくって

自分をぶつけていくわけだろ?

そこを受け止められない人間なら、そいつを選ぶな」


「・・・・・」


「そしてな、おまえを、信じろよ。

お前が心ひかれた人間がそんなぼろかよ?

信じた上で、それでも、もしも、ぼろだったらな・・

お前の心がまちがってたってことだ。

そいつにひかれたおまえがまちがってたってことだ。

いいか?

相手のせいじゃない。

お前はお前のありのままでぶつかれ。

ありのままごとひろってくれるひとか、みきわめろ。


ごみだってな・・拾ってくれる相手を選ぶ権利はあるんだ」


相変わらずひどい言い方だけど

ボーマンの真髄がキャッシーに届いている。

自分へのひけめで自分をぼろ扱いして

逃げ腰になっていたけど、

ひけめじゃなくて、卑屈にならずに

ありのまま。

それで、だめだったら、それでいいじゃないか。


「なにもかも、おまえじゃないか・・

ここはいらない、あそこはいる。

そうじゃないだろ?

なにもかも、うけとめてほしいだろう?」


キャッシーはボーマンの最後の科白に

とうとう、大声でなきだしていた。

そうだ。ボーマンのいうとおり。

こんな私でも、こんなぼろでも

ありのままであいされたい。

それが私の本心。

いつのまにか、弱虫になっていた。

ー愛されたい。愛されたい。彼にこそ本気で愛されたいー

自分の本心に何度もうなづきながら

大きな声をあげて、キャッシーは泣いた。

本当の心をみせてくれたボーマンに感謝しながら・・・。


ボーマンはキャッシーの泣き声をききながら、まだ、考えている。


ーとは、いうものの、ぼうずのほうは、なんとかなるとして、

問題は親父のきもちだよな。

10年近く一緒に居て、結婚まで考えてる。

まあ、キャッシーの心変わりだけなら、自分の年齢もあるだろうから、

あきらめもつこうってなもんだろうけど・・

相手が自分の息子。

う~~~~~~ん。

俺だったら、わりきれねえよな。

どう、考えたら納得できる?ー


ひとえにボーマンの問題解決の手腕ってのは、

「自分だったら、どうだろう」

って、考えるところにあるんだろう。


ー判らねえー


こんな時に頼りになるのは、あいつしかいない。

考え方がでっかいつ~のか、

ある意味、野放図というのか、

とんでもないことを、さらりといってのけるのが、

ステラだ・・・。


だいたい、俺とわかれてから、

俺を待つのに、ソープなんてとんでもないとこに

身をしずめちまうことができる。

心いき、一つで生き通せる女なんだから、

そりゃあ、普通の人間とは違う見方をできる・・・・。


蜘蛛の糸でも、たぐるきもちで

ステラのでっかい胸をかりよう。

ついでといっちゃあ、なんだが、

ここ、しばらく、ご無沙汰してたし・・・


なんだか、違う目的のほうが完璧に遂行しそうだけど、

このさい、そんなことは・・・

どうでも・・いい・・こともないな。

余禄だな。


はてさて、相談事が余禄か、

ランデブーが余禄か

さっぱり、わからないけど、

このさい、ステラに妙案が浮かぶことを祈るしかない。


そして、ボーマンはキャッシーに告げる。


「なあ、捨てる神ありゃ、拾う神あり、って、いうだろう。

とにかく、おまえは、-ひろわれやすい体勢ーに、徹していくしかない。

そこだけ、かんがえてな。

きちんと話してこいや」


ボーマンにかえしたキャッシーの科白もすこぶる、的をえていた。


「私・・ある意味・・ぼろで・・たすかったんだよね?

ぼろだからこそ、ひろってもらえる・・」


「そう。ぼろ、さま、さま・・だ」


「そうかんがえたら、恵まれてる・・んだよね・・」


そう、恵まれてる。

だけど、それは、チャンスがころがりこんできてるって段階でしかない。


「その、おめぐみをな・・しっかり、つかまえちまえ。

がんばれ・・」


「うん」


キャッシーのどこか、晴れやかな顔だが、

それでも、キャッシーはだめだった時の別離もきちんと覚悟している。


ーち、女ってのは、いざとなったら、潔いや・・ー

キャッシーは十中八九、だめになるって覚悟つけてる。

あるのは、本心でぶつかっていこうっていう

誠意っていうのかな、こういうのも・・

ま、その誠意ひとつだけ・・。


ー絶対・・悪いようにはならねえー

ボーマンもまた、自分をしんじるしかなかった。

キャッシーが帰るとまもなしにボーマンは

ちょいとでてくるって、ニーネに告げた。


「研究所?」


どこかにでかけるといえば、研究所だと思ってるニーネだから、

好都合ではあるが、なんだか、そのまっすぐな信頼がボーマンには、

辛くもある。


ーステラも、もう、いい加減、ふんぎりつけなきゃいけねえかな・・ー


ハロルドについで、キャッシーのことがかさなってくると

さすがに、一人の女性の人生を狂わせちまったことがのしかかってくる。


ーいつまでも、このままじゃいけねえのは、わかっているんだけど・・-

少しばかり考えてはみるが、ステラにあえなくなっちまうのも、寂しくはある。


ふんぎりがつかないのは、R・グレーマンのせい。

あいつが死んでさえいなけりゃ・・。

ボーマンは失くしちまったはずの悲しみにつつまれかけてる自分にきがついた。


そんなセンチになってる場合じゃない。

とにかくは、キャッシーのことをどうしてやるかだ・・。


車にのりこむと、ステラに連絡を入れる。

「いま、どこ?」


「お店・・に行く途中よ」


「うん・・じゃあ、そっちで・・」


ボーマンはほっと胸をなでおろす。

どんなことがあっても、ステラとは、客とソープ嬢の関係をくずしちゃいけない。

ステラとプライベートで、あったり、ステラの部屋にあがりこんだりしない。

それをしちゃ、ステラは俺の愛人になっちまう。

なんのために別れたのか、続けられない関係に終止符を打った意味がなくなる。


それは、ステラも充分承知している。

さっきの電話だって本当はステラの嘘かもしれない。

休日で、部屋にいるのに、俺の為、店にむかうのかもしれない。


そして、店にはいれば、毎度の顔。

ご予約を頂戴しております。

って、ステラがレシーブを取ってくれたに決まってる。


ステラの個室にはいりこむと、ボーマンはそこで、

ステラをまつことにした。


煙草をふかしおえると、ステラの気配がする。


「あら・・はやかったのね」

って、部屋のなかのボーマンに声をかけたステラだったけど、

ひさしぶりに見るステラはまた一段と色っぽくなってやがる。


「どうしたの?又、心配事?」


そうそう、そっちがさきのはずだけど、

ボーマンの手はステラにのびていた。


「ああ・・心配事。

ちょっと、きいてもらおうとおもってきたんだけど・・

おまえのほうが心配になっちまった・・」


「私のほうが?ん?」

小首をかしげるステラがいちだんと女女してみえる。


「だれだよ・・おまえをこんなにいろっぽくしちまったやつは・・」

くすりと笑うとステラが言う。


「まったく、ご無沙汰しておいて、そんないいかたはないわよ。

それに、な~~に?

わたしには、やきもちでしか、その気にならない?」


「ばかいうなよ」


とっくにその気になってる場所にステラの手がのびてくる。


「おりこうにしてたのかなあ?

どっかの僕ちゃんとこにあそびにいったり・・

どっかのおじょうちゃんのとこにいったりしてたんじゃないの?」

もちろん、ボーマン君にいっているんだけどね。


「いってねえよ・・」


「あら・・奥さん一本?

めずらし~~~」


「だから、ニーネのことをだしてくるなって・・」


「いいじゃない。私がきにしてないんだから・・。

ねえ・・」

って、しっかりその気になってるのは、ステラもおなじらしくて、

それから、二人は密室の遊戯に没頭していく。


これから先はドアのむこうのプライベートタイム。


しばし、ご猶予を・・・。


ん?

なにか、話し声がきこえはじめた・・。

どうやら、本題にはいっていくようなので、

ドアの中の様子をおつたえいたします。


「そりゃあ・・また、ややこしいことになってしまってるのね」

って、いうステラの科白だから、ボーマンはおおかたの経緯を喋り終えたところのようだ。


「で、キャッシーのほうは、なんとかなると思うんだ。

そのぼうずもなんとかなるだろう・・・たぶん・・。

だが、もんだいは親父のほうだ・・」


「お父さん?」


「そうさ・・結婚しようって考えてる女をさ・・

それも10年近く、しゃぶりつづけてきた女をさ・・

息子とつきあわせたいか?

息子にとられたいか?」


「う~~ん」


ステラもかんがえこんでしまった。


「俺さ・・実際、自分に子供もいねえしさ。

どういうんだ・・親父が子供に対してどうおもうかってのがさ・・

さっぱり、見当がつかねえんだよ・・」


「え?」

どうやら、ステラはボーマンの言葉でなにか、閃いたようだ。


「なんか?かんがえついたか?」

ステラとは、長い・・いや、深いつきあいだ。

ボーマンはステラの声の調子だけで、判ると見える。


「うん・・あのね・・

ボーマンがいった言葉通りだよ・・。

とうの父親の気持ちがわかって

父親を納得させられるのは、その「子供」しかいないんじゃない?」


つまり、ぼうずが親父を説得するしかない?

「そりゃ・・そうだろうけど・・

まじ、反対されたら、キャッシーのほうが、もつ・・か」


「あら、それで、引き下がる男だったら、キャッシーのめがね違いってことでしょう?

父親だったら、間違いなく反対するよ。

自分の女だったとか、そういう理由じゃなくて

何もすきこのんで、年上の、愛人やるような女と結婚?

結婚しなくてもいいっておもうんじゃないの?

で、そんな反対もなにもかも、のりこえる位のきもちじゃなけりゃ、

おとうさんも納得できないんじゃない?

彼女を、あきらめきれないってのもあるだろうね。

これは、戦いよ。

相手に負けたって、思わせたら勝ち。


ねえ、ボーマン。

いつかいってたじゃない。

自由の女神だって、おくびょうものには手をさしのべない。って・・。


とことん、戦わないで、あとずさりしてしまうような臆病者に

キャッシーを幸せにできるもんかって・・そういうことでしょ?

ボーマン、キャッシーに幸せになってもらいたいんだったら、

もう、これ以上の助け舟は余計なことよ。

あとは、二人でこぎだしていくしかないんだもの・・」


ボーマンは大いに納得した。

ステラのいう通りだ。


俺はもう、見守るしかしちゃいけねえんだ。


「おまえ・・やっぱ、いい女だよな」


なんで、ステラへの評価にかわっちまうのかって?

そりゃあ、ステラ自身があとずさりせずに

こんな形ででも、ボーマンへの恋を貫き通してるからだ、

だから、ステラの口からそんな科白が出てくる。

だから、いい女なんだ。


「うふふ」

って、笑って、うろこがおちたボーマンの笑顔に安心したステラは

かわいいおねだりをしたもんさ。

「じゃ・・ご褒美。ちょうだい」


「いわれなくったって・・」

ボーマンの返事がどういうことか、覗き続けるほど、野暮はない。

と、いうことで、ふたたび、ドアの外。

その足でキャッシーの様子でもみにいってこよう。

「私・・・・」

決心したはずなのに、覚悟したはずなのに

彼を目の前にすると、心がゆらぐ。

失くしたくないに決まってる。

さけて通りたいに決まってる。

彼のショックを見たくない。

ましてや、それを与えるのは自分・・・。


「なに?」


キャッシーの呼び出しに心弾ませてやってきた彼にちがいない。


彼が・・同じ職場に配属されてこなかったら・・・。

出張講義、デモンストレーションのワークグループで、なかったら

もう少し、日を延ばすこともできたかもしれない。


「私・・これ以上・・貴方に黙っていちゃいけないって、思うの。

私は、貴方が思ってるような女じゃないし・・

これから、喋ることで貴方をきずつける・・

なのに、平気で喋ろう・・ってしてる・・そんな女よ」


途切れとぎれになる言葉は涙をこらえるせい。

キャッシーの告白は

むしろ、彼よりも、キャッシーをくるしめるだけに見えた。


「だったら、何も喋らなくていい。

僕は何を聞いても、君への気持ちはかわらないんだから。

ただ、君が僕のことをいやだというのなら・・」

彼はすこし、言葉にためらった。

「僕の気持ちはかわらないけど、

それを君におしつけることはしない」


ううん、小さく首を振るキャッシーになる。

「貴方のことをきらいだなんて、これっぽっちもおもってない。

私は貴方に好いてるもらえる資格がない・・」


ふうって、彼はちいさく息をはいた。

「僕は、できれば君にそんなことを口にださせたくないっておもってた。

でも、かえって、それが、君をおいつめてたんだ。

だから、君の口からじゃなくて、僕が言う」


ーどういうこと?なんのこと?-

キャッシーの戸惑いに出口がみつからない。


「僕の父親と君のことは、僕は、知っている。

知っていて、プロポーズした・・」

と、そこで、言葉をとめると彼はぺろりと舌をだした。

「おっと、まだ、正式に申し込んでなかったっけ・・・」


まるで、天気の話みたい、

くったくもなく、なにごともなさそうにしゃべる彼は

キャッシーの不安もまた、なにごとでもないという。

おどろいたのは、キャッシーのほうだ。


「知・・・知っていて・・それでも・・あの・・私に・・え?・・嘘?」


なんで嘘だと思うのとばかりに不思議にちょっと首をかたむけて、

彼は

「嘘じゃないよ。本当」

って、いう。


「ツルゲーネフの初恋ってしってる?」


それ、この前キャッシーがボーマンにいったそのままの科白。


「僕もそれと同じ。君に恋をしてた。

父と一緒にいる君を秘書だろうっておもっていた。

そうじゃないって、気がついたとき、僕はこのままじゃ、

ツルゲーネフの初恋そのままだって思ったんだ。

それじゃあ、馬鹿みたいだと思わない?

こうやって、初恋がだめになりましたって本をよんでさ、

同じことくりかえすんじゃ

学習能力ゼロ。

僕は待った。僕の年齢が君の相手になれるまで。

そして、君は父を放り捨てたりせずにいてくれた。

きっと、僕は君がさっさとほかの男に乗り換える女だったら、

とっくにあきらめていた。

そして、誰でもない僕だけが、父に君をあきらめるようにいえる。

父は、死んだ母の夫なんだ。

父の生き方をとめる権利は僕にだけある」


「だ・・だけど・・あなたは・・それで・・いいの

お父様のことは?

あなたとあの人が・・にくみあうような・・」


「君は・・男っていうものがわかっていない。

それに、いいかい?

僕が結婚して、この先の長い人生を一緒にあゆみたいのは、

君であって、

父とあゆむわけじゃない。

一生を託したい相手を父から奪い去るくらいの気持ちである僕なら

父も喜ぶ。

そして、君にたいしてもだ。

僕をえらんだ君に頭をさげる。

息子をよろしくって・・ね」


「あ・・あ・・・あ」


「ん?」


「じゃあ、私は?」


「ん?」


「とっくにひろわれてたってことなのよね」


「ん???」


「いいの、判らなくて・・」


「うん・・。僕はね・・君が父を好きになった時から

君は僕をさがしてたるんだっておもってた。

僕によく似た父を好きになってしまうのはあたりまえだろ?

だから・・遅くうまれてごめん。

あやまらなきゃいけないのは、僕のほうだ」


ーこの人しかいない。この人のいう通り。

わたしは、この人をさがしだせなかった・・

でも、見つけたー


「私もあやまらなきゃ・・

早くうまれて・・ごめんなさい」


「うん」


って、言いたいことだけ言っちゃうと無口になってしまうのがいつもの彼。

でも、今、彼が無口になってしまったのは言いたい事がなくなったせいじゃない。


何のせいだって?

この状況において、おしゃべりがとまっちゃうって・・・

え?

わかった?


ん。


じゃあ、この話の結末もちゃんとみえてるよね。


               GOOD BYE


ボーマン・ボーマン・5-ジンクスー

「3年っていうだろ・・」

やってきたハロルドはボーマンの顔をみるなりそういう。

ボーマンはじろりとにらみすえると本音のままを口に出す。

「俺はおまえが嫌いなんだ。

なにが、一番、嫌いかっていったら、そういうジンクスを引っ張り出してきて

そいつのせいにするってとこだ。

ていのいい、言い訳で自分を慰めてるような男はくずだ」

「おいおい、ひさしぶりにたずねてきたっていうのに、いきなりそれかよ?」

ボーマンのつっけんどんはいつものこと、馴れてはいるが
あっさり、ボーマンに話そうと思っていたことを
みぬかれてしまい、ご丁寧に出鼻をくじかれると
ハロルドも話の糸口をつかめなくなる。

「で、なんだよ?そのジンクスがあたっていたって、俺にわざわざ、報告しにきただけじゃないだろう?」

そう、口ではしっちゃかめっちゃかにいわれるけど、
ボーマンはハロルドの良き友人なのだ。
「うん・・」

「なんだよ?結局、お前の常套手段かよ?
話をふっておいて、聞いてもらえそうにないと思うと
そうやって、俺の出方をまって、あげく、さも訳ありをよそおって、
俺の気をひこうって、そういうのも、嫌いだってなんどもいってるじゃねえかよ」
ボーマンのいうとおりだ。
相手の出方を待って、気をひく言葉をなげつけて、
結局、ずるずるべったりの仲を維持していく。
まさに今から話そうとする、そのままを指摘され
またも、ハロルドは継ぐ言葉をなくしてしまった。

「実はな・・・」
おもむろに口をひらくが、ボーマンの指摘がどこに入ってくるか、わからないハロルドは
言葉を選びかねてしまう。
「実はな?お前はいつも、「実」なんかねえじゃないかよ。
優柔不断つ~のか、
自分が無いっていうのか、よくわからないが
あっちに流されこっちに流され
あげく、ぬきさしならなくなって、俺のところに泣きつきに来る。
そんな人間の「実」なんかはな・・・・」
遠慮会釈無いボーマンの攻撃はハロルドにとって事実でありすぎる。
「そうだよ。俺もいい加減。
流されまくってる自分にけりをつけようと思ってさ」
言葉を途中で止めたボーマンだったけど、
今までとすこし、様子が違うハロルドの科白で、
やっと、ハロルドの話を聞く気になったようだった。

「俺さ・・・リサと別れようと思うんだ」
「はあ?」
リサは3年前にハロルドと結婚した。ハロルドの妻ということになる。
「やっぱりな・・。3年なんてジンクスをもちだしてきたときから、
そういう話じゃないかと思っていたよ。
で、それが、どういうわけで、
ながされっぱなしのお前のけりになるんだよ?」
「うん・・・。そこが・・・実はのところでさ・・・。
俺、ケイトって、女とやり直そうとおもってるんだよ」
「はあああああああ?」
ボーマンは呆れた。
結局、こいつの本質はちっとも、変わっていない。
ひとつの「事柄」がうまくいかないと、
さっさと逃げをきめる。
ただ、逃げ場所が無いと逃げることが出来ないから、
逃げ場所を確保する。
まあ、病的といってしまえばそれまでだが、
けっきょくのところ、ガキの思考でしかない。
そして、問題は、逃げ場所の選択指数だ。
ひとつのことがうまくいかなかったその部分を補うところへ逃げる。
仮にひとつの「事柄」がハロルドにとって、100のうち99をみたしていたとしても、
たった1つの不足を補おうとする。
その1つを充たしている「事柄」が逆に100のうちの50を充たすものごとでしかなくても、
ひとつの不足を100と捉えるハロルドがいる。

この結果、一時の充足感ののち、またも、充たされない50を追い求め
逃げ場所を確保する。

この繰り返しが
「流されるハロルド」だということを、
ハロルドはいっさい、認識していない。

そのハロルドがリサと結婚すると聞いたとき
一抹の不安をかんじながらも、
リサの愛情の深さを信じることにしたのが、ボーマンである。

だから、ハロルドがまたも、逃げをかましはじめたのは、いつものことで
さして、驚くことではないが
問題は「リサ」への不足を言えるハロルドであるかどうかということ。

そして、新たな「第二のリサ」こと「ケイト」が
どこまで、ハロルドを理解しているか。

「ケイト」なる人間に因果を含めてハロルドとの縁をきらせたほうが早いだろうが、
もっと、大きな問題は
ハロルドとリサの修復であり、
そのためには、ハロルドがもつ、歪をどうするかということになる。
これを正すことができないのなら、
ハロルドは誰と一緒になっても、同じことの繰り返しになる。

『まず・・は・・・』
ボーマンは遠回りを選んだ。
「そのケイトって女はどんな女なんだよ?
お前がリサと別れてもよいと思うくらいの女なんだから、
俺はおまえにとって、かけがえのない女性なんだと思うよ」

ボーマンの賛同に気を許し、ハロルドはケイトのことをしゃべり始めた。

「実はな・・・いいにくいことなんだけど・・」


どうせろくでもない内容でしかないのは、ボーマンだって判っている。


ただ、どういう風にろくでもないかは、きいてみなきゃ判らないことだ。


「なんだよ?リサと別れちまうってこと、お前の踏ん切りがついてるんだろ?

だったら、この先ケイトとやっていくためにも、なにか、話そうとしてるんじゃないのか?それだったら、言いにくいくらいで、臆してるようじゃ・・」


ボーマンの言葉を途中で、制すと、

「あ・ああ・・いや、うん。そうだな。そうだよ。判ってるよ・・」

判ったといいながら、ためらい勝ちになるハロルドである。

「ふうう・・」

ひとつ、大きなため息をつく。

「あのな・・・」

ボーマンの顔色を伺うハロルドにいくばくか、かげりが浮かぶ。

「なんだよ?」

「う・・ん・・お前がさ・・がっかりするんじゃないかと思って・・」

とっくにがっかりしてる。そういってやりたい口をなだめすかして

ボーマンはハロルドを促す。

「この先のことと、俺と。俺ががっかりするほうのことが、大事なくらいな女だっておもっちまうぜ?」

ぽりぽりっと頭をかきあげると、ハロルドの決心が固まったようである。

「あのさ、ケイトと俺・・もう、4年越しなんだ・・・」


『はああ?』

ボーマンはボーマンで、「呆れた思い」がまんま口からとびださないようにすることと、

顔色を変えないでおくのに必死だったったうえに、胸の中は煮えたぎっている。

我ながらポーカーフェイスをよくつくれるとも、

ぶんなぐってしまいそうな手をおさえるのも上出来だとも、おもいながら、

ボーマンはリサの胸中を思っていた。

「で、それ、もう、リサに話したのかよ?」

「いや・・」

ハロルドが小さく首を振った
不幸中の幸いっていえるかどうかわからないが、

まだ、リサになにもはなしてないってことは、

ケイトって女からハロルドを引き離せるチャンスが残っているってことかもしれない。


「おまえさあ・・リサとも長い春だったわけじゃんか・・。

その間あっちにふらふら、こっちにふらふらしながら、

結局、続いてたのはリサだけだった。

まあ、俺から見れば続けてくれたのはリサだけだったとおもっていただけだけどな。

ケイトって女と4年越しだってのは、俺も初耳だけど・・

おまえにしちゃ、充分過ぎるくらい続いてるよ。

で、俺はまあ、なんだ、ふたまたかけてるとか、

愛人関係だの、どうのこうのについては、なにもいわねえよ。

ただな、俺が疑問なのは、

3年前にケイトを選ばず、リサを選んだおまえが、

なんで、いまさら、リサをやめるのか?

なんで、ケイトとやりなおしたいとおもうのか?

この二つだな」


「う・・うん・・」

言いにくい事があるときのハロルドの口ごもりもあきあきしてるボーマンだけど、

ボーマンにわかるのは、

リサとさえうまくいかなくなるハロルドがケイトとやりなおしても同じことだってこと。


「あのさ・・ケイトは・・その・・つまり・・今年、短大を卒業して・・」

「はあ?」


短大でたばかり?20歳?で、4年前から?それって、16才?

シニアスクールのがきんちょに、ナニしてたってことかよ?

「よくあるじゃないか・・ちょっと、年上にあこがれて

大人の世界にはいったら、そのうち熱もさめてさ、本当の恋を見つけていくって言うパターン。まあ、少女から女になる卒業試験みたいなもんだろうって。

その相手に俺をえらんだだけだろうって・・・」

「で、好きなだけくいちらかして、現実世界ではリサとの結婚をきめたってことだよな」

「う・・うん・・まあ。そういうことだよな・・」


だけど、一度男と、女になっちまったもん同士

逢えば、男と女の確かめ合いになっちまうってのがおさだまり。

「ケイトがさ・・俺のこと、わすられないって・・」

呼び出しがかかりゃ、おめあてのもんにありつけるのがわかってるから

ハロルドものこのこでていく。

適当に女の数をこなしてる男になぶられりゃ、ケイトだって、

ハロルドからはなれられない。

やらせる女とやりたい男が呼び合うんだから、

やることはひとつ。

楽しいお遊戯だけに没頭できる関係はそのつもりでできあがってるから

いつまでもずるずるつづいていく。


「リサには、悪いなっておもってたんだけど・・」

ハロルドがまた口ごもる。

「なんだよ・・」

「ケイトのときのほうが、燃えるつ~か・・

ケイトのほうがかわいいつ~~か・・・」


ーこいつ・・馬鹿だ・・-

ある意味、女すれしてないというべきか・・。

反応が楽しめる女におぼれるうちは、まだまだ青いってとこなんだが、

本来、男たるものは・・・ん?


ー今はボーマン論議を繰り広げている場合じゃないっしょ?

そこのあたりは、又機会をあらためてということで、問題はハロルド!!-


そうそう、ハロルドだ。

「なるほどな・・わかるよ・・。でも、それだったら、そのままダブルブッキングでやっていってもかまわねえじゃないかよ」


「うん・・そのつもりだったよ。ケイトもそのうちほかにいい男つくるだろうとおもってたんだ。だから、ずるいなって思いながら・・ケイトが自分からさっていくまでは・・・」

ケイトの味をしっかり楽しんでおこうってか?


「それがさ・・社会人になるまで続いて・・そしたらさ・・リサと又ちがうんだよ」

こいつ・・結局、リサに無いものを求めてるだけで、

結局リサが自分の中の比重の大半をしめてるってことにきがついてない?


「なんていったらいいのかな・・

リサは仕事もできるし、俺なんかいなくても一人でやっていけるタイプでさ・・

ケイトは不器用なとこがあって、失敗したっていっては、しょんぼりしてる。

俺がはげましてやらなきゃ・・こいつどうなっちゃうんだろうって」

慰めるところがいっぱいある女に、結局はハロルドが慰められてるってふうに聞こえるのはボーマンの見方がわるいんだろうか?


ようは、こいつ・・・。

リサに劣等感というか、コンプレックスをかんじて、

ケイトに逃げをかましてるだけじゃねえのか?

ボーマンは今、間違いなく、ハロルドに怒りを感じている。

だけど、それを宥めたのがリサだったといってよい。


ーなにが、可愛いケイトだよ。

ようは、ケイトって女のレベルがひくいだけじゃねえかよ。

お前で慰められるような、程度・・ってことじゃねえかよ。

え?

リサが一人でやっていける?

馬鹿いうな。

だったら、おまえなんかと結婚するかよ。

リサだって、おまえに頼りたいし、あまえたいにきまってるじゃねえかよ。

なのに、おまえのほうがリサにあまえちまってる。

だから、リサは気丈に自分をこらえていってるだけじゃねえかよ。

そんなことさえ、判らない男にリサが甘えられるか?

必死で自分をささえてるんじゃないか?

ハロルドをわずらわせちゃいけない。

心配かけちゃいけない。

いやな話を聞かせちゃいけない。

どんなにか、さびしいか・・

だけど、それをほかの男にぶつけたり、

ほかの男にもとめちゃいけないってリサはわかっている。

受け止められないハロルドだとしても、ぶつける相手はハロルドだけ。

それが、リサの誠意って奴じゃねえか?


でも、ハロルドはうけとめられない。

リサは自分で必死に自分をささえることで

ハロルドへの忠誠に昇華してる・・。


たった、そんなことさえ、判らないハロルドをせめもせず

ハロルドをつつみこんでしまってる。

ハロルドをうけとめきってしまってるリサをかんがえたら、

俺もハロルドをせめたりすまい・・

それをしちゃ、リサがなんのために

何も言わずこらえてるか、意味がなくなっちまう。

ハロルドという人間のちっぽけさをハロルドにつきつけるようなまねだけはしちゃいけない。

それこそリサがまもってきたものだ。

ハロルドをみじめにしちゃいけない。

だから、ひとりで、堪えてきてるリサだ・・・。


間違いなくそんなリサをうしなったら、

ハロルドの人生は・・・奈落の底におちる。

それさえ、きがつかない・・。


どうすれば・・・ー


ボーマンがなにか、考えている様子をハロルドははすかいから

のぞきこんでいた。

「なんだよ?」

のぞきこまれて、ボーマンは気がついた。


今の俺のように、一つのことに夢中になってるあまり、

みえてない。

それが、ハロルドならば・・・。


なにか、気がつくきっかけがあればいいってことになるわけだ。

「で、お前はまだ、リサに言ってないっていったよな?

そのことに、ついては、ケイトはどういってるわけさ?」


ボーマンのしりたいことは、ケイトって女がどこまで覚悟してるかってことだ。

ケイトがリサにしらせるか、しらせないか、

ここら辺のリサへの煩悶とか、すまなさとか?

こんなところで、ちっとは、ケイトの人間性がみえるきがしたわけだ。


ところが・・

「いや・・ケイトにも、まだ・・なにも話しちゃいないんだ」

ハロルドはまだ一人決めの段階でしかないってことになる。


「なんだ?おまえ、それ青写真の話かよ?

じゃあ、ケイトがお前と一緒になりたいとか?

そんなことをいわれたってわけじゃねえんだ?」


早とちりはボーマンのせいじゃない。

ハロルドがきちんと説明しないからだ。

「うん・・まだ、ケイトに話さないうちにリサにいうわけにいかないし・・

かといって、リサとのけじめがついてない状態でケイトにいうのも、

嫌な男のありがちパターンだろ?」


離婚するから、離婚するからって、いいながらいつまでたっても

離婚しない男のパターンにあいそをつかされるってことは

ハロルドもわかっているらしく、まずは、けじめをつけてからという

方法でケイトに云といわせなきゃならない?


それ?


ケイトがNOって言う可能性があるって事にもなるんじゃねえのかよ?


二兎を追うもの一兎も得ずの法則がはまりかねないハロルドの思いつきから生じた考えでしかないと判るとボーマンは、ひとつの賭けにでてもかまわないと思った。


「で、どうしたほうがよいかな?ってんで、俺に相談だったわけかよ?」


やっと、ハロルドの迷いを理解してもらえたとばかりに

やけに嬉しそうにうなづくハロルドにボーマンは伝えた。


「リサに先にいうべきだ。さっさと離婚して、ケイトに誠意あるところをみせたほうが良い。おっし。立会人は俺がなってやる」

賛同を得られたハロルドはボーマンに何度も礼をいっていたが・・・

ふと・・。

「だけどさ・・なんか、俺、一方的すぎてさ、リサに・・」

ボーマンはこともなげに言う。

「あ、いいさ。お前の新しい門出だ。面倒なことは俺が全部かたづけておいてやる。

お前は離婚届に判をおす。俺はそれをもって、リサに同意させて、役所に届けをだしてやる・・・もう、後ろはふりかえらず、ケイトのことだけ考えろ」


ボーマンの熱き友情だと取れるハロルドがいかにご都合主義でしかないか。

俺が、女なら、まず、こんな男はいらねえ。

ケイトがどうするにしろ、

リサにとって、

最善の方法はハロルドから、リサと切れる。

それが一番なのは間違いは無い。


「いや、めでたい、めでたい」

ボーマンはリサのことをいう。

ハロルドはボーマンが喜んでくれてるとおもう。

同じ、めでたいでも、中身が全然違いながら

二人の思いは同じだった。

それから、ハロルドはまっすぐ、ケイトのところにいっちまって、

ボーマンは離婚書類とかなんとか、かき集めて

次の日にハロルドを呼び出して、書類にサインさせた。


それから、リサの休日を待って、ボーマンはリサを尋ねていった。

玄関先のチャイムをなんどか、おすと、インタホーンからリサの声がきこえた。


「どちらさま?」


どうも、相手の顔が見えないのはやりにくいもんだけど、

ボーマンはホーンに向かって

「俺だよ」

って、言ってしまってから気がついた。

判るわけねえなってさ。


あわてて、ボーマンだってつけたそうとおもったら、ホーンの向こうのリサが

ボーマンの声をおぼえていたらしい。

「ボーマン?」

確認するためか、小走りに玄関にむかう音がきこえ、

まもなしにドアが開いた。


「よお・・。ひさしぶり・・よく、俺だってわかったな・・」


ドアを開いてくれたリサの顔をまじまじのぞきこむ。


「ボーマンくらいでしょ・・ハロルドの友達っていったら・・」


リサはなにか、感ずいてるってことだろう。

ハロルドがボーマンのところに相談しにいったから、

ボーマンが尋ねてきたと察しがついてるっていうことだ。


「だな。いいか?」

中に入ってもいいかって尋ねるのも

ハロルドは?ってきかないのも、ボーマンのところにハロルドが相談に行き

それっきり、リサのところにかえってきていないことも知ってるってことになる。


「うん・・」

ボーマンの為にスリッパをそろえると、リサは先にたってあるいた。

「キッチンでいい?」


南向きに作られた明るいキッチンの間取りを思い出しながら

ボーマンはうなづいた。

「どこでもいいさ・・」


通されたキッチンの茶渋色のテーブルに封筒をおくと、共ぞろいの椅子に腰をかけた。

リサがたてるコーヒーもなかなか巧い。

「ひさしぶりだな・・リサのコーヒー」

サイフォンが音を立て、サイフォン現象の通り、登った湯がコーヒーにかわっておりてくる。

「ゆっくり、のんで。おいしくない話をさせてしまう前に、お詫びがてら・・よ」

やっぱり、わかってる、リサなのだ。


明るい日差しがリサを照らす。

リサがたちあがり、キッチンから庭におりたてる、大きな窓のブラインドをすこしおろした。

「暗すぎるのも嫌だけど、明るすぎるのもいやよね」

リサがいうのは、日差しのこと?

それとも、リサ自身のことだろうか?

コーヒーを飲み終えると、約束どおり話をきりだすしかないボーマンになる。


「どこまで、さっしがついてるんだよ?」


このさい、ボーマンが洗いざらい話すより、どこまでリサがわかっているか

尋ねた方がはやそうにおもえた。


「そうね・・」

リサはテーブルの上の封筒に視線をおとす。

「まず、その中身はボーマンが協議人のサインをした・・

ハロルドからの離婚手続き書類かな?」

いったあと、リサはうつむいた。

「ごめんね。ボーマン・・いやな役目・・を・・」

なんだか、ボーマンはそんなリサの悲しみより、

ハロルドがいう、「リサは一人でも生きていける」って言葉を納得してた。


「まあ、いいってことよ。

確かに離婚書類だけど、俺はサインしてないし、

おまけをいえば、俺はリサにそれを役所に提出しないでくれって

たのもうと思って、ここにきた」

え?とリサが小さな声をあげた。


「おまえがどこまでしってるのか、尋ねようとおもったけどな、

おまえがそこまで覚悟きめてるなら、どういう理由だとか、どういう事情だとか、

そんなことはどうでもいいことだよな。

で、俺はハロルドの馬鹿さ加減をちょいと、はりとばしてやろうとおもったんだ。

だから、リサに一芝居演じてもらおうと思ってここにきたんだけど・・」


「きたんだけど?・・けどって?」


「俺は悪いのはハロルドのほうだって、おもいこんでた。

でも、おまえをみて、思った。

お前がハロルドをあんなふうにさせてるんだよ。

そこをかえていかなきゃ、元の鞘にもどっても同じだなって・・

そうおもったんだ・・」


「私がハロルドをあんな風に・・させてる?

そうかもしれない。

でも、私がいくら思ってもうけとめてもらえないんだもの。

それだけじゃ、だめなんだもの。

かわいくて、きれいな人にひかれちゃうのは、しかたないことよ。

でも、私が、きれいで、かわいくないから・・

ハロルドがそうなるって、いわれちゃったら・・」


ボーマンはとつとつと喋るリサの目の前でぽっかり、口をあけていた。


静かなボーマンに目をやると、あほのように、口をあけたボーマンが居る。


「ボーマン?」


「お?おお?いや、おまえ見事に俺のおもったとおりというか、

ちっともわかってないというか、

良く、そんな風にとるもんだなあって、おもってさ・・」


ボーマンはもう一言付け加えた。


「俺、あきれちまってたわけだ・・」


「ボーマン?そうじゃないってこと?

じゃあ、どういうことよ?

なにをわかってないの?

それはどういうこと?」


軽く興奮気味のリサを見ながら、ボーマンは良い兆候だなって思っていた。
「おまえなあ・・ようは、なめられてんだよ」

ボーマンの言葉にリサはちょっと、考え込んでいた。

だけど、思い当たらないのか?

あるいは、ハロルドを侮辱するに等しい言葉を口にだしたくなかったのか

リサは口をとざしたままだった。

「お前のことをな、一人でも生きていける女だって、ハロルドが言った時

俺はそうじゃないっておもったよ。

おまえにゃ、ハロルドが必要だよな?」

リサにはハロルドが必要でも、ハロルドにはリサが必要じゃない。

一方的な片思いでしかない事実をみとめるのは、

やはり悲しい。

リサは小さな声で「そうよ」とだけ、答えた。


「問題はそこさ。

俺はその言葉どおりの意味にしか、考えてなかった。

だけどな、ハロルドが言ってる意味は違う。

お前はハロルドが居なくても、一人になっても

ハロルドを思いながら生きていかれる女だって意味さ。

多分な、今の女はハロルドがいなくなったら、

ほかの男をさがす。

だけど、お前はほうっておいても、ハロルドを思ってる。

ほかの男にとられるかもしれない。

ほかの男にひかれるかもしれない。

そういう心配をしないでおける女はもう手放したってかまわないわけさ。

ほうっておいたって、お前はハロルドのものでしかない。


ハロルドはそこに安心しきっている。


そして、ほかの男じゃだめな、お前を熟知してる。


だから、お前がほかの男にたよったり、よりかかることはない。


そういう風におまえのことをなめてんだよ」


「そ・・そんなことないわよ・・・・。

ううん・・そうかもしれない。

だって、私は・・本当に・・ハロルドのことしか・・」


「まあ。そこだよ。

誰にも頼らず、誰にも寄りかからず、ハロルドだけを思う。

そこは確かに美談だよな。

だけどな、その強さが逆にアダになっちまってる。

おまえのそういう馬車馬目線ってもの自体がかわらないと

ハロルドもかわらないさ」


「ハロルドがかわる?」


「そうさ。もっと、しっかりお前をつかまえとかないと

ほかの男にとられちまう。

いい加減、おまえにあまえてる場合じゃないなって

きがつくわけさ」


「私が馬車馬視線?」


「そう。

ハロルド教の信者さまだよ。

一生懸命信じてるハロルドがおまえをどうあつかってる?

俺は目には目をなんて、みみっち考え方じゃなくてな、

世のなかにはいくらでもいい男がいるんだってこと。

そこをわかってほしいわけだ。

いい男がいて、その上でハロルド教をやってるならいいさ。

でも、そうじゃない。

色んないい男がいて、その中からハロルドをえらんでる訳じゃない。

選ばれたって満足もない男だから、なおさら、おまえのことなんか

どうでもよくなってしまう。

そして、もうひとつ・・」


「な・・なに?」


「本当はおまえは、おもいっきり、頼りたい甘えたい。

それをほかの男を代替でやったら、

そのまま、その男のものになっちまう弱い女でしかない。

だから、自分をくずすまいと必死になってるけどさ・・。

それって、本質的にはハロルドの弱さと同じじゃねえか?」

「そして、これが、一番決定打かもしれねえ。

おまえは自分なんか、ほかの男にかまってもらえねえって思ってる。

こんな自分なんか、かまってもらえないって、ことを

ごまかすために、ハロルドだけ。って、かんがえるけど、

それって、ハロルドにしたら、誰にも相手にされない女のなぐさめ相手じゃねえのかな?

そんな女に貴方だけよっていわれたって、

ありがたくもねえどころか、お前のコンプレックスの生薬でしかねえわけさ。

お前がそうやって、自分の亭主をコンプレックスの穴埋めにつかってるんだから、

当然、そいつは、自分のコンプレックスをほかで埋め合わせる。

本当に必要。

あるいは、ほかにいくらでもいい男がいるのに、自分をえらんでくれたって

思える女のところにいって、コンプレックスを解消したがる。

だけど、俺にいわせりゃ、

そんな思いではじまったことが、たとえば、おまえのような、結果をうむんだったら、

ハロルドだって、おなじ結果をうむよ。


相手の女だって、馬鹿じゃない。


女房への不満を穴埋めさせられる役目なんか、断るさ。


で、女に振られて、行き場所がなくなったハロルドはお前のところに戻る。


いぜんとして、問題は残ってる。


また、同じ結果だし、おまえも、ハロルドしかいないって、コンプレックスの裏返しで

しかない思いで、ハロルドをうけいれるけど、

これも、また、ハロルドにとっては、惨めなことだろう。


まあ、お前も惨めだと思うよ。


そんな風にしか扱われないってことはな。


だけど、その原因はおまえのコンプレックスのせいさ。


いくらでも、ほかの男にたよっても、かまわないし、

おまえは、かまわれるだけのものは、もってるよ。


そこのところをきちんと、たてなおして、

ハロルドがもどってきたら、どうするか、

決めるべきだと思う」


ま~~~。なんちゅう長い科白をくっちゃべるボーマンなんでしょ。

言いたいことはわかるけど、現実問題、リサをかまってるのは、

ボーマンなんだよ。

それ、俺にたよってこいっていってることにもなる・・・。

そんなこと、いっちゃって・・

大丈夫なのかな?

いわゆる、ボーマン理論を黙って聞いていたリサだったけど、

確かにボーマンの言うとおりかもしれないって、

リサはおもっていた。


「そうね。

私、ハロルドじゃなきゃだめだって、思い込もうとしていたところがある。

でも、それが、なぜなのか、って、ことも、

その事がハロルドをおいつめていたなんて、ことも、

かんがえてみたことがなかったわ」


リサがそう思うのなら、話は早い。

「俺さ、おまえは、もっと、理想をたかくもっていいしさ、

それだけの男を手にいれられる女だと思うよ。

優しいっていうのか、

責任感重大ってのか、よくわかんねえけどさ、

つまんねえ男をふりすてちまったら、

お前は自分が罪を侵したような気分になるんじゃねえか?

それだってさ、

結局、自分が大事なだけだろ?

悪人になりたくないためだけに、自分をがんじがらめにしてさ・・

なあ・・

こうやって、離婚つきつけられた以上、もう、

お前は自由なんじゃねえか?


新しく、ほかの男とやり直せっていってるわけじゃないんだよ。

自分を縛ってるコンプレックスをほどいちまったらどうだよ?

そうしたら、本当にお前は自由でさ。


そのうえで、ハロルドをえらびなおそうが、

ほかの生き方をかんがえようが、

俺はどっちでも良いと思う。


ようは精神的にハロルドと切れて、

お前自身になるってことじゃねえのかな?」


なんだか、ボーマンの言葉がひどく温かい。

リサという人間の生き方を本当に思ってくれる。

「ボーマン・・・・ありがとう・・」


気丈なリサにやっと涙があふれてきた。


「なんだよな・・俺がおまえをかまってやれたらいいなって

俺はおもってる。

だけどな、俺にはニーネがいるから・・

だから・・どうにもしてやれないけど、

俺だって充分おまえをかまいたい男のひとりなんだぜ」


場合によっては、不謹慎なくどき文句かもしれない。

だけど、

リサはボーマンの言葉に光をみた。

それは、「俺だって充分おまえをかまいたい男のひとりなんだぜ」

って、ところでなく、

「俺がおまえをかまってやれたらいいなって俺はおもってる。

だけどな、俺にはニーネがいるから・・」

と、いう言葉からだった。


リサは行動と思いをひとつにしようと、自分を縛っていたと思う。

ボーマンの言う「ニーネがいるから」は

リサの言う「ハロルドしかいない」とは、

全然質が違う。


ボーマンがいう、ほかの男に頼ってもいいということは、

ボーマンの科白でいえば、

「俺がおまえをかまってやれたらいいなって俺はおもってる」

と、いうことと同じだろう。

そして、リサはそれを自分に当てはめた時、裏切りのように思えた。

ハロルドがいるのに、ほかの男に頼る。

これは間違っている。


そう思った。


だけど、今じっさい、ボーマンにかまわれて

リサの気持ちがかわってきていた。

ニーネがいたって、ほかの女をかまうことはできるし、する。

でも、それは、けっして、ニーネをうらぎっているわけじゃない。

ボーマンがいう、すがったら、そのまま、くずれちまうリサっていう意味が

リサにもみえてきた。


じゃあ、ボーマンがリサをかまったら、

ボーマンはリサにおぼれちまうってことになるか?


なってやしない。


「ニーネがいるから・・」


頼ろうが、頼らせようが、

一番護っていきたい存在をきちんと護っている。


結局、護っていきたい存在をなくしてしまうような

ちっぽけな思いだから

ほかに頼ることも、ほかを頼らせることもできないだけ。


こんな弱い思いで自分を防御しながら、

ハロルドだけを思ってます?


突然、リサは大きく、笑い出した。


笑い終わるとリサはボーマンの傍にたった。


「ボーマン。よ~~くわかった。

なにもかも、わたしのせい。

そして、もうひとつ、おねがいがあるの・・。

私は今、本当にハロルドが必要なのか

本当にハロルドが好きなのか

自分の心がわからない。

私がすきだったのは、ハロルドを思う「私」

ようは、私は私をまもっていただけなのよね。


そんな・・私の心の奥底にハロルドがいるのか・・。

ボーマンのいうように、

「ニーネがいるから」って、そんな風に

「ハロルド」がいるからって思える私がいるのかしらって、

そう思うの。


だから・・」


つまるところ、ボーマンに身も心もあずけてみたいってことだろう?

そうすることで、ハロルドがいるか、どうか確認してみたいってことだ?


それって、はやい話・・

ボーマンと一線をこえようってことになるんじゃないかい?


で、それはそれでいいとしてさ・・・。

それで、ハロルドがいたら?

ハロルドがいなかったら?


リサの言葉にボーマンがかすかにうなづいたようにみえた。

で、それからボーマンとリサがどうなってしまったのか?


リサがハロルドを見出したのか、みいださなかったのか?


そこんところは、筆者が遅い昼飯をくっているうちに

ボーマンがけりをつけちまって

詳細がさっぱりつかめない。


ボーマンのことだから、絶対悪いようにはしない。

長いつきあいである、筆者にはそこだけはわかるが

なにせ、ボーマンだ。

荒療治をモットーにしているから、なにをしでかすかはわからない。


やじうま根性と、すけべな好奇心でリサとはどうなっちまったんだ?

って、ききたくもあるが、

そんなことを聞いた日にゃ、この話はここでおわっちまう。


とっとと、うせろ、下種が~~~~と、

どなりまくられ、あげく、本当のところ、リサがどうなったか、

ハロルドがどうなったか、

行方知らずで、ボーマン・ボーマン・5を強制終了しなくちゃしかたがなくなる。


まあ、そんなわけで、

このあたりへの疑問を一番問いたい筆者みずからが折れるしかない。


さて、話をもどそう・・。


リサに見送られて、玄関をでてきたボーマンの顔つきはわるくない。


車をすっとばして、自宅に帰ってきて、ニーネの出迎えにも

疚しい気配はこぼれてこない。


え?


それやっぱ、俺様をうたぐってるじゃねえか?って?


ボーマン、そこは、まあ、多めにみといて・・・。


リサのほうは、なんとか、解決したわけだけど、肝心なハロルドはどうなのさ?

ボーマンは思惑ありげに、答えた。


「俺の予想じゃ、今晩あたりかな?

なきっつら、かかえたハロルドがここにやってくる」


ほう~~~?


「ま、しあげはごろうじろ・・さ」


ニーネに、にちゃにちゃ甘えたいボーマンはさっさとニーネの後をついて、いってしまったし、なんか、二人の邪魔をするわけにもいかないし・・


問題の今晩まで、しばらく・・待つしかないようだ。

夕食をたべおえて、もう、いい頃だなと

ボーマンは店の鍵を落とす。


まあ、こんな遅くに調剤を頼みに来る客なんてこないのだけど、

それでも、ボーマンは8時までは店をあけておく。


8時閉店をまちかねるかのように、

電話がはいってきた。


案の定、ハロルドだ。


「俺だけどさ・・」


「なんだよ?」


逢ってもなかなか本題をいいださないやつだけど、

電話でも同じだ。


「今から・・いっていいか?」


「かまわねえけど・・」


ボーマンの返事の続きを聞かないうちにあわてて電話を切るハロルドが

今、どういう状態かボーマンには手にとるようにわかる。


ケイトのところにも、泊まれなくなってしまった。

リサのところにかえるしかないが、

ボーマンがもう、離婚手続きをすませてるのなら、

リサのところにも帰れない。


行く当てがなくなっちまったハロルドは

ボーマンの店先にでも仮眠するしかなくなる。


まず、離婚手続きがどういうことになったか、確かめず

うっかり、泊めてくれといったら、ケイトとの破綻もばれてしまう。


妙なプライドと見栄ばっかり、気にするようだから、

結局、鼻もひっかけてもらえなくなる。


この憐れな男を俺まで見放したら

どうなることやら・・・。


ボーマンはため息交じりで、締めたばかりの店の鍵をあけ、

店先の門灯を点け、ボリュームをおとして、店の照明もつけておいた。


調剤室のまるまっちい椅子を店の中に引っ張り出し

ボーマンはそこで、煙草をくゆらせながら、

ハロルドを待つことにした。
電話から15分。

そろそろ、ハロルドの車の光が向こうの山際にみえてもよさそうなきがする。

あれかな?

と、光をおいながら、ボーマンは玄関先につったって、

また、ひとつ、煙草をふかした。


やがて、緩やかな光がボーマンの視線の中にはいってきた。

白っぽい車体はハロルドの車にまちがいないだろう。


パーキングに車をとめて、車をおりたち、歩み寄ってくるハロルドの姿は

ひどく憔悴しているようにみえる。

店先のボーマンに気がついたのか、ハロルドがゆっくり手をふっていた。

歩み寄ってきたハロルドの顔が門灯にうかびあがる。

「なんだよ、幽霊みてえな顔しやがって・・」


ボーマンの一言でハロルドの糸がきれていった。

ボーマンに悟られないように、そう思っていたのに

憔悴をさらしているとつげられれば、

ハロルドを支えていた見栄もプライドも捨て去るしかないということになる。


「ま、はいれよ・・」


店の中にはいるとボーマンはちょっと待ってろとハロルドを制した。

「ここで、話そうや」

キッチンで話せば、ニーネの耳にも聞こえる。

かといって、ニーネをキッチンからおいだすのも気分が悪い。

「ビールをとってくる」

ハロルドに硝酸で焼け焦げた椅子をすすめると

ボーマンは冷蔵庫をあさりにいった。


「あら?」

明日のパンをこねていたニーネが、冷蔵庫をあさるボーマンを見咎めた。

「むこうで・・な」

ニーネにはきかせたくない話なんだなとボーマンの気使いを悟ると

「ハロルド?」って、訪問者を確かめた。

「ああ・・」

ボーマンの返事は短いけど、ニーネにはわかっている。

ちょっと、気弱くて、寂しがりやのハロルドを一番、心配しているのが

ボーマンだってことを。


「上のほうに、生ハムがあったはずよ。あと、チーズがあるから、

テーブルのとこのクラッカーでも・・」

「うん」

ニーネの心使いにありがとうって、胸の中でつぶやくと、ボーマンはハロルドを待たせている店に戻った。

小さなテーブルをひっぱりだすようにハロルドに指図して、

テーブルの上にビールとつまみを並べて

やっとふたりは、ビールにありつくことになる。


「あの・・」

「あん?」

「ん・・・あのさ・・」

「だから、なんだよ・・」

「ん・・あの・・もう、リサの手続き・・おわっちまったんだよな?」


「ああ」

「だよな・・」


「でもさ・・」

「でもさ?って、なんだよ・・」

「リサが書類を提出するところまで、見届けてくれた?」


往生際が悪いってのは、こういうのをいうんだろう。

「リサが提出しようが、すまいが、お前はサインをした時に

決着ついてるだろ?

決着がついた相手がどうしょうが、こうしようが関係ないだろう?」


「あ、そうじゃなくて・・ケイトが・・」

苦しい嘘はやはり、簡単には口を突いてこないと見える。

「ケイトが・・はやく・・籍を・いれようって・・」


「ああ、そういうことかよ。

それで、喧嘩にでもなったのかよ?」

「ああ・・まあ・・そういうことだよ」

「どうりで、浮かない顔をしてたわけだな。

リサのほうは、明日にでも、提出しにいくんじゃないかな」

と、いうことはまだ、離婚しちまったわけじゃないってことではある。

「そうかな?俺、リサはいかないんじゃないかなって・・

そんなきがしてさ・・」

「ふ~~~~ん?

そうじゃないだろう?

行ってほしくないお前だってことを

リサがわかってるって、思いたいだけじゃないのかい?」

「ボーマン・・それ、どういう意味だよ・・」

ぼろが出ないように、ハロルドが言葉を選んでいる。

ボーマンも、それが、かまだってばれないようにつくろってみせる。

「せいせい、したってばかりに提出しにいかれちゃ、おまえだって、

気分よくないだろうが?

ちっとは、ためらいためらい、決心してほしいだろうが?

違うか?」

「ああ・・そういう意味?

そりゃあ・・そうだよ」

「そういう意味?って、なんか、ほかに意味あんのかよ?」


ハロルドがあわてて首をふった。

「あるわけないじゃないか・・。ボーマンのいうとおりだよ

ただ、未練がましいってとられるかとおもってさ・・」

「ああ。男のほうがいざとなったら、みれんがましいもんさ。

リサは・・いや・・なんでもない」

思わせぶりに匂わせてボーマンは言葉をきった。

「なんだよ?いいかけて、やめるなんて、ボーマンらしくないじゃないか」

ー上等。上等ー

ボーマンの策略にのせられているとはおもいもしないハロルドが

ボーマンに食い下がってきた。

あくまでも、リサがきになるんじゃなくて、

ボーマンが途中で口ごもったのが気に入らないだけだといいのけてみせて・・・。

「そうか・・俺らしくないか?」

仔細ありげにボーマンは考え込むふりをする。

「う~~ん。まあ、ケイトのほうがそういう気持ちなら、別にかまわないか・・」

独り言をハロルドにきこえるようにつぶやく。

「ケ・・ケイトがそういう気持ちならって?」

ハロルドの嘘はケイトがハロルドと早く一緒になりたいって、ことだ。

早く一緒になりたいって、気持ちなら、喋ってもかまわないというリサの態度って、つまり、別れる事ができて、さばさばしてるってことになるのか?

ハロルドの額にじっとりと、汗がにじむ。


「俺が見た感じだけどさ。

なんか、渡りに舟って、くらい、あっさりしてたからなあ・・。

ああ、みえても、リサって、女らしいっていうか、けっこう、いろっぽいじゃんか・・。

それをほかの男だって、魅力だとおもってるだろう?

でも、亭主がいるのならって、半分あきらめてる。

でも、なかにはさ、リサに本気になる男がいる・・。

で、アプローチかけてみるものの、リサは身持ちが固い。

でも、リサにしてみりゃ、ろくでもない亭主をかんがえりゃ、

そいつのことは、にくからず・・。

そこへ、お前がケイトのところにいっちまう。

リサの中でおまえのことがふっきれちまったのと同時に

そいつとやりなおそうっておもったんじゃねえのかな?


まあ、あくまでも、俺の推理だけどさ・・


お前はケイトとうまくいくし、リサも仮にそういう男がいてさ・・


こうなると、、今回の離婚はお互いにとって、

いいきっかけになったってことで、

良い離婚になるかなあ。って、俺はおもったわけだ」


ちらり、と、ハロルドを見る。

まっさおになってるところをみると、

行く当てをなくしただけじゃなく、

いまさら、リサへの本心にきがついたか?


「良い離婚のわけなんか・・ない・・」

ハロルドがこらえきれず、小さな声で本音をもらした。

ボーマンはきこえなかったふりをした。


「なんだって?もっと、おおきな声でしゃべれよ。

まあ、おまえら、長かったから、愁嘆場になりゃしねえかと

心配してたんだけどさ。

ちっと、あっけなさすぎたけどさ、

まあ、良かったよな。

なあ、ハロルド。

これで、ケイトも納得してくれるんじゃねえかな?

早く帰って、ご機嫌なおしてもらえよ・・」


ボーマンのくったくないエールは今のハロルドには

あまりにも、痛かった。


「ボーマン・・・」

一言つぶやいたかと思ったらハロルドは

テーブルにつっぷして、大声で泣き始めた。


「俺は・・ばかだよう・・・」


そうそう、その通り。そこを自覚してもらわなきゃはじまんねえ。


「なにもかもなくしてから・・きがつく・おおばかだ・・」


やっと、本当のことをもらしやがったな。

ボーマンはハロルドの頭の上から声をかけた。


「いいかげん。見栄をはってないで、さらけだしちまったら・・どうだよ?」


晒すってことは、自分を見つめなおせる。

その馬鹿さ加減をこそこそかくしているうちは

見栄が大事な自分をだいて、生きてくつまんねえ人生になっちまう。


「ケイトと破綻したんだろ?

そこのところ、話しちまえ」


いかに自分がおめでたいあほうだったか、

自分につきつけるために晒す。

みっともない自分、大馬鹿な自分っていうハードルをのりこえるための

大事な作業だ。


「ば・・ばれてたんだ・・」


「いいから・・話しちまえ」


ハロルドはかんねんした。

いまさら、隠してもしかたがない、

ばかであほうな自分をさらけだそうってきめたのは、

なんだか、懺悔にちかい気持ちからだったかもしれない。


ーお前・・不思議な男だよな・・

まるで聖ボーマンだな・・・-

懺悔ですこしは、自分のおろかさが拭われる。

ボーマンにすがる思いで、ハロルドは話し始めた。
情けない。

みっともない。

みじめだ。


だけど、おもいきり、それをほったくっちまわなきゃ、

このまま、自分がつぶれる。

ハロルドはごそごそと顔をあげると、

目の前のビールをくいってあおった。


「ケイトのところにころがりこんで、

2、3日はなにもいわずにいたんだ。

まだ、離婚手続きすんでないだろうしっておもったのもあるよ。

どうせ、リサは離婚しようがすまいが、俺を待ってるだろうってのもあったよ。

俺は俺で、ケイトにプロポーズするタイミングを見計らっていた。

仕事から帰ってきていきなりってのもいやだし、

休みの日にさ、ちょっと、でかけて、

その帰りにゴージャスなレストランで乾杯をしゃれこんで、

話をしようとおもったんだ」


まあ、ここの話を聞く以上はハロルドもそれなりに

女性に対して、細やかな気配りをするもんだと思う。


「で?」

「うん。で、上等のワインを頼んで、乾杯ってさ・・。

軽く触れたグラスもクイーンって、上質な音をたてて、

俺はいまだって思って、

買っておいたリングをケイトの前におしだしたんだ」


なかなか、洒落た演出をしたわけだ。


「ケイトはなに?って、そのときに俺は気がつくべきだった。

ひどく、戸惑った顔をしていたんだ。

なのに、何?って、不思議に思っただけだと思っていたよ。

あけてみろよ、って、いったら、ケイトはゆっくり箱を開いて

リングをみつめてた」


「・・・・・」


「しばらくしたら、もらえないわって答えたんだ。

プレゼントだと思ったんじゃないかっておもってさ、

俺と一緒になってくれないか・・って、そういう・・意味だっていったら・・」


「なにも答えなかったんだな?」


「ああ・・ずっと、家にかえっても、なにもいわないから、

時期が早かったかなって?

説明不足だったかなって、

リサと別れたことも、もう、離婚書類も提出してるってはなして・・」


そこで、本気じゃない女がどういう態度を取るか、

眼にみえるようで、ボーマンもききたくはなかったし

ハロルドにはなさせるのも、むごいとは思った。


「多分、そうだろうとおもってた。って・・。

奥さんとだめになってころがりこんできたんだろうって思ってたって」


もちろん、ハロルドはそうじゃないと言うだろう。

ケイトと一緒になりたいから、先にけじめをつけてきたんだ。

って、

その言葉にケイトの顔色が喜びに変わる。

そんなに思っていてくれたの?

止まり木じゃなかったんだね?

そして、不安と迷いで受け止めきれなかったプロポーズリングを今度は

ちゃんと、ゆびにはめてくれる・・・・


だけど、ハロルドが描いた想像図は見事に砕け散った。


「冗談やめてよ・・って、箱ごとつっかえされたよ」


ボーマンの胸がずきりといたむ。

ハロルドだって、それなりに真剣に考えてたんだから。

そんな言葉がかえってくるなんておもいもしなかっただろう。

ハロルドのショックがボーマンにまで、つたわってくる。


「冗談じゃない。本気でいってるんだ・・

って、その言葉が決定打だったよ・・」


ケイトはだからこそ、本気でことわるしかなくなってしまったんだ。


「豹変っていうのかな・・ああいうの・・。

だったら、はっきりいうわ・・って、そのあとの言葉が・・・」


よほどくやしかったんだろう。

ハロルドの手が細かく震えてる。

「うぬぼれるのも、いい加減にしてね。

確かに、あんた、いい男よ。

見た目もいいし、金はなれもいいし、やさしいし、

とくに、セックスは最高。

だけど・・・。

あんたとなんか、一緒になるのはごめんよ。

だいたい、あんたみたいな男と一緒になる女がいるだけでも奇跡よね。

だから、あんたの奥さんって、よっぽど、出来た女か馬鹿か

それとも、あんたのセックスだけでつながってる・・・

あたしみたいな女か・・。


どっちにしろ、それでも籍までいれて、一緒に暮らしてくれる女を

大事にできないで、都合のいいところだけで結びついてる女のために

奥さんを捨てちゃう?

目玉も節穴?

そんな男とあたしが、いっしょになる?

そんな、おめでたい女、奥さん以外いるわけないじゃない。


ほかに変えようも無い人をほうりすててきて、おんきせがましく

あたしと一緒になりたい?


そんな、足りない脳みその男と一緒になるなんて、おっそろしくていけないわよ。


それに、あたしもそんな男にしがみついていなきゃいけないほど、

もてないわけじゃないの。


くされ縁と上手さで、ずるずる、つづけてきてたけど、

いい潮時よね。


あんたが、馬鹿な事をいいだしてくれたおかげで、

あたしも、目が覚めたわよ。


そのままだったら、ずるずる、続けていたんだなっておもうしね。


だから、そのプロポーズには、感謝するわ」


そんなふうに、頭の中に焼きついた言葉をハロルドは一言残らず、はきだしおえた。


「のぼせ上がっていたって、頭、が~~んってなぐられた気がしたよ。

目の前、まっくらになって、俺、どうしようって・・

どこにいけばいいんだって・・

たった今から、もうケイトのとこにいるわけにいかない・・

寝るところもない・・

ホテル暮らしなんかした日にゃ、金がいくらあってもたりない。

で、俺はずるいと思ったよ。

でも、ケイトにいわれて、俺も目がさめた。

リサのところにかえるべきだよなって・・。

リサは俺を赦してくれるかなって思いとさ、

いまさらどのつらさげて、のこのこ、帰れるかってのとさ、

リサはまっていてくれるって、俺は心のどこかで

計算してたなって・・

でも、そんなこともなにもかも、さらけだして、

リサの気持ちに甘えちまおうって、

まだ、あまっちょろい考えで・・・

ここにきた・・」


両手で顔を覆い、涙をぬぐいとると、

ハロルドはかすかに笑った。


「天罰だよな。

自分の女房を足蹴にしてさ・・」


ボーマンはすまなさそうに、ハロルドにつげるしかなかった。


「天罰なんてものじゃねえよ。

天罰があたるようなほどの価値はおまえにゃ、ねえよ。

そりゃあ、自業自得って、いうんだよ」


ボーマンをみつめたハロルドの目から、大粒の涙がこぼれおちてきた。

「その・・とおりだな・・自業自得・・」


そして、ボーマンはハロルドに鉄槌をくわえる。

「そうやって、自分のためにしか泣けねえ男だってことも

よ~~~く、考え直すことだ。

その胸のいたみはな、お前がリサにかけてきた悲しみだと思って

うけとめなおすしかねえぜ・・」


「う・・ん」

涙で喉がつぶれたか、ハロルドのむせび泣きが小さくもれた。

咽び泣くハロルドにボーマンはとつとつと語りかける。

「お前がこの先どうなっちまうのか、俺にわかるはずもないけどな。

お前がしなきゃ、ならないことだけはある。

お前ができることは、

リサに詫びること。

そして、見返りをもとめず、リサへの気持ちを伝える」


ふと、ハロルドの声がとまった。

「見返り?」


「そう。もう一度、やり直したいとか、リサにこう思ってもらいたいとか、

そういう事は一切求めない。

それを求めるから、相手に不満をもったり、裏切られたとか

判ってもらえないとか、自分を傷つけるんだ。

一緒にくらそうが、暮らすまいが、この先あう事がなくなろうが、

「リサが好きだ」って、気持ちしか真実はないんだし、

お前が自分のものだといえるものは、その気持ちだけだ。

その気持ちを伝えることだけしか、できないんだ。

それで、相手にどうこうしてもらおうってな思いじゃだめなんだよ」


「思いだけが、俺のもの?」


「そうさ。お前はその思いさえ見失って

リサからの愛情だけをかすめとって

あげく、ケイトにすりかえようとした。

お前は自分の思いにさえ不誠実だったんだ。

女房に不満があるの、どうのこうので、浮気しようが、

不倫しようが、俺はどうこういわない。

問題は自分の気持ちひとつ、たてとおすことができないってことだ。

だから、ケイトもおまえに愛想をつかした。

自分ひとりのお守もできねえ、男のために、

お守役につかわれて終る。

自分が大事だってこともあったろうけど

そんな、おまえを見ていたくなかったんだと思う。

そして、それをこなしてきたリサみたいに

お前に本物の愛情をわたせない自分だってことにも、気がついた。

ケイトみたいな程度の低い思いにお前をいかせなかったのは、

お前のふがいなさのせいじゃないさ。

リサがおまえを守ったんだ。

そこからして、おまえはすでにリサに守られてる。

馬鹿女といっしょにならずにすんだことでも

おまえは充分、助けられてるんだ。

感謝こそすれ、それ以上、リサにどうしてくれ、こうしてくれということは

俺がゆるさねえ」


なさけなさにうちのめされるかと思ったハロルドが

しゃきりと顔をあげた。

「そんな俺でも・・リサを思うことはできるんだってことだよな。

そして、その気持ちをつたえることはかまわないって、

そう、言ってくれてるんだよな」


「そういうことだな」


「なにもかもなくしちまったけどさ、

俺、今だから言える。

リサへの思いだけは二度となくしたくない」


「リサがおまえから、去っていってもだな?」

ボーマンの念押しにハロルドは深くうなづいた。


「思うことしかできなくなった。

って、ことじゃないって思ってる。

リサへの思いを掴みなおしたんだと思ってる。

俺はそれだけで、充分だ。

それだけが、俺のもんだ。

だから、俺は俺の思いを、こんどこそ、まもっていきていく」


本心からだろう。

ハロルドの瞳の奥に生気が戻り、力強い意志の光が宿っていた。

翌朝、ボーマンが目覚めた時には、もう、ハロルドの姿はなかった。


おそらく、リサのところへいったんだろう。


玄関先でリサに頭をさげ、それこそ土下座をしてでも

わびているかもしれない。


そのハロルドを、リサがどうするか、

もう、その先はリサの問題でしかない。


リサに書類を届けに行った日。


最後にリサはボーマンの胸の中で思いっきり泣いた。


そして、泣き終えるとボーマンに告げたっけ。


「私、ハロルドに自分の理想を求めていたと思う。

こうあってほしいハロルドになれるハロルドだって、

ずっと、偶像のハロルドを好きでいたんだと思う。

ボーマンの言うとおり、ハロルド教の信者よ。

でも、もう、偶像崇拝はやめる。

そして、ありのままのハロルドと向かい合ってみる」


それで、どうするか、自分の気持ちが見えてくるだろう。


リサは、ひとつ、ステップをあがったなって、

ボーマンは思った。


本当に必要なのは

相手をそのまま、うけとめられるか、どうかってことだろう。


そして、相手がうけとめられる相手かどうかじゃない。

自分がうけとめたいか、どうか。


リサはハロルドをどう思うか。


別れたっていい。

やり直したっていい。


問題は自分の本心でやっていくことでしかないんだ。


ーちょっと、早いかな?-って、

思いながらボーマンは電話に手をのばした。


受話器のむこうに相手が出た時、ボーマンは

「ありがとう」

って、告げた。


受話器のむこうで、ケイトがくすりと笑った。


「こっちこそ、ありがとう」


「悪かったな」


「ううん。あたしも目がさめた。

ちゃちな慰めあいなんかより、本物がほしいっておもったし・・。

そのためには、あたしが本物にならなきゃね・・。

本物をもとめていかなきゃって・・。

ボーマン。あなたの言う通りよ。

本物には勝てない・・・・・」


「うん」


それで、ケイトへの電話をきった。

窓の外をながめると、真っ青の空がみえた。

雲ひとつない真っ青の空が3人のそれぞれの心模様を映しているようにみえた。

それから、ハロルドとリサがどうなったかって?


ボーマンはなるようになるって、もう見向きもしない。


仕方が無いから、また、筆者が覗きにいってくるしかない。


以下、中継になります。


部屋に入ったハロルドはひさしぶりの我が家の香りにむせかえっていた。


そして、リサ・・。


ハロルドはただ、静かに頭を下げた。

そして、リサへの思いを告げた。


「今頃、気がついたよ。

俺にはお前しかいないって・・」


リサはハロルドの言葉を聴きながら左手の薬指のリングを外した。


「これって・・絆」


そう、その絆を断ち切ったのは、ハロルドだ。


「もう・・いらなくなっちゃったのよ・・」


リサはキッチンの窓を開くと、それを、庭になげた。


それも、ハロルドが招いた結末。


絆・・それももう、なくなったんだ。


ボーマンの言うとおり、思いだけ・・がハロルドのもの。


「うん・・」


泣くまいっておもってたのに、やっぱり、つきつけられた現実は痛い。


「ごめんな・・」

この胸の痛みはリサの痛み。

ボーマン・・俺・・こんな痛みを平気でリサにかけてたんだよな・・。

「ごめん・・な・・リサ・・」


あふれてくる涙を拭おうとした時だった。


リサが怒り出した。


「どうしたの?お前しかいないって、それだけの気持ち?

絆がなくなっちゃったら、拾いなおしてこようっておもわないの?

それだけの女?」


「あ・・」

ハロルドだって、馬鹿じゃない。

あわてて庭にかけおりると、指輪をさがしはじめた。


ハロルドが一生懸命指輪をさがしているっていうのに、肝心のリサはどうしたって?

無茶言っちゃいけない。

ハロルドが庭にはいつくばって、指輪を探し回ってる姿に

リサの瞳から、次から次から涙があふれでて、

愛しいハロルドの姿さえ、涙でぼやけてしまうんだ。

指輪なんか、探せれるもんか。

ハロルドの姿を瞳の中に閉じ込めるだけで精一杯のリサだったんだ。


そして、沈丁花の新芽のなかに見つけたリングをハロルドが拾い上げて

手をあげて、リサにみせた時だった。


ハロルドの手の中できらりの光をみつめたリサは

大きな声でハロルドに告げた。


「ハロルド・・絆はね・・とっくに、私の中にあるのよ」


ハロルドはリサにためされたのかもしれない。

それでも、良かった。

リサが・・・居てくれる。


ハロルドはもういちど、リサの指にリングをはめるためにリサの傍にあゆんでいった。


リサの手をとると、リサの指にもういちど、リングをはめようとした。

だけど、リサはハロルドのその手をつかまえると

リサのおなかの上に導いた。


「ここにね・・絆がそだってるの・・」


リサのいう意味がやっとわかった。


「リサ・・・」


ハロルドはただただ、ありがとうってそういうしかなかった。


「俺・・を、だめ亭主からひっぱりあげてくれて・・

そのうえ、パパにさせてくれるんだよな・・」


リサはちょっと、ハロルドのほほをつねり揚げた。


「そうよ。私にはだめ亭主でもいいけどね・・

だめパパは・・・ゆるさないから・・・」


「うん・・」

リサの手をとるとこんどこそ、リサの指にリングを戻した。


「俺も、もどってきていいんだよな・・もどってこれたんだよな」


ハロルドの手をとると、リサは

「そうよ」

って、ほほえんだ。


         ****おしまい****

続きを読む

キープ・ユー・4  アシュトンには気をつけろ!

