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日本丸

届かなかった短筒を目の端にとめた竜馬の脳裏に慶喜の顔が浮ぶ。
「この先の日本丸を・・・」
大政奉還の進言に慶喜が返した言葉の一端であるとは、知らぬ渡辺篤であるが、
その刃でついえた者の魂の所在の大きさが
渡辺の胸をえぐった。

とんでもない人物の命を奪い去った。
その悔恨があとになるほど、深くなるとも知らない。
竜馬の命が消え果て、
わずか後、南州公の謀反とも思える暴挙である、西南戦争の時、
渡辺篤の胸中に沸いたのは
その時の竜馬の言葉であった。

「この先の日本丸を・・・」

渡辺の瞠目が開かれても
もう、
竜馬は居ない。

この渡辺篤が竜馬をついえた。
日本丸を思う誠の志士を
この渡辺がついえた。
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ドール

ここに捨てられて、もう2週間たつかしら?

ご主人さまは車の中に私をつっこむと、
一直線にこのごみの埋立地にやってきたわ。

ビニール袋にいれられたまま
ショベルカーで穿り返した暗い穴ぼこにほうりすてられると
ご丁寧に廃棄物を山ほどかぶせてくれた。

きっと、他の職員が私をみつけたら、
ご主人様の仕業だとわかってしまうからだわ。

性交遊具でしかなかった私の末路はごみの山にうもれ、
文字通り、ごみに化したけど、
ご主人様が私をすてるまで・・

それは、それなり、私をかわいがってくれた。

私をエリカとなづけたのは、何故だかわからないけど、
あの女子高校生がくるまで、
ご主人様は私に夢中だった。

女子高校生を明菜とよんでいたけど、
それでも、まだ、私はご主人様にかまってもらえていた。

でも、そのかまい方は
明菜の方が好きだということをあらわすための
子供じみた私への虐めだった。
最初の頃は私もご主人様のきまぐれだと想った。

明菜のことなんか、すぐにあきてしまう。

二人の狂態を目の前に私は辛抱強く、ご主人様が戻ってくるのを待った。

だけど、ご主人様は私に傷をつけ始めた。

私の滑らかな肌にマジックで馬鹿とか、卑猥マークを書くなんて
たいしたことじゃなかった。

私の茶色い髪をきって、うすら禿げをつくるなんて、ことも
まだまだ、おかしくてわらえてくるくらいで、無邪気なご主人様にも思えた。

だけど、体に傷をつけられて、私はおびえた。

ご主人様の気に入るようにしなければ、もっと、ひどいことになるんじゃないのかしら?

私には、これといった性癖はなかったし、今まで、ご主人様はノーマルに私を愛してくれていた。

だけど、私は恐怖を感じ、ご主人様をうけいれる最善の対処を考えた。

これは、虐めでなく、私へのアブノーマルな調教なのだ。

そういう風に私の受け止め方をかえることが、私の対処作だった。

明菜のために、新しいセーラー服をかってきたり、
ブレザーをかってきたり、ご主人様は明菜をそりゃあ、かわいがっていた。

それにくらべて、私は、明菜の目の前で、ご主人様に煙草の火を手におしつけられた。
ーいいのよ。ご主人様がそうしたいならー
私は自分を洗脳するのに精一杯だった。

明菜の瞳が勝ち誇ったようにも、次はわが身と怯えてるようにようにも
みえた。

だから、明菜はいっそう、ご主人様のきにいる女になるようにつとめたに違いない。

ご主人様の夜は明菜のためにあり、ご主人様は明菜にすき放題のポーズを要求し、明菜も熟れた女として要求にこたえていた。
高校生の明菜の外面とは正反対の魔性がご主人様を虜にし
私は、電気をけさない部屋のふたりの戯れをみせつけられた。

せめて、1/10でもよい。
明菜のように扱われたい。
私の回路は狂い始めていた。
本当なら、役にたたなくなった道具は処分されるべきだろう。
私に自由があるのなら、
私はどこかににげだしていくべきだったろう。
そこで、本当に大事にしてくれる新たなご主人様にめぐり合う。