「ディアスゥー」
夏の夜風にあたりながら
テラスで酒を呑んでいたデイアスの側に
アシュトンがやってくると情けない声をだした。
「なんだ?」
「あの、部屋かわってくんない?僕、眠れない」
「あ、ああ。わかった」
アシュトンの隣の部屋にはクロードとレオンがいる。
(そういうわけか)
テーブルの上に投げ出してあった部屋の鍵をつかむと
アシュトンに投げてやった。
アシュトンがほっとため息を付いてディアスの部屋の鍵を受取った。
「えっと、西の?」
「七号室」
「あ、ありがとう」
そのまま駆け出しそうになるアシュトンにデイアスはたずねた。
「おまえの部屋の鍵は?」
慌ててアシュトンはポケットを探り、あちこちひっくり返した。
「あ、あった」
「ならいい。そこにおいとけ」
アシュトンは言われた通りテーブルの上に鍵を置いた。
「ん。じゃあ」
アシュトンが隣の部屋のレオンとクロードのことで
慌てて逃げてきたのが判った。
(それじゃあ、俺も、当分、部屋に戻れないって事か)
何時の間にか引っ付いちまった二人が
久しぶりのベッドの上で何をするか、判らない訳がない。
(まあいいさ・・・いい風だ)
二、三十分ものんでいただろうか。
又、アシュトンがやってきた。
「 ん? 今度はなんだ?」
「ぁ。やっぱりいいや。やっぱ、あの」
アシュトンはやけにしどろもどろしながら、
デイアスの目の前にさっきの鍵をおいた。
(何、考えてんだ?こいつ・・・)
「あの、元通りでいいよ。あ、うん」
「アシュトン。お前。なに考えてんだ?」
「う、あ、うん。いや。あの。別に気にすることないかなあなんて、さ」
(確かに、そんなの気にしてたら、
この先、あいつらと一緒にいられやしない。が、こいつ・・・)
デイアスには、見当がついていたが、空恍けてきいてみた。
「何を、気にしてんだ?」
途端にアシュトンが素頓狂な声を上げた。
「えっ、ええ?ええええ?デイアス・・わかんないの?」
「判ってたらききやしない。なんだ?」
言えるものなら言って見ろ。
そう、思いながらデイアスがからかっていると
アシュトンは気がついていない。
「え。気がついてたんじゃなかったの?あれえ?」
「なんだ?」
「あ、うん。あのね。あいつら。できてんだ。だから。その」
その続きを案の上、アシュトンは言いよどんだ。
「できてるって?なにが?」
「あの、デイアス?」
「なんだ?」
アシュトンはこのディアスの鈍さが、いい年こいて
未経験のせいなのだと見当をつけると、
憐れむ目付きに変った。
(デイアスが、あんなのきいたら、デイアス、うろたえちゃうよ。
(それは、お前だ。アシュトン))
妙な優しさを、胸にだかえると
「うん。やっぱ。元通りにしよう。そのほうがデイアスにもいい。
やっぱ、僕もゆっくり、ききたいし」
アシュトンの口から本音がぽろりと漏れているのに、
アシュトンは気がついてない。
笑いがこみ上げてくるのを堪えて、デイアスは
「ああ。」
と、一言、言い返した。
唇の端に浮かんでくる笑いをかみ殺すのに
必死なデイアスに気がつきもせず、
アシュトンは楽しい目的に顔をほこらばせて
部屋に帰っていこうとした。
「鍵は?」
アシュトンがゆっくりと、ふりむいた。
「あ、そうか。ね、デイアス。僕。今なんかいった?」
「ああ。そんな事に一生懸命になってないで、さっさとねろ」
もう、一度アシュトンに七号室の部屋の鍵を投げ渡した。
「あの」
「あいつ等の声が気になってねむれない?
次は、やっぱ、ききたい?いいかげんにしろ」
「あひゃ」
アシュトンが慌ててかけだしていった。
西の七号室の鍵をしっかりもっていった以上、
今度こそ、そっちで眠るしかないだろう。

デイアスが朝、レナの所に声をかけにいって
今日のレナの予定が午後からあいているのがわかると
部屋にもどってきた。
部屋に入りかけると隣の部屋から丁度、クロードがでてきた。
「あれ?デイアス。西の方の部屋割りじゃなかったっけ?」
側にレオンがいないのを
レオンはまだ、ねてるのかと聞く前に、
クロードのほうが先に声をかけてきた。
レオンが出てきそうにもないのが判ると、デイアスは
「・・・・馬鹿」
いきなり馬鹿といわれたらさすがにクロードも面喰う。
「え、あの、馬鹿ぁ?」
「アシュトンを隣の部屋にする奴があるか」
「だって、むこうがきめたんだよ」
「向こうって、ホテルサイドか?アシュトンか?」
「ン。両方かな。
ホテル側が空いてる所できめてくれっていうから、
皆勝手にきめて、残った部屋が
デイアスの部屋に自動的にきまちゃった・・・」
「は。それで俺が西の七号ってこと」
「だってデイアス向こうにいたし」
「そんなことをいってるわけじゃない。・・アシュトンには気をつけろ」
「アシュトン?」
「に、気をつけろ」
「え、あの?なにかあったわけ?」
「部屋のし切りなんか、宛てになりゃしない」
「え?あ。あ、ああ・・・」
やっと何に気をつけなきゃいけないのか判ったクロードだった。
「今頃赤くなっても遅い。アシュトンはきいちまったようだ」
「ぁ、あの・・デイアス・・・、と、いうことは君も?」
「ああ」
クロードが見事なほど真っ赤になった。
デイアスのほうもこんなクロードを見るのは久しぶりの事である。
「嘘だ。俺はそんな無粋な男じゃない」
デイアスの言葉にクロードがホッとした様にため息をついた。
「と、言っても、たんびお前らの隣の部屋に行かされちゃ
俺もねむれやしないが」
「判った。気をつける」
そういうと、慌ててクロードは部屋の中に逃げ込んだ。
『ああ。デイアスゥゥ。やっぱし、きこえてたわけねええ』

ドアが閉められた音に、レオンが目を覚ました。
「ぁ、クロード。もう、起きてんだ」
「あ、うん」
ドアにへばりついたまま、じっと立っているクロードの頬が
妙に赤く色をさしている。レオンはそれに気が付くと
「どうしたの?クロード?」
と、尋ねながらおきあがってくるとクロードの側にたった。
「あ、ああ。隣がデイアスになってた。アシュトンとかわったみたい。あの」
言おうか言うまいか。
下手な言い方をするとレオンがむくれてしまうのは判っている。
「なに?へんだよ」
やはり、レオンがクロードの様子をみのがすわけがない。
(たく。もう。僕の一挙一投足。
僕の事、大好きでみのがせないんだから・・えへ・・)
自分で思った事にさえ嬉しくなってくるクロードなのであるが、
レオンの追求は揺るがない。
「ね。なに。どうしたの?」
「あ・・」
クロードは問題を提起するよりしかたなさそうである。
(でもさ。あん時にレオンに声出すな。
なんていったって無理だよな。
だいたい僕のが良くて声だしちゃうわけだし・・・。
それが、また、いいんだよな。
そうそう。それで僕ももっと、夢中になって・・・
あは。かわいいんだよな)
クロードは自分の物をズボンの上からじいとながめて考えている。
(だいたい。元、元。僕のせいだし、逆にそれ言われちゃつらいよな)
「クロード」
レオンの声がすこし、怒っている。
これ以上話さずに置いたらレオンの機嫌がどうなるか。
「あの。おこるなよ」
「なに?僕が怒んなきゃなんないことなわけ?」
こういう時ほど、レオンの頭の回転の良さが恨めしくもある。
すでに、怒り出す準備をしているようなレオンに
どう切り出して行けばいいのかクロードは迷った。
「あ、あの・・あのさ」
「ちゃんといってよ!クロード」
(ぁ、こわ!・・って、又、この顔がいいんだよな)
「あのさ、だから・・・」
「僕に、話してよ。クロード。クロードの事ならなんでも、ききたい」
(もう、可愛い事いうんだから。そうやって優しい事いうんだ。
で、僕もついはっきりいっちゃうんだ)
「あのね」
レオンはクロードの話すのをじっとまっていてくれている。
(ここからなんだ)
「あ、あのね。あん時に声だすなよ。
あの、全然出すなっていうんじゃなくて、
あの、それ。アシュ・・・」
「なに、それ!」
(あ、もう、むくれてる)
「だから、隣の部屋まできこえちゃって」
「・・・・」
レオンの顔色をうかがっているクロードの内心の呟きはこうであったろう
『ああ―ア。やっぱ、いうんじゃなかった』
むっとした顔のレオンが
「僕。むりだよ。そんなに嫌ならクロードがしなきゃいい」
と、言い放つ。
(たああ。かなり、おかんむりだ。
けど、なんだよ。しなきゃって。
僕がそれ無理なの判ってるから平気でそんな事いうんだ。
自分だってしたいくせに辛抱しあいっこしたら、
僕の方が先に根をあげるの、しっているから、強気なんだ。
くっそおお)
負けずにクロードもいいかえした。
「あ、そう。判った。しなきゃ、いいんだな」
(見ろ。少し顔色がかわった)
レオンの様子が少し、淋しげにみえた。が、
「そうだよ。クロード」
と、言い返して来た。
(こ、こなくそー。なんでそうくるんだよ)
一言いったきりレオンは黙っている。
(そんな事いわないでよ。クロード。僕もきをつける
っていわれりゃ。結局、大声出したってもう許しちゃう
どうでもいい事なのに、絶対、レオンからおれないんだから。
いっつも、こうなんだ)
クロードの意地の張り合いも
結局、またまたクロードがおれるしかないようであった。
どうにも、それが悔しいクロードである。
「あっ。そう。じゃあ。もう、しない」
「判った。側にきたら、かみついてやる」
(おーおー。強気じゃん)
「こっちこそ、お前が側にきたらけとばしてやる」
何て、いっているけど、
でも、本当にレオンがきたらそんな事しない(?)
できない(?)クロードなのである。
自分からはもう、絶対先に謝んないぞと固い決心のクロードを
レオンはどうも、いつものクロードではないという事だけは
感じていた様である。
「ばかみたいだ。もう。せっかく、はやくおきたのに」
同じことをレオンがいうのが、クロードの声に重なった。
「ふん。じゃあ。もう一回、ねなおす」
これも、レオンが同じ言葉をいった。
「ああ、そうしろよ」
「ああ、そうするよ」
どちらも、同じベッドに入り込もうとすると、
「くるなって、いったろ」
「こっちのせりふだよ」
「そっちのベッドにいけば!」
レオンとクロードの同じ言葉が再び重なった。
顔を見合わせていたが
「いいよ。判った。僕がそっちに、いくよ」
これも、同時に同じせりふ。
(くそ。同じことばっかいいやがって。
ベッドのとりあいなんかしたいんじゃないのに・・・レオン・・・)
「だったら、僕がこっちだな」
「だったら、僕がこっちだよ」
「同じことしか言えないのかよ」
「クロードこそ」
「・・・・」「・・・・」
黙ってレオンがベッドに潜り込んだ。
「レオン?」
返事が返って来ない。
そうかといってクロードが自分から
向こうのベッドに行くのはレオンを本当に遠ざける様で辛かった。
クロードも黙りこくったままレオンの横にそのまま、潜り込んだ。
しばらくクロードも潜り込んだままじっとしていた。が、
「レオン?」
もう、一度呼びかけたが返事がなかった。
(ダメだ。完璧に怒ってる)
「レオン。・・・・ごめん」
途端にレオンのしゃくり上げる声がした。
レオンが泣き出したのが判ると流石にクロードも胸が痛い。
「ごめん。レオン。いいんだ。僕のせいなのに・・・」
「ううん。僕。気をつける。でも、駄目なんだ。
本当に駄目なんだ。クロードの・・・」
(うん、うん。わかってるって)
「本当にいいんだよ。レオン。
だって、僕もレオンの声ききたいもの」
まだ、しゃくりあげてるレオンに
「おいで」
そう言ってあげると、素直に身体を寄せて来る。
「好きだよ。レオン」
「うん。僕も、僕もクロードの事、大好き」
「うん」
レオンにそっとキスすると、レオンがクロードの首に手をからませてきた。
(レオンの腕がこうやって僕の首をまく様に包んで行くのが
僕は大好きだ)
それからしばらくするうちに
「ああ・・・・ああああ」 
レオンの声。
(で、やっぱこうなるんだ。)
「ああん。・・・クロード・・あ・・・」
クロードの腕の中で可愛い声をあげてるレオン。
「ああ・・あ、だめ・・・クロード・・・だめ・・・ああ」
クロードには何がダメなのか今もってよく判らない事だけど
「レオン・・・気持ちいい?」
クロードも毎度毎度あきもせずレオンに同じ事をきいているのであるが
「あん、いい・・・んんん」
なんてレオンが言うものだから
又、又嬉しくなってついついクロードもはりきってしまう。
当然。レオンも堪らない。だから、いっそう
「あ、ああ、ああ・・・・」
て、事になっちゃう。
(もう、どうでもいいや。レオン・・・素敵すぎるよ・・・・)
仲直りができるとさっきの喧嘩がどこいったか。
ぐったりと体を投げ出していたレオンが急に
「ああ。おなかすいた」
と、いいだす。
「食べに行こう。なっ。レオン」
身体を持ち上げる様にしてレオンを引き起こすと
それからシャワー浴びて二人でラウンジまでおりていった。
ラウンジに向けて4つぼど手頃の広さのレストランが開かれている。
その中から好きな店に入ってモーニングを注文すればよい。
「どこにする?」
「ん。あっちがいいな。海がみえるよ」
どうも、主導権はレオンに握られている様であるが、
そんなことに拘っているクロードではなくなっている。
何にせよ、いつものことではあるが、
今日もさっきのレオンのことで上機嫌なクロードなのである。
モーニングを食べ終わるとレオンとクロードはホテルのテラスにでた。
「うーん。いい天気」
「ん。あ、ねえ」
それだけでクロードにはもう判っている。
「注文すりゃいいさ。ん。
僕はやっぱコーヒーもう、いっぱい。レオンにつきあおう」
「ん」
嬉しげに走り出してレオンはテラスに向けて店をだしているカフエにとびこんでいった。
しばらくしたらレオンが自分でアイスクリームを片手に
コーヒーを持ってくるのをクロードはここに座って待っていればいい。
ぼんやりレオンが帰ってくるのを待っていた。
『一緒に行ってやりゃ良かったかな。
ウウン。ここで甘い顔すると又、つけあがるしな』
レオンがいなくなって物淋しくなっているのは
自分のほうだとは気が付かずにクロードはそんなことを考えていた。
しばらくすると、レオンがニコニコしながらアイスクリーム片手に帰って来た。
「はい。コーヒー」
「はい。はい」
「あれ?」
「なに?」
「なんか、機嫌わるそう」
「あたりまえだろ」
「え、なんで?」
「恋人ほったらかしにしてさっさとアイスクリームのほうにとんでいく。
僕とアイスとドッチがだいじ?」
「アハ。そんなのまでやきもちやくわけ?」
「そ」
「ふーん。どっちかな」
「なに。それ?」
「だってアイスはクロードみたいに怒んないし」
「あ、そ。じゃあ、ずううとアイスにいてもらったら?」
「溶けちゃうよ。うふふふ」
「なん?」
「クロードって可愛いんだ」
「ばか」
「クロード」
「ん」
レオンの瞳が何を言ってるのか直に判る。
クロードがレオンにわざと拗ねてみせたのも
レオンのこの瞳に見詰られたかったせいなのである。
「あ、デイアスだ」
レオンが小さく呟いたのでクロードもレオンの見た方を振り向いた。
デイアスも朝食を取るとこちらにきたのだろう。
レオンとクロードにデイアスは気がついたのであろうが、
いつもの様にデイアスは余り人のいない方に座りこむと
テラスに入る前に注文していたのであろう。
デイアスを追いかける様にボーイがデイアスの側にくると
コーヒーのグラスを置いて立ち去った。
「レオン。ちょっと、まってて」
クロードはレオンにそう言うとデイアスの方に歩み寄っていった。
「あの・・デイアス・・あ、ごめん」
朝っぱらからの二人の事はデイアスにまたも聞こえていた事であろう。
「気にしっちゃいないさ」
「あは」
やっぱり、聞こえてるんだよなと、思いながらクロードは黙った。
「いい声してるよ。レオン」
「え?」
そこまではっきりいわれるとクロードもなんだか、ばつが、わるい。
「お前の事がすきでたまんない。
幸せでたまんないって、そんな声だ。男名利に尽きるな。クロード」
「あ・・うん」
素直に返事をしたクロードがらしくもなく少し涙ぐんだ。
「大事にしてやれ」
「有難う。デイアス」
デイアスはもう何も言わなかった。
この男にしては珍しい言葉にデイアス自身も照れていたのかもしれなかった。
「クロード?」
レオンが待ちくたびれて側にやってきた。
「ほら。来たぞ。俺は退散だ。もう一眠りしてくる」
コーヒーを一気に飲み干すとデイアスは立ち上がった。
やっぱり、僕らのせいで寝つけなかったンだと判ると
クロードはも一度,デイアスに謝った。
「デイアス。ごめん」
「気にするな。その内俺もお前らに迷惑かけるかもしれない」
「え」
「じゃあな」
デイアスが最後に洩らした言葉はひょっとすると
レナとそういう仲になったんだというメッセージだったのかな
と、思いながらクロードはレオンの方を振り返った。
「ごめん。僕きちゃいけなかった?」
「ん?」
「だって、デイアス。向こうにいっちゃった、
僕がいたら邪魔なことだったんだ?」
「ううん。ねるって」
「あの・・それ、」
「うん。僕らのせいで寝不足」
「あ、ああ。怒ってたんだ?」
「ううん。幸せそうな声してるって。レオンの事大切にしてやれって」
「あ」
レオンまで涙ぐんでしまう。
「レオン。散歩でもする?」
涙ぐんだレオンがひどくいじらしい。
それでもこんなに大勢の人の前では、
さすがにレオンが涙ぐんでるのにキスの1つも渡せない。
クロードも歯痒い。
「朝のうちじゃないともう暑くなってたまんないよ。いこう」
レオンの手を引っ張ってそのままテラスから外に歩き出した。
レオンがそっと寄り添ってくるのをクロードは
しっかり自分の方に寄せ付けると
テラスの横に続く海岸に向かって歩き出した。

その後ろからこそこそとアシュトンが着いてきているのに
クロードもレオンも気がついていない。
「僕。やっぱ、だめだよ」
レオンがポツリとそういう。
と、いう事はさっきの事で
レオンはレオンなりに声を出さない様に努力をしてみたということなのであろう。
「わかってるって」
たった十二歳の子の中で目覚めた感性が
どんなにクロードを夢中にしているか、
他ならぬ、それを引き出したクロードが一番良く判っているのである。
「うん」
「ごめん。判ってんだよ。
たださ、ほかの奴らに聞かれちゃったって言うのがさ、悔しいかなって」
「うん。ぼくも、そう」
「何もかも独り占めしたいんだ。そんな感じ・・・」
「僕も、クロードだけに・・・・」
レオンがそう言いながら人気のない場所までくると
クロードにペチョ―と張り付いてくる。
(また、これがかわいい・・んだ)
そのレオンを抱き寄せてクロードの手がレオンの頬を挟み込む。

――ああ。鼻の下伸ばしちゃって!ああ―あ。もうすぐにキスだ。ぅふ。―
アシュトンが二人をこっそりつけてきたのも、
この臨場感のある場面を期待すればこそである。
『3,2,1,0・・あはあ・・』
ごくりと生唾を飲み込む音さえ聞こえてしまいそうなほど
静かな海岸沿いにまばらにはえてる木々の中の二人が
このまま、どんなキスを繰り広げてゆくか。
『やっぱ。いきなり、ディープキス。にゃは・・』
アシュトンのその背中をポンと叩かれた。
「また、のぞきか?」
「え」
何時の間にかデイアスが、二人を隠れながら
覗いていたアシュトンの側に立っていた。
「あ、違うよ。コーヒーのみにいこうかなって」
「どこに?」
「あは。いきすぎちゃったかな」
「ずいぶんとな」
「んんんん。そう。そう。コーヒー。コーヒー」
誤魔化しにもならない弁解をしながら
アシュトンは向きを変えると元来た方に帰っていった。
どうもアシュトンにはヘンな趣味があるようである。
デイアスがそっと二人を覗いて見ると、
なにも気がついてないようなのである。
二人の時間を分かち合いながらキスに浸り込んでいるのだった。
(ま、いいか。それにこれじゃ俺も覗き・・だな)
来た時と同じ様にアシュトンの後を追うようにして
デイアスも二人をあとにするとホテルのに帰って行こうとした。
その途中にアシュトンが待っていた。
「あは。あの。やっぱ。部屋。かわって」
デイアスにじっとり睨みつけられてアシュトンも黙り込んだが、
「あの。鍵かしてよ。その、僕の荷物。置きっぱなしだし、デイアスの荷物ももっていっておくからさ」
アシュトンが部屋のチエンジは諦めたようなので
デイアスは鍵を渡してやった。
「テラスで待っているから、さっさと持って来いよ」
鍵を受取るとアシュトンは一目散にホテルに駆け戻っていく。
どうも、早い話し元気が有り余っていすぎるようなんだな。
と、デイアスは苦笑しながらアシュトンが走って行くのを見送ると
自分もゆっくり歩き出した。

短い距離のそれでも、内容の濃い散歩を終えると
レオンもクロードもテラスにあがってきて、
まばらになった客の間を縫って、
テラスにしつらえられた椅子に座りこんだ。
「ね、クロード」
「なに?」
「さっき、他の奴らって、言わなかった?」
「あ、うん」
「デイアスのほか?」
「あ、あの」
「ん?」
「ん。アシュトン。デイアスがそういってた。
アシュトンには、気をつけろって」
「はああ―。アシュトンにも?」
「ん。どうやら、そうらしい」
「なんか、やだな」
「だろ?」
「ん。デイアスはまだしも、なんか、そういってくれてたんでしょ?」
「レオンの気持ちをね。僕を好きだからこそだって、そう、みてくれてる」
「ん。でも。アシュトンは・・・そうじゃないよ」
「ん」
「あ、なんか、はらたつ」
そんな会話をしている二人にレナとデイアスが向こうの隅で何か話しているのが見えた。
「あれ?」
「ん?」
「デイアスだ。ねそびれたみたいだね」
「アハ。そりゃ。デイアスだってレナと居る方がいいだろ」
デイアスがクロード達より先にテラスに戻って来てみると
レナがデイアスを探しているのに出くわした。
レナがセリーヌと昼まで街にでようといっていた約束が変更になったのでデイアスの部屋を尋ねたのだがいなかった。
テラスまで探しにきてみれば、デイアスはアシュトンが鍵を持ってくるのをテラスで待っていたという訳である。
「ふうううん」
なんか訳知り顔でレオンが頷いている。
「なに?」
「ん。そう言う事かって、思ってさ」
「そういう事って?」
「だから、デイアスが僕の事をそう言う風にいうのってさ」
「?」
「結構、クロード、鈍いんだ」
「なんだよ」
「だから、デイアスがレナとそうなったって事でしょ?」
「ああ。タブンね」
「で、レナは当然。まだ、僕みたいになってないよね。
でもデイアスだってレナにそんな風な事、望んでるよね?」
「あ、そうか・・・・」
デイアスだって男である以上
自分の恋人に幸せそうな声を漏らさせてみたいに決っている。
そんな思いがあるからこそ逆にレオンの声をいい。
と、受けとめてしまうということだった。
「ん。ね。僕達こそ御昼までひとねむりしない?」
「僕もそうおもってた」
昨日夜遅くまでレオンとなんか、やってたのに、
朝っぱらからの喧嘩の仲直りでもう、一回。
少しけだるさが残ったまま食事して散歩した。
「ん。部屋にかえろうか」

その隣の部屋でアシュトンがぶつぶつ言いながら
デイアスの荷物と自分の荷物を移動させていたのである。
やっとこせデイアスが部屋に出してあった身の廻りの物を
丁寧にカバンの中に詰め込んで
クロードの隣になったデイアスの部屋にもってくると、
アシュトンが散らばしたままの物が部屋の隅にごったにつまれてある。
「ひえー。そりゃ。そうだけどさ。僕がデイアスのカバンの中に、ごったくたにつめこんだら、デイアス。あんた怒るだろうって思って。
随分丁寧にいれてもってきたのに、僕の物は・・・?こんなのありい?」
デイアスだって何が哀しくてアシュトンのパンツまで片付けてやらなきゃなんないかってところだろう。
(あああ。そりゃ、出しておいた方も悪いよ。
でもさあ・・はいた後の物じゃあるまいしさ)
デイアスがはいた後の物か、そうでないかを判断つけるのにどうすれば良かったんだろうかを考えさせられるアシュトンの文句ではあるが、
ひとしきりそんな事をぶつぶつ思いながら
カバンの中に詰め込み直していると
隣の部屋にレオンとクロードが帰って来た。
(あひゃ。これは良いタイミングではないのかな?)
そっとアシュトンはベランダにでてみた。
かなり危なげな姿勢だが、仰け反る様にして手摺にもたれると、
うまい具合に隣の部屋が覗き込める。
ブラインドの隙間を通して、見える場所にベッドがある。
(むふ。なんで昨日。ここに気がつかなかったのかな。
今度からはよく廻りをみて・・・)
そんな後悔と反省をしながら
アシュトンは二人の様子をじっとみていた。
「ね。ここには何日ぐらいいるわけ?」
「うーん。そう長くはいないよ」
「って、どれぐらい?」
「どうしょうか、きめてない」
「もう」
取止めない会話を交わしながらベッドに潜り込んで行く。
それをきっとこのままでは済まないと、
楽しみにして覗きこんでいるアシュトンの側まで、
開いていたドアからプリシスがやってきていたのに
アシュトンは気がついていなかった。
「なに、してんの?」
アシュトンは振り向きもせず
「し!これからいいとこなんだ」
と、答えていた。
どうでもいい事に夢中になってしまって
アシュトンも誰に答えているのかさえ気がついていないのである。
「いいとこって?」
「しい!だからさ、あいつら、これから、やるんだ」
声を潜めながら質問には答えているアシュトンである。
「なにを?」
「ばかだなあ。きまってるだろ。セックスさ」
「へええ。レオンとクロードそこまでいってんだ」
「そう、すごいんだから。クロードの物がさ、入るだろ。
そしたら、レオンがさ、いっちゃうっなんていうんだ。
ね、すご・・い・・だ・・・・え?
たああああ!プリシスゥ!なんで、こんなとこに?」
慌てふためくアシュトンを物ともせず
「ふーん。ね?いっちゃうってどういうこと?」
と、プリシスはけろりときいてくる。
「え!?ええ!?僕そんな事いった?」
「いったよ。ね、なに?どういうこと?」
「あややや。気のせいだよ。プリシス」
「そういったよ」
「ち、違うよ。あ、そうだ。僕、部屋をかわったんだ。
ン。だから、荷物を取りにきていたんだ」
「?へんなの」
「え、ちがうって覗きなんかしてないって、あ、いや・・・」
これ以上大好きなプリシスにボロをだしたくはない。
慌ててアシュトンは荷物を掴むと西の七号室に急いだ。
鞄を七号室に放りこむとアシュトンは急いで
デイアスの待ってるテラスにむかった。
「随分、おそかったな」
「え、あ、だって、デイアスの荷物もちゃんと鞄にいれて
あ、そうだ。僕の物一塊にしちゃってさ」
「なんで、俺がお前の物まできちんとしなきゃなんない?」
「そりゃ、そうだけど」
「だいたい」
「あ、わかったよ。僕が無理言ったんだ。ん。ごめん」
デイアスの小言はごめんこうむりたいアシュトンなのである。
デイアスの部屋の鍵をわたすとアシュトンは
なんだかもう1つニコニコしてむこうにいってしまった。
「ふうう」
デイアスのため息にレナが不思議そうにたずねた。
「どうしたの?」
「ん。熱くなってきたな。人もいるし、部屋ではなすよ」
「ん。いいけど?なんか、大変なこと?」
「ああ、クロードとレオンのことなんだけど。
俺たちにとっても、無関係じゃなくなりそうだ」
「え?私達?」
「そう」
ひどくアシュトンが嬉しそうだったのは、
ここにも覗き見できるカップルがいることに気がついたせいではないか、と、デイアスは思っていた。
それをレナに言うのもどうかなという考えもある。
この前やっと、かたくなに閉ざされた心の扉を開けて
デイアスの胸にとびこんできたレナをとうとうデイアスは自分の物にした。
のは、良いのだけどあれから、「その後」がまだ、ない。のである
それをいきなりこんな話はないかもしれない。

部屋の前まで来るとレナが少し躊躇っている。
「ん?」
「あ、うん。べつに」
この前デイアスの、部屋に尋ねた時がレナにとって特別な日になった。
それから、デイアスと二人きりで一つの部屋に入る事はなかった今、
レナとの間にあったことをデイアスが更に、確かな物として掴むために、もっと深いものを共有しようとしてまた、レナを求めてくるのではないか?
という、小さな恐れがまだ、レナの中に残っている。
「はいれよ」
「あ、そうだね」
デイアスはソフアーにどっかりと座り込むと
「ふうー」
と、も一度ため息をついた。その様子に
「あ。あの。あ」
レナも声をかけづらいのである。
「ん?ああ。レナ。何を気にしてる?」
「あ、あの」
「素直にいえばいい」
「あ、うん。なんか、ちょっと側によりにくいかなって」
「あ」
デイアスには何処かで人を寄せ付けないでおこうとする習い性がある。
「すまない。そんなつもりじゃない」
立ちあがるとレナの手をひいてソフアーに引寄せながら座り込んだ。
レナも引かれながらデイアスの横に座りこむ。
だけど、
それ以上の事をするとレナを怖がらせてしまいそうだった。
(やっと、俺の物になったんだ。それだけで十分に、しとかなきゃな)
「あの?さっきのこと」
「ああ。アシュトンのことだ」
「アシュトンがなにか?」
「うーん。どうもレオン達の事が気に成って仕方ないらしい」
「ああ」
色々見たり、聞いちゃったりしてるから無理のない話かもしれない。
「気になるだけならいいんだけどな。どうも行動的と、いうか」
「え?どういうこと?」
「覗いてるんだ」
「え?」
「あいつ等の事が気になるのは俺も同じだ。
幸せそうで楽しそうでずっとみたくなってしまう」
「ん」
「判るんだ。アシュトンの気持ちもな。
だがな。やっぱ、それはよくない事だ。それに」
そこまでいうとデイアスは口を閉じた。
「デイアス?それに・・・なに?」
デイアスがレナの手をとった。レナはうろたえながら
「あ、あ、あの・・なに?」
できるだけ平気なふりをしてみせようとする。
愛して行こうと決めたはずのデイアスのことで
早くもうろたえ出しているレナの言葉に、デイアスが
「やっと。結ばれた所を覗かれたら嫌だろ?」
「あ。え。うん」
「まだ、俺が怖いか?」
瞳の奥まで覗きこんでくるデイアスを
レナは見詰め返す事ができず瞳をふせた。
だが、
「レナがいいというまでなにもしやしないさ。ちゃんときいてからにするさ」
デイアスはレナの手を離した。
「あ、あの、デイアス・・怒ったの?」
「いや。言った通りさ」
自分でデイアスを避けているくせに
逆にデイアスから手を離されたらレナの中で
ひどく寂しいような悲しいような思いが渦巻いた。
やっぱりデイアスが好き・・・・そう思うとレナは
「ね、少しだけ・・抱き締めて・・・」
デイアスが優しくレナを抱き締めた。
「レナ・・お前が好きだ」
「うん」
そう、いわれるとやっぱり心底、嬉しい。
レナはデイアスの胸の中で湧いてきた涙を拭いた。
「ん?ああ」
そのレナに気がつくとデイアスもいっそうしっかりとレナを抱き締めた。
時間が止まったように思えるほど長く二人は
そうして抱き合っていたが、やがて
「レナ。外にいこう。泳ぐのを付き合ってもいいし、
街に出て昼をたべてもいい」
「あ」
デイアスから遠ざけられた様に身体を離されるとひどく寂しい。
「あの」
それはデイアスにも判っている事である。
「は、レナ。俺も男なんだ。
だから、これ以上二人きりでいると約束を守れなくなってしまう」
「デイアス・・・」
「な?いこう」
「ちゃんと聞いてくれる約束でしょ?」
「え?」
「だから」
レナがデイアスの望む通りになっていいという言葉を
デイアスもどう尋ねればいいのか。
「まだ俺との事こわいんだろ?」
「だって、いつまでもこわがっていても」
「いいんだな?レナ」
「デイアス、ちゃんときいてくれるのね。
でも・・いやよ。そんなこと・・・きくなんて」
デイアスがレナを優しくもとめだす。
(いい子だ。レナ。俺の・・・レナ)

無論。隣の部屋のレオンとクロードの事も書かなければならない。
ベッドに転がり込んでぐっすり寝入っていたはずのレオンが
最初に目をさました。
「ねえ。クロード・・おきて・・・」
「もういいよ。レオン・・」
「ば、誰がそんなこといってるんだよ」
レオンに怒られてしぶしぶ起き上がって来たけど、
クロードはまだ少し眠たそうである。
「ねえ。クロード。ほら・・・」
レオンにシイって指で静かにするように言われて
クロードもぼんやり黙り込んでいた。
そのクロードの耳にも、隣の部屋から微かなレナの喘ぎがきこえてくる。
「ね?」
「あ・・・うん」
レナとデイアスが今何をしているのか。
言われずともクロードにも判る事である。
「でも、おかしいな」
「ん?なにが?」
「だって、レナ、デイアスが初めてでしょ?」
レオンの言いたいことは判らないでもない。
声が漏れるほどの感覚をそんなに早くレナが覚えちゃうだろうか?
そう言いたい訳なのである。
「あのさ・・レオン・・・」
レナの声にすっかりそそられてしまっているレオンの物に
クロードが手をのばした。
そして一番感覚の鋭い場所を撫でさすって見せた。
「ああ・・ん、ク・・ロード・・」
「レオン。女の子には女の子の、こんな場所があるってことじゃない?」
「ああ。そうか・・もしん、ない。でも・・」
「なに?」
「そんな・・・こと・・・どう・・でもいい・・・」
(あは。うっかり手を延ばした僕が馬鹿?)
「ね、クロード・・・」
レオンの手もクロードの物を確かめる様にのびてくる。
しっかり、その気になってしまっているクロードの物をレオンが触ると
「クロード。せっかくだから・・・」
悪くない提案だなって思うより先に
レオンがクロードの物を口に含みだしてゆく。
(あは・・・三回目)
それからしばらくしてレオンがクロードの物を離してゆくと、
クロードに入れ込まれた物の動きでレオンが
「あ、ああ・・いや。ん、ね、・・だめ・・」
「レオンいい?」
で、二人は、結局、こうなっちゃうしかない様なのである。      

隣合わせの二組のカップルのその声を一番喜んだのは誰あろう。
廊下にへたり込んで聞き入っていたアシュトンであった事はいうまでもない。
『あはあー―ん。wだよ。w。あああ:たまんな―――い 』
(んふ)
こっそり。ドアの隙間を下から覗いて見た。
(ありゃん?み・・・みえる・・・うっそおーー)
ついでにデイアスの方も。
こちらはベッドに上にはいない。
残念だけどしかたがない。
レオンとクロ―ドの方にだけ専念して。
アシュトンは、なんだかとっても幸せなのであった。
カップルはむろん。
カップルでない奴もそれなりに幸せな時間を共有しながら、
ひとときが流れてゆく。

「ああ。ねえ。クロード。もう、こんな時間だ」
時計はとっくに二時をまわっている。
「あれえ?」
何処かに時間を置き忘れるほどレオンと夢中になっていたのか?
それとも、昼寝が長すぎたのか。
真実は定かでないが、間違いなくお腹はすいている。
「ああ。あ。たべにいこう」
「ひとシャワーあびてく?」
「もういいや。さっきもはいったし、ふやけちゃいそう」
「ん、ま、いいか」
レオンとクロードが部屋の外に出てくる気配に
アシュトンがその場を去っていった事など気がつきもしないで
レオンとクロードは階下におりていった。
ラウンジの真中につったって又、同じ会話がはじまる。
「どこにする?」
「ん。そうだね」
朝と違っていたのはその会話の中にもう一人まざりこんできたことだ。
「あれえ?ひょっとして、今からおひる?」
「あ、プリシス」
「んふ。ね、レオン。いいとこであったわ。そうね。あとで話できる?」
「ぼく?」
「んん。そうよ。クロードにはちょっと聞きづらいしね。レオン。お願い」
「うん。いい・・けど・・」
「あ。うん。じゃあ。早く、食べてらっしゃいよ。
あたし。あそこで、待ってるから」
ラウンジの中にテーブルとチエアーがいくつかしつらえてある。
その隅を指差してプリシスは、そっちに歩き出していった。
「レオン。何たべたいかできめよう」
「うん」
「僕としては、スタミナのあるものがいい」
「え?ええ?」
「ばか。お前。なんか勘違いしてない?
僕としては失った分を補給したいんであって」
「あ。よかった」
「いいかげんにしろよ。いくらなんでも、二十四時間も経ってない内にもう4回めなんて考えてやしないよ」
と、いう事で昼から血の滴るようなステーキにかぶりつく事に決めたのだが、結果的にはクロードは賢い選択をしたというべきである。
彼の思念の中では予想してもいなかった4回目の為に
体力を補給しておいたという事においてである。
「よく、たべるね」
「あ。うん。まだ、たんない」
「そんなに、草臥れる?」
「めちゃ」
「はあ。少しは遠慮しようかな?」
「え?」
「冗談。クロード。マジな顔になってた」
「馬鹿。からかうなよ」
「ん。でも、なんだろ?」
「ん?ああ。プリシスのこと?」
「ん」
「気になるなら先に聞きに行けばいいよ。待たせても悪いだろ?
それに僕はもう少したべようかな。
そしたら。食べ終わる頃には話すんでるだろ?」
「ん。そうだね」
「あとできかせろよ」
「ん。じゃ」
レオンが席を立っていくとクロードはメニューを睨み始めた。

「あ、きてくれたんだ」
レオンが来たのに気がついたプリシスは、
レオンに手招きして近くに座れという。
「なにかな?」
「ン。あのね。レオン。いっちゃうってどういうこと?」
「え?」
「あの、それって、あの、どういう・・いっちゃうなわけ」
つい、さっきそんな事を言ったばかりのレオンだから、
つい、そっちの方かな?と、思ってしまうのを
頭の中で訂正してプリシスの言う、
いっちゃうって何の事だろうと聞き直した。
「勿論。セックスしてる時にいう。いっちゃう・・・よ」
「え?」
意外なプリシスの言葉にレオンは辺りをみまわした。
幸い、側には人はいない。
「ぁ、あの、プリシス」
「どしたの?レオン」
レオンの方が恥ずかしくなるくらいにさらりと言ってのけて挙句、
どうしたの?は、ないものであろう。
「あの、プリシス?そんな事・・・平気でいわないでよ」
やっと、自分の思いを口にしたレオンに
「そんな事?あ、セックスの事?やだ、レオンしてない訳?」
「え、あ、あの、そりゃ、その、す・・し、し、し、してるよ。
少しは・・・(少しだろうか?)」
プリシスって結構真面目だし、
変な気持ちできいているわけじゃないのは判っている。
ちゃんと答えなきゃって気分にさせられるのはどうしょうもないけど、
恥ずかしいものは恥ずかしいレオンなのである。
「でしょ?」
「え、うん」
「だから、その時にいっちゃうとか言うわけでしょ?」
そんな断定的な言い方はやめてほしいよと思いながらレオンは
「そ・・そう・・・そうかな」
と、しどろもどろで答えるのだが、
人事みたいな答え方がプリシスには気にいらなかったようである。
「言うの!」
「はい。いいます」
なんの根拠があってそんなにきっぱりと断言できるのか
よく判らない事ではあるが
プリシスの真剣な眼差しに
つい、レオンも本当の事を返事してしまった。
「だから・・・どういうこと?」
プリシス。勘弁してよ。そんな事いえないよ。
レオンがそんな事を思っているのに
「ちゃんと、判るように教えて・・・・レオン」
勉強の判んない所を聞くみたいに
真面目に聞いてこられるとレオンもどうにも、誤魔化せない。
気の弱いレオンなのである。
「あの、だから、その。感じちゃうっていうの、の極限っていうか」
「かんじる?」
缶汁ではない。
が、プリシスが言うとそんな風に何処かで物体化して聞こえてくる。
つまりはプリシスにとって、生な感情でも感覚でもないのである。
それだからこそ、なお一層不思議で仕方ないのだ。
「あの、気持ちいいって・・・こと。ひゃーん」
なんでそんな事まで説明しなきゃなんないのか、
レオンも泣きたい気分である。
なのに、プリシスは
「ふううん。感じるのといっちゃうのって、どう違うわけ?」
どうやら、余計に問題を拡大させてしまった様である。
「あの、感じちゃうのはずううと感じてるんだけど。
あの。いっちゃうと、しばらく、無感覚になって・・・」
そこまでかなり具体的に?説明し始めてやっとレオンが気がついた。
(どう、がんばって考えてみても、なってみなきゃわかんないことだ)
「もう、判んない。レオン、ちゃんと判るようにいってよ」
(好奇心?知識欲?でも、頭じゃなんにも判んない事なんだ。
もっと大人に成って自然に恋して・・・)
「プリシス。もっと大人に成ったら判るよ」
やっと冷静さを取戻したレオンの一言は決定的な一言のはずだった。だが、
「子どもじゃ判んないって言うの?
でも、レオンだって子どもじゃない。
子どもでもいっちゃうんでしょ?」
「プリシス。もう、やめてよ。子どもでも大人でも、
大事な事はその前のことなんだ」
「え、なによ?」
「誰かを本当に好きになって・・・それからなの」
「そんなの当たり前でしょ?」
「だめだ。こりゃ」
「えええー―。なに。それって教えてくれないってこと?」
呆れ果ててレオンがとうとう突放した。
「自分で経験してみたら」
「え?やだ。それだったらレオンに聞く必要ないじゃない」
ごもっともなことでございます。
「とにかく。僕はそんな事答えてあげらんない。
自分で実感してみるしかないことだもの」
「ふううん。そっか。だから、アシュトンも何にも答えらんなかったんだな」
「え?」
なんで、ここでアシュトンの名前がでてくるわけ?
レオンも嫌な予感がする。
「あの。プリシス。アシュトンって?」
「ぁ。アシュトンがいってたんだよ」
「なにを?」
「うん。えっとね。
クロードの物が入るとね、レオンがいっちゃうんだ。
すごいだろって。
だから、アシュトンにもきいたんだけど
ちゃんと、答えてくれないし、
本人に聞いたほうが早いかなって、思ったんだ」
「そ・・・それって・・・・」
「あ。んとね。アシュトンも夢中だったし。
だから真面目に答えてくれなかったんだ。ん。」
「夢中って?まさか・・・きいてたわけ?」
まさか、二人で僕たちの最中をきいてたってわけ?
そう、きこうとした。
「ううん。アシュトンがデイアスと部屋かわったの、知らなくって
そのままの部屋にいったらアシュトンが
ベランダの手摺りんとこから二人の事みてたんだ」
「え?二人って・・僕ら?」
「やだ。あたりまえじゃん」
「あ、あ、あの。ってことは、僕らはその時、その、あの、だから、」
「ン?セックスしてたかって?」
「プ・・プ・・プリ・・」
「なに、舞上がってんの?あたし。見てないから判んない。
アシュトンにきいてみたら?」
冷静に考えてみればアシュトンが覗いてた時間帯は、
レオンもクロードも純粋にお昼寝をしていたのであるが、
今のレオンにそんな余裕があるわけがない。
「・・・・・・」
なんだかレオンが泣き出しそうな怒り出しそうな
どちらともつかない顔をしているのを見ると
これはまずかったかな?と、やっとプリシスも気がつく有り様で
「あ。うん。レオン。ありがと」
というと、さっさとプリシスは逃げ出していった。
レオンの方はとにかくクロードの側にいきたい。
御店の方にとんでゆくと、クロードはレジでサインとルームナンバーの確認をしていた。
「あ。レオン」
「クロォードー」
「どしたの?」
レオンの情けない声。
そのうえにどうも、レオンの顔色もただごとじゃない。
泣きつきそうなレオンを引っ張ってクロードは部屋にもどってきた。
途端に
「ひぃーーん」
そんな声を上げながらレオンが泣き出すのを
クロードは抱き寄せていた。
しばらくするとレオンがやっと落ち着いてきた様なので
「どしたの?プリシスと喧嘩?」
「ちがう」
「ん?」
「アシュトンが・・・」
「プリシスじゃなくて、アシュトンなの?」
「ん」
「どしたの?」
「僕たちのこと覗いてたって」
「え?」
「おまけにひどいこといってたんだ」
「なんて?」
「い、いえないよ」
「いえないくらい、ひどいこと?」
「う・・・」
又、泣き出しそうなレオンなのである。
「あ、いいよ。いわなくて。なんか想像つくし」
「僕・・・やだ・・・」
(たしかに見られて減るもんじゃないけど、
なんか、馬鹿にされてるっていうか。そんな気分になる。
偉そうに言えることじゃないけど、
レオンと僕のセックスをもっとセイントな感じで受け止めてほしいなって。確かに僕もレオンもそんな高尚な気持ちでやってるわけじゃないし、
レオンの物をいじくってるときなんか
自分でも淫らだなって思わないわけでもない。
それでも、淫らな感じを楽しむみたいに覗かれてるんだと、思うと
ちょっと、惨めな気分になる。
僕達のそんな低俗で下劣で淫らな求め合いは、
僕たちにとってはそれでも、どうしょうもなく僕とレオンが一つになれる
大事な作業なんだ)
そんな事を考えていると、クロードにレオンが
「ねえ。なんとかしてよ」
と、いう。
「うん。でもさ」
「でも、なに?」
「うん。アシュトンが見てみたいって気持ちも判んないわけじゃないんだ」
(僕がレオンのあん時の、顔見ていたいってのと同じ。
それってたぶん。自然な気持ちじゃないかなと思う。
だから怒る気にはなれない。
でも、やっぱ、どうしょうもないくらい。悔しい。
見たけりゃ相手の気持ち無視して見りゃいいってもんじゃない。
でも。今のアシュトンにはそれが判ってない)
「あ、そ」
(あれ?怒ってる)
「レオン?」
「気安く呼ばないでよ」
「なに、怒ってんだよ」
「せいぜい。アシュトンの気持ち判ってあげればいいじゃん。
僕の気持ちなんかよりアシュトンが大事なんだ」
「あ、そういうことじゃないって」
「いいよ。そうやって気持ち判ってあげれるんだもの。
せいぜい、覗かせてあげりゃいいさ。
クロードもアシュトンに見せてやるって訳?
は、僕。君らのポルノビデオかなんかなわけ?馬鹿にしてりゃいいや」
「レオン。言って良い事と悪い事あるぞ」
「なにが・・・」
「お前まで、僕の気持ちを、アシュトンが覗いているような気持ちと一緒にすんのかよ?」
珍しくクロードの口調がきつい。
「あ、ごめん・・だって・・・」
「レオン・・・」
「ん・・」
「アシュトンの事はもう少し待ってよ。
そんな事より、アシュトンの事で僕達のしてる事を
自分で落とすような事を、考えるのは、やめよう」
「ん」
「レオンとのあん時が本当。僕は生きてるなって最高にそう、思うんだ」
「あ」
「レオンのセックスがそんな気持ちにさせてくれるんだよ。
これは。いくら覗いたって覗ける事じゃないんだ」
「ああ。クロード」
「ん」
「僕・・・」
「ん。たまんないくらい、ほしい?」
「ん。でも・・・」
「あは。あのさ。ホモとかゲイってさ。普通の男より欲求強いんだよ。
男の自分を重ねて見てしまうくらい」
「・・・・」
「だから・・・・」
(で・・・4回目。自分でも不思議なくらいタフだと思う)

「あ!」
隣の部屋にいたレナが声をあげた。
「ん?」
「あ、ううん。あ、」
デイアスとレナの耳に聞こえて来たのはレオンの声。
さっきまで堪えていたのか、微かには聞こえてきていたのだが、
レナは自分の御喋りできがついていなかった。
そのレオンが感極まっている。
「あ・・ああ、ああ・・ダメ・・僕もう、だめ、んん、んん、あああん。
いっちゃうう・・いっちゃううう、いい、いい、ああ、あ、あ、あ、ああああ」
おまけに、クロードの声まで
「あぁ。あぁ。レオン。いい。いいよ。あ、ああぁ」

「あ・・・・」
レナが可哀相なくらい真っ赤になってしまっていた。
シーンとなった隣と共に、レナもデイアスも黙りこくっている。
やがて。ぽつりと、
「レナはどう思う?」
「え?」
「俺には、幸せでたまんないって声にきこえる」
と、デイアスがいう。
「あ、うん」
「レナ。いつか、俺もお前をそう・・させてみたい」
「や・・・」
デイアスの言葉にレナが慌てて部屋の外に逃げ出していった。
「ぁ、アシュトン。なにしてんの?」
ドアを開けた所にアシュトンがへたり込んで
ドアの隙間からクロードたちの部屋を覗いていた。
が、驚いたのは、むしろレナよりアシュトンの方だったかもしれない。
レナ、いきなり出てくるのはないよ。
と、言いたいとこであろう。
が、立場上、そんな事を言えるわけもない。
「あ、え、あ、なんでもない」
アシュトンはそう言うと立ち上がってさっさと向こうに行った。
逃げ出したレナを
もう一度迎えに行かなければならなくなったデイアスが
ゆっくりとドアを開けるとレナがそこにいる。
訝しげに向こうを見ると、アシュトンの後姿がちらりとみえた。
「なるほど」
「あ・・それって・・・」
「レオンたちを覗いてたんだろ?」
「うん。あっ!私達も?」
「あの場所は見えやしないさ」
「でも」
「聞かれちまったろうな」
「あ、やだ・・」
「困ったもんだな」
レナの肩を抱くと、もう一度、デイアスは部屋に入った。
「・・・・」
「気にするな」
「だって・・・」
「その内、やめるさ」
「そ、そんな。それまで、いつ覗かれてるか。いつ、聞かれてるかって・・」
「ふ」
軽くデイアスが笑うのでレナも自分の言った事に気がついた。
「あ・・・」
「させてくれる気でいるんだな・・」
「あ、やだ・・・」
俯いたレナの肩をデイアスは
しっかりと引き寄せてソフアーに座り込んだ。
「ん?いいんだろ?」
「・・・・」
「抱いてくれって言わないんだな」
レナがそっとデイアスの耳もとの口を寄せていった。
いったい、レナがなんと言ったのかは残念な事に
デイアスだけの秘密ということなのである。

レオンのほうがもたなくてあっさり登り詰めてしまった。
クロードもそのレオンの顔をあきもせず眺めていたが、
「レオン。ちょっとデイアスんとこいってくる」
「ん、ん」
さすがに汗が纏わりついている。
さっと汗を流していったほうがいい。
シャワーを浴び出すとレオンもおきだしてきた。
二人でじゃれ合いながら入っていれば
どれだけ早くても
デイアスたちの邪魔をしないで済むくらいの時間はかかることだろう。
それから、随分たって、
クロードが隣の部屋をノックした。
ドアが開くと顔を覗かせたデイアスが苦笑している。
デイアスにもクロードたちが4回目だって事は判ってる。
「なんだ?しかし・・・よく、あきないな?」
「あ、え」
「おまけに強い」
「あの。あの。今。いい?」
「俺も話がある。下、いくか?」
「ああ」
「レナ。待ってろ」
奥にレナがいるのは、当り前だった。
クロードもちょっと配慮がかけていたかもしれない。
「あ、え、ああ。ごめん」
「いいさ」
「あ、よくないよ。あ、あとでいいよ」
「かまわない。そのあともずううと、一緒だ。あとで、なんて、ないんだ」
「あ、あ、あそ」
デイアスのけれんみのない態度にクロードのほうが、
たじろいでしまっている。

カフエでコーヒーを受取ると
ホテルの建物で影ができているテラスに二人ででた。
適当な椅子に座るとコーヒーのグラスをテーブルに置いた。
「あ、あの、話って?」
「おまえのほうから、言えばいい」
「ん。アシュトンのことなんだ」
「やっぱり・・・」
「ひょっとしてデイアスも?」
「ああ。やられた」
「ええ!?ああ・・・レナ。可哀想に」
「お前らみたいにみられたわけじゃないがな」
「え?」
「お前ら、窓際のベッド、使っているだろ?」
「え?うん」
「ドアの下から見えるって事に気がつかなかったのか?」
「はあああ?」
「そういうことだ」
「あ、ああ。と、いったって、
もう、みられちゃったの、取り返せやしないし・・・」
「どうしたものかな」
「前のときにも注意はしてあるんだ」
「前?ああ。水車小屋のときか」
「やだな。覚えてるんだ」
「俺も、お前らのあとこそこそついて行くのみつけてな。
現場、押えてるんだが・・・どうも、こりてない」
「え?」
「朝。浜辺歩いていったろ?」
「あ、それも?」
「御かげでこっちまで覗きやってるような気分になる」
「てっ、それ、デイアスもみてたってこと?」
「成り行き上な」
「・・・・」
「怒るなよ。クロード」
「仕方ないか。いっそ、ぶん殴ってやろうかって、思ったんだ。でも・・」
「それでも、やめないだろな」
「うん。そう、思う」
「なお影でこそこそ、たちまわるだけだな」
「自分が同じ事やられてみなきゃ、判んないんだ。
でも、プリシスとは全然そういう風にさえもなりそうにもないし」
「そのあたりかな?」
「え?」
「自分もプリシスとそうなりたい。
でも現実にプリシスを口説く事さえ考えつかない」
「それって、ようは、欲求不満?」
「だろうな。アシュトンもそんなこと、繰り返していりゃ、そのうち、いやでもプリシスに向けなきゃどうにもなんない自分の思いに気がつくだろう?」
「それまで、まてと?」
「ああ」
「あの、鈍ちんのアシュトンがそこに気がつくと思う?」
「・・・・だな」
「はああ」
「別にきかれるくらいなら、俺はいいんだが。レナはそうもいくまい?」
「同じ。レオンも泣き出すは、怒るは。やっと、宥めたとこ」
「なるほど。それも、似たようなとこか。ま、御かげで二回目が、巡ってきたけど」
クロードが、飲みかけていたコーヒーを吹き出した。
「た、デイアス。なんか、貴方。随分、人がかわったんじゃない?」
「かもしれない」
なんだか。デイアスの頬が薄っすら染まった様にみえた。
「やっとだもんね」
クロードは独り言のつもりだった。
だがそれにさえ、デイアスが大真面目に本心を暴露する。
「ああ。やっと、手にいれたんだ」
「あ、あ、ああ。そ・・(だめ。やってらんない。のろけ地獄に引きずり落とされない内にかえろ)」
コーヒーを飲み干すとクロードは立ち上がった。
「デイアスもかえろ。レナがまってるよ。
アシュトンの事はとにかく気をつけるよ」
「そうだな」
レナがぽつねんと一人でいたのだけど、思いきってレオンの部屋をたずねた。
「レオン。いい?」
「あ、いいよ。はいって」
「ん。あのね」
「なに?」
「あ、あの」
「ん?なに?」
「あ、あの・・・レオン。あのね。あのね。あんな声どうやってだすの?」
立て板に水のごとき勢いで聞かねば聞けることではない。
だが、聞かれたレオンのほうが・・・
「レナアーー?!」
驚いたのは、無論のことである。
「あ、あ、あ、あ。御免なさい。あ、私。どうかしてる」
うろたえるレナが少し涙ぐんでいるのにレオンはきがついた。
レオンにはレナがそんな事切り出した気持ちが見えた気がした。
レオンの声を幸せそうだといったデイアスのことを、
とうのデイアスの恋人であるレナ自身が
デイアスを幸せな気分に浸りこませてあげたくなっているのに違いない。
「レナ。泣かないで。デイアスの事、好きでたまんないんだね」
「あ・・」
「でしょ?」
「うん」
「レナ。わざとそんな声出したってデイアスも、喜ばないよ」
「そ・・そうだけど」
「デイアスの為に早くそうなりたいってこと?」
「あ」
「レナ。その気持ちがデイアスには一番、嬉しい事じゃないのかな?」
「あ。うん」
「だったら、それだけ。
大好きっていつも、いつも、思ってれば、自然とそうなっちゃうよ」
「あ、レオン。そうだった?」
「うん」
「そっか・・」
「レナ。綺麗になってるよ」
「え?」
「デイアスが好きなんだって。それが、レナを綺麗にしてるんだ。
ね、そんなのと同じ。
自分の気がつかない所でどんどんかわってゆくんだ」
「ん・・・」
「あれ?帰って来たみたいだ」
クロードの事となると耳敏いレオンなのである。
微かな話し声が聞こえて来たので
レオンの言う通りなのがレナにも判った。
「あ、じゃ。あたしもかえる」
「ん。ごゆっくり」
「ア。ええ。そうね。レオン」

クロードが部屋に入って来るとドアの所に屈み込んで
ドアの隙間をみてる。
「なにしてんの?」
「あのさ。アシュトンも悪いよ。
でも、そんなの判ってて覗かせてんの。僕等だよ」
「ん?なに?」
「ここの隙間からそっちのベッド。みえるんだ」
「え?」
レオンの目線がドアの隙間から線を引く様にベッドまで、すべってゆくと
「あ。ほんとだ」
「だろ。そこに気をつけてない僕らに落ち度がないわけじゃない」
「うん」
「けど、きこえちゃうのは、どうしょうもない」
「あ、あ。その事?あ、もう。それ。僕、どうでもいい」
レオンの返事に拍子抜けした顔でクロードがレオンをみた。
「なんだよ?」
「うん。あのさ。さっきレナがきてたんだ。それで、どうでもよくなっちゃった」
「わ、判んないよ。なんで、レナでどうでもよくなっちゃう訳?」
「うん。わかったんだ」
「なにがだよ」
「あは。僕の声。幸せそうなんだよ」
「いったじゃん。それ」
「うん。でも。レナがうらやましくなるくらいっていうのは、初耳でしょ?」
「あ。そういうこと・・・」
「そ、で。僕も考えたね」
「なんか不気味な顔してるよ。レオン」
「うふふふふ」
「なんだよ。気味悪い・・・」
「と、言う事は、それを聞いているアシュトンは、
逆にその内自分がどうしょうもなく、
不幸だってことに、きがついてゆくんだ」
確かにレオンの言うとおりかもしれない。
デイアスの場合はレナがいるからこそ
逆に手放しで幸せそうだっていえるんだろう。
何処かで俺たちもそうなるって、気持ちもある。
でも、アシュトンの今の状況は二人の幸せ振りをきけば聞く程、
いずれには、淋しくなってゆくだけなのかもしれない。
「きくならきくがいい。
アシュトン、おまえには地獄への引導をわたしてやる」
芝居がかってふざけてるレオンが
なんか、ひどく、恐ろしくみえるのは気のせいだろうか?
「はい?」
「レオンがきにしないなら、いいや」
「んふ。思いきり、大声だしてやる」
「レ、レオン」
「やだな。冗談だよ」
「あ、そうじゃなくて・・・」
「なに?」
「あ。それって一瞬。5回目を要求されてんのかと、思って・・・」
「あ、わるくないね」
「嘘だろ!?レオン」
「やだな。冗談だって、クロード、まじなんだから・・・」
ほっと、胸を撫で下ろすクロードである。
「なんか。やな、態度」
「ああん。そうじゃないよ。レオンにはいつでも、してあげたい」
「わかってるって・・・」
「うん。でも、おまえ。だめ」
「え?なに、それ?」
「お前。絶対、僕をいかしちゃうから!僕もう、もたない。へとへと」
「あ、なるほど。クロードをいかせなきゃいいんだ」
「レ、レオン」
「嘘だよ。僕もクロードのその時の声。好きだよ」
「はい?」
「それに、やっぱ。その方がいい。クロードがいいのが一番いい」
「ン。レオン」
それから、二人でソフアーでごろごろして、
いい加減お腹が空いて、夕食食べにいって、
なんか、今日は草臥れたねって。
当り前だろ。レオンって。
それから、べッドを忘れずに壁際の方にして。
もう、ねようって。
なのに、目が覚めたのは、明け方だった。
昨日。あんまり早く寝てしまったからとんでもなく早くに
目が覚めてしまったのだ。
が、とんでもなく早く目がさめたのはクロードだけでなかった。
ぐっすり寝入っているレオンの横で
クロードは始末に追えない自分のものに語り始めた。
「ああ、あ。クロード君。君は何て、早起きなんだろ。
おまけに昨日の4回を物ともしないその回復力。
僕はどう、君に敬意をあらわせばいい?」
「ん、んん。うるさいよ」
「きいたか?うるさいだって」
「うううん」
「失礼だよな。だいたい、君を酷使していい思いしてんのは、どっちかって言うとレオンのほうじゃないか」
「ああ、もう・・・うるさいなあ」
「ふん。どっちが、うるさいんだか」
「もう、さっきからなに一人でごちゃごちゃいってんだよ」
「ひとりじゃないよーんだ」
「なに、いってんの?しずかにしてよ」
「はい。はい。御望み通り静かにさせますよーだ」
クロードはそうすることにした。
「あ、や、クロード。もう・・・いいよ。僕・・・」
「だめ。もう、修まんないの!!犯しちゃうんだから」
などと馬鹿を言って馬鹿をやってる、
とうのお二人さんより、まいっているのが隣の部屋の男だった。
『チキショウ。目がさめちまった』
ぼんやりベッドに起き上がってデイアスは横に寝ているレナをみている。
『俺もやっちまおうか?』
って、馬鹿いってんじゃないぜ。
そう思いながらデイアスはそっとレナの髪をなであげた。
「ン。ン?ア・・デイアス。どうしたの?」
柔らげに撫で上げたつもりだったのにレナを起こしてしまった。
「ん。ちょっとな・・」
「あ・・・目が醒めちゃったんだね」
漏れてくるレオンの声にレナも気がついたようだった。
「ったく。始末におけない」
「あは。いいじゃない。
又しばらくは、ゆっくりできないんだもの。むりないよ」
「始末におけないのは、やつらじゃない」
「え?」
「俺」
「あ・・・」
「レナ。ダカセロ」
「え」
レナの返事は、なかったなような気がするが、
この際そんな些細な事にこだわるのは、やぼなようである。
一番鋭い所への愛撫にまけて
漏れ出しそうな声を抑えていたレナの手を
口元から引き離してデイアスが掴んだ。
レナの抑え切れない声が覆われる事なく、漏れ出してゆく。
その声がベリー・セクシーなのはいうまでもない。

朝早くから・・いい加減うんざりするほどのシーンを
期待してやっぱりアシュトンは廊下で寝ずの番のようであった。
漏れてくる声にドアの隙間をのぞいてみた。
「ありゃ・・みえないや」
レオン達はベッドを替えてる。
たぶんこっちもみえないって、判ってながら、
やっぱりアシュトンはレナ達の部屋を確かめてみる。
見えるわけがない。
「やっぱ。ま、いいか」
二つの部屋のドアの間に背を凭せ掛けて
アシュトンも静かな楽しみに浸り込んでいる。
「あは・・でも、なんか、惨めな気もしないでもないな。
ありゃ?レナ、超色っぽい声になってんじゃん。んふ」
ゆっくり目を閉じてアシュトンはききいっている。
夏だからよいようなもので冬の寒さの中だったら
毛布の1つも持っていってやりたくなるようなアシュトンの努力と執念を今はお見事と言ってやりたい。
『ああー。いいなああ』
アシュトンの側に一緒に座り込んだ者がいるのにさえ気がつかないほどアシュトンは没頭している。
「あら!?レナも・・デイアスとそうなっちゃったわけ?」
レナの声に気がついたプリシスがアシュトンに尋ねる。
「云。そうなんだ。おまけに昨日よりもっといい。
たああああ。プリシスーーー」
「なに。おどろいてんのよ。きがつかれちゃうよ」
「あ、え、あ」
「ねえ。アシュトン。そんな事してて、楽しい?」
「えっ?」
「アシュトンなんか、変だよ。だいぶ前から気がついてたけど。
二人のあとつけまわしてばっかいたでしょ?」
「あ、うん。あの・・・僕・・・」
「どうしたの?なんか情けない顔になっちゃったよ」
「あ、あの、僕の事、笑わない?」
「いいわよ。きいてあげる。いってごらんなさいよ」
「あ、あの、あんな事(プリシスと)したいなあーって。
うらやましくて、いいな。いいなって」
「あ、やだ。泣かないでよ。アシュトン」
「だって。みっともないよね」
「ううん。そんな事ないよ。アシュトンも男の子なんだ」
「う・・・」
「もう、泣かないでよ。うーーん。私がしてあげよっか?」
「え、あ、あ、あ、あの、え、ええ?」
「冗談よ。アシュトン」
「だよね。プリシスが僕の事好きなわけないもんね」
―― そうでもないかも。なんか、可愛くなっちゃうのよね。この人 ―
「アシュトン。手、ぐらいならつないであげてもいいわよ」
「えっ、えっ。本当?本当に本当?」
「うん」
「わ、ヤッホー」
(嬉しそう。そんな事くらいで喜んじゃって。
やっぱ・・・アシュトン。可愛い)

それ以来アシュトンの覗きはパッタリとおさまった。
代わりにプリシスと手を繋いで歩くアシュトンをちょくちょく見かけるようになった。

「ね・・・プリシス。あの、手だけじゃなくて。
あの、プリシスにチュッてしちゃいけない?」
途端にパッチイーンって音がアシュトンのホッペでなる。
「あまーい。アシュトン。そんな事したら、もう手も、つないであげない」
「あ、ごめん。しない。しない。もう。言わない。ふうー」
なんだか、ひどく淋しそうでもある。
(う―ん。いつまでも、おあづけしといたら、
又、覗きが再発するかもしんないなあ)
乱暴なことする人じゃないから、覗きなんて、そんな事しちゃうんだよね。
プリシスのことだって、そうなんだ。
プリシスもそこの所は良く判っている。
「アシュトン」
「ん?」
振り向いたアシュトンのホッペにプリシスが小さなキスをあげた。
「あ」
「んふ」
「あ、ああああ―。感激ぃぃ―――」
(ありゃ。そこまで:喜ばれちゃうと、なんか、あたしも切ないじゃない)
「ね・・・」
そういって、プリシスがアシュトンをじっとみつめる。
プリシスをみているアシュトンの瞳が釘付けになった。
プリシスが、そううっと瞳を閉じながら
「一回だけよ」
って、いった。
いくら鈍ちんのアシュトンでも、それがキスの許可だって事は判る。
アシュトンは、そっと、プリシスの唇にキスした。
それから、ゆっくり唇をはなしてアシュトンは
大好きなプリシスの顔をみた。
まだ、目を瞑ったまんまのプリシス。
「あの?もう一回してもいい?」
どうして、女の子にそんなこときいちゃうのだろうか
と、思うのだけど、聞かれたプリシスは
「だめ」
と、一言で断わってしまった。
「エー―。そんなあー」
アシュトンもたいへんなのである。
(ちえっ。黙ってすりゃ、よかったかな。でも・・できない・・よ)
仕方がない。
アシュトンは別な方法でプリシスに
胸の中の切ない恋を伝えるしかない。
「プリシス」
「うん?」
「好きだよ」
「わかってるって」
その返事は幾分か手応えが薄いけど、
それでも、アシュトンはめげずに尋ね返した。
「プリシスは?僕のこと・・好き?」
「うーーん。どうしょうかなあ」
「え、教えてくんないの?」
(キスしてあげても、まだ、判んないのかしら?もう、鈍ちんなんだから)
「どうしょうかなあ」
プリシスは少し考えていた。
不安そうなアシュトンの声がしてくる。
「あの、どうしょうって、どうするの?」
「もう、一回キスしてくれたら、教えて上げる」
「ほんとう?教えてくれる?ああ。それって、良い事の方だよね?」
「さあ?」
「ええー。怖いなあ。聞きたいけど、聞きたくないな・・でも・・」

プリシスは、しっかり目をつぶった。

―― 早くしなさい。この鈍ちんのアシュトン。――

【good・bye】

セクシュアル・モーメント3

「はあー」
なんだかすごいため息。
一体、誰って?
そんなこときかなくとも、すぐ、わかるよ。
だって、それを一番気にする人がすぐそばにいるんだもの。

デイアスの大きなため息にレナが顔をあげた。
「どうしたの?」
レナを抱きしめてるって言うのに・・・・。
デイアスに何の不足があるんだろうか?
「いや・・」
デイアスは少しいいしぶっていた。
「なによ?きになるじゃない」
デイアスはもう少しレナをしっかり抱きしめると
「ずっと・・一緒にいたい」
って、いった。
「あ・・・」
レナが帰らなきゃなんない時間が近ずいている。
外泊なんかそう度々できるわけじゃない。
二人の交際は両親も周知の事であれば、
なおさら慎重に行動してゆかなきゃなんない。
「パーテイー組んで旅にでれるといいんだけどね」
「う・・ん」
レナに額を押し当ててはるかに上背がある男が甘えている。
「セリーヌのところもちょっと使いすぎてるし・・・」
「・・・・」
切なそうで寂し気なデイアスの横顔がレナの心に痛い。
「待って、て」
レナはデイアスの腕をすり抜けると
やっぱりセリーヌのところにコールを入れた。

「はい?」
って、セリーヌの声が受話器から聞こえる。
何度も何度もセリーヌにウソの片棒担ぎをさせるのも
なんだか、申し訳ないレナなのである。
「なんでございますの?」
レナが黙ってるのが何故であるかセリーヌもさっしがついてはいる。
でも、レナが言い出してこないものを、ほいほいと受けてやる気はない。
「あ、」
言わなきゃ始まらない。
レナの後ろでデイアスがなんだか心もとなく、一層寂しげである。
「あの・・」
デイアスにもレナが言いにくそうなのが胸にこたえるんだろ。
レナの後ろに寄ってくると
「レナ・・もう、いいよ」
って、いった。
そんなデイアスがなお切ない。
余計に一人にさせたくなくなる。
セリーヌに電話口の前での二人の会話がボソボソ聞こえてくる。
それは、例のアリバイ工作を頼みたいレナである事が
決定的になっているだけである。
『いやだなんていいませんことよ。
私に頼むのに、貴方が悪い事をしているみたいに、
引け目を感じてるのが気分がわるいだけでしてよ』
って、セリーヌがぶつぶつ考えてるとレナの声が受話器から響いた。
「あ。あの・・また、おねがいできる・・かな?」
「よろしくてよ」
「あ、じゃあ。今からそっちにいくね」
「はい。はい」
レナはわざわざ、セリーヌのところに行かなきゃなんない。
セリーヌのところから、家にコールをかけて
デイスプレイに
セリーヌのコールナンバーを表示させなければならないし、
「ちょっとセリーヌに代わって」
なんていわれたら困ることでもある。
「うん、あの・・いってくるね」
「あ」
デイアスがすまないって目をしている。
こんなにレナが恋しくて自分でもその気持ちをどうする事もできず、
ふがいなくも、寂しいなんてレナを引き止めてしまってる。
「ううん」
レナは小さく首を振ると、外に駆け出して行った。
え?デイアスがついていってやんないのかって?
だって、このまえもね。デイアスはレナにそういったんだよ。
でもね、
「それで、二人でセリーヌのところから帰ってくるのを、
誰かに見られて、父さん達の耳にはいったら?」
って。
だからレナが一人で行くってことになってるんだ。
でも、デイアスもいい加減
こそこそしてる気分に嫌気はさしているんだよ。
もう、一歩進めようって思いながら
どこかデイアスがふん切れないで居るのは
この間の妊娠誤解騒動のときのせい。
レナには結婚なんてまだ早いかなって思ったせいなんだ。
でも。そこら辺の約束をもういい加減はっきりさせて、
ぞくに言う結婚前提の交際って事になれば
もう少しおおっぴらに・・あは、それこそ。
デイアスん家へのお泊りも
暗黙の公認って事にもなれるかもしれないんだけど。
でも、レナが本当にいいっていうだろうか?
気持ちだけじゃない。
形として一歩前進する。
もう、ひきかえすことができない。
『レナ、俺でいいよな?』
まあ、なんで、恋する男はこんなに気弱になっちゃうんでしょうねえ。

レナのノックの音に
「ドアは開けてございますわよ」
と、言いながらもセリーヌ自らドアを開いてレナを招き入れてくれた。
「あ、あの、ごめん」
小さくなってるレナの顔には、
早くデイアスのところに引き返したいってかいてある。
デイアスのことが本当に好きでしょうがない。
そんな子にコッチの文句を言ってみてもはじまりゃしない。
呆れたようなため息をつきながらセリーヌがいった。
「まったく、そんなに一緒に居たいなら
さっさと一緒になっちゃったら?」
「う・・うん」
なんだか、口ごもった返事にセリーヌはレナを振り返った。
「何でございますの?妙に・・」
「あの・・もう、そういう約束なの」
セリーヌにしちゃ、おおマヌケな事をいったかもしれない。
「は?はいはい。ごちそうさまでございますこと」
だったら、晴れて、その日を迎えれる日まで、
秘密のランデブーのキューピッド役にあまんじるしかないかもしれない。
でも?
セリーヌは気が付いた事をレナに尋ねる事にした。
「ねえ?」
「はい?」
「それって、まだ二人だけの約束?」
「あ。うん」
「あの。俗っぽい事かもしれませんことよ。
でも、もうはっきりと婚約ってことにしたら、
あの・・・こんな風に私をだしにしなくても
よくなることじゃございませんこと?」
「あ、ごめん」
「いえ。そうじゃありませんのよ。
私をだしにされるのがいやで、こんなことをいってるんじゃなくて」
堂々としていられる手段があるだろうに、デイアスが何故そうしないんだろ?レナが何故そうしないんだろ?
ましてや一緒になる約束をしてるというのに・・。
セリーヌの単なる疑問でしかない。
レナが例えば、「デイアスが両親に言いに来てくれるのを待ってるの」
とでも、答えれば
それでまた、はーん。ご馳走様で済んだ話だったんだ。
なのに、レナが自分の迷いを露呈している。
「え?あなた?」
そう、別にレナが待たなくてもデイアスのことだもの、
きっと率先して動き出すに決ってる。
で、なくたって、レナがさっさとデイアスを連れて
結婚するって両親に宣言しにいきそうなものである。
もちろんデイアスに不足があるわけがない。
今頃、エンゲージリングがはまっていてもおかしくないだろうに。
何故?デイアスが動かない?
セリーヌはレナを見つめたまま考えていた。
「なるほどね」
その疑問の答えが今のレナの顔である。
何かにまよいがある。
デイアスは人の気持ちに聡い。
レナの雰囲気で何かを感じ取って、
もう一歩進めることに躊躇させられてる。
ずばり。その通り。
セリーヌの観察通りなのである。
「ふーん」
エンゲージブルーというのがあることは、セリーヌも知っている。
この人でいいんだろうか?とか、
私でいいんだろうか?とか、
大きく人生がかわるわけだし、
変えちゃっていいんだろうか?
結婚しなきゃなんないんだろうか?とか?
二人の土台の結びつきから不安になって
迷ってしまう事があるのはきいたことはある。
でも、今も、こうやってデイアスの傍に居たくて仕方ないレナが
何を迷う事があるんだろ?
デイアスに恋をしていた幼い少女が、成長するにつれ
性を恐れ、デイアスが男性であることから逃げて
一時はクロードにきがうつっていたようだけど、
今はそのデイアスの何もかもを受け止められるくらいになってる。
そんなレナがなんで?
「あ?」
セリーヌは二人の恋の過程を思い起こしていたんだけど、
はっとしたんだ。
「あなた?」
「なに?」
「いえ。今更、聞く事じゃないって、怒られそうですけど。
クロードのこと本当にもう、いいのね?」
レナの迷いは一つにそういうことかもしれない。
確かめるように探るように問い直した突然の言葉に
レナが「なに?それ?」と笑い飛ばしてくれる事を祈りながら
セリーヌはレナにたずねてみた。
が、レナの顔つきが変わった。
もう、忘れてた事でしかないってくらい、
レナにとっても突然な質問でもないようだった。
そして、レナの答えはこうだったんだ。
「え?だって、レオンがいるのに」
ちょっと、まって。レナ。
それはレオンがいるから諦めてるというだけで
依然としてレナの中にはクロードへの思いがあるっていう意味?
「レナ・・。それは答えになってません事よ。
いいですわ、質問を変えましてよ。
つまり、そうですわね。レオンがいなかったら?
ううん。もっといえば、
クロードがレナの事を好きだっていいだしたら?」
「え?」
レナの顔がどきりとしてる。
「あ、あの、ク、クロードがそんなことをいったわけ?」
レナ?それをどこかで期待してるってことなわけ?
「呆れた。貴方。まだ、クロードのことを?」
レナは慌ててかぶりを振った。
「あ、違うのよ。そうじゃなくて・・・」
どう、説明すればいいんだろ?
説明する言葉をまとめようとしているレナに
セリーヌは小さくため息を付いた。
「いいわよ。わからなくはないのよ」
「え?」
「つまり・・未練なんでしょ?」
「あ?・・・うん」
「でしょうね。何も言えず
一方的にあきらめることになってしまったんですものね。
判りましてよ。」
「う・・ん」
「言っちゃえばすっきりしてしまう事が胸の中にのこってる。
そんなかんじでしょ?」
「そういうことだよね?」
レナ自身もはっきり掴んでないもやもやした気持ちのようである。
「ふーん。それがデイアスとさっさと一緒になれないわけ、ですのね」
「・・・」
拘りもあった。
セックスが汚い。
怖い事のように思ってたのに
デイアスによってあっさりと自分が開かれてしまった。
それは同時にクロードに対して拘った物も
取るに足りないことになってしまってる。
「デイアスと一線越えちゃったら
クロードに対する恐れみたいな物も同時になくなって、
クロードに対する思いだけが昇華できずのこっちゃったってわけね?」
確かにセリーヌの言う通りなのだ。
「クロードを吹っ切れたのが、
クロードを汚いって思えたからなんだよね。
でも、そうじゃないんだってわかったら・・・」
セリーヌは苦笑してる。
「吹っ切れた理由がなくなってるっていうわけですのね?」
「う、うん」
「で、デイアスの事は十分にすきなんだろうけど、
ひょっとしたらもっと別の道もあるんじゃないかって?
本当にデイアスにきめていいのかな?って?」
「ぅ・・ん。そんなかんじかな」
「エンゲージブルーってやつでございますわね」
「うん。だって、ほかにいやしないけど、
ずううと一生デイアスと居るんだって・・・。
今ここで決定しちゃうんでしょ?
私一つの返事次第でそんなに簡単に・・決っちゃうものなのかなって」
「でも、すきなんでしょ?」
「あ、うん。もちろんよ。いつかは、やっぱりデイアスと、って思う」
「いつか・・かあ。今って言うのが、今って言う決定がこわいんだね?」
「うん。いまひとつ・・ふみきれない」
『その踏み切れない理由がクロードへの未練って訳かあ』
「ねえ。」
「なに?」
明るい瞳をくるくるさせてセリーヌがレナを覗き込んでいる。
「ねえ。クロードにはっきり告白してしっかりふられてきたら?」
「え?まさか。それに私そんな気持ちじゃないもの」
「そう?」
くすぶった未練なんかを大事に抱えてるほうが
よほど精神衛生に悪い気がするんだけど、
でも、こんなことは無理強いする事じゃない。
いい提案なんだけどなあって思いながら
セリーヌはやっとレナの家にアリバイ工作の電話を入れ始めた。

やっと、デイアスの元に返ってきたレナである。
「帰って来いって言われたんだろうって思ってた」
レナを引き寄せデイアスはレナの頬に自分の頬を寄せた。
「ううん。セリーヌと少し話してたの。
それから母さんに用事をたのまれちゃって」
「用事?」
「うん」
「なんて?」
なんて?って、デイアス!ほんとにその用事を聞きたいなら
レナのうなじをなめるのはやめなさいって・・・
「あ・・」
ほら。見なさい。
レナの頭の中は早くデイアスと一つになりたいって
そのことばっかしになっちゃったじゃない。
軽く、筋が張っているレナの項は
戦闘に向けて鍛錬されているせいなんだけど、
少々のモンスターの打撃さえ物ともしないその首筋が
デイアスの舌の動きにとろけだしてしまうのは本と、
いったいどういう構造になっているのだろうか?
「デイアス・・い・・や」
「いや・・?」
「あ・・いや」
「ん?」
レナの快感に抗う声にデイアスはますますレナをせめてしまう。
「ここも・・いや?」
胸に手を伸ばされもみし抱かれ胸の先をつまみあげられて、
レナは苦しい声をあげた。
「ああああ・・・や」
どんなに抗ってもデイアスの一つ一つの動きに喘いでしまうレナがいる。
「ここも?」
レナの両足の中心にあるデルタ地帯。
デイアスの指が遠慮なくうごめく。
「や・・や、や、いや・・ああ」
レナの滴りを感じ取るとデイアスはデイアス自身をレナに与え始める。
「ああああああああ」
と、いうあまりに切なく色っぽい声なわけで、
これ以上うまく実況中継はできそうもなくなってしまったので、
一時中断して、ゆっくり二人の時間に浸って貰うことにしましょう。

ゆっくりベッドに寝そべっってるデイアスのその腕の中にはレナがいる。
そっと、寝返りを打ってデイアスの顔を覗き込んだレナを
デイアスが満足そうにみつめている。
「レナ」
「ん」
「夢みたいだ」
「え?」
「こんな風にレナがそばにいてくれる。でも」
「ん?」
「それがふいにこわれちまうんじゃないかって」
デイアスの過去がデイアスを今も苦しめている。
「ば、馬鹿ね。何いってんのよ」
突然幸せが崩れ去ってしまう恐怖心はデイアスの心に今も根深い。
それが怖くて誰にも心を開かなかったデイアス。
レナへの恋さえどこかで掴む事を恐れていたデイアスが
やっとつかんだ幸せなんだ。
なの・・。
『どこかでクロードと比べていたんだよね』
情けない気分を味わいながら、
レナはデイアスにしっかりだきしめられた。
「どこにも・・いくな」
「ん」
失う恐れを乗り越えたデイアスがレナを失ったら
今度こそデイアスは誰も愛せなくなるだろう。
重い心の傷みを持っているデイアスが
どれだけ真剣にレナをあいしているか。
『でも・・私、傷薬じゃない』
だけど・・・レナもそうかもしれない。
『私も同じ?クロードのことでの傷をデイアスにうめさせている?』
あああああ。たくっ。
なんでこんなに真摯に自分の心を計りなおさなきゃなんないんだ?
好き。
それだけでいいじゃないか?
そういいたくなってしまうよ。レナ!!
「おいで」
デイアスは腕を差し出した。
「うん」
硬くて 太い腕にはいくつかの傷跡がある。
でも、その腕の中に限りない優しさを秘めている人なのだ。
レナはデイアスの腕を枕に寄り添って眠った。

夜半にデイアスがふと目覚める。
悲しい習性が身に付いているデイアスだけど、
自分の腕の中の存在の重さを感じ取るとひどく心が安らいでくる。
『よく・・寝てる』
このままでいい。
レナがここにいる。
それだけでいい。
デイアスはベッドに起き上がるといとしい人を見つめた。
「おこすまい」
デイアスは首を振った。
目覚めた男の本能に逆らう事は出来ない。
ましてや、その本能を沸きあがせる当のレナがいるんだ。
『レナ』
レナの胸をはだけさせるとデイアスはそこに顔をうずめた。
「ん・・・」
快い感覚がレナを覚醒させる頃にはすっかり裸身のレナがいる。
「あ?」
己の姿に取り乱してしまうレナをゆっくり抱きしめると
デイアスはいった。
「きれいだよ」
って。
「恥ず・・か・・」
レナが最後までしゃべりきれないくらいデイアスに
きつくだきすくめられてしまう。
身動きできないほどにきつく抱き寄せられた隙間を縫って
デイアスの手がレナにふれてゆく。
「あいしてる」
なんどいわれても、頭がくらくらするくらい
うっとりする言葉にレナの身体の力がぬけてゆく。
「レナ・・おまえだけだ」
デイアスの愛を刻み付けるように、
レナに忘れる事の出来ないデイアスそのものを覚えこませるかのように、レナのひそやかな部分にデイアスの愛撫がくわえられてゆく。
「デイアス・・デイ・・アス」
レナの訴えがなにであるか懇切丁寧に説明する必要はないだろう。
明け方ちかくまで、
しなやかで美しい野獣が絡み合い、もつれ合い、ふかめあい。
たっぷりと甘い時間を分け与え、やがて深い眠りにおちていった。
「レナ?」
「ん?」
ドアを叩く音にデイアスが起き上がって服を着ながらレナに声をかけた。
「あ?なに?」
レナの耳にもノックの音が聞こえる。
ドアの外からレナを呼ぶ声も
「あ?セリーヌ?」
「だな」
なにかあったんだ。
慌ててレナは起き上がった。
ドアを開けるとセリーヌが
「早く・・おかあさんがきてるの」
「え?」
「近くのお店に買い物にいったってごまかしたんだけど
じゃあ、私が行くわって言うから、
私が迎えにいってきますからって
またせてるの・・ね。いそいで」
「うん」
二人が慌てて駆け出してゆくのを
デイアスはあっけにとられたまま、見送っていたけど・・・。
『もう・・やめよう』
こんなこそこそした状況をいつまでも続けいたくはない。
デイアスは決心すると二人の後をおった。

「あ、かあさん」
レナの姿を見ながら彼女はわらっている。
「もう・・・。わざわざいいっていったのに」
と、セリーヌを振り向いた。
「あ?なに?」
「あのね。急に出かける事になっちゃったの。
貴方、家の鍵もってなかったでしょ?わたしておこうっておもって」
「あ、それだけ?」
「そうよ。そしたら、買い物?
セリーヌに鍵を渡しておこうって思ったら、
迎えに行きますって止めるのも聞いてくれず
ほほ・・・すごい息ね」
「あ、うん」
「じゃあ。いくわね」
差し出された鍵を受取るとレナはポケットにいれた。
「ってことはおそくなるってことよね」
レナの質問に答えながら、向きを変えた彼女であるが
「そうね・・・あら?」
むこうから歩んでくるデイアスにきがついたのである。
「デイアスよ。レナ・・」
娘の恋人が現れた事に別段不可思議さも感じず
レナのことをからかうように声をかけたのである。
「あれ?どうしたのかな?」
「貴方を探しに来たんじゃないの?
家は留守だし・・・。またセリーヌの所だって、見当つけて。
ぅふふ。熱心でうらやましいわね」
と、レナの外泊先がセリーヌのところであると疑う気ひとつなく
娘を信じているのである。
「え?かなあ?」
なんて、そらとぼけてるレナの傍にやってきたデイアスに
彼女の方が先に声をかけた。
「まあ。デイアス。随分アサ早くからデートのおさそい?」
「いえ・・そうじゃなくて」
青年の瞳の色で何かを告げたいのが判ると
レナの母親は黙って彼の言葉をまつことにした。
「誘う必要なんか・・なくて・・あ・・」
「どうしたの?はなしてくれるんじゃなくって?」
デイアスの言葉が途切れたのを彼女は促した。
「あ・・・昨日から、ずっと、いっしょでした」
いきなり何の予備知識も与えず
デイアスは事の事実を並べ立てる事しか出来なかった。
「は?はい?」
「つまり・・あの・・」
青年がしどろもどろになって説明しようとしている事が何であるか。
しばらく、さっきのデイアスの言葉を
頭の中で繰り返してみたらわかることである。
「は・・あ、あ。ええ。あ、そう。あ、そういうことね」
そう。
青年が、
デイアスが、男である以上、そのことがどういうことであるか。
その気持ちが、やむにやまれない事であるのは理解できるのである。
が、
「だけど・・え?あの・・あなた・・それ・・」
娘に向かい合うと
その理解がいっぺんに粉々にくだけおちてゆくのである。
「え?貴方・・でも・・それは・・あ、あ?」
レナもこうなったら仕方ない。
「母さん。ごめん」
「ごめん。って・・あ。それって、デイアスとあの、一晩中一緒に?
あ。あ、それって」
「その通りよ。かあさん」
「え」
絶句。
「それに今日がはじめてじゃないわ」
「は・・」
「私。デイアスとのこと真剣にかんがえてるの」
なんていうシチュエーション。
あたふた取り乱してる母親を尻目にレナは啖呵を切った。
「だから、今日も家にはかえんない」
おーい。いきすぎだぜ。極端過ぎるせ。
おまけに、さっきまでクロードへの未練がどうのこうので
ふん切れないとか言ってたばかりじゃないのかよ?
どんな心境の変化なんだよ?
「あ、貴方・・貴方なにを・・」
「デイアスが決めた事についてゆく」
「あっ」
レナのまっすぐなまなざしに映りこんだ青年が小さく声を上げると、
レナの差し出した手を引き寄せ、
デイアスはレナを自分のほうにたぐりよせた。
母親の目の前であるというのに、
レナもデイアスに答えるかのように
デイアスの胸に身体をあずけていった。
突然、レナのはっきりとした意志と、
子供と思っていたレナが
いつの間にか一人の男性を愛する女性になってる事を
悟らされた母なのである。
「判ったわ。でも、お父さんはきびしいひとなんだから、
ちゃんと順を追わなきゃ・・ねえ?セリーヌ?」
どうやら娘のウソの片棒を担いでいたセリーヌであったと事も
理解できると、
かすかに皮肉を込めてセリーヌにもいってみたのである。
でも、いつの間にか・・・。
ネンネで子供子供していたレナが一人の女性になっている事に、
気が付かなかった自分がうかつだったと、苦笑いしながら
彼女はこっそりレナに耳打ちした。
「母さんも、父さんとよくそうしたわ。
でも、わが娘の事になると驚いちゃうものなのね」
レナの感情は女である自分が一番よくわかる事でもある。
『同じ・・・女同士になっちゃったのね』
同じラインにたった娘を一人の女性として見つめるしかない。
彼女が付いた小さなため息は、
もう、娘を手放す時期が、
青年にレナを託す時期が
来ていることへの、諦めと覚悟と
レナの掴んだ幸せをたたえる喜びが入り混じっていた。
「だったら、また、セリーヌの所に居る事にしておくしかないわね」
って、彼女はいった。
「あ、母さん・・・ありがとう」
「あ・・・近いうちに」
デイアスが父親の許しを得にくるといおうとしている。
「そうねがいましてよ。私まで
父さんにうそをつくのはこころぐるしいわ」

そして、3人が彼女の出かけて行くのを見送った。
黙って立ってるデイアスの頬が軽く上気している。
デイアスもひとつの到達に、新しい展開に、心が充足されている。
「ねえ」
お邪魔虫でしかないけど、セリーヌはレナを引っ張った。
「なに?」
「いきおいってやつですわね?」
って、セリーヌがレナに声を潜めて言った。
デイアスのこんなところはクロードにはないところなのである。
「レナ・・・。デイアスにはめられたわね」
そう、最初だって、こんなふうにデイアスの術にはまって
レナはデイアスのものになったんだ。
『絶対、手にいれられちゃう』
そのデイアスの情熱にがんじがらめにされることが
レナにとってはこの上もなく嬉しい。
『ほだされてしまったってわけね。
でも、それが一生続いてゆくってことですわよね』
セリーヌはレナをとりこにするデイアスの魅力
心の中でそう表現していたけど
「ねえ。しっかりデイアスにがんじがらめにされる前に
ちゃんとクロードの事けじめをつけてらっしゃいよ」
「うん」
レナは大きな深呼吸をした。
『クロードが好きでした。
ずーっと好きでした。
大好きでした。
でも、私デイアスのお嫁さんになります』
クロードに伝える事を胸にしまいこむとレナはデイアスの傍らに立った。
「レナ。かえろう」
無論。デイアスの部屋にである。
「うん」
もう一度レナはデイアスを見た。
一点の曇りもない清廉潔白なデイアスのレナへの思い。
その、デイアスに答えられる自分でありたい。
キレイさっぱり真っ白な心になってデイアスの前にたとう。
レナはそう思うと一刻も早く自分を変えてしまいたかった。
「ね。先にかえってて」
レナはデイアスにそういうと、走り出した。
「あ?」
突然、取り残されたデイアスは所在無さげにたたずむしかない。
デイアスの傍らによるとセリーヌはつぶやいた。
「あの子。自分からクロードにお別れをいいにいくのよ」
「あ、ああ」
あの日あのとき。レナとデイアスが変わった。
ずっとレナだけを一心に見ていたデイアスは
レナが選んだ相手さえ、レナが幸せならって受け容れようとしていた。
だけど、クロードの思いはレナにない。
そのことを知ったレナの悲しみごとデイアスはレナを受け止めた。
「わかっていたんでしょ?」
「ああ。レナが好きになるやつだ」
そうだよね。
レナはそんな簡単に自分をころころ変えられる器用な奴じゃない。
それでも、
心のそこのふん切れない思いを殺せたのは
レナがまたデイアスを真剣に愛し始めていたせいであるのもわかってる。
「あの子・・そんな自分がゆるせないのよ」
「うん」
「貴方だけの自分でありたいって・・・それだけでしてよ」
「わかってる」
デイアスはあの時、何もかも受け止めた。
レナのクロードへの思いも何もかも。
そして、大声を上げて泣くレナを精一杯つつんだ。
そして。レナがデイアスを振り向いた。
どんなにまったことだろう。
でもレナの愛情を確実な物に育てていったのも自分である。
だから、そんなことでゆらぎはしない。
デイアスの深い思いが瞳に漂うのを見ながらセリーヌは頷いた。
「レナにいわれたとおり、先に帰ってる」
「そうね」
デイアスはゆっくり歩き出した。
胸の中に真剣なまなざしのレナが浮かび上がる。
あの時クロードへの恋をレオンにゆずって、
デイアスの胸にすがってないたレナが、
今はその岐路さえなかった事にしようとしている。
そのレナの声が響く。
「デイアスだけなの」
『わかってる』
胸の中のレナをも抱きしめるかのようにデイアスは答える。
『俺も、おまえだけだ』

遠ざかってゆくデイアスにセリーヌが笑いかけた。
「ねえ。レナをおこっちゃだめよ」
無論である。それに、そんな気はないデイアスである。
「こんな時間にクロードの所に行ったらレナも大変なんだから」
「ん?」
「レオンがいるにきまってるでしょ?」
二人の時間を邪魔されて文句たらたらのレオン。
オマケにレナの発言にいいほど気分を害されて。
「あははは」
デイアスが笑う声をセリーヌは初めて聞いた気がした。

そして、レナである。
ピンポーン。ピンポーン。
って、何度もチャイムはからうちをくりかえしている。
「眠ってるんだろうか?」
ううん。そんなはずはない。
ドアの前に立って静かにしてると、レオンの声がきこえる。
無論。その声が特別な声であるのはレナにもわかってる。
だから、クロードが起きてるのは間違いないことなのだ。
レナは執拗にチャイムを押し続ける。
なのに、二人の時間を邪魔されたくないせいなのか、
夢中のあまり気が付かないのか、依然と部屋の主は応答してこない。
闇雲にピンポンラッシュを繰り返すレナの心のうち。
『もう、そんなこと、どうでもいいからはやく、でてらっしゃい。』
そう、そして、クロードに叩きつけるんだ。
レオンがどういおうが
レナの言葉に二人がどうもめようがしったこっちゃない。
『そんなこと、どうでもいいの。
もう、決めたの。
私の道はデイアスだけへのずっとむかしから続いてる、
長い長い一本道なの。寄り道、迷い道なんて誰にでもあることよ』
だからこそ、はっきり宣言する。
迷い道にしか過ぎない。
迷った事さえ心に悔いをさすほどデイアスがすき。
だからこそ、今すぐに言わなきゃなんない。
いって、デイアスに思い切り抱きとめられる自分になってしまいたい。
きれいに踏ん切りつけなきゃ駄目なくらい
デイアスが好き。
だから、クロード。
早くでてらっしゃいよ。

レナの浸透圧100パーセントの心が通じたのか
やっとクロードは気が付いた。
いや、正確には、やっとうるさいチャイムに出る気になった。
「あーーー?なに」
ドアを開けた途端。レナの爆発宣言。
「!!!!!!!!!!!」
目をいっぱい見開いてるクロードを後にレナは走り出した。
『ねえ。早く・・・・抱いて抱いて抱いて抱いて 』
デイアスにぶつける言葉がそれしかない。
『愛してるの。思い切り・・・ねえ、だから、だ・い・て』
恋人の思いがレナの中に飛び込んできて
レナをくるむより先に一時も早くデイアスの腕にくるまれたい。
デイアスの確実な腕の重みに答えたい。
レナは思いっきり走り出していた。
                     (おわり)


   エピローグ

「で、それってどういうことなわけ」
だめ。レオンが完璧に怒ってる。
「どうって?」
突然レナが言い出した言葉。
クロードだってさっぱり要領得ない。
「は?とぼけるわけ?」
とぼけるも何も、クロードにとって、晴天の霹靂でしかない。
「と?とぼける?」
「はー?何もなくてこんな時間にわざわざ、僕らの時間を
わざわざ邪魔してレナがあんなこと
言いに来てしまうような気持ちになる?へえええ?」
「あ。何。それ?僕をうたぐってるわけ?」
「疑りたくもなるよ」
ああああ。ちょー、まずうーーー。
「だいいち、」
判ってる。なんにせよ。ステラの事でレオンを裏切ってる。
その事がむし返されるんだ。
「レオン」
そんなこと、もう言わないでよってクロードの悲しい瞳。
「だって」
「・・・」
クロードが悲しいくらいに頭をたれている。
「だって、こんなにやかせなくたっていいじゃない」
狂おしい嫉妬がレオンを包んでしまうのも仕方ないことなんだ。
レオンの腕がクロードにのびてゆく。
「苦しいんだ。クロード。こんな気持ち。君にわかる?」
「ん」
「クロードの馬鹿、大嫌い・・だ」
「ん」
大嫌いだというレオンの言葉と反比例するよなレオンの気持ち。
「馬鹿。僕はレオンだけのもんだよ」
「ん」
レオンの手がクロードの手に導かれ、クロードの物をつかまされてゆく。
「ほら・・・こんなにレオンがほしい」

あああああああああ。やってらんない!!
結局こいつらの揉め事ってのは
お互いを確認するための起爆剤にしかなんない。
それをいちいち心配してちゃ、こっちのみがもたないぜ。
ほら・・・はじまった。
「レオン・・きもちいい?」
「あ・・んんん」
「誰のせいで?」
「あ、あ、あ、ク、クロードだもの」
「うふ・・ぬいちゃおうかな?」
「やん。ねえ・・」
「どう?」
「や。クロードをかんじ・・て・たい」
「ん」
またしてもクロードがレオンの望むままレオンをかわいがっちゃうんだ。

きっと、二人の揉め事?
二人の愛の確認作業?を引き起こさせた当のレナも今頃、
デイアスにかわいがられちゃってるんだろう。

ちょっとしたデイアスの嫉妬が
レナの鋭い場所をひどく執拗に愛撫させてる。
「おねが・・い。もう・・だめ・・ね・・ね?」
って、レナがデイアスに何をお願いしてるのか定かじゃないけど、
デイアスはむごいくらいにレナを喘がせる指の動きを
止めようとしないままその鋭角で感受性の高い
その部分に顔を寄せていった。
「ああああああああああああああああああああああああ」
可愛いレナ。
そして、可哀想なレナ。
これで一層デイアスにがんじがらめ。

セクシュアル・モーメント2

「で?」
レオンがプリシスに掴まってる。
なんの用事?と言う前にレオンの顔を見てやって欲しい。
困ってしまってるレオンの顔は、
なんで、僕にそんなこと聞かなきゃなんないのっていってる。
レオンの困ってるのなんてお構いなしに
さらにプリシスは訊ねてる。
「ねえ。レオンなら知ってるでしょ?そうに決ってるじゃない」
「僕・・・」
「ね。教えて」
そんなこといったって・・・。
レオンが困るのも無理はない。
プリシスったらレオンに上手なHの仕方っていうのを
ご教授願ってるんだ。
「だから、ひとそれぞれで・・・。
プリシスはプリシスのやりかたでいいじゃない」
「でしょ?それぞれだから・・
だから、レオンの場合を教えてっていってるんじゃない。
なにも、レナがどうかってのをレオンにきいてるわけじゃないのよ。
レオンのことを聞いてるのになんで、こたえられないわけ?」
何か、すごい理屈だなって思いながら、
どうやれば、プリシスの質問から逃げれるかをレオンは考えている。
「で・・どうなのよ」
どうにも、話がそれない。
「・・・」
黙り込んだレオンにプリシスはいう。
「けちね」
そ、そんな言葉あり?
なんだっていうんだよ?
レベルの低い喧嘩になりかけてる。
だけど。アシュトンのためにすっかり変わっていこう
としてるプリシスの気持ちはよく判る。
レオンは一つだけ、教えてあげる事にした。
「そ・・そうなの?」
どうやって口でするかって事じゃなくて
余ってる手をどう駆使するかって事をレオンは教えた。
「そうやって・・おいて・・指を」
「ひ?」
ちょっと待って、レオン。
それは自分がそうされたいって事じゃなくて?
レオンがクロードのその場所に指をいれちゃうの?
え?それで、クロードはうれしいわけ?
それって、クロードにも受けの資質があるってこと?
湧いてくる疑問を、プリシスが確かめようとしてる。
プリシスの中の精神構造の規律がぐにゃりと
曲がってゆく感覚を味わいながら、考えてしまう。
求めちゃう極限って相手をそこまで変化させちゃうもんなのだろうか?
「レオン。あの、それ、レオンのほうじゃなくてクロードに、なわけ?」
プリシスがもう一度確かめた言葉にレオンは短く
「馬鹿」
と、答えた。
『え?』
どっちなわけ?
でも、そんなことが判らないのかって言ってるレオンの一言に
プリシスの妙なプライドが逆撫でされて、
もう一度はっきりと聞くことに歯止めがかかってしまった。
『いずれにせよ。レオンは知らないことだけど、
アシュトンは受けでも、あるんだよね。だったら・・どっちにしろ』
そんな風にしてあげればアシュトンは喜ぶんだろうな。
でも、それって、アシュトンに
ボーマンとの事を思い出させてしまうだけじゃないんだろうか?
それこそ、其の部分の性質。
つまり受けへの欲求をアシュトンに
自覚させるだけになりゃあしないだろうか?
『とうのアシュトンはその部分への刺激がほしいんだろうか?』
問題の定義の基本はそこにある。
『もし・・そうなら・・してあげられるかな?』
場所が場所でもある。
そんなとこに指いれちゃう?
と、いったって、ボーマンに
もっと、すごい物を入れられちゃったわけであるアシュトンなのだし・・。
自分への不安と、
アシュトンへの不安と疑問をだかえこんでプリシスは黙り込んだ。
これ以上、そばにいたら何いわされるかわかりゃしない。
って、なもんで、とっくにレオンはプリシスの傍を逃げ出して、
さも深刻そうに顕微鏡を覗き込んで、
プリシスの質問をシャットアウトしている。
プリシスは傍らの椅子に無意識のうちに座ると
じっと何かを考え込んでいるようだった。

「おりよ?」
研究室のドアを開けたボーマンの目にプリシスの姿が飛び込んできた。
俺とはまだ、ツラあわせたくねえだろうな。
だから、よほどの用事じゃなけりゃ
ここにはこないだろうって思ってたプリシスがいる。
『何だよ?一人だよな?アシュトンとまた、喧嘩かよ?』
傍にアシュトンはいない。
何かあったんだろうか?
ボーマンの目はプリシスの表情を探り始めていた。
でも、ボーマンはほっと胸を撫でおろした。
『大丈夫だ。上手く、いってる』
ばら色に染まった頬。
明るい光のある瞳。
充たされてることに満足してる。
『ちえっ。だったら・・なんだよ』
自分にはもう相談なんかしてくれなくなったプリシスを
まじまじと見つめたボーマンだった。
『え?』
まじまじ見ているボーマンはきがついたこと息をのんだ。
『な、なんだよ?』
ボーマンをひどく驚かせるようななまめかしい女になってやがる。
『ほおーー』
どうやら、本当にアシュトンの子猫になりきっちまったようである。
ついつい、ボーマンは二人のその場面を想像しちまった。
足を広げろって言えばプリシスはそうするんだろ。
そして、あんなに拘ってたオーラルさえも、
百八十度変化しちまってアシュトンの物を
いとしげにほうばっちまうプリシスが見えてくる。
『へ?がきだ。がきだって思ってたら・・いつのまに。
え?アシュトン、おめえ・・やってくれるじゃねえかよ』
ボーマンの瞳はプリシスの首筋辺りを舐めるようになぞりみてしまう。
つーーっとなめるだけで声を上げてくずれおちてしまいそう。
『ふ―ん』
なんだかすっかりアシュトンに飼いならされ、
従順な女をさしだし、アシュトンに服従しきったプリシスなのである。
そのプリシスが
『え?やけにかわいいじゃねえかよ』
まだ、じっとプリシスを見つめてるボーマンはふと我に返った。
ばか、のぼせてんじゃねえぜ。
あれはアシュトンのものじゃねえかよ。
『ちくしょう。いとしくさせちめえやがって・・・』
プリシスにちっとばっかし、文句を呟くと
ボーマンは本来の目的を遂行する事にした。
「おい。レオン」
顕微鏡を覗き込んだままのレオンに声をかける。
「ん?」
レオンものぞきこんだままだけど、
声をかけた主がボーマンであることはわかってる。
「ここにおいとくからな」
ボーマンはレオンに頼まれた製剤をドアの横に置いた。
それで用事はおわり。
「ん。サンキュ」
レオンもそれだけ。
だったけど、
それで、ぼーとしてたプリシスがボーマンに気が付いたんだ。
ドアを閉めかけてそそくさとボーマンは立ち去ろうとしている。
それなりにプリシスに申し訳なく思ってるボーマンが見えてくる。
「あ、ボーマンまって・・」
この間のアシュトンとの話で、
プリシスの中にはむしろボーマンに対する感謝が生じてきている。
欲しいじゃなくて、あげる。
こんな感情がどんなに心を充たしてくれるか。
それを悟らせてくれたのはボーマンなんだ。
「ん?・・なんだ」
よもや、声をかけてくるとは思ってもみなかったプリシスが
ボーマンを引き止めた。
何を言われるんだろう?
ボーマンは出来るだけ平静を装って、いつもらしく返事をした。
即座にボーマンは自分をみるプリシスを観察している。
なんだか、よく判らないけど、プリシスの表情は髄分、なごんでいる。
『は。んな、余裕ができるくらいに
しっかり・・アシュトンはおまえのもんかよ』
軽い嫉妬があることはある。
でも、ボーマンは心底二人が深く結ばれた事を喜んでいた。
「あのね。ちょっと、相談があるんだ」
「あ。いいぜ」
ボーマンたら嬉しくてしかたない。
プリシスにとって論外、枠外ってなっちまった自分の筈なのに
もう一度頼ってくれる?
それって、つまり、
ボーマンと、アシュトンのことごと許されたってことであり、
プリシスにはそんなことをあっさりと乗り越えちゃうくらい
アシュトンと愛の深めあいが出来たってことの
間違いない結果なのである。
「おし・・アマンダにでも・・ゆくか?」

何がどうプリシスを氷解させたのかしらないけど、
ボーマンの事をもう一度信じてくれるプリシスになってる。
ボーマンはプリシスとならんで、
研究所を出るとプリシスの肩を抱き寄せて、歩き出した。
「え・・」
ボーマンのいつもながらのスキンシップに
たじろいだのはプリシスのほうである。
きっと、いつものボーマンでしかないのに、
それを受け止める自分が変わってしまってる。
いいほど大人で、
いつもプリシスのことをがきんちょ扱いにしかしてないボーマンなのに、プリシスはボーマンの中に男を感じ取れる女になってしまってる。
「何だよ?は?・・・馬鹿。俺が変な気になっちまうじゃねえかよ」
ボーマンもプリシスの変化と、
ボーマンにたじろいだプリシスの女に気が付いているんだ。
と、なれば、尚の事ボーマンにまわされた腕を
ひどく意識させられて、プリシスは一層、頬を染めてしまっていた。
『え?なんだよ・・・か、かわいいじゃねえかよ』
何とかしてしまいたくなる気が頭をもたげてくるのを
やけにはっきりと、意識させられちまうボーマンなのである。

「あのね・・」
って、プリシス。
でも、やっぱ。どこか子供っぽい。
ミルクセーキをすすり上げながらプリシスは、はなし始めた。
「あん?」
小さな肩と、細い項。
小作りで華奢な体がやけになまめかしくコケテイッシュにみえる。
――え?無理やり捕まえて俺の物をぐいぐいねじ込んでやったら
抵抗しながら、最後にゃ俺の女になっちまうタイプじゃねえかよーー

ボーマン!!何をプリシスのセックスタイプを分析してるんだよ。
――はーん。アシュトンてめえ。無理やりって奴ができねえで、
随分遠回りしてたようだけど、初めからいける女じゃねえかよ?――
まあ、アシュトンの性格だから、
こいつもいきなり組み敷かれるなんて事に
甘んじられずいただけなんだと、
ボーマンはやっと、アシュトンに咲かされた花をみて、
きがついたんだけど
――ち。でも、こいつを女にしちまったのは、
アシュトン。
おまえだよな――
なんて、ろくでもないことばかり考えながら
ボーマンはプリシスを観察して楽しんでる。
「あのね?」
「あ。おお」
どうも、プリシスの急変ぶりに目が奪われるボーマンなのである。
「あのね。アシュトンのこと・・ありがとう」
「え?」
アリガトウってお前?
そんなにアシュトンが大事になっちまったのかよ?
「馬鹿・・俺の事・・おこりゃいいんだぜ」
「ううん。私が子供すぎたんだ。御免ね・・ボーマン」
「悪かったのは俺のほうだ。本気でもなんでもねえのに・・」
「違うよ。そんなことじゃないよ。
ボーマンがどうかってことじゃないんだ。
アシュトンにとって、ボーマンだったからこそ
助けられてることだと思うんだ」
「ん。でも・・辛かったろ?お前にとって・・」
「んんんん・・」
泣き出してしまったプリシスの頭をボーマンはくしゃっと撫でた。
もしここがアマンダじゃなくて、
誰も人の来ない場所だったら
ボーマンは泣いてるプリシスを抱きしめて
荒々しいキスでプリシスの意識を
ボーマンで包み込んじゃうところだろう。
ボーマンはプリシスのおでこをぴんと指で跳ね上げると
「で・・相談ってなんだよ?」
「あ、うん」
薬指で涙を拭いながら、
プリシスはさっきのレオンから聞いた話をしゃべりだした。
「はあ?」
つまり、そんなにアシュトンに色々してやりてえってことである。
って、ことは、このプリシスちゃんは、
いろんな風にしてアシュトンを夢中にさせて、
自分のものでいさせたいってことでもある。
ギブ&テイク。与えた分だけ貰える。
男と女の縮図にはまり込み始めてるプリシスなのである。
「でね。気になるのは、それをするとか、しないじゃなくて・・」
しゃべり始めたプリシスが黙った。
なのに、ボーマンは気にならないみたいにプリシスをじっと見てる。
何か、さっきからボーマンが変。
いまいち、まじめにきいてくれない。
どっかぼーとしてるし・・。
「ボーマン?何か変だよ?」
「お、お前が変に色っぽくなりやがるから・・」
「え?」
こら、こら。ボーマン。
くどいちゃいけないんじゃなかったのかよ。
なのに、プリシスったらボーマンの言葉にどぎまぎしてしまってる。
―― かあああ―。たまんねえ。
いっそ・・どっかにつれこんじまおうか――
なんてボーマンはせいぜい想像だけで堪えてるけど。
まだ、青々しい果実がアシュトンの色に染まりきっちまう前に
一回こっきりでいいから、味見してみてえじゃねえかよ。
なんて、ボーマンはマジに考え込んでいる。
「お前の言いたい事はわかるよ。
アシュトンが受けにもどりゃしないかって、心配なんだろ?」
「あ・・うん・・それもあるよ」
ボーマンは少し考え込んだ。
店の中も客が立て込み始めて、子供づれの客も入りだしている。
プリシスへの回答をどう答えるかと言う以前に、
こんな妙な話をうっかり人に聞かれたくもない。
「ちっと、たてこんできたな。なあ。場所をかえねえか?」
プリシスもざわついてきた店内と店員の来客への挨拶が
ひっきりなしになってきているのに気が付いている。
「だね。かきいれどきにテーブル占領してちゃ悪いしね」
プリシスが立ち上がるとボーマンも立ち上がって二人で店を出た。
「うーん」
なんとなく足の向くまま、歩いてる二人なんだけど、
今の時間どこの店に行ってもお客だらけである。
けど、聞きたい事は聞いてしまいたいプリシスなのである。
静かで落ち着いて話せる場所がどこかにないか、プリシスは考えていた。
「あ。そうだ・・」
考え付いた場所は灯台下暗し。
自分が一番落ち着ける場所って言ったら自分の部屋があるじゃない。
「ねえ。うちにおいでよ」
「へ?いいのかよ?」
「ボーマンじゃない。いいよ・・別に」
プリシスが提案した言葉にボーマンは頷いた。
まったく警戒心すらない。
男の本質って物を判ってない初心さが
さらにボーマンを煽ってるとも気が付かず
プリシスはボーマンを自室に通した。
「ビールなんかないからね」
どかりとその辺に座り込んでボーマンは壁にもたれた。
「いいさ」
「ん。でさあ・・」
プリシスもボーマンの傍に座り込んだ。
さっきの話の続きなのである。
「もうちっと、こっちにこねえか?きこえないぜ」
「あ。うん。でね・・アシュトンにそんなことって考えたときにね」
プリシスはボーマンの傍ににじり寄りながらしゃべりだしていた。
プリシスの心配はわかる。
「ばかだな。アシュトンにもう、そんな気ねえよ。
第一、俺はお前の代償でしかなかったんだぜ」
ボーマンはそれさえわかっていて、アシュトンを・・。
「あ・・・ご、ごめん」
「なあ。そんなことなんかどうでもいいんだ。
俺との事でどうのこうのって事なんか考える必要はねえぜ。
アシュトンが俺をどう意識するかじゃなくて、
アシュトンがどうかってことじゃねえか?」
「え?どういうこと?」
判りにくい説明にプリシスは尋ね返した。
「あー。つまり。新しいセックスプレイを
二人が心底、分かち合える気分に慣れれば
それでいいじゃねえかよってことさ」
「ぷ、プレイって」
「キレイに言ったってやることは同じだぜ?」
「あ。うん」
確かにそうなんだけどね。
「なあ。最初はなにかわかるか?」
「え?あ。あの、なんの最初?」
「セックスさ」
ひーーーー。ボーマン。そうずばずば言わないでよ。
今更ながらレオンを苦しめていた自分がこうであったか
と、思わされるプリシスなんだけど
「あ・・ううん。わかんない」
「あのな。ようは自分を夢中にさせられるかどうか。
相手の事なんかきにすることはない」
「ぇ?」
何か、すごい勝手な事じゃない?
おかしいよ。矛盾してるよ。
「自分がやりたいようにやってゆく。
それを無理して、いやいやながらセックスなんかして
相手が喜ぶかよ?」
「う、うん。そうだよね・・」
「なあ?セックスしてえんじゃねえんだよ。
相手が夢中になってくれるのが嬉しいんだよ。
わかるか?」
「あ・・あの・・つまり。私がアシュトンに夢中であの・・・
え、レオンに教わったようなことをすればいいと・・いうことかな?」
「ああ。頭。いいな。おまえ」
「え?えへ。でも、そんなことを夢中でしてあげる気になれるかな」
プリシスがポツリと呟いた言葉をボーマンは聞き逃さなかった。
「だから・・・こいよ」
「え?」
どういうことってプリシスが考えてる間もなしに
プリシスはボーマンに抱き寄せられてしまい、
その身体をボーマンに組み敷かれていた。

「ボ・・ボーマン?あ?」
「どういうことか教えてやるよ」
「子供だっておもって、か、からかってる・・な」
「からかってやしねえよ」
プリシスの言葉をさえぎるとボーマンはプリシスの瞳を覗き込んだ。
覗き込んだ瞳が近寄ってきて、
寄せられたボーマンの唇を感じ取った瞬間。
プリシスは瞳を閉じてしまってた。
『え。受ける気十分じゃねえかよ』
プリシスの唇を割って舌を差し込んでゆきながら
ボーマンはプリシスの胸を弄りだした。
プリシスがボーマンの手を払いのけようとする手に強さはない。
ボーマンがプリシスの手をおしとどめ、
払いのけるとプリシスはボーマンの愛撫を大人しく受けだした。
シャツを巻くり上げプリシスの胸をさらけ出し
ボーマンはプリシスの胸に顔を当て舌をころがしてゆく。
「あ・・」
プリシスの心地よい声がボーマンの耳元に熱い。
「ペッテイングまでなら許せるか?」
ボーマンの囁きにプリシスの返事はノーではなかった。
ボーマンに圧されてしまった物が何であるのか判らないまま
プリシスはせつないくらい声を上げてしまってる。
恋じゃない。
でも、甘い性の誘惑がプリシスを酔わせている。
「アシュトンには黙ってろよ」
そういうとボーマンの手がプリシスの下半身に伸びていった。
「あ・・んん」
存外大人になっているプリシスの部分である事を
ボーマンの指に滴る物が教えている。
――くそお。このままやっちめえたいぜ――
プリシスの小さなとがった物に指を当てると
ボーマンは激しい動きで刷りなでていった。
「ああああ」
プリシスの嗚咽が切ない。
「気持ちいいかよ?」
返事なんか出来るわけがない。
自身の嗚咽だけが耳の中にひびく。
その部分に与えられる感覚だけが
プリシスそのものになってしまっている。
息もつけないくらいの嗚咽が上げ続けるプリシスの頬に
ボーマンはそっと唇を寄せた。
「せつねえ。お前の中にいれちまいたいぜ」
「あ・・ああ」
プリシスはボーマンの言葉をまともに判断できないくらい
夢中に酔わされてる。
「ここ」
ボーマンはそっとプリシスの中に指をいれた。
暖かくぬめった粘液が肉の盛り上がりを余計に指に感じさせている。
こんなにほしくなってるプリシスだけど、
だけど、動かしちゃいけない。
だって、こいつはアシュトンのものなんだ。
「ああ」
切なさを振り切る声を上げるとボーマンは
プリシスのプシイから指を引き抜いた。
『俺にゃ・・ここまでだ』
ボーマンはその指をプリシスの口の中にいれこんだ。
『俺の物の変わり』
指を舐め始めたプリシスを抱き起こすと、
ボーマンはプリシスの口から指をはずした。
ぼんやりというか、
うっとりと言うかボーマンにされるままになっていたプリシスが
やっと、覚醒したかのように身体を動き出させたかと思ったら。
ボーマンの胸の中にすがり付いてきた。
「なあ?」
「・・・」
こんなときなんていえばいいんだろ?
そして、プリシスの胸の中に湧いてきてる物をどうすればいい?
「なあ・・抱かれてやりたいっておもっただろ?」
「あ・・」
ボーマンの言う、まさにその言葉どおりの思いが
プリシスの中に沸かされていたのである。
「それがプレイだろ?
お前もアシュトンに指でも何でも入れてやりたけりゃ
それでいいじゃねえかよ?
俺も・・そうだ。
お前がどうだろうが、俺はおまえがほしい」
ボーマンの言葉に答えるようにプリシスの手が
ボーマンにのびてくるのを捕まえるとボーマンは首を振った。
「でも、ここまでだ。
俺の言いたい事がお前が実感したかどうか?
それが俺の回答。
そして、それをアシュトンとの間でどう実践して行くか。
それがお前への宿題。・・・・以上」
そういうとボーマンは立ち上がった。
これ以上ここにいたらプリシスをほんとに自分の物にしちまう。
「ボーマン・・あ、あの」
プリシスが言い出しそうな言葉をボーマンはさえぎった。
「俺がほしくなったなんていうんじゃねえぞ」
「ん・・」
恋じゃない。
ボーマンにはじめてひどく大人に扱われて、
自分の中の女がほだされてるだけ。
自分の中の女がボーマンの男を受け止めてやろう
と、おもってしまっただけ。
だって、プリシスが本当にいとしいのはアシュトンなんだもの。
「でも・・」
ボーマンが出て行った後プリシスはぼんやりと物思いにふけってしまう。
『性』
この不思議な世界。
自分の心よりもっと広い物を持ってるのかもしれない。
きっと、心だけじゃ、
考えだけじゃ、
受け止める気にもならないだろうボーマンをうけとめさせようとする、なんて
『聖母でも、ないのに・・。
なんて・・広い心になっちゃうんだろう』
与えるだけの思いを慈しみとも言うのかもしれない。
だけど、ボーマンは
その性を通してプリシスにまた大切な事をおしえてくれている。
『慈しまれたのは私の方だよね』
聖母は性なんて手段をつかわなかったろうけど、
『ボーマン。あなたって、聖(性?)ボーマン?』
クスって笑いながらプリシスは、
そっとさっきのボーマンが触れた場所に指をすべらせていった。
ボーマンに慈しめられた場所。
その場所に与えられたボーマンのあの指の動き。
「あまやかだったよ」
ボーマンに、女として扱われた事もプリシスには誇りに思えてくる。
指をさっきのボーマンみたいに・・・。
「ああ・・・」
ちょちょっと。プリシス。
それはよくないよ。
『だって・・上手だったんだもの・・』
燃焼し切れない物が身体の芯にのこってしまってる。
『ボ、ボーマン・・・』
そのボーマンが
それをアシュトンにぶつけろっていってたんじゃないのかねえ?
なのに、プリシスったら・・・・。
『ああ・・・ボーマン』
受け止めてあげたかった思いを昇華させるように
ボーマンの名を呼んで、プリシスは独りHしちゃったけど、
ま。それも。プリシス也のけじめのつけ方かもしれない。

でも、さすがボーマン。御見それしました。
あんたの魅力ってのは、筆舌につくしがたいものがありますな。

それから、罪作りな男はプリシスの部屋を出ると
アマンダに戻っていった。
「おりょ?」
そこにはアシュトンがいる。
「てめー」
ボーマン、なんて、ご挨拶だよ。
でも、ボーマンにすれば当たり前の気分なんだ。
だいたい、こいつがのこのここんなところで油を売ってるから
俺がついプリシスに手を出しちまう事になっちまったんじゃねえかよ。
女なんてものに頭を使わせたら、だいたいろくな事になんねんだ。
さっさとへばりついて、
いつでも、よわせてやって、頭なんかで考えさせちゃあいけない。
女は子宮でかんがえるっていうけど・・・。
おっと、この話はボーマン・ボーマンシリーズではなしてあるな。
だから、つまり・・・こいつが悪いんだ。
「さっさとプリシスのところにいってこい」
「はい?」
いきなり何なんだよ?ボーマン。
今日はお昼からの約束だから昼食とって、是からいくんじゃないか?
「女にうだうだ考えさせる時間を作るな。ぼけ!」
『ぼ・・ぼけ?』
に、しても何をこんなにボーマンはおこってんだろ?
「さっさといきやがれ。で、ないと俺がプリシスをとっちまうぞ」
「は?え?あ。それ、あの、どういうこと?」
「るせーーーー。早くいけえーーーー」
「は、はい」
食後のコーヒーを運んできたアマンダの横をすり抜けて、
アシュトンは
『何だよ?さっぱり。わけがわかんないよ』
って、ボーマンを振り返った。
「お。俺がもらっとく」
って、アマンダからアシュトンのコーヒーを受取ろうとして、
身体をよじったボーマンのシャツに
薄いピンクの小さなしみが見えた気がした。
「え?」
見覚えのあるピンク。
え?ええ?
まさかと思うけど、プリシスのリップ・スティック?
『とっちゃうぞって?えーーー。どういうことさあ?』
慌ててアシュトンは駆け出していった。
「ふん。いったかよ」
って、ボーマンはコーヒーをのみだしたけど、
アマンダがそっとハンカチを差し出してきていた。
「あん?」
「ボーマン・・シャツだけじゃなくてよ」
「え?」
白いコーヒーカップのふちにもかすかなピンクがのってる。
「かあああ。まずーーーー」
アマンダのクスクス笑う声が漏れてくるのを聞きながら
渡されたハンカチでボーマンは唇を拭った。
「大丈夫よ。アシュトンはきがついてないわよ」
なんだか相変わらず察しがいいアマンダがそういった。
「おい」
「わかってるわよ。貴方は馬鹿なことはしない」
その相手がプリシスだって事もわかってるということらしい。
「なんだよ?」
「で?注文は?」
「ビール」
それ以上何も聞かずアマンダはカウンターに戻って行った。
どうやら、ボーマンの真髄を理解してくれている奴が
ここにも居るって事は確からしい。
「ま。プリシスのことだ。上手くごまかすだろう」
アマンダも余計な事はしゃべりゃしない。
あの様子だから、昼前にボーマンとプリシスが一緒だったって事も
アシュトンにはいってはないってことである。
ボーマンは運んできたビールをグラスに注いでくれたアマンダに
グラスを持ち上げ乾杯の動作を見せると
一気にグラスのそこまで飲み干して見せた。


「あ。あの?」
すごい荒い息のアシュトンに
「ん?」
何か、きょとんとしているプリシスである。
「あ・・そうか」
はやくきすぎたかな?
「どうしたの?はしってきたの?」
「あ。うん・・あの。あの・・」
「なに?」
「あ・・」
プリシスをうたぐってるなんて、いえやしないけど、でも。
「あの・・あ。ボーマンとあった?」
「あ。レオンの研究所でちょっとはなしたよ」
「あ?そう・・」
それだけ?
「それがどうかしたの?」
逆にプリシスに尋ねられちゃった。
「あ、」
だよね?なんでもない。そんなわけない。
「あ。あのね。ボーマンがプリシスの所に早く行け
ってすごい剣幕だったから・・」
「あ。ああ。それ。きっと、レオン処で、私がぶつぶついったせいだな」
なんとか、辻褄を合わせてゆく
プリシスの即興ぶり脱帽するしかないけど。
「え?なにいったの?」
その内容できっと、ボーマンがとっちゃうぞっていったんだろう?
「最近つめたいよって」
「えーーーーーー。そんなことない」
必死のアシュトンである。
「だって、今日だって・・お昼からのやくそくで・・」
「あっ・・それは・・」
「明日は?」
「あ、ごめん」
プリシスにプレゼントしたい物があって
アシュトンは内緒でバイトしてる。
今日も半日バイトだったんだ。
「おかしいよ」
「あ。それで。ひょっとして、ボーマンになきついちゃった?」
プリシスは実はアシュトンのバイトなんて事はきがついてるんだ。
だから、ちっともきにしてなかったんだけどね。
「え?なんで、わかったの?」
アシュトンの言葉にそれとなく合わせてみるプリシスなのである。
「あ。じゃあ、やっぱり。あれプリシスのリップだったんだ」
「はい?」
プリシスもなんとなくさっしがついてる。
でも、とことんばれてたらこんなアシュトンのわけはない。
多分ボーマンの胸辺りにプリシスのリップがついてたんだろう。
って、
まあ、見事な洞察力。
「あ。なんでもない」
変な嫉妬心と妙な疑いを持った事は見せたくない男心が
アシュトンを黙らせてしまった。
そんなことより今のプリシスの発言が問題である。
「でも、ああ、僕もう少しちょっと、あの忙しいんだ。あ、えと・・」
会えないわけをどういいわけしようか?
って、考えながらアシュトンはプリシスをみた。
アシュトンを見ながらプリシスは考えてる。
引きなおしたリップは大丈夫。
まず、ばれちゃうことはないはずなんだけど。
やけにアシュトンがプリシスをまじまじみつめてる。
「あの?忙しいって?」
話をそらしちゃいけない。変に観察させちゃいけない。でも・・
「あの・・」
「はい?」
「あの・・どうしたのかなって・・あの、それ・・」
って、アシュトンは実にいいにくそうである。
「え?」
アシュトンの見てる辺りをプリシスはじっとみた。
『あはあ・・・・やばーーーーーー』
プリシスの胸の突起がひどく膨張したままなのである。
さっきまで、こっそりボーマンとの空想に浸ったせいなんて、
いえるわけがない。
「感じてるよ」
って、アシュトンの手がプリシスに伸びてきた。
「だって・・逢いたいっておもってたら」
「あは?それだけで・・こうなっちゃう?」
「だって・・」
「うふ・・・してあげる」
なんて、早速アシュトンの手がプリシスのスカートの中にのびてきた。
「プリシス・・もう・・こんなになってる」
「んん・・あ」
ぬめりを絡めた指がプリシスの鋭敏な部分をもうさぐりあててる。
「ねえ。僕のことを考えてるだけで・・こんなになっちゃうの?」
ひどく満足気にアシュトンがささやきだした。
「かわいいよ・・本当・・ほら・・」
ぬるぬるした物があふれてきてるその場所に
アシュトンが指を入れ込んで行く。
「あ・・ん・・」
「プリシス・・すごいよ・・ほら」
感じちゃった部分がくううとしまってる。
「指がきついくらい・・・」
「いや・・」
アシュトンの囁きにいっそうあおられてしまう。
アシュトンがプリシスに本物をあげるために
ズボンを脱ぎだしながら変わらずプリシスをあえがせてるんだけど。
「ねえ・・ちょっとまって・・そのまえに・・」
プリシスはアシュトンに
レオンに言われた事をしてあげたくなってる。
ボーマンに気が付かされたように
その気持ちにプリシスは素直に従ってる。
気持ちいい事をお互いで追従する。
それはアシュトンだからこそ思い切りできることなんだ。
だから・・アシュトンが気持ちいいって言うなら
いくらでも・・・してあげる。
―そして、それも私が「あげるの」―
そんなかたちでも、アシュトンをあえがせてみたい。
―ねえ。アシュトン。貴方の全てが私のものよ―
プリシスはアシュトンの物をほうばりはじめていたけど、
その指をアシュトンの後ろに回した。
『あ・・ああ?プリ・・シス・・』
アシュトンの可愛い声。
それはそれで、素敵なんだ。
「きもちいい?」
「あ・・・」
なにもかも、プリシスに制されてしまう。
でも・・・それもいい。
                        (グッドバイ)

続きを読む

セクシュアル・モーメント1

あっちもこっちもそれなりにそれなりに・・・
『うまくいってるじゃないかよ』
ボーマンはつぶやいてる。
ボーマンがいろいろ暗躍したのは、言うまでもないことだけど
なのに、ボーマンは
「ふー」
って、ためいきをついている。
「あん?どうしたのさ?」
って、そんなボーマンをレオンが覗き込んだ。
「あーん?」
ちっ。こいつも、あいかわらず、うまくいってやがる。
ちっとも、ボーマンになびかないレオンの瞳を
真正面から捉えると、
瞬きもせずレオンを見詰めたボーマンである。
「ん?」
こんなにじっくり見つめられると誰だって
つい、目をふせてしまい、軽くうろたえる。
だのに、ボーマンの熱いまなざしなんか
レオンはちっとも気にしない。
「おまえなあ・・」
「なに?」
文句の一つも言いたくなる。
だのに、ちっともレオンは気が付きもしない。
「なあ」
「何?はっきりいってよ、らしくないじゃん?」
こんな切ないまなざしを向けてるってのに、
なーんにも感じないでオマケに何?
挙句、らしくない?やるせないったらありゃしない。
「おまえさあ・・・」
「何?さっきから、じれったいよ。言いたい事ははっきりいわなきゃ」
はてには怒られちまうのかよ?
「もう。やだなあ。いったい、なんなのさ。早くいってよ」
こんなこともうちっといいムードでなきゃ、いえねえじゃねえかよ。
レオンに何を言いたいボーマンになっちまったのか、よく判んないけど、
色気もそっけもない態度のレオンに
ボーマンはますます何も言えずに黙ってしまっている。
「・・・・」
「もう・・。僕、そんなに暇じゃないんだよ」
ボーマンがしゃべりだすのが遅い。
じれったくなってレオンは文句を言い出してる。
『なに言ってやがんだよ。
クロードにはせっせと時間をさいて
熱っぽい視線をおくってるくせに』
「なあ・・レオン」
「もう。だから、なに?」
「ん・・・なあ。俺の事どう思う?」
レオン。普通に考えりゃこれは十分秋波をこめられたせりふなんだぜ。
なのに、レオンはボーマンの言葉どおりの意味に受け止め、考えていた。
「うーん。そうだね。上手にニーネにばれないように浮気するよね。
それって、マメっていうか。すき物っていうか」
「そ、それ。なにをいいだすんだよ」
「だって、ほんとうのことじゃない。ニーネに悪いっておもわないの?」
「次、次元がちがうんだよ」
レオンは首を傾げた。
「ふーん。浮気って単なるお遊びってわりきってるってこと?」
「そ、そういうわけではない」
どうにも、あらぬほうに話が流れてゆくのを
ボーマンは食い止めきれない。
「じゃあ。どういうわけさ?」
「ん」
ぐっと詰まってしまうボーマンなのである。
だけど、レオンの見解がボーマンの中に一つの回答を見せ付けてきた。
ひょっとして、レオンが落ちないのは
ボーマンが本気で一心不乱じゃないせい?
「遊びなんかじゃねえんだ。それなりのところでみんな愛しいんだ」
そう、おまえのことだって。
ボーマンはレオンをじっと見つめた。
その瞳をまじまじとレオンは正面から受け止めて、肩を竦めて見せた。
「ふーん。やっぱし、よくわかんないや」
「ち。お前みたいにクロードのことばっかししか見えねえ奴には
わかるわけねえさ」
「はん。おあいにく。僕はそんな軽いやつじゃないよ」
「るせえーな。お前みたいに馬車馬の目線でクロードだけを
みてるやつこそ、一端マスクをはずすと、こわいんだぜ。
世間には、いろんな奴がいるってことをお前はしらねえで、
クロードにはまちまってる。でも、俺には、それが判っている」
「何?のろけ?いろんないい人知ってて、
だからニーネを選んだんだっていいたいわけ」
まさにそのとおりだ。
「だったら、そんな素敵なニーネのとこで
何でおとなしくしてないのさ?」
「俺の世間がひろいようにな、俺のハートも広いんだよ。
いろんな心がすんでるんだ」
「あー。わかんない」
「いろんな価値を知った上で
クロードを選んでねえおまえにゃ、わかんねえよ。
どうしょうもなく引かれちまう人間がたった一人しかいないお前にゃ、選び取る価値って物がわからねえ」
辛い恋もした。
自分の中の欲求の深さに溺れきった事もある。
いろんなことをくぐりぬけ、ボーマンは自分のラインの引き方を決めた。
『守る女はニーネしかない。どんな事をしてでも守ってみせる。
だけど、もしそれが出来なくなったら俺はニーネを殺してでも、守る』
ボーマンの言う事はニーネ自身を守るという意味ではない。
自分だけの特別な女性である事を死守してゆくということである。
それがボーマンの勝手に引いたラインである。
ほかの存在とニーネとの格段の違いがそこにある。
他の奴らがどこへいこうが、何をしようがどうでもいいのである。
が、ニーネだけはボーマンを見つめ
ボーマンだけのものでなければならない。
幼い子供のようにボーマンは
ニーネからの愛情を独占しなければ気がすまない。
『アイツが俺を見なくなったら・・俺はきっと狂い死ぬぜ』
まったく勝手我侭な思いをのぞみたくなるからこそ、
ニーネが特別な存在であるんだろうけど。

ボーマンが何気なく話したことが、
この先のレオンに起きてくるとは予想もしないボーマンなのであるが
「ま。帰るぜ」
と、ボーマンが切り出したのは、
レオンに会いにやって来たクロードが
研究室にはいってきたせいでもある。
「あれ?ボーマン。もう、かえるの?」
ボーマンが横をすり抜けてゆくのをクロードは
お愛想で声をかけるに過ぎない。
だって、クロードの瞳はもう、レオンをおいかけてる。
「ああ」
ボーマンの声色がどこか無愛想であるのに、
レオン同様クロードもそんなことなんかちっともきがつきやしない。
『まあいいさ』
ボーマンは、ふうとため息を一つついて研究室を後にした。
それから・・何日たったのだろうか。
レオンからちっともお呼びがかからない。
調剤する事もねえ?製薬も足りている?
まあ。それでも、そろそろ在庫の点検に行くか
とボーマンはもっともらしい理由をつけて研究所に出かけて行った。
研究室のドアを開けると相変わらず
一等最初にクロードが目に入ってくる。
『どうせ・・鼻の下を伸ばした、デレ助(それは何ですか?ボーマン!)になって』
「ない・・・」
ひどく険しい目つきになってる事にクロードは自分でも気が付いてない。
むろん、入ってきたボーマンにも気が付きもせず、
何かを食い入るように見てる。
じっとにらむようなクロードの視線が何にそそがれているのか?
ボーマンの目線がクロードの見ている物を何であるか確かめる為、
クロードの目の先を追っていた。
「はーん?」
むろん。そこにはレオンがいる。
これは相変わらずな事であるが、そのレオンの横に見かけない奴がいる。
そして、クロードはそいつをみてる。
いや、正確にはそいつとレオンをみてる。
「なんだよ?」
それで、そんな顔をしてみてるのかよ?
やだね。嫉妬かよ?
ボーマンはたあいもないクロードのレオンへの執着と、判ると
やきもちの鬱憤晴らしに、いろいろ愚痴を聞かされても、たまらない。とばかりに、ドアの外へ、後ずさりをし始めていた。
『なんだよ。お前結構、妬くんだな』
ボーマンは妬くほどの相手でもなさそうな、
レオンの側にいる青年を見つめなおした。
どこにでも、転がっていそうな、まじめそうな青年。
青年と言うよりはまだ少年に近いかもしれないが、
白衣が彼を随分落ち着かせて見せていた。
が、歳はクロードよりいくつか若そうである。
と、なると大学生?若いって事は特待生?
もしくは飛び級でもう、卒業しているのかもしれない。
『なんてことないじゃねえかよ?』
ボーマンはその瞳をレオンに移し変えた。
「え?」
レオンが・・・いつものレオンと違う。
どう違うのか?って?
しいて言えば、クロードを見るときの瞳に似ている。
「え?・・て、それ?」
恋する男の敏感さが哀れになってくる。
多分当の本人が意識するより先に
クロードの方が先にレオンの感情に気が付いている。
ボーマンは外に出かけた身体を部屋の中に入れてやると
クロードのそばに近寄っていった。
『へっ。ちったあ。おれの気持ちが判るかよ?』
なんて事も思いながらボーマンは
クロードの側の椅子にどかりと座り込んだ。
「・・・・・」
黙って座っていると思いもよらずクロードの方が喋り掛けてきた。
あい変わらず二人を見たまま、クロードは
「昼休みまで・・アイツにべったりなんだ」
と、言った。
「な?」
「うん」
ボーマンの言葉がなんだって?そうなのかよ?
と続くのをクロードは先に頷いてる。
『おい?そりゃあ。危険信号どころじゃないじゃねえか?』
「あいつ・・。」
クロードが呟く言葉さえひどく憔悴してる。
「おい?まさか・・」
「なに」
前をむいたまま、なんだか何かの抜け殻みたいに
気のない返事がかえってくる。
「な・・なんだよ。そりゃあ、
つまり、お前の部屋に帰っても
レオンの奴はいっさい何もさせねえってことかよ?」
「は。じゃなけりゃ。
何で、僕がこんなやきもきした気分あじあわなきゃなんない」
そりゃあ、そうだ。
「ん。でも。お前のところには、いってるんだよな?」
「ん。でも、本心なのかな?ごまかしてるのかな?
くたびれたって、そればっかで・・ぜんぜん・・」
「はあ・・」
「レオンにかぎって、とは、おもうんだけど」
自信がもてなくなってる。
レオンがクロードのところに行かないってなっちまえば、
それはもっとたいへんなことだけど・・。
でも、あのレオンが没交渉?
「あいつのせいだと思いたくないんだけど。
でも、アイツが来てしばらくしてから・・」
ボーマンはもう一度アイツとレオンをじっと見た。
多分、さっきのクロードに似たような顔つきしてるんだろうな
とボーマンは自分を思った。
何を思ったのかクロードは急に立ち上がると
レオンの側に近寄って行った。
「クロード。だめだよ。あとにしてよ」
ちょっと、抵抗はしてみたようだけど、
クロードの思いつめた表情に気が付くと
レオンはクロードの手にひかれて
レオンの専用の小部屋にレオンを連れて行こうと
しているクロードに従ったようだった。
「よくねえな」
頭に血が昇ってる状況のクロードを今は宥めるしかない。
そんなレオンの気持ちがみえかくれしている。
だけど、ボーマンにはどうしてやる事もできず
クロードが帰ってくるのを待った。
案外、誤解かもしれない。
もう少しすればクロードのレオンであることを知らされた
レオンが妙に甘やかに潤んだ瞳になって帰ってくるかもしれない。
ボーマンはじっと待ってみるしかなかった。

こんな風に使う事は無いと思っていた、ポケットの中の小瓶の存在を
クロードはそっと確かめると、
レオンを引っ張っていった部屋の鍵を閉めると
途端にレオンをおさえこんだ。
「クロード・・・」
「ね?レオン、すこしだけ」
離れてしまったんじゃないかと思うと、
無性にそうじゃない事を確かめたい。
そして、またクロードの物でしかない事を
レオンに思い知らせておきたくもなる。
「クロード、ね、あとで・・ね?あとで・・ちゃんと」
「そういって・・ずっと僕をさけてるじゃない?」
「・・・」
黙ってしまわれると、その通りだよと言われてるようでもある。
クロードはやにわにレオンのズボンに手をかけると
下着ごと引き摺り下ろし、ポケットの中の瓶の中身を
クロード自身になすくりつけると、
レオンを後ろから押さえ込んで
むき出しになったレオンの局にいきなり挿入していった。
「や・・だめ・・だめ・・だよ」
レオンの言葉がますますクロードを意地にさせている。
「ほんとうに?いや?」
いつもより、ひどく手荒にクロードはレオンにいどんでいる。
レオンの片足をかかげあげると、
レオンの中に入り込んでるクロードの物がよくみえる。
「だれのもんだよ?」
「あ」
クロードにうごめかされ、
オマケに恥ずかしいその行為そのものの、
その部分をもろに見られるような格好をさせられてるのに、
レオンはじぶんでも、不思議なくらいあえぎはじめてる。
「や・・クロー・・あ・・あああ」
完璧にクロードのレオンである。
「きもちいい?」
「あ・・ん・・」
「ほんとに?」
クロードは動きを止めて見た。
途端にレオンがねだりだす。
「ねえ・・うごいて・・ぼ・く・つら・・い」
だろ?それがわかりゃいいんだ。
『お前と僕がひとつになる事が一番最高なんだ』
「ああ・・クロード」
動き出したクロードにレオンは陶酔しきっている。
『つまらない・・やきもち、やいて・・ごめん』
クロードの不安がクロードを何度も呼ぶレオンの声で消え去ってゆくと、
クロードもやっと自分のレオンへの独占のしるしを
レオンの中に放ちきった。
そして。
無理やり、手繰り寄せて、確認したレオンの愛に充たされたクロードは、
自分の無理強いを素直にわびた。
レオンが、ふと寂しい顔をし、
そして、なんだかひどく遠い目をした。
「あ?」
その遠い目がふと悲しい目になると
次の瞬間何かを決心するような目になった。
「御免。クロード。僕、しばらくクロードにあわない。あいたくない」
「え?」
何で?さっきあんなに何度も僕の名前を呼んだよ?
僕のレオンだってことをあんなに感受していたのに?
「ごめん・・・」
レオンは他に言える言葉を見つけれず、
事の事実に只々、驚嘆しているだけのクロードから
身体を離すと手早く服を着始めた。
「あ・・・」
レオンの中のなごりがレオンに痕酔いをおこさせていた。
レオンは身体の中に走った切なさに、あ、と小さな声を上げたけど
それを振り切るかのように服を着だすレオンの瞳に
大きな涙がうかんでいた。
『そんなに悲しいのに・・それでも、僕をふんぎりたい?』

しばらくして、研究室に戻ってきたレオンがクロードと一緒じゃない。
ボーマンは慌てて外に飛び出して行った。
研究所の玄関を走り出て、クロードがいないか辺りを見渡した。
「いた」
クロードは大きな門をゆっくりとくぐりぬけていた。
「おい!」
ボーマンがかけた声にクロードが立ち止まった。
クロードの側に駆け寄るとボーマンはクロードの様子をじっと見た。
そして、待った。
「あは・・」
と、自嘲的な笑いをうかべるだけで何も言おうとしないクロードに
ボーマンはたずねるしかない。
「そういうことなのかよ?」
つまり、レオンはあの新人助手がいいってことなのか?
「よく、わかんない。でも・・しばらくあいたくないって」
「な。なに言ってんだよ?それで、
お前、理由も聞かずのこのこ、逃げ出してきたのかよ?」
「ボーマンだったら・・・きく?」
「あ・・」
ききたくない。きけるわけがない。だけど・・。
「もう少し、僕も・・自分なりに考え直してみたいしさ」
「考え直すって?理由もわかんなくてどう、考え直すんだよ」
「なんとなく・・思い当たる事があるんだ」
「それ?どういうことだ」
「うん」
クロードは少し考えて辺りをみまわした。
「ねえ。久しぶりに飲もうか?そこで・・はなすよ」
「あ?ああ」
ボーマンはクロードと並んで歩き出した。

そして、店にはいって、かれこれ、水割りももう、三杯目。
「なあ?」
「なに?」
「おまえ。やっぱし、どうしてもレオンがいいのかよ?」
クロードはボーマンの言葉にどう答えるべきかを考えていた。
「それ、あきらめろってことをいいたいわけ?」
ややすると、ボーマンの質問の答えにならない回答を
クロードが尋ね返した。
「いや・・そうじゃないけど」
「諦めたほうが良い様にみえるってことなわけ?」
「・・・」
「ぼくは・・」
「・・」
「しかたないよ。自分の気持ちはどうにもなんないもの。
それにこんなことぐらいで・・」
「ん。なら、いいんだ」
どうにもなんない気持ち。
それもわがままなら、レオンの我侭だけをせめることはできはしない。
「僕は、レオンが僕を好きだから・・好きになってるわけじゃないしさ。それに」
「なんだよ?」
「もし、そうでも、まってるだけだよ」
それは、つまり、レオンがあの新人君に熱をあげてるってことをいう?
「そんなに、レオンがいいってことか」
「仕方ないよ。ほれた弱み・・。ボーマンもそんなことない?」
「他に・・にげをうつきにはなんねえか?」
「きばらし?できるわけないよ。そんな気になんない」
いくらでも、クロードを受け止めてくれる奴はいるだろう。
けど、こいつはそんなやつじゃない。
「そんなんだから、
レオンが安心してわがままいいだすんじゃねえのか?」
「しかたないよ。僕にはレオンしかいないもの」
「おい・・」
泣き出しちまいそうな男心をボーマンはじっと見ていた。
「たく。不器用すぎるんだ」
「うん」
ボーマンはクロードがここに来る前に言っていた
『思い当たる事』ってのをきいてみるきになっていた。
「何だよ、ところで、さっき、言ってた思い当たるって事って、
なんだよ?」
「うん。前にもあったんだ。どういうのかな。やっぱ。
レオンには、僕の欲求をうけとめきれないんだ」
「どういうことだよ?おまえら、そういう仲じゃねえか?
それをいまさら・・え?前にも?」
「うん。おもちゃにされてるって・・」
「そ、そりゃあ・・」
ボーマンは黙った。
こいつらがどんなセックスをしてるか?
その答えみたいなものでもある。
「だから、きっと、あの新人といると、
その辺りを余計に考えさせられるんだと思う」
「わかんねえな」
「うん。レオンが大人になってきてるんだよ」
「大人?」
「そう、社会的にね」
「あーん?」
ボーマンは黙り込んでしまったクロードにそれ以上問い直すのは止めた。
それから、いいほどのみまくって、
クロードは馬鹿みたいに何杯もおかわりして、
帰る頃にはすっかり、よっぱらっていた。
「あは・・きもちよさそう」
帰り道の公園。クロードは公園の中にある噴水に近寄っていった。
何をするのかと見ているボーマンの前で
クロードは噴水の池の中に足を入れると、
噴き出している噴水の真ん中に近寄っていった。
『ば・・ばかやろう』
もう、涼しい風がふきだしている。
『馬鹿が、やけになってるじゃねえかよ。
つよがりばかり、いいやがって・・』
ボーマンはクロ―ドを引っ張り出しに自分も噴水の中に入っていった。
「ボーマンまで・・ぬれちゃうよ」
「ばかいってねえで」
クロードを掴んだ腕をボーマンは引き寄せた。
途端に、クロードがしがみついてきた。
「おい?」
「僕はレオンを失いたくない」
ボーマンの肩にすがったクロードの声がないている。
「なんともねえさ」
「・・・・」
どぼどぼのふたり。
クロードを連れて帰り、ボーマンも家に帰った。
「あら?ふられたの?」
帰ってきたびしょぬれのボーマンを見たニーネがたずねた。
いつ振り出したのか知らないけど雨にである。
でも、ボーマンにはちがってきこえてしまう。
「ふられた?」
わけはない。
クロードに限ってそんなことあってたまるか。
ボーマンはぐっと歯噛みをする。
『レオン。お前どういうつもりでいるんだ?』

次の日。
もちろんボーマンはレオンのところに出かけて行った。
レオンは相変わらず新人君と、一緒に組んでいる。
実験上の注意を与えるのさえも楽しげにみえる。
『てめー?浮気か?クロードに厭きた?んなこといわせやしねえぞ』
「おい」
レオンに向かってボーマンは手をふりこっちに来いと合図した。
「あれ?ボーマン随分、はやいじゃない?」
寄って来たレオンは普段のレオンとちっともかわりはない。
そう、新人君の側を離れるとき、
やけに優しく「ちょっと、まっててね」と、声をかけた以外は。
「おい」
「なに?」
「お前・・クロードのこと・・」
クロードのことを切り出そうとしたボーマンが
「クロード」といっただけで、レオンの表情が強ばった。
「やめてよ」
やめてよも何もまだ俺はなにも。
「な?何もいってねえじゃねえかよ?」
「クロードのことでしょ?あのね」
レオンは思い切るようにボーマンをまっすぐ見つめると
「少し、うんざりしてるんだ」
と、言い放った。
「え?」
「・・・・」
「なんで?」
「だって、きのうだって」
クロードが銀色の小瓶を使っただろう事は
ボーマンにもさっしはついている。
それが気に入らなかった?
お前に限って喜ぶ事はあってもそれはないだろ?
「なんだよ?いってみろよ」
「うん」
言いにくそうにレオンは口ごもった。
「なんだよ?」
促されてレオンは唐突に言葉を発した。
「だって・・・セックスばっか」
「え?」
クロードのいっていたとおりなのかもしれない。
「ん、でも・・おまえ?」
ふううとレオンはため息を混ぜ込んだ息をはいた。
「僕はその解消役だけなのかっておもってさ」
「ば・・ばか。んなわけねえだろ?」
だいたい。それだったら、クロードだって他に逃げをうつ。
なのに、打たないって、それはつまり、レオンじゃなきゃ駄目だって、その気持ちがセックスになっちまう。
それが判んないお前じゃないだろうに?
「そう・・かな?」
いけねえ。完璧に注意信号だ。
それ相応にお互いの心が燃え上がっていてこそ、
対等なセックスが成り立つ。
なのに、今のレオンのハートは不完全燃焼してる。
それなのに。
そのレオンにセックスを求めるって事は
お互いの食い違いに溝をふかめるだけになる。
「クロードのどこがきにいらねえんだよ?」
ようは、不足がある。つまり、そういうことである。
「しつこい・・おまけに無理やり・・・」
「え?」
それがよくてたまんなかったおまえじゃねえのかよ?
一体どういう心境の変化だ?
ボーマンはむこうで顕微鏡を覗き込んでは、
レポートに何か書き込んでる新人君を見つめた。
レオンの注意に新人君は素直にひたむきなほど従ってきている。
それに比べりゃ、クロードは
何もかもをセックスで牛耳ろうとしてるようにみえるかもしれない。
***アイツにひかれてるせいというわけじゃねえな?***
だけど、あいつのせいで、
クロードがつまらなく見えてきているのは、間違いないようである。
「あきあきしてるのかも・・しんない」
はっきり断定はせず、まるで人事みたいにレオンは
自分の気持ちをいった。
「ふーん」
ボーマンはうなづいておいた。
いつの間にかクロードからの愛情が
当たり前になりすぎてしまっているだけだとボーマンは思った。
安定しきって、存在感が重くのしかかってしまってる。
「ふーん。ぜいたくいってると、クロードをなくすぜ」
「え・・あ、ん」
「自信、たっぷりだろ?どこにも、いくわけないってな?」
だからこそ、なお、その存在が重圧になるんだろうけど。
ボーマンは、レオンの状態が見えてきたら
クロードの事が心配になってきていた。
「アイツ。昨日の事で、かぜひいてねこんでるかもしれねえぞ」
レオンに、ポツリと漏らすと、ボーマンは外に出て行った。

昨日のお酒と馬鹿な水遊びがたったって、
クロードはまだ、ベッドの中にいる。
クロードは枕もとの時計をみた。
もう、お昼過ぎてる。
いつもならレオンと一緒に昼食をとって、
それからレオンの部屋に行って、そして・・・・。
『いつも、いつも、あんなことばっかしてるわけじゃない。なのに・・』
レオンに腕枕を貸してゆっくりベッドに転がって、
取り留めない会話をかわす。
レオンがそばにいるだけでいい。
話しかけると、時折瞳をふせる。
頼りなげでとっても、寂しがりやのレオンだって事はよくわかってる。
だから、なおさら傍にいたくて。
そして、傍にいれば、愛しさがつのる。
つよく、確かな愛で、
レオンのはかなげで心もとない寂しさをぬぐいさってしまいたくなる。
だけど、それは、クロードが寂しいレオンを
見たくないせいかもしれない。
「ごまかしてるだけ?」
それでもよかった。
今までのレオンならそれでも、
クロードの愛に充たされていてくれていた。
「だけど・・行けないよね」
あんなにレオンがはっきりと言ったんだもの。
――しばらく・・会いたくない。――
「しばらくって、いつまでなんだろ?」
ぼんやり考えながらクロードはベッドから起き上がろうとした。
「あ・・っつうう」
随分、頭がいたいじゃないか?
『ひさしぶりに、のんだせいだ』
いやいや。そんなことより、量の問題だっておもうんだけどね。
「ま。いいか。たまには、おとなしくしてようか」
クロードはもう一度ベッドにもぐりこんではみたけど、
一度目覚めたら、暗澹とした気持ちが一層クロードをおそってくる。
「はあ」
小さなためいき。
考えまいとするのに、レオンの笑顔が浮かぶ。
そのレオンの笑顔を今頃アイツが独占してる。
「くそ」
ちょっと、動くと頭の芯がずきずきする。
そのくせ、
「ああ。はらへってる」
レオンがアマンダにでかけてるかもしれない。
クロードはどうしようか、迷った。
「やめとこ」
きっと、逢ったらいい顔されない。
もう少し時間をずらしてゆく事に決めると
クロードは布団をひきずりあげた。
だけど・・腹へった・・・。
そのとき、玄関でかちゃりと音がした。
「ん?ダレ?・・・ボーマン?」
レオンのわけがない。
他に来そうなのは、昨日の今日だから、ボーマンくらいだろう。
『あいてるよな。ボーマンが閉めていってくれるわけがない』
でも。
かちゃかちゃって、鍵をさしこんでる。
あ・・。
レオンしかいない。
クロードは慌ててドアの傍に駆け寄っていった。
むろん、歩くたび頭はずきずきする。
「つーーーーー」
うなりながら、こめかみを指でおさえこんだクロードが
ドアを開けようとしたとき向こう側にドアが開かれた。
「ああ。やっぱり」
ドアの外にはクロードの顔が辛そうにゆがんでいるのを見たレオンの声。
「ああ、レオン?」
「ボーマンからきいたよ。風邪は大丈夫?二日酔だけ?」
「あ、ん。きてくれたんだ」
「そ。どうせ。お昼もたべてないんでしょ?」
「うん。そのとおりだけど。でも、あの・・」
「昨日の事?撤回はしないよ。でも、それとこれはべつだよ。
それに、もう少しちゃんとはなしときたいなっておもったし」
「あ。うん。な、なにかな?」
「ああ。いいよ。そんなことはあとにして、とにかくたべよう。
僕もおなかぺこぺこ」
アマンダで作ってもらったお昼の包みを引っ張り出すと
レオンはテーブルに広げた。
クロードのおなかはすいてる。
でも、胸の中に渦巻いてる思いを吐き出してしまわなきゃ
ちょっとたべれそうにない。
「あの・・」
「うん?」
「あの、僕の事、嫌いになったわけじゃあないんだよね?」
「う・・ん」
なんだかはっきりしない返事だけど、
嫌いだったら、レオンがここにきてくれるわけはない。
「あの・・さ」
「うん?」
言いかけた言葉が、つづかないレオンである。
「あの?何?教えてくれなきゃ、あの、僕も気をつけられないよ」
「うん。あのさ。嫌いってわけじゃないんだ。でも、ちょっとね」
「だから・・なに?」
「ん。あのね、ちょっと。あんなことっばかし・・で」
やっぱり・・そういうことではあるらしい。
「おもちゃみたいだって?」
いつかの喧嘩の時にレオンはそういった。
「ううん。そうじゃない。そうじゃないのはよく判ってるんだ」
「じゃあ?どういうこと?」
「あの、怒んないできいてくれる?」
「う、うん」
怒んなきゃなんないこと?それって?。
不安にクロードの胸がきゅううとしめあげられてくる。
「僕ね・・あの子と」
クロードにはそれが誰の事かすぐに判る。
でも、判っているのなんか見せたくはないクロードなのである。
「あのこって?あ、ああ。あの新人君のこと?」
平気そうな顔をしているけどクロードの胸の中では、
どくんどくんと心臓の音がひどく大きくなっている。
「ん」
「な、なんかあったわけ?」
クロードの舌が軽くもつれている。
いやだ。こんなこと聞きたくもない。答えて欲しくもない。
「そうじゃなくてさ。なんていうのかなあ。
あの子。こう・・ぼくのことをね。一生懸命みてくれるんだよね」
それって・・つまり、どういうこと?
のどまで出かける言葉をクロードは押える。
それって、あいつに想われてるって事?
レオンはそれが嬉しいって事?
きこうとしても、喉がひりつくように痛くて
クロードは言葉に出せなかった。
「もちろん。あの子が見てる僕って
研究とか、仕事にたいしてのことなんだけど」
「だけど?」
「だから、よけいにクロードが見てる僕ってさ。
セックスばっか・・・そんな気がしてしまうんだ」
「ん」
なんだかレオンの考えてる事が見えてきたクロードであった。
「あのこにはそんなもんがなくてさ。なんていうか。
博士としての僕のあり方を問われるような厳しさがあって、
気分がすごく張り詰めて気持ちが充実してくるんだ。」
レオンの言いたい事はよく、判った。
「つまり、僕にはそれがないってことだね。
僕とは根本的なスタンスを問い直される事はない?
精神的な面でレオンを満足させられないってことだよね?」
「そういうことになる・・よね」
「僕がなにもかも、許しすぎちゃってるんだよな」
「そう。でも、それは仕方ないって思うんだ。
セックスしちゃったらなにもかも、許容の範囲にはいってしまうんだ。僕も多分そう。
クロードが人間としてどうかってことなんかより、
僕を求められたいってそっちの方が先で
少々のことなんか、どうでもよくなってしまうんだ」
「社会的じゃないってことだよね」
クロードの言葉にレオンは
「つまり、そうだね」
って、うなづいた。
「僕も考えなかったわけじゃあないんだ。
でも、それでも、僕はレオンがいい。
僕がだした結論はそれしかなかったんだ」
クロードの言葉にレオンは随分しんみりした調子で
「クロード。君は随分大人なんだ」
と、答えた。
クロードはレオンをじっと覗き込むと
「レオンがきめりゃいい。
僕の事は逃げ場所に過ぎないかもしれないけど、
それでも必要かもしれない。
でも、そうじゃなくてレオンに
もっと、違う価値が必要になってきてるのかもしれない。
でも、いずれにしろ、レオンがきめることでしかない」
レオンはクロードを見つめ返した。
「クロード?
それって、もしも、僕が別れるって言ったらそうするってこと?」
レオンが、はっきりと口に出した
決別がありえるかもしれないって事にクロードは頷いた。
「お前の人生を押しつぶすようなマネだけはしたくないんだ。
お互いが心の中で触れ合える物がなくて
身体だけ重ね合わせてるなんて寂しい事だよ」
レオンの主体性が一番大事であるとクロードはいう。
『クロード。そんなに僕が一番?僕が一番だいじ?』
「ゆっくり考えりゃいいよ。優しさだけじゃ生きてゆけないんだ。
レオンがレオンらしく活きてゆけばいい。
でも、それでも僕はレオンを愛してる。
この気持ちだけはどうしようもないんだ」
「クロード」
涙が出てきそうなレオンの頭をくいって、つつくと
クロードはレオンの髪をなで上げた。
クロードはそのまま目線を時計に移し変えた。そして
「レオン。時間だよ。もう、研究所にかえらなきゃ・・」
と、レオンに時間の猶予がないことを伝えた。
「クロード。今日は・・こない?」
「うん。しばらく、いかない」
「ん」
それはレオンがクロードに宣告したせいに違いないけど。
「きにすんなよ。自分を一番大切に考えりゃいいんだ。
一番自分を愛してやれる生き方を選べばいいんだ」
「クロードにはそれが・・・僕?」
「そうだよ。でも、レオンが僕を自然に望んでくれるのがいい。
無理はつづかないよ」
「クロード・・・・ぼく」
「いいから、はやく、もう・・おいきよ」
なんで、クロードのこんな気持ちにこたえられないんだろ?
レオンは自分がひどく悲しくなってくるのを感じながら
研究所に戻って行った。
そこにはボーマンが所在無さ気に待っていた。
帰ってきたレオンの顔がいまいちすっきりしてない。
ボーマンはやっぱり、クロードの事がきになってしまう。
あいかわらず、新人君の前に来るとレオンの顔が
晴れやかになるのを見ると一層ボーマンはクロードが気になる。
『どうなっちまってるんだよ?』
こんな疑問は直接、クロードに聞いて見るしかなさそうで、
ボーマンは腰を浮かせ、態上がるとそそくさと外に出た。
ひどく追いすがるようなレオンの瞳を感じながら
『あーん?駄目になっちまったのかよ?で、そんな目かよ?』
と、思ってしまう。
「まあ・・いい」
クロードにもう少しきいてみてからにしよう。
ボーマンはレオンに問い詰めるのを後にして
クロードの所に向かっていった。

ドアを叩くとクロードはやっぱりいた。
「はいるぜ」
なんて、いってるけど、もうしっかり鍵をかけてないことを確かめ
ドアを開けて、ボーマンは部屋の中にはいっている。
「おい?どうなっちまったんだよ?」
レオンがクロードのところに来たのはわかっている。
なのに、なんで、ああもすっきりしてない顔をしている?
ボーマンのいきなりの言葉が
レオンとの事だって事はクロードだって判ってる。
「大人になってきてるんだよ」
よく判らない説明。なんだよ、それ?
「どういうことだよ?」
「いろんなことを潜り抜けて、相手をえらびとってゆくよね?」
レオンのことである。
ボーマンはクロードの言葉の言う事の意味合いに慎重に頷いた。
「レオンは・・子供のまま、僕をえらんだ」
「・・・」
「今、子供の殻をぬぎすてはじめているんだよ」
「クロード・・おまえ」
ボーマンの詰まった言葉にクロードは頷いた。
「そう。次のレオンがもう一度、僕を選んでくれたら、
今度こそ本物だよね?」
そこまで、レオンを許容している?
ボーマンはクロードの深さに黙り込むしかなかった。
だけど。
「お前?それでいいのかよ?
あいつを成長させていったのはお前じゃないか?
我侭で人のことなんか気にしねえ奴が随分、おとなびて・・・」
「まだ、まだ、子供だよ」
「ばかいってろよ?そんな子供にお前は、ほんきなんだろうが?」
「だから・・・まっていられる」
ボーマンはクロードの顔をまじまじと見つめた。
『お前・・・ほんとに』
レオンのスタンスが変化し始めている。
愛に餓えていたレオンがクロードにより心を充たされてゆくと
次は普通の大人らしく社会意識に目覚めてゆく。
まだ、十二才だけどそんな変化をきたすのは不思議な事ではない。
「あいつ」
ボーマンはその続きを口に出せなかった。
けれど、クロードはあっさりと
「あの、新人助手がレオンをうけとめられるんなら、
それはそれでいいんだ。それをレオンに気が付かせたも彼だし。
その事の結果なんだもの」
「ば、ばか。ばかいうな。お前くらいマジにレオンを思ってる奴がいて
いきゃあしねえよ」
「ん」
だといいんだけどね。
って、言葉をクロードは飲み込んだ。
レオンのことはクロードが一番、判ってる。
新しい自分を見せてくれる相手に惹かれないわけはない。
クロードには見えている事だった。

その夕方レオンは新人君。
ああ、名前をだそう。ジャステイスっていうんだけどね。
そのジャステイスの胸にいだかれてしまっていたんだ。
「あ・・・・」
レオンの戸惑いもさることながらジャステイスも
いくばくか戸惑っている。
震える指先。
ジャステイスの胸の鼓動がレオンにまで伝わって来る。
「僕を・・好き?」
レオンはジャステイスに尋ねた。
「はい。でも、ごめんなさい」
「なにが?」
何がごめんなさいなんだろう?
「こんな気持ちになっちゃうなんて・・僕」
間違ってる事ではない。
レオンはジャステイスの胸に頬を当てた。
博士である。
上司でもある。
そして、レオンには恋人がいる。
こんな気持ちになることは許される事ではない。
でも。もう、押え切れない。
そんなジャステイスの気持ちが痛いほどに判るレオンなのである。
「僕も・・」
嬉しいと言おうとしたレオンの中に鋭い痛みが走る。
(クロード)
その存在とジャステイスが重なる。
途端に不思議な違和感がレオンを包んだ。
『のめりこめない』
ときめかない。
こんなに身体を密着させているのに。
嫌じゃない。
それなりに嬉しくもあり、ジャステイスの事はいとおしくも思える。
なのに・・・何かが違う。
レオンは感じ取ったことをジャステイスに告げるしかなかった。
「最初で最後だよ。けじめはつけよう。
僕は君の上司だ。仕事に私情をもちこむのはよくない」
自分の言ってることは大いに矛盾がある。
仕事中だってクロードのことがたまらなくいとしくて。
プライベートルームでクロードとの時間を作ったことなんか
何度だってある。
私事をわきまえられないくらいクロードがいとしくて・・・。
「ごめん」
レオンはジャステイスにわびると、その胸の中から抜け出していった。
―恋じゃない―
レオンにはそれだけがはっきりと判った。
「あの人がいるから?」
ジャステイスはレオンに尋ねていた。
「え?」
「よく来てる人。
今日、みかけなかったのは、別れたせいじゃなかったんだね?」
「あ・・」
―別れたりしやしない。別れたり、しやしない―
レオンの沈黙がジャステイスを悟らせている。
僕の事は?
ジャステイスがそれを突き詰めればレオンはどうこたえるだろう?
気紛れ。迷い。浮気。魔がさした。
どんな言葉を言われても仕方がないことである。
でも。要は彼からレオンを奪えなかった。
それだけでしかない。
「判りました。レオン博士・・・」
レオンを仕事上の呼び名に戻す。
公私にけじめをつけたジャステイスが、
自分が助手でしかないことをレオンに表明していた。
「ご・・御免。僕があいまいだったから・・」
「いえ。レオン博士も普通の人なんだってむしろ、安心しました」
「・・・・」
優しい思いやり。
レオンをせめもせず。
「初めから・・無理だってわかってました」
この恋に勝算がない。
ジャステイスにはそれがわかってながら、
レオンを抱き寄せずにはおけなかった。
「あの人には・・僕の気持ちがわかってたはずです」
ジャステイスはひどく辛そうな顔をした。
レオンにふられたことより
あるいはクロードに勝てないと言うことが
この青年を一層痛めつけていたのかもしれない。
「なのに。レオン博士を黙って見てた。
僕とはレベルが違う。あの人が見てる博士は、僕が見てる博士じゃない。もっと大きくて、広くて。僕はかてるわけがない」
そんなクロードから、レオンはのがれようとした。
『僕がとてつもなく・・・おろかだっただけだ』
「あの人。まってますよ」
そう。彼じゃなけりゃこんな愚か者を許せやしない。
レオンが気が付き、レオンがとり戻した価値に
ジャステイスは頷いて見せた。
幸せにと語りかけるジャステイスの瞳に答えることがなんであるか?
ジャステイスにレオンは研究所の鍵を渡した。
「行ってらっしゃい。ちゃんと戸締りはしておきます」
ジャステイスは小さく手を振って見せた。
恋しい人が一番幸せであること。
その想いがジャステイスにはある。
そして、その思いが一番深いのはクロードだろう。
『僕は馬鹿だ。クロードはいつだって
僕を満たしてやりたいってそれだけでしかないんだ。
セックスばっか?ちがう。僕が望んだんだ。だから』
そう。いまだって。ひどくクロードが恋しい。
肌を重ね、確かなクロードを感じ取りたい。

クロードの部屋の前にレオンは立ちつくす。
やがて、レオンはドアを大きく開いた。
「ん?はいってこないの?」
レオンに気が付いたクロードが傍に寄ってきた。
「はいっていい?」
「なにいってんだよ。はいってくりゃあ・・・」
「クロードの心の中に・・・」
「あ、ばか。なにいってんだよ。
初めから、おまえはでていってないよ」
「はいっていい?」
レオンはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「レオン?」
「僕が必要ならひっぱりいれてよ。
レオンの好きにしろとか、そんなこといわないでよ」
「あ・・・。ご、ごめん」
ドアを閉めないままクロードはレオンを引き寄せた。
そして、レオンをしっかり抱きしめた。
「クロード」
「ん?」
「僕の胸のここんとこ・・・変なんだ」
「え?」
「クロードじゃないと、心臓がとくとくってうごかないんだ」
「ばか」
「だって・・・」
「他の人で試してみたって、言ってることになるよ。レオン・・」
「いいよ。僕も良くわかったもの」
「ねえ?レオン。それ、懺悔?・・・それとも・・アプローチ?」
「アプローチ?なに?それ?どういうこと?」
「どうにも妬けちゃうと・・ほしくなっちゃうでしょ?」
「いいよ。クロード。僕も・・・のぞむところだもの」
「レオン」
「ん」
『口説くの、うまくなっちゃって』
って、クロードの手がやっと、ドアに伸びた。
これから先の二人の事はうっかり人に見られたくない。
それに。一刻も早く、
しっかり、レオンを
閉じこめてしまいたいクロードだったんだ。

続きを読む

イッツ・オンリー・ユアマインド⑥

さて、そろそろ、イッツも終わりにしようかと思ってるんだけど、
いくつか気になる事がのこっちまってる。
そう、たとえば結局ボーマンとプリシスは和解できたんだろうか?とか。
セリーヌとクリスは結局うまくいったんだろうか?とか。
安定カップルであるデイアスとレナはやっぱしあいかわらずなのかい?とか。
レオンとクロードも平穏無事なのはちょっと物足りない(え?)とか。
そんなことがちらついてきてしまったから
結局セクシュアル・モーメントができあがってしまったんだけど、
イッツの最終章はやっぱし
ここ近辺のセリーヌたちにスポットをあててみたいのである。