だのに、私はご主人様のあたえてくる「虐め」を
「調教」とかんがえたことで、
思考基準がかたむいていた。

けして、元々から異常な性欲の犠牲になっていないと思い始めていたのだ。
私を手に居れ、無理やり、性器を挿入し、私をこの部屋にとじこめておく。

普通なら、充分に異常者だろう。

だけど、私はドール。

ご主人様の秘密を共有するドール。
私はうすれかけた記憶をとりもどしていた。

そういえば・・。

私の前にも誰かいた。

丁度今の明菜が私で、

私が「誰か」

ご主人様はその誰かにもひどい仕打ちをしていたと想う。

その仕打ちがどういうことであったかを思い出そうとすると、
深く果てしない恐怖の穴が口を開く。
思い出してはいけないことなのだ。

「誰か」にしていたひどい仕打ちを見た私が、
ご主人様の望むとおりにしないと大変なことになることをおしえてくれた。

だからよね。

そう、きっと、だからよ。

私はご主人様を愛するようになった。

これも自分を守るための洗脳だったのかもしれない。

今の明菜のように。

今の私のように。

あるいは、それは、驚愕の真実かもしれない。

私は今でなく、すでに、調教されていたのかもしれない。

ご主人様の恣意にしたがい、ご主人様に従い
ご主人様をうけいれ、あいしていくように
精神をゆがめさせられ、
傷つけられても、まだ、ご主人様を慕う。

私はとうとう、指をきりおとされた。

一本なんて、可愛いもんじゃない。

足の指も手の指もなくなり、団子のような物体から吹き出る血をとめるために
足首も手首も細い針金をまきつけられた。

明菜がぼんやり、私をみてた。

ご主人様は明菜のスカートをめくりあげていた。

制服プレイに征服され、明菜はご主人様のために足を開く。

ご主人様のうわごとを私はうらやましく聞いた。

「明菜・・かわいい・・明菜」
ほとばしるものを明菜だけにあたえつくし、
ご主人様は明菜に優しい。

放出の満足と征服感を満面にたたえ、
明菜を抱き起こしてあげて、ベッドにすわらせる。

「僕は明菜が一番すきなんだよ」
明菜への忠誠は私への虐めで明かす。

「本当だよ」
その通りだと想う。
だから、明菜、信じてあげて。

「もう、これくらい好き」
私の傍に寄ると、私の瞳を覗き込む。

「僕らをみていたでしょう?」
ご主人様は細い鉄の串をもっていた。

「僕らを穢すなんて、許さないよ」
二人を見続けた私への制裁が私の右目につきたてられた。

「そんな君をいつまでも此処においておくわけにはいかない。
明菜だって、そう想ってるよね?」

ご主人様の言葉に明菜がうなづいたように思えた。

でも、多分、それは私の錯覚。

私はもう左目さえかすんでいたもの。

そして、私はビニールをかぶせられ、
車につまれ、ごみ処理場にうめられた。

それから、2週間。

私が埋められたごみの山の
天井が開き、光がさしこんできた。

どさりと音がすると、ごみの塊がおちてきた。

おちた弾みでビニールがやぶれ、すきまから懐かしい顔がみえた。

ー明菜だー

「貴女もあきられちゃったのねえ」

ご主人様の飽き性。

でも、私のほうが愛されていたかもしれない。

ビニールがずりおち、明菜の顔面左は無残なやけどのあと。
胸あたりは乳房がひきちぎられてる。

下半身もどういう目にあわされてしまったか。

ビニールがそれ以上ずり落ちなかったことに感謝するべきかもしれない。

明菜は無言のままだった。

無言のままの明菜より、私は久しぶりの青空をみたかった。

顔をあげてみようとした時、再び、廃棄ごみがなげいれられはじめた。

ショベルカーの音が大きく響く中、
ご主人様の声がきこえた。

「え?やだなあ。人間のわけないじゃないですかあ」
はずかしそうにご主人様がつけたしていた。
「ダッチワイフ。みられたらはずかしいでしょ?こんなこといわせないでくださいよ」
まだ、続いてる。
「かなり精巧なアンドロイドみたいなやつですよ。
なんでしたら、紹介しますよ。まじ本物みたいです。ただし、値段がはりますけど」
なんで、そんな高いものをすてちゃうのか、たずねないのだろうか?
私の疑問はもうひとりの職員にそそがれていく。
考えることはおなじなんだろう。
ご主人様はにこやかに応えていた。
「俺、結婚するんですよ。そんなものあったら、まずいでしょ?」