セリーヌ探しに連れ出された挙句
セリーヌの昼食代まで払わされたクロードは
研究所にやってきたボーマンにぶつぶつ言い始めていた。
「で?どうなったわけ?」
なんだかクロードはえらそうにふんぞり返っている。
クロードがまず訊いたのはセリーヌ達のことに決まってる。
「知らねえよ。」
しゃあしゃあとボーマンは答える。
「ええ?」
意外な返答。
無責任すぎない?
人を犬扱いして金まで払わせて
それでも、セリーヌたちがうまくゆく。それだけの為じゃないか。
「なんか・・他に言いようがないわけ?」
クロードだってバッチシだよって言葉が聞きたいだけだ。
「あーん。俺はアシュトンじゃねえんだ。
人様のナニまで覗いてみやしねえよ」
「はーん」
「なんだよ?」
「ナニかしてるらしいってことは知ってるんだ?」
ボーマンはぐっと詰まった。
「ち。そうなるかな?」
「だからぁ。それをききたいわけじゃない?」
「なんだ。お前、そういう奴なわけだ?」
「違うよ。そうなったって判れば、安心するじゃない?」
「馬鹿単純」
それ、どういうこと?って疑問符を顔につけたクロードに
ボーマンはゆっくり喋り出した。
「あのなあ。一度そうなっちまった男と女が会えば、
んな事するに決まってだろうが?
そんなことは聞かなくても判るだろう?」
「そ、そうだけど・・・」
「そんなことより、それだけでうまくいってるって判断する
おまえの脳みそが単純すぎるっていうんだよ」
ボーマンの言葉を頭の中で巡らして、
しばらく後、クロードの数式の答えがでてきた。
「エー?じゃあ。別れちゃったの?
これで最後って踏ん切りつけるために逢ったって事?」
「あー。いやになっちまう。
お前みたいな奴はコンピューター野郎っていうんだ」
「な、な、な、なに?それ?」
「1か0しかねえ。イエスかノーしかねえ」
「ああ・・・そういうこと」
「おまえ。そんなんじゃレオンに愛想つかされるぞ」
「え?」
ちいとばかり脅しを入れたらクロードがびくってした。
あんまし苛めちゃいけないってボーマンは話題をもとにもどしたけど、
それはあながちあたってないことじゃなかったんだ。
でも、そのお話は今度ね。
「あのな。多分セリーヌはこの先クリスの所にいきゃしねえ」
「じゃあ、やっぱしだめってこと?」
「だからあ・・・・。もういい」
「ぁ。ごめん。そうじゃないわけね?」
「そう。でもよ。それが男にゃどんなにつらいことかわかるだろ?
なのにアイツはそれに耐えてセリーヌを自由にさせてるんだ」
「あ。うん」
「つまり。根本的なとこでは、うまくいってない」
「あ。うん」
「だったら、したの、しねえので判断してもしかたないってことだろ?」
「はあ?」
「なんだよ?」
「だって、心が通じ合ってお互いが
同じ気持ちだからこそセックスするわけでしょ?」
「お前の場合はそうだろうけどよ。俺の場合はそうとばかりは限らない」
「だったら、セリーヌたちもそうなるわけ?」
「問題を内包しながら結びつく事はあるさ。
逆に、何も問題がなくてお互い惚れてても何もせず別れちまう事もある」
「あーわかんない」
「まあ。いいさ」
ボーマンは立ち上がりかけて気が付いた。
「そういやあ。この間セリーヌの昼飯代
お前にはらわせたままだったな?」
そういわれると恩着せがましい気分もうせてしまうというものである。
「ああ。いいよ。べつに」
クロードがそういってもボーマンだってきくわけがない。
だったら、はじめから黙ってりゃいいことだものね。
「はらってやるよ」
「いいよ。それにボーマンが払う必要ないじゃん」
「乗りかかった舟だって。それにお前のおかげでたすかったんだし」
「いいよ」
ボーマンはポケットを探り始めている。
「ボーマン。ほんとにいい。
セリーヌの涙きれいだったもん。お金の話はやめよう」
「そう・・か」
ボーマンはそれでもまだポケットの中をまさぐっていた。
そして、ポケットから財布・・じゃない。
銀色のステンレス製の便を取り出していた。
「まあ。お礼代わりにうけとっておいてくれ」
と、クロードに渡した。
「?なに?これ?」
「わかんねえか?」
ボーマンはあることを表すフィンガーアクションを作ると、
クロードにみせた。
「あ?そうなの?」
クロードにもやっと潤滑油である事が判ると
「お前にゃ、必要ねえか?」
と、ボーマンが笑った。
「ぁ?いいの?あの?ボーマンこそ必要じゃないの?」
「そういうときこそ単純になれよ」
「え?」
「いるのか、いらねえのか」
「あは・・いる」
「かー。ったく、好きだなあ」
「え、だって」
なんだかもうすっかりそれを
レオンに試したくなってるクロードに違いないんだ。
ボーマンは、
「さて、かえろう」
とってつけたように言うと、クロードに手を振った。
レオンがボーマンの帰るのに気が付くと
「ぁ。御免。もう1本。ぁ、2本。エチルを増やしておいて」
と、声をかけた。
「わかった。ん。じゃあ、ゆっくりとな」
って、ボーマンは帰って行った。
ボーマンの妙な言い草にレオンはすぐ感づいた。
クロードの側に行くと
「ナニ?また、変な事ボーマンからおそわったんでしょ」
と、手厳しい。
「またって?へんなことって?」
「だって、この間も・・・」
「なに言ってんだよ。レオンだって喜んでたじゃない?」
「ば、馬鹿。あんなの僕はずかしい」
「馬鹿だな。ボーマンがそういうやり方を教えてくれるってことは
多かれ少なかれみんなやってるってことだよ」
「そ、そうかな・・でも」
「ボーマンになんかいわれたの?」
「ううん。デモさ、ああやってもらったかよ?みたいに
思われてるんじゃないのかなあ?」
「いいじゃない。どんなに想像したって
本当に気持ちいいのは僕とレオンだもの」
「ぅ、ん。ねえ?クロードもよかったわけ?ね?どんなふうに」
「あは。そんなことここじゃいえない」
ありゃああ。バリアを張られてしまった。
今頃、こそこそひそひそといちゃついてるカップルの幸せ振りを
気にしてるボーマンじゃない。
研究所の外に一歩踏み出したボーマンの心の中は
クロードに言えなかったセリーヌたちへの心配がわいてきてる。
セリーヌはさらけ出せたんだろうか?
アイツはそれに十分応えてやれたんだろうか?
アイツ。うまくできたんだろうか?
惨めな思いしてねえだろうか?
どんどん心配になってきていても、
ボーマンはクロードにしゃべっちまうわけには行かなかった。
『馬鹿単純が。出しちまえば満足するばっかのセックスしか
考えてねえのかよ?』
相手のためにするセックスだってあるんだぜ。
男である以上、自分だけいけりゃいいなんてのは
自慰行為の延長でしかねえ。
女を勝ち取るために神様が与えてくれた道具を
自分の欲求の処理だけに駆使するなら、
それはやっぱり自慰行為と同じ事だ。
けど、慣れてなきゃ、女を我が物にする前に自分がよくなっちまう。
そしたら、そこの部分で女を繋げねえ。
繋がれねえ女が自分を繋ぐ事の出来ない男に服従する訳がない。
「追い求めさせるほどじゃねえから
セリーヌが一人でいいこにしてたんだろ?
じゃ、なきゃもっとつどつどセリーヌの方があいにいってたさ」
離れて暮らすそれもいい。でも、もっと逢いたくなる。
頻繁に会ってお互いを確認しあうんだ。
誰につながれてるか?
誰をつないでいたいか?
お互いの部分で嫌と言うほど思い知らせあうんだ。
それが本当だろう?
なのに。まだ、繋ぐ事さえきっとあやふやな男なんだ。
あいつじゃ繋ぎ止められない自分の
女のさがを知ってしまってるセリーヌには、
逢えば逢うほどきっと繋ぎ止められない苦しさに
もがかなきゃならない事が判っていたんだ。
いくら好きな奴がいても、でも、こればっかりはどうにもならない。
欲しいと思っちまったら、とめられやしねえんだ。
『ええ?俺でよかったろうが?
じゃなけりゃセリーヌは他の男に抱かれて、
あんたの事を心のなかで想ってるだけになっちまってたんだ』
けして告げてはならない事である憤りをくすぶらせながら、
ボーマンは家にたどり着いた。
「あら。早かったのね」
ニーネがボーマンを出迎えてくれる。
「ああ」
短く返事を返す、その声色でニーネはすぐに気が付く。
なんだか、ボーマンの機嫌が悪い。
「どうしたの?」
「ああ」
「ん?」
話してみない?そうニーネは言っているんだ。
ふーって、ボーマンはため息をついた。
ニーネはおとなしくボーマンが喋り出すのを待っている。
「何だよ・・あいつら、うまくいったのかなってな」
ニーネにはあいつらが誰の事かすぐにわかる。
昨日の今日のことだもの、
それはセリーヌとクリスのことに決まっている。
「何か心配な所がボーマンには見えてるんだね?」
伊達にボーマンの女房をやってるわけじゃない。
ボーマンの洞察力の鋭さをちゃんと心得ている。
「まあ。そういうことだ」
「あなたでも、どうにもしてあげれないの?」
まったく何たる亭主への絶大な信頼ぶりだろう。
可愛い言い草がますます、ボーマンの心を捉えさせてしまう。
「来いよ」
ボーマンはニーネを引き寄せると
自分の胸の中にしっかりくるみこんだ。
「ん?」
ニーネはボーマンの不安を取り除いてあげたいだけなんだ。
どうしたの?
そう、尋ねるニーネがボーマンにはとても、いじらしくて仕方ない。
ニーネを抱きしめると、その存在の確かさが
ボーマンの体を温めてくれる。
その暖かさが無性にボーマンを嬉しくさせてしまう。
「なぁ。いつだってこんな近くにいて、
こうやってお前を抱けるなんて、俺は随分幸せな男だと思うよ」
「うん」
ボーマンはきっと。クリスの寂しさに思いをはせたんだろう。
クリスに引き比べ、ボーマンはいつだって手を伸ばせば
そこにニーネがいる。
『あいつ・・・それなのに』
セリーヌの中に渦巻く不足が、仮にみたされたとしても
それでも、きっと、セリーヌはクリスの後をついていきゃしないだろう。
「なぁ?クリスにセリーヌはきっとついてゆきゃしないぞ。
お前、どう思う?」
そうだときまったわけじゃないだろう。
でも、ニーネはボーマンの推測を素直に信じた。
「寂しいよね?でも・・・」
「なんだよ?」
「セリーヌが付いて行かないだろうって事は私にもわかる気がする」
「どういうこった」
女じゃなきゃ判らない気持ちなのだろうか?
どこかでセリーヌを冷たい女だって判断し
責めてしまいたくなるボーマンは
ニーネの意見を聞いてみる気になっている。
『男の俺じゃわかんねえのかよ?』
ボーマンが黙り込むとニーネはふっと小さなため息をついた。
「きっと、自分じゃ駄目だって思うのよ。
だって、私だって貴方の奥さんにしてもらえてるけど
本当こんな私でいいのかなって考えちゃう事あるもの」
「え?」
「だって、貴方はとても大きな人だし、すばらしい人だと思うの。
そんな素敵な人にこんな私みたいな人間でいいのかなって?」
「馬鹿。何をいってるんだ」
「うん。でも。それにめげずに逃げ出さないで居れるのは
貴方が一生懸命私を好きでいてくれるから。
それに甘えてられるんだよね。それに・・わたし」
「なんだよ?」
「あなたが好きだから・・・・そばにいたい」
「ん」
「でもね。きっと貴方が本物の王子様だったら、
私も、もっともっと違う面で、自分じゃ駄目なところが
多くなってしまって、いくら好きでも、
甘える事ができなくなっていただろうって思う」
つまり、セリーヌの事なんだ。
「駄目な所って、例えばなんだよ」
セリーヌの付いて行けないわけが判らないくせに
付いて行かない事だけがボーマンにはわかるってのも
妙な事だと思いながらニーネは答えた。
「だって。例えば私がそうなれば王妃の席に座るのよ。
考えられないわ。柄じゃないし、それに・・・」
「なんだよ?」
「私という存在の下にいっぱいの国民がいるわけでしょう?
貴方だけの私でいれなくなるし、何をするにも
自分が王妃であるって事を先に考えて
・・・・想像しただけでいきがつまりそう」
『俺だけのお前じゃなくなる・・か』
ボーマンはなんだかわかる気がする。それは逆に考えりゃ
『俺もお前だけのもんじゃなくなる。
最初に自分の立場を優先させて・・・』
ナンカ納得できないボーマンの理解だって思うけど。
(だって、ボーマンのやってる浮気ってのは既に
ニーネだけのボーマンじゃなくなってることじゃないかな
って思うんだけど)
きっと、そうボーマンに尋ねたらはっきりと
『何言ってるんだよ。俺はニーネだけのもんさ』
って、しゃあしゃあと答えるに決まってるんだ。
ボーマンにとってニーネが特別な女性であるのは
ボーマン・ボーマン2で既に述べさせているから
ここじゃ省くけど、この矛盾だらけの男にとって、
自分だけがニーネの特別な男であるように、
ニーネもまた自分だけの女性であるのはまちがいないのである。
「でも、俺は幸せな事に、国王なんかにゃなれやしねえ」
「うん」
そうだよな。
自分を押し込めて、何もかも国民の事、自分の立場が先。
一番近くにいながら一番遠い存在になるくらいなら、
遠く離れていても素のままの自分でいることが
一番近い存在である事になる。その方がいいわけか?
一つの疑問に答えが見えると
ボーマンの中にもう一つの心配がわいてくる。
その素のままのセリーヌを、それも、クリスにだけしか見せちゃいけないセリーヌをちゃんと出せたんだろうか?
それが出来なくて遠くに離れてるって事は:::。
クリスが受け止めたセリーヌと本当のセリーヌはあるいは別人でしかなくなる。
違う女性を抱いてるようなもんじゃねえかよ?
クリスの心にあるセリーヌを崩したくないのは判らないでもないけど、
それは本との自分を抱いてもらってるわけじゃない。
そんな形のまま。また、遠くに離れちまうのに、クリスは本当にお互いを受け止めあったつもりでいる。
そんな哀れな幸せがあるもんか、どんなに傷ついたっていい。
本物を手に入れたい。それが幸せってもんじゃないか?
あんたどう思うよ?

ん?ボーマン。何コッチに振ってこなきゃなんないの?
あ?そういうこと?
はい。はい。あんたにとってニーネこそ本物なんだってね?
そういいたいわけね?

ボーマンがなんだかニッと笑った気がしたけど。
ボーマンの心配はまた同道めぐりを繰り返すんだ。
けど、アイツ受け止めれねえんじゃねえか?
それに応えてやれねえんじゃねえか?
だったらセリーヌは自分をみせれるか?
だけど、見せなきゃ。
いつまでもボーマンの心配に付き合っていても拉致が空かない。
しょうがない。ここは作者が一肌抜いで
セリーヌとクリス。
ちょっくら、覗いてくるか。

ボーマンの所から帰ってきたセリーヌとクリスである。
ボーマン家で、いきなり、
それなりに深い接触でお互いを確かめ合った筈であろうに、
セリーヌの中では小さな不満が火をいこらせはじめていた。
やっと逢えた。
そして、抱きあい、セリーヌは無我夢中のクリスを受け止めた。
だけど、慎ましく、身体をあわせてゆくうちに
セリーヌの中に堪えられない激情が生じて来る。
もっと深く高く感じたい。
そして、この・・・。
でも、あがり始めた快感に身を悶えさす事を開放する前に
クリスは果てた。
セリーヌの中に己の愛情を、欲情をはきだしきり、
それを受け止められたクリスはひどく充たされていた。
セリーヌをクリスの暖かい肌の下に擁きに続けながら、
どんなに逢いたかったかどんなに恋しかったか話し始めていた。
「でも、やっとあえた。僕の腕の中に確かにセリーヌがいる」
そして、二人はボーマンの家を出てセリーヌの部屋に帰ってきていた。

小さな部屋。
でも、ここにセリーヌの生活のすべてがある。
それを眺めていたクリスの口からため息が漏れた。
「どうかなさって?」
「いや」
クリスは思ったことを口に出せなかった。
「なんですの?」
いきなりセリーヌの部屋に入って、そのため息はなんだろう?
気にするなと言うほうが無理な事である。
「うん」
「言ってくださらなくて?」
「あ、あのね。ここに君の生活があるんだっておもったら」
「思ったら?」
セリーヌはいい憎そうなクリスの先を促した。
「うん」
しばらくの沈黙が続いた後。
クリスはポツリと漏らすようにしゃべった。
「やっぱり、君に来てくれといえないなって」
「あ」
セリーヌは行かない。
確かにクリスに指摘されたように自分の生活がある。
でも、行かない理由はそればかりじゃない。
身分の違いなんて、古臭い事を言う気はない。
でも、柄じゃないなって思う。
きらびやかな椅子に座って慎ましやかな生活を送る。
それで終わり?
血走った目のモンスターに本の少しの哀れみを向けると、
命をかけてまで救い出してやる必要もない仲間が救われる。
仲間意識なんて柄でもない。
ましてや冒険に命をかけてるわけでもない。
今だって是といった用事もないから
ぶらぶらして身体を休めてるだけ。
だけど、いくらそんな時間があるからって
王妃の椅子に座る事は出来ない。
王妃の椅子の上で身体を休める?
国民の生活を担うべき者が座る椅子の上で
セリーヌの退屈な時間を流してゆく?
国民にとって、こんな侮辱があるだろうか?
「ふーーー」
って、クリスがもう一度ため息をついた。
「僕が君に付いて歩きたいくらいだけど」
そんなことが出来るわけがない。
「僕の存在は僕ひとりだけのものじゃない」
たった三日私事の時間を作る事さえ容易じゃなかったクリスなんだ。
自由に動けるのは、むしろセリーヌのほうだったのに、
だけど、セリーヌはこなかった。
「ごめん」
「ぁ。せめてるんじゃないんだ」
セリーヌがこなかったのは判らないでもない。
来てくれればきっと、クリスはずっといて欲しいと思うようになる。
セリーヌがそれを断るのも辛い事でしかない。
でも、それでも、セリーヌはあいにきてくれようとしていたんだ。
それだけでいい。
「う・・ん」
セリーヌが言葉少なく頷くのをクリスは引き寄せた。
「いいさ。ほかに好きな奴ができたわけじゃないんだし」
かすかにボーマンとの事が
セリーヌの胸をちりりとひりつかせたけど、
やっぱり、クリスがいいって思ってるセリーヌなのである。
なのに、どうしてもクリスとの生活にとびこめないのである。
クリスの腕の中に身体を預けたセリーヌは
クリスにとって思わぬことをいいだしていた。
「ラ・マンでいい」
ラ・マン。つまり愛人である。
ビックリした顔のままクリスが黙ってセリーヌを見つめていた。
「だって」
そうとしかいえない自分の在り方じゃないだろうか?
セリーヌの提言にクリスはしばらく考えていたようだったけど、
やっと口を開いた。
「君がそれでいいならそれでもいい。
でも、僕は他の誰をも愛さない。誰とも結婚しない」
結婚を白紙にして、ラ・マンになったところで、
世間一般の言う妻帯者の愛人ではけしてない。
「それとも、そういうことを言ってるわけ?
僕に公の席用に表向きの妻を得ろと?」
「そうじゃない」
否定しながら、セリーヌはうなだれた。
どう言えばいいのだろう。
「だったら、なんで?そんなことをいうの?
こんな形であっても僕は君が必要だし、僕には君しかいない」
「・・・・」
与えつくされない思い。
奪いつくされない愛の形を
ボーマンにすがり埋めようとした弱い自分がいるのを
知っているセリーヌは小さなため息をついた。
(ずっと側にいてくれて、
一心に愛してくれる人が現れたらお互いかわってしまう)
と、セリーヌは思いもする。
あの時本気でボーマンに望まれていたら?
自分はどうしていただろう?
男の魅力って言うのが
自分をどうしょうもなく女である事を自覚させる事であるのなら、
おそらくボーマンほど魅力的な男は他にはいない。
それはクリスへの裏切りというものでなくなっていて
ボーマンのラ・マンになる事を選んだ女としての
自分の生き方になっていたかもしれない。
そんな自分が、クリスに譲れる物は
あえてラ・マンになろうとする事でしかないように思えてもいた。
「どうしたの?」
黙り込んだセリーヌの瞳を覗き込むと
クリスの手が優しくセリーヌを求めだしてゆく。
確かな事はセリーヌが自分のものであるということだけである。
セリーヌへの愛おしさを知らせるように、
クリスがセリーヌを包んでゆく。
慣れてない不器用さがやけに愛おしくて、
セリーヌはクリスの前では、やっぱり初心な女であろうとしてしまう。
「あ」
クリスの指がセリーヌの敏感な場所をやっと探り当てると
セリーヌの意識はその感覚だけを追い求め始めた。
「クリ・・・ス」
「ん・・?」
「私。貴方が思ってるような女じゃない」
きれいに透き通るくらい純粋に求められてしまうと、
どろどろした欲求がもたげてくるような女である自分が
つらくなってくる。
「ごめん」
謝ったのはクリスのほうだった。
「え?」
謝るのはセリーヌのほうじゃないのか?
「僕が・・・」
男として未熟なせいだってクリスは言おうとしていた。
でも、その言葉を言えば、反対に
セリーヌの過去にきがついていることだってことにもなる。
そんなことなんか、どうでもいいことなのに、
でも、もう、気が付かない振りなんかしてみても、むだなことだった。だって、セリーヌ自身が自分をせめだしている。
「違う・・私が」
「判ってる。セリーヌが」
熟れた女性であるということは
いくら隠したって隠し遂せるものじゃない。
「ごめん。こんな・・・」
「違う。僕が・・・」
(僕が何もかもに酔わせてあげられないんだ。
だから、気にしなくてもいいことまで気にして
セリーヌが自分をせめてしまうんだ)
クリスの方こそ逆に自分をせめだしている。
セリーヌの過去なんか気にしてない。
けど、現実お互いが埋め合わせられるレベルの違いが見えてしまうと、
どうにもならないくらい男ってのは惨めになってしまうんだ。
かといって、それを見れば苦しいのはセリーヌでしかない。
「御免・・少し頭冷やしてくる」
いたたまれなくなってクリスは外に飛び出した。
知らない町、知らない通りを歩いてゆくうちに
クリスの足は知らず知らずの内に、
この町の唯一の知人である薬屋のおじさん(しつれーい)の方に
向かっていた。
「やっぱり。もう、閉めてるよね」
閉ざされたドアには小さなクローズの看板がぶら下がっている。
(引き返して・・それから・・どうしよう?)
セリーヌにかける言葉も見つからない。
あてどなくさ迷って、どこか
公園でも見つけてベンチにでも座ってみようか。
溜まんなく寂しい思いにふかれてしまえば・・・。
たとえ未熟な自分でもいい。
こんな寂しさよりいいって、
セリーヌに素直に縋って行ける勇気(?)が出てくるかもしれない。
閉められたドアの前で回れ右をすると、
クリスの目の前にボーマンがいた。
「あ、あれ?」
随分遅くなってから帰ってきたボーマンは
こんな時間に誰かいるなって思いながら、
店先にいる男に近寄って行ったんだ。
クリスのわけねえよな?
こんな時間に最愛の人をほったらかしにして
こんなところに来るわけがない。
でも、男の背中がひどく寂しげに見えて
ボーマンはまさかと思いながら近寄って行ったんだ。
「誰かと思えば、どうしたんだ?
セリーヌとうまくいかなかったのかよ?」
「あ」
はっきりと、きかれてしまうと堪えていた物が一気に崩れ落ちた。
「僕じゃ・・だめ・・なんだ」
判らないでもない。
温室の中で純粋培養されて育ったんだ。
女なんか教えてくれる奴がいるわけがない。
自分から学び(?)に行く事さえ思いつかない。
いや。それより止められない恋に突っ走るチャンスにさえ遭遇できない。
そんなクリスが初めて恋をした女性がセリーヌだったんだろう。
夢中で追い求め、恋に輝いた。
でも、セリーヌの中には
見た目以上の大人の女が住んでいたって事だろう。
『食い足らねえだろうな』
って、元々ボーマンが心配してたのは知ってるよね?
けど、若い男がどんなにタフでどんなに飲み込みが早いか。
セリーヌさえお願いしていきゃ、
あっという間に立場は逆転するに決まっている。
だからこそ、みだらな女を見せつくしてしまえって
何度もセリーヌに言い含めたんだ。
なのに。下手をうっちまったんだろう。
じゃなけりゃ、今頃はクリスは
欲しがる女に、乱れる女に一心不乱になって
与えつくそうとしてるはずじゃないか。
追いすがられ、求められることほど、
征服しがいのある極致はないぜ。
『セリーヌお前もとことんあばずれてねえって事だろうけどよ。
でも、遠慮はほんとに損慮でしかねえ』
ボーマンがセリーヌの失敗を修復する気でいるのは無論である。
セリーヌがうまく立ち回れないなら、
コッチを何とかしてやるしかないじゃないか。
それで、ボーマンはコッチの奴に向かって
「よ、ここじゃ、なんだから、しょば、ぁ、場所かえようぜ。
話してきかせろや」
って、言ったんだ。

そして、昨日の夜に行った店に
ボーマンはクリスを連れて出向いていった。
相変わらず静かで変な酔っ払いもいない。
プライベートな事には知らん顔してくれる店の対応もいい。
奥の席に座るとボーマンは尋ねた。
「水割りでいいな?」
「あ・・・はい」
運ばれてきた水割りをクリスは一気に飲み干した。
『おいおい。荒れてるじゃねえかよ?』
だけど、ボーマンはそんな観察をしながら、止めもせず煽るようにいう。
「おーし。いいねえ。もう一杯いこうぜ」
ボーマンに勧められるままクリスは何杯か水割りを覆った。
『ちったあ、よってくれねえと、お前にやあ、いえねえよ』
ボーマンの目論見が功をそうしはじめていた。
クリスの酔いを確かめながら飲んでいたボーマンは
そろそろ本題に入ったってかまわねえなと見当が付いた。
「おまえなあ・・・行儀がよすぎるんだよ」
「はひ?」
「お?酔っちまってるのか?」
「らいじょうぶれす。
ろれつはまらっているけろ、意識はしっかりしてます」
「だろうーな」
「で?行儀が良すぎるって何のことれすか?どういうことれすか?」
ま、いいくらいに酔ってくれていて、
砕けた事を話すにはちょうどいいくらいではある。
「あのなぁ、セリーヌとこれが、うまくいかなかったんだろ?」
ボーマンはクリスの前で親指を
人差し指と中指の根元の間に突っ込んで両指の隙間から
親指をわずかに覗かせた。
「そ・・うれす」
「ハーン。意外と俗な事を知ってるじゃねえかよ?」
ボーマンは妙な事に感心した。
「あは。町にれたとき。背広のお兄さんが、よってきてそうやって、
あの・・いい子、いるよっていったんれ・・わかったんれす」
「なるほど」
と、そんなことに納得してる場合じゃない。
「で、ろういうことれす?」
我ながらこいつのしゃべってる事がよく通じると思いながら、
本人が認めたい以上こんなに話しやすい事はない。
ボーマンは本題に入ってった。
「あのよお。え?ちったぁ。顔が赤くなっちまうような、
やらしい事をささやいてやってんのかよ?」
「ぇ・・ぁ、ぇ?それって・・あ。ろんなことですか?」
「ろ、ろんなことって・・」
そりゃあ、そうだ。いえるわけもない。
ぽん引きのにいチャンに初めて、セックスを現す
フィンガーアクションを知らされたような男が
卑猥な事をささやこうにも、語彙があるわけがない。
「あの・・具体的にどう・・」
「え?」
そうだよな。
でも、俺がいわなきゃ・・・しょうがねえんだよな。
実際の時にならまだしも、
んとに、酒でも飲んでなきゃいえることじゃない。
なんだよ。るせーな。
ああ。判った。
そりゃあよ。レオンをからかうときは確かにずばずば言うよ。
でもよお・・今まじなんだぜ。
誰に話しかけてるのだ?ボーマン。本題に戻れよ。

「あー。ん。そりゃあ。なんだよ。良いか?女ってのはな。
してもらってるより、されてるってえか
やられてるっていうか・・そんな気分によわいんだよ」
「はひ?」
「だからあ」
くそ。俺の方が照れてどうすんだよ。
ボーマンはもう少し水割りをおあった。
「とにかく、てひどい位に欲情をあおってやんだよ」
「セリーヌに?」
「あたりめえだろうが?そうやって、セリーヌの欲情をあおって」
「ぼ。僕のじゃなくて?セリーヌの?」
「そうだよ」
「今以上のセリーヌになっちゃう?」
「あーん?判ってるんじゃねえかよ?
それをもっと煽ってしまうってのはな・・・。
そんなセリーヌがいいっていってることになんねえか?」
「あっ」
そんなセリーヌがいやだって
言ってしまったような行動だったんだとクリスは今更ながら気が付いた。
「僕・・それで・・なんか、うまく・・答えられないって
自信なくなって・・とびだしてきちゃったんれす」
「だろうな」
「あ、わかるんれすか?」
「ああ。でもよお。考えてみろや。
お前が行儀が良すぎるってことは裏返せば
セリーヌを行儀の悪い女だってことにしちまうんだぜ?
そんな奴に自分の行儀の悪さを開放して見せられるか?」
「ぁ・・無理れす」
「なー?だから。開放させてやれよ。
自由にさせてやりたいって言った、あんたじゃねえのか?」
「ぁ・・・。僕がセリーヌをとじこめていた?」
「そういうこったろうな。なあ。だからさあ。
それを開放させてやるためにも、やらしい事をいってやるんだよ。
頭の中が訳がわかんなくなってしまうくらい言ってやるんだよ。
そしたら・・・」
「そしたら・・?」
「もう。自分をとめられなくなるよ。
お前が欲しくて仕方ねえ女がいて、
お前。自信がねえの、なんの、こうの、いってられるか?」
「はあ?」
ボーマンにはもう一つ計算がある。
自分の口から卑猥な事を言うってのは
それでもっと自分自身も煽られるって事なんだ。
お互いに欲情を高めあう。
それだって、立派な前戯だぜ。
「あの?貴方と奥さんもそう?」
クリスの素朴な疑問に
「にゃに?」
思わず上ずった声をだしたボーマンである。
が、言った手前もある。
「そ・・そうだよ」
「じゃあ・・どういってるのか教えて」
うまくはめられてしまった気分を味わうボーマンである。
こんな調子でこいつはうまく外交政策にも対処してるに違いない。
覚悟を決めるとボーマンは誰にも話した事のないニーネへの甘言
その他もろもろをクリスに話し始めた。

随分それからも飲んだ。
話し終える頃にはクリスは十分酔っていた。
「おい。かえるぞ」
クリスに肩を貸すとボーマンは外に出た。
セリーヌのところまでこいつを送り届けなきゃいけない。
随分酔ってるけど・・・。
その方があっちの方はイキにくくなって、セリーヌにゃ好都合だろう。
足取りが怪しいけど・・・
まあ。こいつがうごかなくったってセリーヌがなんとかしてくれるさ。
ボーマンは先々まで洞察しつくす。
不意にクリスが大きな声を上げた。
酔っ払いの雄たけびなんてもんじゃない。
「やるぞ」
「え?」
「なめちゃうぞ」
「げ?」
「ほら。もう・・こんなにぐっしょり・・」
「おい・・」
「気持ちいい?もっと・・ほしい?」
「・」
た、頼むから路上の真ん中でボーマンの教えた事を
大きい声をだして復習してくれるな。
とんでもなく一気に増えた卑猥なモーメントを
わめき散らすクリスをやっとセリーヌのところに送り届けた。

クリスを二人でベッドに寝転がせるとボーマンはセリーヌを見た。
「なんとか・・してやれよ」
「ボーマン」
「お前のことがすきでたまんねえんだ。
おまえだってそこんとこ判ってるだろ?」
「・・・」
「なあ。口で四の五の言ってみたって始まんねえだろ?
どうしょうもねえお前の中の女が欲しがってる物がなんなのか。
お前が教えてやるしかねえだろ?」
「だって・・・」
「駄目だったらそれで、別れちまえよ。
汚い自分を見せられねえでセックスなんかすんなよ。
え?そうだろ?
どう見たって醜くってみっともねえ物をこすり合わせるのが
セックスじゃねえかよ?
ぇ?今更、見栄なんかはってどうすんだよ?
しかたねえじゃねえかよ。欲しくてたまんねえんだろ?
お前のそこにあじあわされたくて、しかたねえ。
なあ。どう、否定したってお前はどうしょうもなく女なんだよ」
「否定・・してる?」
「自由なおまえらしくねえじゃないかよ?
俺だったら欲しい物はどうやったって手に入れる。
手に入れることに精一杯チャレンジする。
それが本当の自由じゃねえのか?」
「か・・可能性から逃げてるって事?」
「そうさ。こだわって、こだわって。
あげく、恐れて、自分の殻を打ち砕こうとしない人間の
どこが自由なんだよ?」
「ん」
「ああ。七面倒くさい。いっそお前からやっちまえ」
「え?」
ほうけてるセリーヌにかまわずボーマンは
クリスのズボンに手をかけるとジッパーを引きおろした。
「あ・・」
セリーヌの制止をおしのけて
ボーマンはクリスの下半身を裸身に変えさせていた。
「はあ」
立派な物じゃねえかよ。
オマケにいい具合にそそりたってしまってる。
「ほら」
セリーヌの手を引くとボーマンはクリスの物を掴ませた。
「な?なめちまえよ?なあ。
そんなことはなんでもねえことだよ。
女なら誰だってそうしてやりたくなるんだ」
「・・・」
「ほんとさ。んなことくらい。レナだってプリシスだってやってんだよ」
「う・・うそ」
「嘘かどうか。自分の中の女にきいてみろや」
ボーマンは最後にそっとセリーヌを見た。
そして、ボーマンは出て行った。
ドアを閉めるときボーマンはもう一度、セリーヌを見た。
セリーヌがクリスの物をいとしげにほお擦りをしていた。
そして、セリーヌの顔が・・・・。

ボーマンはぶすいなおとこじゃない。
セリーヌの決心がかたまったのを見届けたらそれでいい。
『ゆっくり。そして激しく女の深さをおしえてやりゃいいさ。
そして・・・クリスに繋がれるんだ。セリーヌ。な?』
                          (ばいばい)

      エピローグ

で、どうなったんだよ?って?
きになるよね?
酔いがさめたあとも。
もう1日だけの予定だったクリスが
セリーヌの部屋から一歩もそとにでずにいたのは
いうまでもないことだろう。
もう1、2日だけなんとかしてやれって、
ボーマンがクロードの所に行ったのは当然の事である。
「バーニィーがのせるかな?」
って、不安を口に出したクロードをにらみつけた。
「てめえ。飼い主だろ」
帰りの時間をバーニィーで稼いで二人を
少しでも、一緒にいさせてやりたいって気持ちが通じないで
飼い主やってんなよ。
「そんなこといったって、僕。飼い主じゃない」
「にたようなもんだ」
「もう・・・」
「なんとかしろ」
「・・・」
有無を言わせずボーマンが約束を取り付けると
セリーヌにコールを送った。
「だいじょうぶかな?」
「ちっと、嫌がるかも知れねえけど・・アイツは辛抱するだろうよ」
乗せたくない相手をしぶしぶ乗せたときの
バーニィーの飛び方はひどいんだ。
「きいてみるね」
「ああ」
クリスが嫌というわけがない。

三日後。
バーニィーにクリスを乗せることを了承させてクロードは飛んだ。
そして、帰ってきたクロードがふらふらするという。
『案の定かよ』
バーニィーのわからずやが、ひどい飛び方をしたってことである。
「あ。クリスは?」
セリーヌはクリスのことが先に気になる。
「よく・・・わ・・かんない」
「え?」
「よく。平気だよ。信じられない」
「へえ」
と、ボーマン。
「なんともなかったってことね?」
セリーヌがもう一度念を押すと
「ちがうよ。もう、げろげろ。
なのにさあ。自分をそんな目に合わせた奴に」
「な、なに?」
心配なセリーヌの顔。
「今度はセリーヌを乗せて飛んできてね
って、すげー丁寧にお願いしてるんだよ?信じられる?」
「あ・・」
セリーヌの瞳から涙が零れ落ちそうだった。
「逢いにいくさ。な」
ボーマンがセリーヌを見た。
「ええ。そのときはクロード。頼みましてよ」
そうさ。何もかも受け止めてくれる相手はクリスしかいない。
そんな相手に逢わずにおけるもんか。
一層色っぽくなったセリーヌを見つめながら
ボーマンはちょっと負けたなって、思った。
だって、たった4,5日の間にクリスは十分成長しちまったんだろ?
若さにや、かてねえ。
どうせ、俺は薬屋のおじさんだ。
クリスがポロリと漏らした一言の通りだ。
まあ。いいさ。ボーマンはセリーヌの肩を叩いた。
「うん?」
「さみしくなっちまったな?」
「でも。いいの」
「なんだよ?早速、つよがりか?」
「そうじゃありませんわ」
「じゃあ?なんだよ」
「時計の振り子」
「あん?」
「遠くにふり離れたほど一番近くにかえってくるでしょ?」
そういうパターンもありかもしれないな。
「まあ。欲求不満になんない程度にあいにいくこったな」
「嫌な人ですこと」
セリーヌがひどく恥ずかしげにほほを染めた。
まんざらじゃない気分をみっちりと味あわせてもらって、
しっかりつながれちまったな?
「ち」
ボーマンは口惜しげに舌打をすると
『逃がした魚は大きく見えるだけさ』
って、思った。

続きを読む

イッツ・オンリー・ユアマインド⑤

お話が後先になってしまって
イッツ・オンリー・ユアマインド④を読んでくださった人は
一体ボーマンとセリーヌに何があったのかと
非常に気になっておられる事と思う。
やはり、書いておかねば要らぬ心配をかけ、
かつ好奇心が満足しない事であろうと思う。

ボーマンは足を早めた。
どうにも気になって仕方のないことを
そのままにしておくことは出来ない。
と、なると自然、足はセリーヌのところにむかってしまう。
そう、それは、この間、デイアスとレナの妊娠騒動の時だった。
アマンダに現れたセリーヌと意気投合して
随分遅くまで飲み歩いたのだけれど、
セリーヌを送ってゆく頃には、
ボーマンもセリーヌもいささか酩酊していた。
が、セリーヌが部屋に入る手前でふと、涙ぐんだのである。
孤独な部屋に入り独りぼっちになる。
酔いが心の垣根を取り払い、
その寂しさをさらけ出さずに置けなかったセリーヌの心の深淵に
ボーマンは思わずセリーヌを抱き寄せそうになった。
『いけねえ・・』
ボーマンの優しさに縋らせちゃいけない。
手を伸ばせばそのまま飛び込んできそうなセリーヌの
瞳の中にある寂しさに気が付かないふりをした。
「なんだよ?その気になったかよ?」
軽くいなすつもりで戯れた言葉を懸けたボーマンに、
セリーヌはいつもなら
「まだ、あきらめてませんの?さすが、ボーマンですこと」
と、軽く受け流す。
が、ボーマンの意に反してセリーヌは黙って俯いた。
「え?」
たじろいだのはボーマンのほうだ。
落ちない。そう判ってるから思い切り卑猥に口説きもした。
(なのに。この態度はどう考えても)
一歩踏み込めばセリーヌと言う女性と、肌をあわすことができる。
ボーマンだって、んな事は嫌いじゃない。
(誰?大好きだって書くべきといってるの?)
でも。ボーマンは押し留まった。
(ぇ?俺なんかに抱かれちまったら、
お前。俺から離れられ無くなっちまうぞ?
お前。一生、ラ・マンで終わっちまう。
お前はそんな女じゃいけねえんだ。
最高に日当たりのいい場所で
本当に好きな奴と目いっぱい幸せになれる女なんだ)
ボーマンは胸の中で語りかけると
「な?言ったとおりだろ?酔うと欲しくなっちまう。
んな訳で・・俺はちっと寄り道して帰る・・内緒だぜ」
言いながらボーマンはセリーヌを部屋のほうに押しやった。
「ま、お前のこれに面合わせられねえ様なことはしたくねえし」
矢継ぎ早に言いながらボーマンは子指を立てて見せた。
「そいつを裏切っていいような気持ちならさっさと別れちまえ!」
セリーヌのその気もわかる。
セリーヌの欲情を受け入れたくないわけじゃない。
だけど、遊びでもかまわない。
と、抱かれちまうことを許してしまいたくなる寂しさに、
流されて欲しくはない。
「なあ・・俺がほんとにほしくなったら、いつでも・・いいぜ」
ボーマンはセリーヌの頬に軽くキスを与えると
「ん、でもよ。嬉しかったぜ」
と、いうとそのまま暗闇の中を駆け出していった。

それからボーマンの心の中に煮凝りみたいに
セリーヌの寂しい顔がちらついてきては、
うかびあがってはなれやしない。
「たく、解決法を何で、俺なんかにもとめんだよ?」
思わず呟きながらボーマンはセリーヌの家のドアをノックした。
顔を出したボーマンにセリーヌはじっと立ち尽くしたまま、
ボーマンをみつめていた。
「少し・・ききてえことがあんだけどな?」
ボーマンの言葉にセリーヌは頷くと、
ボーマンのためにドアを大きく開いた。
「あ・・」
ま、いいか。前みたいに酔ってるわけじゃない。
セリーヌだって、そこら辺の機微はわかってるはずである。
「ま、はいるぜ」
自分から了承をえると、ボーマンは部屋の中にはいって行った。
「ききたいことって?なんですの?」
「ああ」
ボーマンは、軽く迷っていたが、
セリーヌだってこの間のことは忘れちゃいやしない事であろう。
「お前の態度をみてるとな・・あいつのことな」
ボーマンは良く知らないセリーヌの恋人の事を
そう、表現すると小指を立てて見せた。
「まあ、なんだよ。はっきりいってな。
諦めちまってるって言うか、
諦めちまおうとしているって言おうか、
そんな風にみえるんだけどよ」
ボーマンに切り出された言葉に
セリーヌはふううと大きな溜息をついた。
「その通りかもしれません事よ」
「え?」
「私じゃ・・・」
「おまえ?なにいってんだよ?」
「私なんか・・・」
ひどく投げやりになっているセリーヌがいる。
「な?何で?どうしておまえじゃ、だめだっていうんだよ?」
ボーマンがその理由を問い直そうとした時、
もう一度セリーヌの瞳の中にこの前の夜と同じ
やるせない光があるのを知らされていた。
『なんだよ?それって、つまり・・・』
「ボーマン・・私」
『おい?お前?それってどういうことかわかってるのかよ』
ボーマンにはセリーヌの中にある物狂おしさが、
セリーヌを苦しめている事だけは読み取る事が出来た。
「ち。しかたねえな」
あたって砕けろじゃないけど、
もう一歩進んでみないと見えてこないものがある。
『だけど、俺も蛇の生殺しじゃねえかよ。ま、相見互いかよ』
ボーマンは少しばかり覚悟を決めるとセリーヌに手を伸ばして、
自分の身体に引き寄せた。
「来いよ」
ボーマンが囁くまでもなくセリーヌはボーマンに身体をあずけてきていた。
軽く項を舐め上げるとそのままキスにもつれこませると、
大人しく身体を預けていたセリーヌがはっきりと興奮を返してきた。
セリーヌの舌がボーマンの舌を絡めとる。
それだけでボーマンにみえてくるものがある。
『おい。えらく手慣れてるじゃねえかよ?おまけにひどく餓えてる?』
そうとなれば、ボーマンは遠慮なくセリーヌの下半身に手を伸ばした。
「ほら」
途端にセリーヌの声が上がってきたのはいいけど
その部分がしこたま潤んじまってる。
「ええ?いい女じゃねえかよ?こんなになってて、何がだめなんだよ?」
「ぁ・・ぁ・・あの人に」
「ん?だろ?アイツがほしくなってきたんだろうが?」
ボーマンの指がセリーヌの鋭い部分を緩やかにさすりあげている。
こんなときほどウソはつけない。
思考能力がどっかに行っちまって本当の事しか喋れなくなっちまう。
「こんな私だなんて、みせられません・・・・わ」
「て?お前?アイツにこんなこと、してもらってねえってのかよ?」
それで、ずうっと会いもせず思ってられる?
それこそ、まじ、じゃねえかよ?
だけど、さっきのキス。
しっかり女になってる者のものでしかない。
『お前。それで、アイツに遠慮して、
無理して初心な振りして、
挙句バランスをくずして自分の中の女としての欲求に
のみこまれちまってるってことかよ?』
「ううん」
セリーヌはやっとボーマンの問いに返事を返したけど、
それは一層ボーマンの推理に確信を持たせただけだった。
そうなると、ボーマンがしてやれる事も決まってくる。
「いいじゃねえかよ?」
ボーマンは指をうごめかしながらセリーヌにささやいた。
「ん・・なに?」
短い返事をやっと返せるくらいにセリーヌがきわまっている。
「だからよ。それでいいじゃねえかよ?」
「だ・・って」
「何を見栄はってんだよ?何をいいかっこしなきゃならねえんだよ?」
「で・・・も」
「過去があるって事がいけねえことかよ?
ええ?お前くらいいい女と恋に落ちた奴が
お前に手を出さずに終わっちまう?
そんなげせねえことはないぜ。それくらいアイツだってわかってるさ」
セリーヌにいろんなことがあっただろう事は
ボーマンにだってすぐわかる。
でも、それもこれも、いい女だって事の証じゃないか?
アイツだって、セリーヌがいい女だから惚れてるんだ。
自分はよくて過去の他の男が手を出したのは赦せない?
だったら、自分も、許すなよ。
セリーヌに「なんか」するなよ。と、いいたくなる。
「ちが・・うの」
「あーん?」
「あの人。何もわかって\\ない」
「はん?」
ボーマンの指の動きにセリーヌがこらえられなくなってきている。
「ボーマン・・・もう・・だめ」
セリーヌがもっと深い物を求めてだしている。
『それって、つまり?』
ボーマンは自分の確信を見定めるためにセリーヌへの刺激を変えて見た。
コアを人差し指と薬指で挟み込むようにして固定させて
とがった部分をぐっとおしださせて、
その先端を中指できつくなであげてやった。
途端にセリーヌの口から
「ねえ。もう。だめ。ボーマン。いれ・・て」
ひどく淫らな懇願があがってくると、
セリーヌの手がボーマンのものにのびてきた。
「んなに?ほしいかよ?」
「ああ・・ねえ・・はやく」
ボーマンを促すように
ボーマンの辛抱を切らせるためのように
セリーヌの手がひどくなめらかに動き出している。
たった、一つの快感が欲しい。
その欲求に逆らう事を忘れたしなやかな牝豹がいる。
「そういうことかよ」
ボーマンは自分の思った通りでしかない事にうなづいたのだが、
セリーヌの懇願はピークにたっしていた。
やにわにセリーヌはボーマンのものに顔を寄せ、
ボーマンへの催促をあらわにしようとしていた。
「セリーヌ。それ以上は、なっちゃ駄目だ」
ボーマンの突き放すようにきつい言葉にセリーヌはボーマンを見上げた。
切なく、潤んだ瞳がボーマンをとらえている。
「おまえ。何で、俺でごまかすんだよ?」
「・・・」
いっそ、手を伸ばしてセリーヌにいれこんじまいたい。
その欲求を抑えながらボーマンは言葉をつないだ。
「いいじゃねえかよ?
ふしだらでみだらで淫猥で、欲しくてしかたねえ。
かまわねえじゃねえかよ。
好きな相手に突っ込まれてえのは当たり前だろ?
俺なんかでごまかすなよ。
見っとも無くて、どうしようもねえ自分をさらけ出すのは、
俺じゃないだろ?」
「・・・・」
「初心な男に、みっともねえ自分を見せるのが、いやなのはわかるぜ。でも、よ。それも、おまえだろ?
自分が汚く見えてしかたねえのもわかるよ。
けど、自分をさらけださずに、
俺にお前の汚い欲望を処理させておいて、
きれいなとこだけで付き合ってゆく?
お前、それ、きれいな人間のやることかよ?」
「・・・」
「俺がアイツなら、ぶつけてもらえねえ事の方が悔しいよ。
きたねえお前ごと、すべて、何もかも、
自分のものに出来ねえ方が悔しいよ」
黙って聴いていたセリーヌの口から言葉がもれた。
「あのひとに・・ぅ、うけとめられるっていうの?」
それこそがセリーヌの本心だろう?
うけとめられたい。
思い切り、彼の物で喘がされる幸せに酔いたい。
でも、できない。
悲しい女心と女の性の狂おしさはボーマンの推測したとおりであった。
「出しもしねえで、何言ってんだよ。
お前はアイツをなくしたくねえよな。
それが怖い。かといって、自分の欲望を知っちまってる女が、
おとなしくできるわけもねえよな」
「ボーマン。言うとおりですわ」
「淫らな自分をさらけだしたくないって、
逢わなきゃ、なお恋しくて、恋しくて
自分の中に淫らに燃え尽きたい女が大きくなっちまって、
なおさら、逢うのが怖い。
判るよ。でも、よ。それも、おまえなんだぜ」
「私・・」
「なあ。諦めてる?諦めかけてるって言ったよな?」
セリーヌは戸惑いながら、頷いた。
「本心じゃねえのは判ってるよ。
でもよ。同じこというなら、
何もかもぶつけちまってからでいいじゃねえかよ?」
「で・・でも」
「本気だったら、アイツが自分自身を変えようってしてくれるさ。
そんなことでお前を捨てちまうような男なら、
お前のほうから捨てちまえ。
いいか?おまえなんだ。
どんな汚くても醜くても全部お前なんだ。
きれいなお前しかいらねえ?
そんな馬鹿に、そんなガキに、お前をわたすくらいなら、
よっぽど、今。俺がお前をだいちまう」
「そ、そんなひとかどうか・・わ。わからないことよ」
ボーマンの言葉に
セリーヌははっとしたようにボーマンから少しはなれた。
「だろ?出してねえだろ?な?
お前を安売りする必要はねえんだぜ。
お前のそんな部分は俺だったら高くかってやるぜ。
そういうもんなんだよ。だから。胸張って目いっぱい乱れてこいや」
「だめだったら・・」
「訳ねえって。男なら誰だって自分の女を
自分の物で思い切りあえがせてみてえもんさ。
お前は十分。男を満足させてくれる女だって・・」
「・・・」
「アーン?なんなら、やっぱし、俺で試してみるか?
で、自信もってあいにいくか?」
「ううん」
「だろうな。お前。俺に抱かれちまおうって思いながら、
あいつの事考えてたろ?」
「え?・・・うん」
「これがあの人だったらなってな。
いいか。俺も思い切りお前を喘がせて喜んでみてえけどよ。
誰かの代わりじゃ、俺のロケットの安売りになるんだ」
「そうだよね。ボーマン」
ぇ?手前らもみんな俺を誰にでも手を出す色きちがいか、
欲望の塊が歩いてるみたいに思ってるんじゃねえか?
残念だが、俺には俺のポリシーって物がある。
どいつでも、いいってわけじゃねえし、
その状況によりセックスを使い分ける。
やりたいだけの欲情でも、相手は選ぶ。それに・・・。
「ボーマン?」
誰にぶつぶつ言ってるのか知らないけど、
セリーヌはボーマンの側をたちあがって、
乱れた服を直し始めていた。
「は?ああ」
「どうかしまして?」
「いや・・なんでもねえ」
「あの」
「お?」
「あたってくだけてみますわ」
「お?」
セリーヌの顔がひどくはれやかである。
「そうかよ?」
くそ。アイツがねたましくなっちまってきてる。
嫉妬ほどやっかいなものはない。
男の嫉妬は、ロケットに直結してる。
ボーマンは長年の経験でそれがよくわかっているのである。
セリーヌの決心が固まった以上、長居は無用である。
これ以上いたら、今度は俺が自制心をなくしちまう。
ボーマンはそっとロケットをさすり上げ
『ぇ?ご馳走を前にお前もよく辛抱してくれたじゃねえかよ』
と、労わる(?)と、
「ん。じゃあ。帰るぜ」
と、セリーヌに手をふった。
ドアを開けるボーマンの後ろからセリーヌの声が聞こえた。
「ありがとう。ボーマン」
なにいってんだよ。はじめから諦めてるのは俺のほうさ。
の、割にや、ちっとばかしいい思いさせてもらったさ。
セリーヌの部分を触った指をぺロッと、なめあげると、ボーマンは
「やせ我慢しただけさ」
と、笑って見せた。
「後はアイツにたっぷりかわいがってもらえよ」
ボーマンは外にとびだした。
『ボーマン。にくいほど、いなせにくどくんじゃないわよ』
最後にボーマンが見せた所作まで、
小気味いいほどセリーヌをいい女だっていいのけてみせている。
『アリガトウ・・・ボーマン』
自信をとりなおして、価値観を取り直して
セリーヌはクリスに真正面からぶつけて、
そして、本当の自分ごと全て受け止められたいって
痛切に思い始めていた。
『逢いに行こう』
無性に逢いたい。今はそれだけ。
クリスへの思いを改めて燃え立たせられると
セリーヌはボーマンが自制してくれたことにも、
そして、心の底を切り開いて治療薬を施す
ボーマン流の手術だった軽い接触にも、感謝するだけだった。

次の日のボーマンである。
頼まれた製剤がうまく出来ず、出来あがったのは夕方近かった。
「どうしてこう遅くなるわけ?」
ぷんぷんに怒ってるレオンを前にして
ボーマンは珍しく居合わせてるレナとデイアスに肩を竦めて見せた。
どうせ怒ってる顔もまたいいんだってクロードの奴は思ってるんだろう。
「しかたねえだろ?」
「おかしいよ。単純構造のアミラーゼを
混ぜてくれって言っただけじゃない。
そんなに難しい反応がでるわけない」
「なんだと」
ボーマンがいささか切れた。
「あ」
「机上の計算式が成りたたねえから
何でもかんでも実験とデータ―取りが必要になるんだろうが?
何年学者やってんだよ?」
負けじとレオンが言い返してゆく。
「ちがうよ。計算式を証明するための実験だ。
手順が違ったり、異種の物質が混ざりこんだり、
ボーマンにミスがあったんだ。
でなけりゃ失敗はしない。僕の数式はあってる」
「だったら・・てめえがやれよ」
「て、てめえ?」
「ああ。てめえなんか、てめえで十分だ」
大人気なく、ボーマンが食い下がっている。
仕事上の意見の食い違いならまだしも、これ以上ほうっておくと
どんな罵詈雑言が飛び出してくるか判らない。
二人の決裂が根深い物になってしまう。
そのとき
「レオン」
って、一言クロードが呼びかけた。
「あ・・ん」
途端にレオンがしゅんとしてしまった。
「約束したろ?」
何を約束したのか知らないけどレオンはボーマンを見つめると
「ごめん。僕がいいすぎた」
と、素直にあやまったのである。
「ぁ?いや。俺もわるかったよ」
そう下手に出られりゃボーマンも面目がない。
顕微鏡の前に戻って行ったレオンを横目で見ながら
ボーマンは、クロードに
「ぇ?何だよ?えらく飼い慣らしちまったじゃねえかよ?」
と、尋ねた。
「飼い慣らすなんて」
「言葉のあやだよ。でも、実際そうじゃねえかよ?」
「あは」
「はあ?」
こいつの言う事にゃえらく素直に従いやがる。
クロードを見た目線をレオンに移し変えると
むこうを向いたままクロードに語りかけた。
「ぇ?その約束ってのは何かしらねえけど、
ベッドの中での約束ってのは、すげえ威力だな?」
「え?」
振り向いたボーマンがどきりとしたクロードの顔を見逃すわけがない。
「だろ?」
「な?何で判るの?」
「へ?まじそうなのかよ?」
「あ!」
ボーマンにまたもや、かまをかけられたクロードである。
「あの」
喧嘩が治まって、クロードと話し始めたボーマンの側に
レナが寄ってきた。
「おう?レナかよ。何だよ?
また一段といろっぽくなってるじゃねえか?」
アシュトンから聞かされたレナが☆☆しちゃうんだよ。って、
言葉が思いおこさせられる。
何でも、受け止めちまいたいって程デイアスにほだされてる、
いい女がここにもいる。
「んん」
ボーマンがレナに
レナとデイアスの秘密の部分の深度が深まってるんだな?
と、言いたいのが判るレナにもなっている。
軽く咳払いをすると、ボーマンのご挨拶は無視して
「あの。ボーマンはセリーヌをみかけなかった?」
と、尋ねた。
「セリーヌ?どうしたんだよ?」
「いないのよ。何にも、言ってきてないし、
しばらくあってなかったから、いつからいないのかもわかんないの」
「あーん?ナンカ用事かよ? 」
「ううん。そうじゃないんだけど・・きになって」
「で、わざわざ御大まで引っ張り出して
セリーヌ探しでここにきたって訳か?」
レナはボーマンの言う御大のほうを振り向くと
ボーマンをもう一度見て声を潜めた。
「あの、ボーマンがこの間、セリーヌと飲み歩いていたってきいたの。その後から、部屋に閉じこもりっぱなしだったみたいだし、
ボーマン。何かきいていて?」
「はあ・・」
「ナンカしってるんだ?」
「セリーヌは、多分これにあいにいったんだろうな」
と、ボーマンは小指をレナの目の前に突き出した。
「あ?そうなの?」
「ああ。多分。そういう事言ってたから」
「なーんだ。クリスのとこにいったんだあ」
「ぇ?ぁ。クリスっていうのかよ?」
「あら?きいてたんじゃなかったの?」
「人の男の名前なんかきいても、しかたねえだろ?」
そりゃそうかもしんないけど、
「ああ。でも。うまくあえる時間もてるのかなあ?」
「何だよ?どこにいるかわかんねえよな、男なのかよ?」
「ううん。めちゃくちゃ忙しい人。自分の時間も自由にままならない」
「はあ?そんなお忙しい人が
どうやってセリーヌと知り合えるんだよ?」
「その時はね。でも、今は皇位を継承したから・・・」
「皇位いーーー?」
「そうよ。王子さまだったのよ。」
「じょ、冗談だろ?」
いつの間にかレナの側に立ち尽してるデイアスを見つめると、
デイアスはしっかりと首を振っている。
「まじかよ?」
デイアスが黙って大きくうなづいている。
『ひえーー。なるほどな。
そんじょそこらの初心な坊ちゃんを
相手にしてるわけじゃなかったからこそ・・・セリーヌの奴』
ボーマンには信じられないような話ではある。
「びっくりした?」
大きな目をくるくるさせてレナがボーマンを覗き込んでいる。
「さすが、セリーヌだな」
「うん」
「ま。お前は、んな事どっちでもいいことだよな?」
「ん?」
「お前にゃデイアスが王子様に見えるって事さ」
「あは。そうね」
平気でのろけを聞かせてくれたレナにボーマンはその通りだと思った。
『そうさ。本物の王子だろうが、そこら辺の朴念仁だろうが、
女の子にとって自分が好きな奴こそが自分の王子様だよな』
ボーマンは黙って話を聞いていたクロードをちろりんと見た。
「お前にやレオンは何に見えるんだ?」
「え?」
猫そのものですなんて答えられるわけもなく、
クロードはうまい答えも見つけられず黙った。
「王子様のわけはねえよな?」
「は・・はは」
「つっても、お姫様のわけもねえよな?」
「あ、あ。うん」
「なんだよ?」
「あは、あの。僕がナイト(騎士)ってことで・・・」
「ナイトがやっちまう?そんなナイトがあるかよ」
「・・・」
「言ってやろうか?」
「いいです」
ボーマンに言われるくらいなら自分で言う。
「レオンは、猫で・・僕はシテでしかない」
クロードは一気に早口でまくし立てると真っ赤になって座り込んで、
ひざに顔を覆った。
「おし。合格」
んなことぐらいでたじろいでいちゃ、レオンに失礼だろ?
堂々としてろ。本気だろ?マジだろ?
誰にも何にも臆する事なんか必要ねえさ。
ボーマンの手が優しくクロードの背中を叩くと
「んじゃな」
と、立ち上がった。

研究所から帰ってきたボーマンはもう一度調剤室に入り込んだ。
レオンの言うように不純物が混ざりこんでいるのかもしれない。
「ありえねえ」
が、念には念をいれる。
天秤皿から量りまで煮沸器の中に突っ込んで
おまけに音波振動で洗浄をかけてしまって、
リトマス紙で反応を見る。イオン検出も忘れやしない。
磁気をおびていることだってありえる。
だけど、どれもこれも正常な値を示していた。
「薬剤自体かよ?」
ボーマンは棚の中の瓶を一つずつ取り出し始めた。
念のために全部をチェックする気でいる。
むろん一つずつ反応を確かめてゆくのは、大変な作業である。
試薬も一つずつ違うし、
一回一回結果を見るたび使った器具の洗浄が必要になる。
「え?」
問題のアミラーゼの反応がひどく遅い。
「どういうこったよ?」
ボーマンはアミラーゼの生反応に問題があることに気が付いた。
ボーマンはもう一度瓶をとるとアミラーゼが作られた日付を見た。
ラベルにはボーマンが瓶を開封した日付が入れられている。
「あ?」
封印された日付はひどく古いのである。
ボーマンが開封したのはごく最近の事であるが、
精製され瓶に詰められてから随分経っていた。
『俺がこんな初歩的ミスをやっちまうのかよ?』
一つのミスに気が付いたボーマンは
他にも同じミスがないかどうかを調べ始めていた。
そんなこんなで帰ってきたら
いきなり調剤室に閉じこもってしまったボーマンであったことが
この場合、功をそうしたといってよいだろう。
店中に作られている調剤室の明かりが、
店の中をほの明るく照らしていて窓の外まで光を漏らしていた。
その明かりのおかげで、一人の青年が
ボーマンの元にこれたのである。
「ん?」
店先で何度も呼ばわる声がする。
『ニーネのやつ。きこえねえのかよ?』
キッチンに入ったニーネは
ボーマンの為の夕食をこしらえるのに余念がない。
きがつくわけもないのである。
一応、鍵は閉めてある。
青年はチャイムを押したのだ。だが、誰も出てこない。
それでも、漏れてくる明かりがあるのだから誰かいる。
窓から店を覗き込んでみれば、
ガラス張りの向こう調剤室の中におっさん。
もとい、自分より年上見える店の主人らしき人がいる。
それで、青年はさっきから大声でボーマンを呼び始めていたのである。
薬剤の点検に夢中になっていて、おまけにガラス張りの中である。
ボーマンが気がついたのは随分、後だったのであるが、
「しかたねえな」
ぼやきながらボーマンは調剤室を出た。
鍵を開けるなり青年が飛び込んできた。
「あ、すみません。遅くに失礼だと思ったんですが
どうしても尋ねたいところがあって」
『あーん?って、ことは道案内かよ?』
どっかの具合の悪い奴のために薬を求めに来たんじゃねえのか
と、思うと、
いささか、ボーマンは仏頂面になった。
「で、どこにいきたいんだ?」
「ぁ、それが住所はこの近辺だって事は間違いないんです」
「んなこときいてねえだろうが?」
「あ。あの。セリーヌ・  と言う名前なんですけど」
「え?」
「あ」
青年の顔がぱっと輝いたように見えた。
「ご存知なんですね?」
旅をしていたセリーヌであったから、
きっと故郷の薬屋で、薬草を買い入れてから旅に出たに決まっている。
光の漏れている店が薬屋であると判ると、
青年はきっとセリーヌの居場所も判ると必死で叫んでいたのである。
「ああ」
「あ。どこに。あ、すみません。あ。あの。この薬品と、えと、これと」
尋ね事だけでは失礼であると気が付いた青年は
慌てて薬品を注文し始めた。
「かまわねえよ」
このおっとりした気性と、世間ずれしてない性格が
もろに出ているのは、レナの言うところの
王子様であるセリーヌの♡なんだなと、ボーマンは気が付いたのである。
そして。自分が必死になって聴きたいことがあるってのに、
妙に心配りを見せる青年にボーマンは
セリーヌの言った事を思いだしてもいた。
『こんなに、優しすぎると無理やりでも
セリーヌに挑んでゆけねえじゃねえか?
セリーヌが求めてる事を口に出す事さえ、
恥ずかしくなるくらい、初心じゃねえかよ』
ボーマンはセリーヌにいささか無茶を言った事を後悔した。
瞬時に人柄を見分けちまうのも、ボーマンゆえであるが
「あんたがクリスっていうやつかよ?」
ボーマンは青年に確かめた。
「あ。え?あ。あの」
一層青年の顔が喜びに満ちている。
この人はセリーヌを知っている。
そして、セリーヌから自分の事まできかされている。
と、なれば、もう間違いなくセリーヌの居場所も知っているに違いない。
セリーヌに逢える。
浮き立つほどに上気している青年の顔を見ながら、
ボーマンはこいつ本気だなって思っていたけど、
その青年に悲しい事実を告げなければならない。
「あのな。セリーヌの奴。あんたに会いたくて
今朝でていっちまったんだよ」
「ぇ?ぁ。いないってことです・・か」
逢いたくて、逢いたくて二人の思いは
こんなにも、波長があっているのに、なんてことだろう。
お互い目指したところに恋しい人は不在ということになる。
「あんた。何で、もっと早くあいにきてやんなかったんだよ」
あんときのセリーヌの寂しい顔がボーマンの胸の中に浮かんでくる。
「すみません」
「俺に謝ることじゃねえよ。」
「すみません。政権の引継ぎとか、外交問題とか
うまく対処できなくて、やっと」
「げ?」
やっぱ、本当なのかよ?
どこかまだ半信半疑だったボーマンは、目をぱちくりさせていた。
『おいおい。セリーヌ。本当に本当なのかよ。
ええ?こんな相手に、やりてえの、してえのなんて、
いえるわけも、ねえか・・よ』
道理で見っとも無い自分を見せる事に
ひどくためらってしまっていたわけである。
『へっ。俺のお姫様が本物のお姫様でなくて良かったぜ』
そんなことにでもなってたらボーマンは、
日々悶々として暮らす羽目になっちまっていた。
「おーい。ちっとでてこないか」
ボーマンは奥にいるその「俺のお姫様」を呼んだ。
ボーマンの声にニーネが出てきて、
青年に気が付くと穴が空くほど見つめだしていた。
「おい?」
「あ。ごめんなさい。あんまり似てるから・・・つい」
「似てるって?」
「あ。あのね。何だっけ、何とか王国の若き後継者。えーと」
「その御本人様だよ」
「え?」
「おまけに驚いちゃいけないぜ。セリーヌのこれだって・・」
ボーマンは小指をたててみせる。
「ボーマン。し、失礼よ。でも。王子様・・・」
どうも、女って奴はシンデレラストーリーには弱いようである。
二人して動物園の珍しい動物を見物されるように見つめられると、
さすがの王子様も内心はむっとしていたようであるが
礼節、マナーという物を幼い頃から叩き込まれてきた人間である。
その上小さな頃から衆目にさらされてきている人間でもある。
「あの、よろしいですか?」
わが女房にも、好奇心の目をおすそ分けできた事に
ご満悦になっただろう薬屋の主人に
これ以上尋ねることはなくなってしまっていた。
が、若き国主はセリーヌの住んでいる場所だけは
しっかり聞いておこうと考えていたのである。
青年の質問にボーマンは
「あんた。それをきいて、で、それからどうすんだよ?」
と、尋ね返した。
「僕には三日しか猶予がないんです。セリーヌをおいかけてみます」
「だろ?だから、こいつをよんだんじゃねえかよ」
ボーマンはニーネを指差す。
「はい?」
「つまり、今、またあんたがセリーヌを追いかけたら
また、どこですれ違うかわかりゃしねえ。
けど、セリーヌを待っていたくたってあんたにゃ時間が限られている」
「確かにそうですけど・・・」
「だから・・おい」
って、ボーマンはニーネを振り返る。
「セリーヌに会いに来たってのに、
セリーヌの奴はこいつ、ぁ、いや。この方に
会いに旅立っちまってんだよ。
で、俺が探しに行ってくる間、下手に探しあうより
ここで待ってねえかって。ま、お前に相談な訳だよ」
「よくってよ」
返事をするニーネより不安に思っているのは青年のほうである。
「ぁ。でも、もうどのみち時間がないし、待っているのは無理です。
帰り道の途中ででも、あえるかもしれないし」
「いい方法があんだよ」
ボーマンは判ってるニーネに目配せした。
「うふ。バーニィ―でしょ?」
「あたり」
「あの?なんですか?それ」
不思議な乗り物であり生物である。
大きな図体のくせに人見知りが激しい。
が、どうしたわけかクロードになついちまって、
クロード近辺の人間だけは、乗せてくれるのであるが・・。
「残念な事に夜間飛行は出来ねえんだよ。
だから、今すぐにってわけにゃいかねえけど」
「と、とにかくそのバーニィ―なら、セリーヌを探してくれて
すぐここに連れ帰ってくれるということですね?」
「ま、そういうことだな」
「判りました」
青年は薬屋の主の頭の上がらない相手であると見て取ったニーネを
振り返るとぺこりと頭を下げると、
「よろしくおねがいします」
と、ボーマンにも礼儀正しい。
「あ、いえ。粗末な所で恥ずかしいくらいですけど・・どうぞ」
「へ?粗末で悪かったな」
ボーマンがニーネに耳打ちしている。
「もう。馬鹿ね。どんな住まいだって王宮にかなうわけないじゃない」
「んなことねえよ。お前さえいてくれりゃあ、天国だぜ」
「もう。意味が違うでしょ」
「だよな」
そう。こいつの住まいには、片割れに宛がう事で得られる天国はない。
セリーヌのいねえ王宮は地獄みてえな物かもしれない。
結局こいつもその切なさに身をきらせているんじゃねえのか?
こいつもみっともねえ自分をさらけ出しにくい立場にいる。
自分を律し品行方正でなければならないと思い込んで育っちまってる。
「逢いたい」
ポツリと言葉を口から漏らしている青年をボーマンは見つめた。
「ぇ?恋しいかよ?恋しいよな」
遇えると思った希望がしぼんで、
そして、またそれが膨らみ直されてゆくと
ますます恋しさが切実な物になってくる。
『どこの王子様だろうがお姫様だろうが、
なさりてえ事なさりてえって訳だよな。
人間だもな。男だものな。
思い切りそこん所ぶつけ合って受け止めあって一つになりてえよな』
ボーマンは青年クリスの底にあるものを、そう受け止めた。
『だったら、まあ。セリーヌ。
まかしとけって、お前が心配するような結果にさせやしねえよ』

   
何を考えてるかしらないけどボーマンは
こういう方面の事になると本当理解があるっていうか。
たよりになるっていうか。
「おし。部屋を用意する間。ちいと、のもうぜ」
とっくにニーネは部屋を整えにいっている。
キッチンにはニーネがこもりきりで作った
つまみにもなる夕食のおかずが用意できていた。
ボーマンの一言で二人は随分飲んじまって、
すっかりいい気分になってしまっていた。
「おい。場所をかえようぜ。世間様の風にあたらしてやる」
なんて、ボーマンはクリスに言ったけど、
本当はニーネの前じゃ喋りにくい事があったせいである。
「あ。はい」
クリスは殊勝気に頷くと立ち上がったボーマンの後を付いて行った。
「おまえ。けっこう。つよいんだな?」
「ぁ?お酒ですか?」
「ああ」
「ええ。公の席で飲む事もあるし、
要人との付き合いの席で飲まないわけにも行かないし、
かといって、酒に取り乱して大事な政策に関わる事で
失敗してもいけないし・・・練習しました」
「ふっ。自分をさらけ出す事もできねえ酒かよ。
いつも、どっかで用心しなきゃなんねえのか」
「だから、僕にとって、セリーヌは・・本当に自分だけの」
「お前が誰にも何にも制約されず好きになれた相手だってことか」
「ええ。でも、自由にあう事もできない」
「なら、なんでセリーヌが、お前のとこに?」
何故セリーヌはクリスのところにとどまらなかったのだろう。
「あ。柄じゃないって、僕も寂しいけど判ります。
彼女には自由に生きてほしいし、
何もかもに縛られつくされる生活は
確かに彼女の輝きをうばうだけです」
「そうかよ」
「ええ」
「それで・・いいのか?」
「いつか、来てくれると信じてます」
それで、セリーヌを自由に飛翔させてやれる?
「お前。外見に似合わず太っ腹な男だな」
「いえ。愛しているだけです」
男としての技量じゃないとクリスは言う。
そんな自分にしてしまったのがセリーヌゆえでしかないと暗に言う。
「かあー。たまんねえな。ところで・・・あっと」
ボーマンは目指す店の前で足を止めた。
「ここだ・・静かな店だよ」
奥の席に座り、飲み物を注文すると
クリスの方が待ちくたびれたように堰を切った。
「あの、さっき、「ところで」っていっていたのは?」
「ああ。そのことか?」
「はい」
「うーん。愚問かもしんねえけどよ。お前ら。その?なんだ?」
「あの?」
「たのむよ。そんなマジな顔すんなよ。
ただ、なんだ、おまえら、つまり・・」
「?」
「あー。つまりだな。ちゃんと、いきつくとこまでいってんだよな?」
「ぁ。愚問です」
クリスはひどく赤くなって答えた。
『かあー。んな事で赤くなっちまう?おい?』
「でも・・あの一日だけで・・・」
「は?」
たった一日だけ?
そりゃあ、その一日で何回数をこなしたかは
各人違うこったろうけど、たった一日。
「で、あいもせずそれきりかよ?」
「はい」
ボーマンは青年をじっとみた。
旅の途中のセリーヌに多分一目ぼれ。
どうやって口説き落としたのか判らないけど、
いや、むしろ、セリーヌの方が熱をあげちまったのかもしれない。
どうにも純粋で無垢で側にいると
コッチまで優しい気分にさせられちまう。
こいつの魅力にセリーヌも我を忘れちまったのだろうけど、
さしものセリーヌもこいつとの初めてのドッキングで
女を見せ付けるわけにもいかず礼節をわきまえて
事に対処したってわけだろう。
「お前。何だ?女ははじめて・・」
ボーマンの質問に答えを待つまでもない。
クリスはますます頬を染めて俯いてしまった。
「そうかよ」
初めての奴がそんなにうまくいくわけもない。
セリーヌは心だけ満たして、身体の芯に熱い火をいこらされたまま、
クリスの元から旅にで、そして、故郷に帰ってきた。
たった一度の男がセリーヌの心にあふれ、
あれから一切セリーヌは他の男なんか寄せ付けもしなかった。
そして、この青年も同じ。
セリーヌから与えられた心と快感を忘れる事が出来ずに
苦しさを開放するかのようにセリーヌにあいにきている。
『ぇ?欲しくてたまんねえ男がせっかくきてくれたって言うのに、
おまえ・・・・どじすぎるぜ』
セリーヌにあえずにボーマンなんかと酒を飲んでるこの男のことが
無性に可哀想になってきているボーマンである。
『だけど・・・』
問題がある。
あのセリーヌをこいつがマジ宥めてやれるのか?
セリーヌのほうも見っとも無いほど欲情に煽られている自分を
包み隠さず露呈しようと決心している。
こいつのこったからそんなセリーヌでも、受け止めちまうだろう。
けど、受け止めちまうのと、
セリーヌの中の欲情を沈めてやれる事とは違う。
身体の芯に残る消火仕切れない焔は
セリーヌが辛抱するしかねえことだろうけど、
あるいは、それは、こいつが男として自信をなくすだけ?
傷つけてしまうだけ?
それを不安に思っているボーマンなのである。
むろん、ボーマンは女に精通している。
だから、ちっとばかしテクニックの一つを伝授してやろうと
外にのみにきたのだけど。
「あのよ、女をだくと・・き・・に」
ボーマンの言葉に早くもクリスはうろたえはじめていたが、
自分の中の欲情を恥じるのか
セリーヌを汚されるように感じるのか、
青年の瞳がふときつくなった。
『怖い目をしやがるぜ。
やっぱり、若くても一国を統治する人間だぜ。妙な威圧感がある』
「ボーマンさん。あの?」
ボーマンが途中で言葉を控えたのが
自分がうろたえたせいだと気が付くとクリスはボーマンにわびた。
「ぁ。すみません。あの、なんでしょうか。
その、あ。あの・・・いいかけてたことの」
女を抱くときといったボーマンの一言さえ
クリスが鸚鵡返しに口に出す事をためらっているのが判ると
「いや・・・なんでもねえ」
ボーマンは口を濁した。
話せない。あまりにも、純粋すぎる。
せめて自分の欲情を素直に認めてしまえていれば、
彼もむしろ自分から身をのりだしてでも、きけたかもしれない。
『あたって砕けてみるしかねえか』
ボーマンは今更ながらセリーヌの戸惑いを理解が出来た。
『こんなに無垢な奴にぶつけるにぶつけられねえよな?
自分が汚くみえてしかたねえよな?
でもよ。どうしょうもなく女であることを
感じさせられたいお前をなんとかしてやりたかったぜ。
でも、俺じゃ、だめなんだ』
ボーマンはクリスをじっと見た。
『こいつがいいんだろ?
こいつのせいであんなに狂おしくなっちまったんじゃねえかよ』
ボーマンはその男へのいくばくかの不安を飲み込む。
「そろそろ。帰ろうぜ。
朝1でセリーヌをさがしにいかなきゃなんねえ」
「はい」
ボーマンの言葉に青年は素直に頷いた。
ほんの少し押しが弱い。
けど、セリーヌが選んだ相手じゃねえか。
大丈夫さ。そうさ。男だって成長する。
その分かわいいほどの無垢さと純粋さを
いくらか、なくしちまうだろうけど。
それはセリーヌ。
こいつがお前の物になったってことだろう?
ボーマンは頷くと店を後にした。
夜道を二人とぼとぼ歩いていると
「あの。僕。楽しかったです。
なんだか、何も気兼ねせず、本と気持ちがらくになって」
「ああ」
「あの。また、いつか。一緒にのみにいきたいです」
「お前の酔ったとこもみてみてえし、悪くないね」
「え?あ、酔ってますよ」
ボーマンの言葉に青年は異論を唱えた。
「わけがわかんなくなるほどかよ?」
「あ。それは・・・」
そこまで、自分を崩し切れはしない。
「まだまだ自分を崩しちゃいけねえなんて恐れてるようじゃ
本当に欲しい物は手に入んないぜ」
ボーマンは随分遠まわしにクリスに言う。
「え?」
ボーマンの言う事が具体的に何を指摘するのか
クリスは考えているようであった。
「まあ。いい。そん時になればわかるさ」
「はあ?」
よく判らない人だけど、
なんだか、ひどく親身で温かい人だとクリスは思った。
そして、この人のおかげできっと明日はセリーヌに逢える。
心が浮き立つと、クリスが躍るような足取りで歩み始めていた。
朝になるとボーマンは早くも着替えをすませ、
食卓に現れたクリスに
「まってろよ」
と、声をかけ、背中をぽんと叩くと外に飛び出していった。
目指すはレオンの研究所。
レオンに用事があるんじゃない。
また、いつものようにレオンに
へばりついているだろうクロードに用事がある。
「何だって地球人のクロードになつきやがるんだよ」
レオンのことじゃない。
なぞの生物。
ぼよよーんとしたバーニィーに悪態をつきながら
ボーマンは研究所の扉を開いた。
やってきたボーマンに気が付いたのはレオンのほうだった。
「ナンカ注文してたっけ?」
「お前に用はねえよ」
「なん?」
昨日の今日だっていうのに、
ボーマンのつっけんどんな言い方がレオンの勘にさわっている。
なのに、ボーマンはちっとも、頓着なく
「クロード。借りるぜ」
いったとたん、レオンは
「やだ」
と、一言で断ってきた。
「な?なんだよ?」
かわいくねえじゃねえかよ。
「ボーマンはろくなとこに連れてゆかないから、やだ」
昨日の口げんかのことを根に持ってやがる。
おまけにもう済んだステラの事の気がすまないのだろう。
ここぞとばかりに嫌味をこめて文句をいってきている。
「そうじゃねえよ」
ボーマンは頭をかきながらぶつくさ思ってる。
『え?なんだって、レオンの持ち物みたいに
レオンに許可をとんなきゃなんねえんだよ』
その問題のクロードを目の端でさがしてみると、
やっぱりいつもの椅子に座ってレオンをうっとりと眺めている。
『これだもんな。俺がレオンに聞きたくなるのも無理ねえか』
忠実な飼い犬が昼休みに与えられるご馳走を期待して
きっちりお座りして待っている。
よお、情けなくねえのかよ?
「なぁ。レオン」
ボーマンはクロードの事をあごでしゃくってみせた。
「良く、飼いならしてあるじゃねえかよ。
え?ステラの所に行こうったって付いて来やしねえよ」
ぇ?アイツはお前じゃねえと納まりがつかねえから、
朝っぱらからおあ付けをくらいながら、
お前をじっとまってんじゃねえかよ。
「か、飼いならすなんて・・ば、ばかにしてる」
その意味合いを感じ取ってレオンは言葉を選んで反撃した。
だって、うっかり変な事をいったら
どうやって飼いならしたんだ?なんて
ろくなからかいを受けやしないんだ。
「何いってんだよ?」
「はい?」
ボーマンはきょとんとしている。
人を小ばかにしたようなことを言っといて
なんで、そんな不思議そうな顔するんだろ?
「あの?」
レオンの方が考え込んでしまってると、
「そんなこと相身互いじゃねえかよ。きにするな」
ボーマンがやけになぐさめるようにいう。
「相身って?」
ボーマンを馬鹿にするようなことを言ったかしらん?と
思いながらレオンは尋ね返した。
「昼休みになっちまえば、飼いならされるのはお前だろ?
な?相身互いじゃねえかよ。
気にする事はねえさ。
なぁ。それより、すぐ、済む用事なんだよ。
な。昼休みまでには返すからかまわねえだろ?」
「え。あ・・・ばか」
話の支点がずれてるのに、反論も出来ず、
レオンがしどろもどろになってしまっている。
だって、昼休みにクロードがいなきゃレオンはもっとつまんない。
二人で食事して、ぅふ。それから。
レオンのいつもの楽しみを邪魔しやしないさ
って、ボーマンに言われてると判ると、
レオンもさすがに答えに詰まった。
「ん。じゃ。いいな」
ボーマンはレオンにたたみ掛けるとクロードの側に走って行った。
「おはよ。ボーマン。レオンとなに、はなしてたの?」
「アー。借用許可をとってたんだよ」
「?何、借りるの?」
「ちっと、犬っころを一匹。2時間ほど借りようと思ってな」
「犬?そんなものいやしないよ。」
生体実験のために使われる事があることはあるけど、
ここしばらく犬なんか搬入されてない。
「いるんだよ。おあずけ喰らって
椅子に座ってるのを借りようと思ってな。ご主人に相談したんだ」
「ぇ?僕?」
「おう。分かりが早いじゃねえか」
そんなことでほめられたってちっとも面白くない。それよか、
「ひどい言い方」
「なにいってんだよ。うそじゃねえだろうが?」
ボーマンの手がクロードの下半身にのびてきた。
「あ。わかった。ボーマンのいうとおりだよ」
おあ付けを喰らってる犬っころの下半身がどうなってるか?
当のクロードが切ないほどよく判ってる。
「で?何?その犬に用事って?」
いささか皮肉を込めてクロードはボーマンに尋ねた。
「ち。怒るなよ」
「いいよ。で、その犬っころじゃなきゃ駄目な用事なんでしょ?」
「はは。まあ、そういうこった。ん」
「で、なに?」
「人を探して欲しいんだ」
「はあー?」
皆目見当がつかない依頼じゃないか。誰を?どうやって?
「僕の鼻でにおいをかげって?」
いい加減、機嫌を直してくれてもいいのに
クロードも、ちっと怒ってるんだ。
だけど、ボーマンはそんなことに屈っしやしない。
「アア。お前の特殊な能力を駆使してほしいんだ」
『僕の特殊能力?』
クロードが何の事か思い当たらないで考え込んでいると
「クロード。バーニィーを動かせよ。セリーヌを探しに行きてえんだ」
と、ボーマンが言った。
「ぇ?セリーヌを」
「ああ。クリスがきてるんだよ」
「ぇ?ああ?。あ、ああー。セリーヌの馬鹿」
せっかくクリスが来たというのに
セリーヌは知らずにクリスの所にいってしまってたんだ。
「クリス。来るって連絡いれなかったんだ?」
「いきなりあってセリーヌを喜ばせてやりたかったんじゃねえのか?
それとも、連絡を入れた時には
セリーヌがもうでたあとだったのかもしれねえ。
んなことはどうでもいい!」
「うわー。せつないだろうなあ」
「だからすぐ連れ戻してやりてえんだろうが」
「判った。で、どこにいけばいい?」
「馬鹿。だからバーニィ―に探して貰いてえんだろうが」
「え?」
「なんだよ?」
「で、できるのかな?バーニィ―にそんなこと?」
「ぇ?ならよ、セリーヌのにおいついた物もってこようか?」
「犬じゃあるまいし」
「できねえのか?行く先を指定できるんだろ?
「セリーヌの所」って言ってみりゃ行けるんじゃねえのかよ?」
「・・できるのかな?」
「だいたい、町に行くんでも
あいつはお前の思念を読み取っていくんじゃねえのか?
あの大きな図体の奴が
こんなちっぽけな地図を広げてるのなんか見たことねえぞ」
「だとしても、それは僕が地図で町の場所が判ってるからで
セリーヌがどこにいるか判んなきゃ」
『やってみなきゃわかんねえだろ?
セリーヌって場所に波動をあわせて
とんでゆくかもしんねえじゃねえかよ」
「うん。やってみる」
名残惜しげにレオンを見つめるとクロードは立ち上がった。
レオンの目が早く帰ってきてねって言ってやがる。
まるで、悪人みたいな気分を味わいながら
ボーマンはレオンからクロードを毟り取っていった。

しばらくもしないうちにクロードは
ボーマンの言う事が正解である事を知らされた。
「クリスが逢いに来てるんだ」
って、呟くとクロードはセリーヌの事を一生懸命考え、
バーニィーにセリーヌのところにいけって命令したんだ。
バーニィーはちっとも惑うことなく
いきなり跳ね上がり二人を降ろしたところは小さな町のはずれだった。
「この町にいるんだな」
ボーマンは時計を見た。
ちっと昼には早すぎる時間だが、
旅をしてる人間のセオリーどおり、食べれる所でまず食事をするだろう。
クロードはふと感じた疑問をボーマンに尋ねた。
「ねえ。ボーマン。何で、セリーヌは
バーニィーを使おうとしなかったんだろ?」
「恋しいからさ」
「え?おかしいよ」
「一歩一歩自分の足でクリスの元に歩んでいきたかったんだろうよ」
「そうなの?」
「ああ。きっとな」
「?ふーん」
切ないほどのときめきを静めながら、少しづつ近づいていかなきゃ。
いきなり逢ったら、途端に大きな鼓動に飲み込まれて
死んじゃうんじゃないかってほど恋しい。
判らないでもない。

町に入ってすぐ目に付いた食堂にボーマンとクロードは飛び込んだ。
「ここじゃなけりゃ、二手に分かれて探すぞ」
と、いうボーマンの袖をクロードが引っ張った。
「!」
クロードが指さしてる窓際の席に目指すその人はいた。
「セリーヌ!」
自分を呼ぶ声にセリーヌはゆっくりと振りむいた。
「あら?」
こんなとこまで追っかけてきてくれるの?
なんて考えを打ち消してくれたのは後ろにいるクロードの存在だった。
「なに?どうなさって?」
「クリスが来てるんだよ」
「ぅ・・ウソ」
「何で嘘をつきにお前を迎えに来なきゃなんねえんだよ」
「あ」
セリーヌがあわてて立ち上がると、
同時にぽろぽろと涙が零れ落ちるのが見えた。
「早く・・つれてかえって」
セリーヌの声が咽ぶ泣くように聞こえた。
『恋しいんだ。ボーマンのいうとおりだ。あんなに恋しいんだ』
クロードがじっとセリーヌの意外な姿をみつめていると、
ボーマンがセリーヌの手を引いて横を駈け出していきながら
「クロード。先。行ってるぞ。後を頼むぞ」
と、まくし立てていった。
「なにいってるんだよ。後の事って?
僕が行かなきゃバーニィーは動かないじゃん」
クロードがそれじゃ、いくかって店の外に出ようとした時だった。
「ちょっと!先のお客様のお連れの方ですよね?
お勘定をいただきたいのですがね」
「え?あ。はい」
慌ててクロードはポケットを弄った。
財布は入ってる。
レオンと昼食をとりに行く予定のお金だったけど、
持ってきていた事にほっと胸を撫で下ろした。
「たく?あとのことってこれ?
僕が財布持ってきてなかったらどうするきだったんだよ」
「なにか?」
食い逃げする気じゃなかったんでしょうねって、
店員の目つきにクロードはいたたまれない気分を感じながら
外に飛び出すとバーニィーの所に思い切り駆け出していった。

ドアの前でセリーヌは立ち止まっている。
「ばか。はやく。はいれよ」
ボーマンに押されて、セリーヌは扉のノブに手をかけた。
ボーマンは目の端でそれを確かめるとそっと側を離れた。
ボーマンの背中でカチャリと音が聞こえ、椅子がガタッって音をたてた。
セリーヌの嗚咽が漏れ、それを抱き寄せたクリスのせいだろう。
その声が胸の中にうずもれボーマンの耳には届かなくなった。

―後の事は知らねえぜ。俺はそんな無粋な人間じゃねえしー

階段を下りてキッチンに入るとニーネがコーヒーを入れてくれていた。
「ボーマン。お手柄ね」
って、ニーネも喜んでくれてる。
「ああ。いいな」
恋する二人がやっとあえたんだ。
「うん」
「なあ?」
「なに?」
「あいつらにコーヒーなんかもっていっちゃだめだぜ」
「ばかね。わかってるわよ」
「なら・・・いいけどよ。なあ?」
「今度は何?」
「あいつら当分おりてこないし・・」
「はい?」
「なあ、ちっとばかし俺もたまんねえ気分なんだけどな」
「それってどっかぐぁいがわるいってこと?」
ちょっと意地悪くニーネがとぼけて見せた。
だけどボーマンったら
「恋しくて、恋しくてさあ」
ニーネの手を掴むとボーマンのロケットの上に導いた。
ズボンの上からでも判るほど張り詰めている。
「すんごく、具合が悪い。なぁ。治してくれよ」
どうやらボーマンにとってはニーネはお姫様というより看護婦さん。
もしくは女医さんというべきである。
だけど、女医さんの優しい治療が始まるのまで、
覗き見てる事もないよね?
だって今回の立役者は、
もうしっかりベッドの中でお互いの愛を交換し合ってる事だろうから。

だから、付録のカップルのお医者さんごっこの事なんか・・・、
・・・・ひょっとして、見てみたい?

                           (おしまい)

続きを読む

イッツ・オンリーユアマインド④

何とかアシュトンとの仲も元通りになったプリシスなんだけど、
心のそこにへばりついた不安まではどうしても取り除けはしない。
その不安というのはもちろんアシュトンの中に
芽生えた受けの性癖のことであり、
それがまたボーマンを求めさせちゃうんじゃないだろうか
と、いうことである。
だから、あれからプリシスはアシュトンの無茶な要求にも、
随分素直に従っている。
ボーマンの口からアシュトンとの事を聞かされた後、
プリシスは本当に悩んだんだ。
オーラルがいやだなんていってることが実に他愛なく
些少のこだわりでしかなくなってしまうくらい
ボーマンとアシュトンが一線を越えてしまったと言う事実は
プリシスに大きな衝撃を与えた。
「やだよ・・・」
自分の恋人が浮気してる?
そんな事に気が付いちゃった事がある人がいるかもしれないけど、
その相手がよりにも寄って・・・男。
そうなると負けるもんかって思うより前に、
自分の恋人の性癖を信じられるわけがない。
自分を抱いた手で他の女を抱いた?
こりゃあ、きれるなんてもんじゃない事だろうけどさ、
他の男を抱いた?
おまけに抱いたなら
まだしも、抱かれる同士が不本意ながらも
同じ土俵に立つ事も可能かもしんない。
なのに、抱かれちゃったぁ?
受け?い、いったい、どんな神経になってるんだろう?
気・・気味が悪い。
って、心の底で思って、もういやだ
コッチから別れてやるって半ば決心してるのに、
もう、本当にボーマンの物になって、
プリシスの所には帰ってこないんだろうか?
もう、正常な欲望をなくしてしまってプリシスのことは
本当にいらないんだろうか?
別れてやるって決心してるくせに、
プリシスの心の底のもう一つ裏側では、
アシュトンが帰ってくる可能性がどのくらいあるのかばかりが
気になった。
「なくしたく・・ないんだ」
プリシスを見てくれるアシュトン。
プリシスを求めてくれるアシュトン。
プリシスだけのアシュトンになったはずだったのに。
たった一つの些細なこだわりがこんな結果をうむなんて。
「ボーマン相手じゃ・・・もう、だめだよ」
いつも不埒な事ばっかりいってるけど、
ボーマンってひどく大人で、本当はとても優しい。
優しくて厳しくて強くてどんな事でも包み込んじゃう。
そのボーマンがアシュトンの心に応えたのならもう、勝てるわけがない。
「ボーマンの馬鹿。何で、アシュトンの事
うけとめちゃったりしたんだよう」
膝を抱いて、プリシスはあふれてくる涙を膝小僧に押し当てていた。
どうやってアシュトンを諦めればいいんだろう?
「いやだよ」
例え、アシュトンがそんな異常な性癖を持っていても、
だからってプリシスの根底にある
アシュトンが好きだって気持ちまでは捻じ曲げられない。
膝に落ちる涙をふき取ろうともせず、
涙がくるぶしまで伝うほどいっぱい涙を落としてたプリシスの
部屋のチャイムが鳴った。
ドアを開けるなりアシュトンが入ってきてプリシスをぐいと押すと。
ああ、そう。この続きは既に前回にかいてあるんだ。
んなわけでもうここで再現はしないけど。

それで
それからプリシスはアシュトンのものでいるんだけど。
当のアシュトンは本当のところどうなんだろう?
今。プリシスはボーマンの事を尋ねるのが怖かった。
ボーマンと言う人には、多くの恋人がいる。
そういう生き方のボーマンに自分を重ねるように
アシュトンにとってもプリシスが、
恋人の内の一人でしかなくなっているのかもしれない。
あるいは、自分だけのものにならないボーマンへの寂しさが
プリシスを求めさせただけなのかもしれない。
だとするなら、アシュトンを繋ぎ止めておく唯一の手段は
どんなことがあっても、
例えアシュトンがプリシス一人の物でなくても、
プリシスの方は、アシュトンの物になる事しかないと思えたんだ。
だから、プリシスは怖くて聞けないんだ。
プリシスが思ったとおりだったらどうしよう?って。
もう、ボーマンとは別れたんだ。
プリシスを選び直してくれたんだ。
と、信じておく為にも聞ける事じゃなかったんだ。
「どうしたの?」
じっと、黙っていたプリシスにアシュトンは相変わらず 優しい。
でも、二人だけのことになるとアシュトンは随分変わってしまった。
強制的だし強引だし何よりも命令してくる。
「ううん・・なんでもないよ」
「うふ、だったら、そこに座れよ」
少しきつい目で、そしてあの口調。
それはプリシスに対しての蹂躙といっていい行為が始まる前兆なんだ。
ひどく殺伐とした思いのまま
プリシスはアシュトンに命ぜられるまま、
自分から下着を脱ぎ取っていった。
好きなようにプリシスを嬲り
アシュトンはひどく夢中でプリシスを抱いた。
『いいん・・だ・・これで・・だって』
同じ快感を共有し始めると
確かにアシュトンに繋がれている自分を深く感じ取れる。
『だ・・って・・すて・・き』
プリシスである前に女である事がアシュトンにひれ伏して行く。
『今だけは、間違いなく、私だけのアシュ・・トンだ・・もの』

「おりょ?」
「あ?ん」
ボーマンはぱったりと出くわしちまった。
アシュトンとプリシスにである。
「よお」
詰まった返事のアシュトンの後ろに隠れるようなプリシスに、
ボーマンはひどく痛む胸の内にしらを切って、
何事もなかったように気軽に声をかけた。
「ボー」
言葉さえ出ないままプリシスは不安げにアシュトンの手を掴んだ。
無理もない。
プリシス一人でいたって一番逢いたくない相手だろう。
それがアシュトンが一緒なのだ。
何気なくボーマンを見るアシュトンの顔色一つさえ、
プリシスには浮き立って見えるだろう。
顔色を窺うような卑屈な思いを味わいながら
プリシスの中は不安と嫉妬と恐れがうずまいてしまう。
それだけじゃない。
自分の恋人の浮気相手が男であるとなれば、
自分の女としての魅力に自信も自尊心も
粉々に砕けちまうってもんだろう。
アシュトンの心の浮き立ちを見つめると、
惨めさによほどその場を逃げ出したいプリシスであったが、
このまま、その場を去ればアシュトンは
すぐさまボーマンの所にいってしまうのではないだろうか。
逃げ出す事もできず、プリシスはアシュトンの心におののき
アシュトンの手を強く握り締めた。
プリシスの心を見抜いてしまってるボーマンは小さなため息をついた。
『元々、盗る気もねえ、恋でもねえ。
単なる同情と相変わらずの無謀な救援でしかなかった』
だが、プリシスが受けている傷と
アシュトンへの信頼をなくさせてしまったことが
ボーマンのしてしまったことの罪深さを露呈していた。

「プリシ・・・ス」
アシュトンもプリシスの不安げな様子に
プリシスの手を強く握り返していた。
二人の手をじっと見ていたボーマンは心の中で
『俺は友人も・・なくしちまったか』
と、呟いた。
が、それが間違いなくふたりが元に戻った結果であると判れば、
ボーマンにしてみればニーネに言ったとおり
『あの二人別れさせやしない』の言葉どおりなのであるから、
結果オーライ。終わり良ければ全てよしと、自分を宥めるしかない。
「ん・・じゃあな」
ボーマンは小さく手を振ると二人から離れていった。
セックスがお互いの心の結びつきを確認したい為だけの物であるのなら、決してボーマンもアシュトンなんかに(失礼!)手を
出したりしやしない。
『ちっとばっかし俺のもんを駆使させただけじゃねえか』
それに元はといえば、お前がつまんねえことに
こだわってるがきんちょだったから。
プリシスに言えるわけもない文句を呟きながら
ボーマンはプリシスを庇う様にして立ち去ってゆく
アシュトンを振り向いた。
『ふうーー』
小さなため息が混じると
なんだかボーマンはひどく寂しくなってる自分に気が付いている。
こんな時にはさすがのボーマンも、
心のうさをセックスなんかじゃ晴らせないのは判っている。
(ステラじゃ・・駄目か。)
ボーマンが頭の中に浮かぶ人を手繰ってゆくと、
ふと、セリーヌがいる事に気が付いた。
恋人への裏切り。
アシュトンとの事を話せる相手は
秘密を共有したセリーヌぐらいしかいないと気が付いた。
セリーヌだってボーマンとの事で
ひょっとして自分を責めちまってるかもしれない。
その重苦しさをどう、解決したか。
それを聞いてみることプリシスの心の鍵をとく事にもなるように思えた。
「セリーヌなら、話せるか」
アシュトンと何かあったことは
当のアシュトンよりプリシスの方が誰にも知られたくないことであろう。
だけど、秘密を共有したセリーヌなら、
アシュトンの事をしゃっべっても、
セリーヌだって相身互いってことになる。
『って・・・俺が・・そうしちまったんだけどよ』
勝手な言い分に少しばかり反省しながらボーマンは歩き出した。
クリスが帰っちまったというのに、
やっぱりセリーヌは着いていかなかった。
「よお」
ドアを開けたセリーヌにボーマンは笑って見せた。
「あ・・あら?」
「ひさしぶりだな」
ひさしぶりってほどじゃないけど、
この前までボーマンの物になってしまいかねなかったセリーヌと、
いいほど、クリスに抱かれつくされて自分の中の女を受け止められたい相手がクリスしかいないって事を思い知らされたセリーヌとでは
ボーマンには天と地ぐらい違う女に見えた。
「でも・・・ないわよ」
「そうか?俺には随分時がたったように思えるぜ」
ボーマンにとって、あの崩れ落ちそうだったセリーヌは
もうとっくに昔、過去の物でしかない。
今のお前は確かにクリスのもんだぜっていいたいんだ。
「いやね・・・」
ちっとばかし、馴れ合った男と女のはにかみを見せながら
セリーヌはボーマンを見た。
「と・・外に出ねえか?何だよ・・・。
嫉妬がねえわけじゃねえんだ。
な、おまえになにするかわかんねえしよ・・」
相変わらず落ちないって判ったら
平気でくどき文句を言ってみせるボーマンだけど、
あながちこれはウソじゃないかもしれないって思いながら
セリーヌは外に出た。
「相談っていうか・・ぐちをきいてもらいたくてな」
珍しい事ではあるけど
「それって誰かさんと一発やりてぇなんてことじゃないでしょうね?」
「あーん。レオンのことはあきらめてるって」
誰とは言ってないのに自分からレオンの名を出して
ボーマンは首をすくめた。
「じゃないってことですわね?」
もう一度念を押すとセリーヌは歩き出した。
「そっちは・・」
セリーヌがアマンダのほうに向かって歩き出したので
ボーマンはためらった。
「アマンダでは、つごうがわるくて?」
察しのいいセリーヌの言葉にボーマンは頷いた。
「ああ」
「じゃあ」
っセリーヌは向きを180度変えると歩き出した。
やがて、二人は通りすがりの店に入ると
客もまばらな奥の席を選んで座った。
「で?」
「アア・・少し飲んでからはなす」
注文をオーダーして品物が運ばれてくるまで二人は黙りこくっていた。
ボーマンが水割りに口をつけると
「アマンダが駄目って事はそこに来る人で
逢いたくないひとがいるってことでしてよね?」
と、セリーヌが切り出した
「あいたくねえわけじゃねえさ。でも、大方そのとおりだな」
「そうですの?」
アマンダに来る人。
レオンかクロードかアシュトン。
でも、レオンのことじゃないっていってたから。
「で、アシュトンとなにかあったわけですの?」
セリーヌの当て推量でしかないのに、
ボーマンの水割りのグラスを持つ手がふるえた。
「荒療治すぎたんだよな」
「え?」
「二人が元に戻ってんだ。それでいいんだけどよ」
「あの?どういうことか説明してくださらないと」
アシュトン?ということが当たっていたのはいいけど
ボーマンの説明は説明になっていない。
「プリシスを傷つけちまった」
「はい?」
この人が言う傷つけるって?
「ま、まさか?プリシスに手を出したって
おっしゃるんじゃないでしょうね?
ぁ!それで、アシュトンに顔あわせたくない?」
セリーヌのあの時にもボーマンはそういった。
お前のこれに顔あわせられなくなるって、
でも、それはセリーヌのこだわりとわだかまりを
解きほぐすためであったのだし。
それにセリーヌは傷ついてない。
むしろ感謝してるくらいである。
なのに、傷つけたという事はボーマンの、
心のあり方をいうことになるんだろうか?
と、いうことは
「ぁ、貴方?プリシスをおもちゃにしたってこと?」
わいてきた疑問をそのまま口に出したけど、
ボーマンはそんな人じゃない。けど?
「あんな、がきんちょにてをだしゃしないさ」
セリーヌの随分の推測にボーマンは怒りもしなかった。
「じゃあ?」
「あーん?俺は両刀だぜ」
「え?と、いうことは?」
「アシュトンに手をだしちまった」
「ええっ!ウソ?」
「嘘じゃねえよ」
「ば、馬鹿。なんで?なんでそんなこと?」
「成り行き上ってやつだよ」
わからなくもない。
自分自身を考えればもう少しでクリスを裏切っていた事であろう。
でも、それもボーマンの自制心が全てを解決させてくれている。
そのボーマンが何故抑えも効かされず
アシュトンに手をだしちゃったりする?
「俺はわりきってるよ。でもプリシスはそうはいかない」
「ぁ、貴方、アシュトンに本気だって言いたいわけ?」
ボーマンは首を振った。
「あいつらを元に戻すためでしかなかったんだ」
「だったら、手を出したり・・しなくても」
「お前。あん時、俺がどんなに
お前を抱いてやりたかったか判ってるのかよ」
「ボーマン?」
寂しくて辛くて悲しくて、そんな思いに埋め尽くされていた
あん時のセリーヌだった。
「アイツはお前ほど強くねえんだ。」
「自分の思いにまけちゃったわけですのね?」
「そうだな」
自分をあざ笑うような寂しい笑みを浮かべると
ボーマンは水割りを口に運んだ。
「でも?何故?そうはいかないって?プリシスにばれちゃったわけ?」
「俺がしゃべった」
「な?何ですって?何で?なんで?黙ってりゃすむことをわざわざ」
「仕方ねえだろ?プリシスはすぐ、にげかまして、
自分からアシュトンを捕まえようとしないんだぜ。
アシュトンがどっかいっちまいそうにならなきゃわかんねえ。
なんでも受け止めてやるって程
アシュトンが大事な事にきがついてねえんだ」
「だからって」
「俺もせつねえだろ?」
「え?」
「はい。どうぞって渡したくねえぜ」
「や。やだ。じゃあ。貴方、本気なわけじゃない?」
「は?一度肌をあわせたやつだぜ。情も移るってもんだろうが?」
「え。あ」
セリーヌもまた
ボーマンのその範疇にはいるんだといわれているようなものである。
「だろ?」
確かにかすかな接触であっても
特別であることの秘密に触れさせた男のことはけして憎くないし、
ほかの男には感じない馴れ合った感情がわく。
でも、それはそうなったせいでもあるけど、
そうなる前からボーマンの事を
どこかで好ましく思っていたせいかもしれない。
で、なければ、あん時
セリーヌはボーマンにだかれてもいいって思っただろうか?
「貴方、じゃあはじめから、アシュトンを?」
「そうじゃねえよ。そうじゃなくて。
ぁ?なんだよ?やいてくれてんのかよ?」
「かな?」
「何だよ?つれねえ返事だな」
「そうね。女の魅力には負けないくせに・・
男には負けちゃうなんて・・私女としての自信がなくなりましてよ」
「ち。嘘こけ。目が笑ってるぜ。
あいつとの事で自信たっぷり満足だって顔にかいてあるぜ」
「い。いやですわ」
図星だったんだろうセリーヌが妙にうろたえてると
「プリシスは多分そんな気分だろうよ」
と、ボーマンが沈んだ声で言った。
「自信がなくなっているってこと?」
「ああ」
「ですわよね」
「俺はばかだよな」
「ばかですわ」
「だよな」
「貴方が二人の事を大事なのは判ってましてよ。
でも、そんな方法で二人の溝を取っ払ってやろうなんてむりですわ」
「おまえにゃ、ききめあったのになあ」
「そりゃ・・・アシュトンにはききめはあったかもしれませんことよ。でも、プリシスは」
ため息をつくようにボーマンはセリーヌの言葉を継いだ。
「ゆるせるわけねえよな」
コホンとセリーヌは咳払いをすると
「まさかのことって言うのは許せない事ですのよ。
まさかって言うのはその人とセックスをするしないでなく、
まさか、その人に心ひかれたりしてないかってことですのよ。
もし、私が貴方とあの時一線を越えててしまったとして、
それがあの人に知れたとして。
彼が一番こだわるのはそれをした事じゃなくて、
私が心惹かれているということにだと思いましてよ。
心惹かれ、心重ねて自分より深い物を求めたくて
そうなったのかと思うとたまりません事よ」
「遊びならいいって言う事かよ?」
「極端ですけど、そうですわ」
「・・・遊びだってことにしろってことか?」
セリーヌは黙って首を振った。
「アシュトンはそういう人じゃない。
プリシスでは埋めれない物をボーマンなら埋められる。
そして、貴方もアシュトンに遊びでちょっかいを出すような人じゃない」
「どういうことだよ」
「それを一番判ってるのはプリシスだと思いましてよ。
でも、お互いの心のひだまであの子には判らない」
『・・・・・』
「二人は愛し合ってる。
自分は負けてる。
自分が無理やりアシュトンを引きとめてる。
アシュトンは優しいから、プリシスが可哀想で側にいてくれる。
そう、考えていたら?」
「ん・・・」
「あのこ妙にプライドが高いから、
自分から愛してるなんて認めないし、
あの鼻っ柱の強さでアシュトンを追い詰めてるとはきがつかない」
「レオンよか、たちが悪い」
「相手がアシュトンだからなおさらね」
「お前・・よくわかってるじゃねえかよ」
「あのこ自分が招いた結果だって事は判ってない。
でも、そんなあの子の性格をあの子自身に突き詰めて見せるのも
もっとつらいことですわ。
アシュトンは逃げるしかなかったんだと思いましてよ」
「おまえ・・」
「それを見てしまったボーマンが
アシュトンを包んでやりたくなって・・」
シュンと肩を落としたボーマンにセリーヌが言う。
「おホホ。役得でしかありませんわ。
きっと、私もボーマンと同じことしてましてよ」
「かよ?」
「ええ」
「でも、これいじょうは、ほうっておくしかねえよな」
「問題の解決は自分たちでするしかありませんことよ。
その問題は貴方とアシュトンが
どうした、こうしたって事じゃないですわ」
「そりゃそうだ」
「アシュトンを追い詰めてしまう原因があるから、
今回のことがあったんですもの。
それをなくさなきゃ仕方ない事でしょ?
第二のボーマン第三のボーマンがでてくるだけでしてよ」
「ん。おせっかいでしかなかったよな」
「いずれ、誰かがそうしたかもしれませんわよ。
たまたま、ボーマンがくじをひいた。
それがボーマンだったからプリシスの元に
アシュトンがもどれてるんじゃありませんこと?」
「かもしれねえな」
「私の事もそうだと思ってましてよ」
「え?」
「感謝してましてよ」
「へ。すんだことさ」
「ええ」
済んだ事。
そのおかげでセリーヌの心が澄んでいって、
自分の気持ちをつかみなおせたのである。
どろどろにかき回された欲求を沈められてゆくと
水は澄み切りその底にあるクリスへの思いを
しっかりみせつけてくれたできごとであった。
「のもうぜ」
ボーマンの心を判ってくれる存在がボーマンの気持ちを
いくらか楽にさせてくれていた。
「もちろんですわ」
そう答えるとセリーヌは空になったグラスを持ち上げて
2杯目をバーテンに合図した。

その頃。
「プリシス」
アシュトンの部屋に入ったプリシスが
アシュトンの背中に泣き崩れていた。
アシュトンはそのプリシスを捕まえて
胸の中にくるみこむとプリシスの顔を覗き込んだ。
「や・・だ」
子供みたいに駄々をこねて
アシュトンに顔を見せようとしないくせに
アシュトンから離れたくなくて
プリシスはアシュトンの胸にすがり付いて泣きじゃくっていた。
「ごめん・・」
この場合謝られるというのもみじめなものである。
悲しい同情と、成り立たないボーマンとの恋を
あきらめざるを得なくて
プリシスにもう一度振り向いてくれたアシュトンである
といっているだけに聞こえる。
さっきボーマンにあったアシュトンは
どんなに心をときめかせていたんだろうか?
ボーマンのまなざし一つにどんなに心をはずませたんだろう?
『そんな気持ちもう私にはもらえな・・い』
ひどく惨めな気持ちのままプリシスはアシュトンの胸の中にいる。
『愛してるっていわれなくてもいい。せめて欲しいよって求められたい』
最低限の必要性すらプリシスにも求める気にならないのも
ボーマンにあったせい?
アシュトンはじっとプリシスを抱きしめているだけだった。
でも、アシュトンにすれば当然の心境なのである。
今、あからさまにプリシスを求めてしまえば、
今のプリシスはアシュトンを失いたくないために
アシュトンをうけいれるだろう。
でも、それは、心が重なっているとはいえない。
そんな状況で自分の満足の為にだけに
プリシスを求めるのが、ボーマンとの事があってから
ことさらいやになってきている。
けれど、プリシスにはそんなアシュトンの気持ちが判らない。
『欲しくないんだ・・・。でも、私だけを求められたい…。
そんなアシュトンを見たくて、ねだってまでセックスをする?
惨めだよね…。アシュトンからのぞまれたいよ・・・』
一つになりきれない思いを抱えながら、
求められない惨めさと自分から求めてしまえば
またそれも惨めでしかない。
『アシュトン。私は・・今・・貴方にとってなに?』
アシュトンの胸の中に入れることだけを喜ぶしかないんだろう。
それ以上はわがままだよね。
ポツリと落ちる涙がアシュトンのシャツをぬらしてゆく。
『プリシス』
キス一つでも、渡したいアシュトンだったけど
『そんなのごまかしだよね?』
プリシスの気持ちを軽く扱ってしまうように思えて、
アシュトンは自分の中に起こってくる
身体を重ねあいたいって欲求をこらえてる。
『勝手すぎるよね。泣いてる彼女にセックスしたいっておかしいよね』
なにいってんでしょ。
何もかも包んであげたい。
その思いが欲求という形でアシュトンの中に沸いてきてるんじゃない?
なのに、素直に自分の気持ちのままになれずに
アシュトンはじっとしていた。
「アシュトン」
「ん?」
アシュトンが問いかけてくるまなざしに
プリシスはやはりきくことができない。
「ううん」
「あの・・怒ってる?」
不安げにアシュトンがプリシスに尋ねると、
「ううん。あの・・なんでそう思うの」
逆にたずね返された。
「あ、だって・・」
だって、やっぱりプリシスがボーマンとのこと許せるわけが無い。
「わたし・・・」
どうしょうも無くみじめでしかない。
そういいたいのもプリシスは黙った。
軽く聞き流されても、
またアシュトンに謝られても一層惨めになるだけだった。
「あのね」
よほどだいてよといおうか。
でも、望まれもしないのに強制する?
『何で、抱いてくれないの?』
そう、たずねてみようか?
なに言われても驚いちゃ駄目よ。
プリシスは自分に言い聞かせるとアシュトンに尋ねてみた。
「え?」
やるせない寂しさが言わせたプリシスの言葉をアシュトンは考えていた。
不思議なほど欲求が萎えてゆくのに、
アシュトンはプリシスを抱いてあげようって思った。
今のプリシスの寂しさをなぐさめてあげようって。
アシュトンはプリシスの頬を挟み込みながら唇を寄せてゆくと、
片手をプリシスのスカートの中に突っ込んでいって、
下着をひきずりおろしていった。
欲しくなってしまってる事をあらわしている潤みがあるのを確かめるとアシュトンも下着を脱ぎ捨ててプリシスの中に入っていった。
どうしょうも無い寂しさがプリシスの身体に欲求を起こさせている。
『こんなに僕が欲しい?』
片割れにあえない寂しさが涙を流させるかのように、
プリシスの中はひどくぬめっていて
アシュトンの動きもなめらかになっている。
「プリシス・・・あいしてるよ」
激情でもない。
欲求に与えられた快感のせいでもなく
アシュトンはただ、プリシスの心を慰めたくて、
宥めたくて自分の物を動かし続けた。
『ボーマン。あんた・・こんな気持ちだったんだ?』
ふと、ボーマンの気持ちがアシュトンにかさなってゆく。
そして、プリシスがあの時の僕?
アシュトンの腕の中で、
「うれしい・・」
って、プリシスは呟いている。
最低線である異性としての必要段階。
あるいは女そのものを求めてくれるアシュトンがいる。
くちゅくちゅと音を立てているプシイに与えられてゆく快感が、
アシュトンから与えられている事が
プリシスには何よりも嬉しい。
「ぁ。アシュトン・・きもち・・いいよ」
プリシスの思いも迷いも悲しみもすべて快感に飲み込まれてゆく。
それをじっと見つめているアシュトンだったけど、
『プリシス。あの日、欲望に
君に
服従してしまう自分に、
僕は自分のスタンスが崩れてゆく気がしたんだ。
なぜなら君の思いは僕を受け止めたいって思ってなかったんだ』
でも、プリシスがかわった。
今のプリシスはアシュトンの一挙一投足にすがってくる女になってる。
プリシスを慰めるかのように一層早く動き出したアシュトンに
「あ・・アシュトン・・あ」
吐息を漏らしてゆくプリシスの中で脈動を起こし始めた物を
アシュトンは思い切り引き抜いた。
自分の手で押さえ込んで発射を受け止めてやると
アシュトンは立ち上がった。
「・・・・」
中でださんないんだ。
プリシスに思い切り欲求をぶつけているわけじゃない。
思わずプリシスの中で果ててしまう事をセーブするアシュトンがいる。
『何で?』
手を洗いに行ったアシュトンが帰ってくると
プリシスははっきりともう、駄目になったんだって思った。
それでも、
「アシュトン」
本当に好きよって言葉を出したら
心の中が空っぽになってしまいそうだった。
心の中の一片〔ワン・ピース〕を崩したら心の中に
風がはいりこんできそうでプリシスは黙った。
「ん?」
プリシスの頭を優しく撫でるアシュトンだったけど。プリシスには
『アシュトンは私を子供だと思って諦め始めてるんだ』
と、思えてくる。
「アシュトン」
「ん?」
寄り添ってくるプリシスに手を回すと
「たらない?」
って、たずねた。
『そうじゃない・・ううん。・・そう』
アシュトンの胸に身体を預けたままのプリシスの足の間に
アシュトンの手が伸びてくる。
「あ・・あ」
すがりつくプリシスの微妙な位置を覚えてしまったアシュトンは
スグに高い刺激をプリシスに与え始めていた。
「プリシス」
「ん・・ん」
「僕のを触って」
「ん」
すっかり、萎えてる。
前のアシュトンならこんなことは無かった。
プリシスの欲求に答えるため萎えた物をエレクトさせてまで・・・。
悲しい事実なのにプリシスは何故こうまで満たされない。
寂しくて悲しくてアシュトンを感じていたい。
アシュトンに与えられる快感の中で全てを忘れ溺れ去りたい。
その欲求がプリシスを変えていった。
アシュトンの膝の上に上がりこむと
プリシスは自分からアシュトンを求め出していた。
「ね、アシュトン」
今のプリシスに似た感情が
あるいはアシュトンにボーマンを受け容れさせたのかもしれない。
でも、是は愛じゃない。
どうしょうもない自己の確認でしかない。
まるで自慰行為そのもの。
プリシスの中にふと沸いてきたアシュトンへの理解だった。
「アシュトン」
「なに」
「寂しかったんだ?
私がアシュトンの事ちっとも受け止めないから。
我侭な女の子だったから、寂しかったんだ?
ね?そうでしょ?だから、ボーマンと」
アシュトンは少し考えていたけど
「そうだよ、身体だけおとなになっちゃって・・心が」
「ごめん。ね。よくわかったよ。だからもういわないで」
「ぼくは・・」
「いいの。もういわないで。私が、私がアシュトンを好きなの。
アシュトンがどうかなんてもういい。
ね?動いて。もっとアシュトンを感じたい」
「ぼくは」
アシュトンはプリシスへの愛情を精一杯表すかのように
動き出しながらプリシスの腰を何度も揺り動かしていった。
「あ・・」
ぬるぬるした物がアシュトンの股間までしたたりおちている。
「プリシスきもちいい?」
「ん」
「本当?」
「んん」
「ねえ。その気持ちいいのは僕があげたんだよ」
「ん」
「ね。プリシスもっとあげる。いろんなこともっともっと・・」
「ぁ・・あたしもあたしもあげる。アシュトンにいろんなことあげたい」

欲しい。欲しい。
って、ねだってばかりいた二人があげるってそういいだしていた。
「ボーマンはけして欲しくて僕をだいたわけじゃんない。
与えてあげたい。それだけの愛情だったんだと思う。
丁度今のこんな気持ちに似ているかもしれない。
僕もプリシスも与える事を知らない子供だった。
それをボーマンが教えてくれたんだ」
黙って聞いていたプリシスはアシュトンの言う通りだって思った。
二度目の疼きを訴えだしたアシュトンが慌ててプリシスに告げた。
「今あぶないんでしょ?」
「あ?うん」
「あは。せつなーい」
危ない日。それだけ?
なのに気を回しすぎていた。
自分の気持ちばっかだったよねってプリシスは思うと
慌てて身体を離したアシュトンに追いすがると、
アシュトンの物をほうばろうとしはじめた。
「あ?いいの?」
「いいの。そうしてあげたい。
自分の手なんかで受け止めないで。
アシュトンの事なら私が何もかも」
受け止めて見せるという口がアシュトンの物をほうばり始めた。
その優しい動きがアシュトンに伝わってきた。
瞬く間にアシュトンはプリシスの口の中で果てていてしまったけど、
放たれた物をプリシスはごくりと飲み込んだ。
アシュトンの事なら何でも受け止めたい
プリシスの少女期からの脱却だった。

(osimai)

続きを読む

イッツ・オンリィ・ユアマインド③

ボーマンの横にアシュトンがいる。
レオンの所に薬品を持っていったボーマンの後を
アシュトンがくっついて帰ってきた。
閑と言うか、することがねえというか、
どっちも同じことだけど
「おい。プリシスん所にいかねえのかよ?」
と、やんわり断りを入れてやったら、
なんだかショボけた様子で
「だめなんだ」
って、いいやがる。
「なんでだよ」
って、いうボーマンに
「なんでも、いいだろ」
って、返した言葉がどうにもうさんくさい。
「なんかあったのかよ?また、喧嘩か?」
と、軽くからかい半分でたずね返すと
「べつに!」
と、語気が荒い。
プリシスの所に行かないわけを喋りたくないなら、
別に喋らなくていいけど。
何があったかしらねえけど俺にまで当り散らすなよ。
可愛くねえじゃねえかとその言葉を口に出しかけて
ボーマンは気が付いた。
『何だよ?らしくなく寂し気じゃねえかよ』
一生懸命突っ張っているけど
心の底にどんよりした寂しさがアシュトンを包んでいる。
どうもいつもと違うなと判ると、
アシュトンがひどく人恋しくなっているのにも気が付いた。
しかたねえ。傍にいてやっかと、決めるとボーマンは
「おい。ちっと、まだ調剤が残ってんだ。手伝わねえか?」
と、アシュトンに尋ねてみた。
「うん。べつにいいよ」
と、アシュトンは答えた。
用事もないのにレオンの研究室でぼんやりしてるのも
なんだか見っとも無いし、
どうせやって来るクロードに
『あれ?プリシスん所に行かないの』って聞かれるだろう。
そのうちレオンもよってきて
また同じことをクロードと一緒に根堀葉堀きかれるだろう。
それに答えるのも気分は重い。
かといって一人で部屋の中にこもっていたくもない。
そんなわけでボーマンに頼まれた用事にかこつけて、
アシュトンはボーマンの後をくっついて帰ってきた。

「はあああ」
やけに重苦しいため息をついているのに
アシュトンは何も喋ろうとしない。
こんなときは無理に聞きなおしたりしない方がいい。
わざわざ人に聞こえるようにため息を突くってことは、
やっぱり本音を話してしまいたいってことなのだ。
だけど、下手にこじ開けるようなことをすると
貝さながら口を閉ざしてしまうのだ。
と、いうわけでボーマンはアシュトンの口を割らす、
いいタイミングを見計らっている。
「おい。そこの青い瓶をとってくれや」
と、ボーマンが声をかけると
「あん?これ」
と、棚から瓶を引っ張り出して渡してくれたが、
アシュトンもボーマンの手伝いなんて簡単に出来るわけもなく
どっちかというとぼんやりボーマンの手つきを
見ているばかりになるのである。
焦げた椅子を引き寄せて座り込み
ボーマンの調剤を見ているのも退屈でもある。
「はあああ」
何度目かのため息である。
始まったなと思いながらもボーマンは薬品を作る手を休めない。
手持ち無沙汰になると
アシュトンは自分の心の中の鬱積にとらわれだしてしまう。
レオンの所に居ても同じだったのであるが
忙しそうなレオンが役にも立たないアシュトンに
手伝いなぞ求めてくるわけがなく、
まだしもボーマンのほうが時折、何か言いつけてくれるだけ
気が紛れていたのだけど、
ボーマンももうアシュトンには用事はなさそうだった。
『はあ・・・レナがねえ』
アシュトンの心の中でつぶやいていたつもりだったのに
どうやら口に出ていたようだった。
「なんだ?レナに関係あんのかよ?」
って、ボーマンに尋ねられて
やっとアシュトンが自分が喋っていたことに気が付いた。
アシュトンの気持ちを塞ぎこませてしまったのは、
レナのある事実を知ったせいでもある。
が、そんなことを言いふらすかのように言えるわけはない。
「べつに」
『レナが・・あのレナでさえ』
アシュトンの中で
プリシスがアノ事を断ってくるのを
釈然としない気分にさせてしまったレナの事実。
「何だよ?レナ?え?まさか?」
って、ボーマンの顔色が変わった。
出来ちまったってデイアスの相談ごとを聞いてから
あれから何の音沙汰もない。
まさかと思うが結局、
レナの奴は、デイアスの子供をおろしちまったのか?
そう考えるとアシュトンがなんだか
微妙に塞ぎ込んでいるのも判らなくもない。
同じ立場にあるアシュトンにとっても、決して人事ではない。
ちっと悲しい事実にプリシスの奴もほいほい、
お気楽にセックスしてることに途惑っちまってるに違いない。
『ハーン。それでおまえらもブルーなわけかよ』
って、せっかく大胆な推理をしているボーマンに
「まさかって?」
と、ボーマンの顔色が気になったアシュトンは尋ね返した。
「いや。諦めちまったのかと思ってよ」
「?レナが何を?」
って、アシュトンが尋ね返してきた。
アシュトンがピンとこないとこをみると、
ボーマンの推理も違ったのかなと思いつつも、
アシュトンの鈍いのがボーマンの気に障っている。
「あれから、デイアスの奴。なーんもいってこねえじゃあねえかよ」
と、言うとやっと何のことか判ったんだろう。
「あ。忘れてた」
と、全く人事なんだ。
「つめてえやつだな」
「ああ。ごめん。そのことだったら。あの。ちがってたんだって」
「なに?」
あれだけ大騒ぎしといてレナの妊娠が事実ではない?
「やろう。人の心配もしらないで、ほっときぱなしかよ?」
と、随分お気楽なデイアスに、
ぶつぶつと文句を言ってるボーマンの目の前で
アシュトンが小さくなっちまってる。
「あの・・だから・・ごめん」
察しの良いボーマンである。
「てめえ?」
「ごめん。僕が伝えとくってデイアスにいったんだ」
「伝わってねえじゃねえかよ。え?おまえ。
いま、俺が聞いてみて初めて喋ったんじゃねえかよ」
「ん・・・」
まあ、こいつのこったろうから、
そんなことがあっても、おかしくない
と、ボーマンは思い直してみていたが、
そうすると、さっきアシュトンが言った
「はああ。あのレナがねえ」ってセリフはどういうことになるんだ?
「で、レナがどうだっていうんだよ?」
「う。ううん」
「なんだよ?」
「あ」
って、やっぱしアシュトンは喋ろうとしない。
と、なるとまた色々と推理してしまうのは世の人の常というものである。
腕を組んでボーマンは考えている。
『あのレナがねえ。だろ?
で、おまけにそのことで少なからずも
こいつがブルーになっちまっている?
レナじゃありえねえ事で、こいつにとって
プリシスに会いたくねえって気分になる?』
想像した事をボーマンは、成り立つことかどうか考えている。
『例えば。レナがデイアスに冷たかったってのは
実は・・他に好きな奴が出来たって。
レナが浮気してる?
俺じゃああるまいし・・・。
んでも、それを知ったアシュトンのレナが?ってのは成り立つな。
女心と秋の空。プリシスにもなんかあったか?
で、あのレナが浮気するくらいなら
ってこいつが自信なくしておちこんでる?』
ちっと、大胆すぎる推理というより
当てずっぽうもいい所だけど、
アシュトンの口を割らせるきっかけが欲しいボーマンなのである。
「そうかあ・・・あのレナじゃあ考えられねえ」
と、納得した顔でボーマンは自分の推理に頷いてみせると、
アシュトンが乗ってきた。
「え?あれ?わかっちゃったの?」
判っちゃったなら隠す必要もない。
そのことで巻き起こされた自分とプリシスとの葛藤と
その経緯を話してしまいたいアシュトンなのである。
何がわかったかも確かめもせず、
判ったの一言でボーマンの認識と
アシュトンの認識が一致してると思い込むところが
相変わらずのおっちょこちょぃなのであるが、
この際、それは指摘しない方が得策なのである。

わかった振りをしながら、
アシュトンの言葉にうまく口裏を合わせてるだけで
いろんな事を吐き出しちまいたいアシュトンが
勝手に喋り出すっていうものである。
なのに、アシュトンは
やっぱしそりゃあまずいやって思ったのと同時に
デイアスのことで思い出したことがあったんだ。
「あ。そういやあ。ひどいや」
って、いいだした。
「なんだよ?」
アシュトンの言い出したことはあの座談会のあとに
アマンダにいったことである。
「みんなして、僕に勘定をおしつけてでていっちまったんだ」
「え?そうだっけ?」
「そうだよ。
だいたい、ボーマンがさっさとセリーヌと出ていっちやったのが最初」
って、その時のことを思い出してもらうために
しゃべくりだしたことだったのに、
アシュトンは別のことに興味を惹かれてしまっていた。
「あは。そうなんだよ。・・・で?そのあと、セリーヌとどうなったの?」
突然、立場が逆転して
尋ねる側が尋ねられることになったのはいいとして
答えられねえ事をこいつは抜け抜けと聞いてきやがる
と、ボーマンは苦りきった顔になった。
「な・・・なんが?」
アシュトンに空とぼけて見せたって無駄事なんだ。
ははあ、答えたくないんだななんて察してくれる奴じゃない。
どうにもくだらない好奇心にとらわれれると
気がすむまで心の中にためておくってのが、アシュトンなのである。
ゆえに皆様もご存知の通り一時アシュトンの覗き病が
なかなか解決しなかったわけである。
「やだなあ。とぼけないでよ」
って、アシュトンはこんな時ばかりは問題から目を離さず、
しっかり見据えようとする。
「んな事ばっかにマジになりやがって」
「うふふ。だめだよ。で?どうなったの?」
何を嬉しげに想像してるのか知らないけど
セリーヌという女性の浮気?問題についても
こうまでお気楽に興味津津になれるということは、
「レナがねえ」は浮気問題じゃないということが
はっきりしてきた。
「ねえ?」
何をどうききたいのかしらないが、
なんだかやらしくはあるが
嬉しげなのをむげにいなしたりもしたくない。
「あーん?おまえの想像にまかせるよ」
「そんなの答えになってないじゃない」
と、妙なことには執拗に食い下がってきやがる。
だけど、浮名を流してるボーマンにとっては
何にもなかったなんて答えることができない。
面目というかメンツにかかわるというか。
いったいそんなことに何のメンツがあるのかよくわからないが
ボーマンは妙な男のプライドにこだわってるもんだから
ほんとうのことを答えたくはないのである。
「ねえ?うふふ。どうだった?」
なんて、アシュトンはもう、
てっきりなんかあったと決め付けだしている。
仲間内のH。
それも超色っぽいセリーヌとの事に興味が湧くには判らないでもない。
ボーマンはとまどっている。
このおっちょこちょいが勝手に信じ込んだ想像どおりに
思わせておくのも一手である。
が、考えてもみてくれ。
いつニーネと顔を合わせるか判んない相手に
早々簡単に手をだせるわけなんかないじゃないか。
なのに、なんかあったと思わせてしまうのも
これもボーマンには癪なのである。
ボーマンにはボーマンのポリシーがある。
大事なニーネにばれて、お互いが苦しむなんて馬鹿はしたくない。
ほんとにやるんなら、誰にもばれないとこで、
お互いが割り切った状況が必要なのである。
と、したら、みんなの前でセリーヌを誘っていったなんて事自体
本来ボーマンにはそんな気がなかったってことでしかないんだけど、
まだまだ、そんな事までの洞察ができないアシュトンなのである。
「大人の関係に口をだすんじゃねえよ」
そうそう。
そういう複雑なボーマンの心理を一番良く判ってるのは
当のセリーヌである。
そこの所を判ってる大人の付き合いなのである。
「へええ。割り切ってるんだぁ。やっぱし・・セリーヌだなあ」
「な。何だって、そう、短絡思考しかできないんだよ」
セリーヌをやっちゃった。
セリーヌとしちゃった。
そういう目で見てくれるのは反面ボーマンの男の魅力を
充分に認めてくれてる事ではある。
ボーマンにかかったら落ちない奴は居ない。
って、アシュトンの見解に触れると
ボーマンはちっとは男のメンツに満足したんだろう。
「なーんも、やってねえよ」
と、素直にさらけだしたのに
「うそだあ?」
って、信じようとはしないアシュトンなのである。
ようはこいつはボーマンとセリーヌに、なんかあって欲しくて,
おまけにあわよくば
その状況なり感想なりを聞いてみたいだけなんだと、ボーマンは判った。
「ねえ。で、さ、どうやって・・・あは。最初に」
アシュトンにしてみりゃ必死だったんだろう。
プリシスとのことで口説き落とせない方が悪いのか
断ってくる方が悪いのかって問題もある。
しっかり口説き落とせないアシュトンに非がないわけじゃない。
セリーヌのことをきっかけにアシュトンは
そこらへんのテクニックというか
ムードというかそんなものを伝授されようとしていたんだ。
「たく。スケベ心もろだしじゃねえかよ。
んなんじゃ、プリシスにいやがられるぞ」
「え・・・」
「ま::セリーヌはいい女だったよ」
手を出さずに置くのが惜しくて仕方ねえという場合の
いい女ってことである。
「はあー」
ボーマンのさっきのセリフで
アシュトンの顔色がぴくりと変わったのを見逃しちゃいない。
話を元に戻すいいタイミングである。
「で。ようはおまえはレナのことで。プリシスに」
と、半分も言わないうちにアシュトンががくりと首をたれた。
ボーマンだって何のことだか判っちゃ居ないんだけど
アシュトンのほうは、もう黙ってることに
こらえきれなくなってきていた。

「あ、あのさ」
「なんだよ?」
「愛してたら何でもできるよね?」
「どうかな?」
だって、いくらニーネを愛してるって判ってても
ボーマンは浮気をやめようとはしてない。
と、いっても、もしそれがニーネにばれちまうことになったら、
当然ニーネは許しちゃくれない。
と、なるとボーマンは金輪際浮気はできなくなる。
つまり、愛してるから止めるって事が出来るわけなんだろうけど
止めたくないばかりにこっそりとやってるわけなんだけど
と、なるとアシュトンへの言葉を訂正したボーマンである。
「まあ、たいていのことはできるな」
「そうだよね。あのレナでさえそうなんだもの」
オーラルセックスを断られちまったって事で、
アシュトンの中に沸いてきた哀しい認識。
それはひょっとして愛されてない?って思いだったんだ。
そんなことで決め付けちゃいけないよと
自信と余裕を取り戻したかったはずのアシュトンに、
あのレナがデイアスへのオーラルを享受したって事実は
アシュトンの足元を崩壊させてしまっていた。
『愛していたら・・できる。プリシスは僕を愛してない』
レナの中立ちでもう一度プリシスの所に訪ねたアシュトンは、
いったん取り付かれた思いから抜け出せずにいた。
『愛されてる』
それを否が応でも確認したいアシュトンであり、
馬鹿げた方法でしかないのに
それが、確かめることの唯一の方法と思い込んでしまうほど、
アシュトンの中が切羽詰った思いに駆られていた。
レナにとってのひとつの愛情の表現でしかなかったことを、
そのまま自分達に置き換えてみようということ自体が無謀なことである。第一、プリシスはレナじゃないし、
アシュトンもデイアスじゃない。
 そんなことさえ見えなくなってしまって、
だいいち、愛されてるかどうかなんて確かめることじゃない。
素直に信じる事でしかないのに。
アシュトンはあの日。
プリシスの愛を見せ付けられたくってたまらなかったんだ。
愛されてないのかもしれない。
軽いセックスフレンド?
友達よりは少しばかり性の領域に入り込んでもいいかな?って
相手でしかない?
それも、アシュトンの方からその領域に入り込んだんだ。
一度そうなっちゃったら仕方ないから?
それなりにセックス自体は悪くないから関係は持つけど
もっと心の中まではいりこんじゃいない。
それだけの関係?
プリシスに会いに行ったアシュトンは
レナに忠告された無理強いはだめよって言葉さえ思い出せなかった。

「おい?」
黙りこくってしまったアシュトンの瞳から落ちてくる意外なものに
ボーマンはたじろいだ。
「ちゃんときかせろや」
「ん」
アシュトンが調剤室の周りをゆっくり見渡した。
ガラスをはめ込んだ向こうに店が見えている。
泣き顔をうっかりだれかにみられたくないんだろう。
かといって店を閉めるわけにも行かない。
「俺の部屋にいくか?」
「ん・・そうして」
まあ。後から考えりゃこれが間違いだったんだ。

部屋に入る前にボーマンはニーネにに店のことを頼むと
あごをしゃくってアシュトンのことを指し示した。
アシュトンがじっとをうつむいたままなんだか元気がない。
なので、なんか相談事だなってニーネも判ったんだろう。
「何にももってゆかないわよ」
って、相談事の場所に立ち入らないことをそんな風に言い表した。
「ああ」
言葉少なく答えるとボーマンは自分の部屋に向かった。
小さなクーラーボックスの中にはビールがはいってる。
まあ。ひるっぱらから酒なんてのも感心しねえけど、
ちいとは酔わえとアシュトンがますます砕けてしまいそうだった。
渡された瓶ごとのビールにおずおずと口をつけると
アシュトンはまた悲しげなため息をついた。
「で?」
「うん」
「なんだよ?」
「あのさ。僕だってプリシスに断られちゃった時はね。
仕方ないかなって思ってたんだ」
いきなり唐突にボーマンが判ってる思い込んで
喋り始めたアシュトンに何がだよ?なんて聞けなくて、
まあ、話してるうちに具体的なことは見えてくるだろう
と、考えてボーマンは頷いてみせた。
「だけどさあ。あのレナがさあ・・・」
でたぞ。
あのレナがいったいどうしたってんだ?
ボーマンは問題の核心がこのレナがねえであるということは判ってる。
「レナでさえ出来るのに。ううん。あのレナがするんだよ。
なのに、プリシスはいやだって言うんだ。僕・・・」
ボーマンは注意深く尋ねてみた。
「どうして嫌だっていうんだ?」
「不気味だって。プシイにはいいくせにさ。
そんなのって自分さえよけりゃいいんじゃない?
そういうことじゃん。僕はプリシスの奴隷かなんかなわけ?」
『へ?』
アシュトンの言葉でボーマンは
それがオーラルセックスのことであるというのがすぐに判った。
けど。
え?あのがきんちょのプリシスに
そんなことをさせようなんて事をよく考えついたもんだ
と、ボーマンは思った。
そして、おまけにレナでさえってことが
そのことであると察したボーマンは、アシュトンさながら
『あのレナがかよ?』
って、思った。
そして、ついついデイアスのたまんない顔と
レナのその場面を想像しちまってた。
『ひえー。あのレナがかよ。え?デイアス。
男冥利につきるじゃねえかよ』
けど、そんなレナの想像図を楽しんでる場合じゃない。
「あの、レナでさえできるんだよ。
デイアスの為になら、しちゃうんだよ」
「あ?ああ」
「なのに、プリシスはしてくんない」
おいおい。涙声になっちまうほど重大な問題じねえだろうが。
「おまえなあ。しょっぱなから・・・。
ステラに、んなことされたんだろ?」
「か、彼女のこととは関係ないよ」
「いーや。関係あるさ。
妙にいろんな種類のテクニックがあることだけはだけは覚えちまってさ。それを自分達に応用しようってのは、まだ早いぜ」
「じゃあ、レナは?」
「あ・・・」
「僕が言いたいのは。そんなことをするとかしないとかじゃない。
プリシスの中に僕を何でもかんでも受止めよう
って愛情がないってことなんだ」
「あ」
ただの欲情で物を言ってる奴かと思っていたアシュトンが
ひとつの行動の中に現れる心理を直視しているという事が判ると
『どうでもいいことに気がつきやがって』
と、ボーマンは軽く舌打ちをした。
「んじゃ、聞くけどよ?それをしてくれりゃ
愛してるってことになるのかよ?」
「プリシスならね」
ステラはどうだよ?って続けて聞いて
そんなことで愛情を計ろうってのが間違いだって言おうとした言葉が
アシュトンの答えで吹き飛んでしまった。
レナがそうであろう。
あのレナがそうするって事は確かに愛情としか思えない。
だったら、プリシスもそういうことになる。
『いつのまにか、遊びのセックスと
本気のセックスをわきまえるようになってやがらあ』
「ボーマン」
プリシスが本気であることが、
プリシスにマジで受止められることが
アシュトンの中でこんなにも大きな心の面積を占め始めているのである。
『まいったなあ』
「僕は愛されてない」
顔を覆う手からアシュトンの涙が伝い落ちてきていた。
「馬鹿やろう。んな事ぐらいで泣き事をいうなよ。
え?振り返らせりゃいいじゃないかよ」
「もう、いいよ。くたびれたよ」
「なにを・・・いって」
「ボーマン。寂しいんだ」
「なに?」
「だいてよ」
「あーん?おまえ何ボケかましてんだよ?
わ、判ってるのかよ?え?俺はうけなんかやらねえぜ?
それがつまりどういうことか。あのなあ。おまえのけつの穴に・・」
「いいんだ。プリシスがどうしても嫌だって。
そんなのを僕が無理強いして。
そんな気分って辛かったろうって思うんだ」
「だから、自分も嫌なことを身に受けてプリシスにわびようってか?」
「それもあるよ。それに・・僕達」
「な、なんだよ?」
「もう・・・修復できないよ・・・」
自分で出し始めた言葉でアシュトンは、
プリシスのことに踏ん切りを付ける気になってしまっていた。
「だから・・・」
『俺に抱かれることで、プリシスをふりきろうっていうのかよ?』
「さみしいんだ」
ボーマンの首に巻きつけてきたアシュトンの手をボーマンは解きかけた。が、その手を握り返すようにしてアシュトンは
ボーマンの唇に顔を寄せてきた。
『だめだ。こいつ。今のこいつに何をいっても通じねえ』
ボーマンはアシュトンの望むままにしてやることを決めると
後ろ手で椅子の背もたれにかけてあった上着のポケットの中の
銀色の容器の存在を確かめ取り出した。
「なに?」
「潤滑油」
外に行く時にはボーマンはいつでも持ち歩いている。
いつ何時好みの少年といい時間を過ごすチャンスが訪れるか
わかりゃしないし、とっぷり時間が取れない時もある。
擦り寄ってきた相手をそこらの物陰で物にしてしまうことだってある。そんな時にはこいつがあると便利なのであるが、
それをまさかアシュトンに使うことになるとは
思わなかったボーマンである。
念のためボーマンはもう一度アシュトンに確かめた。
「ほんとに・・ほしいのかよ?」
返事の変わりにアシュトンはボーマンの物に手を伸ばしてきた。
『こ、こいつにそういう毛があるなんて・・思ってもみなかったぜ』
だけど・・・考えてみりゃあ、
だからこそレオンたちの濡れ場を
好んで覗いたりする気にもなっていたんだろう。
『つまり・・こいつも一種の両刀ってやつかよ』
ボーマンは男にも女にもシテでしかないが、
アシュトンは女にはシテで男には猫という形で対するものを
もっていたのであろう。
が、プリシスに対する気持ちと欲情の中で
猫の面は塞がれて育つことはなかったし、
男に対する欲求に気が着かされることもなかった。
よしんば欲求を持ったとしても自覚のない欲求は
プリシスへの欲求に摩り替えられて
アシュトンの中で昇華されていたのであろう。
が、ここにいたって、プリシスをあきらめようとした時
アシュトンの中の意識がめぶいたのかもしれない。
「こいよ」
「あ」
アシュトンがあんなに欲しがってたプリシスからの愛撫ではないが
『酔わせてやるぜ』
ボーマンはアシュトンの下着まで一気にずり降ろすと
屈みこんでアシュトンのものをほうばり始めた。
「あ・・・んん」
存外。可愛い声で反応を楽しませてくれるアシュトンなのである。
ボーマンはそうしながら片手でさっきの容器のキャップをひねると
器用に中身を手の平におとしこんだ。
指先を手のひらに曲げるようにして潤滑油を指先になすくると
アシュトンの局に指を入れ込んでいった。
「こわくねえかよ?」
「いいんだ」
プリシスにわびる気持ちなのだろう。
アシュトンは固く目を閉じてボーマンの指を受け入れていた。
その次に入れ込まれるものがなんであるか、
レオンたちのことをいいほど覗いてたアシュトンにはわかっている。
指をぐうと押し込んで中で動かしてやると
「あ」
意外な反応を見せてきた。
「本物はつらいぞ」
「いい」
『そうかよ。おまえ、それはよお、
結局プリシスにほれてるってことだろうがよ?』
辛い承諾を受け入れるようにアシュトンは
ボーマンの腕に体をあずけている。
アシュトンの唇をふさぐようにしておいて、
ボーマンは自分の下着を取り去ると立派にそそり立ったものに
さっきの潤滑油をぐいとすりこんでアシュトンの局にあてがった。
「ここだ。はいりこんじまうぜ。やめるなら、いまのうちだぜ」
アシュトンは、小さく首を振った。
「・・・」
ボーマンはそのまま潤滑油で滑るもので
アシュトンを刺し貫くかのようにぐいと押し込んでいった。
「い・・」
痛いといおうとする言葉をアシュトンはこらえてる。
そんなことでも、アシュトンは受けるということに徹しようとしている。
『愛してなくたって、嫌で、辛い事だって受けてやろうとしたら
うけられるんだ』
プリシスのわがままでしかない。
それを自ら証明するかのようにアシュトンは
ボーマンのものを受け止めようとしていた。
『だから・・もう・・いい』
ボーマンの手がアシュトンの物をゆっくり愛撫し始めていた。
『え?たまんねえじゃねえかよ。
んなに必死になって俺のことなんかうけとめるなよ』
奇妙な感情である。
『プリシス。おまえがもらえるはずの感情だったんだぜ』
受け止めてるアシュトンが妙にいとしい。
大体セックスってのはこうやって情を深めちまう力があるものなのだ。
それがわかんねえがきが
小手先の快感だけを追従しようってのが間違いなんだ。
快感を共有し部分をひとつに重ねることで
沸いてくる感情に酔わされるって事がセックスの醍醐味なんだ。
ボーマンはアシュトンの体を支えると抱き起こした。
「つれえだろうが?」
ボーマンがこんなに優しい。
「こんな・・・思いがほしかっただけなんだ」
アシュトンはアシュトンで
自分の気持ちをプリシスに重ね合わせている。
一生懸命受け止めたい。
自分のいじらしさを誇るわけじゃないけど
プリシスが今のアシュトンみたいな気持ちであったら
どんなに切なく愛しいことか。
「泣くなよ・・・え?」
「ごめん」
せめてるんじゃねえさ。
ボーマンはアシュトンをだかえこむと、ゆっくりと動き始めた。
「ああ」
ボーマンは小さくあえぐとピッチをあげ始めた。
「やり直せよ。え?なめてくれなくったっていいじゃねえかよ?
おまえが惚れてんのはプリシスじゃねえかよ」
「あ」
劈くような痛みの中でアシュトンははっきりと言い放った。
「もう、いらない・・プリシスはいらない」
「俺にはそうは思えない。おまえは焦り過ぎてるんだ」
アシュトンの痛みを紛らすかのように
ボーマンはアシュトンの前のものを激しくさすりはじめていた。
「あ・・ボーマン・・・」
小さな血脈の動きが大きくなるとアシュトンのものが
大きくうねるようにざわめきだした。
ボーマンは黙り込むとアシュトンへの愛撫と
自分の動きを重ねるように蠢かしていった。
「あ・・ん・・・いい」
アシュトンの至福の時と
ボーマンの発射のどよめきが重なり
二人は声を潜めて快感を振り絞っていった。

欲情を解き放ち
欲望を共有した二人がソファから起き上がってきた。
「なあ・・」
ボーマンが言おうとしてることは判ってる。
プリシスとの修復のことである。
アシュトンはボーマンにもたれかかるようにして
プリシスと判れる事を決めた出来事を
ポツリポツリと喋り始めた。

あの日。
アシュトンはレナに押されるようにしてプリシスの部屋を訪ねた。
「あ・・あのね」
って、プリシスはそういったきり、何にも言葉が出てこない。
アシュトンがプリシスを引き寄せると
プリシスはそのままアシュトンの胸の中に入り込んできた。
そして、いつのまにかアシュトンはプリシスと
いつものことをし始めていた。
それで二人のこだわりが溶け落ちてゆく筈だったのに。
二人の意識の食い違いがあらわれてしまった。
アシュトンに突きこまれてくる物の心地よさに放心していると
アシュトンがプシイからアシュトンのものを引抜いた。
そしてプリシスのプシイの中に指を滑り込ませて
親指の腹でプリシスのコアをまさぐり始めた。
俗にいうヘビィ・ぺッティングである。
「あ・・ああ」
漏れ出してしまう声を塞ぐようにアシュトンが唇を重ねて来た。
アシュトンがゆっくり体を起こし始めたとき、
プリシスの唇の前にアシュトンの物の感触を感じた。
「え?」
プリシスの途惑った頭の中にレナの言葉が渦巻いてきている。
「目をつぶってアシュトンに任せちゃえばいい。
愛してるなら出来るよ。私は出来たわよ」
途惑いを筆触するようにプリシスは頭を振った。
が、それがアシュトンには拒否するように見えたのだ。
思いつめてるアシュトンの声は必死であった。
そして、かなり荒い口調でプリシスに一言命令するように言い放った。
「なめろよ」
できないことじゃないだろう?
それにアシュトンも懇願するみたいに言う自分にも
嫌な気分がしていたんだ。
僕に服従できるはずだろ?
それをも言葉でも確めたかったのだ。
「や・・やだ」
こんな無理強い半分。
なし崩し半分なんかに流されたくない。
レナの言う通り自然に自分からしてあげたいじゃない?
「そっ」
アシュトンはあっさりと引き下がるとプリシスから体をも引き離した。
「あ、あの」
怒ったんだ。短気なんだから・・。
しないって言ってるわけじゃないのに・・・。
ただちょっとこんな形じゃいやなだけだよ。
と、言おうとしているプリシスより先にアシュトンは
脱ぎ捨てた服をつかんだ。
「え?」
帰っちゃうの?こんなことぐらいで怒って帰っちゃうの?
プリシスが見上げる目の前でアシュトンは服を着ながら
「これで・・お別れ」
って、いったんだ。
「なんて?」
聞き間違いだよね。帰るって事だけの意味だよね。
「これ以上愛されることをねだって尻尾を振って
いきていたくないんだ。
辛いけど
悪いけど
責任取れなくなったけど。
僕にとってプリシスのノーはそういうことなんだ」
「うそ?何で?何でそんなことぐらいで・・・」
「惨めなんだ。うんざりするんだ。
いつもプリシスの顔色見て一挙一動にあたふたして。
こんなことくらいって言ったよね?
こんなことくらいしてくんないプリシスなんじゃない?」
「あ・・アシュトン。違う」
してあげるつもりだったプリシスなのである。
だからこそこんなことぐらいなのである。
「もう、いいよ。無理強いしてまで欲しくない。
オーラルなんかにこだわってんじゃないんだ。
欲しかったのは僕のためなら何でもしてあげたいって
自然にプリシスから流れてくる思いだったんだ」
アシュトンはズボンをはき終わると
不思議なくらい潔くプリシスに別れを告げた。
「プリシスがそんな風に自然に思えて
自然に尽くしてあげたくなるようないい人はきっとあらわれるよ。
僕じゃなかったのは残念だったけど。
もう、これ以上プリシスに無理をさせたくないんだ。
でも、ありがとう。僕のわがままだっていっぱい聞いてくれて
僕のものにもなってくれたのに・・・でも、ごめん」
『わがまま?わがままでしかなかったっていうの?』
アシュトンを責めてしまいそうな言葉を飲み込んでプリシスは
「アシュトン?それってアシュトンも他にいい人を、
喜んで受け止めてくれる人を探すっていうこと?」
と、震えるような口で尋ねた。
「そう・・なるかもしれない」
「私じゃだめなわけ?ねえ?
アシュトンの言うとおりしてあげる。どんなことでも・・」
「無理なんだ。レナみたいにこんなことくらい
ううん。こんなことまで愛しいって思えないでしょ?
やっぱりそれってプリシスが言う通り
無理して背のびしてるだけなんだ。
そんなの自然じゃないでしょ?」
自分が迷ったことの結論をアシュトンの方から突きつけられてくると、
プリシスの中はレナに言われたことを思い返させていた。
――アシュトンに愛されてるって事に甘えて
いつでも、アシュトンが折れるって高をくくって
自分の愛をアシュトンの量りに載せようとしてない――
「私がアシュトンをおいつめてたの?」
アシュトンは少し困った顔をして見せたけど
「僕はそれでもプリシスが好きだったよ」
『でも・・もう、一緒にいるのがつらい?』
引き止める言葉をいまさら口に出せば
言葉だけの軽さだけみせつけるだけだろう。
愛しているんだっていえる自分じゃなかった。
って、判ってしまえば
そんな言葉は自分のおろかさを見せ付けてくるだけに過ぎない。
それでも居てくれといえば愛して欲しいってねだってる
馬鹿で、わがままな女でしかなくなる。
「しあわせにね」
と、最後にアシュトンはそういった。
「私が・・無理じゃなくて、
自然にアシュトンを受け止めたいって本気で思えるようになったら
会える?」
アシュトンは少し微笑んだけど何も言わずに出て行った。

号泣が響いてくるかと思ったプリシスの部屋の中は静まり返っていた。
『勝手を言ってなさいよ。アシュトン』
大体ステラとか言う女に狂った時だって諦めなかった
このありがたいプリシス様をなんだと思ってんのよ。
すぐ弱音を吐いて重圧から逃げるその弱弱しい所が
心配で突いてあげてたんじゃない。
あたしをなくしたらあんたの人生お先真っ暗よ。
って、ぶつぶつプリシスは強がりながら自分を激励してる。
諦めてんならあん時に諦めてるわよ。
ここで諦めるならせっかく奪い返した意味ないじゃーん。
お見事なプリシスではあるが
根本的食い違いはどう解決してゆくのだろうか。

二日もすると、やっぱりプリシスがボーマンの元に現れた。
強がってみてはいたけどやっぱり相当こたえていたんだろう。
真っ赤に泣きはらした目がボーマンの目には痛々しかった。
アシュトンが言い出した一方的な決別を、どう回避したらいいか。
これといった方法が思いつかない。
「どっちが自分勝手なんだか・・・よくわかんなくなってくるよ」
って、プリシスはつぶやいた。
「受け止めてやれねえ方が間違ってるよ」
って、ボーマンはあっさりと言い放った。
「え?」
「オーラルだろうが。アナルだろうが。
それこそサドマゾであろうが。うけとめてやったもんの勝だよ」
ボーマンの言葉にプリシスは首をかしげた。
「なんか?アシュトンからきいてるの?」
「まあな」
「あ、なんていってた?」
「俺にアシュトンが言ったことをおまえに話す必要は無いと思うぜ」
なんだかボーマンの様子が突き放すように冷たい。
「・・・あの?」
こんなボーマンに何をきけばいいんだろう?
「あのな。プリシス」
黙り込んだプリシスにボーマンのほうが口を開きだした。
「今度の相手はセックスへの興味とか、好奇心とか
いうもんじゃねえんだ」
「え?」
アシュトンにはすでに誰かいる?
アシュトンの言葉どおりの人っていうわけ?
だから・・さよならをいいだしたわけ?
呆然としているプリシスに
「包んでやりてえって気持ちにさせられて。
それをアシュトンが素直に受け止めちまえば。
だいてやるしかねえだろ?」
「え」
プリシスにはボーマンが言ったことの意味が一瞬解らなかった。
「どんなに頑張ってももう今度の相手にゃ勝てねえよ」
ボーマンの言葉に思わずプリシスの口から言葉が漏れた。
「や・・やだ」
ボーマンは小さく首を振った。
「おまえがいくら嫌でも。もう、どうしょうもねえ。
俺もアシュトンを離す気はねえ」
プリシスの瞳が大きく見開かれた。
「う・・そ?今度の相手って・・」
『それがボーマンだっていうの?お。おまけに・・ア、アシュトンは?』
ボーマンが両刀使いだって事はプリシスだって知ってる。
それもシテ一方の・・。
そのボーマンがアシュトンを抱いたって事は
とりもなおさずアシュトンが受けの性を具有してるってことである。
何もかもが信じられない。
ボーマンがアシュトンにそんなことをするってことも、
アシュトンがそんな異常な性を受け入れることも。
「嘘だよね?私がわがままだったから
二人でお灸据えてやろうってそんな変なお芝居して・・・」
プリシスの必死の逃げ道にボーマンは耳を貸さなかった。
「プリシス。俺はおまえに謝る気はない」
「え?」
アシュトンを追い詰め、
ボーマンとこんな風になったのはプリシス自身の甘さでしかない。
恨む相手は自分自身じゃないか?
ボーマンの瞳は冷たく厳しくプリシスを貫いているようだった。
「・・・・」
「ききたいことはそれだけか?」
言葉をなくしたプリシスにボーマンはそう尋ねてきた。
『ほんとなんだ』
だけど・・たったそれくらいのことでなんで?
「もし。私がアシュトンをきちんとうけとめてたら
そうはならなかったっていうこと?」
「あたりめえだろ?男なんてな。
おまえが思ってるほど強いもんじゃねえんだ。
自分のわがままを精一杯出しきって
それを知らん顔して受け止めてくれる女が居るから
いきてられるんだよ」
「・・・・」
「アシュトンにとってわがままを言い尽くしたい相手は
おまえだけしかなかったんだ。
だけど、それはアシュトンにとって無理なことだとわかりゃ」
「ボーマンは?ボーマンはアシュトンに?」
「はっ?笑わせるなよ?てめえが出来なかった事を
俺がどんな風にしてやろうと、かまうことじゃねえだろ?」
「・・・・」
「一言だけいっといてやるよ。
俺はお前が出来なかった事を確かにしてやったよ。
だから、あいつは俺に何もかも投げ渡して
俺に少しばかりの誠意をみせてきたんだ」
「そ・・それが。アシュトンが受けたって事?そういいたいわけ?」
「おまえにゃ、俺の気持ちもあいつの気持ちもわかりゃしねえよ」
ボーマンのその言葉を最後に唇をかみ締めると
ボーマンの元からプリシスは出て行った。

外に出て行ったプリシスの足音が遠ざかってゆくのを
ボーマンはじっと聞いていた。
「わかりゃしねえよ。あいつがどれだけお前に愛されたいか。
俺はアシュトンの心の隙間をちっとばかし、
うずめてみただけにすぎねえ、ただの・・・」
自分のとった行動はアシュトンにとってはただの逃げ場所でしかない。
充分に承知してるボーマンである。
そして逃げ込んだことによる虚しさが
アシュトンの中にほんとに欲しいものを
見せ付けさせてしまうだろう事も
お見通しゆえのボーマンの手ひどすぎる荒療治である。
「乗り越えてくれよ。プリシス。お前しかあいつにゃいねえんだ」
ポツリとつぶやくとボーマンはニーネの居るキッチンに歩いていった。
ニーネは心配そうにボーマンを覗き込んだ。
この間来たアシュトン。
そして、やってきたプリシス。
二人の間の何かをまとめてやろうとしているボーマンであることには
察しがついている。
でも、おもわしくないんだろう。
さっきでていったプリシスが涙ぐんでいた。
「ニーネ」
ボーマンの声に振り返ったニーネにボーマンはその体を預けた。
ニーネの胸に顔をうずめるようにむしゃぶりついてくるボーマンを
ニーネは優しく、だけど、しっかりと抱きしめると
「どうしたの?」
って、尋ねた。
「なんでもねえよ」
って、いうボーマンがひどく不安そうで心もとない。
「だいじょうぶよ」
ボーマンがあの二人への心配で
こんなに心もとなくなっているのがニーネには判る。
「あまえんぼうね」
ボーマンの髪を優しくなでながらニーネはそう言う。
「ん」
「心配?」
あの二人の事である。
「んなわけねだろ。俺が相談にのってんだ。
別れさせたりしやしねえ」
「うん」
ボーマンはニーネの胸の中で不安な自分を開放させてしまうと
ニーネの小さな胸の先を軽くつまみ出した。
「あ・・ボーマン・・いや」
あがってきた快感に抗いながらもその快感を訴えるニーネが居る
ボーマンのたった一つの小さな動きにさえ、
ボーマンのものでしかないことを表現し始める女が居る。
「気持ちいいかよ?」
野卑な言葉を囁きかけながら、
自分の独占物であることをはっきりボーマンに示す
ニーネの甘い吐息に
ボーマンは確かな自分の存在感を謳歌させられて行く。
やがてボーマンの物がニーネの中に入り込み、
ニーネの切ない声がただただボーマンを呼びつづけてゆく。
「あ・・ああああああ」
生きてるんだって思う瞬間である。
ニーネの手応えがボーマンの声を振りしぼらせ
ボーマンも何度もニーネの名前を呼びつづけた。
ニーネの振るえるような項を見つめながら
ボーマンはやはり思う。
『なあ。俺がこうなんだぜ。ニーネじゃなきゃ駄目なんだ。
プリシス。そんな俺だから判るんだ。
アシュトンにゃ・・・おまえしかいねえんだ』
「ボーマン」
寄り添ってくるニーネがひどく満足げに充たされてる。
それもボーマンにはひどく愛しい。
「俺のが・・んなに、いいかよ?」
って、言葉にニーネが真っ赤になって恥らっている。
ボーマンからの贈り物により自分の中に見せ付ける感覚の特殊さに
酔わされ、ほだされ、
それがどうしてもボーマンのものである自分を意識させ
ボーマンのものであることを喜ばせ感謝させてしまう。
『快楽の奴隷?それでもいい。ボーマンがくれるものだもの』
ニーネの恥じらいの最中にボーマンのものが
もう一度ぴくんと蠢き出していた。
「あ・・んん」
口から突いて出てくる喘ぎを隠す術もなく
ニーネはボーマンのくれる快感のままにあえぎをもらし始めていた。
『ニーネ』
愛しい女性が、ボーマンの動きのそのままを快感にしてくれるほど
嬉しい一体感はないだろう。
『愛してるんだ。お前だけはどんな事があってもはなしゃしない』
ボーマンは心の中でそう言うともっと、強く激しく動き出して
ニーネをボーマンから与える快楽の最高点の中に落としこんでいった。

一人ぼっちで居るのが辛くてアシュトンは
また、レオンの研究所に出かけていた。
『ボーマンと顔をあわせてしまうかもしれない』
後悔がアシュトンをせめさいなんでいる。
あのあと。アシュトンは
『もう・・引き返せない』
と、はっきり思った。
なぜならプリシスを今度こそ裏切ったんだから。
自分の思ったことにアシュトンは自嘲のため息をついた。
別れてしまったプリシスに対して、いまさら裏切りになるわけはない。
なのにアシュトンの心は確かにプリシスにつながれたままなのだ。
それに気が付くとおろかな逃げ道を求めた自分がひどく惨めに思えた。
どうしょうもないほどつまらなく卑小な自分でしかない。
それでも今のアシュトンを抱きかかえてくれるのはボーマンしかいない。
『僕はまたボーマンを・・・逃げ場所にしようとしている』
何もかも判って一言も責めずにアシュトンの心だけを
受け止めてくれたボーマンの優しさがアシュトンの心に痛い。
「あ?」
その時だった。研究所の窓の向こうにボーマンがやってくるのが見えた。
アシュトンの心がひどくたかぶっている。
どんな顔をしてあえばいい?
そのくせ、逢いたい。
ボーマンがやってくるのをアシュトンは待った。
ドアを開けて入ってきたボーマンは
「おりょ?」
って、アシュトンの存在をさも珍しいって顔をして見せて
何食わぬ顔で
「なんだよ?プリシスんところにいかねえのかよ?」
と、普通のボーマンだったら言うせりふをはいた。
「うん」
アシュトンはボーマンの様子に調子を合わせるようにして
そっとボーマンを見上げた。
「悲しい顔してんじゃねえぜ」
ボーマンは声を潜めて言った。
「ん」
そんな言葉だけでも涙があふれてきそうになるアシュトンなのである。
「お前の思いは自由なんだ。
体ひとつつながったぐらいで心までかわるわけねえだろ?」
『ボーマン?』
「俺との事なんか気にするほどのことじゃねえだろ?」
アシュトンの気持ちの裏側をボーマンは言っている。
「え?しこしこ自分でやっちまったことを
いつまでも悔やんだりしねえだろ?それと同じことだよ」
「そ、そんな風にわりきれるの?」
「お前の手の代わりをしてやっただけだろうが?」
「・・・・」
「自慰行為の延長でしかねえさ」
確かに寂しいって心ごと埋められたくて慰めを求めたのに過ぎない。
「だけどな。プリシスにはわからねえだろうよ」
「え?」
アシュトンの胸の中にずきりとした不安が走った。
「プリ・・シスに・・はなしたの?」
「隠しとおせることじゃねえぜ。それに。
そんなことぐらいでお前を諦めるような気持ちになるんなら
そうしておいてもらわねえと・・・俺がやるせねえ」
話したなら話したでいい。
けど、これで本当におしまいだってアシュトンは思った。
「そう」
瞳の色が流れ落ちるかと思うほどの大粒の涙が
アシュトンの瞳から溢れ出していた。
「でるか?」
一緒に外にいこうというボーマンの誘いにアシュトンは頷いた。

街路樹が色をつけ始めている。
ボーマンはとぼとぼ歩いている。
アシュトンは黙ったボーマンのあとを突いてゆくだけだった。
「まだ・・俺の慰めが欲しいか?」
「もう、しばらくだけ・・甘えさせてよ」
「そうかよ」
ボーマンの向かっていった先はうらびれたホテル街だった。
小さなホテルの前でボーマンは足を止めた。
「はいるぜ」
アシュトンは黙って着いて行った。
狭い部屋の中に入り、据えられている椅子にボーマンは座った。
アシュトンはしばらくボーマンを見ていたけど
やがて自分から服を脱ぎ始めた。
ボーマンはそんなアシュトンに辛いものを見るまなざしを向けると
「アシュトン。もう・・それ以上自分をいじめるな」
と、言った。
「そんなんじゃない・・・よ」
「んな事ねえよ。え?第一な。お前、俺のよがる声聞いてて
幸せな気分になるかよ?」
「う・・ん」
なるわけがない。
「プリシスとはどうだったよ?」
とたんにぽろぽろとアシュトンの瞳から涙が落ちてきた。
「え?オーラルをしてくんないから愛してない?
お前。何でそうやって相手の気持ちばっかを先に見ちまうんだよ?」
「だって」
「いったろ?がきのくせして。早いんだよ。
自分の感情に溺れちまえよ。
とことんわがままをぶつけちまえよ。やっちまえよ。
無理やりだろうがどうしても欲しくてしかたねえものを
なんで諦めるんだよ」
「もう・・」
アシュトンは首を振った。
「で?尻尾巻いて俺ん所に逃げ込んで来る?
そうやって僅かばかりの慰めに尻尾を振って生きて行く気かよ?」
「え?」
いつかプリシスに言った自分の言葉を今度は自分が言われている。
「俺に抱かれたいなら。
精一杯プリシスに挑んできてからにしてくれ。
自由の女神だって傷ついた敗者を迎えてくれるけど
臆病者なんかにゃ手は差し延べねえんだ」
「ボーマン・・もう・・駄目だよ」
「あのなあ。あいつは、んとにどうしようもねえ子供だけどよ。
それでも女なんだぜ?」
「・・・」
「わかんねえかな?
お前があいつを女にしきれてねえだけじゃねえかよ」
「・・・・」
「それはな、お前があいつの前で男じゃねえからだ。
ぐずぐず泣き事をいう前に叩きのめして
暴力沙汰でもあいつを従わせる根性がねえんだよ」
「そ、そんなこと・・で、できないよ」
「女はな、そこまでして望まれてえんだよ。
自分勝手でわがままで
なのにどうしょうもないほど欲しがってくれる男に
抱かれて女になってゆくんだよ」
「お・・んなじゃない?」
「ああ。がきのままセックスだけしやがって」
「・・・・」
「女に出来るかできねえか、やってみてから・・俺ん所に来い」
放り投げられた服を受け取るとアシュトンは身につけた。
ボーマンがアシュトンの背中を押すと
アシュトンは部屋の外に向かって歩き出した。

プリシスの部屋に入り込んだアシュトンは
プリシスをいきなり押し倒していった。
「や・・やだ・・アシュトン」
きつい目つきがいつものアシュトンじゃない。
かすかな恐怖がプリシスをこわばらせていた。
「ネ?アシュトン・・おねがい・・や。やめて」
プリシスの懇願をアシュトンはきこうともせず
床に押し付けたプリシスの下着の中に手を差し入れると
やにわに引き摺り下ろした。
「ひっ・・」
プリシスの声が震えている。
だけどアシュトンはプリシスの脚を広げさせた。
「欲しいんだろ?」
アシュトンがそういうと指をプリシスの脚の真中に突き入れていった。激しく動かされてゆく指がぬめりを帯びだして来ると
くちゃくちゃと音をたてるようアシュトンはわざと動かし始めた。
「い・・いや」
その音がプリシスをいっそう羞恥の底に落とし込んで行く。
「いや・・や、め」
アシュトンの指がプリシスの敏感な部分を捕らえた。
「ああ・・・」
思わず漏れる声に激しいぺッティングの滑る音が重なってゆく。
「ああ」
「僕の物が欲しい?」
「アシュトン・・お願い」
さっきの抵抗とは違う懇願がプリシスの口から漏れてきた。
アシュトンはプリシスを抱き起こすと服を脱ぎ始めた。
そしてじっとアシュトンのものを待ち受けてしまっている
プリシスの髪をぐっとつかみあげプリシスの顔を引寄せた。
引き寄せられたその場所にアシュトンの熱い物の息吹を感じ取った。
プリシスは目を閉じた。
髪をつかまれアシュトンに引き寄せられるまま
プリシスは口の中にアシュトンを押し込まれるようにされた。
「動かせよ・・くわえてるだけじゃないんだ」
プリシスの瞳からポロリと涙が落ち頬に伝った。
それさえ見ている筈のアシュトンなのに
アシュトンは髪を掴んだ手で軽くプリシスの顔を揺すって
動かす事を要求してきていた。
口の中の物の感触に舌を這わせてゆきながら
プリシスは軽く蠢かしてみた。
「へたくそだな」
必死なプリシスにかける言葉じゃない。
首を横に振って口の中のものを逃そうとするプリシスをに気がつくと
アシュトンはプリシスをしっかり押さえ込んだ。
アシュトンがプリシスの口の中で動かし始めた。
『や、やだ。やだよ。こんなの、おもちゃじゃない。
おもちゃじゃないんだよ』
アシュトンの腰をぐっと押してプリシスは
アシュトンの執拗に反復するものから逃れた。
「そんなに・・いや?」
「や」
と、言ったプリシスのほほに鋭い痛みが走った。
「え?」
「続けろよ」
嫌だって言えば、ほほをたたかれるだけじゃすまない。
その恐怖にプリシスは従うしかなかった。
大人しく言うとおりにし始めたプリシスの腰を引き寄せ
アシュトンはプリシスが一度はアシュトンのものを望んだ、
潤んだ部分に指をあてがい、おおきく開きあげた。
薄明るい朱色の肉のひだがみえている。
その場所にアシュトンは顔を寄せ細く舌を尖らせると
ぐいと入れ込んでみた。
つるつるした液体がアシュトンの舌にからみついてくる。
その上のあたりに薄桃色の突起がある。
アシュトンは舌を滑らせてその突起を押さえ込むようにして
舌でくるくると舐め回した。
「んんん」
声を出せないプリシスに代わるように
アシュトンの舌が愛撫しているほんの少し下の肉ひだの内側から
粘っこい液体が溢れ出してきていた。
「欲しくてたまんないんだ?」
プリシスの体をはなしその口の中の物を開放してやると
アシュトンはプリシスを屈ませた。
じっと蹲るように座るプリシスの体を曲げると
アシュトンはプリシスの体の上に背後から覆い被さった。
アシュトンの重みでプリシスは身動きが取れない。
後ろからアシュトンの物が忍び寄りプリシスのその場所に
いとも簡単に滑り込んだ。
「こ・・んなの・・初めて・・・」
揚がって来る快感がいつもとちがう。
違う形のせいでいつもと違う部分が擦られ
知らない部分を目覚めさせていた。
ぐいぐいと反復を繰り返すアシュトンも
プリシスの体を支えに出来るせいか細かく
揺さぶるような動きが深度を変えた場所で長く続いていた。
『アシュトン・・アシュトン・・ああ・・きもちいいよ。
ああ・・とろけちゃいそう』
「もっとしてほしい?」
「うん・・うん」
何に頷いてるのかさえ判らないほどの
心地よさに包まれていたプリシスの体が
アシュトンから逃げるように動き始めたが
アシュトンはさらに動きを早めプリシスをしっかり押さえ付けた。
「や、だめ・・ね、へん・・いい・いや・・このままじゃ・・
あたし・・あそこになっちゃう」
プリシスの中が急に狭まってゆく。
とんでもない快感の頂点が上がり始めてきていることから
プリシスは逃げようともがいてる。
「やめて、ね、おねがい・・いい、あん、だめえええ」
「いいんだ。かまわないから・・ほら・・・」
アシュトンはプリシスを頂点に押し上げるように動き続けていた。
プリシスの中がさざめきだし肉厚が
強くアシュトンのものを押し潰すかのように蠢き出すと
プリシスはその快感に声を漏らし続けた。
「かわいいよ・・プリシス」
「ああああああ」
「僕の物でいっちゃってんだよ。プリシス」
「ああ・・・あああああ」
長い間、プリシスを飛翔させるように動き続けた
アシュトンのものの脈動が重なった。

というわけで
ひとつになった部分で
深い快感を共有した二人がとっくに元のさやに戻ってるって事は
言う必要ないよね?