ご主人様の言葉が本当かどうかよくわからない。
結婚もそうだけど、
私が、精巧なアンドロイド型ダッチワイフなのか、どうか
ひょっとしたら、私は人間だったかもしれない。
だけど、もうそんなことどうでもよいことで、
私はただのごみになるだけ。

ただ、ひとつだけ私にわかる事がある。
私は精巧なアンドロイドじゃない。
性交なアンドロイドとして扱われていた。
それだけは本当だと想う。

   -終ー

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思案六方

間合いが詰められると、平助の胸先に木刀の先が止まる。

平助のかまえはもうすでに後勢をしいている。

原田をこれ以上近寄せ、切り込ませないための距離を保つためだけに木刀を構えている。

だが、その体制から反撃に移る次の挙動がつかみとれない。

護り一方になるしかないということは、

相手の攻撃が読めないからだ。

仮に攻撃が読めたとしても、それをかわすことができない。

やっとうの腕が無い。

致命的な欠点の上に、先が読めない。

次の一刀をどうくりだせばよいかも頭で考えるしかない。

ーこれでは、・・・間違いなく切り殺されるー

敵は刀が体の一部になった、まさしく手熟れの士。

ーこのままでは・・・まちがいなく・・・-

脳裏の己の墓に線香がけぶる。

己で己の結末がみえる平助であれば、

新撰組にとってあしでまといになる自分でしかないとも判る。

慟哭を禁じえない平助の木刀が震える。

これが真剣勝負なら、この慟哭さえかんじるいとまもありはすまい。


これが・・真剣勝負なら・・。

平助は木刀をつかんだ掌をほどいた。


からりと音をたてて、平助の木刀が床に落ちた。

「平助?」

原田は均衡をくずしながらも、間合いをたてなおすと、

平助をみつめた。


「これが、真剣勝負だったら・・・・」

ゆがみそうになる顔を精一杯ひきつめてはみたものの、あとの言葉がつづかない。

「平助・・・」

原田の目の中で気弱い男が襟をたて、うずくまっている。

「・・・・・・・」

言葉をなくした平助の胸に去来するものが、「覚悟」とも「諦念」ともみてとれた。


平助は真剣勝負では、自分は死ぬと悟ってしまったのだ。


「ふむ・・」


原田はちいさくしわぶくと平助に一言だけ声をかけた。

「生きるも死ぬも自分次第だ」

つぶやくと、原田はその場を立ち去った。

死を覚悟した男には生きるという意味がつかみとれず、

ぼんやりとしたまなこが宙を迷っていた。


ーいっちょうまえに、死ぬ覚悟をつけられるってとこが、

おまえの凄さだって、ことがわかるまいな。

俺たちは死にたくないから必死に刃をくぐる。

おまえの弱さは往生際のよさのせいだろう。

その往生際のよさを・・・・-


ふと、ふりむいた原田の目のなかで、平助が板の間にかがみこみ

嗚咽をこらえる姿がみえた。


ーそうさ・・誰だって、しにたくないに決まっているー


しずやしずしずのおだまきくりかえし

怒りをあらわにする頼朝の袖をひいたのが、政子だった。

「あなたもかように、ひかれて、いまにおわしましょう」

おもえば、さんざんたるいきこしの袖をひいてきたのが、

政子である。

頼朝にとっての政子が

静御膳にかさなってみえたとき、

頼朝はその場所にもう一度すわりなおした。

政子にとって、

静御前の境遇は

また、己のものであった。

血を血で洗い、

義経をも、義経の子をも、

この世からついえた。

その繁茂のうえになりたった、

政子と頼朝でしかない。

泡沫か・・・。

つぶやいた頼朝の胸にあの日の政子の姿がよみがえってきていた。

政子だけが、頼朝の光明だった。

義経の光明が頼朝に小さな光をともした。

己が生きたことを照らし出す

政子の姿と

静御前の姿が

潤む光のなかで、ひとつにかさなってみえた。

芙蓉  

芙蓉がたちならぶ、小道をぬけて、

朝露をスカートにまとわりつけて、

君がやってくる。

僕たちは今から、どこに行こうか。

楽しい計画をねりながら、

広げた地図に君の長い髪が

さらり・・。

僕は歯ブラシを片手に

君の髪をさらり・・

除けた場所に指をおく。

「くぉくぉ」

君が地図を見つめる。

「ああ、紫陽花?」

そう。

そろそろ、きれいだろ?

僕の心に君は返事を返す。

「だけど・・いや!」

なに、そんなに・・

おっと・・

僕はあわてて洗面所に口いっぱいの歯磨き粉をはきだして、

口をゆすぐ。

「きこえた?」

部屋でなにかいってたらしいけど

僕にはきこえてないよ。

かがみこんで地図を覗き込む僕の肩に

君の髪がさらり・・。

「あのね・・紫陽花の花言葉しってる?」

知らないよ。

「移り気な心・・」

ぴっとりと君が僕の腕におでこをあてる。

「だから・・いや」

馬鹿・・って、僕はいったっけ・・。


それから、僕たちは変わらない心をあかしあって、

みせつけあって

たしかめあって

ちかいあったっけ・・。

ひどく時がながれた気がして

僕は君を探した。

僕は久しぶりの早起きに

不覚にも転寝を決め込み、

ベッドの中に

スリープ・イン・ジャスト

君はどこ?

探してもいない君

玄関の靴は?

無い?

無い!

僕はあわてて外に飛び出した。

眠り始めた僕に退屈して、

どこかにいっちゃった・・?

どこに?

僕をおいて?

僕から離れて?