                                   (ばいばい)

    エピローグ

そんなわけであれからプリシスは人が変わったように
アシュトンのものをぺろぺろ嘗めあげてる。
「もう、いいよ」
って、アシュトンが言うとプリシスはやっとほうばっていた物を放した。
「ん?」
「だって」
だって、あんなすごい快感をプリシスに与えてくれる
アシュトンのものが愛しくて仕方なくなってしまってる。
相変らず不気味な物である事にはかわりはないんだけど
プリシスのお口の中で蠢く感覚もなんだか素適なのである。
「ほんとうにもういいの?」
「うん」
「ねえ、アシュトン。何でも言って。アシュトンの好きにしてあげる」
「え?」
何で、こんなにプリシスが変わったのかはよく判らない。
でも、これがボーマンの言う女になったプリシスって事なんだろう。
「ねえ」
「うん」
「ねえ」
「ん」
アシュトンはプリシスの脚を広げていった。
下着を取り払い、剥き出しになったプリシスの物に
アシュトンはプリシスの手をもっていった。
「自分で触ってごらんよ」
「え?うん」
「ほら」
プリシスの指をプリシスのコアの宛がってやると
アシュトンは軽く手を沿えて動かした。
「あ・・あん」
「ほら・・それから・・ここ」
アシュトンを包み込んでしまう空洞の入り口に
指を押し込むように添えてやるとプリシスがぴくりと蠢いた。
「おいで」
アシュトンは寝転がるとプリシスを呼んだ。
「そのまま・・僕の上にのって・・・」
「ん」
プリシスがまたぎだしたその脚の中心に
アシュトンは自分のものを入れ込んでいった。
「あ」
「騎乗位・・馬に乗ってるみたいな恰好だろ?」
「んん」
アシュトンの胸に寄りかかるように
プリシスが体を落としかけるのをアシュトンは制した。
「プリシス。恥ずかしがらないで・・自分で動いてごらん」
「はい」
って、なんだか慎ましげな返事をすると
手で顔を覆いプリシスはゆっくり動き始めた。
「顔を見せてよ」
「いや・・恥かしい」
「うふ。いいから、ほら」
手を伸ばしてプリシスの手を払いのけて
その手をつかんで手綱さながらプリシスの動きを支えてゆく。
「かわいいよ」
アシュトンに服従するプリシスがいる。
アシュトンに飼いならされた女がいる。
『僕だけが知ってる・・女』
女への愛撫の道具を自ら突き上げ蠢かして行くと
プリシスは狂ったように喘ぎ始めた。
「ほら・・動けよ」
「アシュトン。もう・・駄目、ね、この間みたいにして」
「もうすこし。そしたら・・・してあげる」
もう一度動き始めたプリシスに
アシュトンはプリシスに
自身にいやというほど女であることを教える躍動を与え始めてた。
                        
(グッド/バイ)

イッツ・オンリー・ユアマインド②

午後の日差しが柔らかくなり始め、暮れ色が
レナの部屋の中に広がり始めていた。
ノックの音にレナは立ち上がった。
「どうぞ……あいててよ」
さっきまで一緒だったデイアスのノックの音じゃない。
誰だろう?
セリーヌが現れるわけがない。
彼女の誘いを断る理由がデイアスの来訪のせいだとわかると
「と、いう事は…。私、お邪魔虫にだけはなりたくありませんわ」
と、レナとデイアスの時間に水を差しに来ないことを約束していた。
だから、デイアスが蛙のを待ってまでセリーヌがレナの元に現れるなんてちょっと嫌味な行動は取らないだろう。
『うーーん。アシュトンかなあ?』
また、プリシスと、喧嘩したかな?
この間も半べそを書いてやってきたアシュトンのことを思い出しながらレナはノックの主がちっともドアを開けようとしないのでそっとドアを開けて部屋の外を覗いてみた。
「あれ?」
そこにいたのはアシュトンの方ではなく…
 プリシスだった。
「どうしたの? …ん。中に入んなさいよ」
「あの…ディアスが出てくるんじゃないかと思って…」
 プリシスがディアスに用事とは珍しい事である。
「ディアスなら…もう…帰ったわよ」
 どこまでも、もう一つ鈍い所がレナらしい。
 誰だってカップルのお邪魔虫にはなりたくないに決っている。
「あ。そうじゃなくて、レナに相談なの…。ディアスがいるなら…後でもう一回来ようかなぁなんて…」
 と、言い訳をしながらプリシスは、レナの手招きにこれはディアスがいないんだと踏んで…部屋の中に入って行った。
 やっぱりディアスがいないと判ると小さなテーブルを挟んでプリシスはレナの前に座った。
「どうしたの…? アシュトンと喧嘩?」
 レナの質問に答えようとしながらプリシスはちょっと、躊躇っている。
だって…こんな事レナに聞きにくいよ。でも…例えばレオンとかセリーヌにかに聞けば…結局プリシスの子供振りを責められてしまって…プリシスの気持ちなんかには同意知れ貰えすわけもない。
「どうしたの…?」
やっぱり…この場合レナにしか判って貰えないよね。
プリシスは話始めた。
「あのね…」
なのに…口篭もってしまうのは…。
話の内容が、きっと、レナを強張らせてしまうって思えるからだ。
「チョット…待ってね」
なかなか…話し出せないプリシスの為にレナはクーラーからアイスティーを出して来た。
「どうぞ…」
差し出された…グラスに口をつけると、
「うん…」
プリシスは立ち上がってレナと少し離れると、ベッドに座りなおした。
「うーん……あのさぁ…」
言いながらプリシスは柔らかそうな布団の上に寝転んだ。
「あは…ディアスの香りがする……」
と、プリシスが気が付いたことを言った途端、
「え!?」
そんな言葉一つにさえレナが赤くなってうろたえている。
『これだもんね…聞きにくいよね…』
「気…気のせいよ……」
 どういう誤魔化し方なんだろ。
さっきまで一緒にいた二人がどこで何をしていようが構わない事だろうに…。
オマケにさも何かありましたって自分から暴露するような顔色をしておいて、
気のせいっていっては迷科白すぎるじゃない。
「あのね…」
 ディアスの移り香のするベッドに寝転んでいるのも
気が曳けて、プリシスは立ち上がろうともう一度、レナの用意してくれたグラスの前に座った。
「レナも…ディアスとの間に…あるんだよね?」
なんて…そんな事とっくに知っているプリシスだけど、こんな事くらいレナが素直に認めてくれる返事を出して貰えないと…もっとスゴイこの相談事を切り出してゆく事が出来そうもない。
「あ…え…あの……」
「そういうことでの…相談なんだ……」
「あ…」
プリシスも「あるんだよ」って曝け出している上での相談事と言われれば、レナも頷くしかない。
「あのね…」
 やっとこせ、話し出せたプリシスの相談の内容に、レナは赤くなって俯いている。
「でね…。先っちょ…あ…アシュトンがそう言ったのよ。
でね…先っちょだけでいいから……舐めてって…ねぇ…どうしょう?」
はーん。アシュトンとうとう、思いを達成出来ないまま、プシイの誘惑に負けちゃったんだな?
「ど…どうしようって…」
 これがレオンだったら…。
「したげなきゃなんないって思うから悩むんでしょ? アシュトンの事が好きなら…別にどうって事ないじゃん」
 何て…軽く流しちゃんだろう。
「ぶ…不気味だよね……? なのに…お口に? で…出来る訳ないじゃない。ねぇ、レナだってそう思うよね」
 確かに不気味であろう。けど…実際の所。レナはディアスの思いを受け入れたいってそれだけで…本当に素直に、実に自然に受け入れる事が出来たんだ。
 でも、不気味とまで言われれば、逆に益々レナが私はしたわよ、なんて言える訳がない。
「ねぇ…レナ。ディアスはレナにそんな事言わないよね?」
そんな事っでいうプリシスのその言葉。どこかで侮蔑的な響きを内包している。プリシスの言い方がレナを頑なにさせてるとは気が付く訳もない。
プリシスにとってはその例えが説明なしでレナを納得なせられる言葉だと思っていた。が、
「彼が…そうしたいなら…そうしてあげる」
と、レナは答えた。
 何言ってんだか…。ねぇ? レナ。とっくにそうしちゃってるレナなんだし…オマケを言えば、ディアスに無理強いされた訳でも何でもない。しいて言えば…レナに全てをぶつけて甘えてくるディアスを愛しいと思っただけ。ぶつけてくれるディアスをそのまま受け止めたい。それがどんな方法であろうと…。たった、それだけでしかないレナだったんだ。

 レナの言葉にプリシスは随分長い間黙っていたけど、
「そうなの?」
 って、プリシスはやっと確かめるように尋ね返した。
「うん…多分…ううん。そうするよ…」
 どうも実体を知ってる者はレナの嘘が歯痒くてしかたないんだけどさ…。ま…いいや。
「ふーん。本心?」
 意外なほどディアスに対して大きな許容力を持っているレナの顔が、プリシスには急にひどく大人びた美しい女性に見えてきた。
「うん」
 一言でレナは言い切ってしまった。
「どんなにディアスが好きなんだ…」
「うん…」
 素直に頷いたレナがひどく可愛い。
「あ…あたし……」
「ん?」
 急にポロリとプリシスの瞳から大粒の粒が落ちた。
「あたし…失格かな? アシュトンの恋人…」
 レナの様子を見ている内に自分を責めだしたプリシスだった。
「そ…そんなぁ…そんな風に考えちゃ駄目だよ」
「だって…だって…。一番、遅手で…そんな事汚がっちゃいそうなレナでさえそんな風に考えてるのに…あたし、出来ないもん…」
『プリシス…』
 レナはかける言葉が見付からずプリシスを見ていた。
「なんか…やっぱ…そうしなきゃ…だめなのかなぁ…」
 プリシスがぽつりと呟いた。
「そ…そんな事ないよ…」
 プリシスが、悪いわけじゃない。それにアシュトンだって…プリシスが自然と受け止めてくれる気持ちになれないのが淋しいだけで、何も無理矢理したい訳じゃないに決ってる。
「いいよ…。あたし。きっと、それぐらい平気でして上げられなきゃ本物じゃないんだって、言われるのが怖かったんだ。だから…レオンやセリーヌに相談したら子供ね、とか、自分の気持ちばっか大切なんだとか言われると、思って…。レナだったらきっと…そうよねって、そんなの嫌よねって、言ってくれると思ってたんだ。出来ない自分を責めずに済む…。自分を正当化できるって…。だから、レナに相談しに来たんだ…」
 なのに…レナはそうだとは言ってやれなかった。
「ご…ごめん」
「うぅん。責めてるんじゃないんだよ。あたし。まだまだ背伸びしてるかなぁって…。どうしょうもない位アシュトンを受け止めたくなるほど…好きになりきってないのに…」
って言うプリシスの声が涙でつぶれていった。
「ば…ばかね…。本当に好きだから受け止めれなかった事が辛いんでしょ?」
「そうかな…」
「そうよ…。それと、不気味ってことは別問題よ」
「レナ…」
「ん?」
「なんか…随分素直になっちゃったね…」
「え?」
「うん。ディアスは…こんなレナで…良かったね…」
 て言うとプリシスは、やっぱり、アシュトンに対しての自分の在り方が悲しくなってしまうのだろう。ぽろ、ぽろと涙を落としていた。
「もうーー。そんな事くらいで…」
「だって…」
「そんな事断ったって、アシュトンはプリシスの事を嫌いにならないでしょ?」
「う…うん」
「だったら…いいじゃない。嫌だっていうプリシスの事を受け止めてくれてるんでしょ?それって…つまり、プリシスが愛されてるって事じゃない…」
 レナの言う言葉にプリシスは一層涙を落としていた。
『なのに…やっぱし…やだよ』

親愛なる読者の諸君。
君にもそういう経験があるかどうかはさて置いて…。
 こういうプリシスの気持ちってのはどう思う? レオンの言う様に好きなら何でもない事であるべきなのか。レナの様に思いを受け止めるって気持ちになるべきなのか。それとも…やっぱり、不気味って気持ちはよく判る?
 いずれにせよボーマンが心配するカップルの一番底にある思い方が、何だかアシュトンもプリシスもちょっと、我侭じゃないんだろうかって思えるんだけど、二人にそこのとこに気が付かせてくれるような、荒治療をレナに期待したって無理なんだ。
プリシスが頼ったレナは、
「プリシス。そんな事は強制される事でもないし…。無理に受け入れる事でもないよ。自然にして上げれる時が来るって思うんだ。ねぇ? その時まで待ってって、楽しみにしててって、それで良いじゃない。…一遍に何もかもアシュトンの思い通りになってしまっても…案外後から振り返ったら…面白くないかもよ」
「えぇ?」
プリシスが小悪魔の様に恋の駆け引きを口にするレナを見たのも初めてだった。こんなにもレナを変えちゃうディアスってすごいよって思いながら、プリシスはレナの言葉に頷いていた。
「でしょ?」
「そ…そうだね」
 根本的な解決ではないかもしれないけど、プリシスの中で何かが落ち着いたのは嘘じゃない。
「ふーん。さてはそうやってディアスのメーターを上げてるんだな? レナ?」
 あくまでも事実を知らないプリシスである。
「ええ?」
「でしょ?」
「どうだろ?」
 レナの妙な解答に二人は笑い出した。
 そして、
「うん。とにかくもう少し落ち着いて…レナの言う通り自然かどうかだけ、見詰め直して行動してゆくね」
 プリシスはそう言って立ち上がって帰って行った。

「え?」
 次の日のレナとディアスである。
 レナから聞かされたプリシスの悩みにディアスは驚いて声を上げた。
「どうしたの? そんなに驚かなきゃなんない?」
 よもや、プリシスにそんな事望んじゃうアシュトンだとは思わなかったのかな?
 でもディアスだってそうしたじゃない? レナは少し首を傾げた。
「あ…いや…。アシュトンも男だなって…」
 どうやら男という生物は…どいつもこいつもオーラル願望を持っているのが本音らしい。レナは思わず可愛い本音を漏らしたディアスをくすりと笑ってしまったが、しどろもどろになって驚いていた事の言い訳を繕ったけど、ディアスが驚くのは無理もない。
 だって…懇切丁寧にオーラルセックスへの導き方をご指導して下さったのはそのアシュトンなんだぜ。
『いったい…どうなってんだ?』
ってディアスはこっそり考え込んでいる。
「アシュトンだったら…そんな事しないって思ってたって事?」
 と、レナが尋ね返すのをきいたディアスは、
「そういう事かもしれないな」
 と、レナの言葉にも自分の中の疑問にも頷いた。
 レナに指摘された通り…ディアスの中ではアシュトンを男として、いまいちだなと思ってる所がある。そんなディアスが弱みを晒しての相談事の後に…更にプライベートな問題を尋ねたアシュトンは弱みを見せたディアスだからこそ…その弱いディアスに更に格好のつかない自分を見せたくなかったんだろう。益々、いまいちな所を曝け出したくはなかったんだ。
『大見栄張りやがったな…』
 と、考えついたディアスは少しにんまりとしちまった。
 アシュトンの大見得のお陰で、ディアスは思ってもみなかったレナの愛情の深さと別のところでの快感とを一遍に享受させて貰えたんだ。
 そして今もついあの感覚をディアスは反芻してしまっている。
 思い出す感覚が、オーラルで受けてくれたレナのより、いっそう愛されてる幸福感と交じらせてゆく。そんな事ひとつがディアスを幸福感の中にどっぷりつけこんでくれるのだ。
 そんなディアスにしちゃった当のレナの方はと言うと、
「プリシスもね…あの…受け止められない自分を責めちゃって…ね」
「ん…まぁな…」
 ディアスだってレナが受け入れてくれるなんて思っても見なかったけど…。若し断られていたら自分はどう思ってただろうか? って、アシュトンの今の気持ちを考えていた。
「あの。もし…私が断っていたら、ディアス…淋しくなったかな? 悲しくなったかな?」
 ディアスが考えていた事と同じ事をレナが尋ねていた。
「ああ…。多分な…」
 これがレオンみたいな考え方の奴だったら…きっとしれくれて当り前って何も有難味がなかったかもしれない。そりゃあ、あれだけ頑なに性を恐れていたレナだからこそディアスの幸福感が裏打ちされるんだろうけど…。でも、こんな事一つにひどく幸せだと思わされるディアスは、充たされてると思わされてる今だから、断られてたら…やっぱりこんな事一つで落ち込んでしまったかもしれないなと思った。
「俺……。そんな感覚よりレナがどうしてくれた事が嬉しかった」
「え…あ…」
 真面目な顔でディアスは自分の気持ちをはっきりとレナに告げた。
「愛してる…」
「あ…」
「愛してるよ」
 もう一度レナを見詰めるとディアスはゆっくりと心を込めて言った。
 ディアスの胸の中に飛び込んで来るレナにディアスはやっぱり幸せな気持ちを一杯に満たされていた。
「何でも…受け止めてくれるんだな…」
 レナの頭を撫でながら、ディアスは思った事を口に出した。
 そして…。
「決して離しゃしない。…いいか? 一生だぞ」
 それがディアスのプロポーズだった。
 ディアスの胸の中でレナはこくりと頷いた。
「よくってよ…」
 プロポースの承知だって言うのに気の利いた科白も出てこない。
 ディアスの胸に包まれているだけで…それだけでこんなに幸せなんだもの…。
 レナはこのまま時間が止まれば良いって思った。
 ディアスの手が約束を確かな物として実感したがっている様に動き始めて行く。
 レナはそれを待っていたかのように小さな吐息を漏らした。
一つになってゆく時間。
ディアスに繋がれてゆく自分。
崩れ落ちてゆくレナを受け止めるとディアスはレナを抱き上げてベッドの上に運んだ。
ベッドの小さな受け棚にはいくつかの花瓶の花が小さな青い実をつけ始めていた。
軋むような揺れが花瓶のまだ青い実をゆらゆらと揺らさせ…やがて、レナの吐息が細かな喘ぎに変わり始めて行った。

ディアスに送られてレナは帰って来た。
次の約束をかわすとディアスがち小さくなるまで見送ってレナは部屋の中に返って来た。
ベッドに寝転んで頬杖ついて、ほうーと溜息を付いた。
息がまだ熱い。
今日一日のディアスの思いが…自分を酔わせた陶酔がまだレナを包んでいる。それらが一つずつ並びあがってきては、レナを包んでしまう甘やかな時間に抗えずレナは虜にされたまま脱け出そうともせずディアスに浸り込んでいる。
レナの心の中に満たされた世界に自分を解放している。
たゆとう幸せな時の流れを…。
それをかき消したのはせわしないノックの音だった。
「もうー」
 せっかくの幸せなトリップを邪魔する無粋な者は誰なのか…。
 レナがドアを開ける気配にドアの向こうからアシュトンの情けない声が聞こえて来た。
「レナァー…」
『やれやれ…今度はアシュトン?』
ドアを開けると案の定、半べそのアシュトンがいた。
「どうしたのよ…」
「ん…ごめん」
 押し来訪を詫びる声にも力がない。
「にかく…中に入りなさいよ…」
 アシュトンを招じ入れると…レナは、
「どうせ…プリシスの事でしょ?」
 と、尋ねた。
「で…何?」
「あのさ…プリシスが来ただろ?」
「えぇ。それがどうかして?」
「なんかよく判らないんだ。今は会いたくないって…。何で? って聞いたら、レナに聞いてって…レナに放してあるって、そればっかでさ…何がなんだか…さっぱり判んないよ」
やれやれ。プリシスは自分で説明しきれずレナにお鉢を廻して来たようだ。
 レナが上手くプリシスの気持ちを説明してあげれるかどうか?
かといって…。レナを頼りにしているプリシスの気持ちも判らないでもない。
 自分の口からは言いにくい事だもの。
「そっかぁー」
 というレナの口からプリシスの心境を説明されるのをアシュトンはじっと待っていた。
「うーん」
レナだってどう説明したらいいか判んない。
「あの…。なんて言ったらいいか…」
 レナのひどく困った顔はアシュトンの心配性にろくな事を考えさせない。
「あの…? 何て言ってたの? プリシス…。僕の事、もう嫌だって?」
「ば、ばかね…。そんな訳じゃない。そうじゃない。そうじゃないの。そんな事じゃなくて…」
「じゃあ…」
「あのね…プリシスに…あの、えっと…ほら…うーん」
表現する言葉はいくつか知っているけれど、口に出して言えないだけである。
「何?」
「あっ…。だからね…。あの。困ったわね…」
 レナはどう言おうか、少し考えていた。直接表現が出来ないなら関節表現に変えるしかないのは判っているんだけど…。
「あの…。二人だけの時に…あのね…。あの…。プリシスにいつもと違う事をしてって言ったんでしょ? 覚えてる? 何の事か判る?」
 アシュトンもピンときた。でも…そんな事をレナに言っちゃう? ううん。レナがそんな事の話をきける? なんか思ってた事とは違うかもしれなくてアシュトンは口篭った。
「あ…え…あ。あれかなぁ?」
 ここ最近でプリシスのご機嫌を損なわせた事と言ったら、あれぐらいしか思い当らないんだけど…。
「た…多分。同じ事を思ってんだと思うけど…」
 それってオーラルセックスの事よね。何てレナが言えるわけもない。アシュトンもレナに違うかもしれない事を言って、妙な事を考えてる自分を見せちまったらどうにも…気恥ずかしい。でも…このままじゃ、埒があかない。アシュトンは思い切って…単語の頭文字を言ってみる事にした。
「あの…それって…頭にオとか…フェとか…つく言葉?」
 どうやら同じ事を考えていたらしい。
「あっ…あ。そうね…その事…」
「えええ…そんな事を…プリシスが話しちゃったの?」
 って…何だか…アシュトンはばつが悪いけど、そんな事をレナに話さなきゃなんなかったって事が今のプリシスの会いたくないって事に関連があるわけだから、アシュトンはふぅぅと溜息をつきながらも…
「で? 何で…」
「あのね…その事で、プリシスは悩んじゃってるの…」
 案の定。アシュトンはレナの言葉に暗い顔になった。
 アシュトンにしてみれば、きっとプリシスに嫌われちゃったって思い込んでるんだ。
 レナは慌てて説明し出した。
「あ。そうじゃないのよ。あのね。プリシスはアシュトンの望むようにして上げられないって事に悩んじゃってるの。こんなんじゃ、本当にアシュトンの事を好きって言えないんじゃないのかなって…」
「え? そんな事で…?」
でも、この先になってそんな事くらいって言ったはずのアシュトンがそんな事ぐらいっと軽く流してしまえなくなるんだ。心の底に大きな拘りを植えつけてしまう話しがこれから始まって行くんだけど、今のアシュトンには判るはずもない。
「そうよ」
「あぁー。あ。僕が馬鹿だった…」
突然のように自分を責めだしたアシュトンの本当の所を知る由もないレナは、単純にアシュトンの言葉を受け止めて、
「そんな事ないわよ」
 って言った。
 

ここら辺がアシュトンの配慮に欠ける所と言うか、馬鹿正直な所と言うか。
「ううん。つい…ディアスに見得をはっちゃったから…プリシスの事…」
 アシュトンの口から、突然出て来たレナの恋人の名前。
プリシスとアシュトンの心のすれ違いにディアスがどこまで関与しているって事になる。
「あの…? 見得って?」
「うん…」
 よせば良いのに…。こうなったら懺悔するかのように本当に正直に話し出したアシュトンだった。
「あのさ…。ディアスと危ない日はどうしてるって話になってね…」
「危ない日?」
「やだな。わかんない? 妊娠…」
「あ…。そんな事を?」
 ディアスったら…。レナは何だか判った気がした。ディアスがアシュトンにレナの事をにおわせたんだ。
 それで…アシュトンが僕だってと、見栄を張った手前一応形だけでも、プリシスにそんな事して貰いたかったんだ。
 そんなのってプリシスに失礼だよね。それよりもディアスはどこまで喋っちゃったんだろう。そんな事なんか絶対口に出しそうもないディアスがアシュトンについ…自慢したくなる程心を浮き立たせられてしまっているって風に見えた。レナはアシュトンに秘密を知られてしまっただろう事より…子供の様にレナのしてくれた事を自慢するディアスの意外な一面さえも可愛く思えていた。
だけど…事実はレナの推理と違っていた。
「…あ…あ…あ。ごめん」
 と、突然何か思い当たったアシュトンが謝り出した。アシュトンにすればプリシスがそんななのに、レナだったらもっとまずい状況になるって思ったんだ。…アシュトンの言葉を間に受けてディアスがレナにオーラルを迫りかねないような切欠を与えたのは間違いなくアシュトンだ。
「ごめん。もし…ディアスまでもレナにそんな事させようなんて事があったら、それは僕のせいなんだ」
「え? どういう事?」
「うん。だからぁ…危ない日はどうしてるって話になった時に…僕、つい…あの、その、あ、さっきのさ…その方法でプリシスがしてくれているんだって…見栄張っちゃってさ」
 レナの考えていた事とはむしろ、逆な事実が浮かび上がって来た。
でも…と、なると…。
「そ…それで、ディアス、急にあんな事を…」
 レナが思わず口に出した言葉の真意にではなく、内容にアシュトンの察しが良かった。
「え? それってディアスが?」
「あ」
 要らぬ事を口走ってしまったレナ。
「レナ? あの? ディアスが…?」
 さっきまで…もしディアスがそんな事したらごめんと言ってたはずのアシュトンが別の事に興味を持ち始めている。だって…さっきのレナったら、ひどく静かな口調で、「そう…だから…ディアスが…」って言ったんだ。起こってるようには聴こえなかった。
と、いう事は?
「ディアスが? …で…レナは……。レナはどうし…あ」
 睨み付けて来るレナの瞳にアシュトンは口を閉じた。
 どうしよう? 言わなくてもいい事まで言ってしまったんだ。と、アシュトンはやっと気が付いた。でも、どうやらディアスがそういう行動に出たらしい事が判ったアシュトンなのだ。となると、やっぱしそれをレナが受けたかどうかが非常に気にかかるアシュトンなのである。
 だってこのレナがもし…オーラルで受けたとなると、これは男としてプリシスに、
「本当に好きなら出来るだろ?」
って言いたくなっちゃう事だし。
逆にレナが出来なかったって言うんなら、女の子の気持ちって、やっぱ、そんなもんだよなって自分を宥める事が出来る。レナがどうしたか、否かは、アシュトンにとって天と地くらいに気持ちの差が出来ちゃう。
「なんですって?」
 一生懸命受けたレナにとってディアスの心がアシュトンに煽られたせいだったなんて考えると口惜しくって仕方がない。
「あ…は…」
 険しい目つきのレナがディアスの事に起こってるんだと判ると、慌ててアシュトンはレナを宥め始めた。
「あの…ディアスは僕みたいに軽い気持ちじゃなくて…あの…本当に…」
「何?」
「レナー、怒んないでよ。ディアス、そんな好奇心なんかじゃないよ。レナだって、そこまで望まれて嬉しくなかったの?」
 この言葉が更にアシュトンを自ら落ち込ませて行く事になる。
「え? あ…」
「でしょ?」
 なんだか、暗黙の内にレナとディアスの間にオーラルセックスがあった事を認めてしまうことになるんだけど、
「だ…だから…一生懸命…」
 って、レナがボロボロと涙を落としていた。
 やっぱ…レナは受け止めたんだって驚きながらも…羨ましくって仕方がないアシュトンなのである。でも…レナの気持ちの修復の方が先になってしまった。
「きっと…ディアス、ものすごく嬉しかったと思うよ。僕やっぱ…強がってるけど断られちゃったって事はプリシスの言うとおり…まだ、本当に好きになって貰えてないんだって、思ってしまうもの…それって…すごく…淋しい事だよ。惨めだよ…」
「……」
「レナは素敵だよ。ディアスにそんな思いをさせずにすんでるもの」
「……」
「ディアスが羨ましいよ。…愛されてんだ」
 アシュトンの言葉にレナの憤懣が消えてゆく。
「そ…そんな事で…そう思える?」
 レナの小さな疑問にアシュトンは答えた。
「だって…。レナもそう思ったでしょ? 愛してるからしてあげれるんでしょ?」
「……」
「いいよね…。でも、こんな寂しさなんか僕一人でじっと堪えてりゃいい事なんだ。プリシスがそんな事で自分を責める必要なんかないよ」
「ア…アシュトン?」
 こんなにプリシスが好き?なのに、アシュトンはそんな事より必死にディアスとレナの仲を思い遣っている。
「ねぇ、だからディアスの事、怒んないでよ。切欠は確かに僕のせいかもしんないよ。でも…レナの事…。レナがそうしてくれた事に、とっても嬉しいって思ってるよ。そうだよ。愛されてるって思ってしまうよ…。そんな事までしてくれたらさ…」
 確かにアシュトンに言う通りだろう。 ディアスはその事があってから、はっきりと愛を口にだした。そして…レナへのプロポース。
「ア…アシュトンの言う通りだね…」
 アシュトンは少し俯いたけど、すぐ顔を上げると…
「判ってくれたらいいよ…」
 って言うと、
「俺、帰るね」
 って言った。
 レナを宥める為に言った自分の一言一言が、アシュトンを打ちのめしていたんだ。
 アシュトンはひどく淋しそうに肩を落として帰って行った。
 どうにかしてあげたいけど…アシュトンを救い出せるのはプリシスしかいない。


 レナは薄寒くなって来た夜の中をプリシスの元へ走り出した。
 プリシスの部屋のチャイムを押すと、
「あら? レナ?」
 って、珍しい来訪に驚きながら、プリシスはレナを部屋の中に通してくれた。
 レナは随分息せき切っているのに、プリシスが座り込ませると、
「大事な話をしにきたの…」
 と、切り出した。
「な…何? あ…あの…どうし」
 レナの顔付きがやけに真剣過ぎて、ちょっと、怖くもある。
「いいから…ききなさい」
「え…は…はい」
 レナの勢いに押されてプリシスは黙った。
「単刀直入に言うわよ」
「は…はい」
「あのね…アシュトンのを…なめちゃいなさい!」
「え、え、ええええええ? レナァーーーー!」
 レナの口からすんごい言葉が出て来た事に、プリシスは度肝を抜かれている。
「じゃないと…私、貴方を女として、軽蔑する!」
「え?」
「貴方の言うとおりよ。『本当に好きじゃないのかも』? だったら別れちゃいなさいよ。貴方、そんな事言って、上手く逃げてるだけ! そしてらアシュトンが折れるのが判ってて甘えてるのよ。貴方は自分を量りにのせようとしない。只、アシュトンに愛されてる事に満足しているだけ。自分がどうしてあげられるかなんて考えてみようとしてない。あおんなのって、最低よ」
「あ…う…うん」
「でしょ?」
「う…う…うん」
 ちっとも、納得しないプリシスの返事にとうとう、駄目押しを出した。
「あのね…。私は出来たわよ」
「え?」
 今、レナはなんって言った?
「何度も言わせないでよ。愛してる。そう思ったら出来る事なのよ」
「嘘? 本当に? レナがあの…ディアスの、あの…その…えっ…な…舐めちゃったの?」
「ば…ばか…」
 何度も言わせないでって言ってるのに…。
「だ…だって?」
「愛してるって、それだけ…考えてればいいのよ…」
「不…不気味…よ」
「や…止めてよ。私…」
 そりゃあそうだよ、プリシス。不気味でグロテスクな物まで、愛しいと思っちゃえなんた。何て好き物のレナといわれてるみたいなもんだ。
「ん…」
 なんか考えこんじゃったプリシスだった。
「ねぇ。プリシスの見た目なんか考えてたら…そりゃあ、私だって出来ない事よ」
「うん…」
「だから…。眼を瞑ってアシュトンに任せちゃえばいいでしょ?」
「ん…」
「それが愛してるって事なのよ…」
「ん…」
 まだプリシスは快諾しない。
「アシュトン、淋しそうだったわよ」
「アシュトン、行ったんだね? だからレナが来てるんだよね…」
「アシュトンにも…話したわよ。そしたら…ディアスの事いいなぁって。愛されてんだぁなぁって…そう言ったわよ。そんな事一つでそう思うんだよ? なのに…。プリシスの気 持ち考えて、出来ないって事で自分を責めて欲しくないって…そうも言うのよ」
「……」
「プリシス…どう?」
「あ…うん…」
「女の見せ所よ。いつまでも、ねんねのプリシスに逃げ込んでちゃ駄目よ」
「……」
「私の言いたい事はそれだけ。後はプリシスが決める事よ…」
「は…あ…」
 矢継ぎ早に言われまくった上に、自分の進退をどうするかなんて急に決めれる訳がない。
「いやな返事ね…」
「だって…」
「アシュトンはプリシスのを平気で舐めちゃうのに?」
「え? あ…やだ。そんな事まで…話しちゃったんだ」
「推理! 当りな訳だ」
 困った顔でプリシスは頷くしかなかった。
「男の人から見たら…女の子の物だって充分、不気味じゃないのかな?」
「ん…」
「なのに…アシュトンは出来るわよね?」
「ん。ディアスもね?」
「そうよ…」
 赤らむ事もなくレナははっきりと答えた。
「そう…だよね」
 プリシスはやっと頷いた。頷いたプリシスを見ると、レナは立ち上がった。
「色々…ありがと。あの…するよって、まだ断言出来ないけれど…とにかくレナがそうやって心配してくれるのが嬉しいよ」
「うん」
レナは頷くとプリシスの部屋を出て行った。

「あーあ」
 外は既に真っ暗。
 けれどレナは瞳が街路樹の側に立っている灯りの下のアシュトンを思い出していた。
『アシュトン…』
 レナが側によってくるのをアシュトンは待っていた。
「気になって…来て見たんだ。ちょっと…会えたらいいなって…。そしたら…レナが…来てるのが判って…」
 不安がいっぱいなアシュトンの背をレナは押し遣った。
「いってらっしゃい。いつもの、アシュトンでいいのよ…」
「う…うん。あの、プリシスはあの…」
「大丈夫よ。会ってくれるわよ。…でも、それ以上を望んじゃ駄目よ」
「う…うん。判ってるよ…」
 まだ迷いの最中にいるプリシスを揺さ振っちゃいけない。
 自然な流れに任せてゆくしかないってレナは思った。
 何が切欠にしろ、レナとディアスも自然にそうなったんだ。
 無理はいけない。自然に…そう…ただただ…自然に、思いのままに…。
 アシュトンがプリシスの元へ行くのを眼の端に止めながらもレナは走り出した。
 荒い息がどんなにかレナが駆けとおして来たかを、ディアスに判らせていた。
「レナ?」
「逢いたくて…」
「ん…」
「とっても…逢いたくて…」
「ん。レナ…俺もだ」
 ディアスの部屋の電気を…レナは消した。
 そして、ディアスのズボンのベルトに手をかけた。
「どんなに…愛してるか…知ってほしい…」
「レナ…」
「本当に…本気なの。本当に好きなの。本当に…こんな気持ちはじめて…」
引き摺り下ろされた下着から開放されたディアスの物がすでにそそり立っているのに、レナはディアスの物に頬を寄せた。
「ディアス…抱いて」
 レナの初めての欲求をディアスはしっかり感じ取っている。
レナの口が不器用にディアスの物を舐めて行く。
 レナの胸に手を伸ばしながらディアスはレナへの服従と忠誠を認めた。
「レナ…おまえだけのものだ…」
「ん…」
 レナが小さく頷くと、ディアスの愛撫を強めていった。
(おわり)   
エピローグ

 アシュトン達がどうなったのかって? それがまぁ…ようは後に続く御話しな訳なんですよ。いつものボーマンの活躍(?)はまだかいなて思ってらっしゃるボーマンファンの皆様には、今頃、ボーマンが何をしてるかって事だけ紹介しておきますね(サービスよ。サービス!)

 アシュトンの事ばっかり書いてるけど…。
 ここにも…一人、そこら辺のとこで行き詰まっている男がいる。
「いやよ…」
 って、ニーネ。
 でも…ほいほいと諦めないのがボーマンなのだ。
「んな事言うなよ。だまにはいいだろ?」
「だって…」
 ってボーマンはロケットを持って、コンニチワって頭を下げさせて見てる。
 吹き出しそうなニーネだったけど、ボーマンの角度が辛そうなのが…気にかかる。
「だって…大きいんだもの…辛いわ…」
ってニーネは断った訳を呟いたけど…。
ニーネの顔がしっかりボーマンの股間に落ち込み始めている。
「その代わり…後で…たっぷりと…」
 って、ニーネに囁いてるボーマンの声が止まった。
「ァ…ァ…ニーネ」
 って、この男にしちゃ、珍しくたまんない声を漏らすと、ニーネの腰を捕まえてボーマンの顔の方にニーネの下半身を寄せてゆく。
 夫々の口で夫々の部分を愛しんで行けば、その内ニーネが堪えきれなくなって、いつものノーマルにすぐ戻っちゃう事になるのに、やっぱし…ボーマンはニーネのキティが愛しくて、何度も何度もキスを与えちまんだ。
 ボーマンの洗礼を受けながら…ニーネはクルスへの忠誠を知らされてしまうんだろう。 
 その、しばらく後に…ニーネとボーマンが天国とも言っていい快感の深さに縺れ合い…胸の中に愛をくるんで…。

《バイバイ》

続きを読む

イッツ・オンリィ・ユアマインド① 

ボーマンとアシュトンとデイアス。
三人が押し黙ったまま揃いもそろってうんざりした顔をして
テーブルを挟んでそれぞれ好き勝手な格好で座り込んでいる。
それもそのはず。
約束の時間が過ぎてるのにレオンとクロードは現れない。
すぐドアを挟んだ隣の実験室に二人はいる。
呼びにいきゃあ良さそうなものだけど
さすがにその役を買って出る者はなく、
早くすませろよって内心皆は祈りながら黙りこくっている。
「なんで・・・実験室なんかで」
と、言いかけたボーマンの文句もレオンの声にかき消され、
静けさの中をレオンのたまんない声だけが
縦横無尽にひびきわったっていた。

クロードは愛しい実験生物に愛しい実験を試みている最中だった。
クロードにとって、とっても愛しい部分に指を入れてみたり、
顔を寄せて唾液をからませるついでに念入りに舌での愛撫の
・ ・・いや実験の反応をたのしんで
いやいや貴重な実験反応を検視したりしていたのだが
愛しい生物があまりに切ない声をあげるものだから
クロードの実験は、まだ初期の段階で留まっていた。
「アーーーン。こっちも吸ってよお」
レオンの妙な懇願の声色の艶っぽさはまあいいとして、
こっちってどこだろう!?
3人はつむっていた目を開け顔を見合わせた。
「や・・あ、あん。そんなとこ、なめちゃ・・・やだ」
って、ちっとも嫌じゃない声が気持ち良さを訴えている。
「ああああーたまんねえ。俺、でなおしてくるわ」
ボーマンがどこかで鬱憤
もとい高揚を発散させて来る気になったのかしらないけど
そういうのをアシュトンが宥めた。
「ね。もう少し待とうよ」
「って。おまえ・・。あいつ等の声をきいていたいんだろ?
はあああん。プリシスはまだやらせてくれてねえのかよ?」
「や、ヤダな。そんなんじゃないよ」
って、アシュトンがレオン達のことを否定したのにボーマンったら
「へええ。とうとう、こえちまったかよ」
って風に納得してしまった。
「ち、ちがう」
アシュトンの顔があっという間に真っ赤になってる。
「フーン。口じゃそういうけど、どんなもんだかねえ」
本当の所が今いち良くわかんないアシュトンの反応ではある。
「ま、どっちにしろ・・・俺は」
ぶつくさいいながらボーマンが席を立とうとした。
「すまない」
珍しく同じ場所に小1時間もくだらない音声を堪えながら
座っているデイアスに謝られるとボーマンは仕方なく席に座りなおした。
そう。
相談があるとこの男が言出したのだ。
女どもに聞かれたくない話しらしいと察しが付くと
ボーマンが休日のレオンの研究所を提案した。
「休みだからって、てめえいちゃいちゃしてんじゃねえぞ」
「判ってるよ」
場所の提供をすんなり許可してくれたレオンだったし
ディアスの一大事らしいことも話した。
大丈夫だよな。
そう考えたボーマンが甘かった。

「ね、ね、ね・・いや。あっあんっ・・クロード。だめ、あっ」
レオンの声が一層切なげに高まってきていた。
おや、終りも近いかなとボーマンは息を飲んだ。
(え!?にしても・・色っぽい声じゃねえかよ。
俺がコイツでレオンにそういわせてみたくなるじゃねえかよ)
思わずボーマンの手がズボンの上から自分の物を宥めるように
軽くさすってる。
なのにレオンったら
「あ、クロード・・もっと、もっと、うごいて」
だって。
って、ことはまだこいつら上り坂かよ?
オマケにクロードったら
「まだ・・だめ」
なんてレオンをじらせて楽しんでいる。
「駄目だぜ。こりゃ」
「だね」
事態が早急に片がつかないとアシュトンも納得した様だった。
オマケにアシュトンも切羽詰まった膨張感にさいなまされ始めていた。
とうとう辛抱が切れた二人。
ボーマンとアシュトンが同時に立ちあがった。
「ほおおお?」
「な?なに?」
ボーマンの手がアシュトンのものに延びて来た。
「え?えらくコチンコチンになっちまいやがってるじゃねえかよ。
ん?でも、そうやって立ちあがって帰るって事は
つまり、プリシスにここをやわらかくしてもらえるってことだな?」
「や、やだな・・・」
アシュトンの手がボーマンの手を振り払った。
「ボ、ボーマンこそどこいくんだよ?」
「へ?んな事お前にいう必要ねえじゃん」
軽くざれあってる二人が
デイアスの発するジトーンとした空気を感じ取った。
「・・・・」
そうそう、ディアスの相談の為に集っていたんだ。
「ふ。お前等はいいよな」
おいおい。妙に拗ねた、
デイアスらしくもないセリフじゃないか。
ボーマンはそのデイアスの言葉から感じ取った事をデイアスに尋ねた。
「そりゃあ?おまえ、レナと上手くいってねえってことかよ?」
がくりと頭を垂れたデイアスがうつむいたまま
「だから・・・相談なんだ」
と、いった。
「おい」
ボーマンもアシュトンも顔を見合わせてもう一度座りなおした。

やがて、堪えきれないレオンの声がクロードを何度も呼び
クロードもしつこい程レオンの名を呼んだ。
頂点を極めた物が起こさせてしまう雄たけびを
さすがのボーマンもアシュトンもしらっとした思いで聞いていた。
「おし・・・やっと・・・おわったな」
それでもまだ10分はまっただろうか?
なんだか覚束無い足取りでとろんとした顔のレオンが現れた。
『え?』
びっくりしたのはレオンだ。
『な?なに?えっ』
皆が来てる。
「はやすぎるよ」
レオンの皆への開口一番だった。
「ぼけ!いったい、何時間クロードに突っ込まれてりゃ気がすむんだ」
あちゃちゃ。ボーマンそれはどぎついよ。
「え?・・・あれ?」
レオンは慌てて時計を見た。
そして、次のレオンのいいわけに
皆は責める言葉さえなくしてしまった。
「クロードったら・・・すごいんだもの。
時間なんかわかんなくなるよ」
え!?のろけだぜ!?
それも・・その最中のことのもろ・・・のろけだぜ。
ここ小1時間以上聞かれていたんだと判ったら
レオンの奴しっかり開き直りやがったんだ。

やっと面子が揃った。だけど男五人。
顔を寄せ集めたってむさくるしい状態でしかない。
「で?ディアス相談って?」
やっと顔が揃ったメンバーをぐるりと見渡すと
ここは年長者であるボーマンが口火を切るしかなかった。
「ん」
自分で思わせぶりに相談があるんだといっていたディアス
がひどく口篭もってしまった。
「アーン!?えらく、もったいぶるじゃねえかよ?」
「あ。そういうわけじゃ」
意を決っし話し出そうとするデイアスの口が開くより先に
その頬が赤くそまっている。
「はーん?レナとの事だな?なんだあ?上手くできねえのかよ?」
何てボーマンが下がかった事を口にするものだから
デイアスはますます赤くなってうろたえた。
「なんだよ?図星なのかよ?」
そんなわけねえだろ?って思いながらボーマンはたずねてみた。
「あ、いや。それは大丈夫。
あ・・・いや。そうじゃなくて・・・。
あっ・・つまり・・・そういうことでもある」
「なんだよ!?訳がわかんねえな。はっきりしろよ」
しばらくの沈黙がつづき皆デイアスの言葉を待っていた。

「できちまったんだ・・・・」
「へ?」
って、間抜けたホーマンの返事は無理ない事だと思う。
お前ら、まじでつきあってんだろ?
なら、何でそんな事を相談なんだって思うにきまってる。
「と・・・おもう」
随分経ってからデイアスはまだ確信を持てない事だと付け足した。
「はーん。なさる事はちゃんとなさってらっしゃるってわけだ。
けど、へたしちまったっていいたいわけかよ?」
なんだかボーマンはムッとした口調で尋ね返し、些か不愉快そうな顔をした。
「じゃなくて・・・・」
どうにも歯痒い返事しか返せないデイアスなのである。
「あああ。じれったい。お前いったい何がいいたいんだよ?」
「あ、その・・・どういえばいいか」
ボーマンも結構短気なんだ。少し怒り出しながら
「だから、おまえがはっきり言わなきゃ、何がなんだか・・さっぱり」
「だから・・・レナにどういえばいいのか」
と、デイアスはひどくしょぼくれてしまっている。
「ばっかみたい」
黙って腕を組んで聞いていたレオンが口を開いて見れば
いつもの傍若無人でクソ生意気で可愛げのない言葉が飛び出してきていた。
(え!?こいつが可愛いってのはクロードとなにしてるときだけかよ?)
って、ボーマンは思いながらも、レオンが何を言いたいのかを聞く事にした。
「そうでしょ?ようはおめでたなわけでしょ?
デイアスにはめいわくなわけ?」
そうそう。それでボーマンもチットばっかしデイアスに腹を立てたんだ。
と、いっても、デイアスがおめでたにたじろいじまうってのは
ボーマンにはわかんなくもない心理なのではある。
レオンの言葉にデイアスは相変らず口数少なく答えた。
「いや」
「だったら・・・嬉しいよ。オメデトウっていったらそれがプロポーズじゃん?」
なかなか聡いレオンなのである。
どうやらデイアスはレナの妊娠に気が付いたってわけなんだ。
だからこれを機会に
レナとの確実な未来に踏み出そうと考えたということなのだろうけど・・・・
そんな簡単な一言をいい年こいたデイアスが考えつかず
皆を非常召集しなきゃなんない?
相談!?いい加減にしてよ。そんなことくらいで、
こっちはクロードとの事、途中にして来たんだよってレオンは思ってる。
途中?って!?あんたあれでまだ途中なわけ?
そりゃあ、そうかもしんないけど・・・・
確かに元気なクロード君がレオンちゃんとこに遊びに行くのが
一回こっきりってことはないかもしんないけど。
でも・・・デイアスの言い分はまだ続きそうだよ。レオン。

レオンの言葉に返事をしようとしたデイアスが
恋する男の気弱さもろだしの顔付きに変った。
「レオン・・・いってみたんだ」
と、いうとデイアスはがっくりと肩をおとした。
「んじゃあ・・・なんで・・そんな・・・。はああん。つまり、こと・・」
断られたんだっていうレオンの口を押さえたのはクロードとボーマンだった。
ここからが僕の出番だとばかりに優しいアシュトンはデイアスに尋ねた。
「レナ・・なんていったの?」
「・・・・」
「話してみてくれなきゃ。それに、だからこそ相談なんでしょ?」
なかなか、いいことをいってくれるアシュトンじゃないか。
「ん」
「・・・・」
皆、黙りこくってデイアスの口が開かれるのを待った。
「何がおめでたいのよ・・・・って」
「え?」
レナがそんな事を言う!?皆はちょっと信じられない顔にかわった。
「あちゃ」
って、ボーマンが一言呟く。
レオンの顔色といえば
デイアスの胸の痛みが自分につきささってるかのようにくぐもっていた。
「そ、そんなあ・・・ほんとに?」
デイアスが嘘なんかいうわけもない。
あんなにつっけんどんだったレオンがシュンとしてしまっていた。
黙っていたクロードが喋り出すより先にアシュトンが口を開いた。
「デイアス。レナも気が動転してんだよ。
結婚を考えるより先に自分の運命が決定される現実になっちゃったらさあ・・」
「そう・・なのかな?」
確かにデイアスもこれと言ったプロポーズをはっきりとはしていない。
デイアスがポツンと呟くとクロードも付け加えた。
「そりゃそうだよ。男はさ、打ち放しちまったら
1年もすりゃ勝手に父親になってしまうけど、
女の子はお腹も大きくなっちゃうし、色んな事が一遍にかわっちゃうんだもの。それをさあ・・・、
そうなっていいって覚悟がつくより先にできちゃったってなったら」
腕を組んで聞いていたボーマンにも
「なるほどな」
と、やっとデイアスの相談が見えてきた。

「責任とるよ・・・なんてのは・・・どう?」
レオンの言葉に皆はレオンを見詰めた。
そうそう。問題はデイアスがレナの事をどうしたいかを
はっきりと告げなきゃなんないって事だ。
そうすりゃ、レナだってデイアスとの結婚って未来に向かって行こうと
妊娠を喜びごごとしてとらえなおせるだろう?
「・・・・」
黙ったままデイアスは首を振った。
「な、なんでさあ?」
レオンの名セリフを即否定されたのは面白くないけど
でもなんでそれじゃあ、いけないんだろ?
「うーん。判る気がするな」
と、クロード。
「だ・・な」
と、ボーマン。
デイアスは頷いただけだった。
アシュトンは少しきょとんとして、やっぱりレオンと同じ様に感じたんだろう。
「え?なんで?」
って、尋ねていた。
「それじゃあ、責任で一緒になるって、きこえねえか?」
ボーマンの言葉にクロードが説明をつけくわえた。
「そうだよ。今のレナに男として責任とるって言うセリフは
本当はそんな事考えてなかったんだけど、下手しちゃって
し方たないからそうするっていってるようにきこえかねないよ」
「うーーーん」
―― 世の中の男性諸君。こう言う心理もありなんだぜ。
かっこいい決め台詞のつもりで『責任とるよ』と、言って見ても
彼女のほうは、
ア、 そう。責任感なわけ!?愛じゃなくて義務感?
ってそんな具合にせっかくのプロポーズで喧嘩にならない様にね―――

一方、問題のレナのほうである。
2、3日前に食べた物の食い合わせが悪かったのか、
嘔吐と腹を下すのが交互に襲ってくる。
デイアスと出かけた先で軽い嘔吐を覚え
その日のデートも早々に打ちきり慌てて家に駆け込んだのだ。
『こんなみっともない所をみられたくない』
って、レナも必死だったんだ。
薬をのんで一日体を休めていれば治ると思った事だったのに
レナの状態はその日が下り坂の入り口だった。
二日めもひどく調子が悪くトイレに通い詰でレナはげっそりしていた。
そこにデイアスが尋ねて来た。
今のレナにとって一番会いたくない相手である。
妙齢の乙女が「ゲロ出してる。ゲリしてる」なんて
好きな相手に言えるわけがない。
それでも何かいいわけを作って一言、今日は御免って
断りいれなきゃとレナはドアを開けた。
でもデイアスのほうは昨日のレナの様子にきがついていて
おまけに妊娠という幸せな誤解をしていたんだ。
「あ・・あの」
デイアスが何か言ってるけどレナのお腹の調子もむし返してきてる上に、
むかむかする吐き気が込上げてきていた。
とにかくデイアスには早く帰ってもらいたいレナであり
体の調子のピークがデイアスの喋っている事なんか
まともに聞けない状況にさせているのに
デイアスは口篭もりながらも何かしゃべっている。
「うん・・あ、うん」
生返事をしているレナは
早くデイアスに帰ってもらう一言を告げる間を探しているだけだった。
なのに突然レナの耳に飛び込んできたデイアスの言葉と
お腹の急変がレナを勘だたせた。
『なにがいい状況よ。どこが・・お目出度い?何、訳のわかんないこと』
デイアスの言葉をちっとも聞ける状況じゃないレナであり、
冷静に考えればデイアスが何かを誤解してるって事も判ったのだろうけど。
辛い状況がレナを襲い出すと
「何も、おめでたいことなんかないわよ。どこが・・おめでたいのよ」
と、金切り声に近い声を上げると
「今日は帰って」
とレナはドアを閉めるやいなやトイレに駆け込んで行った。
洗面台に向かって嘔吐を解放してもレナがはき上げるものもない。
からえづきほど体をくたびれさせるものもないのに
レナは続いてトイレに座り込むことになる。
「はーーーー」
しんどい。辛い。その言葉しかでてこないレナだった。
デイアスはドアの外でレナがかすかにはき上げるのを聞いていた。
「俺のせいで・・・すまない」と背中を擦ってやりたいデイアスだったけど
レナのおめでたくないって一言がずしんとひびいていて、
これ以上のことをしてもレナの気分を害させることにしかならないと
判断するとレナのところから戻った。
そして、デイアスは素直に皆の知恵を借りようと考えはじめたんだ。
つまり、デイアスにとって本当にとっても大事なレナであり
レナを失いたくないその一途な思いが
こんなにもデイアスを気弱でかつ従順な男にかえていたんだ。

一緒に出かけた先でデイアスの見たレナの嘔吐が
デイアスが原因であるのが誤解であるとはデイアスは知る由もない。
男五人の座談会が、ある意味、砂上の楼閣であることは
この際臥せておく事にして面白いので
この座談会をもう少し拝聴させてもらおう。

結局、デイアスはわざわざ自分から
レナとの仲の深度を暴露するだけのみならず
「ねえ・・ちゃんと愛してるって言ってあげてるわけ?」
って、かなりプライベートのことまで突っ込まれ、
それに答えなければならなくさせられている。
レオンの素朴な疑問も無理ない。
そこが判ってたらレナだってそんなにじたばたするのもおかしなことだもの。
「言ってるに決まってるよねえ?デイアス」
アシュトンの助け舟でデイアスは黙って頷くだけですんだけど、
頷くだけにしてもそんなことを言う自分をさらけ出すのは
どうにも赤面を免れないデイアスなのである。
なのにレオンったら
「あのさあ。それってHしてる時に言ってるだけでしょ?」
ありゃりゃ。
レオンの鋭い質問にデイアスはごにょごにょって答えた。
そりゃそうだろうがって言ってるように聞こえたけど・・・・。
何があっても顔色一つかえないような男がHしながら
どんな顔してレナに愛してるよなんて囁くんだろ?
レオンが問い正したいこととは別の次元の興味が
皆の顔に登っているのを感じ取るとデイアスは
「んんっ」
と、咳払いをして見せた。
デイアスの苦りきった様子に
「まあな。確かにな。おまえのこったろうからそんな時にでもねえと
本当の事を言えねえんだろうけど・・・そりゃあ・・・だめだぜ」
って、レオンの提義した問題の核心に気がついたボーマンだった。
ところが・・・・
「えっ」って顔をしたのはデイアスだけじゃなかった。
クロードもアシュトンも「え」という形で口をあけたままでいる。
『はーん。こいつらも愛する人の中にナニカをつきこみながら
愛しているよと言う口だな』
と、ボーマンは得心してるけど
レオンは立場の違いのせいか、そうそうって頷いている。
「な・・・なんで?」
おもわずアシュトンが尋ねて来たので
「手前、そりゃ・・・
やっぱ、プリシスとこえちまったってことじゃねえのかよ?」
と、核心をついてやると
「あ・・いや・・後学の為に」
と、アシュトンは言い抜けようとする。
「後からの反省っていう意味の後学かよ?」
と、アシュトンを軽くいなしておいて
ボーマンはアシュトンを見ながら喋り出した。
「常日頃・・・普通の時にちゃんといっておかねえとな」
「うん」
って、3人が頷いた。
「セックスしてる時だけ、んな事いうのってな。
気持ち良くってたまんねえって事の表現でしかねえんだよ」
「え?」
「いい気持ちにさせてくれるから、
愛してるんだっていってるみてえなもんじゃねえか?
それって裏返せば気持ち良く感じれる自分愛しいって事になっちまうんだ」
「うーん」
考え込んでいる3人である。
「なあ?ちがうか?レオン?」
「うふ・・・まあね・・・ある面ではね」
レオンの返事にどきりとしたクロードの顔を
ボーマンがみのがすわけもないが
問題はこいつらでなくデイアスのほうなんだ。
「やっぱ、そりゃあ・・そん時に本心を言っちまうってのも大事な事だけどよ。やっぱ、なんでもねえ時にちゃんと言ってやんなきゃ、
レナ本人に愛されてるって自覚をもってもらえねえんじゃねえか?
で、こんなにあたふたしてんじゃねえか?」
ボーマンの言葉を聞きながらクロードはチラリとレオンをみている。
不安げなクロードの顔がレオンの目線と突き当たってしまうと、
レオンは『大丈夫だよ。判ってるよ。クロード』って頷いて見せている。
クロードはほっと溜息をついた。
「やれやれ」
目で会話してる二人がどんな気分になってるか?
どんなに愛されてるか、
どんなに愛してるかを確認されたい、確認したいって
やけに潤んだ瞳でみつめあっちまってる。
「おい。そこの二人は問題ねえようだし、
なんか妙なヘルツを感じてたまんねえんだ。
よう、3人でアマンダにでも繰り出そうぜ。な?クロードそうだろ?」
ズバリと言われちゃうとどう返事するのがベストなんだろ。
「え?あ・・そんな」
って、見ぬかれた欲求を今更隠す術もなくクロードは返事に困った。
(へ?全く強いてえっか、好きものというか)
どっちでもあるけど。
ボーマンはうだうだと返事に窮しているクロードに
「ま、早くしあがったら、でかけてこいや」
と、決めつけて言うと
聞いていた他の奴らも二人の濡れ場を邪魔するバカでもないさとばかりに
椅子から立ち上がり始めた。
「あ・・・」
気をきかせてくれた事にありがとうというべきなのか?
これからどうするかを暴露するようなことを言ったら
ボーマンが又とんでもない事をいいだすにきまってる。
「あ・・ごめん」
ちっとも相談の役にたてなくて御免ってクロードは謝ったけど
もう皆はドアの方に歩いていってて、ボーマンが
「あーん?なんかいったか」
って、いいながら既にクロードの後ろにたっているレオンの事を
顎でしゃくる様にしてみせた。
レオンを振向いたクロードの耳にボーマンの声が
「はやく・・なんとかしてやれよ」と言ったのか
「早くなんとかしてもらえ」と言ったのかは判らなかった。
だって、ドアが閉まる音に重なって聞こえたせいもあるけど
ドアの音が聞こえた途端クロードはレオンを抱き締めて
一番大好きなレオンのうなじを舐め上げ始めたんだもの。
ボーマンのセリフなんかもうどっちでもよかったんだ。
すぐにあまやかな快感を訴え始めるレオンの声しか、
もうクロードはきこうとしてないんだから・・・・。

そんなわけで3人はアマンダに座っている。
どっか妙に疑った目付きでアシュトンはボーマンをずううっとみている。
「なんだよ」
「だってさ」
「あーん。なんだよ?」
「つまり・・・さっきの話しだけどさあ」
「Hの最中の(愛してる)はないぜってことか?」
「う・・うん」
ボーマンあんまし大きい声で言わないでよ
って、アシュトンは小さくなって返事した。
「それが・・・なんだよ?」
「つまりい。あいつら。それの見本みたいなもんじゃない。なのにさ」
アシュトンの疑問がボーマンには判った。
「愛し合ってるよなってか?」
「うん。そう。だから。ボーマンのいう事は少しおかしいよ」
「おまえなあ」
ボーマンは大きな息をついた。
「なに?」
「そりゃあな。男同士とな、男と女のセックスと感情の違いだよ」
「ど、どういうこと?」
「あんなあ。あいつらにゃあ。セックスが二人の世界の頂上なんだよ。
セックスする事が頂上にいる証なんだよ」
「・・・?」
アシュトンには不可思議な説明でしかない。
「だけどなあ。男と女はそうはいかねえんだ。
デイアスがいい証拠だろ?セックスしてりゃ頂上にいれるんだったら
そのセックスの結果にこんなにあたふたする必要はねえだろ?」
「う?うん・・・・うん?」
「わかんねえかな?男同士にゃ、妊娠はねえよ。
これ以上、相手を変化させちまうって事はねえよ。
いいか?相手を変化させるって事は自分も変化してかなきゃなんねえんだ」
「あの?」
「つまり、あいつ等は永遠に恋人同士でいられるけど
ま、恋人同士以外の者にもなれねえよ。
その点、男と女は色んな変化があるだろ?
恋人だったり妻だったり、色んな立場にかわっちまう。
自分だけの物だったのに・・・。
え?母ちゃんになんかなってみろよ。
そしたら、何時の間にか男も父ちゃんって自分にもなってるんだ。
恋人同士の頂上に留まっているわけにゃいかねえんだよ」
「・・・・」
「だから、男と女は何もかもをセックスで表現し
治めちまおうってだけじゃいられなくなるんだ」
やっと納得いったような顔をしたアシュトンは更に納得を深めた。
「ふーーーーん。ボーマンがニーネを本当の意味の母ちゃんにしないのは
自分だけのニーネじゃなくなるからなんだ」
「な・・」
とんでもない蛇を藪から突付き出させてしまったボーマンである。
アシュトンの何気ない一言にどうやら図星を指されたボーマンが
言葉をつまらせてしまったのをデイアスは苦笑しながらみていた。
「なあ、デイアス。レオンもそこらへんのところをいってんじゃねえかな?」
デイアスのほうに振り返るとボーマンはいった。
「かもしれないな」
無口過ぎる男ではあるがレナを想う気持ちにだけは勝てない様で
「確かに・・・・つたえてない」
と、事実を認めたのである。
「その結果が今のレナじゃねえか?」
「そうだな」
「結婚とか責任とか言出す前に、
まずそのあたりの御互いを良く踏み固めておかねえから
次に起こってくる事にあたふたしちまうんだ」
頬づえをつきながら聞いていたアシュトンは
「ふーん。ボーマンはいつまで踏み固めてる気?」
って、またボーマンをからかっている。
「やかましい」
3人は話しの結論がみえだしてくると
やっと、目の前に運ばれてきていたビールをグラスに注ぎ始めた。

アマンダのドアを開いた女性は目敏く3人を見つけると側に寄って来た。
「あっらあ?皆様どうなさったの?珍しい顔ぶれじゃございませんこと?」
デイアスがこんなとこに来るのをみたことはない。
その話し方で声をかけられた皆様だって、その女性が誰なのかはわかっている。
「よお・・いいところにきたじゃねえか」
と、ボーマン。
「な、なんですの?」
「いや。ちっと。女としての気持ちってのを・・
参考にさせてもらいたいなって」
「まあ、どうせ・・そんなことだろうと思ってましたわ」
セリーヌのいうそんな事ってどう言う事かって?
どうせ男3人集っていれば話題の中心は
これ以上、むさくるしい男のことをはなすきにはなれないだろう。
おまけにボーマンがいるんだもの。と、なれば女性の話。
いや・・女性との話し.
どうせボーマンの事だもの。
新たなるテクニックとか素敵なムードづくりとか、
その気にさせる口説き文句とかをご教授してるんでしょう?
っていうのがセリーヌの推理だったんだ。
「まあ・・・座れよ」
なんだか、いいつまみにされそうでもあり
セリーヌは戸惑ったけどボーマンは立ちあがると
セリーヌの為に椅子をひき軽く押してセリーヌを座らせると
その手にグラスを握らせ、トクトクッとビールを注いでしまった。
その間・・・わずか10秒もあっただろうか?
さすがボーマンなのである。
こんなパターンで迷ってる相手を何度物にしてきたんだろうか
って考えさせられてしまうほど見事なてぎわよさなのである。
「まあ・・・のめよ」
セリーヌはくいーとグラスの中の物を飲み干すと
ボーマンはもうビールを片手に持って
セリーヌの空のグラスにビールを注いでいた。
「なあ・・・おまえ。Hすんのってきもちいいよな?」
「ひ・・っく」
質問の内容はいきなりすぎたけど、相手がボーマンなら
こんな事でたじろいでいるわけにはいかない。
「あの・・・・愚問でしてよ」
そうそう。そんなのって感覚の鈍い女にたずねることじゃないか?
セリーヌだってこれでそこそこ・・・。
あっ、いや。これは彼女のプライベートな事であって
作者が横からすっぱぬくわけにはいかない。
「ま。そうだよな。で、ききてえことはよお。
そん時にさあアイツは愛してるっていうわけかよ?」
「えっ?」
「愚問だったか?」
ボーマンがかすかに笑ってるのは、
セリーヌがなんでわかるのよって顔をしているせいだ。
「そうねえ。そんなことより、
なんでそんな事を質問するのかをきいてもよいかしら?」
「ちっ。そうきたかよ?」
ちっとばっかしセリーヌのプライベートをセリーヌ自身の口から
いわせちまおうってボーマンの目論見は上手くかわされてしまった。
「まあ、なんだよ。女ってのはいつでも愛してるっていってほしいもんだろ?」
「そりゃあ・・・そうでしょうけど」
と、質問のわけを言おうとせず重ねて尋ねて来るボーマンに
セリーヌもうっかりとは答えず人事としての想定論としてだけ答えている。
「セックスの時だけにしか、そのセリフをきいた事がねえってのはどう思う?」
「は・・あ?」
黙ってしまったセリーヌである。
「どうなんだよ?」
「そ、それは・・・その人にも、よることだし」
ああ・・・・セリーヌの馬鹿。
「お前にゃ、お前の場合しかわかんねえだろうが?お前はどうなんだよ?」
「はい?」
わざわざ自分からボーマンの追求を許しちまったセリーヌである。
「大事なことなんだ。男側からの意見じゃ
デイアスが今一つ納得しねえんだ」
確かにデイアスも完璧に納得してるわけじゃないけど
どっちかと言うと、ボーマンの好奇心の方が納得してないようなんだけどねえ。
「教えてくれねえかな?」
なんでデイアスが納得しなきゃなんないの?
って、思いながらもボーマンの低姿勢って言うのは
妙に女心をゆさぶるようで・・・・セリーヌはとうとう
「あの・・・・二つの場合がありましてよ」
と、いいだした。
「二つ?」
「一つは、あの・・・初めの頃は・・・あは、ほほほほ」
自分の体験を話すとなれば誰でもてれくさくなってしまうにきまってる。
オマケに男三人に囲まれているんだ。
だけどさすがボーマン。
言渋るセリーヌの一言でセリーヌの言いたい事が見えていたんだ。
「なるほどなあ。
よっぽどセックスを覚えちまった場合とそうでない場合にもよるか」
「まあ・・・そう言う事ですかしら」
「で、具体的にどうなんだよ」
ボーマンの質問にセリーヌはほうううと大きな溜息をついた。
ボーマンの瞳がひどくまじ過ぎて
答えをはぐらかせられるものではないとセリーヌに悟らせていた。
「かまわねえじゃねえかよ。
おまえみたいにいい女に色々恋があるのはあたりまえだろ?
何にもねえなんて方がおかしいぜ」
セリーヌの躊躇いもそこにあったんだ。
ボーマンにそういわれると
今更、かまととぶるのも、らしくないかとセリーヌも考え直していた。
「あの、最初の頃・・・そういわれちゃうと。
その、その事で相手がそんな気持ちになってくれるのが嬉しくて・・・」
「お前も、がんばちゃったってか?」
「まあ・・・そういうことかしら」
「で?」
「あ?」
「あとになったら?」
「あ・・後になってきたら・・・そんな事いわれちゃ」
って、セリーヌがなにを思い出してかひどく火照った顔になった。
「いっそう、切なくなってたまんねえ?・・・か」
「・・・・・・」
と、いうことらしい。

「ふーん」
と、ボーマン。
セリーヌがやっぱ、いい女だって事を具体的に聞かされりゃなんだか嬉しい。ボーマン?あんた。なに考えてんの?
(アーン?たまんねえじゃねえかよ?
こう・・・セリーヌのスウィッチに振れて、
どんな風に感じちまうのか試して見たくなるってのは男心だぜ。
と、言っても・・今はそんな場合じゃねえしなあ)
「実はな」
ここにいたってやっとボーマンはデイアスの状況を説明し出した。
「なるほど・・ですわね。レナもその時その時のことしか
目にはいらないこですものね。
そりゃあ、頭ではセックスすれば、妊娠は有得るって判っていても。
現実妊娠をつきつけられれば色んな事が出来なくなるし
そこらへんのいらいらがつのるってことでしょうね。
でも。ボーマンのいうとおり何でもない時にこそ
愛してるって事を判ってもらっておく事は大切なことよね」
「やっぱ・・そうだよな?」
「妊娠って事実はとっても重たい事でしてよ。
しっかり愛されてるって土台があれば
木に重たい物がぶら下がっても大丈夫だけど・・・
土台が不安定だとその重みで木ごと倒れてしまうかも」
「え?」
ずううっと黙って聞いていたデイアスがびくっとした。
セリーヌがデイアスを見ると
そこには不安感に張りつめられている憐れな男がいる。
こんなデイアスも見た事がない。こんなに本気なんだなってわかる。
「なくしたくないですわよね?だったら、子供をどうするかとか
結婚をどうするかとか、そんな物事の対処なんか、後回し。
どんなに思ってるか、しっかり伝えて
レナの土台を作ってあげるべきで御座いましてよ。
土台さえしっかりしちゃえば
レナの方向も自然ときまってゆくと思いましてよ」
セリーヌの言葉にデイアスは今度こそしっかりとうなづいた。
デイアスの瞳の中にしっかりした指標が宿っているのを
ボーマンはみてとると
セリーヌを見て言った。
「え?的をえたことをいうじゃねえか」
って、ボーマンのセリフはそれでセリーヌの協力に感謝をあらわしているんだ。
デイアスの件については解答が出た。
後はデイアスが動くしかないんだ。
と、なると。
「よお。ちっと場所を変えて・・・のみなおさねえか?」
って、ボーマンはセリーヌだけに判る秋波を送出した。
駆けつけに飲んだビールがセリーヌを幾分か酔わせていた。
「うふ」
なんて、ボーマンの色目遣いに悪い気はしないセリーヌなのである。
だってねえ。セリーヌだって随分大人の女性だし、
その魅力にほだされてるボーマンなんだもの。
自分の魅力を下手に口なんかで誉められるよりは
よっぽどボーマンの一見、いやらしげな目付きは
セリーヌにして見りゃ有無を言わせぬ
とてもセクシーな口説き文句になっちまっていたんだ。
「うふ」が承諾の意味になるってのは
こりゃあ本人同士にしかわかんないことだけど
「じゃあ・・いこうぜ」
って、ボーマンは立ちあがってセリーヌの肩を抱く様にして出ていっちまった。
その後、二人がどうなったか。
飲みなおすだけで終っちまうのか。
ボーマンの先制攻撃のあまやかな指の動きに酔わされて、
結局セリーヌはボーマンに愛してるよなんて言われて
タマンナク切ナイ快感に喘ぐ表情をボーマンに見せつける事になっちまうのか。さて・・・・どうなっちゃうことやら?
「はあああーー」
残ったのはアシュトンとデイアス。
「かまわないぞ」
アシュトンももうプリシスの所に行ってもいいんだぞ
って、デイアスは言っている。
「ん・・でも。僕・・・人事じゃないし」
「?」
アシュトンの顔付きがなにかを聞きたそうな様子になっている。
「なんだ」
「あ・・ん・・あの」
「ん?」
「あの、聞いても怒んない?」
「ああ」
ここまで色々ぶっちゃけさせられたんだ。
何を今更とデイアスは頷いている。
「あの・・なんで失敗・・・
ううん。失敗ってわけじゃないんだろうけどさ。
その、なんで?どう言うふうにしてて・・できちゃったのかなって?」
「ん?ああ」
レナがピルなんか飲むわけがない。
できちゃうと判ってる状況なら
その時点で『できたら産めよ』っていえるわけじゃない。
なのにデイアスがレナん中に発射しておいて
できるかもしれないって自覚がないって事はおかしなことである。
だとしたらデイアスは膣外射精かサックで対処してるってことになる。
なのに失敗するって・・・?
これは僕もきいとかなきゃなんないってアシュトンは思ったんだ。
「周期。危ない時は外だったんだ」
と、デイアスは答えた。
やれやれ。この男の意外な側面をまたみせつけられちまったよ。
つまり、デイアスはレナの生理周期をしっかり計算してたってことなんだ。
何が意外だって?
考えてもみてくれないか?
この男が指を折って今日はレナの中に発射してもいいとか、
ああ、今日は外かよ?残念だ。
って、やってるわけじゃないか?
なんか、笑ってしまいたくなるけど。
と、いっても、本人には中か外かは充分に真剣なことなわけだ。
「え?と・・いうことは」
「多分周期がずれたんだろ」
「ふーん」
そう言う場合もあるのかとアシュトンは考えなおしている。
「で・・・おまえは?」
「え?」
「お前はどう対処してるんだ?」
「え?」
「人の事だけ聞いといて、自分の事はいわないのか?」
「あは」
「いえ。ばかやろう」
「あの後、7日くらいは大丈夫なんでしょ?」
色んな説があってまことしやかに伝わっているけど、
当てになるとは限らない。
デイアスのいう方法は排卵日が
生理日の10日から14日後にくるという説から
排卵日の5日間とその前後の3日間程を遣り過ごすと言う考え方で、
基本的にはアシュトンも同じ様な事をいっているんだ。
「で・・・危ない時はどうしてるんだ?」
アシュトンの方法だとデイアスより危ないと数える日は多くなる。
サックなんか使ってたらいい気分はぶち壊しになる。
かといってデイアスがレナに
『女の子がつけてあげるもんなんだよ』
なんて言いにくくて
・ ・・・デイアスは使ってない。
でも、アシュトンはどうしてるんだろ?
上手く雰囲気をぶち壊さずはめてる?
それとも・・あの、プリシスにつけてもらってる?
デイアス?あんたいったい何考えてるの?
「う・・・うん」
って、アシュトンは口篭もると
「耳かして」
っていった。
男同士の内緒話の図柄じゃないぜとは言うものの
・・・・なんだかきいてみたくなる。
デイアスはアシュトンの側ににじり寄った。
「え?」
「           」
―この部分はデイアスの耳の中にしか聞こえてないのであしからずー
「え?え?本当に・・・」
「うん。でね。―                     ― なんだあ」
「プリシスが?あの・・・プリシスが?」
「うん。まあね」
「まじかよ?」
レナだってしてくれない事を(いや、させれないというべきか)
あのがっきぽいプリシスがアシュトンのためにしちゃう?
「よく・・・」
ボーマン風に言えばー飼い慣らしたなとか
し込んだなーとかまあろくな表現にはなんないけど、
まっ、デイアスの言いたい事はその辺りだ。
なんだか自慢げなアシュトンの顔を見てるデイアスはというと
これがまた随分うらやましそうな顔になっている。
「どうやって?」
と、思わずデイアスは尋ねてる。
それどころじゃない問題があるはずなのに、
どうしてこう男ってのはいやらしんでしょ?
それに危ない日の対処方法としてだけ考えるなら
そんな事デイアスには必要ないことなんだけど
なのにデイアスはひどくうらやましげに
プリシスをその方法に導いて行った遣り口を教授願っている。
「ふふん」
って、なんかひどく気分良さそうに鼻を鳴らすと
やがてアシュトンは小さな声で話し始めた。
寄り添うように顔を付け合ってる二人の頬が妙に赤くてオマケにひそひそ。
妙な光景であるけどそんな傍目を意識してたら
はなしなんかするわけもないか。
話し終えたアシュトンが
「でも・・デイアスはそんなしてもらう必要ないじゃない」
って、ニカッと笑った。
アシュトンもデイアスが必要性でなくて、
男のスケベ心で聞いてきてるのは重々承知の上だったんだ。
「試してみたくなったんでしょ?」
「え?」
デイアスの中でそん時のレナの顔が想像された。
少し辛そうなレナの顔が思い浮かぶ。
ひょっとしたら泣いちまうかもしれない。
なのに、デイアスは自分の物を軽くうごかしてやる。
レナがそれでもデイアスをうけいれて・・・・
たはっ・・・・
「だめだ。俺・・・帰る」
「レナに宜しく」
「ば、ばかやろう」
図星だったのだろう。
アシュトンの言葉にデイアスはひどく狼狽した。
だけど、そんなことで、
やっぱりレナん所にいくのまでやめる気になるわけはなく、
デイアスは立ち上がった。
「しらないぞー。お酒も入ってるし
オマケにレナはこれ以上妊娠するわけないし」
ひどく高揚してるデイアスがレナをどんなに攻めちゃうかしんないけど
「あは・・僕も帰ろう」
プリシスんとこにってルンルン気分で席を立ったアシュトンは気がついた。
「え?」
舞いあがったボーマンもデイアスも
しっかりアシュトンに伝票を置いていってくれてたのだ。
「ありい?」
― あり。―