君がいつもやってくる

芙蓉の小道にかけていったとき、

僕は君をみつけた・・。

鮮やかな彩

芙蓉色の中に溶け込んだまま

君は僕をみていた。

「やだ」

僕はさけばずにおけなかった。

君は僕のための昼食の材料を抱きかかえていたけど

君はそのまま、芙蓉の精につれていかれそうなほど

綺麗で・・

芙蓉の中にとけこみそうで

「いやだよ」

君は僕の心に返事をする

「どこにも、いかないよ」

笑って僕の手に袋をあずけると

するりと僕の腕に手をからめる。

「帰ろう」

黒い髪がさらさらさらさら

僕のうでに

さらさらさらさら・・

やっぱり、僕は君が好き・・・


・・杜若・・

「なんだかさ・・どっちが、どっちか、よくわかんねえよな」

菜穂子の足元にきずかいながら、声をかけた。

「だね・・・。

だいいち、名前から・・いやだよね」

「うん・・」

返事をしながら、菜穂子の言った意味を考える。

これが、きっと、菜穂子が俺と別れる気になった理由だろう。

相手の気分をそこねまいと、必ず、「いい返事をする」

菜穂子はそれを、おどおどしたチワワみたいだと嫌がった。

相手の顔色をみながら、いつも、びくびくして

ちょっと、ビックリさせたら失禁でもしかねない。

ー逆にこっちの神経が緊張状態ー

やすらげないんだよね。

俺は菜穂子の言葉にうなづくしかなかった。


ー嫌いになったわけじゃないんだ・・ちょっと、草臥れちゃったー

ちょっとは、菜穂子の優しい嘘。

でも、俺をにくんでるわけじゃない。

むしろ、あわれんでるかもしれない・・・。

「ね、明日、藤沢池にいこうか」

菜穂子は二人が出会った場所に行こうと俺をさそった。

振り出しに戻って、再出発。

でも、今度は二人で・・じゃなくなる。

最後の菜穂子の優しさを胸にきざみつければ、

きっと、ひとりでもいきていける。

俺はそう思った。


名前からして嫌・・・。

藤沢池のしょうぶかあやめかわからない紫の群生のなかをあゆみながら

俺はふりかえった。

「菜穂子・・・俺・・わかんないや」

「名前から嫌ってこと?」

「うん」

「しょうぶって・・勝負・・・。あやめ・・って、人をあやめる・・」

なるほどね。って、俺は思った。

俺は菜穂子のそういうところに気をつかいすぎていたのかもしれない。

「どっちでもいいさ・・」

花が勝負をするか・・。

人をあやめるか・・。

俺は菜穂子がみてる俺もそうだとおもった。

わかったふりをするんじゃない。

ご機嫌をうかがってるわけじゃない。

でも、菜穂子には、そう見える。

俺の中で菜穂子への愛情がきれいにうせはてた瞬間だった。

「俺さ・・お前と俺・・この花みてえだなっておもった。

このはっぱ・・さ」

いけないことだけど、俺はその花のはっぱをさいた。

きれいにまっぷたつにさけていくはっぱ。

「いったん、きれちまったら、きれいにさけちまう・・」

菜穂子ははっぱをじっとみていた。

「うまく行ってるときはいいけどさ、ちょっと、亀裂がはいったら

こんな・・もの。俺とお前・・そっくり・・」

「う・・・ん」

「弱かったな・・俺たち」

「う・・ん」

「泣くなよ・・」

「う・・・」

「なあ・・・菜穂子・あれ・・見てみろよ・・」

泣き顔のまま、菜穂子は俺のいうものをみつめた。

必死に棚にからみつき、いくつもの蔓をのばし

見事な花房をさかせた藤の花が俺たちの目の中にある。

「今度、であえる恋は・・あんな風にな・・」

「う・・ん」

俺たちの恋は菖蒲の不安定さ・・。

茎の弱さに花をささえて、結局、お互いがくたびれちまっていたんだ。

「ごめん・・ね・・」

ううん、俺は首をふった。

誰がわるいんでもない、恋の花がうまくさかなかっただけ。

「今度こそな・・」

「う・・ん」

菜穂子の瞳の中に藤色の花がうつってみえた。

やっぱり、菜穂子は綺麗だ。

俺は最後の菜穂子を目にやきつけると、

菜穂子を最後のドライブにうながした。

「帰ろう・・おくるよ」

それが、菜穂子にかけた、最後の言葉になった。

菜穂子は小さく首を振った。

「ここで・・お別れ」

菜穂子の帰る手段はバスもある。

-そうか・・・-

俺は菜穂子の「さよなら」を背にうけると

背中越しに小さく手を振って見せた。

ー振り返るまいー

藤沢池の柵の外まで一気に歩き続けた時

俺の瞳から、涙がひとしずく、あふれてきた。

ーさようなら・・・菜穂子ー

恋人は薄い紫の花に焦がれたまま・・・。

俺は、菜穂子にいわせたくなかった。

勝負にまけ、

恋心をあやめた・・・。

俺の負け・・。

しゃけた葉っぱから、染みとおるような痛みがきこえる。

俺の心もしゃけたまま・・。

ーさよなら・・菜穂子・・-


・・・鷺・・・

闇の中から、時折声がする。

ギャッと一声鳴くと、
ばたつく羽音でそれが、鷺だとわかる。

鷺は不思議な鳥だ。

夜闇の中を動き回る。

彼らは俗にいう鳥目ではないのだろう。

動物は人間と違う感覚を持っている。

犬や猫は人間に見えないものが見えると聴く。

鷺も鳥でありながら、闇夜がみえる梟のような鳥なのかもしれない。

ギャッ

また、鷺がわめく。

闇夜でも目が見えるばかりに

小心者の鷺は驚きの悲鳴を上げなきゃならない。

そんなびくびくしながら、

闇夜を透かしみるくらいなら

よほど、見えない小鳥のほうが安気だと思うんだけど、

どうだろう?