ノックの音が聞こえた。
「ん?」
ドアを開けるとデイアスが立っていた。
「だいじょぶか?」
「あ・・もう、平気よ」
レナの具合の悪かったのをやっぱりデイアスは気がついていたんだ。
デイアスに捕まえられたレナの
この間は御免っていう言葉が宙に浮いたままになった。

元気そうなレナの顔を見るとデイアスの不埒な心がうごきだしてくる。
アシュトンから教わった事を試してみたいけど
やっぱそうはいかない。
そんな事する必要もなくなってる。
後ろ手でドアの鍵を懸けるとデイアスはレナを抱きしめ
レナの頭に手を添えると逃げようのないレナに
いきなりの激しいデーイプキスを与え始めた。
そして力なくよりかかってくるレナをその場に寝かせ込ませた。
「愛しているよ」
また・・やっちまった。
こうなる前に言わなきゃなんないことなのに。
もう一度唇を塞ぐとデイアスの手はレナの胸の突起を探り始めていた。
肌蹴た胸が顕わになると、軽く膨張した胸の先端を
左右かわるがわるに舐め上げ舌をころがしてクッと噛んで見せると
「ああああ」
って、レナが声を漏らした。
「いたいか?」
「ううん・・なんか、へん」
痛みが痛みだけでないのはなぜだろう。
デイアスとのはじめての時の痛みもそうだった。
痛みを味あわされることだけを考えればこんな拷問はない。
が、それを受け入れる事が女の愛なんだろう。
愛する人に痛みを与える事が男の愛なんだろう。
そんな成立つわけもない数式が成立つ。
逃れられない痛みを与えられ、痛めつけられて
レナはデイアスを享受する女になった。
優しくされるだけでは動かなかったレナの中の何かが
デイアスに服従してしまっている。
「もっと」
レナの言葉にデイアスはもう一度レナの胸を細かくかみあげた。
「あ。いや」
細かな痛みが裂く様に襲ってくる。
なのに・・・こんな痛みを与える事ができるのはデイアス・・・あなただけ。
特別な痛みに屈服しデイアスの所作の一つ一つに喜ぶ女が育ち始めていた。
舌で舐め上げた胸の突起の固さがレナの快感を教えてくれている。
『俺の女・・・』
デイアスはゆっくりとレナの下着を毟り取りながら
肌を露出させて行く部分に舌を這わせていった。
「あ」
デイアスの顔が柔かな茂みを滑り降り、造作なくレナの足を広げると
その中心にデイアスの舌が落ち込んで行った。
滑る場所を押し広げデイアスの舌は
レナのか弱い場所をすすりあげはじめていた。
「あ・・いや」
デイアスの蹂躙の様をどう説明すればよいだろうか?
激しい息遣いと切ない喘ぎが間断なく繰返され
デイアスはその間にズボンのベルトを緩めていた。
下半身があらわになると、やっとデイアスはレナのその場所から顔を離した。が、すぐに
レナの場所にデイアスのものを滑り込ませて行った。
「あいしているよ」
全く書いてるほうが恥ずかしくなるくらいに真剣に
デイアスはレナに何度もそういう。
軽く蠢かしながらデイアスは上着を脱捨て
レナの体にまとわりついていた服を取り去ってしまった。
素肌の接触がレナを更に陶酔の中につつんでゆく。
『なにもかも・・・ひとつに重なる』
肌も・・・生殖器も・・・時間も・・・愛も・・・快感も・・・なにもかも・・。

レナの陶酔もさながら、
久方ぶりってのがいけなかったのか、
レオンやアシュトンの話にいいほど刺激されてしまっていたせいか。
デイアスの気が急上昇していた。
「いっちまいたい」
って、いうとデイアスは急に動きを早めた。
「だ、だめ」
デイアスの動きがレナの中でフィニッシュを求め出す物だと判ると
レナは切ない息の中から制止を求めた。
「駄目・・・まだ」
「ん?あ、ああ・・レナ、レナ」
いっそ受け止めてしまいたいレナだけど・・・まだ
「駄目。まだ、赤ちゃんは・・ね、今、危ないの」
「え?」
デイアスはかろうじて発射を回避した。
とはいうもののたまらない疼きがおこり出してきているのを止めちゃうって
どんなに切ないだろう?
普通なら、堪えられそうもないのをデイアスが留められたのも
レナの言葉が意外だったからだろう。
「レナ・・あの」
「ごめんなさい。本当に危ない日なの」
今までデイアスが気をつけていたから
レナがそんな事を計算してるなんて判る訳もなかった。
それに、いや・・それよりも
「できたんじゃなかったのか?」
「え?」
きょとんとしたレナの様子でどうやらデイアスの早合点だと判ると、
そうそう、まだ、何でもないときに愛してるよっていってないんだ
と、デイアスは思い出した。
「あいしてるよ」
「うん」
って、言ってもねえ。
そりゃあ、確かに何でもない状況に近いかもしんないよ。
でも、やっぱ、これもなんでもある状況だよ?
だってねえ?どう見たって一応、動いちゃいないけどさあ。
まだレナん中にデイアスの物が
そそり立ったままはいりこんでるわけだしい・・・・。
ま、いいか。
「ああ」
切ない声とともにデイアスは自分の物をレナの中からひきぬいてはみたけど
「レナ」
レナを抱きかかえるとデイアスはレナをベッドに運んだ。
いきなりのデイアスの猛攻で忘れてましたが
ここはドアの前。
いかにデイアスが燃えてたか、よくわかるってものですけど。
あんまし良い場所じゃないよね。
ゆっくりレナをベッドに降ろすとレナのうなじを舐め上げながら耳元で囁いた。
「レナ・・さわって」
と、おさまりきらないディアスの僕ちゃんをレナの手に預けた。
レナの愛液でぬるりと成っている物をそっと包み込むと
ぴくんとうごめく・・・。
「デイアス?」
切ないよね?
レナの滑りが絡みついた物は
そのせいでレナの指の動きをここちよく滑らせていた。
「気持ちいい?」
返事のかわりにディアスは再びレナの下半身に手を伸ばした。
いなくなったデイアスのものの替わりに指を入れ込むと
小刻みに震えるような動きを与えた。
「あ・・デイアス」
それっきりレナの指の動きは止まり
いつのまにかデイアスがレナの下半身に顔をうずめて
レナに切ない声を漏らさせていた。
「いや・・あ、あああああ」
レナの手は漏れてしまう声を押さえる様に自分の口をおおっていた。
そのレナの手をどかせると
デイアスはレナの唇の中にデイアスの中指を割り込ませて行った。
レナの声さえもデイアスへの指でとどめさせてしまうのを
みてみたかっただけかもしれない。
が、レナはデイアスの指を吸う様にして舌をからめだした。
「いいこだ」
レナにはデイアスの指さえいとしい。
そして、愛しさに答える事さえもおぼえだしていた。
その様子にデイアスはアシュトンから聞いた事を実行し始めていた。
レナの唇の中に中指をあずけたまま、
ひとさし指でレナの唇をキレイになぞった。
ひとさし指の動きとレナの下半身の中をうごめくと指の動きに
レナは放心したかのように唇をかすかにあけた。
その隙間にデイアスはもう一本、人差し指をさしこんでいった。
口の中への愛撫がレナを夢中にさせ
レナの舌はデイアスの指を再び愛撫し始めていた。
「レナ」
レナの頬にあたるなよやかな感触の物がなんであるかを考えつく前に
デイアスはレナの唇の中のそっとひきぬくとレナの頬に当たった物を
ゆっくりとレナの口もとに寄せていった。
ひどく恥ずかしい事であるはずなのに、
レナはそのまま唇をデイアスの物に寄せた。
「レナ・・・そのまま」
デイアスの望みをレナは自然に理解できていた。
さっきのデイアスの指への愛撫そのままを、
デイアスの物にも与えてしまいたい。
レナは舌でデイアスの物を優しくなぞって行った。
やがてデイアスはとろりとした愛液がしみでてくる先端を
レナの唇におしあてた。
「レナ」
デイアスの懇願を帯びた声がレナの躊躇を断ち切った。
レナはゆっくりと唇を開いて行った。
デイアスがそっとレナの顔を押さえゆっくりとレナの口の中に
デイアスの物を飲み込ませ始めて行った。
デイアスの物をくわえ込んだレナは相変らず目をとじたままだったけど
デイアスは自分の物をくわえ込んだレナをじっと見詰めながら
軽く自分の物を動かしてみせた。
「レナが・・そうして・・・」
デイアスの言葉にレナは素直に従っていた。
溢れ出す唾液がデイアスの物を伝い落ちてゆく。
デイアスはレナの手を取るとレナの口もとの下にある物をさわらせた。
ぐにゃりとした感触に思わずレナは手をかじこまらせた。
「そっと・・さわって・・・」
やがて、デイアスの思いは達せられる。
発射の波が来る快感に思わずデイアスはレナの肩をつかんだ。
レナはデイアスの慟哭にたじろぐ事なく、
彼の物を・・・彼の頂点を口の中で受け止めていた。
「ありがとう」
どこまでも自分の求めに服従してくれるレナに、
デイアスの物になりきろうとするレナにそう言うと
デイアスのものを口に含んだまま、
どうして良いかわからないでいるレナから自分の精液を唇を寄せて受取った。
「あ?」
レナが声を上げるのも無理はない。
デイアスはレナに渡したレナへの愛しさの証を
自分の口の中に受取るとゴクリとのみこんだんだ。
言葉でいくら言っても上手く伝わらない事が多いけど、
レナへの愛しさを一つたりとても外に放り捨てる事のできないデイアスの
この表現は痛烈にレナを打ちのめしたんだ。

「デイアス」
口の中はデイアスの精液の青臭くほろ苦い味に満たされているのに
二人はそれを共有するかのようにキスを繰り返した。
「こんなことでも・・デイアスを」
って、レナはうつむいた。
どういいたかったんだろ?
喜ばせてあげられる?
気持ち良くして上げられる?
受け止められる?
いずれにせよ。レナが言葉にするのが恥ずかしかったんだ。
「すてきだったよ」
って、デイアスはいった。
「でも、いつかレナのキティと一緒にイキたい」
って、レナのキティの方を望んでる事を告げた。
あくまでも
デイアスにとっては危険日の対処のひとつでしかない。
だって
「レナの気持ちが良さそうな声がいい。それに・・レナのキティは素敵だよ」
ストレートにキテイへの愛しさを言われても
照れ臭さがどっかににいっちゃってるのは
レナもデイアスの物に対して同じ感情を覚えたせいだろう。
その上でいくばくかの不満があるのもデイアスの言葉で解消されていた。
キテイに対するデイアスのものからの愛撫を
他に向けられた事に不満を感じると言う事は
レナの中がずいぶん感じる女になっているってことだったのだろう。
「うん」
頷いてレナは続いて出した自分の言葉に驚いていた。
「ね・・今度はキテイを可愛がって」
レナはドキドキする胸の高鳴りを感じながら、デイアスの胸の中に顔を埋めた。
「ああ・・言われなくても、そうする」
レナの髪をやさしくなで上げながら
デイアスは安全日がいつになるのかを考えていた。
最後の最後をレナの中で果てちまう快感がどんなに心地いいか。
デイアスにはよく判ってるし、
レナを動けない様にして思う様に突き上げてゆく時。
レナをどんなにか我物にしているかを知らされるあの征服感。
『だけど俺は・・・おまえに・・勝てない』
どっちが征服されてんだか。
レナのさっきの顔を思い出しながらデイアスは思った。
『おまえに愛されてんだって・・その思いで俺をうちぬいちまう』
「レナ・・・ずううとそばにいろよ」
恋人はしっかりとデイアスの胸の中。
そして、頷いた。
                                  (おわり)
****エピローグ*****

その頃。
プリシスの唇の中にやっぱりアシュトンも指をいれてみてた。
そして。
デイアスに言った様に
その指を上手くアシュトンの物とチエンジするはずだったんだ。
なのに。
途端にプリシスはそっぽ向いたんだ。
「え?ありい?」
それはこっちがいいたいセリフだよ。
どうしたんだい?アシュトン?
君の恋人は
ばっちしオーラルセックスを堪能させてくれるはずじゃなかったのか?
みっともなくもそそり立った物をぶんぶん振りまわしながら
アシュトンはダダを捏ねて見せた。
「ねえ・・お願いチョットだけ」
デイアスにああ言った手前もある。
アシュトンも口を付いて出て来た大見得を本当に体験してみたくもある。
「や!」
って、プリシスはにべもない。
「ンなこといわないで・・・・お願い・・・ね。ねっ。」
「いーーーや。」
「さきっちょだけでいいから・・・ねえ・・・なめてよお」
泣き落としかい?アシュトン?
「やだったら」
「ねえ?お口の中にまでいれてくんなくていいからさあ
ここんとこ・・・ね?すこしだけ?
ね?プリシス・・・・・・どうにかしてよおおおお」
「いや。いやなものはいやなの」
「なんでだよお」
「やーよ。だって、不気味だもん」
「そんなこというけど、プシイにはうれしいんでしょ?」
そうだよね。ノーマルセックスだったらかまわなくて、
なんでオーラルだったらそんなに拒むんだよ。
「いーの」
「か、勝手だよなあ」
「どっちがよ」
「プリシスに決ってるだろ?」
「なによ。私ね、そんなの聞いてると
私のプシイがよっぽっどつまんないだって・・思えちゃうけど?」
そう言う見解も成立つ。
「あ、そうじゃなくてさあ。その可愛い唇でさあ・・・」
「駄目よ。調子のいいことをいっても・・・。し・な・い!」
「それってどんな気分になるかしってるくせに・・・」
そう言うとアシュトンはちっともオーラルにOKを出してくれない面当て半分。説得半分で逆にプリシスのを舐めてやるって決めたんだ。

「ア・・・ヤダ・・・アシュトン」
なんていうプリシスの声が聞こえると続いてたまんない嗚咽が漏れて来た。
やがて・・・
「ね・・ね・・ね」
って、プリシスがアシュトンの物をねだる声に替わってき始めた。
なのに。
「や、いれてやんない」
「エー?そんなのない」
って、プリシスが縋って来るのをアシュトンはおさえつけておいて
「僕のを・・・なめてくれる?そしたら・・」
「・・・・・・・」

で・・・その後。
プリシスはアシュトンのお願いをきいてあげたのかな?
それとも・・アシュトンは辛抱切れて、
プリシスのプシイのほうの誘惑に負けちゃったのかな?
そこらへんのとこまで確認してると、
この話しが長くなるので
結果は皆様のご想像にまかせますね。
なんにせよ。
アシュトンがデイアスに大見得を張ってたってことだけは
ばっちり判っちゃいましたけど・・・。
おかしいなあとは思ってたんですよ。
だって、デイアスの言うとおりあのプリシスがねえ。
でもさ。
デイアスにはひょうたんから駒でしょうね。
本当はレナにちゃんと愛してるって言わなきゃなんないのは
デイアスのほうなのに、
レナにあんな事してもらえて
こんな事してもらえて。
愛されてんだよなってデイアスの方が深くうなづいちゃってるよ。

続きを読む

ボーマン・ボーマン4―ワンス・ワズ・ア・ツルーラブ―

朝からボーマンは、仏頂面している。
それもそのはずで、
この間から、二人めが生まれるとか生まれないとか
兎に角も、おめでたい話しなのであるが
臨月が近くなってから急に安静をしいられて、
緊急入院になった母親の元を
置手紙1つで飛び出して来た甥っ子が
ボーマンの元にやってきたのである。
「僕が一人でいたら母さんも心配するだろうし、
父さんも仕事が忙しいのに困っちゃうよねえ」
と、随分親孝行な科白を吐いたものだから
ニーネがすっかり同情してしまって
「可哀相に。こんなに小さいのに
母さんと離れ離れで淋しいわよねえ」
ボーマンの返事も聞かないうちに
「伯母ちゃまで良かったら、なんでもしてあげてよ」
と、甥っ子の面倒を見る気になってしまった。
「なんだよ?もっと、近くに誰かいっだろうが・・」
ニーネとの間にまだ子どもを作らないのも
ボーマンはひとつに、ニーネに注がれる愛情を
一人占めしていたいが為だっていう噂を
きいたことがあるが・・・
どうやらそれはほんとのことであったらしく、
甥っ子の滞在もきにいらないみたいな言葉だった。
だが、一人でボーマンの所に来て
居候を決め込もうとしている少年のほうが
1枚上手だった様で
「だって、皆、小さい子がいるんだよ。
手が空いてる所なんかおじさんとこぐらいだよ」
と、いったのである。
「う・・・・」
こんな経緯で甥っ子は
この間から、ボーマンの所に居候を始めた訳である。
が、こいつはとんでもない食わせ物だったのだ。
やって来た初端から、
「おじさん、僕、どうしておじさん所に
子どもが生まれないか知っているよ」
って、そう言い出した。
「アー――ン!?なんだってんだよ?」
あんまし痛い所をつかれたくもないボーマンは、
そん時でもすでに無愛想だった。
でも、この甥っ子はそんな事ちっとも頓着なしで
「あのね。子供ができないのってね、
Hしてないか、Hしすぎてるか、どっちかなんだよ」
って、喋繰り始めた。
「な?・・なん?」
親の話しでも小耳に挟んで
訳も判らずにいってるんだろうって、
ボーマンも考え直していた。
だって、まだ八歳だぜ。
判ってる訳なんかないよな。
ところが
「あのさ、してなきゃできないの当り前だよね。
じゃ?なんでしすぎちゃできないか判る?」
と、さも答えは知ってんだぞって、
得意気な顔して言うもんだから、
よせばいいのにボーマンもそのクイズに乗っかってやった。
「うーん。わかんねえな?降参だ」
「あのね。薄くなっちゃうんだよ」
「う・・すく?ってなんがだよ?」
って、どきりとしながらボーマンは尋ねた。
「やだなあ。決ってるでしょ。ロケットから出て来る・・」
おいおい。
ロケットだなんてとんでもない業界用語(?)まで、
知ってやがる。
ボーマンは咳払いをした。
どうやらこいつはほんとに解って言ってやがんだ、
と、ボーマンは考えると、
「あっ・・」
大変な事に気がついた。
「おい。おめえ。
そんな事を、アイツの前で言ったりしてねえだろうな?」
「アイツって!?ニーネのこと?」
そう尋ね返したと思ったらアーサーは片目を瞑ってみせた。
「大丈夫だよ。そんなこというわけないじゃん」
「な?なんだよ」
やけにアーサーが笑いを堪えてるし、
おまけにボーマンの心配を
いかにも判ってますって顔で頷いている。
「そんな事言ったら、
ボーマンは何処で薄めてきちゃっているんだろって
ニーネに考えさせちゃう事になっちゃうんでしょ?」
「あ?ああーーん?」
余りにも図星なのである。
おまけにこんにゃろは、
ボーマンの秘密まで気がついているって事なのだ。
まさか、ステラの事まで知ってるわけない
って思ってたボーマンは
どうやら逆にアーサーに弱みを
握られてしまったって事になったのである。
「て、てめえ・・・」
「しいいいい。聞こえちゃうよ。だいじょうぶだって。
僕は叔父さんが不利になる事をニーネに喋ったりしないよ。ね?」
ボーマンはうまく誤魔化しきれないまま、
しっかりボーマンに【浮気癖】がある事を
アーサーに認めさせる事になってしまった。
だが、ここでしっかり皆に話しておかないといけない。
ボーマンのは浮気とか不倫とかいうものとは
違うんだぞ、ってこと。
前作でもボーマン自らセリーヌに主張していた様に
「恋なんだぞ」ってことであり、
もっと弁護すればボーマンにとっては
「せつねぇー」事な訳で…。
この際、我等が愛すべきボーマンの
勝手な主張を認める事にしないと話が進まないのである。

まあ、何処でどう間違ったら
ニーネにこんな甥っ子が出てくんだろ?
って、不思議な気持ちになりながら
ボーマンはもうひとつの気に入らない科白にいらついていた。
「男同士の約束だよ・・んふふふ。ね?叔父さん」
それだ。その科白だ。
その科白がボーマンをイライラさせてるなんて
アーサーは知る由もない。
本当にイライラさせた当の本人はレオンなんだけど、
ボーマンはまだ、随分傷ついているのだ。
レオンにじかに言えないままの未昇華なボーマンの恋心を
いとも簡単に一篇に押しつぶしたレオンの一言を
意味は違うけど同じイントネーションで繰返されると、
ボーマンがとうとう言放った。
「男同士の約束は判った。んでもなあ。
いいか!?俺のことを二度とおじさんって呼ぶな!」
「あは?きにしてんだ?」
アーサーが又何かを察している顔をしてる。
と、思ったのも束の間
「そんなの気にしてるって事は・・・。
ははーん。だいぶ年下のこだな?」
と、言出した。
ボーマンはそれで思わず手で口を抑えた。
こいつにはうっかり物を言ったら
何もかもばれちまうだけだってボーマンも気がついたからだ。そんなボーマンを
なんだか小気味良さそうに見ていたアーサーは
「あは。んじゃ。もうそう呼ばないよ。
ボーマンってよんでいいね?うん」
自分で返事しといて
「あ、そうだ。
ボーマンだけボーマンって呼んだら可笑しいから、
ニーネのことももう伯母ちゃまってよばないからね。
いいね?」
ボーマンを覗き込んだアーサーである。
「え、あ・・・」
たじたじのボーマンなのである。
良く気が付いて念のいった配慮ではあるが、
本人には伯母ちゃまって言ってたけど
さっきの会話の中でも
ニーネって気安げに呼び捨てにしてたのも
ボーマンは気にいらないのである。
が、それでもニーネ本人には
おばちゃまと一歩下がった呼び方をしていたので
ボーマンも取あえずは引下がっていたのである。
が、今度はニーネと丸で恋人かなんかを呼ぶように
親し気に呼ばれるとなると面白くないボーマンなのであるが、どうやら、その子ども地味たボーマンのやきもちまで
アーサーは感づいていた上で
念押しして来たのだとボーマンにも判った。
とんでもねえ食わせもんだって
ボーマンも何もかも察してしまうアーサーの顔を
見詰めながらどっかで
「え?こいつ?俺みてえになるんじゃねえのかよ?」
って、なんだか自分を見てるような気分になってきた。

そこに洗濯物を干し終えたニーネが入って来た。
途端にアーサーは
「ねえ。おばちゃま。
叔父さんが叔父さんの事ボーマンって呼んでいい、って
いってくれたんだ。んん。だから、あの・・・」
やけに思わせぶりな態度を取るとニーネも
「あら?良かった。ん?で?なに?」
しっかりアーサーの術にはまってしまって、尋ね返した。
「うん。あのね。あのね。
おばちゃまの事もニーネってよんでいい?おこんない?」
アーサーの可愛い科白にニーネも
「まあ。アーサー。そんな事気にしなくていいのよ。
伯母ちゃまもニーネって呼んでくれるほうが
もっと仲良しみたいで嬉しいわ」
って、答えたもんだから、
ボーマンがむっつりとした顔になってしまった。
ニーネはそんなこと、ちっとも気がついてないし
ボーマンはボーマンで
アーサーの有無を言わせぬ上手なやり口に
内心舌を巻いていたんだ。
そんなボーマンの気持ちを知ってるからなんだろうね?
ボーマンをボーマンってよぶことを
ニーネに不審を擁かせずに済ませられた事に
アーサーは気を良くしてボーマンに親指を立てて見せた。
糞面白くない顔をなんとか取り繕いながら
ボーマンはニーネに
「おい。コーヒーでもいれないか?」
って、頼んだ。
「そうね。熱くなってきたしアイスにする?」
って、ニーネが尋ね返してた所に
アーサーがおっかぶせる様にして
「あ。僕も・・欲しいなあ」
って、言ったもんだからボーマンは益々切れたね。
「がきんちょがいっちょまえに
コーヒーなんか飲まなくていいぞ」
仏頂面でアーサーに言放った。
「あら。困ったわね。アーサー。
じゃあ、オレンジジュースでも飲む?」
ニーネは相変らず優しい女性である。
コーヒーを禁止されたアーサーにそう尋ねると、
アーサーは
「うーん。じゃあね。アイステイーがいいな。
もちろん。アール・グレイだよ」
通な注文を言出した。
ますます生意気ながきんちょじゃねえか、
って、ボーマンが思うより先に
ボーマンはその一言にグッと胸を詰らせた。

『アール。グレイ・・・』
紅茶の銘柄を胸の内で呟き返しながら
ボーマンは少し沈んだ顔になった。
その目の前にニーネがアイスコーヒーを持って来て
ボーマンの顔を覗き込んだ。
「ボーマン?どうしたの?」
不思議そうな顔をしたニーネに覗きこまれると
ボーマンも慌てて
「あ!?いや。なんでもねえよ」
って、いったけど
ボーマンの顔付きはやっぱり何処か暗くなってる。
ボーマンは自分でもそれが判ってるから
「あ、俺。注文の品を作らなきゃいけなかったんだ」
コーヒーのグラスを片手に持つと
処方箋室にそそくさと逃げこむ事にした。
いきなり立ち上がってキッチンから出て行ったボーマンを
「あれ?ボーマン。どうしたの?」
一番気にしたのはアーサーだった。
アーサーの為にアイステイーを作り始めていたニーネも
「うーん。たまにね。なんか元気がなくなってしまうのよね。アーサーは気にしなくていいのよ」
アーサーに答えると
「アーサー。ゴメン。
アール・グレイは伯母ちゃまの所にはないわ。
プリンス・オブ・ウェールズでよくって?」
アーサーのご希望に添えない事を告げた。
「うん。いいよ」
アーサーは答えながら、
ニーネには聞こえないような小さな声で
『まだ・・・憶えてるんだ・・・』
って、呟いていた。

一方そのボーマンである。
グラスのコーヒーを飲みながら
例の焼け焦げた椅子に座るともう一度大きな溜息をついた。
『アール・グレイか・・・』
口にださないまま、ボーマンは同じ事を考えている。
幾ら待ってもボーマンはその溜息の理由を
話そうとはしないだろうから、仕方ない。
ここは作者が説明することにしよう。

アール・グレイというのは皆様もご存知の通り
紅茶の銘柄なんだけど、
ボーマンにとっては忘れる事の出来ない
ひとつのイノセンスなのである。
紅茶の銘柄としての思い出ではなく、
ボーマンにとって
一番哀しい思い出の人であるアシュレイ・グレーマンと
アール・グレイとが重なるのである。
アシュレイとボーマンの出会いは高等部から始まる。
燐の席に座ったアシュレイの端正な横顔に
ボーマンはグッと息を飲んだ。
思えばその瞬間にボーマンは恋におちていたのである。
「ア、ボーマン・・あ、そう呼んでくれればいい」
どこかいつものボーマンらしくなく浮いた調子で
アシュレイに懸けた言葉に、
実にさわやかにアシュレイは
「アシュレイ・グレーマン。志望は薬学部。宜しく」
と、返して来た。
「あ、アシュレイ?ASYLLY?」
ボーマンがアシュレイのスペルにまで
興味を持ったって事は
これはかなりボーマンが
アシュレイに魅かれてしまったって事なんだけど、
そんな事とは知る由もないアシュレイは
「ううん。LじゃなくてR。R・グレーマン…・」
「アール・グレー?」
ボーマンがどこかで聞いた事のある名前だ
と、思ったのもつかの間。
アシュレイの方からその解答を出してきた。
「あはは。それじゃ紅茶の名前だよ。
アシュレイ。
君の呼びやすい呼び方で呼んでくれれば良いさ」

こんな会話がボーマンの脳裏に
アール・グレイ=アシュレイ・グレーマンという連想を
植えつけさせる事になってしまったのであるが、
それが何故ボーマンの哀しい溜息になるかは
やっぱり順を追って話して行かなければならないだろうし、
ボーマンシリーズの中に必ず登場して来る
ステラという女性とのいろんな経緯も
全てこのアシュレイ・グレーマンへの恋から
始まったことなのであるから、
やっぱりどう考えても作者が話していかなきゃ
わかんない事なのではないかと思うのである。

いつだったか、ボーマンはアシュトンに
『なんで俺はまだ生きてんだろう』って、
タマンなく悲しくなる時があるって言っていたのを
君は覚えているだろうか?
そのボーマンの謎な台詞も実の所
やっぱり、
このアシュレイ・グレーマンのもたらした物であるのだけど、
その謎解きも兼ねて
ボーマンの深い溜息を
バックグランドミュージックにしながら
ボーマンとアシュレイの物語を
振り返って見ようと思うのだけど・・・
この際いいよね?

アール・グレイと言えば誰でも紅茶の事だと思うだろう。
けれどボーマンにとっては
茶色の髪に灰色の瞳を持ったアシュレイの事を
思い出させるだけだった。
アシュレイはボーマンと同じシニアスクールに通い
同じ薬学部を目指したライバルであり、友人であり、
そしてボーマンにとっては
永遠の恋人であったのかもしれない。
アシュレイは実に端正な顔立ちをした男で
スクールの中でも群を抜いて目立つ存在であった。
外見の整い方同様何をやらせても卒がなく
成績も常にトップクラスの中にいた。
そんなアシュレイが
ボーマンと無ニの親友であると言うのであるから
当然の如く学校の中の七不思議に数えられてしまっていた。ボーマンのどこが気に入ったのか
アシュレイもしげくボーマンのところへきて
おおよその事については
ボーマンと常に行動を共にしていたのである。
そう、ただ一つ、
ボーマンがあちらこちらの女性あるいは男性を
口説きに行く時以外を除いて。

アシュレイは色恋沙汰には興味がないのか、
一切そう言う気配を見せる事はなかった。
彼のパーソナルボックスの中には
いつも手紙やらプレゼントやらデートの誘いやらが
これでもかと言うほど詰め込まれていたのであるが
それを毎日の様に
持ち帰らなければならなかったアシュレイも
持って返るから読んでもらえる、受取ってもらえると
勘違いされ、余計に悪循環だと気がつくと、
それからは一切手をつけず見ようともせず
ボックスの中から出そうともしなかった。
だから彼のボックスの中には
色んな物が詰めこまれたまま
彼の用途としての私物入れとしては
一切役に立つ事はなくなっていた。

それを見ながら本当の所はほっとしながらボーマンは
「あーん?おまえ、あれどうすんだよ?」
アシュレイに尋ねてみた。
なんにも返事のないアシュレイに、
ボーマンはさらに確かめた。
「エー!?中には
良い線いく奴も居るかもしんないのに
もったいなくねえのかよ?」
当然ボーマンの言う良い線っていうのは、
ラストラインを超えられる良い奴って意味なんだから
ボーマンが既にこの頃から
いろいろと手広くやって居た事が窺えるってとこなんだけど、それを知っているのか、知らないのか、アシュレイは
「ボーマンこそ:・・今・・どうなのさ?」
誤魔化し半分に話しを反らせたのにすぎないのに、
きき返されたボーマンのほうが詰まってしまっていた。
「あ?あん?俺?・・俺?」
ボーマンだって
まさかアシュレイとの友情を
ぶち壊す事になるかもしんない自分の恋心を
曝け出すわけにはいかない。
だいたいボーマンって言う奴は
この頃からそうだったけど
本気になればなるほど手を出せない変な奴だったんだ。
だからアシュレイへの思いを胸の奥に秘めた。
ボーマンは、アシュレイを失いたくないから
じっと自分の恋心を抑えこんで居たんだ。
その反動も大きかった。
ボーマンは余計にあちこちで色々軽い恋と
肉体的なアバンチュールを楽しんではいたけど、
のめりこめない哀しさを余計に思い知らされるだけだった。そのボーマンが最近、ひどく年下の女の子に目を止めている。ボーマンにしてみても
ちょっと信じらんないくらい幼い女の子なのだ。
いい線にも持って行けそうもないような女の子に
のぼせてみたって面白くネエじゃねえかよ、
って、ちょっと前のボーマンなキットそう思った事だろう。ちょっと前・・・そうアシュレイを知る前ならね。
ボーマンが手も出せないような
とんでもない幼い女の子なんかの事が
気になる様になったのも
結句アシュレイのせいなんだ。
その女の子は眼の色も髪の色も
ぜんぜんアシュレイとは違っていたんだけど
ひどくアシュレイに似ていたんだ。
昇華出来ないアシュレイへの恋が
そのままその女の子に流れ込み、
ボーマンはその女の子に魅せられ始めていた。
だからボーマンはアシュレイの質問に
思わずボロを出しそうになったんだ。
その女の子がアシュレイに似てるから、
ひかれてるって事をね。
それを言出しそうになってしまいそうなのを
押し留めてボーマンらしくない事を言うのに
ボーマンは照れた。
「あー。俺。
今ちっとロリ方向にはしっちまいそうなんだよな」
「え?」
「まだ、ジュニアスクールにも
行ってねえような子なんだけど。
ハッ、これがかわいいの・・なんの・・」
そりゃそうだろう?
そいつお前にそっくりなんだぜ!
いっそ、そうぶちまけてしまいたい思いに駆られながら、
ンでも、し方ねえよな!?
お前、ンな気ねえもんなって
心の中でボーマンはアシュレイに語りかけていた。

「ボーマン・・あの」
アシュレイの瞳が何を言いたいのか、
その咎めるような眼差しにボーマンは慌てて言い返した。
「ア・・幾ら俺でも、そんながきんちょに手を出したり・・ンな事しねえよ」
だいたい、そいつに手をだせるくらいなら
とっくに本命のお前をどうにかしてるよ
って、ボーマンは胸の中で言い訳していたけど。
ボーマンの台詞を聞いて
アシュレイはホッとした顔を見せて
「ステラの事・・大事にしてやってほしいんだ」
と、アシュレイがいった。
それを聞いて驚いたのはボーマンの方だ。
「あー‐?知ってたのか?」
まさか、なんでステラに魅かれてるかまで
しってんじゃないんだろうな?って、
ボーマンは内心びくりとしながらきき返した。
「あ。うん。あのさ・・ステラは従妹になるんだ」
「ェ!?そんな事アイツいわなかった」
道理でお前に似ている訳だよなってボーマンは納得した。
その上、血の繋がりがあるんだと判ると
ボーマンには益々ステラがアシュレイと重なって思えた。
「ボーマン。あのサ、あいつに、
あの。頼むよ。変な事しないでやってくれよ」
そんな事を態々切り出して来るという事は
やっぱりアシュレイは
ボーマンの手の早さを知ってるって事なんだ。
ボーマンはちょっとばつの悪そうな顔で
「た・・たりめえだろうが。
いくつとしが違うと思ってんだよ。
そ、そりゃ。アイツが年頃になってそうしたい言われりゃ、
俺も男だしい・・」
しどろもどろになりながら
つい余計なスケベ心まで
素直に白状してしまったボーマンを笑いながら
「あは。ボーマンがそれまで待っていられるくらい。
本気なら・・そん時は僕も何もいわないけどさ」
と、アシュレイは答えた。
「ちっ。俺が誰でも彼でもやっちまうなんて
思われてんなら心外だぜ」
ェ!?俺お前にはなーんもできねえじゃねえかよ?
わかってねえんだから。
えー?
俺がお前の事何とかできねえから
辛くて切なくてふらふらしてるだけじゃねえかよ。
そこんとこ、どうにもいいわけ一つも出来ねえ俺の事、
そんなふうにいってくれるなよ。
タマンない思いでボーマンは
精一杯言い返してみたけど、
アシュレイはいともあっさりと
「あは?ボーマンでも、そうじゃない場合もあるんだ?」
念を押すような牽制をしかけてきた。
「ば・・・ばかやろう」
無理矢理でもなんとかなるなら
俺にゃおまえが一番なんじゃねえかよ!
え?だったらとっくにお前が俺のもんになってだろうが!?って、
ボーマンは切ない憤懣をグッと飲みこむしかなかった。

それからボーマンはアシュレイを交えて、
ステラと逢う事が多くなった。
ステラに対して妙な気で近づいているんじゃないんだ
って、事をアシュレイに表明したい思いもあったんだけど、一つにはアシュレイに逢う口実が出きることでもあった。
アシュレイにはああ言っては見たものの
ステラがアシュレイと血の繋がりがあるんだと判ると
ボーマンの中で尚更ステラと肌身を重ねて
アシュレイを感じ取りたくなって来てしまっていた。
そんな自分が激情に流されない為にも、
アシュレイを交え出したのである。
何よりも男同士の約束を守らなきゃ
アシュレイに見そこなわれてしまう
って、ボーマンも必死でもあったのである。

皆みんなが大学に入る為の試験勉強に
身を投じ始める頃になると、
流石のボーマンでさえノートを覗き込んでは
学習した事と必死に取り組む事になったのである。
が、その甲斐があってか
ボーマンも、当然アシュレイも
ストレートで医科薬科大学に合格したのである。
ボーマンは相変らずアシュレイと肩を並べて、通学し
同じ講座を拝聴する事になり、
ようやく一息つくとボーマンは思い出したのである。

そう言えば可愛い妹のようなステラとも
もう随分逢ってないボーマンだったのである。
「ステラ・・今年からジュニアスクールだったよな?」
ステラがどうなったのかそんな話しは
従兄であるアシュレイの方が話は早いのである。
ステラの事をたずねてみると
「あってないって聞いてたけど、
ほんとにあってないんだね?
もう、飽きたのかな!?って、ステラ泣いてたよ」
それもこれもアシュレイと同じ大学に入るために
ボーマンが必死に勉強にとりくんだ結果なんだけど。
「すまなかったよな。俺、ちょっと、
そう言う配慮にかけてたなっておもってるよ」
少し肩を落としてたボーマンだった。
「嘘だよ。必死に勉強してる、って、いってあるしさ。
それにアイツ、度胸あるって言うか。
はらがすわってるっていうか。
一度こうって決めたら、もう、一直線なんだよ。
例え、お前があいつの事飽きたって
絶対振向かさせるみたいに・・・必死になるような
一途なこなんだよな」
「う・・・ん」
「だから、お前が本気になれない子なら
おまえにとってつらくなるだけの子なんだ」
「え?」
ボーマンはアシュレイの言葉があまりにも意外だった。
従妹であるステラがボーマンなんかに
玩具ににされちゃ可愛そうだって
必死になってステラを大事にしてやってくれって
言ってたものだとばかり思っていたけれど、
アシュレイの方は長い付き合いの中で
ステラの性格をよくしっていて、
ボーマンが本気じゃないなら
ボーマンが苦しむ事になるんだって事を
本当は心配していたんだ。
ボーマンはこの時になって初めて知らされたのである。
「おまえ」
ボーマンはアシュレイの言葉に
胸が詰まってなんにも言えなかった。
「こんな事・・・ステラに言っちゃだめだよ」
やはり、アシュレイは
ボーマンの男としての気持ちを先に考えている。
若し、ボーマンが本当に完璧に
ステラをセックスフレンドくらいにしか
考えてなかったとしたら、
そして、そう言う関係になってしまったとしても
アシュレイは逆に遊びのつもりならそれでかまわないんだ。って、そう言う風にボーマンの男心を
うけとめてしまうってことでもあったんだ。
でも、ボーマンの心の底にある
「誰かに哀しい思いをさせちまったら自分をくるしめちまうって部分」を、アシュレイはよく判っていたのだ。
「ボーマン・・・本気ならいいんだよ。
例えどうなっても、君が自分を責めずにすむ。
それでも・・・僕は」
言いかけた言葉を途中でとめると
アシュレイは真直ぐ前を見た。
「ボーマン。時間だ」
教室の前の中央に設けられた机に
講師が携えて来た資料を置いて黙って一礼をすると、
本草薬学についての授業を始め、
アシュレイはもうそれにじっと耳を傾け始めた。

昼までの2時間を考えると長い講座ではあるが、
斜交いに見えるアシュレイの真剣な眼差しが
ひどく愛しくてボーマンもいつしか
とくにアシュレイが没頭する本草学に
一番興味を覚えるようになっていた。
この前にアシュレイが言葉を切ったままで
その続きが気になるボーマンではあったが、
どこか女々しく思えて気になりながら
そんな事はちっともおくびに出さないでいるボーマンだった。講師が教室を出て行くと
アシュレイがいつもの様にボーマンの傍に来ると
二人で肩をならべ学生食堂までぶらぶらと歩き始めた。
「今度の日曜、七時。出発!!」
アシュレイの言う事に
「へい、へい」
って、ボーマンは返事をしている。
草木学の現場体験として、外に出て
その場にある草木で薬剤を抽出して
サンプルを添えて報告論文の提出という課題が
出されたのである。
「たく。サンプルより先に
俺は目覚まし草をさがさなきゃ・・」
「おこしてやるよ」
くすくす笑いながらアシュレイはいっているけど
「たあー!おことわり!お前のは手加減なしなんだから」
ボーマンは必死に御断りをしている。
「ア.だって背中に入れたって知らん顔してるから・・」
「ェ!?だからって、パンツの中に
氷をつっこむやつがいるかよ!!」
「でも、おきたよ」
「たりめえだろうが。
ェ!?俺の息子は凍傷になりかけそうだったし
氷が溶けて来たおかげで、
いい歳こいて寝小便したみたいだし、
踏んだりけったりだったじゃねえかよ」
「まあ、いいや。鍵はあけておいてよね」
「おてやわらかにな」
「ああ」
実にさわやかな笑顔で返事を返してくれたアシュレイに
次の日の朝にはやっぱりボーマンは起こされている。
本当はとっくに起きているボーマンなんだけど、
こんな事でもして少しはアシュレイに
かまわれたいボーマンなんだから
この際知らん顔をしてあげよう。
やっとこせ起き出したボーマンに
こんな事だと判ってるアシュレイは
持って来たバーガーを突き出すと
「早くそれ食べて・・歯を磨いたらでかけるよ」
「バカヤロー。まだ6時半じゃねえかよ」
ちらりと見た時計はそんな時間だったけど、
アシュレイはボーマンの為に
もっと早い時間からおきて
出かけてきてくれてるって事なんだ。
「たく、おまえ・・いい嫁さんになれるわ」
「誰の?ボーマンみたいに手の掛かる奴は
他にいやしないよ」
「わるかったな」
バーガーをほうばりながら、
ボーマンはクーラーの扉に手をかけると
アイスコーヒーを引っ張り出した。
バーガーを胃の中に流しこむみたいに
アイスコーヒーをのむと
ボーマンは大急ぎで歯を磨き、靴をはいた。
「僕の分は無しか?まあいいや」
って、アシュレイは呟きながら、
ボーマンの使ったグラスにアイスコーヒーを注ぎ込むと、
ぐいと飲み干して
手早くコーヒーやらグラスやらを片付けると
ボーマンの後に続いた。
『おまえ・・』
アシュレイの無造作な様子に
知らん顔を決めこんでいたけど
なんだか、ボーマンは
とっても嬉しくなってしまっていたのである。
なんにせよ・・間接キスだったのである。
どっちかと言うと逆の順の方が嬉しくもあるけど。
アシュレイにそんな気なんか
さらさらないのは判っているボーマンなんだけど
どこかでひょっとしてアシュレイも
ボーマンに友情以上の物を
いだいてくれているんじゃないんだろうか
って、想像できるだけでも
ボーマンはしあわせであったのである。
そんな二人が家を出て
目指すサライナ高原に辿りついた頃には
お日様はもう天中高くあがっていた。
「ボーマン・・・翁草を探そう」
「え?」
「ニトログリセリンみたいに、軽い心臓発作に効く。
血圧を下げる効果もあるから
使い方を間違えると死に至ることもある。けど・・」
「いや、判ってるよ。判ってるけど・・・。
アレはもうすこし先じゃないと・・・」
「あるさ。今年はこんなに暖かいんだ。
出てきていてもおかしくない」
翁草の抽出法は非常に簡単で
アルコールに成分が溶け出して行くから
見つけてしまえば
もうサンプルが出来あがったも同然なんだけど、
草木資料集には全盛期は初夏となっているのである。
「初夏が全盛期なら、
今頃には萌黄色の芽をだしていなきゃおかしいだろ?」
ボーマンの不安を払拭するために、
アシュレイは重ねて言放った。
「今回はサンプルぶんだけあればいいわけだろ?」
「確かに・・な。おし、探そう」
二手に分かれて延びきった草の中を
掻き分けて探し出す事小1時間。
「あったあああああああ」
ボーマンの叫び声にアシュレイが駆け寄って来た。
「やったね。ボーマン、おまけに密集して這えてる」
アシュレイはボーマンと自分の採取瓶に
大事に何本か翁草を折り取り詰め込んだ。
「ここだね。覚えておこう。夏にもう一度取りにくるよ」
翁草に語りかけるアシュレイの横顔を見詰めてる
ボーマンの中にジーンと沸き上がってくるものがある。
ボーマンにはどうしょうもなく
アシュレイが愛しいんだって事を自分に付きつけられていた。
うっとりと翁草を見詰めるアシュレイを
その背中ごと抱き締めちまいたいって
伸びかけてしまう手を拳に作ってボーマンはこらえていた。
「ボーマン。僕は薬学の中で一番草木がすきなんだ」
アシュレイの言葉にハッと我を取戻したボーマンである。
「あ?ああ」
どこか間の抜けたボーマンの返事に訝る様子も見せず
アシュレイは
「僕は自然であるって事が大切なことだって思っているんだ。科学精製物は本来の人間の治癒力を無視する事が多い。
だから結局、別の副作用のせいで
新たな病気を作り出してしまう事がよくある。
それって詰まる所、病気自体を何とかしようとするせいだ。病気になってしまうような体質異変を改善しようとせず、
薬で病気だけを抑えこもうとするから身体に無理がいく。
それって自然じゃないよな?
無理ってやっぱ自然じゃないよな?」
「あ、ああ。確かにそうだと思うさ。けど・・」
「判ってるよ。そういう薬に頼んなきゃ、
もう間にあわないくらい病気が進行してる場合がある。
そんな時は仕方ないんだ。
でも、からだの中の自然治癒力まで破壊したり
あるいは身体自体の治癒力が
薬物を拒否したりするのが副作用だろ!?
それを抑える為に免疫抑制剤を
投入しなきゃならなくなったり・・・。
そんな薬はどう考えても不自然だろ?」
珍しく語気の荒いアシュレイに
ボーマンの方がグッと息を飲んだ。
「ボーマン。僕は・・・」
アシュレイはそこまでいうと言葉をとめた。
「あーん?なんだよ」
ボーマンが聴く体制でいるのを確認する為だったのか
アシュレイはゆっくりと言葉を進めた。
「僕には君とステラとの関係もそんな風にみえるんだ」
「え?」
薬学の話しから180度違うステラとの事を
突然持ち出されて来たボーマンは
アシュレイのいわんとする事の意味を考えていた。
アシュレイのいうことは確かに的を得ている。
アシュレイへの恋という病気を
ボーマンは確かにステラという製剤で抑えこんでいる。
そんな事ぐらいはボーマンにだって判っている。
問題はアシュレイがその事実を
どこまで認識しているのか!?
ずばりと言ってしまえば
ボーマンのアシュレイへの気持ちを
アシュレイ自身が気がついていて、
今ここでその気持ちを迷惑だといいたいのだろうか?
ボーマンはごくりと唾を飲みこむと探る様に尋ねてみた。
「おまえ・・・。
いつか、なんか言いかけて止めた事があったろう?
それって・・この事なのか?」
ボーマンの見詰めた面差しがこくりと首を落とした。
「僕には、君にはもっと本気になれる娘が
現れる気がしているんだ」
「俺がステラにまじじゃないって?」
「そうはいってないよ」
ボーマンはアシュレイが
どうやらボーマンの気持ちには感づいてないと、思えた。
軽く余裕を取戻したボーマンは
「んじゃ、なんだってんだよ」
と、アシュレイの続きを促がした。
「簡単に言えば・・・あわない」
「あわない?」
「ああ・・・」
「どういうふうに?」
「ステラはきっと君の為になら
どんな女の子にでもなるよ。
でも、そこが君とあわない。
いや・・・いずれあわなくなってしまうんだ」
「わかんねえな。
ェ!?そんなのって男名利もいいとこじゃねえかよ!?
喜ぶ事はあっても・・・」
「君は、自分の周りを回る惑星をもつ星のタイプじゃない。君自身がどうしょうもなく惹かれて
誰かの周りを巡る惑星になんなきゃ
君は軌道を失ってしまう」
コイツ、やっぱり俺の気持ちを
知ってんじゃねえのかってボーマンは考え込んでいた。
「俺、そんなにたよりねえか?」
「ああ、違う。違うんだ。ボーマン・・僕は」
「・・・・」
黙りこくってしまったボーマンに
アシュレイは覚悟を決めた様に
「ボーマン。僕は君の惑星にはなれないんだ」
と、告げた。
「あ?え?」
アシュレイはボーマンの気持ちに
気が付いていたという事だ。

「判ってるだろ?僕は・・僕達はそれじゃ不自然だ」
「お、男同士だからか?」
「そう。草木を見たってどの自然を見たって、
雌雄の結びつきがセオリーだ。僕は自分が許せない」
と、いう事は
アシュレイもボーマンへ気持ちはあるってことなのか?
「ンなこといっても、
思いはどうにもなんねえじゃねえかよ?
聖人君子じゃあるまいし、
こんな思い方しなきゃなんないって
定めたとおりに心が動いてゆくかよ?」
アシュレイはボーマンの言葉を聞きながら
困ったような切ない顔になった。
「ボーマン・・・否定しないんだ?」
「あーん?」
アシュレイは泣崩れそうな顔になっている。
「どんなに、つらかったか。
君がほかの奴ラの所にいっちまうときでも
僕は自分の気持ちをおさえこんできた。
それでも君が本気じゃないってわかっていたから
笑っていられたよ。
でもステラといるのを見た時、
僕は胸の中が煮え繰り返った」
「あ?」
「だろ!?君は君の恋を誤魔化している。
ステラに僕を同化させて
ステラで自分を誤魔化そうとしている。
そんな恋が本気なわけがない。
でも・・僕は君をうけとめない。
そんな僕に君を責める権利はない」
「いつから気がついていたんだよ?
ェ!?お前。いつから俺のこと」
「はじめから・・・。であった最初から・・」
「な?なんで・・」
「だまっていたって?」
ボーマンは軽くうなづいたけど
アシュレイのいいたい事は見えていた。
『不自然。いや、もっと肯定的に
アシュレイは(無理)な生き方だと考えていたんだ』
「俺、お前をきりくずしたりしねえだろ?」
「判ってるよ。判ってるから・・・・」
そんなボーマンだからこそ
なおアシュレイも本気になっちまったてことだったんだろう。
「俺、どうすりゃあいい?」
蛇の生殺しじゃないが、
ボーマンにとってはもっと辛い局面を迎えてしまった。
「いつか、いいこがあらわれるさ。
そん時は君も年貢のおさめどきだ。
僕も君にハッピイーウェディングっていってやるよ」
「ばかやろう・・・」
アシュレイの決心は固い。
ボーマンへの気持ちを認めても
その心通りには生きていこうとはしない。
「んでも。
ステラが俺の惑星になれるかもしんねえ理由だろ?
お前のいうとおりどんな女にでもなるなら、あいつが・・」
「否定はしないよ。でも順序がちがう。
君がステラの周りを巡る惑星になれるなら」
『今の俺はステラまでなくしちまいたくねえだけだ』
口に出せない呟きを胸の奥にしまいこんで
ボーマンはアシュレイを覗き込んだ。
「ェ!?俺をふっちめえやがって
後で後悔したってしらねえぞ」
「後悔してるよ。でも・・・僕はもっと後悔したくない」
「くそばかが・・・」
落ちてきそうな涙を堪えて
ボーマンはアシュレイの背中にまわると
「一度だけだ。これっきり、最初で最後だ。
この3年間の精算にしちゃ・・すくなすぎるけどな」
そういうとボーマンはアシュレイを抱きしめた。
「ボーマン。僕には充分だ。
どうしょうもない後悔で自分をせめさせてくれるなよ」
「?・・・」
「なんで、女にうまれてこなかったんだろうってね」
「俺はお前が男だろうが女だろうがどっちでもいいさ。
お前が俺とは友情で結ばれていたいって思ってんなら
俺はそうする。失せろというなら・・そうする・・」
「ボーマン・・・。僕を惑星にしちゃいけないんだよ」
「だよな。し方ねえ。俺のダチにしといてやらあ」
アシュレイの肩口に
ボーマンの泪が伝い落ちるのを
ボーマンは止める事が出来なかった。

それから二人の出した報告論文は
その年の優秀論文の候補として
大学の保管庫にしまわれることになったのである。
普段通りに授業を受け
普段通りにボ―マンとアシュレイは話しをしている。
時折ボーマンの切なそうな顔を見つけると
アシュレイは軽く苦笑して見せた。
ボーマンもこれで良いんだって考える様にしている。
何もなくしたわけじゃない。
考え様によっては踏ん切りがついたのであり
アシュレイにとっても生き方をかえずにすんだうえ
友情までをも失わずにすんだという事なのである。

放課後になるとボーマンはよく一人で
ステラのところに向かった。
「ステラんとこ、いってくるわ」
アシュレイにそういうと
「僕にいちいちことわりをいれなくていいよ」
「ん・・んでもな」
『君が僕をステラに重ねてなければいいんだ』
そんなふうにアシュレイの瞳が語りかけて来る。
「んじゃな」
ボーマンがステラんちの前まで来ると、
2階の窓縁に腰をおろして外を見ていたステラが
ボーマンに気が付いた。
「あがってきてよ」
「いいのか?」
「うん」
鍵の空けっぱなしのドアを開いて
ボーマンは2階のステラの部屋に上がって行った。
「なんだか、元気ないね?」
「んなことねえよ」
「そっかな?」
上がって来たボーマンの顔色を
ステラはいつも気にかけている。
ここしばらく逢う度に同じ会話から
二人が話し始めている事を
別段気に、とめないでいたけど
確かにボーマンが何となく元気がないのは嘘じゃない。
けど今日は少しだけボーマンが違っていた。
ここしばらく考えていた事を
ボーマンが、はっきり決意として口に出そうと
決めていたせいだろうと思う。
「あんなあ」
「ん?」
口篭もるボーマンを促がす優しい瞳が向けられると
ボーマンは一気に
「なあ、お前今十三だよな?
後、三年いや、おまえがシニアスクール卒業したら
俺と一緒になんねえか?」
「え?」
びっくりしたようなステラの瞳が大きく見開かれ、
ボーマンを見詰めたまま、わななくと
瞳が潤みだして大きな涙がぽたりと落ちた。
「うん、うん・・」
って、ステラは頷いた。
「俺、おまえとのこと・・まじに考えていきてえんだ」
ボーマンがアシュレイに対して見せられる誠意は
こんな形でしか実行できないんだって事を
ボーマンが知らされた日から
ボーマンはずうううっと考えていたんだ。
アシュレイの言う様に
ステラの事を諦めちまったら、捨てちまったら
それはボーマンにとっては
アシュレイへの思慕さえも否定するように思えていたんだ。アシュレイへの思いを貫きとおす為にも
ボーマンはこんな形の決意を考えついたんだ。
だけど。
結局それもボーマンが
やっぱりアシュレイとステラを重ね合わせているに
過ぎないことにボーマンは気が付いていなかったんだ。
それに気が付かされる時は
すぐそこまで来ていたんだけど
ボーマンがそんなことが判る訳もなく
今は只泪ぐんだステラを愛しい人として
しっかり胸の中にくるんだボーマンだった。

夏が来るまで
ボーマンとアシュレイのぎこちない調子が続いていた。
ステラに対してはアシュレイとの約束を守って
指一本ふれてなかった。
あっと、ちょこっとだけ
小さなキスくらいはしちゃったボーマンだったけど、
嫁サンに貰うまでこれ以上は
なーんもしねえって変な決心をしていたボーマンだった。

そんなある日。
幾ら待ってもアシュレイが講座に顔を出さなかった。
珍しく病気かよ?
そんな事を思いながらボーマンは
いつものカフエテラスの窓縁の席に座って
ステラがスクールから帰って来るのを待っていた。
30分も座っていただろうか。
読んでいた本の上に軽く人影が差しこんだ気がして
顔を上げたらそこにステラが立っていた。
「やほ」
「おう」
「なんか・・元気ないよ」
「あ、いや。アシュの奴こなかったから、
ちょっときになってな」
「あ、あの?ああ?ボーマン。何もきいてないんだ?」
「何もって、なんがだよ?」
俯いたステラの顔を覗きこむボーマンに気が付くとステラは、
「あ・・。家においでよ。そこで話すよ。
私もショックだったんだよね」
「な!?なんだよ?なんかあったのかよ?」
なんだか、ろくでもない予感を引きずりながら
ステラの家に付いて行ったボーマンが
そこできかされたことは、
私もショックだったというステラを
慰めている所の騒ぎでは無くなってしまった。
ステラが話し出した事にまずボーマンは
「それが・・・なんだっていうんだ?」
って、ききかえした。ステラはまず最初に
「西イーリアで戦争が勃発したっていうニュースは
知っているよね?」
と、ボーマンに尋ねた。
それがなんだってアシュレイと関係があんだよ?
そう聴き返そうとしたボーマンは
ステラの顔色の悪さにアシュレイに関係あんだな、
と、直感したんだ。
「あ、あのね、アシュレイが志願するっていいだして」
「へ?」
志願するって、
つまり、
戦争にいく?
参加する?
誰かを殺しにいくけど、
へたすりゃあ自分が殺されちまう・・・そ、
「ば・・か、うそ・・」
からかってんじゃねえだろうな?
聞き返そうとしたボーマンはステラの顔をみて
その言葉を飲みこんだ。
途端、ボーマンは、ステラの家をとびだし
アシュレイの家に向かって走り出した。
息を飲みこめないかと思うほど
大きな動悸が胸の中で鳴っている。
『嘘だろ!?嘘だろ?なんで?
お前がいかなきゃなんねえんだよ。
なんで、俺に一言の相談もなしに
そんな事をきめちまうんだ?』
震える指先でボーマンは
たどり着いたアシュレイの家の呼び鈴を鳴らした。
『いねえのかよ?いってくるよも言わずに・・・。
気が付いたときにゃ、顔一つもみねえままさよならかよ?え?ありかよ?アシュ・・』
呆然としたままボーマンはドアの前で突っ立っていた。
ノブの音が軽くカチャリと鳴ると
開かれたドアの中にはアシュレイが立っていた。
「やあ・・来ると思ってたよ。ステラから、きいたんだろ?」
ひどくさっぱりした顔でアシュレイはボーマンを迎え入れた。
「ちょうどいいところにきてくれたよ。
渡したい物があったんだ。
今日、あそこ・・ほら、あの翁草をとりにいってきたんだ」
戦争にいくなんてまるで嘘みたいなアシュレイの話し振りに、ボーマンは自分が
変なトリップをしたのか!?夢でもみたのか?と考えていた。が・・・・。
「一緒にとりにいけなくなっちゃったし、
コイツとも約束だったし・・・」
嘘じゃねえんだ。
トリップじゃねえんだ。
夢じゃねえんだ。
ボーマンは現実を受け止めるしかなかった。
「い・・いつ・・いつ、いくんだ?」
「明日・・・。午後の便で」
あまりにもはやすぎる展開に
ボーマンは事実を認める間もない。
なのに次々と新しい事実をつきつけられている。
「な・・なんで・・」
なんで俺に一言も相談せずに決めた!?
なんでそんなとこにいかなきゃなんない?
なんでおまえがいかなきゃなんない!?
ボーマンの頭の中には
色んな疑問と葛藤がうずまいていたが
どの言葉を先にだすことよりも、
アシュレイの人生はアシュレイのものであり
ボーマンがとやかくいう必要も権利もないんだ、
と、ボーマンに悟らすほど
アシュレイの決意は固くその表情の中の瞳の色は
不思議なほどに充実した光をおびていていた。
「だけど・・だけど。なんで、おまえがいかなきゃなんない?」
やっと出したボーマンの言葉はその一言だった。
「皆がそういったら?
皆がなんで俺が祖国をまもんなきゃいけないんだ?
そう言ったら?
誰がこの国をまもる?
僕は祖国を持たない流離人になりさがる。
国があって人がいる。
人がいて愛があって・・・。
そして幸せな生活がある。
根本の思いをなくして
人を救う小手先の薬学者がなにを救える?」
「・・・・・・・」
「ボーマン。
僕がそこまでしてこの国をまもっていきたいのは
この国に君がいるからかもしれない。
この国で君にいつかハッピーウェディングを
迎えさせるのが・・・僕の君への誠意、なぁ~~んちゃって」
冗談めかしてしまったアシュレイだったけど、
あるいはアシュレイなりの
けじめの付け方だったのかもしれない。
「・・アシュ」
「ステラといきてゆくつもりなんだろ?」
だったら僕をひきとめるな。
お前が巡る惑星はステラだろ!?
それを見せてみろ!
それがほんとうに僕を幸にしてくれる手段だよ。
腹のそこに、
そんなアシュレイの声が響いた気がしたボーマンだった。
「ば、ばか言ってら。
お前の話しを聞いてると
まるで死ににいく奴みてえじゃねえかよ。
ェ!?俺はお前がどうしょうが、こうしょうが、
ステラを巡って行くさ」
「ありがとう。でも、ボーマン。
君が幸せならその相手はステラじゃなくてもいいんだ」
「ちっ、まだ・・いってら」
既にアシュレイは
この先に来るステラとボーマンの別離を予測していたのだ。けれどアシュレイは
もう、ボーマンに何もいおうとしなかった。
ボーマンに最初に言ったように
ボーマンの恋という病気は
ステラという治療薬では治せない。
それは例えて言えばモルヒネように
痛みを忘れさせ
副作用で軽く甘い陶酔を与えてくれてはいるけれど、
けして病気自体が治っている訳じゃない。
アシュレイはそこに気がついている。
ボーマンだってそんな事くらい判りそうな筈なのに、
恋をなくしている痛みを感じさせないモルヒネを
手放せなくなっている。
その上それにステラへの恋であるという正当な理由をつけて、自分でもその理論を信じているものだから、
それが実はモルヒネである事を認められずにいるのだ。
だけど考えて見れば
ボーマンの惑星にならないと決めたアシュレイのせいで
ステラがモルヒネにされているんだって事であれば、
ただ、ただ、祈るしかないアシュレイなのである。
ボーマンが本当にステラの事を恋にしてくれる前に
ステラがアシュレイの替わりとして
擁かれるような哀しい事になってしまったら、
多分一生ボーマンはアシュレイに対して
責任を負う形でステラと暮らして行くだろう。
そして、
そのうちどこかで傀儡でしかなかったステラへの思いに
ボーマンが苦しんでゆく。
だからこそ、本ものになるまで
ステラをだいたりしちゃいけない。
アシュレイは自分がボーマンの傍にいるからなおのこと、
ボーマンがモルヒネがほしくなるんじゃないのだろうか?
って、ことも考えた。
全然別の道を歩む、
御互い別個の人間でしかなかったんだって
ボーマンのなかでいつまでもけりがつかないんだ。
自分がボーマンとしっかり決別しない限り
また、ステラもいつまでたっても
ボーマンのモルヒネでしかない。
アシュレイと決別できて
ステラを一個性の女性として
見詰められるか見詰められないかは
ボーマン次第なんだろうけど、
そのためにはアシュレイ自体が
ボーマンを吹っ切るしかないって考えていた。
そんな時にこの戦争が勃発した。
不思議なほど素直にアシュレイはいこうと思った。

僕は男だって、
男なら何よりも恋よりも自分よりも家族よりも、
国を祖国をまもりたいと、
本当に何故かわかんないけど素直にそう思った。
多分それは自然な気持ちなんだろう。
何の迷いもなく、
死ぬかもしんないって思うのに
やっぱりいこうって思ってしまったんだ。
そうなってしまったら、
自分にとってもボーマンにとってもステラにとっても
何もかもを変転できるよいチャンスまで
ついでについてきちやったって感じだった。
心機一転と言うのはこんな事なのかもしれない。
戦争から帰って来たら僕も恋をしよう。
一生を委ねられる可愛い彼女と巡り会おう。
そんな事をアシュレイは思った。
僕が守った祖国に根付いて
その土地に生まれた彼女と
その土地で暮らし、子供をもうけ育み
そして老いさらばえ、やがて、祖国の土に返る。
ボーマン・・・きみも同じ。
巡り会った人を大切にして
その人がいなきゃ生きて行けないくらいな恋をして
彼女と暮らせて行けるこの祖国がある事を
感謝できるくらいにしあわせに・・・。

「翁草の成分抽出・・・頼めるよね?」
俯いたボーマンが子供の様に思える。
父さん御仕事ばっかであそんでくんない。
そんな風に言いたいのに、いっちゃあいけないから
少し不貞腐れて小石でも蹴り上げて見せる。
そんな息子に
「でも父さんはそれでも仕事いくんだ」って言ったら、
きっと子供はうなづくんだろうな。
「あ、ああ。わかった」
「ステラもね。あのこはほんとうにいいこだよ」
「ん・・」
「らしくないよ!?
いつもならわかってるって煩そうに返事するくせに・・・」
「俺・・・」
「ボーマン。君とであえてよかったと思ってるよ」
「アシュ・・・」
「ん。じゃあ、元気でね。単位おとすなよ。
君の方が薬学にむいているっていつも、おもってたんだ。
本当だよ」
「か・・帰ってこいよ」
「当り前だろ。
ハッピイウェディングって言わなきゃなんないんだよ」
「は、当分さきだぜ。それまで戦争やってるつもりかよ・・・」
「あはは。手の早いボーマンがあ?
出来ちゃった結婚になんないって!?最高のジョークだ」
「ば、ばかやろ・・・」
「ボーマン。本物で、本気なら、それでいいんだ。
ステラでなくてもステラであっても君が本当に本気なら、
それだけわすれないでいておくれよね」
「わかった。ん。じゃあな」
ボーマンはそのまま外に出て行った。
とめられるものならどんなにしたってとめただろう。
でも、ボーマンにはそれが無理だって事が判ってしまった。かといって、ボーマンはアシュレイのような考え方で
自分も従軍する気にはなれなかった。
よほどついてゆこうかとも、思った。
けれどそれは国を守る為じゃない。
アシュレイの傍にいたいが為だ。
そんな動機のボーマンが
アシュレイの傍にいようとするには
アシュレイの志はあまりにも崇高すぎた。
俺が付いていっちまったらアシュレイの志を
ちゃちなものとして侮蔑しちまうことになるじゃねえか。
戦争をピクニック気分で考えてるみてえなもんだ。
それに俺にはできねえ。
死ぬかもしんねえって・・のに・・
ボーマンはこんなに悲しくて
おまけにどうしょうもなく
ちっぽけでつまんねえ自分に打ちのめされてもいた。
けれど同時にアシュレイって言う奴が
目先の惚れたはれたなんかじゃない
もっとでっかくて深い愛をもっている事に頭をたれていた。
「そんな、おまえだから、諦めきれねえんじゃねえかよ」
とんでもないほど遠くにいってしまうはずのアシュレイが
ボーマンの心のなかでもっと大きな存在として
一番ボーマンの心の近くにいついてしまったと、
ボーマンは感じていた。

次の日の午後。ボーマンはぼんやりと授業を聞いていた。
「今頃かな・・・・」
今頃アシュレイは出発して飛行機に乗って
ボーマンのいる空の下を見下ろしているだろうか?
俺はお前が守りたいって言った
この祖国でいきぬいていく。
なあ?それがお前がくれたプレゼントに答えることだよな?淋しげな顔がふっと窓の向こうの空の彼方をみあげたが
やがて、ボーマンはノートを取るために
きちんと前を向いて手を挙げた。
ボーマンの挙手に気がついた教授は
「なんだね!?ボーマン君」
と、たずねた。
「教授。さっきの所もう一度きかせてください」
早速ボーマンは用件を伝えた。
「ん!?説明が悪かったかね?」
「いえ、とんでもありません」
「どういうことかね?」
「きいていませんでした」
ムッとした顔が真顔に戻ると
「今日の講義はこれで終る。
このクラスで一番熱心で優秀な生徒が
聞く気にならないような授業だった事を反省する事にする」
教授が言放つと今日の講義の日程が
これですべて終えてしまった。
自分の招いた意外な結果にボーマンも虚を突かれていたが、そうなったら、し方がない。
ボーマンはふらりと外に歩き出した。
と、言ったって家に帰る気にもなれない。
ボーマンはとぼとぼと歩き出した。
いつもなら傍にいるアシュレイはいない。
ステラもこの時間だから、
まだスクールの授業の最中でしかない。
独りぼっちである事が
ボーマンにひどく重たくのしかかって来るように感じられた。
「たまんねえな・・・」
わかっているのにボーマンは
ふとアシュレイの姿を捜し求めている。
ひょっくり、眼の前の木の影から
ボーマンを待ち伏せしていたアシュレイが
とびだしてくるんじゃねえかって
ボーマンはつい思い込んでしまう。
「わけ、ねえよな」
こんなにもアシュレイが
ボーマンの心を占めている事を思い知らされるだけだった。

ぽつねんと一人座っているボーマンに
ここぞと粉をかけて来る奴がいた。
もの淋しさとぽっかり空いちまった物理的な傍らの空間を
意識したくなくて
ボーマンはそいつとの特別で特殊な時間を共有した。
「なんだよ?おわったら・・さっさとかえるのかよ?」
不服そうに言いながらも腕を絡めて来る相手に
ボーマンはにべない返事を返した。
「嫌なら、今回でおわり。もう・・あとはない」
「そ、そんなつもりでいったんじゃないよ。
ただ、もうすこし・・・」
「もう・・少し、なんだよ?」
「ね、もう一回・・・だめ?」
たいていの奴はこんな風にボーマンの虜になってしまう。
「ち、しかたがねえな」
妙な後腐れはごめんだけど、
なぜだかすっきりしてないボーマンも
今一度って気になってる。
「二度めは、せつなくなって、たまんないぜ、しらねえぞ」
ボーマンの動きにもう声を上げ始めた相手を
小気味よさそうに見詰めながら
ボーマンに訪れて来る一瞬の陶酔を追い求め始めた。
その瞬間がボーマンの全神経を快楽そのものにかえてくれる。何もない。
只ひたすら甘い陶酔がボーマンを酔わせてくれる。
「ああ・・いい、いっちまうぜ」
「あ・・や、まだ・・ね、ね」
だけど、ボーマンは相手の事を
道具としてしか考えちゃいない。
愛情もなければどうしょうもない独占欲もない。
いまはひたすら自分への至福の時を迎えたいだけでしかない。
それでも一層激しくなったボーマンの動きが止まる頃でも、相手はボーマンのいったとおり、
堪えきれない嗚咽を漏らし続けていた。
吐出しきっちまうと
やはり、ボーマンの中に淋しさがうずまきだしてくる。
くわえ煙草で服を着る頃には
今度は無性にステラに逢いにいこうって思い始めている。
身体の欲求がなんとか納まると
今度は心の欲求が頭を擡げているのに気がつかされた。
「ちっと、遅いかな」
呟いては見るが
ボーマンは思いついてしまった考えを
変える気にはならなかった。
灰皿の中に煙草をもみ消すとボーマンは外に出た。
背中からこんどはいつ逢えるって声がきこえたけど
ボーマンは返事もせずに歩み出した。
「ち、さっさと恋人きどりかよ」
ちとしつこさそうな相手だなと思うと
ボーマンは二度目はねえぜって呟いた。

ステラの家までやってくると
ボーマンは家人に迎え入れられた。
「ステラなら二階にいてよ」
と、青年の来訪の目的も判っていて、
かつ逢う事を快く承諾してくれる。
いや、むしろ勧めてくれていると言った方がいいだろう。
それもこれもアシュレイが
いかに絶大な信頼を寄せられているかを表わしている。
ボーマンだけを見たらどこの両親でもきっと、
夕刻すぎて女の子を訪ねてくる男の中の危険な匂いを
感じとることだろう。
それがボーマンでなくたって
「明日。出直してらっしゃい」
って、事ぐらいはいうだろう。
が、そこがアシュレイという存在のすごさだ。
アシュレイの友人であるボーマンならば
仮に娘といい仲になったとしても
むしろ望む所だとまで両親に思わせちまっていたに違いない。その証拠に二階に上がった
ボーマンの様子を見に来る事さえしなかったのである。
「よお」
「あ・・」
ほんの少しボーマンは照れている。
どっちかと言うとクールで自分から
女の子なんか追いかけまわすようなボーマンじゃない。
それが矢も立ても堪らなくなって
ステラの前に立っちまっているんだから、
なんだかバツがわるい。
「どしたの?」
机に向って座っていたステラが立ちあがって
ボーマンの側に寄って来ると
ひょいとボーマンを覗き込んだ。
「珍しいよね。でも・・うれしい」
ちょっと臥せ目勝ちになったステラがひどく色っぽい。
おまけにボーマンの今の気持ち。

「別に、なんでもねえよ」
と、いったボーマンの腕がステラを捕え
思いきり抱き締めていた。
細こくってそのくせ丸みのある
やわらかな少女の体がボーマンの腕の中にある。
『ちきしょー・・・やりてえ・・・』
たった今。
連チャンですませて来たはずのボーマンの中で
心も体も重なったセックスを求める気持ちがわいてきている。心の重ならないセックスなんてのを
いくらやってもボーマンを満足させるはずがない。
その証拠が今のボーマンだ。
ズボンの中でひどく存在を誇張している物には
それが当のボーマンより先によく判っているって事だった。
「ボーマン・・好きよ・・・大好きよ」
うっとりした声がボーマンのステラへの気持ちに答え、
なだらかに撫でるようにボーマンの胸の辺りで繰返され、
ボーマンにはステラの小さな息がひどく熱く感じられた。
『いけねえ・・・まだ、はやいぜ』
ボーマンは抑えきれない欲情を少しだけ解放したかった。
つもりだった。
胸の中に顔を埋めてるステラの顎の辺りに
手を差し延べるとボーマンの方に向けた。
そっとそのまま愛しいキスを交わそうとしたボーマンが
息を飲んだ。
そこにいたのは・・・・アシュレイ?
『アシュ・・・』
の、わけがない。
だが蒼い瞳を閉じたステラの顔は
そのまんまアシュレイだった。
それがボーマンを狂わせた。
どんなにしたって手に入らない。
そんなアシュレイへの狂おしいほどの激情が
一気に堰をのりこえて
ボーマンの心をがんじがらめにして行く様だった。
『アシュ・・・』
心の呟きをボーマンは塗り替えた。
「ステラ・・・愛してるんだ」
アシュレイに向けた思いをそのままステラに重ね合わせて
ボーマンは思いの丈をステラにぶつけ始めていた。
だから、もう、ボーマンを止める事は出来なかった。

ステラの体を抱きかかえると
ボーマンはスデラをベッドに横たえた。
ステラを覗き込んで、
ボーマンはスデラの唇をそっと指で撫ぜると
「俺のもんだ」
って、言ってステラの唇をボーマンの唇で塞いで行った。
ボーマンの舌が初めてステラの中に割り込んでゆく。
「ん・・」
入ってきた生温かい舌の感触に
ステラは少し驚いた様だったが、
じっとボーマンを受けとめていた。
いやと言うほどの舌での愛撫を繰り返しながら
ボーマンの手はステラのTシャツの中にさしこまれ
ブラの隙間を抉る様にしてステラの胸をまさぐり始めた。
「あ・・・」
ステラの中を走った感覚に堪えきれず小さな声がもれた。
その声に唇を離すとボーマンは
「気持ちいいかよ?」
って、尋ねた。
目を閉じたまま、ステラは小さく頷いて
自分の中に生まれた感覚を恥じる様に
体を横に向けようとした。
「・・・だめだって」
横を向こうとしたステラをボーマンは抑えつけて
Tシャツを捲り上げた。
「俺のもんだって事、お前・・・わかってねえだろ?」
ステラの白い肌があらわになっている。
ボーマンは小器用にステラのブラのホックを外しちまった。ステラの二つの丸いふくらみを曝け出すと
ボーマンはその突起の先を指でクルリと撫ぜた。
「あ・・」
次々と与えられる体の中を走る電撃の快さに、
初めての衝撃の大きさに、
ステラも逆らう事が出来ず
只じっとボーマンに味あわされているしかなかった。
「これも、俺のもんだ。だろ!?もっと、わからせてやる」
ボーマンはステラの胸を両手で揉み上げ、
双の乳房を持ち上げるようにした途端。
それにに舌を這わせていった。
尖った先端をボーマンは吸い上げ、
舌で転がしながら余った片一方の乳房の先端を
手の平で転がしながら指先で摘み上げた。
「あ・・あ・・ボーマン」
ステラの声がボーマンに快感のあまやかな事をおしえている。思ったより大人の体になっている少女に
ボーマンも夢中になっていた。
良いほどステラを享楽の中に落としこんでしまえば
ステラもその快感に逆らう事さえ出来ず
その快感に身をゆだねてしまう。
それがボーマンに全てを与えてしまうという結果を
自分が選び取った事になるとは考え及びもしなかった。
ボーマンの手は遠慮なく次の段階を求め始めていた。
ステラの足先からそれは除除に始まり
なで上げ刷り上げる手の動きが
ステラの太ももを触り始めると、
ボーマンは再びステラの胸から唇を離しステラの唇を塞いだ。そうしておいてボーマンの指先は
ステラの下着の中を弄りだし、
かすかに潤みだした場所にたどりつくと、
潤みを指に絡めてステラのコアにピタリと指を押し当てた。
やがてボーマンがステラの唇を塞いだ訳に納得するような、
ステラの切ない声が、激しいボーマンの指の動きに応え、
漏れ出して来た。
遠慮会釈ない、いきなりのハードぺッティングを
まともなキスさえ知らなかったステラに与え、
ステラ自身に女であることを
かくも、一遍に教え込まなくても良いじゃないか、
と思うほどボーマンの今日の遣り口はてひどい。
『おまえが、俺の最後の女になるんだぜ。
お前が俺を奪うんだ。なにもかも、俺のものになんなきゃ、
ゆるせねえ』
何時の間にかステラの下着はむしりとられ
短いスカートはたくし上げられその両足の付け根あたりに
ボーマンは顔を埋めている。
指先で女が一番脆く崩れてしまう場所をなでまわしながら
ボーマンはステラの部分をみつめている。
『ここが、俺を迎え入れたくなるスィッチ。
ェ!?ステラ、俺はもう、スイッチをいれちまったんだぜ。
お前のプシイがまだ女じゃなくたって
俺のロケットがおまえとドッキングしたいって
もう、いうこときかねえんだ』
ボーマンは自分のロケットに語りかけた。
『まってろよ。今。恋しいプシイにあわせてやっから』
ボーマンほど遊びなれてると、
逆に初めての女の子ほど厄介な代物はない。
さっきまで喘ぎに身を委ねていた女の子が
ロケットの挿入に苦痛を訴ったえだしはじめる。
そんな事さえきにならない程
抑えきれない欲情に突き動かされて、
やっちまうって事を何度か経験すると
適度に欲望のコントロールができ始めてくる。
さらにその声を聞きながら
痛め尽くす嗜虐的段階もすぎてしまうと、
よほど情が移った相手でもない限り
泣き叫ぶような苦痛を与えてまで
セックスする気にはなれなくなったボーマンであった。
「初手はごめんだぜ」
そういったボーマンが今、ステラを望んでいる。
軽くステラの口元を押さえ声を漏らす事を
牽制していたボーマンが
軽いコアへの愛撫を止めないまま
ステラの耳元まで顔を寄せる様に延び上がって行った。
「ステラ・・・」
「ん・・ん?」
「いいな?」
「ん?・・・うん」
ナニが起きるのか。
ボーマンが何を望んでいるのか。
ステラだって頭じゃ判ってる。
でも、その事は・・・
「気が遠くなるほど、つれえんだぞ」
ましてや十三歳。
おまけに身も心も馴らして行く段階も踏まず
いきなり本番。
ちっとやそっとの痛みじゃねえって事は
ボーマンには想像がつく。
かといってボーマン。
ステラがいやだって言ったらやめる気あんだろうか?
『やめれるわけねえだろうが、今更。
もう、だめだぜ。ェ!?いやだなんていわせやしねえよ』
と、ボーマンはこたえることだろう。
だったらステラに聞く必要もない気がすんだけど
ボーマンの持論はこうだ。
「俺はセックスしてえんだ。
アンタの言ってる事は、そりゃあファックだぜ」
さいですか!?
どう違うかしんないけど、
そんな議論は又今度ってことにして
場面を改めてステラの所に戻そう。