「そうだね」

私の隣に座った者は今日はどうやら、水の怪のようだ。

緑の藻のぬめりがすこし乾いてきてる。

それが、この部屋に長い間、居座っていることを現している。

「あんたは、怖くないかね」

水の怪はにたりとひきっつった笑いになる。

乾いた藻が彼の顔をパックのように覆っているせいだ。

「怖くは無いけど・・」

「なんだね・・」

「別に・・・」

「ふ~~ん」

悟っているのか察っせないのかわからないけど
この部屋に居たいものだから、
彼はそれ以上を口に出さない。

『怖くは無いけど・・・その生臭い匂いはどうにかならないものだろうか・・・』

見えることなんか、まだまだ、たいしたことじゃない。

そう思わす匂いに辟易している私の耳に

ギャッ。

また、鷺のわめき声がきこえた。

何におびえてるのかしらないけど、

疑心暗鬼と遊んで居られる鷺がちょっと、うらやましく思えてきた。

心に焼きついている『名言・名ゼリフ』

憂生は15の時から、文章なるものに
手を染め出した。
その当初は書きなぐりそのままの、文節も
文体も・・・それ以前に
て、に、を、は
さえ、なってなかった。
その頃、憂生は図書館司書である、
河原さんと出会う事になる。
その河原さんが、くれた言葉である。
「今だから、書ける。
その感性はあの文豪、川端康成にだってない
君だけのものだ」
へっぽこ物書きはその言葉に随分励まされたものである。
現在、焼き直して、しあげているが、
蛙。蛙・続編。パンパンとチョコレート。
などの、プロト・構想は実はそのころのもので、ある。

ところが、それから、何年かのち、
今度は逆に
感性だけでは、物にならない自分にきがつきだした。

人生を歩んでみなくちゃ書けないものがある。

こう気がついた憂生は断筆宣言に至った。
正確には、休筆というべきか・・・/笑

それから、さらに何年か・・・。
ある日、同人先輩/と、いっても憂生より随分年下であるが/
Sо2というゲームの二次創作の原案?から
文章起しを頼まれて困っていると、相談を受けた。
原案というには、おこがましいセリフの羅列がノート2枚も、あったかどうか・・・。
その原案から先輩/ああ・・いいにくい/が、かなりの所まで
文章になおして、草案・下書き・プロト、以上のものになっていたので、
随分、読みやすく、かつ、先輩/いいにくい・・・/の文才がかなりのものであることを知らせてくれたのである。

があああああ!!

ストーリー自体の安易なこと。
文章力でよませているだけでしかないが、
あくまでも原案者の設定に沿ってのこと・・・
しかたがないなと思いつつ、黙っていると
実はこの先にHシーンがもりこまれることになっているが、
「そんなもの、かけないし、いやだ。キショぃ!」
まだ、高校生だった先輩/あ~~~いいにく/
無理は無い、上にBLである。
ならば、憂生が書き足しと手直しをしてやると
でしゃばり、何年ぶりかで物を書く事になった。
そのまま、これがきっかけになり
執筆活動再開とあいなったわけであるが・・・。

先輩/・・・・/にふと、河原さんの言葉を
渡した時である。
「今だから、書ける。
その感性はあの文豪、川端康成にだってない
君だけのものだ」

その言葉の「今」を
憂生は15,6歳の・・
「若さ」だけがもつ感性の鋭さが冴える時と、考えていたのである。

だが、時を経て
再び書き始めた憂生にとって、
『今』は「今」そのものだと気がついた。
10代であろうが
30代であろうが、
60代であろうが、
物を書こうとする「今」

「今だから、書ける。
その感性はあの文豪、川端康成にだってない
君だけのものだ」

清らかな水は青い。
真剣な思いもきっと青いだろう。
/出典・・群青より/
そして、青が深くなると蒼になる。
どんなに年おいたとて、
物を書いていく「今」があるかぎり
その思いは蒼い。
蒼い思いこそ感性そのものといえる。