「俺のわがままだよ」
そんな事いいながら
ボーマンはステラへの愛撫をゆるめようとはしない。
心地良い最中に何言われたって
その愛撫をくれる相手の思うが侭でしかない。
それくらい汚い手をつかうボーマンが
絶対ステラにボーマンロケットを
味あわせてやる覚悟でいるのは良く判るのである。
が・・・。
汚い手といっても
もっぱら世の中の男の常套手段であるから
くれぐれもこれをお読みの女性諸君。
甘い吐息に負けてトーンでもない男に
「記憶」をうえつけられないようにね。
記憶は一生残っちまうぜ。

ボーマンはゆっくりステラの中に指をいれ込んだ。
「な、こんなふうに・・俺の・・・」
ステラは黙りこくってしまった。
その場所にはさっきみたいな強い快感はない。
その分、意識が覚醒され
ステラはどうしょうもないほど、
恥ずかしい場所に指を入れられてるんだって思わされ、
かあーと血が昇るような気がした。
「いや・・や」
やめてという前にボーマンが
「ステラ・・お前のここ、最高だぜ・・いい女だ」
ステラに切なさそうに囁いた。
ことわっておくがこれは常套文句なんかじゃない。
いや、つまり、ステラへの評価であるわけだけど・・・。

好きな男の切なそうな声を聞けば
誰だってなんとかしてやりたくなる。
ステラもやっぱり覚悟をきめかけはじめていた。
そんな態度をみせられれば
女って生き物はやっぱり受けてしまおう
って、考えてしまうのをボーマンはよくわかってる。
少し迷ってるステラの心を見抜くと
ボーマンは自分のロケットにステラの手を導いた。
「コンな大きいのがはいっちまうんだ・・・」
怖々と引っこめそうになる手をおさえつけて
ステラの手にボーマンのロケットを握らせた。
ステラの頭の中は得体の知れない物体の感触で
まともな思考も判断もできなくなってしまっている。
「かなり・・つらいぞ」
ボーマンはもう一度ステラに確かめた。
何時の間にかステラは最後の行為を向える事を
了承した事になっている。
避けられないことへの恐れでステラは更に黙り込んだ。
ボーマンはそれを察すると
「俺の我が侭だ・・ステラ。
嫌ならこんなことしなくていいんだ」
いやなわけじゃない。
ただ、怖い気がするステラだった。
「あ、あの、あの・・こんなことしなきゃだめなの?」
ボーマンは首を振った。
しなくても良いとも、
しなきゃなんネエとも言ってるように取れた。
そのボーマンの顔色がひどくさみしそうにみえた。
ボーマンはステラに掴ませていた物を
更にしっかりにぎりしめさせると
「男ってやつはしかたねえんだ。ここで確かめてえんだ。
ここでお前を俺だけの物にできるんだ」
「ん・・・」
ステラの瞳からぽろりと涙が落ちていた。
こんなにまでボーマンに望まれているのに
何を恐れる必要があるのだろうか?
「ボーマン。ボーマンの望むとおりにして」
この瞬間にステラが女になったんだ。
そしてボーマンの女になるための・・・、
ボーマンの物になるための儀式をむかえる。

夜おそくなってボーマンはステラの家を出た。
手にはなんだろう!?
袋をもっている。
ボーマンとの一線を越えてしまったステラは
ボーマンにこういわれた。
「な、俺が大学卒業して、くえるようになったら
お前は俺の嫁さんになるんだぞ・・いいな?」
「ん・・」
ボーマンの大きな胸の中に包まれてるだけでも、
充分幸せなステラだったのに
ボーマンはやっぱし以前に
ステラに言った事をくりかえしてくれる。
「俺。お前のバージン。
それまで取っとくつもりだったんだ」
「ん・・・」
ボーマンなりにステラの事を
真剣に考えているのは嘘じゃない。
「けど・・・。もう、遠慮しねえ」
「うん」
「俺にゃあ、おまえしかいねえんだぞ」
「ん・・」
「つらかったろ?ん?な、ステラ・・俺」
『ありがとう』
って、言葉がボーマンには言い出せなかった。
一生懸命ボーマンを受けとめたステラがいじらしくて
そんな言葉なんかいったらひどくちゃちになりそうだった。
「あんまし、おそくまでいると、
御袋さん達に睨まれてきずらくなるから、今日はかえるな」
朝までだって一緒にいて
ずっとステラを感じていたいボーマンだったけど
先の事を考えると適切な考慮だといえよう。
裸のままのステラをしっかり抱き締めて、
ボーマンはすくっと立ち上がった。
そのとたん。気がついた。
「あちゃ・・・」
初めての印がそこにあるのは当然だったけど、
これがステラの御袋さんにでも見咎められたら。
「もって帰ってやらあ」
「あ・・・」
今までの自分じゃなくなった証拠が、
ボーマンの物になった証拠が、
くっきりとステラの目に映った。
なくしてしまった子供の時間が
そこで哀しいよとないているようにもおもえた。
ボーマンはそんなステラの喪失感にきがついた。
「あいしているよ」
ボーマンの声にステラはハッと顔を上げた。
そこにはなくした物と引き換えに手に入れた愛が溢れていた。
「ボーマン」
「記念に大事にとっといてやらあ」
「ェ?や、やだ・・・」
「何で?お前が、俺のもんになっただいじな証拠だぜ」
「それがないと証拠になんない?」
ステラの言葉にボーマンはわらってみせた。
「ステラ。その答えはまた・・・こんどな」
「なに?それ?」
少し剥れて見せたステラだったけど、
その賢い頭でボーマンの言いたい事の意味を直ぐに悟った。
悟った途端ステラは赤くなって俯いてしまった。
つまり、
ボーマンのいう答えとは、俺のものだって事の確認作業。
つまりステラとのHを指してる。
量らずもステラは次のHを催促してしまったってことになる。だから赤くなってしまったのだ。

ステラを特別な女性にしたてあげちまったボーマンは
それからと言うものはわき目も振らず
粉をかけて来るあまたの男女の誘いを見事にけちらして
ステラの元に通い詰めていた。
ステラといる間
アシュレイのいなくなった空白感を感じさせられる事は
一切なくなっていた。
それがどう言う事なのかをボーマンは考える事はなかった。只只夢中でボーマンはステラを抱いた。
「ん・・・」
「まだ、いてえか?」
「大丈夫だよ・・・」
「ん、無理すんなよ」
無理すんなっていってる口の下から
ボーマンは容赦なく激しく動き出している。
「あ、ああ・・ステラ。ステラ・・ステラ・・」
ボーマンを襲う、たまらない絶頂感は
ステラが相手だからこそだろう。
こんな高みを与えてくれるステラの所に
ボーマンは毎日の様に訪れ
毎日のように最後の行為に及んでいる。
ステラの感覚が急激に大人の女になってくるほど
ボーマンはステラに対してやりたい放題のセックスを求めた。ステラの手答えを求めずにおれなかったのだろうけど
十三歳の女の子に
遊びなれたボーマンのセックスを教え込んでしまったのは
後から考えれば随分酷な事だったんだ。
無論ボーマンしか知らないステラが
そんな事に気が付くのはずいぶん後の事で
ステラもこれがセックスだってくらいの感覚でしか
受けとめてないわけで
ボーマンの求めにステラも必死で答えていたに過ぎなかった。

秋を向える頃にはステラもひどく女びて
それが尚更ボーマンを夢中にさせていた。
「戦争はまだ・・おわんねえな」
「あ・・んんん」
ボーマンの膝に後ろ向きで抱かれる格好で
ステラはボーマンにあえがされている。
首筋をボーマンは舐めあげて行くし
後ろから回したボーマンの手が
ステラの乳房をふたつともいじくりまわしている。
時折鋭くつまみあげられるせいで
ステラの体の中には鋭い快感がはしる。
「あ・・・」
思わず上げた声に刺激されるのか
ボーマンもここぞとばかりにプシイの中への
ロケットの動きを早めて行く。
「ボー・・ボーマン、止めて、ア、なんかへん、あ、や・・」
プシイが一つの感覚を覚え始めたその瞬間を
ボーマンがのがすわけがない。
感覚までがボーマンの物になってきたステラを
ボーマンはその動きを止める事なく見詰めていた。

そんなある日。
二つの事件があった。
一つはアシュレイのニュース。
これもステラからもたらされた。
薬学科に在籍という事実がアシュレイの所属を
医療班に位置かえさせることになったと言う事であった。
そこなら敵もこねえ。
医療班への攻撃は国際条約にひっかかる事であり
全世界を敵に回すような行為である。
と、なると・・・。
よし。後は戦争が終るのを待って
かえってきたアシュレイにステラとの事を報告する。
どういうふうに言おうか?
アシュレイが必死で戦争してるのを尻目に
ステラをボーマンの小猫にしちまったんだなんて、
ちっといいつらいことではある。
けど、判るか?アシュレイ。
ステラとのあの瞬間がどんなに甘美なものか。
じーんとくるようなステラとの事に思いを馳せていると
ボーマンの物がうずいてくるようだった。
「ち、今日は俺んとこにくるっていってたんだよな」
そろそろ家にかえってステラを待ってるかな
と、ボーマンはカフエを出た。
「なんだよ」
大学の講座が午前中で終えてしまったボーマンは
ステラがスクールから帰って来るまでの時間を潰していた。そのボーマンの目に映ったのはステラの同級生か?
ステラより幾分背の高い男の子がステラに寄り添っていた。二人は歩きながら何かのカタログをのぞきこんでいる。
ボーマンはズッと二人の側に歩んで行った。
ステラが楽しげに少年を見上げた目がボーマンをみつけた。が、ボーマンがステラにかけた言葉は既に怒気を含んでいた。
「ステラ?そいつ・・なんだ?」
「ア?あの・・」
単なる同級生でしかない。
来るべき創立祭でのクラスの出し物が決まって
その実行委員になった二人が必要な物を取り寄せる
打ち合わせをしながら歩いてきていたのにすぎない。
少なくともステラにはそれだけであったが・・・。
ボーマンが少年の目の中にある
ステラへの特別な感情を見ぬいてしまっていた。
いくつも下の少年に側から見れば可笑しいほど
ボーマンは嫉妬している。
が、ボーマンにして見れば
ステラはいくつも下の女の子なんかじゃない。
ボーマンの指先一つに喘ぐ事を知っている(女)なのだ。
その(女)である部分をみぬいて
少年が惹かれているのは間違いなかった。
「いくぞ・・」
「あ、うん。あ、じゃあ・・あしたね」
ステラは少年に手をふると、
ボーマンのご機嫌を確かめる様に腕を絡ませた。
「なんだよ、随分嬉しそうな顔してたじゃねえかよ」
どうやらボーマンの焼きもちだったとわかると
ステラも少しホッとしてた。
「あは・・うれしい」
「あーん?なんがだよ」
「だって、それ、やきもちでしょ?」
「ば・・ばかやろ」
なんて道々歩いてるボーマンは平気な顔をしていたけど
ボーマンの部屋に入った途端それは豹変した。
いきなりステラを抱き締めるとボーマンは
「おまえまで、どこにもいくなよ。
他の男なんかをみるなよ」
って、どうした事か。ひどくこだわってしまっている。
「ボーマン。変だよ。私、どこにもいきゃしないよ。
それにあの子のことなんか・・」
ステラの小さな肩にボーマンは額を押し当てていた。
そのボーマンの肩がかすかに震えている気がした。
『ボーマン・・・?』
「すまねェ。おまえまでなくしちまいそうに、
おもえちまって」
ボーマンはステラをみつめると
いつもの様にステラを求め出した。
その日のボーマンはひどくタフだった。
その上、行きつきそうになると間をあけて
頂点が登って来るのをじっとやりすごした。
わざと長い時間をかけてステラをはなそうとしない。
まるでボーマンのロケットだけが
ステラをつないでいるかのように
ロケットをぬいちまったら
これっきりになるんじゃないかと
惧れているにさえみえた。
「ボーマン・・・?」
こんなボーマンを置いて家に帰る事はできない。
ボーマンの気がすむまで側にいてあげるって決めると
ステラはボーマンの背中に手をまわした。
「愛していてよ。ボーマン・・・」
たった十三歳の少女を
こんなにも一途にさせてしまったボーマンは
「うん」
って、子供のようにうなずいていた。
ステラが渡してくれる愛情の御かげで
ボーマンも少し落ち着いて来た様だった。
だけど、ステラは気が付いてしまった。
『おまえまでなくしたくないって、ボーマンはそういった』
迂闊にいいわけをしたボーマンが
本音にかかわる事までをしゃべっちまっていた事に
ボーマン自身はきがついてはいない。
『誰をなくしてしまったっていうの?』
喉まで出かかったボーマンに聞いてみたい言葉を
ステラは呑み込んだ。
『おまえまでなくしたくない。そういってくれたんだもの。それにそれはもう、すんだことだよね?』
そうに違いない事だったけどステラははっとした。
この部屋に入ってきた途端にボーマンはステラをだきしめた。そして
『お前まで、どこかにいったりするな』っていったんだ。
どっかにいったのは誰・・?
「!・・・」
思い当たったその人にステラは愕然とした。
ボーマンはステラの胸に顔を埋めていたし
ステラはボーマンの髪を撫ぜながら
「私はここにいてよ。
何があっても私からボーマンの側をはなれることはないわ」
って、ささやいた。ふとステラを見上げたボーマンが
「うん」
って、子供みたいに返事すると
やっぱり子供みたいにステラにむしゃぶりついて甘えていた。
ステラはボーマンの安心した顔を見ながら
そっと後ろを振向いた。そこには鏡がある。
斜め後ろから鏡に映った自分の顔を見た
ステラは自分の確信を見届けただけにすぎなかった。
ボーマンはよくステラを膝の上に抱いた。
そうしておいてステラの背中から覗き込んでステラをみた。
「この角度からみるおまえが一番たまんねえな。
いろっぽくていいや」
って、ボーマンはいった。
『ボーマンのうそつき・・・』
ボーマンがたまんねえのも無理ない。
その角度だとステラの瞳がはっきりとはみえない。
そのせいでキレイなうなじの線と顎の線は
驚くほどアシュレイをおもいおこさせていたのだ。
アシュレイが前線にいってしまって
ボーマンがひどく元気をなくしたのは
友情ばかりのせいじゃなかったってことだったんだ。
『でも・・いい。ボーマンは私を選んでいる』
ここしばらくで深い関係を結んだ事が
ステラを勇気づけてくれていた。

結局、朝までボーマンはステラをだいたままだった。
朝ほんの少しうとうとした所をボーマンに起こされた。
「いこうぜ」
そこにはいつものボーマンの笑顔があった。
「いこうって?どこに」
「大事な娘さんをいただきますって・・。
もう、いわなきゃなんねえだろ?」
「あ、ボーマン?いいの?本当に私でいいの」
「アーン、なんいってんだよ。いまさら。
じゃなけりゃ・・手えつけたりしねえよ」
「ん」
「ま、なんだな。いただきますってのは嘘になるけどな」
「え?あ・・の」
本当はステラが欲しいってわけじゃないんだ。
ボーマンの心の底にすんでる人の名前がでてくるのかと
ステラは瞳をふせた。
「もう、とっくにいただいてますとはいえねえよな」
ステラの不安とは見当外れの事を言出したボーマンだった。
「ア、やだ・・ボーマン」
「やだってのは俺のほうだろうが」
「あ、あの・・」
だよね。
頂いちまった責任感で一緒になんかなりたくないよね。
ボーマンの愛情に自信をなくしかけてるステラに
不安が重たくのしかかる。
「ェ!?俺をこんなにしちまってよ」
「ん?」
「いくまえによ。な?ほしくなっちまっただろうが、
なんとかしてくれよ」
なんのことはない。
何とかしてくれなんて懇願して見せてるボーマンの手が
もうステラをつかまえて、ステラをなんとかしはじめてる。
「ボーマン・・あ、ん:・・いや」
ちっとも嫌じゃないくせに
ステラが拒むような言葉を出すと
ボーマンがますます必死になってしまうのは
どういうわけでしょ?
「嫌じゃ・・ねえだろ?」
「ん・・ん・・」
「俺のもんだろうが?
俺がこうしてやるのが一番いいんだろうが?だろ?」
朝から元気のいい若者の
こんな不埒な口説き文句もあったもんじゃないけど
確かにステラもこんなふうに
ボーマンの物にされてしまう事を喜んじまっていたんだから、どっちもどっちって事かもしれない。

それからボーマンはステラといっしょにステラの家にいった。ボーマンが案ずるより先にステラの両親は
とっくに二人の仲をさっしていた。
ボーマンは帰りがけに
ステラの御袋さんから小さな箱を渡された。
「あの?」
「ステラのこと、あなたのいうとおり
幾ら一緒になりたいっていってもまだ、はやいわよね?」
「あ・・すみません」
それが判っていながらボーマンのものにしちまったんだ。
謝る言葉しか出て来ないボーマンだった。
「あ、そんなことをとやかくいうつもりじゃないのよ」
「はい?」
「つまり・・それ・・そういうこと」
ステラの御袋さんはボーマンに手渡した箱を指差した。
「?あ・・あけてみていいですか?」
ボーマンは小箱をあけてみた。
「?・・あの」
小箱の中身は俗に言う、コンドームだった。
「あのね、あなたももう二十歳になる男の子だもの。
そう言う気持ちあって当然よね?
それに、そんなふうに気持ちにもなれない女の子となんか
一緒になろうなんて、
ましてや十三歳だもの、おもうわけないよね?」
「ア・・はい」
「あなたの中でステラは
充分に魅力的な大人の女性として思って貰えてるって事は
とても嬉しい事だし、
何よりもステラが一番喜んでる事だとは思うのよ」
「はあ・・」
「でもね。まだ、生活力もない状態で、
赤ちゃんができちゃったら、
あきらめなきゃなんなくなるよね?」
「ええ」
「そんな事で、
二人の心に傷をつくってしまうってこともあるわよね。
だから、あなたが気をつけてあげてほしいの」
「はい」
御袋さんが心配することはない。
ボーマンはそこらへんのとこでへまをやるほど
なれてない男じゃない。
けど、そんなこといえるわけはない。
それよりボーマンはこんなふうにステラとの事を認め
娘にたいしてさえ自然な考え方で
性をとらえることができる
この女性に内心した舌をまいていた。
「ありがとうございます」
「いつでも、いらっしゃい。私も歓迎してよ」
両親公認の仲になるのにボーマンは何の苦労もいらなかった。気兼ねなくステラのところにいけるようになったボーマンは
既に家族の一員にでもなったように
ステラの家族とともに時間を過ごす事が増えてきた。
バーベキューをするからテラスにでておいでと
ボーマンがステラと部屋にいるとお呼びがかかる。
温かで居心地のよい家族の存在が
更にボーマンにステラを魅了させていた。
「いいよな。愛されてるよな。大事にされてるよ。
そんなふうに育てられてるから、
お前もあったけえんだよな」
「ボーマン。はやく、たべにいこう」
しっかりだきしめられてるステラの首筋辺りに
ボーマンのキスがよせられている。
「俺。バーベーキューよりおまえのほうがいい」
「後でね?」
「ち、しかたねえな」
なんだかステラも上手くボーマンを
尻にしき始めているきがしないでもない。
じゃれあってるだけでも
二人は一つになりたいって思いに火がついてしまう。
確かめ合う為に御互いが与えられる陶酔を求め
あまやかで切ない時間を共有する。
御互いの不思議な場所を寄せ合う事で
二人が御互いの中に目くるめく快感を与え
そして、与えられる。
そんな時間を何度重ね合わせたことだろう。

だけど・・・。
二人は別れた。
逢っているだけで幸せでたまらないはずの二人は・・・
別れちまった。

それから八年の歳月が流れている。
ボーマンがニーネと結婚してるのだから
当然ステラと別れちまったって事は
皆にも判ってることだろうけど、
判れたわけも、
そして判れたはずのステラが何であんな場所にいて
なんでボーマンと相変らずHしてんのか?
腑に落ちない事だろうと思う。
それもこれも、やっぱり原因はアシュレイにある。
アシュレイをこれぽっちも責める気はないんだけど、
やっぱり、アシュレイのせいとしか言い様がない。
その事を・・・。
その当時の事をもう一度振りかえって話すのは、
色んな哀しい事実が多すぎて、
筆者としてもひどくつらいことなんだ。
でも、はなさなきゃなんないんだろうね・・・。

ボーマンとステラの関係は
やがてアシュレイの祝福を受けて
「年貢の納め時がきたか」って笑われながら
歩く権利があろうハズもないけど、
やっぱり御決まり通り
真っ白なウェデイングドレスに包まれたステラが
バージンロードをボーマンのエスコートで
歩いて行くはずだった。
その青写真が何で崩れちまったかって?

それは冬枯れた寒い日の午後だった。
毛布に包まれこんだボーマンの腕の中には
相変らずボーマンロケットにあえがされてるステラがいた。
思いきり不埒な言葉を投げかけて、
いかにステラがボーマンのものかを確かめている最中だった。
「きもちいいかよ?ェ!?誰にそんなふうにされてんだよ」
「あ、ボーマン・・ボーマン」
ステラの返事がそのまま快感の中にのみ込まれて行く。
「ボーマン・・・ボーマン・・ああ・・」
うわ言の様に呟く言葉が
何時の間にかステラを一端の女に育て上げちまった事を
証明していた。
そんな時に電話が鳴った。
両親は留守だ。
「でろよ」
ボーマンはほんの少しステラへの動きを止めて
そう言った。
ボーマンのものをいれこめたまま電話にでたステラに
ボーマンはここぞとばかりに自分の物をうごめかし始めた。
電話にも出れなくなるくらいな快感を
わざと与えてやることでステラに
どんなにボーマンの物に酔わされているか
思いしらせてやりたい。
ボーマンの心理はそんな単純なものだった。
「でろよ」
快感に飼い慣らされたステラはボーマンの言葉に服従した。が、喘ぎながら電話に出たステラの顔が・・凍りついた。
「な?どしたんだ?」
ボーマンの言葉に答えずステラは手で顔をおおった。
「あ?なんだよ」
なんかあったんだ。
泣崩れそうになるステラをだきよせると
ボーマンはも一度尋ねた。
「ア・・アシュレイが・・・」
突然の電話。
ステラの様子。
ボーマンの中を走る良くない考えをふりはらいながら
ボーマンは尋ねた。
「な?何の電話だったんだよ?」
「アシュ・・レイが」
「な?なんなんだよ?アシュになんかあったのかよ?」
「アシュレイが・・アシュレイが、う・・嘘だよ。
そんなこと」
仲の良かった従兄の事がステラに報告がはいるのは判る。
だが、なんでステラがその報告に顔をおおう?
ボーマンとの我を忘れる快感から
ステラを解放してまで、
手で顔をおおう哀しみがなんであるのか?
ボーマンの胸に暗雲が立ちこめる。
「ステラ、泣いてないで話さなきゃ」
ボーマンだって怖い気がする。でも・・・。
「あ、あ・・アシュレイが、アシュレイが・・・」
「・・・・」
「死んじゃった・・・」
「え?」
現実はいや応無しにボーマンを捉まえに来る。
ステラから告げられた事を信じたくないボーマンが
教室に行けば教授が沈痛な面持ちで
アシュレイの訃報をつげた。
地に足がつかない状態で家に辿りつけば
アシュレイの両親から仲のよかったボーマンに
最後を見送ってやってくれないかと懇願する電話が入った。
『嘘だろ・・冗談じゃねえぜ』
冗談なんかじゃない。
幾ら否定してもしきれない事実をボーマンは
やがて目の辺りにする。
急ごしらえに誂えた黒のスーツをきこんだボーマンは
出生の地にもどされたアシュレイの棺の前に立っていた。
「な・・なんで・・」
冗談だろ?
スーツを着るときは俺が白のネクタイをして
お前がコングラチレーションって
いってくれるはずじゃなかったのか?
ボーマンの震える肩を見つめがら
アシュレイの両親はボーマンにかたった。
「流れ弾に、額を貫通されてしまったの。
苦しまずに逝ったって、笑顔のまま逝ったって・・」
なんで?一番安全なはずの医療班にいて・・・。
「なんで・・・」
何で、お前にその玉が当らなきゃならなかったんだよ?
ボーマンはアシュレイの額を見た。
キレイに整形された額には
かすかな整形の後が残っているだけで
アシュレイのきれいな顔は見ていると
そのままむくむくとおき出してきそうに思えた。
だけど、アシュレイの体は冷たく、
死後硬直を向えピンと固まっていた。
「・・・・」
喉を押さえ、胸をおさえたボーマンの口から
鋭い叫び声が漏れるとそれが号泣に変った。
その日を境にボーマンが変った。
大学の講座にはでてゆくが、
その顔色は暗く沈みきっていた。
無理ない事だと思う。
クラスメートもはじめは
ボーマンが立ち直る事を祈る思いで見詰めていた。
だけどボーマンは誰とも一言も口をきかず
沈み込んだままだった。
長い月日がいつしか
『ボーマンはアシュレイの幽霊にとりつかれている』
と、までささやかせることになっていった。
そんなボーマンの胸の中に去来するのは
アシュレイと出かけた高原での出来事だった。
『あん時・・無理やりでも、俺のものにすりゃあ・・・。
お前は戦争にいかなかったのかよ?』
志願したアシュレイを止める一言さえ言わなかった事も
ボーマンの悔いを深くしていた。
どんなに悔いてみても
こうなってしまった現実をかえられるはずもない。
一方ステラのほうはなんとか哀しみを乗り越え始めていた。ステラにはボーマンがいる。
最愛の人をなくしたわけじゃない。
ボーマンがいる。
ボーマンの存在がステラの心を支えてくれていたのである。
ステラは塞ぎこんで
家と大学の往復だけになっているボーマンのところを訪ねた。
冬の日の翳りは早い。
なのに電気もつけずボーマンはベッドに寝転がっていた。
『ボーマン』
ベッドに倒れこんでいるボーマンは
ステラが入ってきたのに気がついていなかった。
憔悴しきったボーマンの様子に
ステラはかける言葉が見つからないまま
愛しい人の側によりその頭を撫ぜる様にふれた。
ボーマンは頭をなぜられた感触に目を開けた。
「あ・・・」
ボーマンは小さな声をあげるとステラを引き寄せた。
「かえってきたのか・・」
ボーマンの頭の中は混濁していた。
アシュレイの死を今以って信じたくないボーマンの目に
映った暗闇の中のステラは
ボーマンにはアシュレイに見えたのだ。
帰って来たんだとボーマンはそう思った。
ボーマンの心に答えるために、
遠く離れて見て
ボーマンへの愛しさに気がついたアシュレイは
もう何も恐れずボーマンの腕に擁かれる事を
一番のぞんでいる。
「待ってたんだ・・ずっと・・待ってたんだ」
ボーマンももう二度と手放したくない。
もう自分をおさえることなんかしない。
あんな後悔はしたくないって思っている。
夢現のままボーマンは現実を取り違えながら、
現実の後悔をやり直そうとしていた。
もう一度アシュレイを取戻そうとしていた。

その日のボーマンのセックスはステラには酷かった。
鋭い痛みがステラの違う場所を襲った。
男同士のセックスの局所にボーマンの物がはいってくる。
鋭い痛みにステラに声をこらえさせたのは
ボーマンの言葉だった。
その言葉がステラを更に打ちのめした。
痛みをこらえながらステラはボーマンの心のままに
ボーマンを受けとめるしかなかった。
ステラはボーマンを愛していたんだ。
そうするしかなかった。
「アシュレイ、、アシュレイ・・愛しているんだ・・。
愛しているんだ」
ボーマンは何度もそういった。
ステラとの行為の最中には
ボーマンはそんな言葉を言わなかった。
いつもステラが自分の物だって事を
強く念を押して囁き、
いかにステラがボーマンのものに
繋がれているかを思い知らせる囁きを繰返した。
そう・・・。
ボーマンはステラの中にアシュレイをみていたんだ。
ステラをなくす事はアシュレイをなくす事だった。
つまり、アシュレイをなくしたくない為に
ボーマンはステラを自分のものにしておきたかったのだ。
今夜、ステラの中に閉じ込められ、
ステラと一体になっているはずのアシュレイを
ボーマンはもとめだした。
そのアシュレイにかける言葉は
「愛している・・おまえだけだ・・」
って、そればかりだった。
哀しい思いを擁きながらステラはボーマンを受けとめた。
だって、どんなに思って見ても
もうアシュレイはこの世にはいない。
幾ら思ってもどうしょうもない。
思いを吐出す事もできなくなってしまったんだ。
そんなボーマンをアシュレイにかわって
受けとめてあげる事しか今のステラにはできない。
『愛していてよ・・ボーマン』
囁き返せない言葉を飲み込んで
ボーマンに与えられる肉の痛みを、心の痛みを受けとめた。
一際ボーマンの声が切ないものに変り
アシュレイに与えられた頂点の快さを訴え出した。
「ああ・・アシュレイ・・アシュレイアシュレイアシュレイ」
ボーマンの動きが際限なく大きくなるように思えた。
ずきずきする痛みの中、
ボーマンの物がグ―ンと反りかえり
発射の前の小さなどよめきが起きていた。
やがて気持ちの良さそうな嗚咽が
ボーマンの口からもれだし
ステラの中でボーマンの物が確かに
どくどくと波打って発射のときを迎えたのがわかった。
ボーマンはステラを抱きしめると
「ありがとう」
そういった。
そのままボーマンは軽い寝息を立て始めた。
心の不安が拭われ
大きな幸せがボーマンにやっと深い眠りを与えていた。

朝ボーマンは自分の現実が夢だったという事を知らされた。ボーマンの腕の中には張り詰めた哀しみを
こらえながらボーマンに抱かれたステラが眠っていた。
「え?」
いるわけもないアシュレイを一瞬ボーマンは探した。
『俺?』
ボーマンは昨日ステラに何をしたか気がついた。
アシュレイの代わりじゃない・・・・。
アシュレイをステラにもとめちまったんだ。
そうだとボーマンはきがついた。
『すまなかったな。つらかったろうに・・・。
おまえ・・おれのこと・・』
ステラに寄せられた思いにボーマンは頭をたれた。
ボーマンの心の中に一条の光が射し込み
ボーマンを悲しみの淵から救い出してくれる。
筈だった。
「ステラ」
ボーマンはステラを覗き込んだ。
「ん?・・あ・・おはよ・・」
「ああ」
久し振りに見たステラの顔は幾分か、やせてしまっていた。コイツだってアシュレイの死にうちのめされてたんだ。
それにも関わらず俺のことを心配してきてくれたんだ。
そんなふうにボーマンを受けとめちまい
ボーマンが甘えられる相手はステラしかいない。
「俺・・たよんねえやつだよな」
ボーマンはかすかにわらった。
「ううん」
お前の事、支えてやんなきゃなんねえはずだったのに・・。
ボーマンは限りなくやさしいステラに
そっとキスを送ろうとした。
ボーマンが今ステラにしてやれる事は
そんな事しかなかったし、
何よりもステラに対してだけのキスを渡す事が
ステラにアシュレイを求めた事の
せめてものボーマンのわびだった。
が・・・・。
『ち、がう・・』
昨日のことで
ステラと重なり、融合していたアシュレイを
分離させてしまっていたのだ。
ボーマンの心の中に渦巻いた思いは
ボーマン自身を困惑させた。
もう、ボーマンは
アシュレイとステラを重ね合わせて
ステラを求める事ができなくなってしまっていた。
ステラを見るとボーマンは
そこにアシュレイをみつけてしまう。
それが否応無しにボーマンを現実に引き戻した。
『ア、 アシュレイはもう・・いないんだ。
お前はアシュレイじゃないんだ。
アシュは死・・・死んだんだ』
ボーマンがステラに渡しかけたキスをとめて
ステラの肩をつかむとじいいいとステラを覗き込んだ。
掴んだ手の力が抜けると
ボーマンはステラにすがろうとせず
床に崩れ落ちると大きな声を上げて泣き出した。
ステラはボーマンをじっと見詰めていた。
その瞳から伝い落ちるとめどいない泪が
ステラの心を表わしていた。
『私じゃ・・・だめなんだ』
泣きくずれるボーマンがステラに縋ろうとはしなかった。
『私だから・・・ボーマンはもっと悲しいんだ。
私だからボーマンはアシュレイを思い出して
もっとつらいんだ・・・』
どうすれば良い?
どこにいけばいい?
このままボーマンの側にいても
ボーマンをくるしめるだけだ。
きっと、今だってボーマンは
ステラが手を差し延べればそれをふりほどくだろう。
いや、そうしなかったら苦しい思いに
顔を歪めながらステラの手をとるだろう。
『私がボーマンをくるしめてしまうんだ』
愛しい人を慰める事もできず
側にいる事さえボーマンをおいつめる。
ステラは溢れて来る泪を拭う事もせずに
じっとボーマンを見つめつづけた。
いとしい人の姿を目に焼き付けながら
『いつか・・もう一度、
今度こそステラだけを見てくれるボーマンになって
むかえにきてくれるよね。
この哀しみをのりこえてくれる・・・その日をしんじよう』
固い決心を心に刻み付けると
ステラはボーマンの側をはなれた。
「ごめんね・・・ボーマン」
最後のステラはそういった。
悪いのはステラじゃない。
でも、ボーマンは
ステラのさよならを引き止めようとしなかった。
どんなにかステラの悲しみが胸を刺してきて
ボーマンだって・・つらい。
でも、
ボーマンもステラと同じように気がついてしまった、今、
アシュレイをステラの中に戻す事もできないし
ましてや、アシュレイのかわりにしかすぎなかったと
わかってしまえば
ステラをもとめることができなくなってしまっていた。
「ご・・めん・・」
何もかもを察したステラの決断に
最後の最後まで甘えるしかないボーマンはやっとそういった。
けど・・・その声はドアを閉める音に重なった。
ステラはドアの外にもたれて泪を拭った。
『さよならじゃないんだよ。
でも、ボーマン・・私、約束まもれなかったよね』
私から離れたりしない。
せめてその約束だけは守りたかった。
でも、あの優しいボーマンに
ステラを捨てる言葉をいわせたくはなかった。
『ボーマンの嘘つき』
お前だけしかいねえって・・・。
あふれてくる泪がボーマンの言葉を
一生懸命かき消そうとしていた。
ステラはもう一度顔を上げると
泪を拭って外に飛び出した。

それっきりだった。
ボーマンはもうステラをたずねることはなかった。
あの後のステラがどんな風に苦しんだことだろうか。
そして
来なくなったボーマンの事を両親も尋ねることができず
ステラの哀しみを見守ることしかできなかったように
筆者もステラの哀しみを
何も言わず見ている事しかできなかった。

春が来てもボーマンは幽霊みたいにあおざめていた。
変らず講座は拝聴して単位は一つたりとも落としてはいない。けど・・・。
ボーマンが教室に入って来るだけで
御喋りに花を咲かせていた者が黙りこくる。
シーンと沈んだ空気がボーマンを包み込み
妙な存在感が皆を圧迫している。
「きもちわるいよな・・」
講座が終りボーマンが教室から出て行くと
やっぱりみんなはいいつづけてきている事を繰返す。
「どうにかなんないのかな?」
「むりだろう」
いつかボーマンといい事した奴がそういう。
とんでもなく不埒で性欲の塊みたいに
生きてる事を謳歌するように
次々と色んな相手とセックスを楽しんでた
馬鹿単純な男が一度あんなふうになったら何で救い出せる?
「粉かけることもできねえんだぜ。
誰もよせつけねえし・・。
セックスするきにさえなれねえんだろな。
と、いったって
あんなボーマンじゃこっちがおことわりだけどよ」
「やだ・・。まだ、未練たっぷりじゃない・・」
「馬鹿ね。あんた、ボーマンをしらないから・・」
「嘘?そんなにすごいの?」
ボーマンの相手をした事があるやつは
なんだか少し得意そうな顔をしたけど
「ま、かかわらないことよ。
と、いうより・・かかわれないけど・・」
皆がボーマンを見捨ててしまったけど
ボーマンはむしろその方がきらくだったことだろう。
自分でもコンなんじゃいけねえってボーマンも判ってはいる。けど・・教室にもアシュレイはない。
アシュレイと一緒に戦争に
ついていかなかったボーマンだったけど
アシュレイが望んだもう一つの道を歩んで行く事は
ボーマンにとって
アシュレイそのものに溶け込んで行くようにもおもえていた。
『お前が目指した薬学。
特に草木のエキスパートになってやる』
ボーマンの孤独な世界に住んでいるアシュレイに
ボーマンはそうやってしゃべっている。
陰気で孤独で暗くて・・・。
ボーマンの昔を知るものが見たら
あれはボーマンじゃないっていたことだろう。
そんなボーマンを救い出す者がいつあらわれるんだろう?

皆、ボーマンの側を避け
いつもボーマンの隣の席は空いていた。
知っていれば誰だってボーマンの隣になんか座ろうとしない。
だけどニーネは、
いつも空いてるボーマンの横の席を不思議に思うだけで
ボーマンに対して妙な噂を聞いてなかったんだ。
満席になってる教室を見渡して
ニーネは躊躇せずボーマンの側にやってくると
「隣をお借りしてもいいかしら?」
って、ニッコリと微笑んだ。
ボーマンに声をかけて来る奴なんていない。
珍しい顛末にボーマンも返事一つですみそうな事なのに
声の主をふと見上げた。
澄んだ声でひどく柔らかくやさしい声の主を見上げた瞬間
ボーマンははっとした。
邂逅・・・・。
そういったほうが早い。
あんなにアシュレイの亡霊に取りつくされ心に
大きな空洞を作りそこに
大事なアシュレイを住まわせていたボーマンだったのに。
運命の悪戯か
はたまたアシュレイの予言が今あたったのか。
いきなり見せられた笑顔の主が
あっという間にボーマンの心の中から
アシュレイをおいだしていた。
「あ・・どうぞ・・・」
きっと、驚いたのはまわりのほうだ。
心なしかボーマンの声が弾んでいるし、なんだか優しい。
「ありがとう。じゃまにはならなくて?」
「あ・・とんでもない・・」
「よかった」
ボーマンの側に座った女性の顔を
ボーマンはなんだかひどく気になって何度も盗み見た。
なんどか見ている内に
女性の方が気がついてボーマンをじっとみつめかえした。
「         」
彼女が何か言っている声がボーマンには聞こえなかった。
だってボーマンの心の声がボーマンを捉えていて
そして
ボーマンの心臓の音が
やけにどんどんって大きくなっていたんだ。
『コイツだ・・。コイツが、俺の惑星だ。まちがいねえ』
あんなにボーマンの心をとらえて放さなかった
アシュレイの事をいきなり追い出しちまって
ボーマンの瞳を釘漬けにしてしまって
今もボーマンをうっとりさせてしまうような声で
なんかいってる。
これが運命の出逢いじゃなくってなんだっていうんだ。
「なん?あ?ごめん・・きいてなかった」
「ま・・・まあ」
少し剥れた顔がちょっときつくてかわいい。
「もう、一遍いってくれねえか?」
ちょっと上目遣いでボーマンを睨み付けたけど
機嫌を取り直して彼女はいった。
「あの・・。真直ぐ前を見ていただけません?
気のせいか、見つめられてる様で、
きになってしまうんですけど」
ボーマンの事を多少なり意識してくれるんだ。
いい傾向ではある。
「あ。なるほど。でも、
俺はあんたのことが気になって授業どころじゃねえ」
「あ、ごめんなさい」
謝ってから女性はきがついた。
「あの、それっておかしなことをいってらっしゃいません?」
ボーマンが始動しはじめたんだ。
ニーネ。君はもうボーマンの罠にかかったも同然なんだよ。
「可笑しい事はねえよ。アンタがいなくちゃ
もっと授業がおもしろくねえよ」
ボーマンの言出す事は矛盾だらけだ。
でも私が邪魔なら誰かに席を替わってもらいますけどって
いおうとした言葉にこの男が先に答えているんだって判った。変な人だけどなんだか頭のいいひと。
ニーネはボーマンの事をそう直感した。
「だから、明日もアンタはこの席にすわる。きまりだ」
「え?あ?はい」
なんだか、思わず返事をしてしまったけどやけに強引な人。あわてて
「なんで、私があなたに席をきめられなきゃ・・」
そういい返しかけた時に
ボーマンの変転振りに気がついた教授が
それこそ泪をながさんばかりの顔でニーネに言放った。
『君!授業を妨害するなら
二人でそとにでていってくれないか!?
大人しく授業を受けたいなら
その男のいう通り隣の席にすわっていてくれないかね?』
「あ・・・はい」
なんだか、おかしな事になってしまった。
ニーネは黙りこくってちらりとボーマンを見た。
『なんか・・大丈夫かしら?
この人いきなり変なこといいだすし・・』
だいじょうぶなわけがない。
次の日からボーマンのいきなりの求愛を受ける事に
なるとは夢にも思わないニーネである。
未来の良人との遭遇はこんなふうに始まり
信じられないほどの熱の上げ様に
ニーネは何度も何度もボーマンのプロポーズを断った。
「からかわれてるんだわ」
最初にニーネにそう思わせたのは
この時のボーマンだったんだけど。
ボーマンに明るい未来がある事を
そして、その未来がその女性自身である事を
ボーマンに教えた女性が
ほら!心配そうに調剤室のボーマンを覗きこんで
声をかけて来た。

「あ・・」
アール・グレイにまつわる男の事を
思い出したボーマンが調剤室ににげこんだものだか・・こんな長い話しをボーマンの替わりにし始めたんだったよね。
「ボーマン?」
「ん・・こっちにこいよ」
なんだかくらい顔になったボーマンをきにしながらも、
アーサーがいるもんだから
すぐに、追いかけて来れなかったニーネだったんだ。
薬剤の注文が入ってきたのにも気がつかないくらい
ボーマンはずーと長居間思いでに浸りこんでいたんだ。
とうとうメ―ルに出ないボーマンに
しびれを切らしたレオンが
ボーマンの自宅に電話を入れて来たものだから、
ニーネには都合よくボーマンの様子をみにこれたんだけど
「レオンがおこっていてよ」
「え?」
なるほどしつこい程の行数が
ボーマンのパソコン画面の中にうちこまれていた。
「ェ!?何々・・くそぼけ?いるのはわかってんだぞ
ぼけボーマン・・・ありゃりゃ」
良いほど怒らせたらすぐうちかえしてくるだろうと
いう考えだったのか思いつく限りの罵詈雑言がならんでいる。なのに、本当にいないのかと不安になってきたらしい。
後のほうは・・・なんていってみただけだよって
送ってしまったメールに
取り返しがつかない弁解になっていたけど・・・。
「しかし、こんだけの悪口を良くおもいつきやがる」
画面を覗きこんでいたニーネもくすりと声を出して笑った。
そのニーネの胴を抱え込んで
ボーマンはニーネを膝の上に抱いた。
「心配してたんだろ?」
「え?なんのことかな?」
「とぼけるなよ」
そう言いながらボーマンは
ニーネの服を思いきりめくりあげると
胸に着けてる部分的な布切れをたくしあげた。
浚えてせり出した乳房に
ボーマンは顔を埋め舌をはわせはじめた。
「あ・・・ボーマン。だめ、だめ・・こんなところで」
「いやじゃねえだろうが」
たくっ、こんなに感度のいい女性もいやしない。
ボーマンの手はもう、ぬれそぼってる
ニーネのひそやかな部分を柔らかくもみこみはじめている。
「だめ・・アーサーが・・さがしに・・」
ニーネの言葉が途中で途切れてしまうと
ボーマンの腰を両腿で挟み込まされた
ニーネの暗い場所が
小さな粘膜質の音をクチュリと立て始めていた。
「きたら・・みせてやるさ。いい性教育だ」
「ボーマン・・」
『本当に愛し合ってる男と女のセックスが
どんなにキレイなもんか、
あのがきんちょにゃわかってねえんだ』
「ニーネ・・・愛してるぜ」
歯の浮きそうなほどなセリフを真剣に言ってのけて
その証拠がコレだと言わんばかりに
ボーマンはニーネの腰を浮かせると
自分の動きに合わせてニーネの腰を揺さ振った。
上がって来る快感にニーネもボーマンの物だけを
感じとって行くしかできなくなっていた。
「あ・・・すてき」
ニーネの吐息が甘い。
ボーマンの目にちらりとアーサーの顔が映った。
ドアの隙間から
そっとボーマンとニーネの事をうかがっている。
ボーマンは気がつかないふりをして
ニーネへの愛撫に集中して行った。
『見るなら見やがれ。
俺にはコイツとのセックスがいちばんいいんだ。
コイツだけが・・・。
クロードじゃねえけどよ。
俺を生きてるっておもわせてくれるんだ。
生きてる事がこんなにも・・・ああ、たまんねえ・・・。
そんな大事な結びつきをみせてもらえてんだぜ』
ボーマンの言う通り。
ボーマンはニーネと出会った時
アシュレイには申し訳ないけど
俺は生きていて良かったっておもったんだ。
そう思った通り
ボーマンがニーネと深まって行った時に
ますますそれははっきりしてきた。
ボーマンの部分を襲ってくる
果てしないほど高い絶頂感は
言ってしまえばそりゃあ確かに気持ちいいって
一言にすぎないんだけど・・・。
その心地良さがボーマンに
本当に生きてる事を痛感させてくれた。
そして、
ニーネも同じ気持ちを、
同じ快感をあじわっていることが
ボーマンをもっと満ち足りたものにしていたんだ。
「ニーネ・・・愛してる」
「ん・・ん・・ボーマン。わたしもよ」
って、とっても大事な事はチャンとつげなきゃいけない。
ととのわない息でニーネもちゃんとかえしてきた。
ボーマンの動きでニーネは高い快さに到達してゆく。
やがてニーネの部分が細かくうち震えると
ぐったりとボーマンによりかかっていった。
ボーマンはニーネの存在の重味をしっかり抱き締める。
『ニーネ・・お前にであえてなかったら
俺はアシュレイの事をこんなふうに
時折おもいだすってだけじゃすんでなかっただろうな』
ステラの事もボーマンには辛い事になってしまっていた。
そのボーマンの暗い固執的な自我を覗きこむ目を奪い
哀しみを忘れさせ、
あっさりと恋に落とし込んだニーネは
ボーマンにとって本当に生きて行く糧、そのものになった。
『お前がいなきゃ・・俺はいきていけねえ』
ボーマンは心の中でニーネに呟く。
そうなるとそんなにまで大事なニーネなのに
なんでボーマンは浮気すんだろって事になるけど、
その事は又べつの時にはなすとして、
今、問題は二人を
こっそり覗いていたアーサーのことだよね?

ボーマンはニーネをそっと抱き起こすと
「もう、いっぱい・・コーヒーをたのめるかな?」
って、たずねた。
「ええ・・」
ニーネはボーマンの腕をすり抜け、
立ちあがるとキッチンに戻った。
心持ち足取りがおぼつかないニーネの様子が
ボーマンを更に満足させていたけど
ボーマンはなんにも言わずその後姿を見送ると
レオンからのメッセージを読み直した。
悪口なんか読み直しちゃいないよ。
何の注文だったかって事を読み直したんだ。
そんなに手間取る調合薬じゃないとわかると
ボーマンは席をたち
ニーネが待ってるキッチンに入って行った。
ニーネがコーヒーを注いでるキッチンには
アーサーが椅子に座って足をぶらぶらさせながら
さも退屈そうな素振りで
大人しく二人をじっと待ってたんだぞって
顔を見せていた。
ボーマンはそんなアーサーの側によると
クルリと頭を撫でてやった。
「ん?なに?」
「ちったあ・・・・わかったか?」
「え?なにが?」
「とぼけなくていいぜ。しっかりみたんだろ?」
こっそり覗いてた事を指摘されたアーサ―の答えは
「うふ。ニーネは・・・素敵なひとだね」
だった。
『おいおい』
ニーネがボーマンとの事で漏らした
「すてき」
って、言葉をアーサーはしっかり聞いてて
その言葉でニーネのことをいいあらわすんだ。
ボーマンもたまったもんじゃない。
さすがのボーマンも自分でも判るくらい
赤くなってしまったのは無理ない事だとおもう。
「ち・・ちびが・・なまいってんじゃねえ」
「ボーマンもきもちよさそうだったね?」
「な?なに?」
「すてきだった?最高って気分?」
ああ・・・。
このちびを迂闊にかまった俺がばかだった。
だが、これ以上このちびに
のまれてばかりいられるものか。
ボーマンは腹を括り直すと
「ああ。お前がちらちら覗かなきゃ
もっとゆっくりたのしんでいられたぜ」
精一杯の大人気ない逆襲でしかないんだけど
ボーマンの言葉に少年はあたまをたれて一言
「そう・・・」
って、いった。
意外にも、アーサーはボーマンの一言が応えたみたいだった。
そりゃそうかもしれない。
邪魔だっていわれたんだもの・・・・ね。
「ん、あ。僕、少し・・。
あの・・・お昼ね・・・するね」
その場をたち去る事を妙に子供っぽく取り繕って
アーサーは部屋に戻って行った。
『なんだよ?ェ!?
いつもの糞がきらしくねえじゃねえかよ?』
あんまりシュンとされるとボーマンも後味が悪い。
「あら?」
アーサーが立ちあがるのをみたニーネの声に
アーサーは
「ニーネ・・は、「す・・てき」さ」
って、ニーネの声色そのままをまねて、
ニーネにまでいったんだ。
「!」
びっくりしちゃったのはニーネだ。
「・・・・」
可愛そうに足首まで真っ赤になっちゃったんだから
ニーネも正直過ぎると言うか・・・。
ボーマンとのことの余韻が、
まだまだニーネをつつんでたせいというか・・・。
その言葉にあまりにも敏感に反応しすぎたニーネを
見ていたボーマンは
「やろー。さっさとひるねしにいけ!」
って、アーサーを怒鳴り付けた。
「うふふふ。ニーネ。ね?ボーマンは「す・・てき」だよね」
って、もう一度ニーネの声色をまねすると
ピョンととびあがるとたっ、と、駆け出して行った。
あっけにとられたのはボーマンだった。
今までアーサーはませくれた嫌なガキの部分を
ニーネには見せようとしなかったんだ。
なのに、どうしちまったんだろ?
「あ・・・」
アーサーはやっぱりさっきの二人の事を
しっかり知っているんだって
はっきり確信させられたニーネなのに
それでも本当に!?アーサーが見てたのって
信じられない顔でボーマンを見ていた。
「たく・・・ませがきが」
ニーネにその通りだよって頷きながらボーマンはつぶやいた。どうせボーマンがアーサーが覗いてた事を
ニーネに喋っちまうだろうって考えて
とうとう開き直りやがったんだ。
ボーマンは正体を表わしたアーサーの事を
「たくっ、あいつはじめからあんなんだったんだぜ」
って、ニーネにつげた。
「うそ?」
もう既に何度かのぞかれてたんだってニーネは思った。
「ま、のぞくなんて事をやらかしたのは
今日がはじめてかもしんねえけど」
でも、もう既にのぞかれてしまっていたのかもしんない。
だったらアイツに
わざわざ見せつける必要はなかったってことだ。
自分の方が結局あのちびにしてやられてるってことだろう。ボーマンは苦笑しながら
「しかし、あんなませがきが、
お前の甥っ子だなんてしんじらんねえな」
って、いった。
その言葉にニーネは不思議そうな顔をした。
「な、なんだよ?」
「あ、あの?」
「なん?」
「あの?あの子ボーマンの甥っ子じゃないの?」
「なにいってんだよ。俺のほうにあんなちび、いねえ・・・。
な?なんだあ?」
ニーネがボーマンの甥っ子だと思ってたって事は
当然、ニーネ方の甥っ子でもないって事になる。
「うん」
ボーマンが察した通りだとニーネはうなづいた。
「んじゃあ?」
「うん」
アイツは誰なんだ?
何者なんだ?
縁もゆかりもない赤の他人に
二人はだまされちまっていたってことになる。
「なんだよ?どうなってるんだ」
ボーマンが立ち上がってアーサーの所にいくようだった。
「あ。まって。ボーマン。私がきいてみる
ね?なんかわけがあるのよ」
まあ、ニーネがきいてみる方が良いだろう。
ボーマンは座り直すと
ニーネに顎で行ってみろやってあいずをした。
それからキッチンを出て行ったニーネを
ボーマンはまっていた。
『アイツ・・。もうでて行くつもりだったんじゃねえのか?だからニーネにも開き直っちまったんじゃねえのか?』
ボーマンの予測はたがわなかった。
キッチンに戻って来たニーネは首を振った。
「いなくなってるの。荷物もなんにもなくなっていて、
あの子いなくなってて・・・」
ニーネはボーマンに白い封筒を差出した。
「ベッドの上に・・・」
封筒には「ボーマンへ」ってかかれてあった。
がきんちょのくせにひどく大人びた丁寧な書体だった。
なんだかどっかで見た事のある字だなって
ボーマンはおもった。
「なんだってんだよ」
封筒をあけてみたボーマンは
薄っぺらな便せんにかかれてある文字に息を飲んだ。
そして
しばらくボーマンは食入る目で封筒を見詰めつづけていた。その便せんの短い文字は当然封筒の字と同じ書体である。
その便せんの内容がボーマンに見た事ある字の持ち主を
思い当たらせていた。
ボーマンの様子にニーネは心配そうに手紙を覗き込んだ。
その便せんにはこうかかれてあった。

 ―ハッピィ・ウェディング―
たった一言のメッセージだったけど
ボーマンにはこのメッセージを送ってくれる相手が
誰だったか・・・おもいだせている。
ボーマンは何もかも理解した。
『約束を守る為にあらわれたんだ。
アイツは俺の幸せ振りをのぞいてみたかったんだ。
このメッセージを本当に言えるのをたしかめたかったんだ』
覗き込んだニーネにボーマンは軽いキスをあたえると
「さすがの糞がきもうらやましくなっちまったらしいな」
「ん?」
「俺たちを見てて羨ましくなっちまって、
僕もハッピーな相手を見つけるって宣言してんだよ」
ボーマンはアシュレイのメッセージをそう誤魔化して
持っていたライターで火をつけた。
「あ?いいの?」
「あーん?こんなものいりゃしねえよ」
そう。ボーマンのでメッセージはしっかりうけとめたし
それにボーマンにはもっと大切なひとがいる。
『もう、いりゃあしねえ。
アシュ、お前の事がいらなくなっちまうくらいにな。
だからこそハッピー・ウェディングだってことは
お前が一番良くわかってくれてるよな』

「なんか・・さみしくなっちゃったね」
ニーネは灰皿の中の燃え滓を見詰めながらそう言った。
「あーん?なにいってやがんだ」
「ん・・・。ふしぎなこだったね」
「ん?ああ・・そうだな・・・」
「どこいっちゃったんだろ?」
「また、どっかのボケかましてる夫婦のとこいって
甥っ子やってるさ」
「甥っ子なんていない事に気が付かないような?」
「ああ・・なあ・・・んなことより」
ボーマンの手がのびてくる。
「だめ・・アーサーが・・・」
「もう、いねえよ・・・」
「こんなとこで・・・」
「俺、キッチンも、そそられちまう・・・」
「さっき・・」
一戦交えたばっかじゃない?
「んなこといったって、おまえだって・・・もう」
欲しくなっちまってるじゃねえかよ!?
言葉じゃなくてボーマンの手が
ニーネにその通りだって事を自覚させてしまっている。
「あ・・・あいしてるわ・・ボーマン」
早くもニーネの中に入れ込まれたものの心地良さが
ニーネの心をさらけださせてしまっていた。
やがて何度もニーネのボーマンをよぶ声を聞くまで
ボーマンはニーネの海をたゆとう少年になる。
   
―ア・ハッピィ・ウェディング

ね、ボーマン―

    ― エピローグ ―

ボーマンは作り上げたレオンの注文の製剤を
大事に抱え込んで研究所のドアを開いた。
「あは・・・早速・・どうも・・」
あのメールにボーマンが怒ってるんじゃないかって
レオンもなんだかおどおどしてる。
だから、ご丁寧にボーマンの後を付いて歩くと
薬剤室のドアまで開いてあげる気のくばりようをみせている
「なんだよ?きみがわるいぜ」
ボーマンの口調から類推して見ると
どうやらボーマンはおこっちゃいないし、
なんか鼻歌までもれてる。
『良かった。全然、気にしてない』
それどころか
なにがあったのか知らないけど
すこぶるご機嫌じゃないか。
勿論、読者の君にはその「なにがあったか」は
よくわかってるよね。
朝っぱらからニーネに
どっぷりつかりこんじゃったボーマンが
ついさっきのニーネとの吐息を思い出しちゃえば
ほっておいても上機嫌になるってもんだろ?
「あは、ありがとう」
そう、そう、そのままボーマンに帰って戴くのが一番いい。突然機嫌が崩れて
レオンの罵詈雑言の数々を怒り始めるか
わかったもんじゃない。
かと言って、
早く帰れなんて態度が目にみえちゃいけない。
レオンは下手な事は喋らず
さも忙しげに差出された薬品瓶を受取ると
「あ、じゃあ」
って、ボーマンの側を離れた。
「おう」
レオンの様子をきにかける事もなく
ボーマンもそそくさと荷物を片付けると
ふらりと外に出て行った。
ホッと、胸を撫で下ろすレオンにはわかってない。
すんなりボーマンがたちさったわけが。
この後、ボーマンがどこにいくつもりなのか。
さとい読者の皆様にはわかっているよね。
そう、ご名答。
「ステラ・・まってろよ」
って、ボーマンはつぶやいてる。
え?いったい、この男の構造はどうなってんだ!?
下半身を解剖するか、
ホルモンを司る脳下垂体を
徹底的に研究してみたいものだよ。
バイアグラ以上に効き目の高い成分が
抽出されるんじゃないか?

ドアを開けるとステラがまってた。
「あら・・・・ご機嫌ね」
ボーマンの顔色をみぬくと
「ん?」
って、尋ねながらボーマンの側によってきたステラは
ボーマンの胸に顔をうずめると
「もう・・・」
って、すこしむくれた。
「なんだよ?」
「甘―い甘―い、におい。
シャトレーゼのア・ラ・ムスクをつけてるひとって、
だれだっけ?」
「え?」
「だれだっけなあー?」
「るせーな」
「ふーん。で、ご機嫌なんだな?」
「や、やかましいな・・」
「で、何回?」
ステラをごまかせるわけなんかない。
仕方なくボーマンは
「一回こっきりだよ」
って、答えたけど
「ふーん。朝から一回こっきり?」
「だよ。たんねえからきてんじゃねえかよ」
「で、ご機嫌?おまけにたんない割には余裕あるじゃない?」
「ほんとだってば。なあ・・だからはやくやらせろよ」
どうでもいいけど、
こうまでストレートに物言わなくてもいいじゃない。
昔語りを聞いてみたあとだから
尚更、あのステラがどうなったら
ボーマンに言いたい放題言わせるステラに
なっちゃったんだろうって思うよね。
「もう・・・」
ボーマンは後ろからステラをつかまえた。
『ボーマン・・・』
どうやらボーマンは
今日もステラの女性だけの場所じゃないほうを
せめてくるつもりらしい。
「あ・・・」
ほら、やっぱり・・。
「ボーマン?どしたの?
まだレオン君の事あきらめきれなくて?」
どうも、こう何度も欲求不満の捌け口にされちゃ
ステラもおもしろくない。
「レオンじゃねえよ」
「あら!?あ?ん?だれ?あたらしい恋人?」
「お前じゃなけりゃ・・・どうしようもねえやつ」
「・・・・」
「すまねえ」
「ううん」
ボーマンの動きがやさしい。
どうりでね・・・。
ステラはほっとためいきをついた。
「あは・・・うらやましいな」
ボーマンがアシュレイを感じたくなる時がたまにある。
そんな時のボーマンにはステラしかいなかった。
アシュレイを重ねられなくなって別れたはずのボーマンが
今はステラの中にアシュレイを見い出している。
それができるようになったのは
ボーマンの奥さんの存在のせいだった。
心の中のアシュレイを
外に放り投げさせる事ができたからこそ、
逆にボーマンはアシュレイの事を
感じたくなってしまうようになれた。
「不思議だね」
「ああ」
ステラとボーマンを結びつけたのはアシュレイだ。
二人を別れさせたのもアシュレイだ。
そして、今、
またアシュレイをステラに求める事になっているのに
二人でアシュレイを抱きかかえちまっている。
二人を結ぶ紐はアシュレイっていう存在なんだ。
でも、こうなって見てステラはおどろいた。
アシュレイをたんなる思い出の人にまで
してしまえたほどスゴイ奥さんがいるのに
ボーマンはいっぱいいっぱい浮気する。
「一体・・どうなってんの?」
ステラはたずねたことがある。
「恋なんだぜ。相手をじかに感じてみてえじゃねえかよ」
確かボーマンはそう答えたと思う。
「奥さんの事は?」
「え?あ?」
ステラへの愛撫を強めて
ボーマンは答えを誤魔化してしまったっけ。
感じ取ったらそれだけで満足しちゃう恋とは違うんだな。
ステラにはそれだけは判った。
そして、ボーマンも黙りこくった。
ボーマンはアシュレイと一線をこえられなかったけど
もし、そうなれてても
やっぱボーマンはあちこちで浮気したんだろなって思った。アシュレイと一線を越えられない
はけ口を求めてるだけだと思いこんでたボーマンも
どんなにか愛しいニーネと一緒になれても
〈一緒になるまえも〉
やっぱし、
相手をセックスで感じ取りたいって恋は、してたんだ。
と、なるとボーマンは自分に答えをだしたね。
『俺って絶倫なわけ。
ようは、一人だけじゃ俺のセックスをカバーできねえ』
そりゃそうだろ。
ステラ一人に搾った時なんか
ボーマンは毎日の様にステラを求めちまってたんだぜ。
それで足りてたわけかっていうと
実に怪しい返答がかえってきそうなことだし
ステラ一人だったって信じてる事までぶち壊して
すんだ事を穿り返す事もない。
『ェ!?ニーネを俺の玩具みてえにできるわけねえだろ?』
やれやれ。
まだまだ、あいかわらずニーネに御熱で
彼女だけはボーマンには特別なんだ。
アシュレイを感じ取りたいボーマンは
ステラを平気でそうさせるけど
勿論ステラ本人を感じたい時だってある。
色んな心模様の様を
ボーマンはステラに隠そうとはしなかった。
ボーマンにとってステラはアシュレイのいったとおり
ボーマンを巡る惑星にしかなれなかった。
その昔大好きでたまんなかった、アシュレイへの思いは
ボーマンの中で醗酵して芳醇なかおりをたてていた。
ボーマンはそのかおりを、
少し切ない気持ちで楽しんだ。
ボーマンはおもいをかけてるやつを
こんなふうにボーマンの中で
良いワインにしたてあげたいだけなのかもしれない。
ステラは年月を経て極上のブランデーになって
ボーマンの前に現れた。
その中にあるかすかなアウスレ―ゼの香りを
ボーマンは今楽しんでいる。

でも、ステラにはわかってる。
ボーマンが恋に酔っていれるのも
ボーマンがしっかり奥さんっていう女性を
巡る軌道をまわっているからだって。
でも、こんな所で他の男に
体を開いてるせいなんだろうけど
このあいだだってボーマンはステラの事を
アシュトンにもクロードにもさせちゃってるんだよ!?
そんなふうに、
ボーマンにとって大勢の恋人の中のひとりでしかなくて
結局、セックスだけでつながってる。
ステラはそれでいいの?
「うん」
って、ステラは答えるんだ。
『だって・・・ボーマンを感じたい』
愛してくれなんて、もう到底無理な事なんだ。
だったらステラは恋でいい。
セックスだけだっていい。
そのときだけは・・・ボーマンはステラのものなんだ。
ほら。
「あ、ボーマン・・もう・・だめ・・・」
「オラ・・・いっちまえよ・・」
ステラにかけたボーマンの言葉が
ステラを高まりの頂点へ一層おしあげてしまう。
「ああ・・あ・・あああ」
その瞬間がステラには一番幸せなんだよね?
「んんん、ああ・・・あああ」
あは。うらやましいくらい気持ちよさそう。

                                (んじゃ、ばいばい)

続きを読む

ボーマン・ボーマン3 ― 恋の処方箋 ―

ボーマンの両刀使いは有名なことである。
でも、そんな事全然知らない人もいる。
今までのシリーズを読んでくれてる人も
まだボーマンが♂の方、相手にしている場面に
出くわしてないから
「あれ、そうなの?」
って思う人が多いかもしれない。
ちなみにそんな事全然知らない筆頭者は
勿論奥さんのニーネなんだけど、
仮に彼女に事実を告げてもニーネは信じないし
逆にからかわないでよって怒り出しちゃうと思うけど・・・。

そんなボーマンが
今日はこっそりレオンと逢引きしている。
「レオン」
って、声をかけるだけで
レオンはボーマンの腕の中にとびこんできた。
そのままレオンを抱き締めて
片手で顎の下に手を沿えてキスを与えて行くと
空いてるもう一方の手でレオンのズボンを・・
勿論、下着も脱がせて行く。
そのレオンもボーマンのベルトに手をかけて
やっぱりボーマンの立派な物を外にさらしだした。
なんだかレオンが焦っているのは無理もない。
「クロードが待ってんだろ?」
「ん・・・」
ボーマンにそういわれるとレオンが短く返事した。
「ちっ、しかたねえな」
って、言いながらボーマンはレオンの腰を引寄せてゆくと
レオンの中にいきなり挿入させて行く。
なのに、途端にレオンの口から声が漏れ出す。
「ああ・・ああああ・・・」
「へっ、覚えちめえやがってよお。クロードに思いきりやられてんだろ?」
「あ、・・や、だ・・・今は・・ボーマンだけ・・だよ。
クロードの事なんか・・いわない・・で・・・」
って、喘ぎながらもレオンがやっとそういった。
「え?かわいいこというじゃねえか」
「あ、ん、だって・・ボーマン、す、ごく・・上手・・だ・も・の」
って、切なそうなレオンの声。
あんまり遅くなるとボーマンとレオンの秘め事がクロードにばれちまう。
だから、ボーマンは思いきり腰を揺さ振った。
「あ・・あああ・・ん・・い・・やだ・・あ、いい」
って、レオンがますます切ない声を上げて行く。
「もう・・たまんねえんだろ?え?」
「ああ、ん・・んんん・・・ああ」
「よく締め付けてきやがるぜ。あん?おら。辛抱してねえでいっちまえよ」
「あ・・・ん・・ん・や・・」
「おら・・・いけよ」
って、ボーマンがますます揺さ振りかけて行く。
「あ・・・・ん、んん・・・ん、ああああああ」
って、堪えてた物が一篇に吐き出されてくと、
レオンの声がとろけだすような嗚咽に変り、
長く尾をひくとレオンの中が小刻みにズキズキって、震えだした。
「いいぜ・・・レオン」
ボーマンはそのまま・・動かし続けてやる。
そうしてやるとレオンの飛空時間が長くなるのを知ってるからだ。
「あ、、あああああ・・・・ああ、ん・・ん・・・あ」
って、レオンはもう、ただただボーマンのくれる快感に服従している。
ボーマンの大きな手がレオンにきた
もうひとつの至福からの発射をうけとめてやった。
やがて:・・二つの波を向かえ終わったレオンをボーマンは離してやった。
「クロードに・・・ばれねえように・・・しろよ」
「あ・・うん。」
レオンの手が伸びてくると名残惜しそうに
ボーマンの首に腕を絡ませて唇を重ねて来た。
「またしてやるって・・・な?」
「ん。・・・本当だね?」
「ああ」
「ああ―。ボーマン。きっとだよ」
レオンのものを受けた手をペろってなめながらボーマンはレオンをみた。
それがボーマンの返事になった。
望まれてる嬉しさにレオンは目をふせた。
(たく・・お前みてえな奴・・・頼まれなくたって離しゃしねえさ)
ボーマンはそんな事思いながらレオンとの残り少ない時間を惜しんだ。
「え?レオン。なあ・・俺。お前とこうなれるのが夢だったんだ。
でもよぉ。おまえにゃクロードがいるしよお。
諦めてたのに・・・こんなの、本当に夢みてえだよ」
自分で言った言葉にボーマンは頬を抓った。
ちっとも痛くないし、抓った頬が、ぐにゃああってのびてきて
「え?」
って、ボーマンはびっくりした。
― そして、  目が醒めた ―
(な、なんだよ!?夢かよ?本当に夢かよ?
ええー?えらく、リアルだったじゃねえかよ?あーーん?
俺・・・たまってんのか?)
ベッドの上に置きあがってボーマンはポリポリ頭をかいた。
その横では愛しのハニーがかすかな寝息をたてている。
(ちっ・・ここんとこ♂の方にご無沙汰のせいだな)
って、ボーマンは妙な反省をしながら
ベッドに身体を横たえるとニーネの身体を自分の方に引寄せた
まどろみ半分で彼女はボーマンの胸に顔を埋めてくると
「ボーマン・・・愛してるわ」
って、いった。
勿論、寝言でニーネは覚醒してない。でも
(ち、お前にそんな事言われちゃ・・俺、たまんねえだろうが・・・)
って、ボーマンは思いながらニーネを見た。
「俺も・・愛してるぜ」
って、呟くとボーマンはすやすや寝息を立ててるニーネの額に
軽いキスを与えるともう一度眠りに付くことにした。
その腕の中に愛しのハニ―を引寄せてボーマンは安らかに眠る。
と、いったって、死んだわけじゃない。
ボーマンの腕の中のニーネの重みが
ボーマンを一番充足させているのだ。
(なのに・・・へんな夢みちまったぜ)
ボーマンがクスッと笑った。
その後はもう静かな寝息だけしか聞こえない部屋になった。
         次の日の昼。いや、もう夕方に近いような時間だった。
(たくっ・・・・何度目だよ)
昼になってなんとかしろってメールいれてきてから、
それからずううと調合してるのに調合が上手く行かない製剤に
さっきから、レオンがひっきりなしに催促をかけてくる。
画面に並んだメールを読み上げてみよう。
ボーマンの調合が上手く行かないのは
1つにこのせいもあるって思いたくなる。
― 急ぎます。お願いします。 
― いつぐらいにできますか? 
― まだですか? 
― それが出来たら、今日の仕事が終ります。
皆まってます。
次あたりからレオンの言葉つきが変ってきてる。
― あの、まだかな?
― 遅いーー。ボーマン。いるの?やってるの?返信よこせ! 
― あのネ・・・僕、きれるよ 
― んとにぃ・・・まだなわけえ!? 
― なにしてんだよ! 
― ムカー 
(なんだよ!ムカーって)
「確かに上手く行かない俺も悪いが、手前ら科学者だろう?
自分でなんとか出来なくって頼んどいて、
え!?なんだよ!?段段えらそうになってきやがって」
って、ボーマンはぶつくさ呟きながら
やっと出来あがった製剤に試薬を入れてみた。
「さっきからこれで薬が泡をふきやがるんだ。
え?俺は蟹を造っちまったのかと思っちまったぜ。
え!?それも五匹もよおお・・・」
恐る恐る入れた試薬が今度は綺麗な薄紫色になった。
それが正常な結果だったのでボーマンはほっと胸を撫で下ろすと、
レオンに向けてメールを送信した。
― できたぜ。今からもってく。それからレオン。
手前いいかげんにしろよ。なにいらいらしてんだ?
クロードにやってもらえてねえのかあ?―
勿論そのメールを他のスタッフも読むことはまちがいない。
レオンは怒るだろうなって思いながらもボーマンはなんだかうれしい。
何故って・・・。
レオンが怒ると顔付きがきりってして、けっこう美形なのだ。
さんざんぶつぶついわれたんだ。
これくらいの見かえりがあってもいいよなってボーマンは思った。

研究所に入ると玄関先にレオンが待っていた。
怒るかなって思ってたレオンが意に反して
「ボーマン・・やめてよね」
と、ひどく沈んだ声で言った。
「あ、なんだよ?」
「べつに」
そのまま帰るつもりだったボーマンもレオンの様子で
帰るのをやめてレオンと一緒に研究室に歩き出した。
「あ、ボーマンもういいよ」
「ま、そう言うな。見届けさせろや」
「うん・・・」
レオンは他のスタッフの前で製剤を蒸留水で溶かし始めると
ほんの2cc位をスポイトでとってペトリ皿の中のゼリー状の物にかけた。
かけた途端にスタッフがタイムウオッチのボタンを押して
「99、100、はい」
と、いう。
レオンはそのゼリー状の物をほんの耳掻き一杯もないくらい削り取ると
スライドグラスにのせて顕微鏡を覗いた。
「ああ・・・いいよ・・やっぱ、思ったとおりだ」
「やりましたね。レオン博士」
誰かが言うとレオンは
「うん。じゃあ。今日はこれでいいよ。後は僕がみとくよ」
「はい」
短い返事が返ってきた。
あっさり研究の方向が良い方に進んでいるのと、
これで帰れるというのが混ざり合ってるかろやかな返事だった。
「なんだよ・・これだけか?」
さんざん、催促されて苦労して作り上げた物の結果が
五分もしないうちに見えたのは良かったが、
ほんのちょっとしか使われないって事にボーマンは不満を擁いた。
「あ、そうだよ。でも、それがなきゃ、そいつは成長しないんだ」
「あーん?生物なのかよ?」
「細胞分裂が一定の所まで来ると、成長が止まってしまって、
分裂しなくなるんだ」
「はーん?」
「必須アミノ酸とトラキラナイザーだけじゃ・・」
「あ、ああ。わかった。で、それはなんの役に立つんだ」
「簡易食料」
「は?」
「何処でも育つんだ。空気のない所でもだよ」
「はーん」
他のスタッフはレオンとボーマンがしゃべってる間に
帰り支度をはじめていた。
「博士。じゃあ後のことよろしくおねがいします」
「あ。いいよ。じゃあ、明日から増殖状態のデータどりをするから
たのむね」
「はい」
って、返事すると皆いなくなってしまった。
「なんだよ?あとって?」
ボーマンが尋ねた。
「ああ。薬の作用を確認するだけ・・・」
「いきてるか、どうか?」
「うん。副作用はないとおもうけど。
どのくらい成長するか、顕微鏡のぞいておかないとね」
「ふー――ん。で、もし成長がよくなかったら?」
「それで、研究ストップ」
「えええー?」
「うん」
「おい、俺の貴重な時間もパーか?」
「いいじゃない。ボーマンはそれでもお金になるんだもの。
僕らは出来あがって、いくらだよ。
途中でパーになることなんかざらなんだから・・・」
そう言われたらボーマンも返す言葉がない。
「よお。所で、おまえ。えらく元気がねえじゃねえかよ?」
「あ・・うん・・・そうだね」
「あん?なんだよ?ん?喧嘩でもしたのかよ?」
誰となんていわなくても当然判ると思うけど、
ボーマンはレオンがしょんぼりしているのは
クロードと喧嘩でもしたと見当つけたんだ。
「そのほうがいいかもね」
「え?」
(喧嘩の方がいいって、おめえ?わ、わ、別れちまったのかよ?)
「みたら・・・わかるだろ?」
と、レオンがいう。
確かにこんな時間になってもクロードが現れない。
「クロードの奴・・・どうしちまったんだよ?」
「うん」
ひどくレオンの肩が落ちてしまった。
「おい、いってみろよ」
「う・・・ん。あのさ・・・」
「あ、いえよ」
「でかけてしまったんだ」
「え?って、どこにさ?」
「この生物を採取したところ」
「え?」
「アシュトンとデイアスとクロードで行けって。
男ばっかしでさ。だったら僕もっていったのに、駄目だって」
「アー――ン!?なんだよ。
ようはパーテイにお呼びがかかんなかったってことかよ?」
「そうだよ。僕・・・クロードに逢いたい・・・淋しい」
「あ、ああ、、あああ」
(アホくさ。チキショウ・・・・。
で、コイツはいらいらして俺に八当りしてたってことかよ)
ボーマンはやってられるかって思ったけど
ふいと、見たレオンがマジ涙ぐんでるのをみたら、
なんか気晴らしさせてやるかって気になった。
「おい、そんな時にはよお・・・」
ボーマンはいいかけて、マズイかって思ったので、
言葉の接ぎ穂をなくした。
「あ、なに?」
「あ、いや。大人だったら、こんな時には酒でものむんだけどな。
おまえ・・・・まずいよな?」
「おさけ?」
尋ね返したレオンはクロードがお酒をのむと
なんだかやけにほがらかになるのを思い出していた。
それで
「う・・・ん。のもうかな」
「え?いいのかよ?まだ、やんなきゃいけねえ事あんだろ?」
「あは・・顕微鏡のぞくだけだよ」
「うーん。そうかあ・・・なら。いいか」
「ボーマンも一緒にのむんでしょ?」
「当り前だろ。お前一人で飲んでよ、
ゲロッてったら・・誰が面倒みるんだよ」
「あ。ん・・・」
悪酔いの可能性を指摘されると
レオンも飲んだことのない物を飲む事を少し考えた。
けど、どうにも無性に淋しいのはレオンには重大問題だったようで
「そん時はボーマンよろしく」
って、レオンが言うので
そんじゃあってボーマンは近くのストアに
つまみと酒を買いにでかけた。
ボーマンは店に入ると、自分の分はやっぱしビールにしといて
レオンには・・・
「ああ、これがいいや」って甘ったるそうなカカオ・リキュールと
それを割る炭酸。多少のロックアイスと
どうせ腹もへってるだろうしってサンドウィッチとつまみを買い込んだ。
研究室の中のテーブルに買って来た物を置き
ボーマンはレオンにグラスとアイスペールを持ってくる様に言った。
程なくレオンがグラス二つとペールを持って来たので
ボーマンはロックアイスをペールに移し変えて
レオンにカカオフィズをつくってやった。
「あれ?これ・・・なに?」
薄いコーヒー色した液体が炭酸でシュワシュワってあわだっていた。
「ああ。カカオフィズさ。コーヒーみたいな・・チョコみたいな味だよ」
「あ・・苦いんだ?」
「馬鹿いえ。こんな甘ったるいもの。あ、そうだ。
もう1つ小さなグラスもってこいよ。
おまえにゃ、こっちのほうがいいかもしんねえ」
「なに?」
「いいから、もってこいよ・・小さいんだぞ」
「うん」
レオンが小さなグラスをもってくると
ボーマンはカカオ・リキュールの瓶ごともつと
そのグラスに6分目くらい注ぎ入れた。
「随分とろりとしてるんだね?」
「いいか・・これに・・」
ボーマンはテーブルの下に置いた袋から生クリームの瓶をだしてきた。
それをグラスの縁からそっと注ぎ込んだ。
濃いカカオ色の液体の上に綺麗にクリームがのっかって
混ざり合う事もなく二層にわかれていた。
「エンジェル・キッスっていうんだ」
「魚の名みたいだね?」
(そりゃあ・・エンジェルフイッシュだろうが・・・)
「すこしずつ・・のめよ・・いいな?」
「うん・・」
レオンはほんの少しだけ飲んでみた。
斜めに傾けたグラスからカカオのリキュ―ルと生クリームが
同時に口の中にはいりこんできた。
「あ、あ。おいしい・・・」
「こっちものんでみろや」
ボーマンの言葉にフイズのほうにもレオンは口をつけてみたけど
「こっちのほうがいい」
って、エンジェルキッスのグラスに持ち替えた。
「甘いからってパカパカ飲むんじゃねえぞ。一発でくるぞ」
「そうなの?」
「ああ」
「ふうううん」
って、レオンが頷いたのでボーマンもやっとビールの栓をあけた。
せっかくレオンがグラス持って来たのでボーマンはビールをそれに注いだ。
小瓶のビールなんざ、そのままでいいんだけどなって思いながら
残りのビールをボーマンはクーラーの中にいれた。
小さな冷蔵庫はボーマンが買ってきたもので一杯になった。
もともとレオンのキャロットジュースの缶が
随分はいってたせいでもあるんだけど。
つまみとサンドウィッチ出してやるとレオンは嬉しげに手を延ばして来た。
「お腹すいてたんだ。ボーマンって気がきくんだあ」
なんて、レオンも多少のおべんちゃらも兼ねてたけど
内心ボーマンって優しいよなあってほんとに思ってた。
ボーマンはレオンの顔みながらビールを飲んでたけど
レオンはヤッパリぼんやりしてる。
「あっと・・・そろそろ・・・のぞいてこよう」
データ―用紙片手にレオンはたちあがった。
「どれくらい置きにのぞくんだよ?」
「うーん。適当。時間チェックしといて、良く増殖してたら、もういいや」
「はーん?」
「だって、明日から本格的にデーターとるかどうかさえ
判りゃいいんだもの」
レオンは顕微鏡のぞきこんだ。
「ああ、これなら、いいや」
脇の用紙になにか書きこむとまたボーマンの前に座った。

それから、どのくらい飲んでただろう。
ボーマンも軽く酔ってる。
「なあ・・・レオン」
「ん?にゃに・・・?」
「あり?なんだ・・もう、酔ってるのか?」
「はひ・・・?・・しゅこしね・・・あは・・きもちいい」
「おいおい。・・・・ま、いいか」
「あ、そうら。ぞーそくぞーたい。みてこなきゃ・・・」
(ぞーそくぞーたいって、それ、増殖状態のことだよな?)
立ちあがったレオンが少しフラフラしてる。
おまけに顕微鏡をのぞいて
「あああああーーー」
って、大きな声をあげた。
「え、おい!どしたんだ?」
「いない・・・いなくなってる・・・」
ボーマンは落ちついてこたえた。
「お前・・・・瞑った方の目でみてる」
「あ、あららら・・・ほんとら」
こんな調子じゃ
きっとデータ―もミミズがのたくったような字しかかけてねえだろうな。
「どうだ?」
「ああ・・いいよ。すごーい、ふえてるよ」
ボーマンの所に戻りかけたレオンがぽてっと転げそうになった。
それを見てとると、さすが武道家、
すばやい身のこなしでレオンを支えに駈け寄っていた。
「オイオイ・・・気をつけろ」
「あはは・・・ボーマンすごーい。上手なんだ」
なんか聞いた事あるせりふだなって思いながらボーマンは
「なんだよ・・・上手って