だから、

「その感性はあの文豪、川端康成にだってない
君だけのものだ」

その通りだと深く頷く。

憂生は今も
蒼刻のまただなかにたちて、
「そのもの蒼き衣をまとい・・」/出典・風の谷のナウシカ/
いやいや・・
蒼い想いをまといて
今日も筆を執る。

その後ろにいつも河原さんの名言がある。

「今だから、書ける。
その感性はあの文豪、川端康成にだってない
君だけのものだ」


「ぎりぎり」

3月末日に生まれた悟を見る度、両親は
「もう少し遅く生まれていれば1学年下になれたのに」と、溜息を付いた。
両親が溜息を付くのも無理がない。
悟はどうしたわけ、言葉の発達が遅かった。知恵遅れといわれる症候群に配するほどのものではないのだが、発する語彙も少なく、感情を上手く伝えられなかった。其の事が彼をますます無口にさせ、自分を主張する事を隔てさせた。
 その悟がもう、十七歳になった。身体も大きくなった。勉強も両親が心配するほどの事もなく中程度の学力を維持している。無口であるのは変わらないがそれでも友人は出来る。
話し上手と聴き上手のコンビネーションでそりがあうのだろう。悟の友人はよく笑いよく喋った。
悟の部屋からは友人の間断ないお喋りと時折かみ殺した悟の笑い声が聞こえた。
悟の静かな笑いがよい合図地になるのか、とめどなく語る友人の声は朗らかで確かに「気の合う友人関係」は成立していた。
 
いつも聞き手の悟が今日は珍しく話をしている。
「もう、高校生活も一年だよな」
悟の言葉に友人は思いあたった。
「あ、理沙ちゃんだろ?」
「え、あ?うん」
理沙は同じ高校の倶楽部の後輩でかなり可愛い女の子だった。
「お前が気にしているのは知ってたよ」
友人は悟の恋に気が付いていた。
「うん・・・」
「こくってみりゃいいじゃんか?」
「僕が?」
「当り前だろ?待ってたってなんも始まらないよ」
「う・・・ん」
友人の言う事は其の通りだとは思う。
でも、悟に見えるのは悟に告白されて困った顔になる理沙だった。
「倶楽部の先輩にさ、突然告白されて、理沙ちゃんが迷惑なら倶楽部にきずらくなってしまわないかな?」
「だから、そりゃあ・・・」
確かに悟の言う通りだと思う。下手に告白して、嫌われたら倶楽部で逢う事さえ辛くなる。
それくらいなら何も言わず片思いのままで居た方がいいかもしれない。
「だったら、こう・・」
友人が言いかけた言葉に悟が身を乗り出してきた。
やっぱり本気で理沙ちゃんの事が好きなんだなって判ると切ないくらいに悟がいじらしくみえる。
「うん。だったら、いきなり告白なんてせずに、こう、友人よりは親近感を持って貰える様にするとかさ・・」
「え?」
友人と悟は頭をつき合わせて策略をねった。
結果、距離を埋める単純な方法は、理沙ちゃんの誕生日に何かを贈るということになった。
それにはまず理沙ちゃんの誕生日を教えてもらわなきゃならない。
次の日の倶楽部で、友人は今日の話題を振った。
誕生日のプレゼントに何を貰ったら嬉しいか?
この事から上手く理沙ちゃんの誕生日を聞き出せば良いし、理沙ちゃんの好みも判る。
策士だよなって思いながら悟も話題に乗っていった。
「私・・オルゴールがすきなの」
「へえ?じゃあ随分集めてるの?」
「うん。誕生日だけじゃなくって・・クリスマスとかもおねだりして」
「最初に貰ったのは?なんて曲だったの?」
「あのね、私春うまれだから・・」
くすっと理沙ちゃんが笑った。
「チューリップだったの・・」
「チューリップって?あの並んだ並んだ赤白黄色って歌?」
「そうなの」
「へええ・・」
「私、ずいぶん早生まれだったから、幼稚園の時なんか同じ年の子でも遅生まれの子と較べたら、身体も大きくって、何で早く生まれちゃったんだろって、思ってたの。それでお父さんがオルゴールの歌を歌ってくれて、今は少しくらい大きくたって皆はもっと大きくなったら並んじゃうよ。皆、綺麗に咲くんだよって」
「ふうううん」
悟は理沙ちゃんの言葉に自分を見たような気がした。
「僕は反対に遅うまれだったんだよ」
「へええ?何日なんですか?」
理沙ちゃんの誕生日を聞くはずだったのに、悟の方が尋ねられてしまった。
「3月31日」
「うわ!」
「どうしたの?」
「だって私4月1日なんですよ」
「え?」
たった1日違いで1学年も離れて、並んで咲く事が出来なかったのだ。
ぎりぎり1日の違いで理沙ちゃんと一緒に過ごせる月日が1年もへってしまう。
「もう少しで同級生だったんだね?」
「そうですね・・」
何だか、理沙ちゃんも残念そうに見えたのは悟のきのせいだったろうか?
「ぎりぎり、アウトでしたね」
理沙ちゃんが少し溜息を付いた。
「たった1日の違いで先輩が、1年も先に学校卒業しちゃうんですよね」
たった1日の違いに多く愕然としたのはどうやら悟より理沙ちゃんのほうだった。
友人は何だかにんまりして
「結構、脈あるじゃんか?」
って、悟に耳打ちして見せた。

「ぼろぼろ」

今日は清子にとって「はじめて」の日だった。
学校が休みに入った先月末から、今日までの一か月。三日に二日のわりで、自由だった清子の生活が一日のうち六時間をスーパーマーケットのレジの前に拘束された。
清子がマーケットのアルバイトを始めたのは給料日の後だった。そうとは知らされてない清子だったから、月末になっても、月が変わった十日にもマーケットが給料を支払ってくれないと判ると、一体いつが給料日なんだろうと不安になってきた。ひょっとしたら清子の休みの日に給料日があり清子の給料は支払われないまま忘れられているのかも知れない。
が、給料はまだですか、いつですかと聞くのも清子には物欲しげで恥ずかしかった。
昨今の高校生らしからぬ恥をしっているのはよかったが、尋ねられなかったことがいつまでも頭の隅に残り、毎回の通勤のたび『今日こそもらえるかな?』と期待がふくれ、帰りには『明日かもしれない』と、しぼんだ期待を宥めてやる事になった。
その繰り返しが続きいつの間にかカレンダーも二十五日になっていた。
朝、いつもの通り事務所の隅で制服に着替えていると、店長がニコニコしながらよってきた。
「ごくろうさんだね」
清子の家ははここから5キロはなれている。雨の日も風の日も自転車でマーケットにかようしか、方法がない。
「バスが通っていたら、内緒で区間の通勤費くらいあげられるんだけどね」
バスで来た事に誤魔化そうにも実際路線のないバス代を支給出来ない。何とかしてあげたいほど清子の自転車通勤は店長にも苦労にみえたようだ。
「ぁ。学校行く方がもっと遠いんですから、ここに来るくらい散歩みたいなもんです」
「そうかい」
店長は少し安心したようににこりと笑うと
「何にも足してあげられないけど・・今日、帰る時ここにおいで」
「はい」
返事はしたが、何かミスをしたんだろうかと不安そうな清子に店長は朗らかだった。
「今日は給料日だよ」
「あ・・」
忘れられていたんじゃない。
清子が月末に此処に来たときは前の給料日の後でしかなかったのだ。
「あ、ありがとうございます」
「アハハ。アリガトウは、君がちゃんとお金を貰ってからでいいよ」
店長は大声で礼を言った清子をくすりと笑う。
「はい」
明るい返事を返した清子だった。帰り道にはもう『明日かもしれない』と考えなくていい。
忘れられてるのかもしれないという不安が清子の胸からぼろぼろっとおちた。
代わりに小さな安心感が胸に入り込むと清子は背筋をぴんと伸ばした。
清子の今日の仕事が始まる。   (おわり)


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